第25話「旅立ちの『前夜』」
「あ〜、よく寝た…………ッ!?痛っっった、痛っっっっっっった!!!!!?????」
激痛とともに、黒薙の目が覚める。
「…………うるさい…………………………」
直後、ストンという音が黒薙の寝室に響いた。黒薙の絶叫のせいで半分目が覚めた澪が、半分眠った頭のまま手元にあったものを投げつけたのだ。
「ヒッ!?……おいおい、人に向かってカッター投げるやつがあるかよ…………」
痛む身体を無視して、黒薙は壁に突き刺さったカッターナイフを抜き取る。
「あ痛たたたた……何だこの痛み、筋肉痛か何かか……っつってもそんな激しく体動かしたのなんか草壁とやったときくらいしかねぇしもう4日も前だぞ……?」
歯磨きしながら、黒薙は漏らす。
「ふぃーっ、今何時だ……?……おっと、早く起きすぎちまったか」
顔を洗った後、時計を確認すると、針はまだ5時30分を指していた。そりゃあんな大声出したら澪も怒るな、と黒薙は納得した。
「……どう時間潰すかね」
用事までの時間を潰すべく、とりあえず黒薙は後輩に連絡を入れる。
『そろそろ修学旅行だけどなんか土産いるか?』
『木刀買ってきてください』
ミスティに送ってみたところ、早朝にも関わらず秒で返事が返ってきた。
「いや、木刀ってお前……たしかに京都は行くが…………」
「あつい……おはよ颯斗」
「おはよう亜矢。……悪りぃ、この暑さなら僕が迎えに行けばよかった」
「……気にしなくていいわよ?それよりほんっっっとに暑いしシャワー借りていい?」
9時。今日はおうちデート♡♡ってことでウッキウキで初めてできた恋人を家に招いていた黒薙であったが、想定外の暑さ。その時の気温は32℃、とてもではないが6月に入ったばかりの暑さとは思えなかった。
「……いや、別に構わねぇけど、着替えとかってあんのか?」
「この暑さだとキツいかなって思ったから一応持ってきたわ……悪いわね、ちょっとシャワー浴びてくるから待ってて」
亜矢はあまりの暑さからか、さながら酔っ払いのような足取りでバスルームへと向かった。
「……ふわぁよく寝た…………ん?え?あぁっ!?」
亜矢がバスルームの戸を閉めた直後、ちょうど起きてきた澪が顔を洗おうとバスルームの戸を開けた。つまりそれは服を脱いでいる最中の亜矢と鉢合わせたことを意味するわけで。
「〜〜〜〜〜ッ!!!???澪ちゃ〜〜〜〜ん、ちょ〜〜〜〜〜〜っとお
「ちっ、違……っ!確かにあたし亜矢さんが来るのは知ってたけどまさかお風呂場にいるなんて……」
「言い訳は即ち死を意味するわ……スマホ持ちながら言っても説得力ないわコラァァァ!!!!!」
亜矢のドロップキックが炸裂し、澪の体がくの字に曲がる。吹き飛ばされた澪はそのまま黒薙へと直撃。黒薙は「ぶげッ」と間抜けな声を上げて三連後転をキメた。
「痛ってぇな何が起こっ……って亜矢テメェ何全裸で突っ立ってやがるおおおお前そんなははハレンチな…………」
「ばっ……バカ颯斗こっち見んじゃないわよ!!!!!ぶっ殺すわよ!!!!????」
「てっ、ててっテメェが見せてきてんだろうがアホ女ァ!ああ安心しろぼぼぼ僕は見てないから一瞬くらいしか……」
アグレッシブな動きで飛び出してきた亜矢に、黒薙は必死で両手で目を塞ぐ。だがそれは指の隙間からチラチラ覗き見る古典的なアレであった。
「ぴょッ!?目がっ、目がァァァッ!?」
故に、顔面に、亜矢によって投げられた得体の知れない直方体が直撃し、黒薙は視界を奪われることとなった。
「……ふぅ。それで?黒薙颯斗に、黒薙澪。私に何か言うことは?」
「「本当にすみませんでした」」
シャワーを浴び、普段のツインテールではなく下ろした髪の亜矢は、正座した二人を見下しながら言った。
「……まぁ、シャワー借りるなんて言ってなかった私も悪かったわ。でも澪ちゃん、なんでアンタスマホをこっちに向けてたわけ?」
「……それは誤解です。あれはただ単にスマホ見ながら歩いてただけで……その、亜矢さんの裸見てびっくりしちゃって」
「ふ〜〜〜ん……ま、いいわ。写真とか撮ってたら殺してたけど、別にそういうわけでもないし」
額に青筋を浮かべながら、亜矢は言う。
「…………で、颯斗。私の裸を見て、何か言うことは?」
「その、なんつーか……綺麗だな、って…………」
「は?」
亜矢のつま先が鳩尾に突き刺さり、黒薙は「ぐふッ」と漏らした。
「もっとこう……あるでしょ!?何なのよその反応!照れるか開き直るかしなさいよ!!なんで中途半端にカッコつけんのよっつーかそこカッコつける場所じゃねーと思うんだけど!?」
顔を真っ赤にして亜矢は怒る。
「ンだとテメェ僕なりに言葉選んだってのになんだその言い草は!?そんなにお望みなら照れながら開き直ってやるよヴァーカ!!もう一瞬くらいしか見えなかったけどめちゃくちゃエッチだったよ眼福でしたありがとうございましたこれで満足か、あァ!!!???」
「えぇそれで満足よバーカ死ね!!!私の裸見た代償は重いから覚悟しときなさい!!!!」
「あぁ覚悟してやるよどんな代償だろうとテメェの体より重いモンなんてねぇだろうがなぁ!!!!」
二人は顔を真っ赤にしながら言い合う。それを見て、澪はついこう漏らした。
「…………滅茶苦茶イチャついてるのに、全く羨ましくないのなんでだろ」
「…………それで、亜矢。ずっと前から渡そうと思ってた物があるんだけど……この流れで渡すのもなんかアレな気がするけど、いいか?」
「……まぁ、私がきた目的の一つがそれだし、貰っとくわ」
それからしばらくして、黒薙は隣の亜矢を見つめながら言った。
「ちなみにそれがこれになるんだが……その、だいぶ遅れちまったけど、誕生日おめでとう」
黒薙は自室からラッピングされたそれを持ってくると、亜矢に手渡した。
「その……えっと、なんて言えばいいかわかんないけど……ありがと、颯斗。……今開けてもいいかしら?」
「まぁそのくらいなら……ちょっと恥ずかしさはあるが……」
黒薙が頬を染めるが、構わず亜矢は包装紙を剥がしていく。
「……は、やと。まさか、これって…………」
「……いや、あの、前眠れないって言ってたから……今亜矢が欲しいものかどうかはわからないけど、その…………」
「……ばか。別にダメ出ししようって訳じゃないわよ。ただ……私が一回だけ言ったようこと覚えててくれたっていうのがどうしようもなく嬉しくて…………ごめん颯斗。そう考えるとなんか涙出てきた」
嬉し涙を浮かべながら、亜矢は言う。
「まぁ……僕はそれなりに記憶力はいい方だしな」
「へぇ……じゃあ、あの時私があそこにいるって分かったのも?」
「……まぁな。っつーか、自分で気付いてなかったとはいえ、好きな人から秘密の隠れ家なんて紹介された場所を忘れるはずもねぇよ」
黒薙は笑う。あの時、能力の影響を弱められた亜矢は、秘密の隠れ家で独りで泣いていた。そこに踏み入り、解放のための足掛かりを作ったのは黒薙だが……亜矢がそこにいると判断したのは、自覚していなかった恋心からだと。
「……ばか。ほんっっとバカ。そんなこと言われたらニヤけてアンタの顔見れなくなるじゃない……」
「そういうお前もなぁ……そんな嬉しそうな顔されたら僕だってついニヤけちまうよ。僕のニヤけ顔はクソキモいって評判だしとても恋人の前では見せられねぇ」
二人して赤面しながら、互いにそっぽを向き合う。
「……あ、そうだ。ねぇ颯斗、前颯斗に似合いそうな服見つけたから買ってみたんだけど……今、ちょっと着てもらっていいかしら?」
「服……?いや、別に構わねぇけど……なんかすげぇ嫌な予感しかしねぇんだが……」
それから少しして、気分が落ち着いたのか、亜矢が切り出した。
「私が選ぶ服に間違いなんてある訳ないじゃない……はい、とりあえず着替えてきて」
おう、と黒薙は渡された袋を持って自室へと向かった。
「……なッ、なんっっっじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!????」
「……ふッ、計画通りね」
直後、黒薙の部屋から響く絶叫。亜矢はニヤリとほくそ笑む。
「……ふッッッざけんなよテメェ!!!!!いくらテメェの頼みでも聞けるモンと聞けねぇモンがあるってことその身に愉快に爽快に理解させてやろうかコラ!!!!!?????」
「でも着てるじゃない……似合ってるわよ?」
亜矢から渡された服を着た黒薙は、怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながら亜矢へと詰め寄った。
「似合う似合わないの問題じゃねぇよコレ!だいたい……」
そう。黒薙がブチギレている理由は服のデザインがダサかったとか、そんなクソしょーもないモンではなく──。
「なんッッッで!!!僕が!!!メイド服なんか着させられてんのって!!!言ってんだけど!!!!????」
その服が、メイド喫茶などでもよく着られる類のメイド服であったからだ。
「いやぁ、颯斗って顔整ってるし似合うかなーって思って買ってみたんだけど、想像以上に似合ってるじゃない!!いいわよ颯斗!!アンタ最ッ高!!!」
「女装褒められても何にも嬉しくねぇけどな!!!???」
黒薙は涙を浮かべながら亜矢を睨みつける。
「またまたそんなこと言っちゃって……ツンギレ担当ご奉仕メイドはやてチャン、オムライス一つ頼めるかしら?」
「頼めねぇし頼めたとしても
「えぇ構わないわよ?だってアンタ……『そういう属性』って設定のコンカフェアイドルみたいなモンでしょ?」
黒薙の怒りが炸裂する。しかし、亜矢には効果がないようだった。亜矢の奔放な行動は、黒薙には効果抜群のようだが。
「うるさいなぁ兄さん、あたし勉強してるんだから静かにし……て…………」
あっ。黒薙の頬を一筋の冷や汗が通過する。黒薙の脳内には弁解の言葉が無限に現れては切り捨てられていく。そうこうしているうちに、澪の視線が近いものへと変わっていく。
「兄、さん……?なに、してんの…………?」
「いや、違うんだ澪コレは……ッ!」
「いや、うん……兄さんがそういう格好したいならあたしは止めないよ?最近はBLTだかなんだかが話題だしね??でもそれを亜矢さんにまで強要するのは…………」
待ち受けていたのは、果てしない誤解であった。
「ちッ、違ぇよなんでそっちに勘違いしちゃったのよテメェ!?強要してきたのはアッチ!あっちのクソに着させられただけで僕が望んだわけじゃねぇ!!」
「……人に責任を押し付けちゃダメだよ兄さん。大丈夫、あたしはそんな姉さんでも受け入れるから」
「誰が姉さんだテメェ僕はチンもタマも失った覚えはねぇんだが!?」
勘違いは、止まるところを知らない。
「はっはっは!姉さんって!!アンタもう女の子になっちゃいなさいよ、女の子のアンタも私は愛してあげられるわよ?」
「テメェがそう呼ばれる要因を作ったんだろうが赤萩亜矢ァ!!」
亜矢は腹を抱えて笑う。そんな姿に黒薙は怒りを吐き出すが、絶賛抱腹絶倒中の亜矢には届かない。
「はぁ……もう元の服に着替えてくるぞ。二度と着ねぇからな。マジで二度と着ねぇからなこんな服!フリじゃねぇぞマジでもう二度と着ねぇからな!!」
黒薙はプンスコしながら自室へと戻っていった。
「……え、マジであれ亜矢さんが着せただけだったの?」
「えぇマジよ?澪ちゃんは颯斗のことをなんだと思ってたの?」
「いや、兄さん割と変人なので……」
「それは……否定できないわね……」
辛辣な澪に思わず亜矢は笑う。
「うわッ!?いやァァァァァァァァ!!!」
「……?兄さんどうしたの……ってうわぁぁ近寄らないで兄さん!!」
「うるせぇこりゃ逃げるに決まってんだろボケがスプレーどこ置いたっけ!?ってかなんかデケェしアイツら絶対ゲノムス=リボーあたりが仕込んだろアレェ!!」
「見た覚えないしないんじゃない!?やめてマジで近寄らないでぇぇ!!」
直後、再び響いた黒薙の絶叫。不審に思って澪が黒薙の部屋へと近寄ったが、それは失敗であった。中から大量の黒くてデカい虫が這い出てきたからだ。
「バカッ!私を置いてくんじゃないわよ……ってかこれスプレーでどうにかなる問題でもなくない!?」
黒薙たちは全速力で家を抜け出し、鍵を閉めて、ひとまずは黒い虫を閉じ込めることに成功した。
「あぁ……こんな服のまま外行きたくねぇけど仕方ねぇか…………」
そのまま、一行はスプレーだのバルサンだのを買いに出かけることとなった。
「あれ、先輩じゃないですか…………?」
「No, I'm not your senior」
「ガバガバ英語で誤魔化してもダメですよ先輩……いくら変人の先輩でもまさか女装癖まであるとは思ってませんでした……」
目当てのものを買った帰りに、黒薙たちはある女子生徒と遭遇した。ミスティだ。
「は〜、この人がミスティの言ってた先輩〜?なんって〜か、奇抜なやっちゃな〜」
「初対面の相手に奇抜とは言ってくれるじゃねぇかテメェ誰か知らねぇけど!」
「あ〜あたし〜?ミスティの無二の親友とでも覚えてくれれば万事オッケーね〜」
そばかすの目立つ少女は下卑た笑みで黒薙を見ると、その姿をスマートフォンのカメラに収めた。
「あっコラテメェ何しやがる!!」
「や〜面白かったからつい?安心しなされ明日には消すよん」
「……こういうヤツなんですよ先輩。私もニヤけ面こいつに撮られましたから」
ミスティは哀愁漂う笑みで言った。
「お前と似て性格の悪い女だなオイ」
「私の性格の悪さが誰に由来するものか分かって言ってるならギャグセンスありますよ先輩」
黒薙とミスティがバチバチに火花を散らす。直後、二人の携帯が爆音を鳴らした。怪人の出現を意味する音だ。
「……チッ、めんどくせぇ!亜矢、澪!どっか喫茶店かなんかで時間潰しててくれ!流石にお前らにG退治任せるのは気が引ける!」
「はいはいわかったわよ……えっと、あの……そ、そこのレーツェルのお友達は……」
「あたし〜?ま、行くよん♪適当に時間潰したいしね〜?」
黒薙とミスティは互いにどこからか召喚したバイクに跨り、怪人が出たという場所へと向かった。
向かった先はいつものスタジアム。毎度毎度ここに怪人が現れている気がするが気のせいだろう。
「いるな、四人くらい」
「いますね、四人くらい……というか先輩そのメイド服でバイク乗り回すの結構似合ってますよ」
「黙れ死ねクソ女すり潰すぞ」
「褒めただけじゃないですかクソ野郎タマ潰しますよ」
「あ?」
「あぁん?」
バカ二匹は怪人の前だってのにクソしょーもない喧嘩をおっぱじめる。
「いやお前らマジで何やってんだよ……特に黒薙、お前の格好に色々言いてぇことがあるんだが……」
遅れて到着した赤萩も、黒薙の奇天烈極まる格好には絶句するばかりであった。
「うるせぇなテメェの
「俺にまで飛び火させんじゃねぇよクソが火ィ飛ばすのは俺の専売特許だろうが顔面焼き潰すぞ!?」
「知らねぇよンなクソくだらねぇアイデンティティなんざ捨てちまえボケ!!」
クソクソうるせぇクソドアホどもは、二対一の体制でクソオブクソかつクソクソアンドクソな口論を繰り広げ出した。
『あッ!?先輩なんかこっち見てるヤローどもがいますぜ!?」
『あの面子……まさか仮面ライダーか!?』
『ここであったが百年目ェ!野郎ぶっ殺しゃァァ!!』
四人の怪人が黒薙たちに気がつく。似たり寄ったりな動きで飛びかかってくるのを見て、三人は舌打ちすると、そのままドライバーを構えた。
「邪魔だボケ女にボケ義兄!ブッ殺すぞ!」
「誰が義兄だクソ野郎てめぇなんぞに妹はやらん!!」
「そうです亜矢さんは私にレズレイプされてアンアン言うのがお似合いなんですよ!!」
「「調子に乗るな青二才がッ!!」」
一転攻勢、男二人の蹴りが腹に炸裂し、蒼い女は宙を舞う。二人の視線に、もはや怪人どもは映っていなかった。
『待て待て待てェい!俺たちを見過ごすつもりか仮面ライダーども!?俺たちは繊細なんだぞ!?無視されたら泣くぞ?すぐ泣くぞ??絶対泣くぞほぉ──ーら泣くぞ???』
「チッうるせぇな邪魔すんじゃねぇテメェら全員ミスティブッ殺すついでにここの地下深くに沈めてやるから覚悟しとけ!!」
黒薙はマテリアトリニティを右手に、マテリアブレイカーを左手に持ちながら叫ぶ。
『待ちやがれ仮面ライダー!俺たちは普通にお前たちと戦う気は無いぜ!お前たちが俺たちの言った条件通りに戦えば民間人に手を出すのは勘弁してやる!!』
「あァ!?テメェ何言ってやがるンなアホな言い草聞く奴がどこに……」
「何ですか場合によっては聞きますよ」
「いたァ!?テメェマジで使えねぇボケ野郎だなそこは黙ってアイツら全滅させるのが僕らのやり方だろ!?」
「先輩一応ヒーローって区分なのに発想が基本ゲスなんですよゴミが!二十回くらい死ね!!」
ミスティは口汚く黒薙を罵倒すると、怪人たちの目の前にちゃぶ台を置き、人数分の座布団を敷いてそこに正座した。
『聞いてくれるのか、俺たちの悩みを……!?』
「えぇ聞きますよ。クソみたいな悩みだったらブッ殺しますけど」
お茶をすすりながらミスティは応える。
『あれは四月の初めだった……俺たちは能力に興味を持って外からこっちに転校してきた。そしてそこの一人だけが能力に目覚めたんだ。それは構わない。俺たちには才能がなかっただけだからな。……だが!!』
リーダー格と思われる怪人が話す。
『能力開発を一度でも受けたら甲子園に出場できないとはどういうことだ!!!俺たちは甲子園に出たかった!!!あわよくば能力で無双したかった!!!!』
「どうしましょう先輩、こいつブン殴っていいですか?」
「まだ待て」
『そんなある日、俺たちは胡散臭いオッサンと出会ってこの力を与えられた!!これは運命だ、俺たちはこの力で野球の頂点に立ってやる!!手始めに仮面ライダーども!!野球やろうぜ!!!』
「は?死ね」
「は?死ね」
「は?死ね」
『辛辣だなお前ら!?女に至ってはちゃぶ台までってアッツ!!アツァッ、アッツァァァ!!』
熱いお茶を浴びて、怪人は悶えた。
「……はぁ。それで、私たちを呼んだと?めんどくさ……私、修学旅行の、行きの電車用に、お菓子、買いに行きたいんですけど」
「っつーか怪人なんぞの言うことなんて無視してぶっ倒しゃ済む話じゃないっすか?」
怪人がちょっと凹んだそぶりを見せた。
「まぁぶっちゃけ僕も無視すりゃいいと思うし民間人に手ェ出す前に僕らで潰しゃいいと思ってるけどさ……」
「というか……あれ?野球って九人でやるスポーツじゃありませんでした?」
辺りを見回して、遠山が言う。
「そうにゃ……えっと今いるのはアホ薙颯斗にツェルパイ、怪人上がりに委員長にぶぶ漬け、有栖川に双海、あとあたしでしょ……一人足りなくにゃいかにゃあ?」
「あら、言われてみればそうどすなぁ……どないします?」
下総が銀髪を撫でながら問うと、有栖川はフッフッフフッフと笑いながらあるものを鞄から取り出した。
「こんなこともあろうかと持って来といたすよ!私が偶然キャンペーンで当たって貰ったからにはと思って組み立てておいたFigure-rise Standard 仮面ライダー
有栖川が声を高々に宣言すると、間髪入れずに赤萩が黒薙に問うた。
「……なぁ黒薙、こいつ馬鹿なのか?どこの世界にFigure-rise Standardを打線に組み込むバカがいるんだよ」
「打線にS.H.Figuarts®️を組み込むバカはどっかにいるって前ネットで見たが流石にFigure-rise Standardはなぁ……」
「あれで出てた全イキリオタクの嫁とも言えるあのキャラクター……なんでしたっけ、ポッピーの人間態みたいな名前してるアレの顔、単純に出来が悪かったんですよね……」
一人だけ何の関係もない話をしている気がするが気にしない。
「そこォ!有栖川さん割とメンタル豆腐なんすからね!!笑ってるけど心は泣いてるっすよ!!!」
「……もう、どうでもいいですから、さっさと、打順決めません?」
双海の言葉を皮切りに、全員が野球モードになり始めた。
「……ま、打順決めなんてクソテキトーで構わねぇって先人の教えに従わせてもらうか。どっかの赤い二号ライダーがそんなこと言ってた気がするしな」
「まぁ私も0号扱いらしいですしね」
「いや何の話してんだよお前ら……」
「そして決まった打順がこちらになるにゃ〜!」
1 下総右月(遊)
2 有栖川千聖(投)
3 赤萩陽希(中)
4 双海六花(一)
5 黒薙颯斗(三)
6 ミスティーク=レーツェル(二)
7 Figure-rise Standard 仮面ライダーSLINGER 駆動外殻カスタム(右)
8 遠山叶絵(捕)
9 銭谷奈菜々(左)
「……色々言いてぇことはあるがまぁいいか」
変身できるメンツは変身し、そうでないメンバーも怪人たちが用意したユニフォームに着替えて、それぞれ準備運動を済ませた後、黒薙は言った。
「それじゃ行くっすよ……キックオフっす!」
「それサッカーな」
「知ってるっすよ連中煽るためにやったんじゃないっすか、行間を読め行間を」
「読ませるように書かれてねぇ本文から行間読めって無理がねぇか?」
有栖川と黒薙のせいで締まらないが、どうやら試合は始まったらしい。
「先攻はくれてやるよ、僕とそこの青いパチモンにとっちゃここがホームだからな」
『その余裕、後で後悔させてやるわ!』
「できるもんならやってみろよ、反則上等の超人野球でテメェらまとめて捻り潰してやるからよ」
OOは中指を立てると、自らのポジションまで向かった。
「さーて、行くっすよ……食らいやがれメテオストライクッ!」
なんか必殺技っぽいのを叫びながら、有栖川はボールを投げた。
『フン……この俺様バット・シャトラン様にかかればその程度……だァりゃァ!!』
カキーン!と、怪人の振るったバットがボールを場外まで吹き飛ばした。
「ただの人間が投げたボールを怪人の力で打つのはルールで禁止スよね」
「超人野球はルール無用だろ」
「やっぱ怖いスね怪人は」
ネオ・ピッチャー有栖川千聖誕生の瞬間である。
ちなみにその後一回表が終わるまでにさらに三点取られた。
「四点の借りは僕が返します……ほな、行きますわ」
一番バッター、下総がバッターボックスに立つ。
『喰らいやがれ京都野郎……これが、怪人野球部ピッチャーのボール・シャトラン様ですぜ!?』
「この程度……効かへんわッ!」
怪人の豪速球に対し、下総はフルスイングでそれを打ち返した。……が。
「……すんません」
「安心するっす、あの軌道はある程度掴めたっすから……仇は私がとってやるっす」
塁にたどり着くまでにボールをキャッチされ、アウトを取られた。対して有栖川は意気揚々と向かったが……。
「ダメじゃねーか女鯱山てめぇ!」
「うるっさいっすよ!あんな速い球目では追えても体が追いつかねっす!」
案の定、空振り三振でアウトを取られた。
「んなわけあるか!……まぁいい。俺がなんとかしてやる」
フレイマーも意気揚々と向かったが……。
「ダメじゃねーっすか劣化版カミやん!」
同じく空振り三振。
「マジで体が追いつかねぇなアレ!疑って悪かった!」
そして攻守は入れ替わる。必死の防御でなんとか無失点(かつ無得点)に抑え三回裏。
「有栖川。僕の記憶違いでなければ次のバッターはあのプラモだったような気がするのだが?」
「私の操縦テクを甘く見るなっす……ちゃっかりホームラン決めてくるっすよ」
後ろからリモコンでSLINGERを動かす有栖川。飛んできたボールを打ち返そうと腕を動かすレバーを押すが……。
「あーーッ!SLINGERが木っ端微塵っす!!」
そもそもプラモに高速で飛んでくる球を打ち返すことなど不可能で。ボールが直撃し、SLINGERのアーマーを再現した赤いパーツが粉砕され、さっきまで命だったものが辺り一面に転がった。
「オイ審判!これどー見てもデッドボールっすよね!?」
『まーどう見ても死球ですがその……スクッwスクラップ一塁に置くんですか?w』
「あーいいっすよナメやがって置いてやろうじゃねーかクソ野郎が!粉々にしてやるから覚悟しやがれっす|信一郎《しんいちろう」!」
「いや信一郎誰だよ……」
なお、その後遠山、奈菜々、下総と三振。死球を訴えた意味はなかった。
「まずいな。ついに最終回まできたが、あれから一点も取れてねぇぞ……っつーか有栖川は何してんだよ……」
「SLINGERの最終調整っす、ちょうど付け替え用のパーツがあったんでそれ用に中身組み替えてるんす」
凝るタイプの有栖川は、白いパーツをSLINGERに装着していく。
「……皆さん一旦集合です。ここから五点以上取り返して逆転勝利のための作戦が浮かびました」
全員を集めて、遠山が言う。
「まず黒薙くんにクイズです。超人野球において既存の野球のルールは適応される、マルかバツか?」
「バツ。野球は詳しくないですけどそもそも普通の野球やる上でライダーだの怪人だのに変身するヤツはいないでしょ常識的に考えて」
「正解。そして私たちにはそれぞれ使える武器がある。例えば下総くんの能力ならアウトを取られずに送りバントもいけますし……」
それぞれのメンバー(SLINGER除く)の強みをかくかくしかじかと述べる遠山。この表現でなんとかなるんだから便利だよな、何がとは言わんけど。と、OOは内心で呟いた。
「よし……ほな、反撃開始と行きまひょ〜か」
そして黒薙たちのラストチャンスが幕を開けた。
(変身した僕や赤萩陽希でさえ打てない豪速球……となると、いくら能力を使ったとしても変身もしてねぇ下総たちじゃどう足掻いても打ち返せねぇ。が、ルールを守らず好き勝手やっていいって言質貰っちまったし、ここは僕がなんとかしてやるか……)
OOはトラインフォームに変身すると、マテリアトリニティのボタンを押した。
『Time Master!』
「オラさっさと投げろよ雑魚野郎!こっからはマジでゴボウ抜きでテメェら叩き潰してやるからよ!」
『言ってやがれクソ野郎!俺様の球はそう簡単には打てませんぜ!!』
OOの挑発に乗るように、怪人はボールを投げる。しかし、下総のバットに触れる直前。突如としてボールの速度が遅くなった。
『あれェ!?』
結果、下総を一塁まで走らせてしまった。
「次は私っすね……行くっすよ〜!」
ボールが投げられる。そのボールに対抗するかのように、有栖川は空中に小型の隕石を作り出した。彼女の能力『
『それ反則じゃねぇ!?』
「反則じゃないっす過程はどうあれちゃんとバットで打ったっすからね!ほらほらボール取らなくていいんすか一塁行っちゃうっすよ!?」
隕石で球速を落とさせ、バットで打つ。有栖川は舌を出しながら出塁する。
『オラッ今度こそ打たせねぇぜ俺の変化球くらいやがれ!』
怪人が投げたのはフォークボール。だが、赤萩は下から振り上げるように振るい、それを見事に上空へと打ち上げた。
「ハッハッハッ!さっきまでの勢いはどうした!?もうノーアウト満塁だぜ!?」
OOは両手を叩いて笑う。自分が力を使ってから勝ち越していると考えるとそれも当然か。
「……じゃ、行きます」
『ちょちょい待ていお前それバットじゃなくね!?』
「…………?公認野球規則によれば、バットは、滑らかな、丸い棒であることが条件、らしいですけど……これは、どう見ても、滑らかな丸い棒、ですが?」
『どう見てもライフルにしか見えねーが!?』
「いえ、これは、バットです。誰が、何を言おうと、これはバット以外にありえません」
『構えがライフルの構えでいやがりますが!?』
「最新の野球は、こうして、寝そべってやるもの、ですよ?」
『俺の知ってる野球じゃありやがりませんが!?』
双海はバッターボックスに寝転がると、ホルスシューターを構えて怪人を挑発する。
『ま、まぁいい……俺の必殺ストレートで今度こそぶちのめしてやりますぜ!』
怪人のボールが放たれる。それが減速する前に、双海はホルスシューターの引き金を引いた。氷の槍はボールを貫き、瞬く間に場外へと飛び去った。
「……場外ホームラン、一回表の意趣返し、ってヤツです」
双海は周囲に投げキッスを振りまきながら走る。四点を一気に取り返し、点差はゼロに舞い戻る。
『待ってください今のどう見ても反そ『Fire Charging Smash!』』
審判の怪人が明らかなルール違反を咎めようと口を開いたが、そこに戻ってきたばかりのフレイマーの必殺技が炸裂する。焼け焦げたままのたうち回る怪人を放置し、試合は続く。
「さぁ次は僕か……今度はこっち使ってみるかね」
『Spiral Spear!』
OOに打順が回る。OOはスパイラルスピアーをバット代わりに握ると、中指を立てて怪人を挑発した。
『さっきからお前ら……!』
ついに怒りが限界に達したのか、怪人は無数に分裂する魔球を投げた。
「……なるほどな、これ全部打ち返せば大量に点貰えたりしねぇ?」
一発目は見逃す。二発目も見逃し、あと一発というところで、OOは呟いた。怪人が投げのフォームに入った瞬間、スピンマテリアキーをスパイラルスピアーに挿入する。
「二回見た。そんだけやってこの僕が打ち返せねぇワケがねぇだろうが!」
『Spiral Pierce!』
OOの叫びとともに、穂先が射出される。空中を飛び回るそれは、無数に分かれたボールの全てを撃ち落とした。
「ハッ!見事なツーベースヒットだったろ!?ミスティここでミスったらテメェマジで恥ずかしいからな!!」
OOは、二塁から中指を立ててミストOOを挑発した。
「いいじゃないですかやってやりますよええ!ミスティちゃんの最強伝説をとくと見やがれって話です!!」
(と、偉そうに啖呵切ったのはいいものの……私はフルスイングで豪快にホームランを狙うガラでもないんですよね。相手のパワーを利用して受け流す……つまり、こういうことで)
投げられた豪速球を見極める。二発目の球が投げられた瞬間、ミストOOは左手をバットに添えた。
「これが、私の戦い方ですッ!」
そして、ボールを受け流す。──要するに、バントである。
『あァッ!?バントできるボールじゃねぇですぜ今の普通はァ!?』
「知りませんよバーカ死ね」
一塁から、ミストOOは中指を立てる。
「で、レーツェル先輩の番が終わったってことは、ついに私の最終兵器を使う時が来たってことっすね……見るっす!大急ぎでカスタムしたフォームチェンジバージョン!パーツ換装でSKULLにできる神仕様っす!いや〜23話めちゃくちゃ良かったっすよね!!」
「や、普通に知らにゃいが……」
「万年赤点女は黙れっす!このフルチューンしたSLINGER(プラモ)の強さは洒落にならねぇっすからね!!」
有栖川がバッターボックスに例のプラモ(中身は遠隔操作型ロボット)を立たせる。
『ふ、ふふ復活してもプラモごときに負ける俺様のボールじゃねぇですぜ!?』
先程までスクラップ同然だったものが復活し、驚きを隠せない怪人。そのせいか、球速は先程までよりは落ちていた。
「そんな遅ぇボール……我が家が誇る最強の信一郎(の変身態のプラモ)には屁でもないっすよ!!」
有栖川は叫ぶとともにリモコンのとあるボタンを押した。
「喰らいやがれっす!原作だとこの形態で使うと怒られてた大技ァ!!ビッグブラストォォ!!!」
超高圧のエネルギー弾が放たれる。ボールは場外まで吹き飛んだ。そしてSLINGER(プラモ)の左腕も反動で吹き飛んだ。さらには超速で吹き飛んだ左腕は有栖川の鼻に直撃。間抜けな断末魔と大量の鼻血とともに有栖川は気を失った。……とはいえ。
「ハハッ!場外ホームランで一気に三点ゲット、この時点で僕らの勝ちが決まっちまったみてぇだなァ!!」
OO、ミストOO、そしてSKULL状態であれば半永久的に使用できるとされているマックスダッシュを再現したであろう速度で走ってきたSLINGER(プラモ、絶賛左腕欠損中)がホームベースに帰り、黒薙たちの勝利が確定した。
「だがまだだ、この程度じゃ何べんもボコボコにされた怒りは治らねぇ!僕らの気がすむまで付き合ってもらうぜクソ野郎どもがッ!!」
もはやどちらが悪役かわからない様相を呈してきたが、OOの布告通り試合はしばらく続いた。ちなみに途中から飽きてきていた奈菜々や双海はもはややる気がないと言わんばかりにダラダラとバットを振っていた。
試合終了直後に、怪人たち四人は全員爆発した。中から飛び出してきたマテリアピースは豪快にも全部地面に突き刺さった。
「……話は懲罰房でゆ〜〜〜っくり聞いてあげますからさっさとお縄についてくださいね私の貴重な休日を潰しやがった罰は重いことを教えてあげますよフフフフアハハハハハッ!!」
怪人たちを絞めあげながら遠山は狂気的な笑みを浮かべた。絶対にこの人は怒らせないようにしよう。改めて誓った執行衛兵第六六支部の面々+赤萩であった。
クソギャグ回ですね、はい。
というわけで墓脇です。読んで字の如くクソギャグ回でした。
これを書いた当時、このクソギャグ回のためだけにツンギレ♡メイドはやてちゃんのイラストを描いたのを覚えています。えっちだね。
それにしても付き合い始めてからの亜矢さん、おもしれー女すぎるぜ。
後半は野球回ということでした。
ちなみに、数合わせとして登場したSLINGERさんは、pixivで連載されていた名作ライダー小説《link: https://www.pixiv.net/novel/series/1246862》仮面ライダーTRY!《/link》からのゲスト出演になります。
この野球回自体、TRY!の野球回のオマージュとなっている面が少なからずあるので、よろしければ読んでみてください。
さて、次回から本格的に修学旅行編が始まります。加速する夏のクソギャグ回時空をお楽しみください。墓脇でした。