仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第23話「燃ゆる想いと『少女』の涙」

「行くぞ赤萩さん、失われた時間の力、見せてやる!!変身ッ!!!」

『Open! Reclaim Lost Time! Time OO!』

 黒薙はOOへと変身し、オブリビオンセイバーを片手に亜矢へと向かう。

『……おっとぉ!赤萩亜矢さんを逃がされちゃあわたしたちが困るんですよねぇ!』

 だが、突如として現れた怪人が二人の間に割り込むと、そのままホーネットに灰色の煙を浴びせ、退却させた。

「テメェ……初めて見る顔だな。あの状況の赤萩さんを逃がすとか……そんなに僕にブチ殺されてぇのか?」

『それはイヤですよぉ!わたしも命は惜しいですもん!!』

 ひひっと引きずるような笑い声で、怪人は飛び回る。

「だったらさっさと赤萩さんを連れて戻って来い三下、さもなくば死ね」

『おやおやぁ、最近の執行衛兵さんは怖いですねぇ〜……でもぉ、今のままのせんぱいじゃわたしには勝てないと思いますけどねぇ?』

 苛立ちを隠そうともせずに詰め寄るOOだったが、その一閃は逆方向に放たれた怪人の攻撃に打ち消された。

『いま赤萩亜矢さんを手放す気はありませんけどぉ、せんぱいがわたしに喧嘩を売りさえしなければこっちもせんぱいには手を出しませんから安心してくださぁい』

 そして、怪人はそう告げると、自らの姿を煙に隠し……OOが気付いた頃には、もうその場からは逃げ去っていた。

 


 

『黒薙ッ!今どこにいる、亜矢がどこに行ったか知らねぇか!?』

「赤萩陽希……悪い、さっきまで目の前にいたんだが……変身した途端に知らねぇ怪人が現れてどっかに飛ばしちまった」

『クソッ……とにかく執行衛兵の本部まで戻ってきてくれ!!』

 亜矢を取り逃がしてから、オブリビオンランサーに跨って亜矢を探そうとした黒薙のもとに、赤萩から電話がかかってきた。

「今向かう。……クソッ、なんで赤萩さんばっかりがこんな目に遭わなきゃならねぇんだよ……ッ!」

 黒薙は怒りをむき出しにしながら執行衛兵本部へと向かった。

 

 

「まず情報を共有しましょう。赤萩先輩が会った怪人は亜矢先輩が今菱杖の能力を受けて苦しんでいると言った、いいですね?」

「あぁ。……クソ、俺がもっとしっかりしていれば亜矢を助けられたのに……ッ!」

「あんただけのせいじゃねぇよ。僕にも責任の一端はある。……僕にあの怪人を倒せるだけの力があれば。もっと言えば赤萩さんが菱杖に攫われるところから、僕が明星学園にいりゃ良かっただけの話だ」

「そもそも俺が菱杖に付け込まれなけりゃ……」

「自己犠牲がかっこいいと思ってるヒーロー気取りのそこのバカども二人、いいかげんその不毛な責任の引き受け合いやめませんか」

 このままでは埒があかないと判断したのか、ミスティは二人の会話にもならない会話を切り上げさせた。

「それで、先輩が会ったって怪人は亜矢先輩を逃がされると困ると言った……つまり、連中は亜矢さんに何か役割を見出している……ことになりますよね」

「ンな猿でもわかることをいちいち確認しなくていい、相変わらずの確認フェチだなお前も」

「まぁ、それが私ですからね」

 ミスティの推察を切り捨てる黒薙だが、ミスティはのらりくらりとそれを躱した。

「なぁ、一つだけ聞いてもらっていいか?」

 カタカタとキーボードを叩く音以外には雑音の存在しない沈黙の中、赤萩が口を開いた。黒薙もミスティも答えない。ただ、聞いてやらんでもないと態度で示した。

「……頼む。今アイツがどこにいんのかも分からねぇのにこんなこと頼むのもおかしいと思うが……アイツを、亜矢を助けるために、お前らの力を貸してくれ!」

 赤萩は叫ぶ。しかし、二人は少しばかり驚いたような表情を浮かべた後、揃って呆れたようなため息をついた。

「ハァ?……馬鹿かあんた?今更ンな当たり前のこと頼んでんじゃねぇよクソが、時間割いて損したわ」

「本当ですよ赤萩先輩。馬鹿なんじゃないですかあなた?そんなこと頼まれなくても……私たちは亜矢先輩を助けるためにここに集まってんじゃないですか」

 まぁ、とミスティは続ける。

「私にやれる全力を出し切ってでも助けてみせますよ。……私も、亜矢先輩が苦しんでるのは見たくありませんから」

 チラリと黒薙を盗み見ると、ミスティはさらりと言ってのけた。

「と言っても、まず亜矢先輩がどこにいるのかからなんですけど……千智ちゃん、まだ反応はありませんか?」

「あ、私っすか?残念ながらないっすね……ほんと、どこに行ったんだか…………」

 パソコンと睨み合う有栖川はクマを浮かべながら答える。

「ん?待てよ……いや待てミスティ!あるぞ!一個だけ心当たり!!」

「なんで今の今まで思い出さないんですか先輩?」

「いや、ンなこと言われてもよ……」

 ふと、あることを思い出して、黒薙は発言したが、ミスティには冷たい視線を向けられてしまった。

「ただ……もし赤萩さんがあそこにいるとするなら、まずは僕だけに行かせてほしい。危なくなったらすぐ知らせるから……頼む」

「もともとお前らを巻き込んじまったのは俺だ。それくらい許すよ……だから、絶対に助けよう」

 思い出した場所は、黒薙にとっても特別な場所だった。だからこそ、ついワガママを言ってしまったが、それを知ってか知らずか、赤萩は許容した。

「サンキュー。……恩に着る」

 


 

「よう、赤萩さん……さっきも聞いたと思うが……今、話はできる状況か?」

「く、ろなぎ……?やだ、近寄らないで!!」

 黒薙が向かったとある場所には、やはりと言うべきか、亜矢がへたり込んでいた。声をかけてみるも、怯えたような目で対話に応じようとはしない。

「……そうか。理性はあるみたいで助かったよ。……僕もあんまりあんたを傷つけたくはない。だから一つだけ聞かせてもらうが……そこまでして僕を拒む理由を教えてくれないか?」

 黒薙は、出来るだけ感情を押し殺して言う。

「……わ、たしは。私は!多くの人を傷つけた!!何の罪もない人たちに、危害を加えたの!!そんな私が……今更救われていいわけないじゃない!!」

 大粒の涙をこぼしながら、亜矢は叫ぶ。その亜矢の姿は、やけに衰弱して見えた。

「……なぁ、赤萩さん。こんなこと言っても気休めにもならねぇかもしれねぇけどさ……あんたはただ操られてただけだろ?なら……」

 黒薙は亜矢のそれを否定する言葉を並べる。

「……確かに、はじめて怪人になったのは私の意思じゃなかった。でも、怪人になる回数が重なるにつれて、全てをぶち壊したいって思うようになっていったの……アンタは、私のことなんて何も知らないからそんな甘いことが言えるのよ!!」

 しかし、亜矢はそれに対し、さらなる否定を重ねる。

「そもそも、怪人になったことがきっかけですらなかったかもしれないわね……私はもともと、この腐った街が、誘宵学区が大嫌いだったの。人の脳みそをいじくり回して、ランク付けして……他人の人生を滅茶苦茶にして。私が怪人になったのは操られたからじゃない。むしろ、菱杖は私の中に眠ってた欲望を……この街をぶち壊したいって感情を、解放させたと言ってもいいわ。……いけ好かない奴だけど」

 冷徹な目で、亜矢は語る。黒薙は以前、亜矢が『私は高位能力者が嫌いだ』と言っていたのを耳にしたことがあるが──その要因も、誘宵学区の構造から生み出されたものなのだろう。

「赤萩さん……確かに僕もこの街は大ッ嫌いだよ。誰かの犠牲で骨組みを作って嘘の張り紙で覆ったみたいなこの街が大嫌いだ。こんなクソみたいな街のクソみたいな仕組みのせいで妹は事件に巻き込まれるし執行衛兵とかいうクソみたいな機関のせいでろくに疲れも癒せやしねぇ」

 黒薙は返す。諦め混じりの肯定。逃れられぬ常識でも説くかのように、言葉を並べた。

「けどな……この街で出逢えた友達がいた。一緒にバカやって騒いで怒られて……そんな普通の青春を送らせてくれる仲間がいた!牧瀬に早見に朱鷺澤……そして赤萩さん、その友達の輪の中にはあんたも含まれてるんだよ!!」

 真っ直ぐな瞳で、亜矢を見つめる。

「ッ、それがどうしたのよ……ッ!そんなもの私には関係ない!!たとえ全てを犠牲にしてでも、私は私のやりたいようにこの街をぶち壊すだけよ!!」

「そうしたいと思うことは否定しねぇよ……ただ、一つだけ教えてくれ。なんでそんなに誘宵学区をぶち壊すって昔からの夢みたいに言いながら泣いてんだ?」

 必死で自分が誘宵学区を壊したいと叫びながら、哀しそうな瞳から一筋の涙を流す亜矢に、黒薙は優しく問いかけた。

「ちが……っ!泣いてなんかない!!ふざけるのも大概にしなさいよ!!」

「……ははっ、やっぱあんたにはそうやって顔真っ赤にしてプンスカしてんのが一番似合ってるよ!だから……怪人の力を手放してくれるとこっちも嬉しいんだが?」

 真っ赤になって泣いていた事実を否定しにかかった。

「そんなの、無理に決まってるじゃない……!私はもう引き下がれない!!ここまで来た以上、最後までやり通すしかないのよ!!!」

「チッ……最悪の覚悟を決めやがって……ッ!ならいいぜ、当初の予定通り殴り合いで決着つけてやろうじゃねぇか!……と言いてぇところだが、ここで暴れるのは流石に気が引ける。表出ろ赤萩さん!」

「言われなくても……!」

 


 

「たまには、こういうのも面白くてアリですねぇ」

『悪趣味ですねぇせんせい?赤萩亜矢さんにちょっとだけ能力をかけて自分の意思のように思い込ませるってやつですかぁ?』

「いえいえ違いますよスキャンダル?私はあくまで彼女の背中を押しただけです……と言っても、その先は断崖絶壁ですがねぇ!!」

 一方、菱杖は監視カメラ越しに亜矢の姿を見て、恍惚の笑みを浮かべていた。

「あぁなるまで追い込んだのはワタシです!えぇ、そうですとも!!ですがあそこまで吹っ切れようとは誰が想像したことか!!!彼女にはその素質があると信じていましたよ!!!!」

 その下卑た笑みとともに、菱杖は右手のワイングラスを床に落とした。パリン、と鋭い音ともに、ガラスの破片が辺りに舞う。

「彼女はもはや、落とされて地面に触れる直前のこれと同じです!!あとは砕け散るのを待つのみ!!利用などそれからしてやれば構わないのです!!!さぁ見せてください赤萩亜矢!!!その勝気な瞳が絶望と喪失に濡れる様を!!!!」

 菱杖は高らかに嗤い、その頬に触れたワインを舐め取った。

「…………ところでクロージャー。赤萩亜矢が変身してから、どうやら私の恋人が体を壊しているのだが、知らないかね?」

 そこに、静かな怒りを携えた草壁が現れる。

「そんなこと貴方には関係がありませんよねぇプレデター。死にたくないなら余計な詮索はしない方が身のためですよ?」

「…………貴様は、藤子のホルス過敏症を治す代わりに私に力を貸せと言ったはずだろう?」

 蛇のように草壁を睨みつける菱杖。その言動に、草壁はあることを感じ取った。

「でも信じてはいなかったでしょう?……そうでもなければ、秘密裏に裏にワタシたちの情報を流すわけがありませんからねぇ?いくら貴方が賢い生徒と言えども、仮にも教師として日常に潜伏していたワタシを出し抜けるなどと思ってはいませんよねぇ?」

 菱杖は挑発的に笑うと、その掌を草壁の方へと向けた。

「今貴様が変身できないことは知っているさ。だからこそここに来たのだからね。……交渉は決裂だ、菱杖透流。貴様が力を与えた者に食い殺されるがいい」

 草壁は吐き捨てると、ホルスドライバーを装着し、右手にマテリアキーを構えた。

「おやおや、何か勘違いをされているようですが……ワタシは、別に変身しなければ戦えないわけではないんですよ!貴方と違って、ねぇ!!」

 直後、草壁が身体のバランスを崩して倒れる。酷く青ざめた顔の草壁を見下ろしながら、菱杖はその足で草壁の頭を踏みつけた。

「苦しいですか?苦しいですよね!?わかります、わかりますとも、えぇ!!なにせ酸素のない空間で人は生きられない!!ビークルは情けなくも向こうへ逝ってしまいましたが彼の置き土産はまだここにある!!」

 どういうわけか鮎川の能力と同じものを使用し、草壁から意識を少しずつ奪っていく。

「ははっ、まだ貴方にはワタシの駒として働いてもらわねばならないのでね……だから、逃げられるなんて思うなよ」

 菱杖の瞳が、草壁の心の隅から隅までを陵辱し尽くす。

「あ……ッ、やめろ、私に土足で踏み入るな……ッ!!」

「なるほどなるほど。貴方も相当な苦労をしてきたんですねぇ……なら、ワタシがその苦しみから解放してやりましょうか」

 菱杖の能力が発動する。意識が端から塗り替えられる感覚の中で、草壁は気を失っていった。

(やめろ……ッ、私はまだこんなところで終われない……ッ!藤子を救うまで私は止まれないのだよ……ッ!!)

 虚ろな意識の中で、草壁は声にもならない叫びを上げる。愛しき人にその叫びが届くなどありはしないが。

 


 

「ここなら……誰にも邪魔されないかしら。それにしても不思議ね……アンタと初めて会った時は、こうしてアンタと戦うことになるなんて思わなかったわ」

「こっちのセリフだよ……正直、悪りぃ夢ならさっさと覚めてほしいくらいだ」

「これが夢じゃないってことはアンタ自身が一番よく分かってるでしょう?」

「あぁ、残念ながらな……それじゃ、行くか赤萩さん」

 黒薙と亜矢が向かったのは、修復工事中のスタジアム。今はちょうど作業員もいないようで、二人だけがそこに佇んでいた。

「一応、もう一度だけ聞くが……本当にその力を手放す気はねぇんだな?」

「ないわ。……アンタがライダーになってすぐの頃、私が戦うのをやめてって言ってもアンタは聞かなかったんだから文句はないでしょ?」

「いや僕の頭ン中は今文句と後悔でドロッドロだよ。あんたがそれを気に留める必要もないけどな」

 黒薙と亜矢はしばし笑い合うと、互いに距離をとった。

「行くぞ赤萩さん……勝者だけが正義の戦いを始めようぜ」

『Time! Set!』

「前から思ってたけど……黒薙、その厨二病治したら?治す気がないなら……私がアンタのアタマ、治療してあげる」

『Hornet……』

 黒薙はOOドライバーを巻きつけ、マテリアキーを挿し込む。

 亜矢はレプリシューターを左手に持ち、マテリアピースを挿し込む。

 二人の視線は交差する。互いに、こんな対峙がしたかったわけではない。黒薙は友達としていつまでも笑い合っていたいと思っていたし、亜矢は友達を超えた関係になりたいとさえ思っていた。それでも、一度決めたからには貫き通すしかないのだ。

「変身ッ!」「解錠!」

『Open! Reclaim Lost Time! Time OO!』

『Queen Charge……Open“Hornet”』

 ライダーと怪人が向き合う。

「…………行くぞ」

『Oblivion Saber!』

 オブリビオンセイバーを片手に、OOは唸るような声を絞り出す。

『来なさい……私は、アンタを倒してその先へ進む!』

 対する亜矢──ホーネット・シャトランは右の毒針を撫ぜると、背から銀の翅を伸ばし、黒薙へと飛びかかった。

「遅ェッ!その程度で僕に勝てると思ってんじゃねぇぞ!!」

 上空から飛来するホーネットの攻撃を、さも読めていたと言わんばかりにOOは躱す。

『こっちの台詞よ……その程度で、私に勝てると思った?』

 しかし、ホーネットは一歩も退かない。その毒針が、OOの頭蓋を捉えた。

『私の毒は進化する、アンタが抗体を持たない毒を流し込んだら……どうなっちゃうのかしらね』

 その一撃を間一髪でオブリビオンセイバーが受け止める。次の瞬間、OOの手に握られたソレが錆びつき、ただの棒切れと成り果てた。

「嘘だろ、ンなモン食らっちまったら終わりじゃねぇか……ッ!」

 OOは一瞬前まで武器だったものを投げ捨て、ベルトに差し込まれたマテリアキーを換える。

『Spin OO!』

 風を巻き起こし、空へと舞い上がる。

『空は私のステージよ、アンタが輝ける場所じゃないわ!』

 ホーネットは追って飛び上がる。毒針は再びOOを狙う。

(そういや、ミスティがクラウンと戦った時、上手く受け流して戦ってたな……あいつにできて僕にできねぇわけがねぇよな?)

 迫り来る毒針を、OOはスパイラルスピアーで横に逸らした。

「やりづれぇが……いけなくもねぇか」

 それからはOOのペースだった。襲い来る全ての攻撃を流れる水のように受け流し、着々とホーネットの体力を奪っていく。

『ハァ……ハァ……や、るじゃない黒薙……ッ!』

「当たり前だろ?あんたとは踏んできた場数が違うんだ。超えた修羅場の数がそのまま力になる。タメになるから覚えときな」

『言ってなさい……ッ!』

 疲れからか、動きが煩雑になるホーネットに対し、OOは軽快な動きを見せる。

「ようやくコツが掴めてきた、こっからはもう一撃も喰らわねぇからな?」

 


 

「このままホーネットを失うのは非常に惜しい……ならばいっそ、ワタシが少しだけ手を貸してあげましょうか」

 遠くから亜矢を見る菱杖が、乾いた瞳で言った。

 

 

『ッづゥ……ッ!あッ、あァァァッ!!』

「どうした赤萩さん!?……なるほど、そういうことかよ……あのクソ野郎、人の心ってモンはねぇのか!?」

 ホーネットが、呻くような喘ぎを漏らす。その蠕動を見て、OOは怒りを露わにした。

「ッ、待て赤萩さん!」

 慟哭とともに飛び立つホーネットを止めようと叫ぶが、その言葉は届かない。

「チッ、仕方ねぇか……来いオブリビオンランサー、赤萩さんを追う!」

 

 

「悪い赤萩陽希、赤萩さんを逃がした!今バイクで追ってるトコだ、データ送るからそっちの二人も頼む!」

 OOはオブリビオンランサーの通話機能を用い、赤萩らへ連絡を入れた。

「あッ!?」

 通話を終えた直後、ホーネットから放たれた無数の怪人。それが一斉に黒薙へと飛びかかる。バイクから振り落とされ、OOの変身が解除される。

「チッ、面倒な真似を……!」

「なんか困ってるみたいだにゃあアホ薙颯斗?」

 転がる拍子に口を切ったのか、血を吐き出しながら黒薙は悪態を吐く。聞き覚えのある軽薄な声が聞こえたのは、直後のことだった。

「話はだいたい聞いてます。……ここは僕らに任せて、彼女サンのこと助けてきたってや」

 奈菜々に続いて、下総が云う。

「……まぁ、そうなりますよね。めんどくさいですけど……赤萩さんがあのままだと、お姉様が、悲しみますから」

 ホルスシューターを組み上げ、双海はため息をつく。その表情こそ満更でもなさそうであったが。

「黒薙くん、あなたが行かなければ赤萩亜矢は本当の意味で救われません。……要するに、ここは私たちに任せなさいってことよ」

 そして、遠山が黒薙の背中を押した。

「分かってますよ……テメェら、ここは任せたからな!終わってから一人でも欠けてちゃ承知しねぇからな!!」

 黒薙は爽やかな笑みを浮かべると、再びオブリビオンランサーに跨り、ホーネットが飛んで行った方へと走り出した。

「ふむ。少し前までは人の話も聞かん小僧だったが……中々にエレガンスに満ちた顔になったじゃないか」

「おやおや〜、教頭先生もそんな顔するんすね〜??」

「そりゃぁ……幾つになっても、生徒の成長を見ることは教師の幸せであるからな」

 その後ろ姿を見て、サーブルを構えた剣持は笑った。

 

 

「遅いんですよ先輩、どこほっつき歩いてたんですか?」

「悪いミスティ、ちょっと怪人と接触事故起こしてた!」

「ったく……お前がいねぇと亜矢は助けられねぇってこと、しっかり自覚してくれよ」

 それから暫くして、黒薙たちは合流した。三人がそれぞれのバイクに乗りながら言葉を交わす。数刻のちに、ホーネットが降下を始めたのが目に入り、黒薙たちもスピードを上げた。

 

 

『ッウ、あァァァッ、がァァァァァァッッ!!』

 最近、開発が進められているという空き地に降り立ったホーネットは、苦痛のままに雄叫びを上げる。

「ただ倒すだけじゃ救いにはならねぇ……何か手段はねぇか、黒薙?」

「ないこともねぇが……ひとまずはアレを治めるところから始めねぇとな」

「それじゃ行きましょうか……救うための戦いってやつ、始めましょう」

 三人は真剣な面持ちでドライバーを構える。

 それぞれの手に握られたマテリアキーのヘッドが回され、そしてドライバーへと差し込まれた。

『Time!』『Fire!』『Mist!』

 三人はそれぞれの思いを胸に、変身のための予備動作を取る。

「「「変身!!!」」」

『Open! Reclaim Lost Time! Time OO!』

『Open! Fire! Fire! This is The Burning Flame! “Flamer”』

『Open! Evolute Mist Blade! “Mist OO”』

 それぞれの武器を握り、三人は意思を言葉にした。

「見てろよクソ野郎……失われた時間の力、見せてやるッ!!」

「こんなふざけたことで亜矢を潰せると思ってやがるなら……そのくだらねぇ理想論、俺がこの手でぶち壊すッ!!」

「人の心を弄ぶ貴様を、私は絶対に許さない……始めましょう、限界のサリューを」

 


 

「亜矢!いい加減に目を覚ませ!お前はそっちにいていい人間じゃねぇ!!」

『うゥ……あァァ!!』

 まず、フレイマーがホーネットへと飛びかかる。両肩を掴んで揺さぶるが、薙ぎ払うような右足の蹴りを受け、後方へ飛び退く。

「見りゃわかるだろうが今の赤萩さんに言葉は通用しねぇと思った方がいい、っつーか今はあの攻撃を避けることに専念しろ!」

「言われなくても……!」

 身体中から蜂のようなミサイルを発射するホーネットに、OOたちは苦しめられていた。

「このままじゃ近寄れませんけどどうするんです?」

「どうにかするしかねぇだろ……ランク10のポテンシャル舐めんじゃねぇ!」

 舌打ちとともに、フレイマーは無数の熱線を発する。それが、飛来する蜂ミサイルの数々を撃ち落とす。

「チッ、まだ数が足りねぇか……ッ!」

「仕方ないです……久しぶりにあの技使いますか……!」

 ため息とともに、ミストOOはオブリビオンセイバーを構える。上空に向けて放たれた光弾は、いくつもの筋に分かれて降り注ぐ。

「あっつ!!テメェ僕まで巻き込むなっての!!っつーかまだクソ飛んでるしな!!」

「うるさいですね、文句があるなら自分でやってくださいよ」

「あぁやってやるよクソが!」

『Spin OO! Spiral Spear!』

 ミスティの挑発に乗るようにOOはスピンフォームに変身し、スパイラルスピアーにマテリアキーを差し込んだ。

『Spiral Pierce!』

 槍の穂先が宙を舞い、残った蜂ミサイルを全て撃ち落とした──が、直後、新たに蜂ミサイルが放たれた。

「あぁクソッ、埒が開かねぇ!!」

「こうなりゃ直接本体を叩くしかねぇか……行くぞミスティ!」

「えぇ、体借りますよ先輩!」

 絶えず襲い来る小さな脅威を躱しつつ、OOとミストOOは手を互いに伸ばす。

『Breaking OO……Spin Charge』

「「隙だらけですよ亜矢先輩……そろそろ、目を覚ましてください!」」

 緑の閃光がホーネットの頭上に飛び上がる。

『ッ、ァッ、ォォォォオァァアァア!!』

 だが、対するホーネットにその想いは届かない。振られた右腕が、差し伸べられたOOの手を跳ね除ける。

《言葉じゃダメだ……っつってもどうすりゃいいかなんてわかりゃしねぇけど》

「「わかってますよ先輩……!」」

『……Metal Charge』

 OOの右腕にグラビティナックルが装着された。

「「殴打療法ですけど……悪く思わないでくださいね!」」

『Gravity Fist!』

 重力の拳が、ホーネットの脳天を揺らす。しかし、まだホーネットは理性を取り戻さない。

『あァッ、あァァァ!!』

 そして、再び毒針がOOへと向けられる。

「「流石にそれ食らうのはマズいでしょう……!」」

『Oblivion Saber!』

 オブリビオンセイバーを片手に、その刺突の一つ一つを流れるように受け流す。

「「……今なら、いけるか」」

 一瞬、ホーネットの攻撃が止んだ。その隙をOOは見逃さない。ドライバーからマテリアブレイカーを取り外すと、それをオブリビオンセイバーに滑り込ませた。

「「ここからの一撃は先輩がやったほうがいいでしょうし、譲りますよ」」

 意識がミスティから黒薙へと切り替わる。OOは真剣な瞳で、ホーネットを、その仮面の裏側に隠れた亜矢を見据えた。

「「何回もこんなこと言いたくねぇけど、あんたがいない日常はなんかつまらねぇんだよ……だから、さっさとその呪縛を終わらせようぜ」」

 ホーネットの動きが止まる。亜矢が必死で抵抗しているのか、あるいは……。

『Material Attack! Oblivion Break Slash!』

 真っ黒な斬撃が、ホーネットを切りつけた。

 


 

『うッ……!!』

 しかし、ホーネットはまだ倒れない。

「「大丈夫か、赤萩さん……?」」

『……くろ、なぎ?私……あぁ……やっぱり、そうなのね』

 先程までとは打って変わって落ち着き払ったホーネットの振る舞いに、OOは安堵する。

『アンタが私を助けてくれたんだ……ありがと、黒薙』

「「礼なんていらねぇよ、あんたがそうして笑ってくれてればそれで……」」

『……でも』

 ホーネットの声色が暗く染まる。

『今も私の中では、どす黒い何かが渦巻いてるの……少しすれば、絶対に私はまたアレに飲み込まれる』

 その哀しみを帯びた声に、OOは言葉を返すことができなかった。

『だから、お願い黒薙……そうなる前に、私を、殺し(たすけ)て。アンタの思うままに、私を終わらせて』

「「……あぁ、わかったよ。僕の思うまま、あんたを救済し(おわらせ)てやる。だから……さっさと戻ってこい、赤萩さんッ!!」」

 直後、ホーネットの意識が反転する。

「勝ちの目は見えた、あとは亜矢の眼を覚ますだけか……いいぜ、燃えるじゃねぇか!待ってろ亜矢、今すぐ助けてやるからな!」

 フレイマーはレプリシューターを片手にホーネットへと飛びかかる。繰り出される毒針のことごとくを出現させた斧で跳ね除け、ホーネットへと迫る。

『ォ、にィ……ッ!』

「もう苦しまなくていい……お前は、もっと自由になっていいんだよ!!」

 真っ直ぐに伸ばされた拳から、フレイマーに迫る毒針。フレイマーは、燃え盛る拳を握ると、真正面からそれを打ち砕いた。

『ァ、めェッ……!』

「何がダメなもんか……俺の痛みなんざ、お前のソレに比べりゃ屁でもねぇよ!」

 微かな理性でフレイマーを止めるホーネットだが、彼の決意は揺るがない。

「俺はあの時、お前を助けられなかった!あの時も、あの時も!!だから今度こそ俺がお前を助ける!!もうこれ以上お前を傷つけさせないために!!」

『Material Finish! Fire Charging Strike!』

 フレイマーは飛び上がり、ホーネットに渾身の一撃を叩き込む。

『……ッ、がァッ!!』

 だが、まだ足りない。ホーネットの反撃を受けて、フレイマーは吹き飛ばされ、変身が解除された。

「「……ここからは、私たちに任せてください」」

「あぁ、頼んだ……!」

 次いでOOが前に出る。

「「亜矢先輩……初めてあなたに会った時、あなたは泣いてましたよね。先輩が亜矢先輩の制止も聞かずに戦いに行って」」

 蓄積したダメージからか荒くなるホーネットの攻撃を、ミスティカルレイピアで受け流しながら、OOは語りかける。

「「私はそれを見て決意したんです。先輩を倒して、私の支配下に置こうと。結局失敗してしまいましたけど……それもすべて、あなたの涙を見たくなかったからなんです。元の世界で私ができなかったことを、こちらでくらい成し遂げたいと、そう心から思えたからなんですよ!!」」

 片方だけ残った毒針を、ミスティカルレイピアが貫く。

「「だから、もう終わりにしましょう……これ以上、あなたの涙は見たくないッ!!」」

『First……Second……Third……Full Charge…………Breaking Time Strike……』

 赤と青の残像が、ホーネットの胸に突き刺さる。

『あァァァッ、あァァァァァァッッ!!!』

 それでも、まだ。振り払うような一撃が、OOを弾き飛ばす。

「「……ッ、まだです、こんなところで終われねぇ!そうだろ……黒薙颯斗!!」」

 だが、放物線を描きながら空を跳ねるOOは諦めない。ドライバーからマテリアブレイカーを抜き取ると、二人のシルエットが分岐した。

「もう僕からは何も言うことはねぇが……あんたは僕の友達だ、友達一人助けられねぇでヒーロー名乗るわけにはいかねぇよなぁ!?あぁそうだ、これは僕のエゴだ!!だからどうした!?ヒーローってのは自分勝手な救いを振りまくモンだろうが!!」

 ズザザ、と足の裏が地を滑る。

「この一撃で終わらせる!このクソッタレな連鎖を断ち切ってみせる!!もう誰も傷つかないように、ここで終わらせてやる!!」

 OOはオブリビオンセイバーを片手に走り出す。

『Material Finish! Oblivion Time Strike!』

 左足にエネルギーが収束し、OOは空高く飛び上がる。

「まだだ……赤萩さんを助けるにはこれじゃまだ足りねぇ!」

『Oblivion Time Crush!』

 今度は右手にエネルギーを集中させ、黒薙はそれを天高く突き上げる。

「これで最後だ、ヒーローの全力ってヤツをナメんじゃねぇぞクソ野郎がァァァァァァァァッッッ!!!!!!」

『Oblivion Break Slash!』

 マテリアブレイカーの力を得たオブリビオンセイバーが、ホーネットの鎧を切り裂いた。

 

 

「なっ……バカな!何故だ、何故ワタシの能力が効かない!?まさか……パラサイトの能力を無効化したというのか!?」

 一方、遠くからそれを見ていた菱杖は、倒れた亜矢に自分の能力をかけて起き上がらせようとするも、それができないことに驚きを示した。

「クソガキが……よくもワタシの道具を!ワタシが時間をかけて育て上げた道具をよくもォォォォォォォォォッ!!!」

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