高坂操糸との戦いの翌日、黒薙は痛む身体を引き摺っていつも通りに学園に向かった。
教室の戸を開けると、普段ならば遅刻寸前に教室に入るような悪友が珍しく開校間もなく席に着いていた。
「おっ、珍しいじゃねぇかクソ野郎どもこんな早くから……」
「黒薙くん……滅茶苦茶、ウワサになってるらしいね……」
透き通るような緑の髪を短く切りそろえた、中性的な外見の少年は
「ギャハハ!らしいな黒薙、なんだっけOOだっけ?」
茶髪に染めた髪をツーブロックにした中肉中背の男は
「少しは静かにしろお前たち。しかし黒薙、アレは本当にお前なのか?」
長く、一切の濁りを許さない黒髪を湛えた高身長の男は
「あ?マジで話題になっちゃってんのかよアレ……」
3人の悪友に詰め寄られ、言葉を失う黒薙。
(本気で面倒なことになってきやがった……だから嫌だったんだよ……)
「はぁ……疲れた……」
黒薙は嘆息した。先日の戦いで肉体的にも精神的にも疲弊しているというのに、デリカシーもなくあのように詰め寄られては無理もない話だ。
「赤萩さん?……昨日は悪かった、遅れた挙句あんなことに巻き込んじまって」
黒薙の机の前に佇む亜矢。
「……別に、アンタを責めるつもりはないけど」
その
「アンタだって本当はあんなことしたいわけじゃなかったんでしょ?」
「まぁね……でも僕しかアレに対応できるやつはいなかったし、仕方ねぇよ」
「……黒薙、お願いがあるの」
ともすれば泣き出しそうな表情を浮かべ、黒薙に詰め寄る。
「ん?一応昨日の埋め合わせならちゃんとやるつもりだけど……」
「そうじゃなくてね、私が言いたいことはさ」
そして、言った。
「『もしまた怪物が現れても、アンタは戦わないでほしい』の」
「……できるわけねぇだろ、現状僕しかアイツらに立ち向かえないんだぞ。誘宵学区の生徒が巻き込まれるくらいなら、僕ひとりでも戦った方がいいに決まってる」
「でも……」
「大丈夫、遠山先輩……委員長があのベルトを元に新しいベルトを設計してるらしいし、それさえ完成すれば僕なんてお役御免だよ」
自嘲的に笑う黒薙。
黒薙が次の言葉を紡ごうとした瞬間、ポケットの携帯がブルッと震えた。
「はいこちら黒薙ィ」
『遠山です。雑談している余裕はないので本題から入ります……また怪人が現れた、黒薙くん、お願いできるかしら』
「チッ、来月の給料増やすよう上に言っといてくださいよ……」
電話を切り、席を立つ。
「待って黒薙!」
「悪い赤萩さん、今は待てねぇ!」
止める亜矢をよそに、走って教室を出る黒薙。
駐車場に停められたバイクに跨り、コードを打ち込んで走行モードに切り替える。
怪人が出た、とされる場所に到着する。しかし、そこに怪人の姿は無く、ホルスの反応さえも消えていた。
「怪人なんて一体どこにいるってんだ……」
黒薙は携帯の通話アプリを開き、
『はい、こちら遠山です。黒薙くん、怪人は無事倒せたようですね』
「いや何言ってんすか委員長、僕は今指定されたところに着いたばっかりなんすけど……怪人どころか人影ひとつ見当たらないんでもう一度ホルス反応を検索してもらおうと思って電話したんすけど」
『どういうこと?あの、少し待ってください……こちら側の記録では、間違いなく黒薙くん……OOと全く同じホルス反応が発生した直後、怪人の反応が消失し、そのままOOの反応も消えました』
カタカタ、とキーボードを叩く音が聞こえる。
『てっきり黒薙くんが変身して倒したものかと……ついカッとなって意識がトんだ、とか。そういった類のものではないと?』
「絶対にないっすね……特に記憶の断絶もありませんし、何より、僕そこまで短気でもねぇよ……」
『黒薙くんが短気でないかどうかは置いておくとして。もし本当にアレがあなたではないとしたら、つまり怪人に対抗できるのは黒薙くんひとりではないということになりませんか?』
ふと、先程の亜矢との問答を思い出す。
「じゃあ仮面ライダーとしての僕はリストラという形で……」
『それはできません。そもそも、もう1人の仮面ライダーが何者なのか、味方であるのかどうかすら不明瞭である以上はあなたという戦力を手放すわけにはいかない。それに』
「僕はアンタの命令には逆らえない、もんなぁ……はぁ〜クッソだる……」
『分かればいいんですよ。黒薙くん、あとは適当に解散してください。こちらは新たなライダーシステムの開発に力を注ぎます』
「はいよっ」
それから数日。
怪人が現れては、駆けつけるたびにその反応が失われていて。
その繰り返しであった。
「いいんちょ〜、ウチの小隊長が完全に溶けちゃってるんすけど〜……」
黒薙に負けず劣らず溶けている銀髪の少女は
「わかります、正直私も反応が出た時にいちいち黒薙くんに連絡しなければならないこの立場を呪い始めていますし……」
コホン、と咳払いをし、
「……ですが、最悪の場合を想定すればこれも仕方ありません。 気が緩んでしまいがちな今こそ、より一層気を引き締めて挑まなければなりませんよ」
「そ〜っすね、あ〜めんどいめんどい」
その瞬間、ここ数日で幾度となく耳にしたアラートが鳴り響いた。
「黒薙くん!」
「はいはいわかってますよめんどくせぇ!」
執行衛兵の支部を抜け出し、バイクに乗って怪人が現れた場所に向かう。どうやら、今度は怪人はまだ倒されていないようだった。
「あーあ、いねぇこと期待してたんだけどなァ!」
黒薙はベルトを装着し、マテリアキーを挿入し、
『Time!Set!』
「変身ッ!」
『Open!Reclaim Lost Time!Time-OO!』
赤黒い鎧の戦士、OOへと変身した。
『なんだお前は!?』
「仮面ライダーOO。失われた時間の力、見せてやるよ……」
応えると、虚空から剣を抜き怪人に斬りかかる。
『やめろっ、俺はまだ何も……!?』
「怪人の力に手ぇ出した時点でギルティだアホがッ!」
ベルトのマテリアキーを抜き、剣に挿して必殺技を放つ。
『Material Attack!Oblivion Time Slash!』
『グワァーッ!』
怪人は爆発し、怪人の変身に用いられると思われる鍵状のアイテムが飛び出した。
「へぇ、これがねぇ……」
「俺のマテリアピース、返してくれよォ!」
「誰が返すかアホが。懲罰房で自分の罪の重さを愉快に爽快に理解しろ」
怪人の変身者であった男に手錠をかけつつ、変身を解いた黒薙は携帯を取り出し遠山に電話をかける。
『こちら遠山です。黒薙くん、今度こそ怪人を撃破できましたか?』
「はい委員長、今度は僕のパチモンの邪魔も入らずに変身者も確保しましたよ……ッ!」
言い終えた瞬間、横合いから振り下ろされた刃が黒薙の頬を掠め、余波で携帯が弾き飛ばされた。
「……ッ、テメェ、何モンだ」
『私は……貴様を斃す者だ』
そこに立っていたのは、OOと全く同じ姿をした、黒い戦士であった。
「仮面ライダーとして戦ってくれんならンな称号いくらでもくれてやるんだけどな」
黒薙は再び懐からベルトを取り出し、OOに変身する。
「だが僕は知らねぇ野郎に攻撃されることが大嫌いでね、変身ッ!」
『Time-OO!』
「失われた時間の力、見せてやる」
『できるものならやってみろ』
剣を抜き、黒いOOに近づく。胸のディスク目がけて振り上げた剣は、しかしその掌で受け止められた。
「チッ、んにゃろッ!」
しかし、そう大人しくやられるばかりのOOではない。刃を掴んだ相手の手を利用し、刃を畳み銃へと変形させ、放つ。放たれた光弾を受け、黒いOOは数歩退した。
『……少しはやるようだ、だが』
OOと同型の武器を虚空より取り出し、銃に変形させ、上空に向けて引き金を引く。
『その武器は、こうやって使うのだ』
次の瞬間、光の雨がOOを容赦なく貫いた。
「……ッ!ク、ソが……ッ!」
ベルトのレバーを倒す。無機質な音が鳴り響き、黒いOOを追うように赤いリングが現れる。
『面白い、貴様と私、どちらの技が上か試してみよう』
黒いOOも同じようにベルトのレバーを倒す。
『Oblivion-Strike!』
白いオーラが身体のラインを伝ってやがて黒いOOの足に収束する。
飛び上がり、黒いOOめがけてキックを放つOO。それを迎え撃つかのように、黒いOOも飛び上がり、身体の軸のみを回転させ、回し蹴りをOOに叩き込む。
直後に、爆発があった。
両者は互いに吹き飛び、膝を地につけた。
「クッソ、嘘だろまだ変身解けてねぇのかよ……僕にしろお前にしろ、無駄にタフじゃねぇか」
『……同感だ。だが、どうやら私の方が貴様より頑丈らしいな』
「あ……?何言って……ッ!?」
瞬間、OOの視界がグラつく。気が付けば、OOの変身は解かれていた。
『この私に膝をつかせた褒美だ、今回だけは見逃そう』
黒いOOの言葉だけが耳に残ったまま、黒薙の意識は途絶えた。
今回は黒いOOが登場しました。怪人の他に、黒薙の前に立ちはだかる強敵です。
彼との戦いが、O第1章の物語の主軸となってきます。彼の正体は一体何者なのか?
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