仮面ライダーO   作:墓脇理世

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番外編「迫る『剛腕』〜使いこなせ!マテリアチューナー〜」

「さて、自分が何をしてここに呼ばれているか、わかっていますね?」

「当然。……正直に言って、自業自得のようなものだしな」

 五月二十九日。以前、難病に苛まれる恋人、神蔵(かみくら)藤子(とうこ)を救うために悪に加担し、仮面ライダープレデターとして、仮面ライダーOO(ダブルオー)こと黒薙(くろなぎ)颯斗(はやと)たちを苦しめた男、草壁(くさかべ)蒼哉(そうや)は、風紀委員の精鋭部隊・執行衛兵(エンフォーサー)を統べる少女・遠山(とおやま)叶絵(かなえ)に問い詰められていた。

「あなたはとても利己的な理由で、怪人たちに手を貸した。通常であれば許されることではない。……そう。通常であれば、ね」

 含みを持たせた笑みで、遠山は草壁に顔を近づける。

「私個人としては、単純な戦力としてあなたを飼いたいのです。どうでしょう、草壁蒼哉さん。執行衛兵の奴隷として戦う気はありませんか?」

「逆に聞くが、今の聞き方でイエスと答えるバカがどこにいると思うのかね?」

「おっといけない。本心が漏れてしまいました」

 遠山の発言に、草壁はため息を吐く。

「……とはいえ、断るつもりはないが。私にとって、藤子を守ることこそが最優先事項だ」

 諦めたように言う。

「なるほど。交渉は成立、ですね。そういうことですのでドライバーを見せてもらいますよ。菱杖(ひしづえ)透流(とおる)が秘密裏に造ったドライバー。何が仕込まれているともわかりませんから」

 


 

「……何をしに来たんだ、蒼哉」

「君を裏切るような真似をしたことを謝りに来た」

 それから数時間後。草壁は自らの恋人──神蔵のいる病室を訪れていた。

「裏切るような真似、じゃあわからない。具体的に、何をしたことを謝りに来たのか教えてくれるか?」

 神蔵は唇を尖らせて問う。

「君を助けるためなどと言って、相手が犯罪者であると知りながらその犯罪に加担したことを」

 草壁は平坦なトーンで答える。

「君を言い訳に使って、自分の歪んだ感情を正当化しようとしたことを」

 声に感情の色を乗せ、草壁は続ける。

「藤子……本当に、ごめんなさい」

 そして、深々と頭を下げた。

「よくできました。……気にしていない、と言ったら嘘になるけど、そこまでして君を責めるつもりもないから、許させてもらうよ」

 神蔵はにこりと笑い、草壁の頭を撫でた。

「と、藤子……なんというか、それは流石に、恥ずかしいのだが……」

「文句を言わない。……まったく。心配したんだからね」

 神蔵は頬を染めながら、草壁を抱きしめた。

「……ありがとう、藤子」

「感謝されるようなことなんてしていないよ、蒼哉。……よかった。もう戻ってこないんじゃないかって、心配してたんだよ……!!」

 目に大粒の涙を浮かべて、神蔵は言った。

「……もう、君に二度と心配をかけないと約束するよ」

「……二度と、とまでは言わなくてもいい。多少は君のことを心配するのも楽しいしね。……だけど、もうあんまり無茶はするなよ」

 


 

『ヒィッ!?誰だお前……やめろ、来るなッ!?』

『そう言わずに楽しもうぜ!?オレ様とのボクシング対決だァ!!』

 ある夜。ボクシング部に所属する高校生が、怪人に襲撃されるという事件が発生した。

『ガッハッハ!!ノックアウッ!!オレ様の勝ちだァ!!』

 怪人の拳を受け、その生徒は倒れ伏した。その後は病院に運ばれ、現在治療を受けている。

 映像は、その生徒が救急車に乗せられるところで途絶えた。

 

 

「……ここまで堂々と一般人を襲う怪人って、いっそ久しぶりな気もするっすね」

「そうですね……あぁ、そう言えば遠山先輩が一匹奴隷捕まえてきたんでしたっけ?」

「誰が奴隷だ青いの」

「うひゃあっ!!!???」

 その映像を見て、有栖川とミスティが言った。直後に音もなく現れた草壁に、ミスティは思わず飛び上がる。

「ビッッッッックリした……急に話しかけないでくださいよ……」

「私はちゃんとノックもしたし何度か呼びかけもした。それすら気付かないバカとなると私にはもうどうにもできないな」

 草壁はははっと笑う。

「誰かバカですか前科持ち。偉そうな口利いてるとしょっぴきますよ?」

「バカを言い返せないから権力の濫用か。やはり執行衛兵は腐ったクズの集まりだな」

 二人の言い争いの中で、その視線が自分の方を向いていることに気がつき、有栖川はビクンと体を震わせた。

「ちょっとぉ!?なんで私まで巻き込まれてるんすか!?レーツェル先輩のせいっすよこれ!!」

「いやドルチェ&ガッバーナの香水のせいですよ」

「夏のせいではないかね?」

「なんでもかんでも責任転嫁したがる現代人の常識を憂いたいっすよ!!っつーか作中時間軸的に後者まだリリースされてないっすから!!!」

 どこぞの赤の他人に責任を転嫁するように二人は言ったが、有栖川は必死になって否定した。作中?と草壁は首を傾げる。

「こういった、見るからに頭の悪そうな奴の相手は極力したくないのだがね」

「……っつっても、怪人が出たら真っ先に向かってもらわないと困るんすよね。草壁先輩が何考えてても良いっすけど、怪人をあえて見逃すような真似したら先輩の人権はなくなるっていいんちょ〜が言ってたっすよ」

「……流石にそこまで腐った真似はしないさ」

 


 

 六月六日。黒薙たちが修学旅行に行っている最中に、その事件は起こった。

『草壁くん、今時間いいかしら?』

「いつもの敬語はどうした、スト緑?」

『呼称には拘らないからなんでもいいけど……あの怪人と思しき人物から犯行予告的なものが届いた。場所は第八学区の体育館。時間は今から二時間後。ボクシングの試合に乱入するという内容』

 そう、遠山から報告を受けて、不本意ではあったが、草壁はその会場へと向かった。

 そこでは本日、能力から何からなんでもありの異色ボクシング大会が開かれるということで、開始前から異様の盛り上がりを見せていた。

「おっ、ニイちゃん!チケットは持ってんのかい?」

「ないが、一応はこういうもので、警備として来ているだけだから安心してほしい」

 その挙動からスタッフに止められたが、執行衛兵のゲスト用免許を見せて乗り切った。

(さて、この面倒ごとの中で、赤萩陽希は何をしているのやら……)

 

 

「ぶぇっくし!!」

「どうしたんだ、赤萩陽希?風邪?馬鹿でも風邪引くんだね」

「うるせぇ黙れ逆巻」

 

 

 そして、一試合目開始と共に、それは爆音を提げて現れた。

『ヒャッハー!!オレ様は怪人ボクシング部部長(部員一名・現在部員募集中)のナックル・シャトラン!!』

 あまりに馬鹿らしい名乗りと共に現れた怪人に、思わず草壁は頭を抱えた。

「わ、たしは。あんな見た目完全に脳筋のバカと戦わねばならんのか……」

 だが、見逃せば人権が奪われてしまう。仕方がないから、草壁は変身して飛びかかった。

『Bite and Bark! That's a Greedy Beast!』

 手甲型の武器──ガントレッドチェッカーを右腕に出現させ、ナックル・シャトランに襲いかかる。

『ゲェッ!?誰だオマエはァッ!?』

「正義の奴隷だクソッタレ。君を倒さねば人権が失われてしまうらしくてな。恨みはないがここで死んでもらう」

 プレデターの一撃が、ナックルの胴体に突き刺さる。しかし……。

『オレ様にそんなチャチな小物が通用すると思うなよ……鍛え抜かれた肉体の前に、武器など無力!!』

 その刃は、ナックルの厚い装甲に食い止められた。

『お返しじゃァ!!』

「げヘアッ!?」

 ナックルの反撃を受け、プレデターの体がノーバウンドで数メートル吹き飛ぶ。

『レフェリー!!カウントォ!!』

「はッ、はァいッ!!1!2!!」

 ノビてしまったプレデターに対し、無慈悲にも10のカウントが宣告される。

「あっちゃ〜……これ渡すの忘れてたっすけどなんか出て行きづらいっすねこの流れ……」

 その様子を、観客として見に来ていた有栖川がヒェ〜といった感じに眺めていた。

「9!!!」

「チッ、まだ倒れてはいないぞ……!!」

 プレデターは片足を杖代わりにして立ち上がる。

『無駄だァ!!オマエはオレ様に負けてノックアウッ!!もうワンパンでゴートゥヘルだ!!』

「あー……ちょっといいっすか?あんまり戦力差ある戦いって見ててつまらないんすけど」

 割り込むように有栖川が言った。

「草壁先輩、これ使ってください。ベルトの右側にセットしてこの鍵を挿して戦ってほしいっす」

 そして、有栖川はいくつかのマテリアキーとそれを差し込むためのデバイス──マテリアチューナーをプレデターへと投げつける。

『試合に水を差すつもりかオマエェ!?』

「ワンサイドゲームじゃ見てるこっちがつまらないんす、ほら観客席を見てみるっす、みんな白けてるっすよ!!」

 有栖川はレフェリーからマイクを強引に奪い取ると、観客へと問いかけた。

「そうだそうだ!!」

「誰か知らねえけど引っ込め!!」

「お前なんか知らねえよ!!!」

「消えろ目立ちたがり!!」

「三人とも死ね!!!」

「お前らを見に来てねぇんだよ!!!」

 すると、観客たちは一斉に草壁と有栖川とナックルへのブーイングを開始した。

「……とまぁこんな感じっすから、さっさとそれ使って終わらせてくださいっす」

 自分までブーイングに晒されて、ぴえんと泣かんばかりの顔で、プレデターを催促した。

「仕方ない。……やってやろうじゃないか」

 それを受けて、草壁はため息をつきながら、マテリアチューナーをドライバーの横へと装着した。

 


 

「これを差し込めばいいのかね?」

「そっす!!さっさとやるっす!!」

 有栖川に急かされ、プレデターは両手に溢れんばかりのマテリアキーを一本ずつマテリアチューナーに装填していく。

『Tune Protect Armour. Tune Reacter Eye. Tune Breast Cannon. Tune Burst Knuckle. Tune Auto Shield. Tune Rocket Boost. Tune Caterpillar Foot』

「あぁっ!!間違えたっす先輩!!そんなにいっぱい使わんでも……」

『One Shot! One Kill!! Full Armored Predator!!!』

 有栖川の制止も虚しく、プレデターは強化形態への変身を完了した。

「……何かね、このやたらとド派手な重装甲は…………ッ!?」

 その姿を見て、プレデターは驚愕の声を漏らす。

『どうせ見掛け倒しだろう、オレ様の本気のフックの前に沈めェ!!』

 ナックルの拳が迫る。回避しようとするが、遅い。

「……ッ、…………?おや……?」

 その後、プレデターが顔を上げるが、ナックルの拳は空中で止まっていた。シールドに阻まれたのだ。

「それはオートシールド!草壁先輩のホルスに反応して自動で防御してくれるっす!!」

 有栖川がグッと親指を立てた。

「なるほど……では、ボクシングの再開といこうか」

 怯んだナックルの体に、プレデターの拳が突き刺さる。肩に装着されたブースターが火を噴く。ナックルの体は吹き飛び、草壁も反動で宙を舞った。

「バーストナックルとロケットブーストの合わせ技っすね!!炸裂する拳に、火力高めのロケットエンジンの組み合わせは最強っす!!」

 FOOO!!と有栖川は昂ぶる。

『まだだァ……オレ様はまだ負けねェ!!』

 起き上がったナックルが、プレデターの側頭部目掛けてフックを繰り出す。

「無駄っすよ!!プロテクトアーマーは頭と体を守る鎧!!そんな攻撃では傷ひとつつかん!!」

 有栖川は、スイッチ型の玩具を片手で弄びながら言った。

『こうなりゃオレ様の全力ラッシュで……ッ!!』

 焦りに焦ったナックルが、目にも止まらぬ速度でラッシュを繰り出した。

(……不思議と、こいつの動きが見える。このスカウター的なものの効果かね)

 その全てを避けながら、プレデターは強力なボディブローを叩き込んでいく。

『かッ、はァッ!?なぜだ、なぜオレ様の攻撃が当たらねェ!?』

 ナックルが、どんどんと劣勢に追い詰められてゆく。

「もうそろそろ時間だ。……君を倒して、帰らせてもらう」

『Beast Charging Smash!』

 プレデターの全力の一撃が、ナックルを空中に放り投げる。直後、ナックルの体が爆発を起こし、地面に落ちたマテリアピースが、パキンと割れた。

「さて、これで怪人は確保、っと……ッ!?」

 ナックルの変身者を拘束しようとした、次の瞬間。草壁の意識は途絶えた。

 


 

「おはようございます草壁先輩。お体のほうは大丈夫っすか?」

「……き、みは。有栖川、だったか?……あれからどうなった?」

「その辺はちゃんと説明しますんでご安心を」

 翌日。草壁は神蔵も入院している病院のベッドで目を覚ました。

「まず、ナックル・シャトランの変身者──内村(うちむら)殴打(おうだ)に関してはあの後すぐに確保して懲罰房にぶち込んだっす」

 すごい名前だな。草壁は息を吐いた。

「それから草壁先輩に関して。……先輩さぁ、なんで私が止めたのに余計なモン入れたんすか?」

「君がそれを使えと言ったから使っただけなのだが?」

「アレに描いてあるマークから必要そうなのを適宜使えって意味だったんすけど……」

「そんなことわかってたまるか。わかるように言えよ」

 責めるような有栖川の視線に、草壁は不満を漏らす。

「……ま、そっすね。ただ、草壁先輩のホルス器官割とボロボロなんすから、あんまり無茶しないほうがいいと思うっすよ?これはマジで。っつーかなんで治療しないんすかそれ」

「現在の医療レベルでは私のホルス器官の損傷は治せないらしくてな。治せるものならとうの昔に治しているとも」

 それを病院(ここ)で言うのかと、有栖川は困惑した。

「それであの道具……マテリアチューナーについてなんすけど、本来の想定以上にホルスを消費してしまうことがわかったので、修正を始めましたっす」

「……まぁ、アレを使った後の疲労感は半端ではなかったからな。正直今も疲れは取れていないよ」

 そう言っていると、不意に病室の扉が開いた。そこには、入院着を身に纏った神蔵がいた。

「……蒼哉。私が何を言いたいかは、もうわかっているね?」

「…………ハイ」

 神蔵の背後に揺らめく負のオーラに、思わず草壁は身震いした。

「あまり無理するなと言ったそばからそれだ……まったく。……でもまぁ、それが君の悪いところだけど、同時にいいところでもあるか」

 そう言うと、神蔵は、流れるように自然と草壁の唇を奪っていた。

「ほほ〜、おアツいっすね〜……んじゃ、お邪魔虫はそろそろ退散するっすかね」

 有栖川は下卑た笑みを浮かべながら退室する。

「〜〜ッ!!いくら私たちが好き合っているとはいえ、急にそれをされると……ッ!!」

「そう言うなよ蒼哉。……無茶した罰だよ。無茶するなとは言わないけど、これからは少しでいいから私を頼ってね」

 


 

「……“sister”を利用して怪人を強化するというパラサイトの案は中々に興味深いものがありますねぇ」

「そう言われるとテレるな。ただ、今回はまだ……」

「えぇ、失敗です」

 内村が拘束された日の夜。かつて学習塾として使われていた廃ビルで、菱杖透流は笑っていた。

「……で・す・がァ〜!!上手くいけばこの誘宵学区を潰すことも夢ではありません!!えぇ、コングとブーメランとマンティスにも使ってあげましょうか!!力を求める彼らにはいい刺激になってくれるでしょうからねぇ!!!」




3章からは草壁も仲間になってきます。
というわけで墓脇です。今回は、3章以降の展開のための布石となる番外編になります。
今回プレデターが使ったマテリアチューナーですが、こちらも3章から本編に登場していきますので、楽しみにしていてください。
さて、次回からはついに物語が加速し始める第3章です。ノンストップで突き進みますので、ついてきてください。墓脇でした。
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