仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第22話「世の『万物』に通す糸」

「先輩!苦戦してる頃かと思ったんで助けに来ましたよ!」

「助かるミスティ!別に苦戦もしてねぇけどな!!」

 一方で、OOはゲノムス──パラサイト・シャトランと対峙していた。両者の力量は互角であった。

「ま、そういうわけなんで体借りますよ先輩っ!」

 ミスティは手を伸ばすと、二人の影が重なり、一つとなる。

『なるほど、そういう原理でそうなっていたのかぁ!面白いねぇ、君を連れ帰って解剖したいくらいだ!!』

「「させるわけねぇだろクソ野郎……行くぜミスティ」」

《わかってますよ先輩》

 OOの右手がマテリアブレイカーを押した。

『Materia Breaker!』

 パラサイトの攻撃を躱しながら、OOはベルトのレバーを倒す。

『Breaking OO……Time Charge』

「「いつも通り決め台詞と行きてぇが……今日はちょっと変化球で攻めてみるか」」

 右手にオブリビオンセイバーを握り、OOは言う。

「「確かな記憶の力、見せてやる……いや、なんかちげぇな。やっぱいつも通り行くわ、ちょっとやり直させてくれ」」

 その切っ先を突きつけて言ったものの、いまいちしっくりこなかったのか、OOは一旦オブリビオンセイバーを引っ込めた。

「「失われた時間の力、見せてやる」」

 今度こそ切っ先をパラサイトに向けて言った。

 


 

『へぇ、カッコつけようとして滑って情けないところを見せたのをなかったことにするとはなかなかに狡猾だねぇ君も』

「「ハッ、そう褒めんなって恥ずかしいだろ」」

 OOは軽口を叩きながらパラサイトに斬りかかる。

『おっとぉ!?流石に少し危ないじゃないか、何を考えてるんだ君は?』

「「怪人に道徳を説かれてハイそうですねごめんなさいと言うやつはいねぇだろゲノムス=リボー、最近の正義の味方はモラル不要って日曜の朝に聞いたぜ?」」

『そうやって各方面に喧嘩を売るのはやめたほうがいいと思うけどね?』

 肩から伸ばされた触腕でオブリビオンセイバーを受け止めるが、それだけで止まるほどブレイクフォームは脆弱ではない。腕を振る勢いのまま、その触腕を二、三切り落とした。

『おお、これは痛い……なぁんて☆』

「「チッ、バケモンが……!」」

 しかし、パラサイトは何食わぬ顔でその触腕を再生させた。

『しかし……俺は特にといって何か特殊な能力を持ってるわけでもないんだよなぁ。せいぜい虫をばらまく程度だし……ここは俺の力の見せ所かな?』

 触腕から爆発する虫を大量に生み出しながら、パラサイトは呟く。

「「チッ、熱いんだよクソが!!」」

『……Spin Charge』

 爆風の中から飛び出すOO。スパイラルスピアーを構え、上空からパラサイト目掛けて飛びかかる。

『うーん……俺が君の相手をするのも面白いかもしれないが、そればっかりじゃあ飽きるだろ?』

 だから、とパラサイトは嗤う。

『俺が作った改造生物とバトってもらおうかな、俺が君と戦うのはそれからだ』

 パチン、と指を鳴らす。すると、複数の肉食獣を掛け合わせたような怪物が三匹ほど飛び出した。

『やれ、検体1から3。実験の始まりだ』

 合図とともに、怪物たちが黒薙に襲いかかる。

『ォ……ォォァァア!!』

 嘆きとも取れる呻き声。怪物の腹部に槍を突き刺すが、硬い筋肉はそれを通さない。

「「かってぇ野郎だ……ッ、頭痛くなってきた、代われミスティ!」」

《了解です》

 主人格がミスティに移る。それと同時にマテリアキーをメタルに差し替え、グラビティナックルで怪物をまとめて吹き飛ばした。

「「今の手応え、怪人のそれではなかったような……まさか」」

『ははっ!!気付くのが早いじゃないか黒いOOちゃん!!いかにもそうだよ、その三つの検体は俺の能力で生み出した化け物だ』

 パラサイトは下卑た笑みとともに語る。

『黒薙颯斗くんなら知っているだろうが……君は知らないだろうし俺の能力から説明してあげよう』

 OOの攻撃で麻痺した怪物に近付き、触腕で触れながらパラサイトは言う。

『俺の能力は『遺伝編纂(コンパイルゲノム)』、文字通り生物の遺伝情報を読み取り、自在にそれを編纂する能力だよ……さて問題、君が今殴り飛ばした三つの検体は何者でしょうか?』

 パラサイトは心底愉快そうな声色で問う。

「「……ッ、このゲス野郎が……ッ!!」」

『はははっ!!いいねぇその顔!!そういう眼で俺を見てきた相手こそ……あとで検体にされた時の泣き顔が美しくなるものなんだ!!加えて君たちは自在に合体できるときた!!あぁ!!今から君たちを分解(バラ)すのが楽しみだ!!!』

 軽蔑するようなOOの言葉も聞かず、パラサイトは狂気を振りまいた。

『はは、失礼……面白い研究材料を見かけると興奮してしまうのが俺の悪い癖だ。ほら、想像するだけで……昂ぶるんだよね。君の絶望と諦観を綯い交ぜにした泣き顔を……さ』

「「気持ち悪りぃなキモオタ童貞。私は自分(テメェ)のことしか考えねぇようなオナニー野郎が大ッッッ嫌いなんだよ……テメェのことだよボケ、テメェだけは五体満足では帰してやらねぇ」」

 ミスティは、そして黒薙は、仮面の奥の瞳の色をドス黒いものに変え、パラサイトを睨みつける。

『せいぜい強がっていればいいよ!!その方が……俺の検体になった時の絶望も深まるからねぇ!!』

 直後、怪物たちがミスティへと襲いかかった。

 


 

(……とは言っても、あの怪物たちは強い。さてどうするか)

 怪物の攻撃を受け流しながら、OOは思案する。

『どうしたんだ黒いOOくん、さっきまであんなに躊躇なく検体を殴り飛ばしてくれてたってのに突然優しくなっちゃって!』

「「テメェがやったことでしょうがクソ野郎……ぜってぇブン殴って牢屋にまたぶち込んでやるから覚悟してやがれ」」

『おやおや口の悪いことだ!でも今俺と話してる暇なんてないんじゃないか?その検体は俺が弄って出力を上げてある、ソレの耐久実験としてな?』

 パラサイトは手をパンパンと叩きながらOOを挑発する。

『ォアア……ァアォォオォン!』

 怪物の拳が迫り来る。何かを考えたOOは、回避すらせず、その攻撃を受け止めた。

「「……痛いでしょう。苦しいでしょう。あなたがどんな人だったのか知りませんが、そうやって獣のようにされてしまえば、そう感じないはずがありませんから」」

 優しく、慈愛に満ちた声色で、OOは語りかける。

「「人を人とも思わないクズに利用されるだけ利用されて……どんな人間にも、等しく生きる権利はあるはずなのに」」

 控える二体の検体も、OOの声に聞き入るようにして動きを止めた。

「「だから……せめて、安らかに眠れ」」

 OOの掌にオブリビオンセイバーが現れる。拳を受け止められていた怪物が倒れ伏したのは、その直後のことだった。

 

 

 ミスティは、自らの過去を思い出していた。こことは異なる、別の世界。突如として現れた『魔物』に蹂躙され、立ち上がる者の牙が揃って折られた悪夢の世界。そこで、数少ないレジスタンスとして戦っていた時のことを。

(あぁ……そうだ。私は世に蔓延る魔物を倒すために、この世界に来たんだ)

 ミスティの眼に浮かんだのは、倒すべき敵だった『魔物』だ。今もその大半は見つけ次第屠るべきだとは考えているが、それでも──。

(誰かの悪意に騙されて、そのまま魔物となってしまう人だっているんですよ……)

 極限状態の世界で、ミスティは様々なヒトの在りようを見てきた。その中には、どれだけ極限の状況にあっても笑顔を絶やさなかった者もいた。魔物を殺すことさえ躊躇っていた彼女は、その純粋さを悪人に利用され、魔物へと変えられ、そしてミスティによって命を奪われた。『検体』たちを見ていると、どうしてもその少女を思い出してしまう。ミスティは拳を握り、決意を新たにする。性根の腐った悪人を、ゲノムス=リボーを、この手でねじ伏せる──と。

 

 

『ヒュー!カッコいいねぇ!!いい資料をありがとう、検体1は耐久性に難あり、と──』

 倒された怪物を見て、パラサイトは淡々と述べる。まるで、命を弄んでいる自覚などないかのように。

「「……あなた達も、辛いでしょう。もう、休んでください──」」

 残る二体が同時に襲いかかる。OOは、オブリビオンセイバーにミストマテリアキーを挿入し、それを横薙ぎに振るった。

『Oblivion Mist Slash!』

 斬撃を受け、怪物達はそれぞれ倒れる。だが、その顔に苦痛の色は無く、むしろ救われたような安らかな色をしているように思えた。

『あぁっ!俺の手駒が全てやられてしまった!!流石だねぇ黒いOOくん!!君ならやると信じてたよ!!』

 パラサイトは薄情にも笑い声を上げてOOを賞賛する。その姿に、OOの嫌悪が募る。

「「……あなただけは、絶対に許さない」」

『言うねぇ!!俺も俺の実験動物を減らしてくれた君を許さないよ、これで相思相愛だねぇ!!』

「「勝手に言ってろよクソ野郎、こっちはテメェの気持ちなんざ汲む気は一切ねぇ」」

 怒りを剥き出しにし、OOは足を踏み出す。

『来いよ、俺がその力がどれほどか測ってあげるよ!!』

「「テメェごときのポンコツメーターで私を測りきれると思うなよ、ゲス野郎」」

 OOは飛び上がり、ベルトのレバーを倒した。

『Breaking Time Strike!』

 赤黒いリングをいくつも踏み抜き、OOはパラサイトの胸部のアーマーを蹴りつける。

『ははっ、そのくらいか……なら、俺の方が強いってことだよね……ェッ!?』

 余裕ぶってOOに迫るパラサイトだったが、直後に、その動きが鈍る。血のように紅い衝撃が幾度となくパラサイトを襲い、最後には大爆発を引き起こした。

 


 

「化野幻歩、確保だ。……っつっても、気絶してるし聞こえてねぇか」

 一方、赤萩は自らが撃破した化野の手首に錠をかけようと屈んでいた。

『それは……少し困りますね』

 しかし、突然現れたその影に遮られる。すらりとしたシルエットの怪人の攻撃を間一髪で躱し、赤萩はそれを睨みつけた。

「誰だ、てめぇ……!」

『名乗る必要なんてない。戦う必要もない。あたしはただその木偶の坊を拾いにきただけですし』

「答えになってねぇぞメス豚が……!」

 赤萩は犬歯を剥き出しにして怪人に食ってかかる。

『……挑発しても無駄ですよ?今言ったとおり、あたしはそこの変装女を回収しにきただけ。あなたみたいに強いやつの相手なんてしたくないです』

「俺と戦いたくねぇならそこのカオナシは置いていってくれねぇか?俺の仕事はそいつをもう一回ブタ箱にぶち込むことだ、その邪魔をするなら誰であれブチ殺す」

『それは無理。あたしの仕事もそれの回収ですから。……お互い、なまじ仕事ができるばかりに面倒を押し付けられるって大変ですね』

 怪人は化野の首の後ろを掴みながら言った。

「おいおいしれっと持ち逃げしようとしてんじゃねぇよ俺の獲物をよ」

『チッ、バレたか……でもコレだけは渡しませんから。どうしてもコレを連れて行きたいならあたしに追いついてみてください……よーいドン』

 怪人は指をパチンと鳴らすと、化野を小脇に抱えたまま飛び去った。

「あっ!!待てこらてめぇ!!」

 一歩遅れて赤萩も駆け出す。

「くそっ、なんて速さだ……仕方ねぇ、遠山が言ってたあれ使ってみるか!」

 しかし、走れども走れども怪人との距離は縮まらずに開くばかりだ。赤萩は舌打ちすると、ベルトの横から取り出したスイッチを押した。すると、真っ赤なボディの無骨なバイクが、どこからともなく走ってきた。

「よし、ここから巻き返す!行くぜ……おっと、名前あった方がお前もやる気出るよな……あぁ、それじゃ行くぞ、『プロミネンスファング』!」

 赤萩の叫びに応えるように、プロミネンスファングは唸りを上げる。赤萩が跨った途端、プロミネンスファングはその目を光らせ、そのホイールを高速で回転させた。

「……ッ!なかなかの暴れ馬じゃねぇか……だがまだだ、お前のライダーは俺だ!バイクならバイクらしく俺の言うこと聞きやがれ!!」

 激しく動くそれに、赤萩は翻弄される。しかし、その程度で追跡を諦める赤萩ではない。前傾姿勢で暴走するプロミネンスファングに必死で食らいつき、ついには怪人に追いつくことに成功した。

『……驚いた。まさか変身すらせずにあたしに追いつくとは。かといって返してやるとも言わないけど』

「ハァ……ハァ……ここまで頑張ったんだからご褒美にそいつの身柄くらいよこせよ……」

『ヤですよ。正直本気でついてくるほど馬鹿だと思ってませんでしたし……あたしなんかの相手してる暇あったら妹さんの心配した方がいいのに』

 怪人の何気ない一言に、赤萩は驚きを表す。

「…………亜矢が、どうしたって?」

『別に何ともないけどなぁ……どうしても知りたいなら交換条件でどうですか?あたしはあなたの妹さんが今どうなってるか教える。あなたは化野の身柄を諦める。いい取引だと思いますけど』

「…………お前をここで捻り潰して情報も化野も手放させるっつったら?」

『だからヤですって。あたしは死ぬまで情報は吐きませんよ。というか拷問されるくらいなら舌噛みちぎって死にますし。あたしから情報を吐かせたかったら大人しく取引に応じた方がいいと思うけどなぁ』

 鬼の形相で怪人を睨む赤萩だったが、怪人の方は意にも介さない。

「チッ……わかったよ。今回だけだからな。そいつの身柄は諦める。代わりに亜矢のことを聞かせろ」

 


 

「ゲノムス=リボー……テメェの負けだ。大人しくお縄にかかって獄中で惨たらしく死……おっと口が滑った。アレがアレしてアレしてろ」

「先輩さっきのやつほとんど私がやったのに謎にイキりますよね……」

「うるせぇなクソ後輩体は僕なんだからお前の手柄は僕の手柄だろ、この前お前の失態肩代わりしてやったんだからこれで貸し借りナシな」

「むっ……」

 ゲノムスを撃破した黒薙とミスティは軽口を叩き合う。黒薙がゲノムスに手錠をかけようとしゃがんだ瞬間、真横から薙ぐような衝撃を感じた。

「……ッ!何だ、今のは……ッ!?」

「自分だ。……そこの気狂いを回収するようにクロージャーに命じられてな。自分としてはその程度で敗れる雑魚は切り捨てたいところだが」

 現れたのは高坂操糸。薙ぎ払うように黒薙の横腹を蹴り、倒れているゲノムスを片腕で抱きかかえた。

「させると思ってんのか?……テメェみてぇな危険人物に自由をやるわけねぇだろうが」

「自分は自由など求めていない。自由を求めているならばこんな使えない不要物の回収になど来ていない」

「そういうことを言ってんじゃねぇよクソ野郎……そのクソを置いて今すぐ消えろ。今なら見逃してやる」

 黒薙は高坂を睨みつける。

「お前が、自分を、見逃す?は、はは!笑わせてくれるな黒薙颯斗!!以前までの自分ならともかく、今の自分にそこまでの大口を叩けるとは!!」

 しかし、高坂は高らかに笑い、黒薙を見下した。

「言ってくれんじゃねぇかクソ野郎……その言葉、後からやっぱナシとは言わせねぇからな」

 高圧的な高坂に対し、黒薙は怒りを多分に含んだ目で見上げながら、ベルトを腰に巻きつけた。

「行くぞミスティ……変身」

『……Time Charge』

 ミスティと黒薙の影が重なり、直後、ブレイクフォームにその姿を変えた。

「なるほど、それがビークルを破った力か……ならば、自分が新たに手にした力も見せてやろう」

 相手にとって不足はない、と言わんばかりに乾いた笑みでOOを省みると、高坂は左手に持ったレプリシューターにマテリアピースを差し込んだ。

「解錠……!」

『Knight Charge……Open“Pierrot”』

 高坂の姿が怪人のソレに変わる。シルエット自体は以前と何ら変わりないものであったが、その体に走るラインは銀から金へと変わっていた。

「「何が変わったか知らねぇが……中身の方は大して変わってないとこっちも楽で助かるから頼むぜ?」」

『言っていろ……自分は強くなった。地を這い、血を吐き、泥水を啜り、己を鍛え続けた!生温い温室ですくすくと育った貴様などもはや敵ではない!!』

「「ハッ、そうかよ……あのクソみてぇな最悪の空間を温室だなんて言われちゃあ我慢ならねぇな。人には触れられたくねぇ過去の一つや二つあるってことも知らねぇ温室育ちのボンボンが偉そうな口叩いてんじゃねぇよブチ殺すぞ」」

 ピエロの発言が逆鱗に触れたようで、OOはオブリビオンセイバーを片手にピエロのもとへと走り出した。

「「オラッ、そのまま死にやがれクソ野郎が!!」」

『Oblivion Time Slash!』

 赤黒い斬撃が、ピエロの胸部装甲を削る。しかし、ピエロはその攻撃を意にも介さず、取り出した棒状の武器でOOを弾き飛ばした。

「「……ッ!やるじゃねぇか……ッ!」」

『必殺技が止められたにしては随分と余裕そうではないか?だが上等だ、それくらいでなければ潰し甲斐がないからな!!』

 ピエロは獣のように笑い、棍を縦横無尽に振り回す。OOは一度オブリビオンセイバーで受け止めようとしたが、ピエロのあまりの膂力に根負けし、その一撃一撃を躱すことに意識を割いていた。

「「チッ、面倒な真似しやがる……ッ!」」

 


 

『どうした、その程度か!?あれだけ自分を挑発しておいてそのザマか!?』

 ピエロの蹴りがOOの脇腹に突き刺さる。OOは身体を反らし、ギリギリのところでダメージを押し殺した。

「「チッ、こいつの相手はこっちじゃキツいか……!」」

 体勢を持ち直すと、OOはマテリアブレイカーをドライバーから抜き取り、ミスティと二人に分かれた。

「ここからは二対一で行きましょうか……変身」

『“Mist OO”』

 OOから分かたれたミスティは、ノーモーションでドライバーを装着し、ミストOOへと変身する。

『一人が二人に増えようと自分の敵ではない……!』

「さぁそいつはどうでしょうね?前々からあなたには一発殴られた恨みをぶつけてやらねぇとなって思ってたんですよ」

 呟くミストOOを吹き飛ばすように、ピエロの根が振るわれる。しかし、直後にミストOOはピエロの背後に移動し──レイピアをその背に突き刺した。

『ッ、あァ……ッ!黒薙颯斗とは違い、少しはやるようだな……!』

「誰が少しもやらねぇって?首がお留守だぜクソ野郎」

 ミストOOの一撃を受け、僅かにダメージを受けたように見えたピエロだが、その頭上にOOのグラビティナックルが迫る。

『……ッ、舐めるなァッ!』

 首を圧し折ろうと振るわれたOOの拳を、僅かに首を逸らして肩で受け止める。

『……フン、貴様らの力量は測り終えた。もはや加減はいらんだろう』

「負け惜しみか?僕のパンチ一発に本気でビビってた割には言うじゃねぇか」

『……そう言っていられるのも今だけだ』

 ピエロはそう言うと、OOOへと駆け出した。

「チッ……速くなりやがった……ッ!」

 高速で襲いかかるピエロに対し、OOはスピンフォームに変身してそれを避ける。だが、ピエロの攻撃速度は、そのさらに上を行く。

「か……ッ!?」

『そのまま死ね』

 根を振り上げ、OOの体が上空に放り投げられる。

『Knight Charge……Pierrot Drive』

 巨大な光弾が放たれる。その攻撃をガードしようとマテリアキーを差し替えようとするが……。

(間に合わねぇ……ッ!)

「先輩っ!」

 だが、OOがその光弾を受けることはなかった。

『ハ、ハハハッ!戦場で情けなどを持ったバカの筆頭だな貴様は!!』

 ミストOOが、OOを庇うようにして攻撃を受け止めたからだ。

「……あぁ。その通りだな。ミスティ、テメェは何やってんだ?戦場で他人のことなんて気にしてんじゃねぇテメェのことだけを心配しろ」

 OOは冷たい言葉を吐くが、その眼と怒りはピエロに向けられていた。

「……それじゃ、ぶっ倒させてもらうぜ」

『Materia Breaker!』

 OOの親指がマテリアブレイカーのボタンを押す。それがベルトに滑り込まれようとした瞬間、上空から落とされた三本の剣が、黒薙の手元からそれを弾き飛ばした。

 

 

「ったく、あのクソ野郎……赤萩には手を出すなって言ったろうが……」

 その頃、OOたちが戦っているそこの、すぐそばに位置する高層ビルの屋上から、牧瀬は地上を見下ろしていた。

「……ッ、だいぶ危うい状況らしいな、……仕方ねぇ。ここは救いを差し伸べてやるとするか」

 そう呟くと、牧瀬は屋上から地上めがけて飛び降りた。

「ギャハッ!これこれこの風!空気抵抗サイッコー!!」

 空を切りながら、牧瀬は叫ぶ。直後に、右手のレプリシューターにマテリアピースを挿し入れ、その引き金を引いた。

「解錠ォォォォォォっほォォォォォォォォォォい!!!!」

『King Charge……Open“Crown”』

 空を切り裂き、『王』は下界に君臨する。

 

 

 ドスン!!と轟音が鳴り響き、アスファルトにクレーターが出来上がる。その中心でスーパーヒーロー着地を披露するのはクラウン・シャトランだった。

「テ、メェ……!いいぜ、相手が誰だろうと……」

『あ!?いやいや違う違う俺は今はお前と戦う気はないぞOO!!』

 それを見たOOが地面に落ちたマテリアブレイカーを拾い上げるが、クラウンは必死に否定した。

『あー、何つーか……助けに来てやったぜ、OO』

 クラウンはぎこちなく笑うと、ピエロに剣を向けた。

「……なんでテメェが僕を助ける?ンな理由どこにもねぇだろ」

『……こいつらは王様である俺の命令に背いた。家臣の反乱を鎮めるのは俺の仕事だからな。……それに、赤萩亜矢が今危険な状態にある』

 クラウンはそう伝えると、OOに対して振り返り、

『行け!放っておくと大変だぜ!!』

 黒薙の背中を押すように叫んだ。

「チッ、何がどうなってるか知らねぇが……ここは任せた!ミスティ行くぞ!!」

 


 

「はぁ……はぁ……や、だ……私、こんなことしたいわけじゃないのに……!」

 倒れ臥す男を見下ろしながら、亜矢は泣き叫ぶ。

「うッ……あァァッ!!」

 亜矢の脳内に蝕むような痛みがリフレインする。次の瞬間には、無意識にレプリシューターを構えていた。

「あァッ、あァァァァァァァッッ!!!!」

『Queen Charge……Open“Hornet”』

 絶叫とともに、亜矢の体が毒々しい、蜂の鎧に縛り付けられる。

「ひィッ!?怪人だァ、逃げろォ!」

『……消えろ。全部、消えろッ!!』

 怪人を目にし、逃げ惑う生徒たちだったが、ホーネットはそこに飛びかかり、毒針で次々と倒していく。

「……う、そ。嘘よ。嫌だよ……なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ……ッ!!」

 直後、ホーネットの変身が解かれ、再び意識が戻る。もう嫌だ、いっそ死にたいと亜矢は思うが、救いを差し伸べるものなどはいない。

「……赤萩さん?大丈夫!?こんなところで一人で……怪我とかしてない!?」

 そんな中、ふと通りかかった朱鷺澤が、亜矢に駆け寄った。

「怪人でも出たの?待っててね赤萩さん、今黒薙くんを……」

 言ってからハッとしたような顔をする朱鷺澤だったが、今の亜矢には、朱鷺澤のことを気にしていられる余裕などどこにもなかった。

「……れて。私から、離れて……ッ!!」

「え?」

 直後、亜矢の意識が消える。濁ったような眼の亜矢が、朱鷺澤の額を打ち抜いた。

「…………赤萩、さん?」

「うゥ、あァァァッ……ァアアッ!!」

 心配するような眼を向ける朱鷺澤。しかし、亜矢は言葉を返さない。朱鷺澤へとレプリシューターの銃口を向け、慟哭する。

「……ッ!?嘘……赤萩さん、なんで…………」

 亜矢の体がホーネットへと変わり、朱鷺澤は困惑の声を漏らす。

「まさか、この人たちって……!?」

 倒れている生徒たちとホーネットを交互に見ると、朱鷺澤は冷や汗を浮かべた。

「……で、でも!ぼ、僕は知ってるよ!!君がこれを……や、やりたくてやってるんじゃないって!!君だって本当にこんなことしたいわけじゃないんだよね!?」

 足を震わせながら、朱鷺澤はホーネットに詰め寄る。

『…………アンタが。私の何を知ってるって?』

 しかし、ホーネットの答えは冷たい。目を見開いた朱鷺澤に、ホーネットの毒針が迫る。

「…………ッ!!」

 逃げようとするが、遅い。だが、まさに毒針が胸を貫こうとしたその瞬間──。

「…… させるかよ。友達まで傷つけさせちまったら、もうあんたを救えなくなるだろうが……ッ!」

 黒薙が、その毒針から朱鷺澤を守った。

「黒薙、くん……?」

「悪りぃ朱鷺澤。今赤萩さんは見ての通りヤベェ状況だ。お前の説得も、僕の説得も届くわけねぇ……だから、頼む。今は下がっててくれ」

 黒薙は朱鷺澤に頭を下げると、その右手で受け止めていた毒針を無理やり引き抜いた。

「大丈夫、なの……?」

「安心しろ、僕には抗体がある。この程度……ちょっと痒いくらいだ。いいから行け朱鷺澤」

 黒薙が言うと、朱鷺澤は走り去った。

「さて……赤萩さん。今言葉が通じる状況か?」

『………………』

 ホーネットは答えない。黒薙はため息を吐くと、ドライバーを取り出して言った。

「ダメか。……それじゃ、今はとりあえずあんたを助けるとさせてもらうぜ」

『………………どいつもこいつも、私の気持ちなんて知らないくせに……ッ!』

 ホーネットは怒りを帯びた目で黒薙を見つめる。

「そうかよ……確かに僕はあんたの気持ちなんて知らねぇ。けどな……大事な友達が怪人なんかになっちまって、心配すんなって方が無茶じゃねぇか?朱鷺澤だってあんたのことを心配してるんだ、だから……」

『うるさい……!私の邪魔をするな……ッ!私の邪魔をするならたとえアンタだろうと……ッ!』

 もう片方の腕の毒針を黒薙に向けるホーネット。それを見て、黒薙はドライバーを装着した。

「…………あんたが何を考えてようがそんなことは僕の知ったこっちゃねぇ。僕は僕の考えのままに動くだけだ。……あんたが、僕の友達のあんたがそんなんだと、こっちも気が気じゃねぇんだよ!!」

 マテリアキーを構えながら、黒薙は叫ぶ。

「だから、僕は今からあんたを助ける!僕の考えで、あんたの考えを打ち砕く!!行くぞ赤萩さん、失われた時間の力、見せてやる!!変身ッ!!!」

 レバーが倒される。決意を込めた瞳を仮面で覆い、黒薙颯斗は、目の前の敵に、友人・赤萩亜矢に挑む。

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