仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第31話「『純情』はやがて汚れゆく」

「おい赤萩陽希、本当に良かったのか?あのクラゲ女逃がして……」

「あの金玉カマキリはとっ捕まえたからな。レプリシューターは持ち帰られちまったが、それでもこっちにゃお前と俺とレーツェルがいる。何が出ようと対処はできんだろ?草壁は知らんけど。……っつーか先輩をつけろって何回も同じ話をさせんなよお前」

 マンティスを倒した後、いつもの怪人ジェリーフィッシュが現れていた。マンティスの変身者の男子生徒はすでに捕縛後であったが、そこまでして取り返したいというわけでもなかったらしく、地面に置いていかれたレプリシューターだけを回収して去っていった。

「……というか、だな。どうしたんだ黒薙?なんかヘドロ煮詰めたような目ぇしてっけど」

「そんなに聞きたいか?僕は話したくないんだが」

「……聞きたいは聞きたいが、お前がどうしても言いたくねぇなら無理強いはしねぇよ」

 赤萩は言った。そもそも、他人の後ろめたい不幸にいちいち介入するつもりはない。赤萩陽希は別に聖人君子のヒーローではないのだ。

「……っつっても一応は怪人事件絡みだ。話さねぇってわけにはいかねぇんだよな」

 


 

「前に話したと思うが……僕のツレが怪人になって、僕が倒して、懲罰房に叩き込んだ。それからの話だよ」

 風紀委員室へ向かう道中で、黒薙は話す。

「その日の夜、懲罰房からあいつの姿が消えた。脱獄とかそういうんじゃねぇ、何の前触れもなく、後に何かを残すこともなく、文字通りに消えちまったらしい」

「消えた?……んなことがあるのか?監視カメラではどうなってたんだ?」

「だから、見事なまでに消えてたんだよ」

 黒薙は語る。

「ある時間から、監視カメラから朱鷺澤の姿が消えてた。懲罰房の『失踪』ってのは、だいたい上層部から裏に引き抜かれたのを隠すための隠蔽工作だったりするが、今回に限ってそういうわけでもないらしい」

 そして、言った。

「今回のお仕事は、そいつの捜索だ。多分そっちにも命令が来るんじゃねぇか?」

 

 

「はぁ、なるほどな……」

 赤萩は嘆息する。つい数分前、傭兵集団『ファング』の受付係からメールで命令を下された。その内容は、黒薙が言っていたものと概ね一致していた。

「これが来たってことは、上もこの事件のことは相当厄介視してるってわけだ。本格的にきな臭くなってきやがった」

 赤萩自身としては、この件にさして興味はなかった。怪人になったという点さえ絡んでいなければ、捨て置いてもいい問題ではあった。

「……ま、できる限りはやってやるか。亜矢の憂いはできるだけ取り除いてやりてぇ」

 赤萩の行動原理は、その全てが義妹にある。朱鷺澤の件で亜矢が久城に詰め寄られた話も聞いている。果たしてそれが久城本人であったかなどは関係ない。関係はないが、それが亜矢を苦しめるものであれば、何があろうと取り除く。その覚悟が、赤萩にはあった。

 

 

「……ほう?なるほど、つまりこれは私にも動けということでいいのだな?」

 同時刻、草壁の元にも同様のメールが届いていた。送り主は遠山。曰く、報道部副部長の力を借りたい、と。

「あのことを考えると、希望の力を借りるわけにはいかない、か。そして礼子は懲罰房。元よりあんな未熟者に頼る気はないが……今動ける報道部員は私一人、いいじゃないか、少しばかり燃えてきた」

 草壁は、今、久城に対して不信感を抱き始めている。あれが久城本人でなかったとしても、あのタイミングで現れ、亜矢を脅迫したというのはどうも意図が読めない。草壁はこう考えた。久城はもともと怪人と何らかの繋がりがあり、自らの欲を叶えるために化野と組んだのではないか、と。

「……とはいえ、この誘宵学区中をひとりでというのは心許ない。……あぁ。一人、いるじゃないか」

 それが核心をついていようがいまいが、草壁がすることは変わらない。朱鷺澤を捕縛し、人質にとり、久城から逆に情報を吐かせる。それこそが、彼の望む平和への近道であると。

 

 

「蒼哉?……ほう、この私に君が面倒ごとを頼むか。まったく……だが、嬉しいものだなぁ、頼られるってのは……ふふ」

 それからしばらくして、退院したばかりの神蔵は、恋人からのメッセージを読み上げ、ほのかに笑みを浮かべた。

「黒薙の友達が行方不明、ね。あんな生意気な小僧でも、友達が失踪したら流石に傷つくだろうし……私も力を貸してやろうとするかなぁ?」

 神蔵の働くカフェは、そこそこ街の情報が集まる場。めぼしい情報を集めるなら、彼女に頼るのは得策といえる。

「さて、退院早々忙しくなりそうだ……あぁ、蒼哉風に言えば、『少しばかり燃えてきた』よ」

 


 

「ねぇ颯斗……その、今お仕事中よね?」

「まぁな。……まぁ、やることは見回りくらいだし、送ってくくらいならできんこともないが」

「……じゃあ、お願い」

 少しだけ拗ねたような笑みを浮かべると、亜矢は言った。

「おう……んじゃ失礼、ちょっと見回り行ってきまーす」

 そう断ると、黒薙はカバンを取り、風紀委員室の扉を閉めた。

 

 

「……それで、アンタたちは朱鷺澤の捜索、ってわけ?」

「そういうことになる。……あいつは、僕のせいであんな風になっちまった。突然失踪しちまったとしてもそれは変わらねぇ。……あいつはまだ僕を憎んでるはずだ」

「……またそんなこと言って。アンタさ、いつまで過ぎたこと悔やんでんのよ」

 亜矢の言葉が、やけに鋭く突き刺さるように感じた。

「……仕方ねぇだろ。僕ってこういう性格だし、それに……あいつは、僕の友達だから」

「でもそれって、ただの逆恨みじゃないかしら?正直さ、私は裏でウジウジやられるよりも真っ向から好きって伝えられた方が嬉しいのよね」

 別にその告白に応える応えないは別としてね、と亜矢。

「多分、これは同族嫌悪みたいなものだけど……好きなら、もっと自信を持って向かってきてほしい。それができなかったからアイツは負けた。そう考えた方が楽でいいわよ?」

「……ンなパッパラパーなお花畑ちゃんに誰もがなれたら苦労しねぇよ」

「言うじゃない?……私ね、そうやって何でも一人で背負(しょ)い込んで、勝手に一人で結論を出して、悲劇のヒーロー気取ってるアンタの顔……あんまり好きじゃないわ」

「……知ってるよ。僕も、僕のこういうところは嫌いだ。自分で好きになれねぇところを、他の誰かに好きになってもらおうなんて、おこがましいとさえ思う」

 黒薙は重苦しい息を吐く。

「……私が何を言いたいか、わかってる?」

「僕はとても鈍感なのでわかりかねる。ちゃんと言葉にしなきゃ僕みたいなバカには通じねぇぞ」

「……つまり、私が敢えて濁してる恥ずかしい言葉を言わせたいのね?……えっち」

 頬を染めて、上目遣いで亜矢は言う。だが、その程度の色仕掛けに惑わされる黒薙ではない。

「……えっちって言う方がえっちだよ、ばーか」

 顔を真っ赤にしながら、絞り出すように言った。

「……ふふっ、ごめんね颯斗。真面目な話してたのにからかっちゃって」

「……ほんっとだよ。で、その敢えて濁してる言葉とやらはなんなんだ?」

 どこか大人びた微笑みの亜矢に心拍数を上げつつ、黒薙は言う。

「……その、ね?私は、敢えて言うのもちょっと恥ずいけど、アンタの恋人なわけだし……ちょっとくらい、私に愚痴を吐き出してほしい。一人でなんでも抱え込んで悩んでるアンタを見るのって……その、結構、メンタルにクるから」

 いつからか真剣な眼差しを向けてくる亜矢を見て、黒薙はハァ、と息を吐いた。

「……ンなこと言われたら、無視するわけにもいかなくなっちまうじゃねぇか」

「ふふっ、そうね。できれば私の言ったこと、頭の隅っこの方にでも置いといてくれると嬉しいわ」

 満面の笑みを浮かべて、亜矢は言う。

「……?あぁ、すみませ……ッ!?亜矢、今すぐ逃げろ!!」

 それからしばらく歩いたのち、黒薙はある男に肩が当たった。その男の方を見て、不意に叫んだ。

「あぁ……その必要はないよ」

 男は淡々と言う。二色の眼が、ふと下に逸れた。視線の先には、生気を失った眼をした美少年。

「テメェ……どこの誰だか知らねぇが、なんでテメェが失踪したはずの朱鷺澤を連れていやがる?」

「初対面の相手に対して随分と荒い言葉を使うんだね、『異能共鳴(スキルリンク)』くんは」

 男はくつくつと笑うと、その切れ長の瞳を極限まで細めて、言った。

「僕は永治の『化身』。君たちなら、この言葉の意味もわかるだろう?」

 


 

「罪科さん、なんか手がかりはあったか?」

『ないなー。俺も頑張って探してはいるんだが……』

「了解、切るぞ」

 一方、赤萩は『ファング』の上司、罪科(つみとが)七志(ななし)と連携しつつ朱鷺澤の情報を探っていた。

(……ま、失踪したってんならこの辺りで目撃情報なんてあるわけねぇか)

 赤萩は嘆息する。携帯を操作し、誰かに電話をつないだ。

『……何の用かな、僕は君なんかよりよっぽど忙しいんだけどね?』

 その相手は、かつて赤萩とも死闘を繰り広げた超能力者だった。

「そう言うなよ格下。そっちの下部組織の面子をちょっと借りたいんだ、頼めるか?」

『……タダで貸す気はないよ?』

「そうだな……ドSメイド一週間貸出でどうだ?」

『あ、それはいらないな。ってか僕彼女持ちなんだけど?……ったく、下っ端をタダ働きさせるの、今回だけにしてほしいね』

 それで電話は切れた。

「……さて、これで学区二つは洗えるか。伝手を総動員してぜってぇ見つけ出してやる」

 

 

「さて、家出少女がほっつき歩きそうな場所はどこかね……っと」

 草壁はひとまず地下街を散策していた。

「あぁ、少年たち。こんな見た目の子を見なかったかね?」

「ヒッ!?草壁だッ、逃げろ殴り殺されるぞ!!」

「人をなんだと思っているんだ君たちは……」

 ちょうど目についた、ラーメン屋の前でたむろしていた不良生徒たちに声をかけたが、怯えたような目で逃げられてしまった。

「……以前の取材でボコボコに殴り倒したのがまずかったか」

 そう。草壁と彼らは初対面ではない。以前、記事のネタを探しにこの地下街を探り回っていた際に、金を持っていそうだからと草壁に襲いかかったのが彼らだ。結果として返り討ちにしたが、以来、不良生徒の間で草壁は恐るべき怪物として語られている。

「……まぁ、ヤンキー風情を頼るのはやめておくとしよう」

 額にいくつもの青筋を浮かべ、草壁は歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

「……まさか、誰一人として情報を持っていないとは。いやはや驚いた。どうしたものかね」

 それから一時間ほど。情報を持っていそうな人物を直感で選定し、声をかけたが、収穫はゼロ。そもそも失踪した人間を手がかりもなく探せと言うのが無理なんだと毒を吐きたくなったが、すんでのところで堪えた。

「あらぁ?アナタは確か……あぁ、藤ちゃんの彼氏の!!」

 そんな草壁の思考を、やたら甲高い(おとめ)の声が遮った。

「おい待ちたまえなんだ今のルビは」

(おとめ)(おとめ)よぉ!失礼しちゃうわねぇ?」

「だからそのルビはなんだと聞いているのだがね……まぁいい。せっかくだから、貴方にもお話を伺いたい」

 クネクネと気味の悪い動きを繰り返す目の前の(おとめ)──美梁木(みやなぎ)亜季(あき)に、草壁は息を吐く。

「何かしら?このキレイなお肌の秘密かしら?やぁねぇ(おとめ)には言えることと言えないことの二つが……」

「この少年、最近見なかったかね?」

 美梁木の言葉を遮り、草壁は言った。

「あぁ、颯斗が言ってた……最近っていうか、ついさっき見たところよ?ほら、第一一学区のアーケード街……ってどこ行くのかしら!?」

「今まさに君が言った場所にだよ……!!」

 草壁は走って地下街を抜け出すと、止めておいた専用マシン──エルドラドパスファインダーに跨り、第一一学区へと向かった。嫌な汗が、シャツを背中にべたりと貼り付ける。

(確か赤ツインテは白髪頭の家まで徒歩で行けるのだったな、そして白髪頭の家は私と同じく第七学区、そしてそこに隣接している学区の一つには……第一一学区がある!!思い過ごしであればいいが……友人の彼が、白髪頭の家を知らないことがあるか!?)

 


 

「赤萩さんですね!?ウチのトップからの命令で探していた情報ですが、ひとまずこれだけ集まりました!!」

「でかした!!とりあえず仕事代はやるからそれ山分けでもしといてくれ!!」

「ひゃっほい!!!!ってなんじゃこの札束ァ!?」

 赤萩に投げ渡された札束を見て、男は目をひん剥いた。

「アレェ!?赤萩さんどこ行ったんすか!?」

 男が気付いた頃には、赤萩は姿を消していた。

 

 

「『緑色の髪』『ボブヘアー』『かわいい』か……まぁ確かに写真見る限り間違っちゃいねぇが……」

 赤萩は渡された何枚もの資料を落ち着いて読むために、近くにあったカフェに足を踏み入れていた。

「はい、ご注文のブルマン……と、おや。その写真……」

「こいつについて、何か知ってることがあるんですか?」

「知ってることというか、私もその少年?少年だよな??それの情報を集めるよう蒼哉……あぁ、私の恋人のことだよ、彼に頼まれていてな」

 紫色の髪の美女の言葉に、赤萩は笑みを浮かべた。

「……ってことは、アンタが神蔵さんか。俺は赤萩陽希っす」

「赤萩、陽希、か。君のことは蒼哉からある程度は聞いているよ。なんとも拗らせたシスコンだと聞いているが?」

「ははは、明日ぶっ殺すから覚悟しとけって伝えといてください」

 赤萩の額にビキビキと青筋が走った。

「あれ?藤子ったら職務放棄かしら?……げ。あんたは……」

「『……げ』はこっちの台詞だよ前科持ち。何の用だ?」

「おや、燐華と赤萩も知り合いだったのかい?」

 仕事をほっぽり出して、しれっと赤萩と相席していた神蔵に声をかけたのは、美梁木の恋人・五和町(いつわまち)燐華(りんか)だ。

「……まぁ、昔ちょっとね」

「……で、何のためにこんなところにいやがるんだって聞いてるんだが?」

「うるさい人ね。友達の店に飲みに来て何が悪いのかしら?あぁ藤子、アールグレイ一つお願いね」

「えー、今赤萩の話を聞きたい気分なのだけど」

「えーじゃない。行った行った」

 苦い顔をした神蔵にしっしっと手を振る。

「……この写真の子、なかなか可愛いじゃない。あなたの彼女か何か?にしては顔立ちが男の子っぽいし……亜季のお仲間?」

「少なくとも俺の知り合いではねぇよ」

 赤萩は即答した。

「妹の彼氏の友達。なんか失踪したらしい」

「失踪、って……あぁ、ちょっと失礼。メールを確認させてもらうわ」

 そう言って、燐華は席を外した。

「……ねぇ赤萩、亜季もその子のこと誰かに聞かれたらしいわ。確か一一学区で見たとか……って、どこに行くつもり?」

 そう告げ終える前に、赤萩は鞄を持って席を立つ。

「こっちもちょうど今情報を見つけたとこだ。今から三十分前に一四学区で見つけられてる。そこから十一学区に行ったってことは、そのまま行けば、突き当たるのは黒薙の家ってことになる!!悪い五和町、代わりに払っといてくれ!!釣りはいらねぇ!!」

 一万円札を置いて、赤萩は店を出る。専用マシンであるプロミネンスファングに跨り、全速力で第七学区へと向かった。

(クソ……どうしてこのタイミングで出たか知らねぇが、厄介な真似しやがる……ッ!!)

 


 

「はぁ、最近兄さん忙しそうだし、暇だな……」

「よう澪ちゃん、久しぶりだなぁ!?」

「うひゃいっ!?」

 その頃、明星学園では、自習を終えた澪がつまらなそうに校門を出ていた。部活は休みだし、兄貴は仕事の方が忙しいようだし、正直、非常に暇であった。そんな中で、密かに想っている相手に話しかけられ、頓狂な声を上げてしまい、澪は頬を真っ赤に染めた。

「ままま牧瀬さんびっくりさせないでくださいよっ!?」

「ギャハハ!!オレの許可なくビックリしてんじゃねぇよ澪ちゃん!!」

 牧瀬はそう笑うと、澪の肩に手を回した。

「どうせ暇だろ?ちょっとお兄さんとお茶でもどうよ?」

 

 

「オラオラ遠慮してないでもっと注文していいんだぜ?お兄さんのおごりだからな!!」

「えっと……じゃ、じゃあこのケーキも追加でお願いします」

 澪が牧瀬に連れられて向かったのは、誘宵学区でもそこそこ有名なケーキ屋だった。

「ぁむ……ん。美味しいですっ!フワッてしてるのが口の中でこうトロ〜ンって感じで!!」

「ギャハッ、そんな美味そうに食われちゃ見てるこっちまで楽しくなってくるな!!」

 ケーキを美味しそうに食べる澪を見て、牧瀬は笑った。

「あ、牧瀬さんのゼリー一口ください。このケーキ一口あげるので」

「はい、あーん」

「あー……ッ!!!???まま牧瀬さんいきなり何を……ッ!?」

 なんとなく牧瀬にゼリーを一口ねだったところ、スプーンをそのまま口の前まで運ばれてしまい、澪は驚きの声を上げる。

「ホラホラさっさと食っちまわねぇと落ちるぜ!!」

「あわわわわわ……」

 目をグルグル回しながら、澪は差し出されたスプーンに乗ったゼリーを口に運んだ。

「どうだ?美味ぇか?」

「……美味しいです」

 とは言ったものの、味などほとんど感じはしなかった。羞恥と焦燥が味覚を置き去りにしたのだ。

「そのケーキ、今オレがやったみてぇに頼むわ」

「むむ無理ですよっ!!そんな恥ずかしいことっ!!そんなのあたしたちが付き合ってるみたいじゃ……」

「ならマジで付き合っちゃう?」

「なな何言ってんですかあんた!!??馬鹿なんですか!!!???」

 軽薄そうな笑みを浮かべて言った牧瀬に、澪は顔をさらに赤らめる。

「……ま、今のは悪い冗談と思って忘れてくれ。今のところは、な」

 牧瀬はどこか妖艶な笑みとともにそう言う。

「……で、澪ちゃん。最近兄貴とはどうよ?」

「兄さん、ですか……牧瀬さんも知ってると思うんですけど、兄さん、今色々忙しいみたいで」

 テーブルに並べられた多くのケーキを平らげたのちに、牧瀬が問うた。

「みてぇだな。……あぁ、今日誘ったのはこんな世間話のためではねぇぞ」

 瞬間、牧瀬の瞳が色を失った。

「……なんのつもり、ですか?」

「別にオレにお前のすることにどうこう言う権利はねぇが、あんまり勝手に暴れんなよってことだよ」

 同様に目の色を変えて問うた澪に、牧瀬は応える。

「……まぁ、オレとしてはそっちの方が楽しいし構わねぇが、果たして黒薙(アイツ)はどうだろうな?」

「……あたしが何をしようと、牧瀬さんには関係ないです」

「あぁそうだな?……だが、アイツが悲しめばオレの相棒も悲しむ。だからあまり余計な真似はするな」

 


 

「さて、とりあえず僕についてきてもらえるかな?……あぁ、その目は僕を疑っているね。安心してほしい、君たちをおびき寄せてリンチにしようなどとは思っていないから」

 ロベリアに連れられ、黒薙たちは路地裏のベンチが設置された場所へと向かった。自身を朱鷺澤の『化身』を名乗った男を無視するわけにはいかなかったのだ。

「……で、テメェは何のためにソイツを連れて、僕らをこんなとこに呼び出しやがった?」

「落ち着きなよ黒薙颯斗くん。僕はまだ君に危害を加えるつもりはないからね」

 まぁ、君の返答次第じゃわからないけどね。ロベリアは言い放った。

「そうだね……あぁ、永治。そんなところに立っていないで僕の膝の上にでも座りなさい」

 ロベリアはベンチに腰掛けると、傍らに控えていた朱鷺澤を自らの膝の上に座らせた。その目は、あらゆる光を失っていた。

「うん、よし、いい子だ。……どうしたんだいおふたり様?そんな目で僕を見ないでくれないか」

 二人の冷えた視線を受け、ロベリアは肩をすくめる。その指先は朱鷺澤の髪を梳き、顔を撫で、唇を弄んでいた。

「さぁ、お話をしようか、黒薙颯斗くんに赤萩亜矢くん」

「……私の方にアンタと話すことなんてないんだけど?もしかしてアンタも颯斗と別れろとか言うクチかしら?」

「はは、これは手厳しいな」

 亜矢は、ロベリアを睨みつけて言った。

「……亜矢、悪いがお前になくても僕にはこいつと話すことがある。……テメェの名前なんて知りやしねぇし興味もねぇが、一個だけ聞かせろ」

「ロベリア=ローゼンロードだよ。名前くらいは気軽に呼んでくれていいよ」

「そうか。呼んではやらねぇよクソ野郎。……朱鷺澤の失踪に、テメェが関与してるって見ていいんだよな?」

 黒薙の問いに、ロベリアは笑う。

「ツれないヤツ。……そうだよ、僕が永治を救い出してあげた。弁解させてもらうと、僕が永治を誑かした訳じゃない。君も知っているだろう?この街の頭がどれだけ腐っているか」

 ロベリアは膝の上から朱鷺澤を退かせると、立ち上がり、戯曲を演じるかのように続けた。

「永治は、たった一度怪人の力に手を出した程度で『再教育制度(モディフィケイター)』を受けることにされていたんだ。君も知っての通り、本来、それを受けることになるのは複数回に渡って怪人事件に携わったものだけ。例えば波風(なみかぜ)(まもる)、例えば蒲田(かまた)絢爛(けんらん)。彼らのような、ね」

 ロベリアはなおも続ける。

「さて、僕の目的は永治に害を与えるもの全ての排除だ。残念なことに君たちはその条件に含まれてしまうが、僕にも順序を立てて物事を考えることくらいはできるんだよ。つまり言いたいことはこうだ。僕と組んで一緒に誘宵学区をぶち壊さないか?」

 そして、言った。

「特に赤萩亜矢くん、君はこの街を壊したいと思ってあの力を振るっていたんだろ?僕とともにその願いを叶えようじゃないか」

「……はぁ?呆れた、まだそんなこと言ってたの?」

 だが、ロベリアの言葉に対し、亜矢は冷たく言い放つ。

「確かに私はこの街は嫌いだし、一度はぶっ壊したいとも思った。でも……コイツに教えられちゃったから。そんな街で出逢えた仲間がいたって」

 黒薙の方をちらりと見て、亜矢は言う。

「無関係な人たちを傷つけてしまった分、今度は私が守る側に立つ。だから、アンタのその的外れな誘いに応じる気はないわ」

「……っつー訳だ。テメェをここで拘束させてもらう」

 レプリシューターとOOドライバーを構える二人に、ロベリアはため息をついた。

「……ハァ。交渉は決裂、と。……仕方ないか、僕もあんまり手酷いことはしたくないんだけどね」

 そして、掌を空中にかざした。

「──転生。目覚めろ」

 その口上の後に、空間にピキリとヒビが入った。そこから現れたのは、

『……久しぶりだな、黒薙颯斗』

「その見た目……まさか、テメェは……ッ!?」

『お前の予想の通りだよ』

 かつて黒薙が暴走の中で殺害した怪人。バキューム・シャトランこと、早瀬ジュンだった。

「死人を生き返らせる能力なんてあるわけがねぇ。タチの悪りぃオモチャでも使いやがったか!?」

「ブブー、不正解。まぁ、こっちは君たち二人の能力を知ってるのに、そっちは僕たちの能力を知らないってのも不公平だし、せっかくだから教えてあげようか」

 ロベリアは、愉しげに言葉を紡ぐ。

「僕の、そして永治の能力は『輪廻共存(サンサーラリンク)』。輪廻の中から、失われた可能性の断片を拾い上げる能力!!君たちに万に一つも勝ち目はないよ。──さぁやれ雑兵ども、僕の愛しい永治に害を加える害獣二匹を殺せ」

 ロベリアが指をパチンと鳴らすと、虚空から無数の怪人が現れ、それらが、一斉に黒薙たちへと襲いかかった。




 みなさんこんにちは、墓脇理世です。
 さて、今回はロベリアがおっそろしい能力を見せてくれましたね。いやまぁ前回も見せてるんですけど。
 同じ化身ズでは、ミスティが黒薙に毒を吐くタイプで、牧瀬は亜矢にやたらめったら馴れ馴れしいタイプでしたが、ロベリアは朱鷺澤を心から愛してるタイプです。言動は割と幼馴染の久城さんと似てるんですけど、こいつの場合は……。
 ところで皆さん、この作品の外伝小説は読んでくださってますでしょうか?今回登場した一部の人物はこっちにも登場してるので見てくださいね。ちなみにそれらに限らず今回出てきたキャラクターを大まかに紹介するとこんな感じになりますね↓

・罪科七志
赤萩の上司で、『Fang』の時間軸だとランク10の超能力者の第6位です。飄々とした性格と女殴ってそうなビジュアルが特徴的な人ですね(まぁ立ち絵は描いてないんだが……)。

逆巻(さかまき)荒天(こうてん)
赤萩が電話してた相手。『Fang』だと今は赤萩と死闘を繰り広げてますね。ニコチン依存の中学生(Oの時間軸だと高校生)で、こっちは『Fang』時点でランク10の第8位です。

・美梁木亜季&五和町燐華
第9話で出てきた、黒薙の知り合いカップルです。バーをやってる人たちで、カフェで働く神蔵とも個人的な付き合いがあります。赤萩と草壁に朱鷺澤の目撃情報を伝えるためにいい感じの二人組がいたので出しました。正直捨てキャラだと思ってたでしょそこのアナタ。

・波風衛&蒲田絢爛
波風衛は第3話で黒薙に倒され、第8話で再登場するもやられた人で、本編だとロクに描写されませんでしたがバリアを張る怪人、バリアー・シャトランの変身者でした。蒲田絢爛は前回出てきた金玉カマキリの変身者です。こんな感じで1話限りの怪人の変身者にも名前つけてあるんですよ。まぁ怪人野球部とかまだ考えてないのもいるんですけど……。

 さて、今回はここらでお暇させていただきましょう。次回もお楽しみに。墓脇でした。
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