仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第21話「『百貌』を暴く炎」

「ライブラリとビークルを失ったのは痛いですね……ビークルはともかく、ライブラリがいなければ敵を探す手間がかかってしまう」

「オマケにあんたも変身できないときたしねぇ。今動かせる駒っていくらあるんだ?」

 シャトランの廃ビル、安酒をあおりながら菱杖は嘆く。

「えぇと……貴方にマルチフェイス、ホーネットにプレデター、それからピエロ……ペンシルとカメラは彼らの相手をするには力不足、クラウンは利用できるタマではないし、潜伏中の彼女らはまだ動かすには早いので計5体ですね」

「5体、5体か……少し、心許ないねぇ」

「ですね……ここからどうにかするには、プレデターが鍵となってきますか」

 重苦しい息を吐き、菱杖は自嘲的に笑った。

「……そんなことよりも、大丈夫なのかね?少し調べてみたのだが、こちらの居場所が『ファング』らにバレているらしいが」

 的の中心目掛けて矢を投げながら、草壁は言う。

「はは、そんなわけないだろう。フェイクじゃないか?」

「別に信じたくなければ信じなくてもいいが……君のその能天気が私の目的を遮りかねないことを自覚したまえよ」

「言うねぇ仮面ライダー。あんたのその上から目線、初めて会った時から気に食わなかったんだがここで決着でもつけてみるかい?」

「……悪いが、私は君のような弱者相手に時間を潰してやるほど暇ではない」

「へぇ、言うじゃないか……後悔しても遅いからな」

 ゲノムスはレプリシューターにマテリアピースを挿しこむ。その引き金が引かれようとしたその時、菱杖がそれを制した。

「やめなさいパラサイト。ただでさえ少ない手駒が自ら消しあってどうするのですか」

「おぉっとこりゃ失敬……」

 ゲノムスは頭を掻きながら、菱杖にこうべを垂れた。

「……こちらの居場所が割れているのであれば、早急に対策を取る必要がありそうです」

 


 

「先輩、さっきからずっと黙ってどうしたんですか?」

「…………動けなかった。ブレイクフォームに変身してでも高坂を止めるべきだったのに、何故か動けなかったんだよ」

「おそらくヤツの能力でしょうね。私もあの時、体の自由が利かなかったので」

 鮎川の遺体をバンに載せたあと、黒薙とミスティは執行衛兵の本部に二人で残っていた。

「“sister”……あれがなければ、鮎川があんなになることもなかったのかもな。鮎川だけじゃねぇ。朱本も、赤萩陽希も……大勢の人生があれに歪まされたんだ」

「……先輩。ずっと聞きたかったんですけど、“sister”の話になると途端に顔色が変わりますよね?不思議に思って先輩の記憶を辿ってもわからなくて……先輩と“sister”、何か関わりがあるんですか?」

 ミスティは何気なく聞いた。

「あぁ……あんまり人に話したくねぇし、ずっと心の奥に隠してきたんだけど……お前になら話してもいいか。実質僕だしな」

 黒薙は冷蔵庫からミルクココアを取り出し、一口だけ飲み込むと、“sister”との関係について語り始めた。

 

 

「2年前、誘宵学区である事件が起こった。能力者のホルスを強制的に増幅する装置“sister”を使って、能力のランクを上げるとか抜かしてた民間施設があったんだが……」

 ミスティは黒薙に渡されたあるファイルの中に目を通す。

「ある日突然、そこに通ってた生徒が能力を暴走させて何人もの生徒を巻き添えに自爆しちまったんだ……それが全ての始まりだった」

 2年前の6月の出来事だった。当時のF!nderにも、当然その記事があった。

「それから立て続けに同じようなことが起こって、流石に上も事故で片付けられなくなって、裏の人間が何人かその施設の調査に向かわされた」

『相次ぐ能力者爆死事故』、7月のある日の記事には、そう書かれていた。

「それで“sister”を使ってることが明るみに出て、裏の人間総出でそこを潰すことになった。……それからあの事件が起きた」

 8月──他と比べると多くの記事がまとめられていたページをめくる。

「その施設に通ってて、これまで異変が起こってなかった生徒たちが一斉に能力を暴走させた。その結果大惨事さ。そうなっちまった生徒に無事なやつはいねぇ。良くても体になんらかの障害は残ったし、死んだり植物状態になったりするやつも少なくはなかった」

 被害者リストにミスティは目を通す。ところどころ、聞き覚えのある苗字にマーカーが引かれていた。

「鮎川の妹は死んだ。菱杖の妹は植物状態で今も入院中だったか。あいつらが怪人としてやったことは最悪だが……境遇を考えると、どうしても少し同情しちまうよ」

 そこまで語られたところで、ミスティはふと疑問が浮かんだ。

「確かに今の話はなかなか悲惨ですけど……先輩や陽希先輩と直接は関係なくないですか?」

「そうだな。……ここからは資料にも書いてねぇことだ。誰にも口外するな。執行衛兵の仲間だろうと誰だろうと漏らした場合にはお前を殺す。そのつもりで聞け」

 黒薙は、再び語り始めた。

 

 

「それから僕はその事件の詳細を追った。“sister”を作るために澪が拐われてたってのが一番理由としては強かったかな」

 黒薙は残りのミルクココアを一気に流し込むと、過去を手繰った。

「誰が、何の目的であんなもんを作ったのか。何のためにあんな事件を起こしやがったのか。それを知るために僕は──誘宵学区に魂を売った。執行衛兵に入ったのだってそのためだ」

 空き缶を握りつぶすと、ゴミ箱に向けて投擲した。

「前者は分からなかったが、後者を突き止めることはできたよ……あぁ、これ言いたかねぇんだよな」

「別に言いたくないなら言わなくていいです先輩、あんまり嫌なこと言わせたくないですし」

「言わせろよ後輩、お前があんなこと言ったから言ってんだぞ?」

 黒薙は笑う。その目はやけに空虚に見えた。

「あの事件を……C-ARC事件を引き起こしたのは僕の父親だ。だから、僕にはあいつらの復讐を否定できない」[newpage]「先輩の過去がどうあれ、まずは目の前のこれを片付けるところからですね……」

 翌日、ミスティはラボで研究機器と向き合っていた。黒薙が単独で使用できる強化アイテムを作るためだ。

「ちなみにどんな感じになる予定なんすか?」

「先輩のマテリアキー3本の力を全部合わせた感じです。……大まかな感じは掴めてるんですけど、それが形にならないってのはもどかしいですね」

「あら、スケールがクソデカいですね」

「でしょう?めちゃくちゃ考えて先輩が文句言わないのにしたんですからそりゃスケールもクソデカくなりますよねって」

 技術者三人衆は笑いあう。

「形状はこんな感じを想定してるんですけど……どうでしょう?」

「あ〜〜まぁかっこいいっちゃかっこいいっすね」

「黒薙くんこういうの好きそうですよね、中身割とガキですし」

「「わかる〜〜」」

 そんなことを話しながら、二人は製作を進めていった。

 

 

「というわけで完成はしたんですけど……ちょっと微妙なところなんで一回試してもらっていいですか先輩?」

 それからさらに翌日。一応は完成形にまでなったそれを手渡された黒薙は、苦い顔をしながらベルトを巻き付け、それの上部のボタンを押した。

『Materia Trinity!』

 すると、巨大なマテリアキーの中央から、横から見たマテリアキーのヘッド部分のようなものが左右に飛び出した。

「うわっ!なんだこりゃ!!」

 そのままベルトに挿入する。

『Trinity! Set!』

「変身」

 そしてベルトのレバーを倒す。しかし、ガコンという音が響くばかりで、黒薙の身体には一向に変化が訪れない。

「オラッ、オラッ!あ?これ壊れてんのじゃねぇの?オラ」

 諦めずに何度もレバーを倒す。その回数が十五を超えたあたりから、OOドライバーの中央が赤く点滅し始めた。

「あの、先輩。そろそろやめたほうが…………」

「あ?そもそもお前が不良品を持ってきたから……」

 ミスティは止めるが、黒薙はレバーを倒す手を止めない。すると、その点滅速度が速くなっていき、

『Error…………』

「ぴッ!?」

 ベルトから、巨大マテリアキーが射出され、黒薙の顎に強烈なアッパーカットを打ち込んだ。

「ぷっ……あっははははは!!くろっ、くろなぎせんぱっ、おもろっ……!!!」

「ひーっ、黒薙くん最高!!なんでそんなに面白いのあなた!?『ぴッ!?』て!!『ぴッ!?』て!!!」

 黒薙の醜態を目の当たりにし、思わず有栖川と遠山は噴き出す。

「痛ってぇ……テメェら二人まとめて逆さに吊るしてケツ引っ叩くから覚悟しとけよクソアマども泣いても喚いてもやめてやらねぇからな」

 顎をさすりながら、黒薙は二人を睨みつける。その瞳には、痛みからか涙が浮かんでいた。

「泣きながら言っても説得力ないっすよ〜黒薙先輩?かわいいんだからこの子ったら」

「大丈夫でちゅか〜?ママがいい子いい子してあげまちょか〜??」

「うるせぇ殺す!!!!!!」

 おちょくる二人に黒薙は怒鳴る。しかし、根本的にクズの二人は一向に気にする様子を見せない。

「おっすお邪魔しまーす……って、何やってんだお前ら?」

「見ての通り黒薙くんをからかって遊んでるのよ赤萩くん、あなたもやる?」

「そいつ怒るとめんどくさそうだしいいや……んなことより、いい情報を持ってきたんだよ」

 しばらくして、赤萩が執行衛兵本部のドアを開けた。

「赤萩陽希か……で、それはどんな情報だ?」

「先輩をつけろって何回言ったらわかるんだお前?……まぁいい。それなんだが……奴らシャトランの潜伏場所を突き止めた。そこを叩こうと思うんだが、少しばかり戦力が欲しい」

 赤萩は告げる。

 だが、次の瞬間、爆音が続く言葉をかき消した。

 


 

「ははっ!俺たちの居場所が漏れたと聞いて居ても立っても居られなくなってあんた達を殺しにきた!!久しぶりだねぇ黒薙颯斗くん!!……どこから漏れたか知らないが、やってくれるねぇ君たち」

「テメェは……ゲノムス=リボー。一ヶ月ぶりだなクソ野郎、テメェから消されにきてくれるとは嬉しいもんだよ」

「言うねぇ?けど君は俺に勝てない、前もやってわかってるだろ?」

「ハッ、こっちはテメェと違って万年成長期なんだよ。僕の成長速度はタケノコをも凌駕する。……表出ろクソ野郎!」

 乗り込んできたのはゲノムス。彼がここを攻撃し始める前にと、黒薙はゲノムスにタックルを仕掛けた。

「か……ッ!?少しはやるねぇ……ッ!」

 ラグビー選手と見紛うほどの一撃を受け、ゲノムスの体がバランスを崩す。

「隙だらけなんだよクソボケ野郎、表出ろっつったら一回で表出ろよ!」

 その脇腹に、横薙ぎの蹴りが加えられる。ゲノムスは突き飛ばされるようにして外へと放り出された。

「痛って……いくら膂力を鍛えたところで怪人の俺には勝てないって教えてあげようか?」

「いらねぇよクソ野郎……テメェこそ愉快に爽快に理解しな。今の僕にケンカを売ることが、どれほど命知らずで恥知らずの身の程知らずかってこと」

 黒薙はドライバーを構える。だが、ゲノムスの隣を通った少女が、それを遮った。

「やぁ久しぶりだねぃ?元気してたぁ?」

「チッ、OverX同窓会をこんなとこで開かれても迷惑なんだけどな……ッ!」

「元気みたいで何よりだよぅ、そのまま死んでねぃ」

 虚ろな瞳の化野が、不規則な動きで黒薙に襲いかかる。

「あぁクソ、動きが読めねぇ……ッ!」

 軽やかに攻撃を躱す黒薙だが、その表情は芳しくない。予測のつかない行動とは、それだけで人を不安にさせるのだ。

 

 

「見たところ、こちらに来ているのは二人だけ……レーツェルちゃんは黒薙くんの保護を!」

「わかってます、赤萩先輩もお願いしますね……ってもういねぇし!」

 一方、襲撃時に真っ先に身を隠していた技術者たちは、敵が二人しかいないことを知ると、唯一怪人と渡り合える可能性のあるミスティを向かわせた。

 

 

「まっず……ッ!」

 化野の指が黒薙の頭蓋を捉える。一直線に伸びたその一撃が、黒薙の頭蓋を砕いた──訳ではなかった。

「まさかと思って少し隠れて様子見てたんだけどよ……本当に来てくれやがるとはな」

 赤萩陽希が、すんでのところで化野を蹴り飛ばしたからだ。

「赤萩陽希テメェ来るなら最初から来いよ死んだかと思ったわ!」

「うるせぇ助けてやっただけありがたいと思え馬鹿野郎!!」

 傲慢な黒薙は吠えるが、赤萩は正論でそれを躱した。

「さて、と……化野の方は俺がやる。お前はあっちを頼む」

「チッ、めんどくせぇな……!わかったよ、僕はあっちを片付ける。その間にやられてんじゃねぇぞ、『先輩』?」

「そりゃこっちのセリフだよ『後輩』、俺があいつ程度に負ける訳ねぇだろ」

 黒薙たちは背中合わせになると、それぞれドライバーを装着した。

「きみは……赤萩、陽希?ひひっ!あっはははははぁ!やっと見つけたぁ、会いたかったよぅ!」

 起き上がった化野が、赤萩を睨みつける。

「ぼくをこんなにしたきみをぅ、ずっとぅ、ブチ殺したかったんだよねぃ!!」

「知るかクソガキ、吠えたきゃ勝手に吠えてな子犬」

 赤萩は舌を出して化野を挑発する。化野はレプリシューターを取り出し、その銃口を赤萩に向けて叫んだ。

「ぼくは強くなったぁ……きみをぅ、この手で殺すためにぃ!!ひひっ、解錠ぉぅ……ッ!!!」

「てめぇごときが俺に勝とうなんて100万年は早ぇな……そのくだらねぇ理想論、俺が今からぶち壊してやるよ、変身」

 二人の体が変化する。怪人とライダー。決して相容れない二つは、真っ直ぐに互いを見据え合った。

 


 

(コイツは……化野幻歩は、とりわけ俺のことを恨んでる。まぁ無理もねぇか、コイツが捕まったのは俺がコイツをぶっ倒したからだ。むしろ俺が怪人だった頃、よくコイツが俺を襲ってこなかったと不思議に思うくらいだ)

 フレイマーは化野、あるいはマルチフェイス・シャトランの攻撃を避けながら思案する。

(そもそも……コイツらが誘宵学区に反乱を起こしたのはあの事件が原因だ。そして俺も、一歩間違えりゃコイツと同じ側に立ってたと思うと、どうしても同情しちまうよ)

 そうだ。“sister”を製造するために誘拐されたのは澪だけではない。亜矢もその時に巻き込まれていた。だからこそ、一連の事件で亜矢を守れなかった罪悪感から、無力感から、あるいは己への失望感から、怪人の力に手を伸ばしたのだ。

 赤萩は過去を振り返る。一昨年の12月、当時ランク10だった能力者たちが、OverXを名乗り誘宵学区に反旗を翻した時のことを、意識の隅にたぐり寄せた。

 

 

「なんだっけ、あんた……毒島さん?」

「どうかしました?わたくしは超絶怒涛に元気ですわよ」

「……ランク10の超能力者4人に命を狙われてんのに超絶怒涛に元気とか言える時点であんたも相当イってるよな」

 当時高校一年生だった赤萩は、目の前の美女──毒島斯夜のマイペースぶりに思わずため息を漏らした。

「でもそれとは別のランク10の超能力者4人がわたくしを守ってくれるじゃないですか。大丈夫ですわよ全っ然」

「……序列で言えば向こうの方が上なんだけどな」

「大丈夫ですわ、あなたには死相は見えていませんよ」

「……そりゃどーも」

 豪胆な女性だった。生きるも死ぬも運次第、といった雰囲気を漂わせる彼女は、唯一OverXとも裏の組織とも関わりを持とうとしなかった。今となれば、その判断こそ正しかったのではないかと、赤萩は思う。

「そもそも……誘宵学区に不信感を抱いたとか言ってテロ組織なんて作った時点で馬鹿なんですよ彼ら。わたくしのような事なかれ主義のチキン野郎からすれば誘宵学区以上に彼らOverX(笑)の方が怖いですけどね」

 毒島は云う。

「レイちゃんは義勇がエンジンな分上に立った時が恐ろしいですわね、彼は人の上に立つ器ではありませんわ。いいとこカエサルだのヒトラーだののような独裁者が関の山」

 彼女は当時のランク10の第一位、哀光(あいみつ)(れい)についてこう評した。

「リンちゃんはそもそもあの子レイちゃんに同調するだけ、恋愛脳のクソバカハッピー野郎ですし、そのために虚言癖まで完備してる最低のロクデナシですわ。あんなのがこの町の上に立ったらこの町は2秒で滅びますわね」

 続けて、他のランク10の超能力者についても批評する。

「リボンちゃんはマッドなサイエンティストの気があるので上に立たせたらこの町が世界一危険な汚染区域に認定されかねません。こいつはマジで論外ですわ、そもそも生かしておくのが間違いの次元です。早いうちに毒盛って殺しておくべきでしたわね、反省反省」

 リボンちゃん、というのはゲノムス=リボーのことだ。彼は当時からいくつもの研究機関に籍を置いていて、いくつもの非人道的な実験に携わってきた。“sister”の開発にもいくらか関わってきた彼がOverXに参加したのは、ひとえに過激な実験を認可させるためだ。

「ただ、ここまではまだマトモな部類ですわ。あとの一人は、ひたすらにヤバい。どのくらいヤバいかと言いますとあまりのヤバさに世界がひっくり返って世界中の死火山が生き返って大噴火起こすレベルでヤバいんですのよ」

「そこまで言われると逆に大したことねぇ気がしてくるんだが……」

「そう言ってられるのも今のうちですわよ……最後の一人、ゲンちゃんは──」

 


 

『さっきからよそ見ばっかしてさーぁ、ぼくのことナメるのもいい加減にしてくれなぁい?』

「チッ、速ェ……ッ!」

 フレイマーは間一髪でマルチフェイスの攻撃を避ける。あと一瞬反応が遅れていたら、今頃は八つ裂きにされていたかもしれない。

『ぼくはぁ、きみ達を殺してぇ、あとはあの裏切り者の毒女さえ殺せればぁ、もう誘宵学区と敵対する気は無いんだよねぃ……みんなの平穏のために死んでよぅ』

「俺の守るべき『みんな』の中にてめぇは含まれてねぇよパッパラパーのクソ女。てめぇをブッ殺せばそのみんなの平穏とやらは守れるじゃねぇか、なぁ?」

 中指を突き立て、フレイマーは挑発する。案の定、マルチフェイスは怒りを露わにして赤萩に飛びかかった。

 

 

 赤萩は再び過去を手繰り寄せる。昨年の3月。OverXとの抗争が激化した頃のこと。赤萩は、単独で化野と対峙していた。

「へーぇ、ぼくも舐められたもんだねぃ?雑魚一匹でぼくを止めようなんてぃ……その思い込みが間違いだったって教えてあげるよぅ」

「勝手に言ってろよ皮被り。その粗末な能力と実力でてめぇを強いと勘違いして勃起してる変態野郎が偉そうな口叩いてんじゃねぇ」

「はーぁ!?ちょっとぉーぅ!ぼくは女の子なんだけどぉーう!?」

 感情を押し殺した目で睨みつける赤萩の発言に、化野は激怒する。

「知らねぇよ、そもそも性別も年齢も書類に載ってねぇてめぇが女である証拠もねぇだろうが死ね」

「もう怒ったからなーぁ!!裏切り者を匿うだけならまだしもぅ……こういう失礼なやつ、生きてるだけで周りに迷惑かけてるんだろうねぃ!!」

「あ?テロリストの分際で他人に『生きてるだけで周りに迷惑』だ?調子に乗んのも大概にしろよクソボケ野郎、殺されてぇのか?」

 赤萩は中指を立てる。奇しくも、一年後と全く同じ動作であった。

 

 

 一年前に化野と対峙した際、化野の変身能力に苦しめられたことを、赤萩は覚えている。

「オラ、どうした!?さっきまでの威勢はどこ行きやがった!?」

 あの時、確かに赤萩は化野に対して優位に立っていた。非戦闘向きの能力者と、戦闘こそが主目的と言わんばかりの能力を持つものとでは、当然であったかもしれないが。

「そのままコソコソ逃げ続けんだったらこっちも容赦はしねぇ、てめぇの顔面焼き潰してその化けの皮剥がしてや……ッ!」

「あーれーぇ?どうしたのかなぁ、突然黙っちゃってぃ!」

 だが、化野がある人物に変身すると、赤萩は途端に攻撃できなくなった。

「そりゃぁ別人だってわかっていても攻撃はできないよねぃ?義妹と同じ見た目のやつなんてさーぁ!!」

 赤萩陽希の義妹、すなわち赤萩亜矢に化野が擬態する。それだけで、赤萩は攻撃の手を止めてしまう。

「あっはは!!さっきのきみの言葉ぁ……なんだっけぃ?『さっきまでの威勢はどうした』ぁ、だっけぃ?」

 亜矢の姿をした化野が、醜く笑う。

「それさーぁ、そっくりそのままきみに返してあげるよぅ!!」

 爪先が鳩尾に突き刺さる。一発、二発、三発と繰り返される一撃に、赤萩は血を吐いた。

 

 

『あのとき、油断さえしなければきみを消せてたんだよねぃ……ほんとぅ、後悔してもしきれないよぅ』

「へぇ、てめぇみてぇなブットビ野郎にも後悔って概念あったのか」

『あるよぅ?きみを殺せなかったのとぅ……あれぃ?ぼく他に後悔してることなかったっけぃ?』

「知らねぇよてめぇのことだろ死ね」

 時は現在に巻き戻る。マルチフェイスの攻撃を避けながら、フレイマーは回し蹴りをその頬にぶち込んだ。

『あガッ!?』

 その衝撃で、マルチフェイスは醜く床を転がり回る。

『いったいなーぁ!!もう怒ったぞぅ、絶対許さないからなーぁ!!!』

 咆哮とともに、マルチフェイスの姿が変わる。それは、怪人の姿から人間的なシルエットを象り──赤髪のツインテール、赤萩亜矢へと姿を変えた。

『この姿ならぁ、きみも手出しはできないよねぃ!!?』

 


 

『さーてぃ、どう料理してあげよっかなーぁ……』

 亜矢の形をしたそれが、フレイマーににじり寄る。

『そういえばーぁ、そのディスクってきみたちの弱点なんだよねぃ?』

 マルチフェイスは、下卑た笑みを浮かべながら言う。

『じゃぁ……そのまま死んでよぅ!!』

 その拳が胸のアーマーの中央にあるディスクを捉えた。だが、それがディスクに突き刺さる直前──。

「なんでもいいが……その姿で俺に近寄るんじゃねぇボケがッ!!」

 フレイマーの拳が、マルチフェイスの腹部を撃ち抜いた。

『か……ッ!?』

「去年、てめぇには散々痛い目見せられたんだ……二度も同じ手を食うわけねぇだろうが」

 フレイマーは吐き捨てると、クリムゾンウォリアーを片手に、マルチフェイスへと詰め寄る。

「立てよクソ野郎、亜矢の姿とはいえ、身体能力は怪人のままなんだろ?立たねぇならその場で首を切り落とす」

 亜矢の姿をしたソレの首筋にブレードをあてがい、少しずつ食い込ませていく。

『このぅ……!ナメやがってぃ……!!もう謝っても許してやらないからなーぁ!!!』

「ハッ、それはこっちの台詞だよ……かかってきな補欠止まりのベンチウォーマー、現役プロが相手してやる」

 再びフレイマーは中指を立てる。それに呼応するかのように、マルチフェイスは別の怪人へと姿を変えた。

『Camera……』

『これで写真撮るとそいつからホルス吸収するんだってーぃ!そのまま枯れ木になっちゃえ──ぃ!!』

 カメラ・シャトランに変身したマルチフェイスが、その頭部をフレイマー向ける。しかし、フレイマーは素早い動きで撮影範囲から逃れ続けた。

『もーぅ写真くらい撮らせてよーぅ!!』

「俺は有名人だからな、事務所の意向で非公式の写真撮影はNGなんだよ死ねボケッ!」

 遠距離から火球を二、三飛ばし、マルチフェイスに命中させるフレイマー。それに対し、マルチフェイスは激怒し、またもや姿を変えた。

『Library……』

『さっきからぼくの邪魔ばっかしてくれちゃってさーぁ!!何考えてんのーぅきみぃ!!』

 宙に浮かべた無数の本から、極彩色のレーザーが放たれる。フレイマーは自らの能力で熱線を射出し、その全てをかき消した。

「呆けてんじゃねぇよ、てめぇが売った喧嘩だろうが」

 自慢の攻撃が全て無力化され、驚きを隠せないマルチフェイスの右頬を、フレイマーの拳が撃ち抜く。

『Pencil……』

『いったいなーぁ!!少しはこっちにもやらせろよーぅ!!』

 今度はペン先のような頭の怪人に変身する。直後、フレイマーの足元に何か印のようなものが現れ──その動きを封じた。

「チッ、面倒な真似しやがってこの野郎……!」

『Armored……』

『あっはっは!!ダサいねーぃ今のきみーぃ!!でもまだだよぅ、もっとダサいところ見せてよねぃ!!』

 マルチフェイスがアーマードに変身する。その右の拳は、真っ直ぐにフレイマーの頭部を狙っていた。

『死んじゃえーぃ!!!』

 拘束が解かれるほどの一撃だった。フレイマーはノーバウンドで数十メートル先まで吹き飛び、仰向けに倒れた。

『あーはっはっは!!どーぅ?少しはやられる側の気持ちも思い出せたかなーぁ??』

 マルチフェイスの挑発を受け、フレイマーは片足を頼りに立ち上がる。

「ハッ、ありがとよクソ野郎……おかげさまで、本気の出し方を思い出せたぜ」

 そして、獣のように笑うと、全速力でマルチフェイスのもとまで駆け出した。

「その姿になってくれたのも都合がいいぜ、過去の自分を直接ぶん殴るって感じで気分がいい、最高の爽快感だ」

 ベルトのボタンを押し、右腕にエネルギーを溜めながらフレイマーは言う。

「だから……俺の一撃は、ちっとばかし響くぞ」

 脚を強く踏み出し、フレイマーは拳を構える。

『ははっ、何をしようときみよりすごいぼくの防御の前には聞かないよーぅだ!!』

「言ってろよクソ野郎……これが、ロートルと現役の力の差だ!!」

 力強く振られた拳が、マルチフェイスの貌の中央に突き刺さった。

『Fire Charging Smash!!』

 燃える拳を受け、マルチフェイスの体が宙を舞う。直後に、爆発があった。全身が焼け焦げ、気を失った化野を見て、フレイマーは改めて決意を言葉にした。

「俺はもう……過去は振り返らねぇ」

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