「テメェは怪人の親玉だってのに、何食わぬ顔で僕たちと言葉を交わしてやがったってのか?なぁ、牧瀬!?」
黒薙は目の前の怪人──牧瀬の胸ぐらを掴みながら叫ぶ。
「あぁ──そうだが、それがどうかしたか?」
あくまで戯けたように笑う牧瀬の顔の中心に、黒薙の拳が叩きつけられる。牧瀬はノーバウンドで数メートル吹き飛んだが、直後に何もなかったような面構えで立ち上がった。
「俺は俺が楽しけりゃそれで良い。……ま、こうして正体を明かしてまでお前と話そうってのは、このままじゃ俺の楽しみが奪われるってことだよ」
せっかく楽しみにしてた修学旅行の邪魔されちゃたまらねぇからな、と牧瀬は笑う。
「……御託はいい。テメェが持ってる情報を全部吐け。あの透明な怪人の正体とか含めて、全部だ」
「いいぜ?……だがその前に、俺が赤萩をここに残らせた意味がわかる話からさせてくれ」
牧瀬の表情が変わる。
「俺は余計な前口上とかそういう論理的?ってのは苦手でな!……だから、単刀直入に結論から言わせてもらうぜ」
「俺は、赤萩亜矢の能力『
「……あ?待てよ、亜矢はランク0のはずだろ?それにダメージリンク、って……」
「そう急くなよ黒薙!『異能共鳴』に目覚めてからのお前だって能力を機械で測ったらランク0にしかならねぇだろうが!!」
牧瀬は笑う。
「さて宿主サマに質問だ!お前はこれまで生きてきて、何か不思議な力が自分にあると感じたことはあるか!?」
亜矢に視線を移し、問うた。
「……正直、何回かはあるわ。……例えば、私が颯斗にあの道具を渡した日なんだけど、私があれに触った瞬間に、これまで使い物にならなかったっていうあれが使えるようになったり……とか」
「そう!!無意識のうちに『痛傷共生』の力を──傷を治す『癒しのチカラ』を使ってたって訳だな!!!」
牧瀬は高らかに笑い、亜矢の発言を肯定した。
「……いや、待てよ。お前は僕が誘宵学区に越してきた時にはもうコッチにいただろ?まぁ多少の例外は身内にもいるし詳しくは知らねぇが……だとすりゃ、亜矢は何年も前からその力に目覚めてたってことになるだろうが」
「だからそう言ってんだろ最初から!!八年前から赤萩亜矢という女は『痛傷共生』に覚醒してたんだよ!!まぁ本格的にその力が芽生え始めたのはつい最近の事だがな!!!」
ひとしきり笑った後、牧瀬は本題を切り出した。
「……それで、なんだっけ?あぁ、あの怪人の正体について、だっけ?まぁ教えて困るモンでもねぇし教えるぜ……あれの正体は報道部の多々羅礼子、ゴシップを求める欲望をクロージャーに刺激されてああなったって感じだな!赤萩が打たれたのは内に秘めた欲望を解き放つビームとかそんな感じか!!」
「ちょっと待って颯斗、アンタさっき何もなかったって言ったわよね?」
「やめろやめろ思い出すなお互いに恥ずかしいだけだからやめろ」
「いやー凄かったぜ?宿主サマがあんなメス顔でおねだりするとこなんてなかなか見れたモンじゃねぇかr「よーし怪人がどうとか以前に今ここで引導を渡してやる」ぐへッ!?」
黒薙は余計な言葉を述べ始めた牧瀬に蹴りを入れ、黙らせた。
「……ま、怪人の力をアイツに渡したのはクロージャーだとは言え、元の種を蒔いたのは俺だ。責任くらいは取るぜ。……っつーわけだ。だから黒薙、お前の力を貸せ」
飛び蹴りを食らったにも関わらずノーダメージで起き上がった牧瀬は、右手を差し出しながら、声のトーンを変えて言った。
「……正直、テメェのことは信用してねぇ。だが、その目の色だけは信用できる。テメェが亜矢の能力の化身だってことも、テメェが僕に力を借りようとしてるってことも。……今回だけだ、今回だけはテメェと協力してやる」
黒薙は左手の中指を立てながら、差し出された右の手を握り返した。
「黒薙はともかくとして……どこに行っていたんだ、お前らは……」
「ギャハハ!悪りぃ悪りぃ!ちょっと便所行ってたわ!!」
「……コケて鼻血出たから陰に隠れて止めてたわ」
亜矢は頬を少しだけ紅く染めながら言った。ちなみにコケて鼻血が出たくだりは一同が集まっている場所に来る際に実際に起こったため嘘ではない。その後、牧瀬が亜矢に『痛傷共生』の力の使い方をレクチャーした結果すぐに治ったため、止めていたというのは嘘になるが。ちなみにその際、尋常でない量の血液が尋常でない勢いで噴き出したのだが、どうやら有栖川が言っていた「駆虫薬の副作用」は血流が過剰に促進されるというものらしい。
「……うーん。ほかのクラスの先生方にも相談してみたんですけど、ほかはどこもお構いなしに続けるみたいです……周りの圧力があった詩帆はともかく、ほかは何やってるんだって話ですよ…………」
心なしかやつれて見える幼女──の見た目だが成人女性である──は黒薙たちの担任教師の水削だ。久しぶりの登場である。
「まぁ……いざとなれば僕が止めるから大丈夫っスよ」
「教え子を荒事に巻き込みたくないから悩んでるんですけどね……」
水削はジト目で黒薙を睨みつける。
「まぁ……でも、この分だと多分ホテルに籠ってたところで襲われると思うんスよね。閉塞空間で襲われるよりはまだ外の方がマシじゃないっスか?」
「どちらにしても黒薙くんが危ない目に遭うのは変わらないと思いますけどね……まぁ、黒薙くんがいいならいいんですけど……」
結局、一同は修学旅行を続行することとなった。
修学旅行二日目の最後に訪れる場所、清水寺にて、それは再び現れた。
「……この妙な雰囲気、嫌〜〜〜なデジャヴを感じるんだが気のせいか?」
「俺は特に何も感じんが……さっきそう言ってお前が襲われた以上、俺の勘などアテにはならんだろう」
微妙な雰囲気の変化を肌で感じ取った黒薙は、ポケットから携帯を取り出して、とある後輩に電話しようと試みた。実はクラス別研修の続行が決まった際、怪人が出たとミスティに連絡していたのだ。その際のミスティからの返信は『また怪人が出たらその時は電話してください、授業中でなければ飛んで行きます』であった。が──。
「出ねぇじゃねぇか!!」
帰ってきた返事は電子音声の『ただ今電話に出ることができません』のみであった。
『せんぱぁい♡スキャンダルくださぁい♡くれなきゃ死んでもらいますよぉ♡』
虚空から響くその声に、黒薙はドライバーを構えて対応しようとするが……。
「ちょっとお前待て待て待てここから落とされたらいくら僕でも死──ッ!?」
その透明な腕が黒薙の服の襟を掴むと、清水の舞台から黒薙は引き摺り下ろされた。
「あぁぁぁぁぁぁ!?間に合わねぇ、マズいマジで死ぬ……ッ!!」
そんな中、銀色の羽を携えた怪人が現れる。横合いから黒薙を掬い上げ、お姫様抱っこで地上まで黒薙を運んだ。
『Queen Charge……Open“Hornet”』
「大丈夫だった……?……念のためにコレ持ってきておいて正解だったわね」
右の手に持ったレプリシューターを揺らして、ホーネットは言う。
「あぁ、ありがとう亜矢……他の奴らは全員逃げたんだよな?」
「そのはずよ……また私がいなくて怪しまれるかもしれないけど、そんなこと気にしてられる状況じゃないものね」
亜矢はその毒針を虚空に突きつけて、言った。
「アンタのことは知らない……けど、こんなとこで問題起こされても迷惑なのよ。だから……ここでアンタを倒させてもらうわ」
『言ってくれますねぇ赤萩亜矢さん!そんな風にカッコつけたところで、わたしがどこにいるかもわからない以上はあなたに勝ち目はないと思いますしぃ……それにぃ、結局人を殺めたその力を自分の意思で使っちゃうんじゃないですかぁ!あれだけその力を嫌っていたのに滑稽ですぅ〜!!』
「言ってなさい……たとえ嫌いな力でも、使いこなせばいくらでも武器になるってことを教えてあげるわ!」
ホーネットは銀色の羽を広げながら、空を舞う。
(アイツは姿を消すことができる……それに、颯斗は教えてくれなかったけど……牧瀬の言ったことが本当なら、アイツが撃つビームを食らったら即ゲームオーバー。……よく考えなくても、この格好で颯斗を襲ったりしたら画面の彩度下がっちゃうわよね)
空中を飛び回りながら、ホーネットは思案する。
『そうやって闇雲に飛び回ってるだけじゃわたしは倒せませんよぉ!』
透明な怪人がそう言うと、直後に三色の光線が何本かずつ放たれた。
(なるほど、ね。あの光線の発射元を辿れば、アイツに辿り着く……ッ!)
『遅いんですよぉ!その程度でわたしのビームを避けられると思わないことですぅ!』
光線がホーネットに迫る。だがそれは、突然現れた遮蔽物により全てかき消された。
「忘れてるかもしれないけど、私って自分の意のままに動く
ホーネットは嘲るように笑い、声のする方へと飛びかかる。
『チィッ、忘れてましたよぉ……ッ!ですがッ!その数にも限度はあるはず!それを上回るだけのビームを撃てば万事解決ですよねぇ!?』
透明なソレは光線の数をさらに増やし、亜矢へと向けて放つ。
『Oh! Trine OO! Excellent!』
しかし、その無数の光線がホーネットに届くことはない。トラインフォームに変身した黒薙によって、その全てを弾き飛ばされたからだ。
『ひぃっ!今はさすがに分が悪いですし逃げますよぉ!!』
「逃がすとでも思ってんのか?テメェにはいくつか恨みがあんだ、こんなトコでやすやす逃がしてやると思われちゃあ流石に心外だな」
『おぉ怖いですぅ!でもぉ……わたしは逃げさせてもらいますよぉ?だって今の戦力じゃ勝てないですもぉん!』
透明なソレが立ち去ろうとする。
『Time Master!』
「だから逃がさねぇって……チッ、見えねぇと追うに追えねぇ……ッ!」
OOは、マテリアトリニティのボタンを押し、怪人の逃走を妨げようとしたが──透明な怪人を止めることはできず、取り逃がすこととなった。
「黒薙、無事だったか!?それに赤萩、お前はまたどこに行っていたんだ……!」
「まぁ……なんとか、な」
「私は他の人たちの避難の誘導に行ってたわ。パニックになってる人たちを置いて逃げるなんてできなくない?」
「……なるほど、お前は強いな。俺はそこまで頭が回らなかった」
亜矢の返答に、早見は思わず手を叩いた。ちなみにこの返事も嘘ではない。陰でホーネットに変身する際に見られるとまずいから、といった理由ではあったが。
「怪人はひとまずは追い返した……さすがに今日はもう出ねぇだろ」
というわけで黒薙らの修学旅行は再開した。
「……黒薙颯斗、相変わらずシケた顔をしているわね」
「ゲッ……出たよお邪魔虫一号が…………」
清水寺の土産屋で生八ツ橋でも買って帰るかと特技の目利きを発動していた黒薙に、氷のメイドが声をかけた。黒薙は心底うんざりしたような顔で応えた。
「誰がお邪魔虫一号よ……」
「テメェだよフローラ=レーギンレイヴ。で、なんだまた僕に迷惑かけに来やがりましたってか?」
「今日はそんなことしないわ。あの後亜矢様に電話越しにこっぴどく怒られたもの……」
「……そーですかい」
どこか哀愁を漂わせる本職メイドに、黒薙は哀れみと呆れが半々に混ざった視線を向ける。
「今日はあなたに確認したいことがあって来たの……今、いいかしら?」
「ダメっつっても無理矢理言わせるのは知ってんだよオラその手に持ったナイフをしまえ今すぐライトナウ」
「チッ、意外と侮れないわねあなた……」
舌打ちとともにナイフを太もものホルスターにしまうフローラ。黒薙に見せつけるように、スカートをめくりながら行われた。
「別に僕はテメェに欲情することはねぇから安心しろ」
「じゃあ亜矢様には?」
「するに決まっ……って何言わせんだコラ!?」
からかうようなフローラの視線に、黒薙は思わず赤面する。
「はは、それが聞けてよかったわ。いやよくないけど。……で、本題なのだけど。明日、あなた達は班別研修で、その中には亜矢様も含まれているのよね?」
「まぁ……そうだよ、何か悪りぃか」
「いいえ?……ま、せいぜい楽しみにしてなさい黒薙颯斗。最高に面白いことになるから」
「それで……なぜ、私たちが、呼ばれているのでしょうか?」
「そや、なんかあったんか?」
「……なんかあったと言うより、なんかすると犯行予告的なものをされたと言うべきか」
その日の夜、旅館にて、黒薙は双海と上方を呼び出していた。
「はん、こー、よこく、ねぇ?誰からどすか?」
「そこの双海が大好きなおねe「お姉様!?ちょっと待ってください、黒薙さん、お姉様、ここに来てるんですか!?えっ!?なんで!?」うるせぇ僕の話を遮るな人の話は最後まで聞け」
お姉様って言葉だけで鼻息荒くした
「上方は昨日僕がアレに絡まれてんの見てるから知ってると思うが……っつーかこれ言うには色々話さなきゃいけねぇな……」
一呼吸してから、黒薙は「かくかくしかじか」とそこに至るまでの経緯を語った(もちろん朱鷺澤のくだりは必要なかったため省いたが)。小説って便利。
「黒薙さん……彼女できたなら、言ってくれれば、よかったのに……女心、全く、わからなさそう…………」
「ふざけんなテメェみてぇなレズの力借りる気はねぇよっつーか僕はちゃんと亜矢のこと考えてプレゼントも渡してますー泣いて喜ばれましたーまぁその後に女装させられたんだけどな」
「あっ……そういうこと、だったんですね……野球の時の、あの格好……」
ぬるい憐れみを受け、黒薙は憤慨する。もう女装の話は掘り返されたくないらしい。自分でその話題を出しておいて随分と勝手な男である。
「……で、なんでフローラはんがそないなことする思たんや?」
「まぁ、亜矢にこっぴどく怒られたっつったら普通やめると思うよな?……コレだよ。今日、怪人に襲われた後に見つけた」
黒薙が上方に差し出したのは、小型の盗聴器であった。
以下は、透明な怪人に襲われた後、早見たちが集まる場所へ向かう際の回想(黒薙颯斗視点)である。
「……なぁ亜矢、さっきからちょっと気になってたんだが……髪になんかついてるぞ」
「ほんと?私からは見えないから取ってくれる?」
とぼけたように笑いやがる。……ったく、こんな恥ずかしいことしてんの、他の誰かに見られたらどうするってんだよ……。いやまぁやるけどさ、正直こういう恋人っぽいこともちょっとやってみたかったし。
「……ほい、取れたぞ。っつーかなんだこれ?青く光ってるが…………」
いや、マジでなんだこれ?なんか昔ストーカー被害にあったって相談してきた女子の時にこんな感じの見た気が……ん!?ストーカー!?
「これ……もしかして盗聴器じゃねぇか?あっランプ消えた」
「盗聴器ィ!?なんで私に、というか誰がそんなことするって……アイツ、あのバカメイドか……っ!!」
お邪魔メイドの仕業であると察した亜矢は、怒りに顔を歪める。まぁ、そりゃそうだよな、っつーか状況的にアイツじゃなけりゃ赤萩陽希くらいしかいねぇしあのクソ野郎なんか僕と亜矢の恋路を応援してくれてるし……まぁ、普通に考えてフローラ=レーギンレイヴしかいねぇわな。
「……で、盗聴器の電源を切って使い物にならなくなったから僕に接触してきたんじゃねぇかって」
「なんでその時に盗聴器のこと聞かんかったん?」
「聞いたら下手クソな口笛で誤魔化された挙句逃げられた。あとで亜矢に聞いたら電話しても出なかったらしい。でメッセージ送ったら既読無視」
黒薙はため息をつきながら答える。
「……それから、怪人の件もある。自慢じゃねぇが、僕はそこそこ強ぇつもりだ。……が、相手は僕一人じゃ対処できねぇ搦め手使いだ。フローラ=レーギンレイヴに邪魔されようモンなら確実に怪人を倒せなくなる。だから……お前らにあのクソメイドの足止めを頼みてぇ」
『ごめんなさい先輩、あの時電話していただいたのに出られなくて……やっぱり、怪人でしたか?』
「正解。……聞きてぇんだが、お前はあの時何やってたんだ?」
『その……那月と一緒にB級映画巡りしt「ふざけてんのかブン殴るぞ電話越しに」そう言われましても……』
夜。部屋に戻った頃にミスティからの電話がかかってきたため応答していた。
「ミスティお前明日学校休め。どうせヒマだろ?」
『もともと休むつもりですよ先輩。今日遠足的なのありましたし明日一日でその疲れを癒すつもりでした……が、怪人を倒すとあっちゃあ仕方ないですね。ただし、明日で倒せなかったら……わかってますよね?』
怪人が出た瞬間に親友とB級映画巡りデートしてやがったバカがなんか偉そうなことを抜かす。
「わかってる。……っつーか、明日は班別研修だからな。前半は早見と朱鷺澤のチョイスで無難なクソつまらなさそ……ンン゛ッ、王道なとこだが、後半はピンク脳朱鷺澤と冷やかし大好きギャル二人組のせいで縁結び神社とか遊園地とか行く羽目になったんだ。せめてその辺りくらいは亜矢と楽しみたいからな」
『欲望が漏れ出てますよ最後の方、ピンク脳は先輩もじゃないですか、というか朱鷺澤さんの死体踏んづけてませんそれ?』
「うるせぇクソがぶっ殺すぞ」
ケラケラと笑うクソ後輩に殺害予告をして、黒薙は通話を切った。
「……で、具体的にはどうする気なんだOOさんよ」
「あのクソはゴシップを求めてんだろ?なら簡単じゃねぇか……僕と亜矢がイチャつき倒す。
通話を終えるや否や、牧瀬が黒薙に語りかける。
「ギャハハ!!そりゃ違ぇねぇな!!それじゃ……明日に向けて寝るとするか!!」
黒薙の直球すぎる返答に牧瀬は笑うと、一人ベッドに飛び込んでいった。
「……僕はまだすることがあるから寝られねぇな」
「よっ、奇遇だな赤萩さん」
「奇遇だな、じゃないわよ白々しいわね……私をこんなところに呼び出して、何の用かしら?」
牧瀬との会話を終えたのち、黒薙は亜矢に連絡し、自販機のエリアまで来るよう頼んでいた。
「……まぁ、明日の打ち合わせだよ。色々面倒ごとが重なってきてるが、まずは修学旅行を楽しむ上での最大の障害の排除からだな」
「最大の障害、っていうと……あの多々羅とかいうヤツ?」
「正解。あの盗聴メイドはやってることは最低だが、最大の障害ってほどじゃねぇしな」
黒薙はちょうど買ったばかりのおしるこを啜って言った。
「アイツがどこに出るかもわからないのに打ち合わせって言ったって……何するの?」
「アイツはゴシップを求めてるわけだろ?だから……その、僕と亜矢とで盛大にイチャつけば自然と来るんじゃないかなーと…………」
「えぇ……」
恥ずかしさからかだんだんと声を小さくしていく黒薙を見て、亜矢は呆れたような息を吐いた。
「それ、結局アンタが私とイチャイチャしたいだけじゃない……まぁ、私もしたいかしたくないかで言えばめちゃくちゃしたいし今も抱きついて颯斗にほっぺたすりすりしたいくらいだけど……って何言わせんのよアンタ!?」
「言わせてねぇよお前が勝手に言ったんだろうが急に責任転嫁すんなビックリしたわ!!」
「ビックリしてんじゃないわよバカ!!」
「理不尽!!」
二人は付き合ってること隠してるくせにギャーギャー喚く。
「……まぁ、仕方ないわね。いいわよ?アンタが引くくらい、アンタに甘えてやるんだから。覚悟しときなさいよ?」
「ハッ、そうかよ……お前こそ覚悟しときな、いつまでもお前に優位に立たれてばっかの僕と思うんじゃねぇ」
「……ふふっ、いいわ。アンタの精一杯のリード、楽しみにしててあげる」
どこか艶っぽい笑みで、亜矢は黒薙のほうを見る。その笑みに胸を撃ち抜かれたことは内緒にしておかないとな。黒薙は心に誓った。
「そろそろ会計の方行かないか?」
「好きにしてI-I-Z-E……」
「他のヤツはダメ」
翌日、修学旅行三日目は班別研修である。黒薙らの班は黒薙、牧瀬、早見、朱鷺澤からなる男子班と亜矢と二人のギャル──
「ひとまず俺が全員分払っておくからお前たちは先に出ておいてくれ。後からきっかり徴収するからな」
仕切りたがりの早見に会計を任せて、黒薙たちは蕎麦屋を後にする。これから向かう先は貴船神社。縁結びの聖地と呼ばれる場所だが……ここでひっそりと盛大にイチャつくことで多々羅が現れると黒薙は予想した。イチャつきたいだけだろと亜矢にも指摘されていたが、全くもってその通りである。亜矢とイチャつきたいだけなのに、多々羅を言い訳にしているだけだ。ただ、それで現れるであろうという確信も一応はあった。
「こっから結構歩くことになりそうだな……“赤萩さん”、キツかったら言えよ?」
「ヒューッ、カッコいいねー黒薙ちゃーん。そういうところ……I-I-Z-E」
「でも他のヤツの前ではダ〜メ♪」
ギャルコンビが後ろでキャーキャー言うが、黒薙は気にしない。
「別にいいわよ……アンタにそんなに迷惑かけられないし…………」
「…………締まらないな、まぁ、縁結びの聖地などという場所に行くのに締まるも何もないか」
早見はため息をつくが、その足取りは非常にソワソワした、軽やかなものであった。こいつも何だかんだ神のご縁にあやかりたいと考えているわけだ。教師相手の恋愛とはなかなかに難しいものである。
「黒薙颯斗……亜矢様をなぜ名前で呼ばない……亜矢様がどれだけ貴様に名前で呼ばれてどれだけ人目も憚らずにイチャイチャしたいと思っている……もう我慢の限界だ、今日こそ貴様に引導を渡してくれる……!」
「そうはさせへんよ?ようやっと見つけた、ちょいとお兄さんと遊びまひょ〜や」
「お姉様、来ているのでしたら、六花に言ってくだされば、六花の部屋に、お招きしましたのに……♡」
黒薙を強襲しようとしたフローラを、執行衛兵の二人が遮る。
「チッ、あなた方と遊んでいる暇は……ッ!」
「ほな、楽しいサバゲーの始まりや!……双海、弾幕張りぃ!」
「了解です!たまには、お姉様と、こうしてサバゲーってのも、悪くないですね♡」
第三者の介入を意にも介さずに進もうとするフローラに対し、双海はホルスシューターを乱射し、行く手を阻む。
「へへっ!こっちやこっち!!」
(方角的にはこちらで合っているはず……ふッ、地図を頭に叩き込んでいないバカの相手は楽でいいわね)
フローラは上方を追う。それからしばらくその追いかけっこは続き、ついにフローラが飛び上がり、上方の肩に強烈なかかと落としをお見舞いした。
「……づゥッ!?」
「残念ね、あなたは逆方向に私を誘導しているつもりだったんでしょうけど……こちらは正しく貴船神社へと向かう道よ?結局痛い目を見てあなたは最初から負けていたってワケ。……六花、あなたも降参なさい?そんな光の鎖を撃ったところで私に当たらないのはわかりきったことでしょう?」
勝ち誇ったような笑みで、フローラは完全勝利を宣言する。
「いえ、今回ばかりは、お姉様の負け、ですよ?」
「はぁ?何を言っているのかしら六花、こちらの方角は間違いなく貴船神社へと向かうソレ……」
「本当に、そう思うのでしたら……一度、周りを、よく見渡してみてはいかがでしょうか、お姉様?」
苛立ちを隠そうともしないまま、フローラは言われた通りに周囲を見渡した。すると、
「……ッ!?ありえない、私は確かに貴船神社への道を走っていたはず……ッ!」
自分が、貴船神社とは真逆の方向に来ていたことに気がついた。
「へっ、ありえへんワケ……あらへんやろ?俺の能力やで。名前は『
自分より格上の能力者をハメたことがよほど嬉しかったのか、髪型は饒舌に語る。
「言っていなさい……ッ!まだ時間はある、それまでに黒薙颯斗のもとまで走れば済む話でしょう!!」
「なら、試してみますか、お姉様?上方さんの能力、何が怖いって、自由に、つけたり消したり、できるんですよ♡」
「やってやろうじゃない六花……ッ!」
フローラは今来た方向とは逆向きに走り出す。
「ほな、鬼の役割は交代やな……行くで!!」
(亜矢とイチャつかないといけないし、亜矢と付き合ってることは隠さないといけない。さてこの二つをどうするか……)
黒薙は思案する。なお脳内のウェイトが前者に全力で傾いていることは内緒である。
「うわっヤバくねぇかー怪人出たぞー!!」
そんな黒薙の思考を邪魔したのは、牧瀬の若干棒読みがちな叫びだった。あ?と振り向くと、そこには、見覚えのある蜂の巣頭の怪人が多数出現していた。
「チッ、お前らは先行っとけ!ここは僕がケリをつけとく!!」
口ではそう言うが、黒薙はこの怪人の正体を知っていたため、別に変身して倒そうというつもりはなかった。亜矢が変身する怪人、ホーネット・シャトランが召喚するソレである。
「よし、行ったな……亜矢、もう出てきていいぞ」
「ったく……牧瀬もこの手のやつら呼べるはずなんだから私にやらせなくてもいいでしょ」
「牧瀬には第一発見者の役を任せたかったからな……っつーか、お前がそっちの役についてたらこうして隠れてイチャイチャできなかったろうが」
「……それも、そうね」
茂みから出てきた亜矢が言う。レプリシューターからマテリアピースを抜き取ると、先ほど現れた兵隊たちが瞬く間に消滅した。
「それじゃ……盛大にイチャつくとしますか?ねぇ颯斗?私をリードしてくれるんでしょう?どんなことをしてくれるのか楽しみで仕方ないんだけど?」
亜矢はニヤニヤしながら黒薙に詰め寄る。
(やっべ昨日ずっと考えてたのにいざ本人目の前にしたら全部吹っ飛んじまった……)
「もしかして私を前にして仕込みが全部無駄になっちゃったの?……ふふっ、可愛いわね、颯斗♡」
童貞の黒薙は顔を真っ赤にして首を横に振る。
「そんなに必死に否定しなくても大丈夫よ……ほら、行きましょう颯斗!怪人も片付けたことだし急ぐわよ!!」
そんな黒薙の手を握り、亜矢は駆け出した。
「うわっちょっと待てって亜矢!!ちゃんと足元見ねぇと危な……おわッ!?」
真っ赤になった黒薙が止めようとするが、亜矢は聞き入れない。直後、亜矢が小石に躓いた。それは、手を引かれていた黒薙もついでに転倒したことを意味しているわけで。
「危ねぇって言ったろう……がッ!?」
亜矢を庇うように黒薙が回り込んだが、結果として亜矢に押し倒されたような形になってしまったわけで。
「あっ、ごめん颯斗……!そんなつもりはなかったんだけど……あっ、どかなきゃダメよね?っていうかなんか硬いモノが当たってる気がするんだけどもしかしてアンタ勃っt「やめろ生理現象に触れるな今すぐ離れろテメェ!!」」
黒薙は顔を先程以上に真っ赤に染めて亜矢を無理やり引きはがした。
『あぁっ!なんでシャッターチャンス潰してくれちゃったんですかぁ!』
「そこかクソ記者!」
『あぁっ!しまった!バレてしまいましたぁ!』
直後に虚空に響いた声に、黒薙は怒鳴りつける。
『こっ、ここはひとまず逃げて態勢を整えますぅ!!』
「命令する。──怪人・多々羅礼子の透明化を解除せよ」
茂みから現れたもう一人の少年がそう唱えると、多々羅の姿がそこにくっきりと顕れた。
『なっ……今の、まさか……あ、なたは……ッ!』
「ようスキャンダル、久し振りだなぁ?」
『嘘です……ッ!あなたが黒薙せんぱい側につくなんてありえませぇん!!』
多々羅──否、スキャンダル・シャトランはそう言って目の前の現実を否定しようとする。
「ギャハハ!信じたくねぇかもしれねぇが……現にこうして起こってる以上、何言っても無駄だろうが!!」
牧瀬は野蛮に笑い、スキャンダルを挑発した。
『でっ……ですがっ!!三人程度ならパワーアップしたわたしの相手じゃありません!!』
「なら四人ならどうでしょう……はじめまして、学校サボって京都旅行の不良生徒です」
スキャンダルの背後を取って、ミスティは笑った。
「ま、そういうワケだ。これ以上僕たちの修学旅行の邪魔はさせねぇよ。……行けるよな、ミスティ?」
「そのために来たんですから行けるに決まってるでしょう先輩?馬鹿なんですか?」
「ギャハハ!やっぱ面白ぇな『異能共鳴』組は!!俺たちも楽しむとしようぜ宿主さまよォ!!」
「お断りよ、牧瀬……私は、アンタみたいに野蛮じゃない」
黒薙とミスティはそれぞれドライバーを腰に巻きつけ、亜矢と牧瀬はそれぞれレプリシューターを構えた。
『Time!』『Mist!』『Hornet……』『Crown……』
黒薙は右手でマテリアキーのヘッドを回し、ミスティは左手でマテリアキーのヘッドを回す。亜矢は右手でマテリアピースのヘッドを回し、牧瀬は左手でマテリアピースのヘッドを回す。
『『Set!』』『『Set……』』
それぞれが変身の構えをとり、叫んだ。
「「変身ッ!!」」「「解錠ッ!!」」
『Open! Reclaim Lost Time! Time OO!』
『Open! Evolute Mist Blade! Ignited HORUS system……“Mist OO”』
『Queen Charge……Open“Hornet”』
『King Charge……Open“Crown”』
四人がそれぞれの鎧を纏い、スキャンダルへと向き合った。
『チィッ、ですがいくら数がいようとパワーアップしたわたしのビームには勝てないはずですゥ!!』
スキャンダルはその十の指を虚空に向けると、大量の光線を放った。
「俺たち怪人の出せる肉壁をナメんなっての!!」
「私一人じゃいなしきれない数でも、こっちにはもう一人いるって忘れてんじゃないわよ」
しかし、その光線のすべては、二人の怪人が呼び出した雑兵たちによって全てかき消される。
「先輩邪魔なんですよどいてください!」
「邪魔なのはテメェだよクソ後輩!!」
対するOOとミストOOのコンビネーションは最悪。互いに足を引っ張り合うものであった。
『戦場でそうやって喧嘩してたら……痛い目に遭うだけですよぉ!!』
「「うるせぇ知った風な口を利くな!!」」
『ごめんなさいぃ!!』
その隙をつくようにスキャンダルが襲いかかったが、二人の蹴りを顔面に受け、そのまま後方へと弾き飛ばされた。
『あのお二人が使えるのならわたしにも使えるはずですよねぇ……?あっヤバ、出しすぎちゃいましたぁ!!』
見事に着地したスキャンダルは、自分の想像よりも多くの怪人を出現させると、それらを全てOOにけしかけた。
「チッ、流石にタイムじゃ無理があるか……なら仕方ねぇ、筋肉痛の一つや二つ我慢してやるよ」
『Materia Trinity!』
OOは舌打ちとともにマテリアトリニティを起動し、ドライバーへと差し込んだ。迫り来る大量の怪人は、OOの変身を妨げようとするが──。
「あぁもう邪魔なんだよクソどもが死ね!!」
『Discharging This Silly Curse! Fusions Triple Power! Oh! Trine OO! Excellent!』
OOの変身を止めるには、一瞬だけ、遅い。マテリアトリロエッジを振るい、群がる怪人をまとめて消しとばした。
「どうした?ビビってんじゃねぇよ三下が」
スキャンダルは、一度プレデターを倒したトラインフォームを警戒していたようで、OOが変身した途端に上空に飛び上がって逃走を図った。
「そう簡単に逃がしてもらえると思ってんじゃねぇよ」
逃げ出したスキャンダルに対し、OOは吐き捨てる。そして、マテリアトリニティのボタンを押し、あとを追うように飛び上がった。
『Spin Master!』
OOは風を巻き起こし、それをスキャンダルへとぶつける。
『ひぃっ!?危ないじゃないですかぁ!!』
「果たしてそれは何に対して言ってるのかしら?颯斗だけが空の敵に対抗できるなんて思わないで欲しいんだけど」
襲い来る風を躱し、叫ぶスキャンダルの背後に、静かな殺し屋が迫る。
『毒針、ですか……ッ!』
「正解。安心なさい?死なない程度に弱毒化してあるから……ただし、食らってしばらくは地獄の痛みが続くでしょうけど!」
ホーネットは両腕を絶えず、逃げ場を奪うように振るう。
『ですがっ、あなたのその針は強度がないんですよねぇ!?わたしのビームだけで吹き飛ぶくらいには!!』
その二本の毒針に光線を当てると、毒針は瞬く間に蒸発した。
「やるじゃない……ッ!ただ、私たちだけが空の敵に対応できるわけでもないってことを覚えておいてくれないかしら?」
だが、ホーネットは狼狽もせず、地面の方に目配せした。その視線の先にいるのは、二人の『能力の化身』だ。
『Oblivion Saber!』
「チャージは終わりました……局地的なエネルギーの雨にご注意ください、ってやつですよ!!」
「ギャハッ、威勢がいいじゃねぇか『異能共鳴』!!俺も負けてられねぇなぁ!?」
ミストOOは最大限まで溜めた光弾を上空に打ち上げ、直後に弱い光弾を数発撃ち込み、巨大な光弾を雨のように分散させる。クラウンが左手に握った剣を上空に投げつけると、それと同じ形をした光の剣が、同じく雨のように降り注いだ。
『……づゥッ!?やって、くれるじゃないですかぁ……ッ!!』
「なんか反撃の手段があるのかもしれねぇが……僕らがそれを許すとでも思うのか?」
地に叩き落とされたスキャンダルは、怒りを込めた複眼でOOを睨みつける。
「じゃ……終わりにするか」
しかし、OOは冷たく吐き捨てる。直後に、必殺技の発動を意味する電子音が四つ鳴り響いた。
『Cubic Oblivion Strike!』
『Mist Charging Strike!』
『Hornet Drive』
『Crown Drive』
四つの軌跡が、怪人を貫いた。
「……で、こいつ拘束したけどどうするよ?あと一日修学旅行あるぞ。……ミスティ、お前来た時みてぇにコイツ連れて帰れねぇの?」
「できませんよ……私単体+ちょっとの持ち物とかならシュワッて消えてフッて戻れるんですけどさすがに他人は無理です。ソレを私の持ち物判定に入れるのは流石に難しいかと……」
戦闘後、多々羅を簀巻きにしてから、黒薙たちは話し合っていた。
「あー……ちょうど京都に来てて誘宵学区に追い返したいヤツならいるわね……」
そんな中、亜矢が口を開いた。
「あぁ、あのお邪魔虫か……今上方たちと鬼ごっこしてるはずだけど、まぁ僕から連絡すれば来るだろ」
黒薙はため息とともに携帯を点け、上方へと連絡した。
『怪人捕まえたからフローラ=レーギンレイヴこっちまで連れてきてくれ。持って帰らせる』
そう送信すると、五分くらいの後にフローラ=レーギンレイヴが現れた。
「亜矢様が呼んでいると聞いたのだけど、何の用件でしょう?」
「あら?ちょうどいいところに来たじゃないフローラ〜。あの盗聴器の件とか色々聞きたいことはあるけどまずは私の頼みを聞いてくれるかしら〜??」
ヒイッ、と短い悲鳴を上げ、フローラは高速で何度も頷く。
「じゃ……アンタどうせ車で来てんでしょ?コレ誘宵学区まで持って帰って。それから詰所にでも引き渡しといて。ソイツ怪人だから」
「……はい。仰せの通りに…………」
フローラは声のトーンを落とすと、多々羅を担ぎ上げてそのまま山を下っていった。どうやら山を降りた先に車を停めているらしい。
「……ま、これでひとまずは事件解決、か。あと一日と半日くらいしか残ってねぇが、せめて残りの修学旅行を楽しむとしようぜ」
あ、でもミスティは帰れよ。見つかると面倒だから。と、黒薙は言った。
After Story「たまには僕がリードしたい」
遊園地に来た。とりあえず班で揃って乗るアトラクションはだいたい楽しんで、今は単独行動の時間。……まぁだいたい察してくれてるとは思うが、僕と亜矢とでこっそりひっそり約束取り付けて密会してます。ハイ。
……で、それから二人で色々回ったわけだよ。おばけ屋敷とか、ほんと色々。マジで本格的すぎてヤバかった……亜矢の前ではカッコつけたいってプライドがなかったらマジで大変なことになってたよ……。あとここのアイスめちゃくちゃ美味しい。亜矢と二人だから美味しく感じるってのもあるだろうけど、それを抜きにしても。
まぁそんな話はどうでもいい。本題は今から入る話だしな。恋人と二人で遊園地に来たらこれは外せないってモンがあるだろ?……そう、観覧車だ。ぼくらは今観覧車に乗って外の景色を見てる。ほんと、綺麗だよな京都の古い町並みって……。
「……ふふっ、やっと二人っきりになれたわね、颯斗?」
「そうだな……その、なんて言うか、この修学旅行中、ずっと亜矢のことばっか考えてたよ」
「恥ずかしいこと言ってくれるじゃない、ばか……でも、私もよ。私も颯斗のことしか頭になかった。初日から眼鏡かけてるアンタなんて見せつけられて、ほんと大変だったのよ?いつにも増してカッコよかった。人の目がなかったらどうなってたかわからなかった」
ほんと、この女は歯の浮くようなことばっか言いやがる……まぁ、そういうところが好きなんだけどさ。というか、亜矢の全てが好きって言った方が正しいか。
「……僕も同じだよ。あの可愛さは反則じゃねぇか?ってか、なんでいつもは眼鏡かけてねぇんだ?」
「普段はコンタクトなんだけど……その、『眼鏡似合うんだし意外性で黒薙をオトせ!』ってお兄ちゃんが……というか、アンタこそなんで普段眼鏡かけてないの?」
「僕は別に普段眼鏡かけなきゃ生活に支障をきたすってほど目は悪くないんだが、まぁはっきりと目に収めておきたいものを見るときはかけるよ……ってなわけで、今かけさせてもらってもいいか?」
この風景と亜矢、セットで目っつーか脳に残しておきたいからな。
「別にいいけど……あ、ちょっと待って。その前にやっておきたいことがあるんだけど」
その前にって何する気だ……ッ!?
「あのお、亜矢さん……?あなたは何をなさっていやがるのでしょうか?」
「見てわかんないかしら?アンタの唇を強引に奪おうとしてるんだけど」
「見てわかってるから何をなさっていやがるのか聞いたのだが?」
いやホント何しやがるんだこの女!?唇を強引にってそんなハレンチな……。
「もしかして……いや?」
「嫌じゃねぇけど……その、こういうのってムードが大事だと思うんだよ、僕」
そんでこの口は何ということを口走ってやがるんだマジで!?
「ふーん……じゃあ何?今度こそアンタがリードしてくれるって考えてもいいのかしら?」
「……上手くできるかわからねぇけど、そこは大目に見てくれると助かる」
マジで何言ってんだ僕!?あぁもう仕方ねぇ、こうなったらやってやるよ!!このくらいしかできねぇけどな!!
「……ひゃっ!?」
壁ドンだとか顎クイだとか、実際にやってみるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだなって今実感してるよ……まぁ、ここまで来てやっぱ無理ですはねぇし、やるけどさ……。
「ん……っ♡」
すっげぇ顔が熱くなってるって感じる……あぁ恥ずかしい……ッ!?
After Story「私は先を歩いていたい」
壁ドンに顎クイ、まさか颯斗がここまでできるとは思ってなかった。正直、途中で怖気付いてやめるものだと思ってたから……。
それに……その、恋人にこんなこと言うのも失礼かもしれないけど、颯斗の方から……キ、キスしてくるなんて思ってなかったから……あの時は強がったけど、正直、心の準備できてなかったから……。
「ん……っ♡」
だめ……。私の鼓動が颯斗に伝わっちゃう…………。ずっと颯斗に助けられてきて、憧れてて、だからこそ恋愛でだけは、って思ってたのに、これじゃ恋愛でも颯斗にリードされちゃう…………。
「ッ!?」
だから、私は少し無理してみた。両手を颯斗の首の後ろにかけて、ただのキスをもう少しだけ過激にする。正直、こんなことして引かれないか心配ではあるけど……そんなこと気にしてちゃ、駆け引きなんてできっこないもの。
「……っは!亜矢、お前な……ッ!」
颯斗が顔を真っ赤にして私を睨みつける。唇を離した瞬間に引かれた糸に、ほんの少しの官能を覚えちゃったのは内緒。
「ふふっ、どうしたのかしら?」
「どうしたのかしら、じゃねぇよ……ッ!お前っ、あんなっ、あんな……ッ!!」
恥ずかしいのが自分だけなんて思わないでほしいんだけど……私だって、恥ずかしくて颯斗の顔も見れないんだから。
「しっ、舌を入れただけでそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない……」
あぁぁぁぁ!!絶対ドモっちゃだめなとこで……私のバカ!!
「……ったく、そこまで行くつもりはなかったってのに……」
「ふふっ、じゃあどこまでなら行くつもりだったのかしら?……ありがと、颯斗。はじめてのキスって、意外と甘酸っぱいものなのね」
自分でも歯の浮くようなこと言ってるって自覚はある。でも、好きな人の前ではちょっとくらいの恥ずかしいことは許されると思うの。
「……それはさっきアイス食べたからだろ」
「さて、どうかしらね?まぁ、アンタがそう言い張るなら、そういうことにしといたげる」
私は、颯斗といる、この幸せな時間が大好き。心の底から、そう思える。
颯斗の方から私を求めてくれて、本当に嬉しかった。
はじめて二人っきりで見た景色も、はじめてのキスの味も、一生に残る思い出だと実感してる。
きっと私たちは、これからもいくつもの思い出を二人で創っていく。
だけど、今日という日は、決して色褪せずに残っていくのだろう。
……私の恋人があなたで、本当に良かった。
chapter:After Story「リンクする化身たち」
「……で、牧瀬玲王……でしたっけ?せっかく帰った私を呼び出して、何の用ですか?」
「ギャハハ!そう構えんな!!俺はお前に何かしようってつもりはねぇからな!!」
黒薙たちが観覧車に乗っている時間。牧瀬は誘宵学区に帰ったミスティを呼び出していた。
「……私にしか言えないことですか?」
「ま、そうなるな!!……これは警告だ。とは言っても、立場上あんまり詳しいことは言えねぇんだが……」
そう前置きした上で、牧瀬は続ける。
「お前の宿主は、黒薙颯斗は、近いうちにとある怪人と対峙して大きすぎるダメージを負う」
精神的にか肉体的にかは知らねぇ。もしかしたらその両方かもな、と牧瀬。
「だから……気をつけろよ『異能共鳴』。本当の敵ってのは、意外と身近に潜んでるぜ」
赤萩亜矢さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!なんでつか今のモノローグゎ!!!!!!???????????
失礼、取り乱してしまいました。墓脇理世です。
この修学旅行編では、全3話という非常に少ない話数ながらも、なかなかに濃いお話を書けたと個人的には思っているのですが、いかがでしたでしょうか?
こんなギャグ編で牧瀬の正体バレとか亜矢の能力の話とかやっていいのかなとは思いましたが、それはそれです。だって他に挟めるようなとこないし……。
なんだかんだ、付き合い始めて一週間足らずで距離を急速に縮めてしまった颯亜矢ですが、イチャついていられるのは今のうちだけです。第3章でめちゃくちゃ虐めるから覚悟しておいてください。特に赤萩亜矢。墓脇でした。