『Material Finish! Oblivion Break Strike!』
OOの必殺技が、ビークル相手に炸裂する。赤と青の残像がビークルの装甲を打ち抜き、その変身を解除するに至らしめた。
「はぁ……っ、ま、だだ……っ、ぼくはまだ、こんなところで…………っ!!」
『終われないよねぇ?……やぁOOくん、ウチの仲間を連れ戻しに来たよ』
痛む腹を押さえて、荒い息を漏らす鮎川を庇うようにして、パラサイトが立ち塞がる。
「「あなたは……あぁ、あの時の。私たちの剣の錆になりたい野郎がまた増えたってわけですか?」」
『あれ?OOらしからぬ口調だね、もしかして黒いOOの方が中身だったりする?ビークルがやられると思ってすぐ飛び出してきたからその辺見てないんだよね』
「……ッ、言って、くれるね……っ!」
パラサイトはそう戯けると、鮎川の襟を掴み、強引に自分の方に寄せた。
「「今私機嫌いいんで答えてあげますけど……正解でもあるし正解でないとも言えますね、まだまだ心眼が足りないのでは?」」
『俺の方も機嫌がいいからボケには乗ってあげようか、勇を失ったねぇOO』
「「百点満点の回答をありがとうございます。まぁ、逃す気はありませんけどね」」
『逃がしてもらうつもりで来てるから逃がしてくれよ……じゃあね』
時間稼ぎとばかりにミスティのお遊びに付き合うと、パラサイトはレプリシューターを上空に向ける。その銃口から真っ白な煙が放たれ、パラサイトと鮎川を包み込むと──二人の姿を消した。
「「チッ、逃げやがった……あれ、先輩出たいんですか?」」
《さっさと出てぇに決まってんだろ僕の体であんなカッコつけた台詞言いやがって恥ずかしい!!》
「「もう仕方ないですねぇ……変身解きますよ」」
OOは、呆れたような声でベルトからマテリアキーとマテリアブレイカーを抜き取る。すると、OOの鎧から黒薙とミスティの二人が弾き飛ばされるように出てきた。
「痛てっ!?」
「痛ァ!?」
その表紙に転倒し、二人は間抜けな声を漏らす。
「……はぁ、何とかなったか。ってかお前……何で腕とか足とかの怪我治ってんの……?」
黒薙の視界に傷一つないミスティの四肢が入り、思わず黒薙は声を漏らした。
「…………あっ、ほんとですね。なんでなんでしょう?」
──当のミスティも、これには驚いた様子であった。
「ふむ……不思議なものだ。外傷も完治しているし、ホルス器官に開いた穴も完全に塞がっている。機械すら騙眩かす能力かと思ったが、そんな能力はないそうだね」
それから数刻のち。ミスティは勝手に病室を抜け出したことを担当医に一通り叱られてから、念のためにと精密検査を受けていた。
「一応他に異常がないか確かめたいからあと数日は入院してもらうことになるけど、それが終わったら帰っていいよ」
「わかりました」
医者はそう告げると、小声で何かを呟きながら奥の方へと向かっていった。
「……あぁ、もう病室に戻ってくれていい。今度は勝手に抜け出すなよ」
「……ってなわけで、全快です全快!ミスティちゃん大勝利!!勝ったなガハハ!!!」
「いや、そのアホっぷりだと体のダメージが脳に行ってるだけじゃねぇの?」
「は?殺しますよ先輩?私が本気になればここが血の海になるんですけど?」
「あんなことあった後だってのによ……笑えねぇ冗談はよせ」
完全に回復し、調子に乗っているミスティを見て、黒薙はため息をついた。
「……ったく、さっきまであんなにしおらしくしてたくせに治った途端コレかよ。心配して損したわ」
「心配だなんて先輩らしくないですね?そんなに可愛い可愛いミスティちゃんが愛おしかったんですか?キャピッ☆」
「そのキャピキャピすんのマジでやめろ気持ち悪りぃ……」
黒薙の機嫌が悪い理由は一つ。先程、パラサイト相手にミスティが黒薙の体で「私たちの剣の錆になりたい野郎が……」などとカッコつけた台詞を言った挙句普通に取り逃がすという情けない姿を見せたからだ。有り体に言えば、黒薙は相当な羞恥を覚えていた。
「……いいじゃないですか先輩、あいつを取り逃がしたのは私なんですし先輩が気に病む必要はありませんよ」
「いやお前が何言おうと僕の体であれ言って逃げられたのは変わらねぇからな!?側から見たらなんか急にイキって滑ったダサいやつだからなあれ!!」
「いや、先輩が急にイキって滑るのは普段から結構……」
「あァ!?テメェ表出ろ病院前の愉快なオブジェにしてやろうかクソ後輩!!」
「いいですよ返り討ちにしてやりますよクソ先輩!!ぶっ倒して気絶させてからゆめかわな格好させて女の子にしてやりますよ!?」
二人が騒いでいると、ガチャン、と、背後で物音が響いた。
「病院で騒ぐなクソガキ。レーツェルちゃんが目を覚ましたと聞いてきましたが……あれ、もう完治してない??」
扉を開けて出てきたのは遠山だった。彼女も、今もピンピンして黒薙と火花を散らし合っていたミスティを見て驚いたようだ。
「はい、あの特訓の成果かどうかは知りませんけど……先輩と一体化して戻ったら傷治ったみたいです」
「なるほど……それで、十分なホルスを錬成する機能は戻りましたか?」
「一応ホルス器官の傷も治ったらしいので戻りはしたみたいですけど……肝心のベルトが木っ端微塵なので……」
なるほど、と遠山は唸る。
「そ、れ、は、そ、う、と、し、て。レーツェルちゃんあなた病室から勝手に抜け出して黒薙くんの方に行ったそうね???」
「……あ。ごめんなさい遠山先輩許してくださいああでもしないと先輩が死んでしまうと思ったんです…………」
背後に般若のオーラを携えた遠山の、今にもミスティを斬り殺そうとせんばかりの表情に、思わずミスティは震え上がる。
「だ、と、し、て、も!病み上がりですらない入院レベルの怪我人が勝手な真似をしない!!今回は運良くなんとかなったかもしれませんが毎回毎回そんな上手く行くわけないでしょう!!!」
クドクドクドクド……。遠山は顔を真っ赤にしてミスティを説教し始めた。
「あちゃー……委員長、こうなったら長ぇんだよな……じゃ、じゃあ僕はこれで失礼しまー……」
「く、ろ、な、ぎ、く〜ん?だいたいあなたもあなたよ。格好つけて鮎川を煽ったはいいとしてそのあと変身してボッコボコにされたそうじゃない?それに人に『病院で何考えてる』とか言っておきながら病院内で鮎川を『
「ごめんなさい委員長……」
クドクドクドクドクドクドクドクド。遠山のお説教は続く。20分ほど二人を叱りつけた後、言いたいことを全部吐き出したのか、呆れたような声色で言った。
「……まぁ、何事もなかったのは良しとします。別に何事もなかったわけではありませんが……二人が無事で本当に良かった。これからはあまり無茶をしないように、わかりましたか?」
「「はい」」
真っ直ぐな返事が重なる。
「なら良し……とりあえず私は帰りますが、何かあったら連絡下さいね」
(……レーツェルちゃんが変身する力を取り戻した。だが彼女のベルトは依然として破壊されたまま。だとすれば、私が取るべき手はたった一つ)
ミスティらと別れてから、遠山は地下の開発室に篭っていた。すでに時間は21時を回っている。こんな時間に有栖川を呼ぶわけにもいかない。遠山は考えた末に、ある人物の力を借りることを思いついた。
「赤萩くん、今から執行衛兵本部まで来てくれるかしら?」
「……いや、今何時だと思ってんだよ」
「でも来てくれたじゃない。とんだツンデレさんね赤萩くん?」
「やかましい。……で、俺に何をさせるつもりだ?自慢じゃねぇが俺は機械系統はサッパリだ」
露骨に不機嫌そうな顔をして、赤萩は遠山を睨みつける。どうやら調べ物をしている真っ最中に呼び出されたらしく、珍しく眼鏡をかけていた。
「レーツェルちゃんの傷が完治した。変身能力も戻りましたが……肝心のベルトは木っ端微塵」
しかし、赤萩の威圧にも動じず、遠山は一方的に要件を伝える。
「そろそろ、そちらの戦闘データもある程度溜まってるし……この際、ホルスドライバーを完全なものにしたい」
「へぇ……いや、データとか遠隔で取れるもんじゃねぇのか?」
「それはそうですが……完全なものにするホルスドライバーはレーツェルちゃんのだけじゃない。あなたのそれもよ」
遠山は鋭い目をして、遠慮の一つもなく赤萩の懐に手を挿し入れた。
「あっ、てめぇ!変なトコ触ったら顔面焼き潰すからな!」
「誰もあなたなんかにそんなことしないわよ……ほら、借りるわよ」
強引に取り出した赤萩のドライバーを機械の上に乗せる。光のリングが、ドライバーを包み込むと、空中にいくつかのウィンドウが出現。それらは、一定の数値を示していく。
「……なぁ。俺帰っていいか?ここにいてもすることねぇし」
「ダメに決まってるでしょう?夜中に怪人が出たらどうするつもり?調べ物ならそこのパソコン使わせてあげるから……一応そこからなら表じゃ引っかからないような情報も拾えるはず」
遠山は目線一つ赤萩に向けることなく、淡々と述べた。
「じゃ……遠慮なく借りるぜ。遠山、パスワードはなんだ?」
「Salutis391よ。別に意味はないから気にしないで」
はいはい……と赤萩はパスワードを打ち込んでいく。
(『ファング』としてもあいつらを見過ごすわけにはいかねぇ……脱獄されてまた問題を起こされようもんなら俺たちの信用に関わる)
赤萩はとある掲示板に目を走らせた。現在、誘宵学区の裏では、いくつかの組織が呉越同舟で協力関係にある。その目的がシャトランの壊滅、及びOverXの残党──ゲノムス=リボーと
そんなことが語られる中、赤萩はそれらには目もくれず、一心不乱にある情報を探す。どんなに弱い能力者であれ、ホルスを放っている以上、ある程度は監視できるはず。にも関わらず、亜矢の反応が観測できないのはなぜか。怪人の潜伏場所が特定できない理由も謎だ。ホルスを完全に遮断するものがあるのか、出処はどこか。
「……見つけた」
赤萩が目に留めたのは、かつての『デパート』の上位組織、その取引先リスト。その中には、菱杖透流の名も示されていた。
「赤萩くん?こちらは完了しましたが……っと、まだ離れられないか」
「あぁ。遠山……この資料、印刷して持ち帰るってのは大丈夫か?」
「…………一応位置情報とかは偽装していますが、あまり気乗りはしないわね」
遠山の声は冷たい。
「と、普段なら言いたいところですが……それが彼らの殲滅に繋がるならいくらでも。ただしそれが何かを引き起こしても私は責任を負わない」
「サンキュー……恩に着る」
それから約1週間経ち、5月22日。放課後の風紀委員室で、ミスティは勝ち誇ったような紙で藁半紙をぴらぴらとはためかせて見せた。
「見てください先輩、先輩が全くできなかったって化学でこの点数ですよ」
「だからどうした……他の勉強は他人の記憶頼りのカスが何抜かしてやがる……ぶっ殺すぞ……」
「ありゃ、もしかして先輩今回のテスト相当でき悪かったんじゃ……」
ミスティの何気ない一言が、黒薙の逆鱗に触れた。
「あぁそうだよ悪りぃかこんちくしょう!!ここら悩みごとが多くて勉強にちっとも身が入らなかったんだよクソったれ!!」
「…………なんか、ごめんなさい先輩」
「謝るくらいなら最初からドヤってくんじゃねぇカスがすり潰すぞボケ」
必死で解答とテキストを交互に見ながらできていない箇所をマークしていく黒薙は、顔も上げずに悪態を吐く。
「でもいいじゃないっすか?そうやってできないとこマークしていけば必ずいつか身になるっすよ」
「うるせぇ有栖川お前僕より年下のくせに先生みたいなこと言うんじゃねぇ」
「せっかく私が励ましてやってんのになんすかその言い草!」
黒薙の言葉に、思わず有栖川は吠えた。
「いや〜、人に言葉選べとか言っておいてめちゃくちゃ言うなんてさすがアホ薙颯斗にゃ〜、テストの点が悪いくらいなんてことないにゃ、あたしなんて全教科赤点よ?」
「…………下には下がいたか」
「にゃはは!あたしは別に点数に一喜一憂する気はないからにゃあ!それはちゃんと勉強した人間にだけ許される行為だしにゃあ!」
赤点にまみれたテスト用紙を堂々と見せつけながら、奈菜々は笑う。
「はいそこ、クソ点数自慢大会はその辺にしてくださいね」
遅れて現れた遠山が言った。例に漏れず遠山も回答用紙ではたはたと扇いでいる──が、そこに記されていた点数はというと……。
「ハァ!?テメェなんだよその点数なんかズルしただろ!?」
「人の努力の成果になんてこと言うのかしらこのクソガキ、金玉蹴り潰されたいのかしら?」
「金……ッ!?女の子がンなはしたない言葉使うんじゃねぇよ委員長!?」
「言わせたの誰かしらねぇ赤点スレスレの問題児くん!?」
黒薙が驚くのも無理はない。96〜100の数字が並ぶそれらを束ねて団扇がわりにする人間など、遠山以外にはいないだろう。
「……はぁ。そこのギリギリ赤点回避マンの相手してると日が暮れるので要件だけ伝えるわ。……ライダーシステム、ひとまずは完成したけど、レーツェルちゃん、これ使ってみない?」
ため息をつきながら鞄を漁り、中からホルスドライバーを取り出すと、それをミスティに差し出した。
「えっ……えぇっ!!!!!?????いや、確かにホルス器官は治りましたけど……それにしても急すぎませんか?」
「っつーかふざけんなよせっかく僕が強化フォーム使いこなせるようになったのにミスティが変身しちまったらそれできねぇし僕の立場無くなるじゃねぇか!」
黒薙の私的な怒りは無視して、遠山は話を進める。
「これから先、間違いなく怪人との戦いは激化する。……場合によっては、菱杖クラスの敵を同時に複数相手取らなければいけなくなるかもしれない。その時に使える手駒は、一つでも多いほうがいい」
「手駒、ですか……いいですね。そっちの方が私もやる気出ますし……何より、先輩の体を借りずとも戦えるというのはいい。その力、モノにして見せますよ」
ミスティは不敵な笑みを浮かべ、遠山の両手に乗ったドライバーを手に取った。
「あぁ……僕の立場がなくなる……」
「そんなこと心配してるんですか先輩……あぁ、なら遠山先輩。私がライダーとして再び戦うことの交換条件として先輩の更なる強化アイテムを作る手伝いを頼みたいんですけど大丈夫ですか?」
この黒薙を放置するとめんどくさくなると判断したのか、ミスティは遠山に新アイテム開発の協力を求めた。
「それくらいなら別に構わないわ。早速ラボ向かいま……ッ、この反応は……ッ!」
ミスティの頼みを快諾し、風紀委員室を抜け出そうとした瞬間、アラートが鳴り響く。それはつまり、怪人の出現を意味していた。
「チッ、行くぞミスティ!」
「言われなくても……!」
「チッ、やっぱり
「舌打ちしたいのはぼくの方だよ『異能共鳴』。きみとあの売女にやられてから一週間、寝ても覚めてもおぞましい幻覚を見るばかりだ……きみたちを殺せば、あいつも喜ぶだろうね」
現れたのは鮎川だった。だが、今の鮎川に、過去の面影はない。目からは生気が抜け落ち、頬は痩せこけ、顔中に引っ掻き傷が残っている。
「残念ですが……あなたに私たちを殺すことはできませんよ」
「黙れ……黙れ、黙れ!!きみのせいであいつは死んだ、ぼくもこんなになってしまった!!ぼくがどうなってもきみだけは!!」
血走った瞳で、鮎川は叫ぶ。
「たとえぼくがどうなろうと構わない……これはぼくの復讐だ!そのためならどこまでだって堕ちてやる!!」
そう叫びながら鮎川が取り出したそれを見て、黒薙は息を飲む。
「テ、メェ……ッ!あのクソ野郎と同じことをする気か……ッ!?」
「あぁそうだよ、ぼくたちの人生をめちゃくちゃにしたあいつと同じところに堕ちてでも……きみたちを殺す。悪く思うな『異能共鳴』」
銃のような形をしたそれをこめかみに突きつけ、引き金を引く。直後、鮎川の肌に、赤黒い脈動が現れる。
「あっ、がァ……思っていたより気分はいいね。世界の奥行きまで見える」
血走った目で黒薙を睨みつけると、そのまま右の掌を黒薙に向ける。
「……ッ!?」
すると、黒薙が突然体のバランスを崩して倒れ伏した。
(ま、ず……ッ、い、きが……ッ!!)
鮎川の能力は空気中の酸素濃度を微増微減させるもの。相手を酸欠に至らしめるほどの力はないはずだが──鮎川の使用した“sister”は、能力者のホルスを暴走させることで能力の段階を一時的に引き上げるものだ。
「ホラ、苦しいだろ!?あいつはそれ以上に苦しんだんだ、きみもそれくらい耐えてみせろよ!!」
黒薙の横腹を蹴り抜きながら、鮎川は嗤う。しかし、次の瞬間、黒薙が立ち上がってから、その余裕は崩れ去った。
「さっきから先輩を『異能共鳴』呼ばわりしてますが……私もその力使えるってことは理解しといてほしいですね」
ミスティが、鮎川の能力を消し去ったからだ。
「『異能共鳴』は相手のホルスをコピーし、能力を再現する能力。それをぶち込めばあなたの能力くらい相殺できる……ンなチャチなオモチャに頼ろうと、私はその上を行く」
「ふ、ざけるな……ッ!ぼくはきみを殺すためにこの力を手にした!それが敗れていィわけがない!」
「勝手に言ってりゃいいですけど……テメェみてぇに堕ちるとこまで堕ちたクソ見んのもあんまり気分がいいモンじゃねぇ。片付けさせてもらいますね」
怒りの色を帯びたミスティの瞳は、真っ直ぐに鮎川を見据える。
「それがどォした!?きみが何と言おォとぼくはあいつの無念を晴らす!ぼくの復讐を、他の誰でもない復讐相手のきみに邪魔される筋合いはない!!」
無論、鮎川の怒りはさらにヒートアップする。真っ赤に染まった両目を見開きながら、レプリシューターにマテリアピースを滑り込ませた。
「きみは変身能力を失った、そォ聞いているよ。……だけど、だからってぼくが手を抜く理由にはならない。解錠ォ……ッ!」
『Knight Charge……Open“Vehicle”』
鮎川の体に、ビークルの鎧が張り付いていく。
「チッ、仕方ねぇか……ミスティ、行くぞ」
「いや、私は行きますけど……先輩は下がっててください」
ベルトを取り出した黒薙を右手で静止して、ミスティは言う。
「いや、下がってろって……あいつは“sister”を使って強くなってる。お前一人に任せられるわけ……」
「もっかいだけ言いますよ先輩。足手まといだから下がってろ」
ミスティは、鋭い眼で黒薙を睨みつける。
「そいつが強いのはわかってる。確かにブレイクフォームになれば可能性はありますけど……」
ミスティは淡々と続ける。
「彼があそこまで狂ったのは私が朱本抄子を殺害したからです。だから……彼だけは、他の誰でもない私が倒さなければならない」
「……ま、そうかもしれねぇな。だが……勝てんのか?」
黒薙の問いに対し、ミスティは不敵な笑みを浮かべながら応えた。
「心配しないでください。……私、強いので」
ミスティが取り出したドライバーを見ると、鮎川は驚きの声を漏らした。
『……き、みは。変身できないはずじゃないのか……ッ!?』
「聞いて驚いてください、なんと今日変身できるようになったばっかです。……じゃ、試し切りに付き合ってもらいましょうか」
ホルスドライバーを腰に巻きつけ、左手でプロトマテリアキーのヘッドを倒す。すると、光がミスティの左手を包み込み──空色の『M』が刻まれたものへと姿を変えた。
『Mist! Set!』
「変身」
『Open! Evolute Mist Blade!』
ミスティの身体を、空色のリングが包み込む。全身が白色のスーツに包まれると、胸のディスクが高速で回転し、アーマーを出現させた。
『Ignited HORUS system……“Mist OO”』
OOと外見こそ似ているが、纏うオーラはまるで別物の仮面ライダ──-ミストOOは、その手にレイピアを出現させると、静かに呟いた。
『Mystical Rapier!』
「……行きます」
タタッ、と俊足で駆けると、レイピアをビークルの鎧に突き刺した。
『ハハッ、その程度じゃ効かないよォ!ぼくを倒したければもっと大きい槍でも持ってきなァ!』
しかし、ビークルはレイピアの刃を掴むと、それを投げ飛ばし、宙に浮かんだミストOOの横腹に飛び蹴りを加えた。
「あぁ、面倒ですね……ッ!」
身体を捻ってダメージを最大限押し殺したミストOO。マントを翻し、ふわりと着地すると、オブリビオンセイバーを取り出し、その引き金を幾度か引いた。
『効かないねェ!その程度……蚊の方がまだ強いくらいだ!』
だが、ビークルはそれすら跳ね除けると、高速でミストOOにタックルする。黄色い残像が繰り返しミストOOの身体を衝き、その度に蒼い眼光が揺れる。
『あれだけカッコつけておきながらそのザマかァ!情けないねェ、助けてあげたらどうだい『異能共鳴』!?そンなところで腕組ンでないでさァ!』
勝ち誇ったように嗤い、黒薙を挑発する。
「ハッ、面白ぇこと言うじゃねぇかクソ野郎。だが……一番情けねぇのはテメェだよ。そのクソ後輩ボコることに気ィ取られて、テメェの鎧の小せぇ穴にすら気づかねぇんだからな」
しかし、黒薙はベルトを左手に提げたまま動こうとしない。
『あァ!?ぼくの鎧の穴ァ!?そンなものはない!穴だらけなのはきみたちの杜撰な戦略の方だろォが!!』
「勝手に言ってりゃいいさ……テメェのミスに気づけねぇ間抜け晒して恥ずかしくねぇならな」
黒薙は空いた右手でグーを作ると、手の甲をビークルに向け──下卑た笑みとともに、その中指を天に突き立てた。
『ナメやがって……ぼくを侮ったこと、後悔しながら死ンでいけ!!』
ビークルの脚が、黒薙めがけて踏み込まれる。
「珍しく同感です、ビークル・シャトラン……私を侮ったこと、後悔してください」
直後、膝をついていたミストOOが立ち上がった。
『チッ、生きていやがったのか……ッ!だが、きみではぼくには勝てない!!』
「本当にそうか、これでも食らって試してみてくださいよ」
それを見て進行方向を変えたビークルだったが、
『Material Attack!』
マテリアキーをミスティカルレイピアに突き刺すミスティを見ると、思わず横に飛び退いた。あれを食らえばまずい。そう判断したのだろう。
『Mystical Thrust!』
だが、その回避すらミスティには見えている。最初のミスティカルレイピアの一撃と、オブリビオンセイバーの光弾を続けて当てたところに、寸分の違いもなく蒼い閃光が突き刺さった。
「くっ……!ぼくはまだ負けてない!まだ……」
変身が解かれた鮎川は、地に伏しながらも叫んだ。
「……ほう、中々に見苦しく生き延びたようだなビークル?」
そこに現れたのは、ピエロ・シャトランこと高坂操糸。
「『木偶人形』……きみでいいからあの阿婆擦れを殺せ!そうさえしてくれれば後はなんでも……」
「吠えるな負け犬、狂犬病にでもなったらどうしてくれる。……解錠」
高坂の首にマテリアピースが刺さる。ピエロのような怪人は、槍を構えて言った。
「そうだ、そのままやれ!朱本を殺したその阿婆擦れを殺せ!!」
『…………ようやっと、機会が回ってきた。ずっと、それを自分は求めていたんだ』
「ごちゃごちゃ言う前にそいつを殺せ!早く!」
『もはやシャトランの力を失った貴様に存在価値などありはしない。──死ね』
直後、槍が鮎川の肋に突き刺さる。
「あ……ッ、こん、なところ、で……ッ!ぼくは負けない、あのクソ野郎に復讐するまでは……ッ!」
しかし、ピエロの槍は遠慮もなく鮎川の胸から抜き出され、その穂先が鮎川の目を潰した。
「あァァァッ!!!ぼ、くは、まだ……」
『目障りだ、消え失せろ』
止めに、ピエロの脚が鮎川の頭蓋を蹴り砕く。もはや呻きすら漏らさないその肉塊を見て、ピエロは高らかに笑った。
『フッ……ハハハハハ!!ついに手に入れたぞ、自分が二年間求め続けてきた力を!!』
最期まで握り締められたレプリシューターを見ると、槍でその右手ごと引きちぎり、それを引きずり出した。
その日の夜は、夏日が続いていたにしては、やけに風が冷たかった。もっとも、地下何百メートルの閉鎖空間に、そんなものを感じられる余裕などはありはしないが。
「フーッ、いでぇ……痛ぇよぉ…………」
大の大人が、目から涙を流しながら声を漏らす。その視線の先には、男女一人ずつが佇んでいた。
「痛い痛いって鳴いてる暇があれば少しでも情報を吐いてくれる方が楽なんだけどな」
赤髪の男──赤萩陽希は、熱せられた鉄パイプで地面をカンカンと叩きながら言った。
「そうは言っても、コレは中々口を割りそうにありませんが……と、ため息を押し殺しながら言ってみます」
銀髪の女──銭谷野乃々は、鞄を漁りながら目も合わせずに言う。
「やっぱり昔の上司のことはよくわかってるってか?」
「こんな男を上司と認めた覚えはありませんが、と前置きをした上で言いますと……わかりたくもないのに無理やり理解させられた、と返答します」
冷たい瞳で男を見つめ、取り出したスパナを投げつける。それは男の右目のわずか上に命中すると、鈍い音を立てて地面に落下した。
「ひィッ!?あッ、あひィィッ!!??」
男の醜悪な声が狭いシェルター内に響く。
「ホラ吐けよクソ野郎、これ以上痛い目に遭いたくはねぇだろ?」
「ハァ、お断りだなァッ!?がァァァ!?」
男は赤萩の言葉に反発する。しかし、その直後に赤萩の持つ鉄パイプが男のこめかみを打ち抜くと、悲鳴を上げて気絶した。
「チッ、手間かけさせやがる……氷水」
「はい、と差し出します」
野乃々から氷水の入ったバケツを受け取ると、開けた方を男に向けて投げ飛ばした。
「あッ!?」
「おはようクソ野郎……さっさと吐いて楽になっちまえよ、てめぇの顧客の情報リストを差し出せば命だけは助けてやる」
「ァッ、答えるわけ、ないだろ……ッ!」
何度聞いても答えようとしない男の鳩尾に、赤萩の爪先が突き刺さる。
「……拷問慣れしてない初心者。わたしに代われ、と命令口調で話してみます」
「拷問は『スプレー』の仕事じゃねぇのか?あんたって『デパート』だろ?」
「執行衛兵設立以前は裏切り者は自ら拷問していました、と自慢げに昔話をしてみます」
そう言うと野乃々はカナヅチと釘を取り出し、貼り付けたような笑顔でおとこににじり寄った。
「抵抗さえしなければこちらも痛いことはしませんよ……と、抵抗すれば痛いことをするぞと言外に脅迫します」
「抵抗はしない、殺すなら殺せ」
「わたしの欲しい情報を吐かなければ抵抗したとみなしますが……」
椅子に固定された男の右足──その親指に釘を突き立て、金槌でトンと叩く。
「あッ!?あァァァァァァァァッッッ!!!???」
「吐く気になりました?と問います」
「あッ、ひィッ、は、かん……ッ!」
困りました、と野乃々はため息をつく。人差し指、中指と釘を刺していくが、男の答えは一向に変わらない。
「……あんたも拷問下手くそじゃねぇか」
「おかしい、こんなはずでは……と嘆きます」
その様子に、思わず赤萩も呆れたような声を出した。
「この手だけは使いたくなかったが……どうしても吐かねぇなら強硬手段に出るか」
数刻考えた後、赤萩は意を決して立ち上がる。携帯をポケットから取り出し、ある画像を出すと、おもむろにそれを男に見せた。
「……ッ!?やめろッ、その子たちは何の関係もないだろうッ!?」
「あーあ、可哀想だなぁ。てめぇが情報を吐かないせいでその子供達は死ぬんだ。自分たちは何もしてない、なのに何でって泣きながら殺されるんだなぁ!そんな悲しい話、映画にすれば興収ウン百億は下らねぇんじゃねぇか?」
はっはっはと乾いた笑い声を上げる赤萩。男に見せた写真は、男が匿名で売上の一部を流している孤児院の子供達だった。
「わ、私の持つ情報は全て出す!だからその子たちだけは……」
「え?吐いてくれんの?いやーさっきまであんなに頑なだったのに突然どうしたんだ?俺は何をするとも言ってないぜ!」
赤萩はさわやかな笑みでそう言った。
(この男……鬼ですか、と内心ドン引きしながら心で呟きます)
夜は明ける。必要な情報を掴んだ赤萩たちは、男を引きずりながらシェルターを出た。
墓脇です。
というわけで、今回はミスティがホルスドライバーを使って初変身しました。
ミストOOの戦闘シーンは、マントのふわっとした感じと、軽やかな身のこなしをうまく表現できたかなと我ながら思っています。
さて、今回で鮎川が退場しましたね。ちょうどミスティにコテンパンにやられて動けなくなったところを、レプリシューターを奪うために高坂に殺されるという最期になってしまいましたが、怪人たちも一枚岩ではないということです。
レプリシューターを手に入れて強化された高坂/ピエロがこれからどうなっていくのか、楽しみにしていてください。
感想などございましたら、是非コメントをお願いいたします。墓脇でした。