仮面ライダーO   作:墓脇理世

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ダガー編
第28話「『友情』の報い」


「よーっし学校行ってくるかね、澪、ちゃんと戸締りしとくんだぞー」

 修学旅行を終え、二日の休みを挟んで学校に向かう黒薙。

「ふんふんふふーん……ふん、ふん、ふ、ふ──ッ!?」

 マンションの階段を下りる黒薙の身体に、不意に激痛が走った。トラインフォームの副作用である。

『なぁミスティ、これ使って数日後にめちゃくちゃデケェ筋肉痛が来たんだが知らねぇか?』

『あー……変身の維持に必要なエネルギーが大きいんですよ、それ。数日は先輩のホルスを食って痛みを発生させるには至らないんですけど、ある程度を超えるとホルスの味に飽きるんです。その分のツケが一気に来る感じですね』

 そんな風な会話を思い出す。ともあれ、このままではまずい。ガンガンと体を段差にぶつけて、さらには歩道に放り出されようとしている。

「(や、ば……ッ!)」

 だが、黒薙の身体が道を転がることはなかった。何者かによって受け止められたからだ。

「あ、ありがとうございまs……ってテメェは……ッ!」

 自らを助けた男の顔を見て、黒薙は思わず叫んだ。

「テメェ、だと?命の恩人に向かって随分と乱暴な口を利くじゃあないか白髪頭」

 黒薙がそう反応したのも無理はない。なにせ、その男が──。

「いや、今のは口が滑った、悪りぃ……で、なんであんたがこんなところにいるんだ?──草壁蒼哉さんよぉ」

 恋人を救うために、仮面ライダープレデターとして、黒薙たちの前に立ちはだかった男だったからだ。

 


 

「何故こんなところにいるのか、と聞かれたところで……ここは私の通学経路だから、以外に答えなどはないが?」

「おぉう、思ってたより普通の答えじゃねぇか……ん?待てよ、少なくとも落ちる前に僕が見た景色にあんたみたいなやつはいなかったぞ?」

 黒薙は疑問を吐き出した。

「……呆れた、まさか敵だった相手の能力すら忘れたというのかね、君は?……ハァ。まぁいい。偶然君が転がってくるのが見えたから能力で君のもとまで移動しただけだ」

 心底見下したような声を、草壁は絞り出した。

「あんたの能力……ランク7相当であることは知ってるが、どんな能力だっけ?」

「『空間短縮(キルディスタンス)』。直線上をテレポートする能力だよ。というか、敵の能力すら忘れるとは君の脳はミジンコ以下かね白髪頭?」

「そこまで言わなくてもいいだろうがよ前科持ち。……ま、助けてもらったことには礼を言っとく。じゃあな」

 こいつと話してるとストレスしか溜まらねぇ。黒薙は吐き捨て、学校に向かった。

 

 

「おはよう、黒薙。……どうした、朝っぱらから事件に巻き込まれてきましたと言わんばかりの全身の傷は」

「おっすおはよう早見……なんか、めちゃくちゃ言うの恥ずかしいんだが……その、階段から落ちた」

「階段から、落ちた……?ギャッハハハ!!相変わらず面白ぇことしてんなぁ黒なギィッ!?」

 下卑た視線を送る牧瀬の鳩尾にボディブローを叩き込む。

「か……ッ!?やるじゃねぇか黒薙、ここ数日で腕上げたんじゃねぇ、かッ!?」

「うるせぇ黙れお前がいると話が進まん!」

 普段よりも黒薙の拳の威力が高めなのは、牧瀬が怪人のボス、クラウン・シャトランであることを知ったからか。

「そこまでにしておけ黒薙。……というか、階段から落ちて全身生傷だらけの男とは思えない殴りっぷりだな……」

 小気味のよい音を響かせながら牧瀬にバイオレンスの限りを尽くす黒薙を、早見が止めた。

「……ほんと、何やってんのかしらアンタたち」

 その光景を、呆れたような目で見つめるのは亜矢。

「暴れんのはいいと思うけど、水削ちゃんに怒られないように気をつけなさいよ?あの子、怒る時に怒鳴ったりせずに泣き出しちゃうから罪悪感ハンパないのよ」

「自分が受け持つ生徒に『あの子』呼ばわりされていることを知ったらまさにそうなるんじゃないか?それもそれで面白そうではあるが」

 早見は笑いながら言った。

「いや、そのくらいじゃ泣かねぇだろ水削先生は。……ぶっちゃけ、そういう扱いされんの慣れてるだろうし」

「黒薙、地味にお前が一番水削先生に対して酷いことを言っていると思うぞ……」

 早見が指摘する。確かに、今の話を水削が聞いていたら泡吹いてひっくり返りそうだな。黒薙は心の中で呟いた。

 

 

「はっはは!!いやぁ、お前ら初心すぎて見ててこっちが恥ずかしくなってくるんだが!!??」

「声がでけぇよ僕らは付き合ってること隠してるって何回も言わせんな赤萩陽希」

 昼休み。黒薙と亜矢は二人で食堂に向かっていた。赤萩に呼び出されていたからだ。

「だから先輩をつけろって言ってんだろうが……黒薙、一回は先輩って呼んでくれたってのに冷てぇヤツだな?」

「僕がいくら冷たかろうがテメェが暑っ苦しすぎてただのそよ風にしかなってねぇからセーフだよ」

 暑苦しい超能力者を前に、黒薙は悪態をつく。

「……で、ここからは質問なんだが……ぶっちゃけ、この旅行中にドコまで進んだんだお前ら?」

「んぐっ!?……けっほ、こほっ、お兄ちゃっ、何を言い出s……げほっ!!」

 赤萩の突然の提案に、亜矢は思わず口に含んでいたサンドイッチの具を吹き出した。

「大丈夫か亜y……“赤萩さん”」

「いや別にここでくらい名前で呼びゃいいだろ」

「事の発端は一切“赤萩さん”に声かけないの笑っちゃうよ、いや笑えねぇけど」

 赤萩はハハハと笑う。そこに反省の色は見えない。

「……い、言えるわけないでしょ!?バカなのお兄ちゃん!?」

 亜矢は顔を真っ赤にして、いそいそと食堂を去る。

「赤萩陽希テメェなぁ……ッ!!」

「悪りぃ悪りぃ!!そんな言えないところまで進んでるとは思ってなかっt「そういうとこだってんだよボケが!!」あがッ!?」

 将来的に義兄になるであろう人物にアッパーカットを食らわせ、黒薙も食堂を去った。

 


 

「よう“赤萩さん”、病院行くんなら乗せてくぜ?」

「白々しいわね、アンタから連絡してきたんじゃない……というか、ここ私たちしかいないんだし下の名前で呼んでくれてもよくない?」

「……そうだな。乗ってけよ亜矢。僕もちょうど病院に用がある」

 放課後。執行衛兵の巡回を休んだ黒薙は、見舞いのために病院へ向かおうとしていた。

「失礼するわね。……ふふっ、こうして合法的にアンタに抱きつけるのって、なかなか役得よね」

「亜矢さーん?頼むんで恥ずかしいこと言わないでくれますー?」

 赤面しつつも、満更でもなさそうな顔を浮かべ、黒薙はバイクに跨る。

「じゃ、しっかり掴まってろよ……」

 

 

「えっと……その、あの駆虫薬の副作用って全部虫が出てから出るって聞いたんですけど……」

 病院にて、亜矢は担当医に相談していた。

「えぇ。血液検査の結果は特に問題ありません。……あぁ、それから一つ補足しておくと……例の寄生虫、どうやら経口感染するタイプではないようでしたのでご安心くださいね。この辺りは執行衛兵の彼女からすでに聞いているとは思いますが」

 担当医は下世話に微笑む。有栖川から聞いているとはいえ、こうしてわざとらしく告げられたのは、黒薙との関係性を見抜かれているからだろう。病院に来た際に黒薙の腕に抱きついていたため、当然といえば当然かもしれないが。

「…………はぁ」

 そんな生返事。イチャつきを人に見せつけるのは好きだが、いざ恋愛事情をからかわれると恥ずかしい亜矢であった。

 

 

「久しぶりです神蔵さん。……その、前はウチの後輩がすげぇ失礼なこと言いやがって、ほんとすいません」

「おや、久しぶりだね黒薙。……別に、さほど気にしていないから大丈夫だよ」

 多少は気にしている、と言外に言った。藤色の髪のこの女性は神蔵(かみくら)藤子(とうこ)。草壁の恋人であり、また、黒薙の行きつけのカフェの従業員でもある。現在は、ホルス過敏症と呼ばれる、治療法の確立していない病気のために入院している。

「こちらこそ、蒼哉がご迷惑をおかけしたことを謝りたいと思っていたんだ。……すまない、私の恋人の勝手な行動で君たちを傷つけてしまって」

「……まぁ、あの野郎には散々ひでぇ目に遭わされましたけど……その、実は今朝、草壁蒼哉に助けられたんですよ」

 黒薙は朝、階段を転げ落ちた際のことを神蔵に話した。

「……ふふっ、あっははは!!黒薙が階段から落ちるところは私も見たかったなぁ!!」

「あんたもあんたでロクな性格してねぇよな……そういうわけで、あいつはクソみてぇな性格してるとは思いますけど、完全に根っこの腐ったカスじゃねぇってことはわかります」

 階段から落ちたと聞いて笑い転げる神蔵に、額をビキビキと鳴らしながらも黒薙は答える。

「……っつーか、ぶっちゃけ前々から気になってたんですけど、あんたと草壁蒼哉ってどんな感じで付き合い始めたんです?」

「そんなに他人の馴れ初めを知りたいのか白髪頭?君の場合は自分が恋愛初心者だから少しでも経験者の意見を聞きたいとかそう言ったものではないのかね?」

「うわぁびっくりした!!急に出てくんな!!」

 二人の馴れ初めを聞き出そうとした瞬間、病室の扉が開いた。予想外の声に、黒薙の肩が跳ね上がる。

「……恋人の見舞いくらい好きに来させてほしいものだよ。まぁそれくらいなら語ってもいい。……藤子、構わないね?」

 こくり、と神蔵は頷いた。こほん、と、咳払いののちに、草壁は神蔵との出会いを語り出した。[newpage] さて、ここからは暫くの間、私が語り部を勤めさせてもらおう。私は草壁蒼哉。明星学園高等部三年、着用している制服は他校のものだが、これはこの学校に転校してきたおよそ二年前に制服を買い換えるのが面倒だったという一点に由来する。なんてことはどうでもいい。今話すべきは私と藤子の馴れ初めなのだからな。

 私と藤子の出会いは二年前、あのC-ARC事件の日のことだった。私はいわゆる『被害者』の立場でね、暴走する自らの能力を制御しきれず、あらぬ方向にテレポートしては打撲を増やしていったんだ。

 ようやく能力の暴走が少し治まったころ、私は雨に打たれて震えている女性を見かけた。それが藤子だ。

 その姿を見て、私は我を忘れて駆け出したよ。自分のことなど知ったことではない。おそらく、放っておけば彼女はすぐにその命を散らすのだろうと感じてね。

 それからは必死で病院まで駆け込んだ。その後のことはよく覚えていないな。どうやら、そこで力尽きて気を失ってしまったらしい。

 

 

「……あんたも、あの事件の被害者だったんだな」

「まぁ、な。だが、だからといって復讐などと堂々巡りの戯言を口にして怪人に成り果てる愚か者たちとは一緒にするなよ。不謹慎かもしれないが、私はこれでもあの事件に感謝しているんだ。藤子と出逢えた一点に限って言えば、だがな」

 草壁は語る。

「……で、それから付き合うに至ったまでの話を聞かせてくれよ」

 

 

 それからしばらくは私も藤子も同じ病院の同じ病室に入院していたよ。私の場合はホルス器官の激しい損傷、藤子はホルス過敏症でな。自然と話す機会も多かったように思う。それで、少しずつ私と藤子の距離が縮まっていったんだ。

 退院してからは、私が借りている家に藤子を住まわせることになった。勘違いするなよ?藤子は事件以前の記憶がすっぽりと抜け落ちていて、帰る場所もなかったから、それならと私から提案したんだ。……なんだその顔は?当時の私に下心などはなかったぞ?

 それから私たちは、日々の出来事を共有し合った。明星学園に転校することになって、ちょうど近くにあったからと藤子を住ませていた別荘的な家に私が越してからは、毎日のようにその日のことを話したな。私が報道部に入ったことだったり、藤子がカフェで働き始めたことだったり……まぁ、そんな風に。

 

 

「……ん?ちょっと待て草壁蒼哉、僕どっか聞き飛ばしたような気がするんだが一個確認していいか?もしかしてもう付き合い始めてからの話入ってるのか?」

「入っていないが……それがどうかしたか?」

「同棲までしてまだこの時点で付き合ってねぇの!?イヤおかしいだろそれ!!」

 

 

 とはいえ、ここから語ることはそう多くない。二人で日常を重ねるうちに、いつからか惹かれていったというだけの話だ。

 明確に交際を始めたのはそれから数ヶ月後になる。藤子の方から私にもういっそ付き合わないかと提案してきて、彼女を憎からず思っていた私は首を縦に振った。以上で私たちが付き合うに至った経緯は終わりだが、何か質問でもあるかね、白髪頭?

 

 

「…………なんか、すげぇ悪りぃんだけど言っていいか?」

「なんだ、言ってみろ」

「あんたの場合状況が特殊すぎて何の参考にもならねぇよ!なんだよ最初から同棲って!!恋愛だの駆け引きだのそんなモン知らねぇとでも言わんばかりに好き勝手やりやがってよぉ!!」

 黒薙の怒りが炸裂する。こんなバカップルの馴れ初め、聞くだけ無駄だったと心の底から思った。

「……蒼哉。私の方から交際を切り出したくだりまで言っていいと言った覚えはないのだけども……」

 神蔵も頬を少し染めて草壁を睨みつけた。

「……あれ?はや……“黒薙”、何やってんの?」

 直後に、病室に入ってきた亜矢が言った。

 


 

「君は確か……ホーn「赤萩亜矢です。怪人の名前で呼ばないでください」これは失礼した」

 草壁は亜矢に対しての無礼を詫びた。

「というか、雰囲気からわかるけど……黒薙とそこの……えっと、亜矢ちゃん?付き合ってるでしょ?」

「えっ、あのっ、えっと、その、そ、そんなことは……」

「そうですよ神蔵さん、僕ら別に付き合ってるとかそういうのは……」

 神蔵の一言に、二人は凍りつく。

「……白髪頭。私が報道部であることを警戒しているならその必要はないぞ。私が報道部に入ったのは藤子を守るために情報を集めることが目的だからな。君たちのゴシップを握る気はさらさらない」

「蒼哉……♡」

「……私はこれでも君に感謝しているんだ白髪頭。先輩として助言できることがあればいくらでも力になってやる」

 自分を守るため、と言われて神蔵は瞳をとろんと熱を帯びたそれに変えるが、それを無視して草壁は続けた。

「感謝してるってんなら白髪頭呼びはやめてほしいところだが……まぁいいか。あんたに隠し事はできなさそうだしな」

「ちょ、ちょっと颯斗!?」

 亜矢は観念したような黒薙に思わず声を荒げるが、当の黒薙は右の掌で亜矢を制止した。

「神蔵さん、あんたの言う通りだよ。……僕とこいつ、亜矢はついこの間から付き合ってます」

「ふーん……本当に黒薙が女の子と付き合ってるって聞くと、なぜか笑えてしまうね。ところで君たちはどこまで進んでいるんだ?エッチなこととかもうやったりした?『やったり』というよりは『ヤったり』と表現した方が正しかったかな?ははっ!!」

「まだしねぇよンな不純異性交遊!!ナニ言ってんだこの下ネタ女は!?」

 神蔵のセクシャルハラスメントに、思わず黒薙は真っ赤になって反応した。

「まだ、ってことはいずれするってことだね??いやぁ黒薙ってばムッツリさんだなぁ!!」

「あんたはガッツリさんだけどな!?」

「……べ、別に私はアンタとならいつでも構わないけど……って何言わせんのよバカ!!」

「言わせてねぇよ勝手にキレられても困るのだが!?」

 亜矢が毎度恒例のツンデリズムを発動させ、病室がさらにカオスに包まれる。

「こう、初々しいお二人を見ているとなんだかほっこりするなぁ!!私と蒼哉はもう息をするようにエッチなことしてるから新鮮だよ!!」

「おい待て藤子君は一体ナニを口走っているんだ!?」

「いやまぁあんたらが不純異性交遊に明け暮れてることは前神蔵さんが言ってて知ってるからいいよ……」

「藤子貴様ァ!!!!!!」

 そのカオスに、草壁までもが巻き込まれゆく。

「いくら君でも他人に情事の事情を話すなどとは思っていなかったよ……最低だな君は…………ッ!!」

「ふふっ、ギャグのつもりかい?ツッコミは入れないよ?で、黒薙たちはどこまで進んでいるんだ?言っていいと思うよ?減るもんじゃないだろう?」

「精神はすり減るけどな!!??」

 こうなった神蔵を止める術はない。暴走する神蔵は、三人の精神に多大なるダメージを与えていく。

「……えっと、その、こっ、この旅行中に……キ、キスまでは…………」

「そこなんで口割っちゃうかなぁ!!??」

 白状する亜矢に、黒薙は思わず声を荒げた。

「へぇー、黒薙が、あの黒薙がキスをねぇ!!たまには入院もしてみるものだなぁ!!で、どっちからキスをしたんだ?舌とか入れたりした??」

 亜矢はつんつん、と黒薙を指差す。

「黒薙の方から、しかも舌を入れたキスを!?お、思った以上にダイタンだったな、まさか黒薙がそこまでだったとは…………」

「確かにキスしたのは僕の方からかもしれねぇが舌を入れてきたのはテメェだろうが!?僕はあそこまでするつもりなかったんだが!?あぁもうなんでこんな二人きりの時間のことを言わなきゃならねぇんだよ穴があったら入りてぇよ!!」

「ははっ、亜矢ちゃんの穴に入れたいの方が正しいんじゃないか?」

「「神蔵さんマジで黙れ!!」」

 ドがつくほど直球なセクシャルハラスメントに、ついに黒薙と亜矢の声がシンクロした。

 


 

「ロクでもない目に遭った…………」

「えぇ、本当に…………」

 神蔵の病室を後にした二人だが、顔を真っ赤にして、顔を合わせようともしなかった。お互いに、今の顔を恋人に見せられないと感じているのだ。

「……まぁ、藤子はあぁいう女だと白髪頭は知っていただろう?赤ツインテは知らんかもしれんが……」

「あ、赤ツインテって私のことですか……?」

「逆に君以外にどこに赤いツインテールがいるんだ?」

 草壁は眼鏡をくいと上げて言った。

「……ところで草壁蒼哉、あんたしれっと初めから僕の仲間でしたみたいなツラで出てきたけど、僕の記憶が正しければあんたは委員長に拘束されてたはずなんだが。あれだけ執行衛兵を毛嫌いしてたあんたが、まさか執行衛兵の首輪付きになったってわけじゃねぇよな?」

「見上げた想像力だな白髪頭……君の言った通り、大嫌いな執行衛兵の首輪を巻いたよ。私は藤子を守るためならなんだってする。今は藤子を守ることに最も近いこちらにいるが、状況が変わればまた敵になるかもしれないな」

「そうなったらまた僕があんたをぶん殴ってなんとかするだけだから大丈夫だよ」

 くつくつと笑う草壁に、黒薙は適当に返した。

「まぁ、今のは半分冗談だよ。あのあとで藤子にこっ酷く怒られたんだ。私はそんなことを望んでいない、次にそんなことをしたら自らの命を断つことも辞さない、とね。最愛の恋人にそこまで言わせて、自分の過ちを自覚しない人間がいたら、そいつこそ本物の狂人というものだろう?」

 一瞬前とは打って変わって真面目な声色で、草壁は語る。

「だから、私はもう奴ら怪人に与することなどはない。……あぁ、そういえばうちの後輩が君たちに迷惑をかけたようだな。礼子に代わってお詫び申し上げるよ」

「いくら謝られてもアイツだけは許しませんよ草壁先輩。……アイツのせいで、私の楽しい修学旅行は二日も潰れちゃったんですから」

 草壁の言葉に、亜矢が反応した。多々羅とフローラに対しての怒りはまだ消えていないらしく、帰ってからフローラとはまだ一度も口を聞いていないようだ。

「ははっ!赤ツインテ、君はそんなに白髪頭と二人で楽しみたかったというのかね!!よかったじゃないか白髪頭、恋人同士と言えどもここまでの愛の強さはなかなか見られるものじゃないぞ!!」

「うるせぇな……っつーか、あんただって神蔵さんにあんだけ愛されてんだろうが。そんなやつにからかわれても不快でしかねぇよ……と、今までの僕なら言ってたところだが。亜矢との関係を褒められんのはまぁ素直に嬉しいし許してやるよ」

 黒薙はぶっきらぼうに答える。だが、口調に反して、その口角は微かに上がっていた。

「……ところで、草壁先輩って報道部ではどんな記事書かれるんですか?私F!nderあんまり読まないからあんまり知らないんですよね」

「面白みもなければ当たり障りもない、無い無い尽くしの駄文をつらつらと書き連ねているだけだよ赤ツインテ。まぁ暇なら読めばいい。無駄にする時間が有り余っているときにでもな」

「あ、いや、ゴシップとかそっち系書かれてるのかどうか聞きたいんですけど……」

 亜矢の質問に草壁が答えるが、その返答は亜矢の求めるものではなかった。

「……あぁ、そちらか。安心しろ、私は他人の弱みを握って笑いの種にするような根の

 腐った下衆ではない。希望あたりはそれで客が取れるならといくらでもゴシップを利用する屑だが、あれと一緒にされるのはいささか心外だな」

 一応の矜持はある、と草壁。

「つまり君が心配する必要はないわけだ……っと、そろそろ私は帰るが、君たちはどうするんだ?」

「僕は帰るつもりだけど亜矢はどうする?」

「私は──」

 亜矢の言葉が続く。その一瞬前に、黒薙と草壁の携帯が爆音を鳴らした。怪人の出現を表す音だ。

「……悪りぃな亜矢、一応この病院からバスで帰れるはずだから先に帰っといてくれ。財布なら渡しとくから」

「……仕方ないわね、無理に戦いについてってアンタの足引っ張りたくないし……死なない程度に頑張って、颯斗」

 財布を投げ渡しながら、黒薙は頷いた。

「場所は……了解、すぐ行こう」

 黒薙と草壁は、すぐに留めておいたバイクに跨って走り出した。

 


 

「確かこの辺りのはずだが……」

「怪人が暴れたであろう痕跡は残ってるな。とりあえずここら一体はしばらく閉鎖にするか、執行衛兵権限で。もうそろそろウチの部下が来るはずだから、それまで周囲の状況を適当に確認でもしとくか」

 たどり着いた場所に怪人らしき空気を感じなかった二人は、手がかりを探すべく周囲の状況の確認を始めた。

 

 

 

「どうだった?何かめぼしい情報はあったか?こっちは特になかったが」

「怪人が出たという事実の裏付けは取れた。もっとも、その情報は今は何の役にも立たないだろうがね」

 草壁は首を横に振った。

「幸い、怪人が暴れた際には、周辺に誰もいなかったらしい。問題は、その怪人がどこに行ったか、だが」

 そして、そう続けた。

「……おや、向こうに誰か倒れているようだね」

 周囲の確認を進める中、草壁は、ふと路地裏で倒れている少年を見かけた。

「……おいおい、マジかよ。知った顔なんだが……朱鷺澤、大丈夫か?おい、朱鷺澤ー?」

 草壁が見つけた少年が友人であると気がついた黒薙は、走ってその少年のもとまで向かう。

「……ん、くろなぎ、くん…………?」

「よかった、無事だな……っつーかどうしたんだこんなところで?最近学校にも来てねぇし……その、前のあの件なら悪かったと思っ……」

「……僕の質問に、答えてくれる?」

 目が覚めた途端に、朱鷺澤の表情が冷たいものに変わる。その突き刺すような視線に、思わず黒薙は身震いした。

「……ど、うした?」

「…………黒薙くん、僕との約束を無かったことにしてほしいってあれ……自分が赤萩さんと付き合いたかったからなの?」

 濁った瞳が、淀みなく黒薙を見据える。

「……違う。僕は別にそんなつもりで……」

「違わないでしょ?だったらどうして君は赤萩さんと付き合ってるの?」

 朱鷺澤の声が、少しずつ怒気を帯び始めた。

「……悪い、ただ僕は本当に…………」

「……君の言葉なんて、信じられるわけないじゃん」

 突き放すように、朱鷺澤は言う。

「……最初から、あんなことを頼んだ僕を嘲笑ってたんじゃないの?」

「それは違う!僕は本当にお前の恋を応援しようと思った!けど……」

「……僕が聞きたいのは、言い訳でも懺悔でも、ましてや謝罪なんかでもないんだよね」

 朱鷺澤は、あくまで冷静に言葉を紡ぐ。

「たとえ何をしようと僕は君を許さない。……だから、僕は考えたんだ。君ほど頭もよくない僕だけど、そんな僕にも何かできないかなって」

 鍵状のアイテムを右手に握りながら、朱鷺澤は言い放つ。

「……そ、れは…………ッ!?」

「考えた結果がこれだよ。……じゃあ、ここで死んでもらうね」

 そして、朱鷺澤はソレを自らの首に突き刺した。

「あァッ、あァァァ……ッ!!」

 痛みに喘ぐ朱鷺澤のカラダが、蛇のような鱗に覆われてゆく。

『Snake……』

 小柄な怪人が、黒薙を真っ直ぐに睨みつけた。

「……確か、希望の幼馴染だったか。事情は今のやりとりで大体は察したが……そんなことをしてあの赤ツインテが君の方を振り向くとでも思っているのかね?」

『うるさいですよ。部外者は黙っててください』

 挑発するような草壁の言動に、朱鷺澤が変身した怪人──スネーク・シャトランは舌打ちした。

「ははっ、そんな遅い攻撃、私には通用しないな。……さて、それではこちらについてからの私の初陣と行こうか」

 草壁はホルスドライバーを取り出しながら言ったが、それを黒薙の右腕が遮った。

「……あいつをあんな風にしちまったのは間違いなく僕だ。だから、ここは手を出さないでくれ、草壁蒼哉」

 震えた声で、黒薙は微かに言葉を紡ぐ。

「……そうか。ならば私は遠くから高みの見物とでもしようかね。安心しろ白髪頭、負けそうになっていたら力は貸してやる」

「……恩に着る」

 そう言って、草壁は後方へと瞬間移動した。

『誰のせいでこうなったかはわかってるんだ、へぇー……でも、だからって許すと思わないでほしいな』

「思ってねぇよ……ただ、僕はヒーローとしての責任を全うするだけだ」

『罪のない一般市民をここまで貶めるやつがヒーロー?笑わせないでほしいんだけど』

「…………変身」

 朱鷺澤の悪辣な言葉を無視して、黒薙はドライバーのレバーを倒した。

『Time OO!』

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