仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第32話「闇に差す『光芒』」

「さぁどうする、黒薙颯斗くん!?君が容赦なく殺した相手だ!!謝罪の言葉なんて通用しないと思うけどやってみたほうがいいんじゃないかな!?」

 ロベリアは高らかに笑う。

「颯斗、あんなヤツの言葉なんて聞いちゃダメよ……あんなの、なにかのトリックに決まってるもの」

『トリックとは言ってくれるな?俺は現にここに生きているというのに』

 バキュームが、亜矢の眼前に現れた。

「……ッ、颯斗が戦えないなら私が……ッ!」

「待てよ亜矢、そんなことをする必要はねぇ、下がってろ」

 亜矢がマテリアピースを取り出すと、黒薙はそれを阻んだ。

「変身」

 黒薙がトラインフォームに変身する。

『あ、が……ッ!?』

 直後、突き刺すような痛みに、バキュームは悶える。

「死人が生き返ることはありえねぇ。ンなチンケなコケオドシが僕に通用するとでも思ってんのか?なぁ、僕をナメんのも大概にしとけよ、朱鷺澤の金魚のフンの分際でよ」

 バキュームに深く突き刺さったマテリアトリロエッジを勢いよく抜きながら、OOは言った。直後、バキュームの体が光の粒子となって消滅した。

「おかしいよなぁ、死人を生き返らせておきながら、そいつがまた殺されたらシュワっと消えちまうんだもんな?」

 OOは鋒をロベリアに向ける。先程現れた無数の怪人も、もう消滅しきっていた。

「おっと、これはまずい……力量を見誤った。ここは戦略的撤退と洒落込むか」

「逃がすと思うのか?」

「逃がしてくれなくてもいいよ、その場合は永治を殺すだけだし」

 ロベリアは冷たく言い放つ。その発言に、一瞬、黒薙の動きが止まった。黒薙が時を取り戻した瞬間には、ロベリアと朱鷺澤は姿を消していた。

 


 

「赤ハネ、君も朱鷺澤永治の話を聞いたクチか?」

「ってことはお前もか草壁……行くぞ」

 朱鷺澤が向かっているであろう場所へと急ぐ二人は、途中の交差点にて合流した。信号が変わるのを待つ間に、短く言葉を交わす。

 

 

 それから、二人は共に朱鷺澤を追うこととした。

「見当たらんな。……あれは私の杞憂だったということかね?というか、そうであってほしいが」

「亜矢に危害が加わらなけりゃなんでもいいよ」

 赤萩は言う。

「……止まれ赤ハネ、何やら嫌な空気がする。有り体に言うなら、『ここは俺に任せてお前は先に行け』というやつだ」

 それから数分後、どす黒い空気が漂うのを肌で感じた草壁がそう言った。

「あ、あぁ……」

『なんて、わたしがさせると思うの?』

 背後から、声が響く。

「おやおや、君は確か白髪頭の後輩に倒されたはずだが……」

『ゾンビだとでも思ってもらっていい。……わたし、ここで二匹まとめて足止めしろって言われてるから』

「てめぇこそ、そんなバカなことをさせると思ってやがんのか?」

『別に思ってないよ、アーマード。……あぁいや、今はフレイマーだったっけ』

 ライブラリに続いて現れたのはビークル。レプリシューターの銃口を向けて言った。

「赤ハネ、私はビークルをやる。ライブラリの相手は君に任せた」

「よっしゃ任された。さっさと終わらせて朱鷺澤とやらを助けに行こうぜ」

 二人はホルスドライバーを巻きつける。

「「変身!!」」

『“Flamer”』『“Predator”』

 それぞれの武器を手に、二人は復活した怪人へと向かっていく。

 

 

『ほらほらぁ!どうしたんだい、随分と動きが鈍いけど!?』

「……ッ、あぁ、これはなかなかに手強いか。少し見ない間にそちらは腕を上げたようだな」

『よしなよ、褒めたって何も出ないよ?』

「……腕を上げたのは、何も君だけではないと言っているのだがね」

 プレデターは吐き捨てる。とはいえ、現状ではビークルを相手に防戦を強いられているのだが。

「……手加減したまま相手をするなど、よく考えてみれば君に失礼だろう?そろそろ本気の一つや二つ、出してやろうかと思ってね」

『言うね。……でもそれ、ダサい言い訳にしか聞こえないよ?』

「そうか、まぁ……君にどう思われようと、私には関係ないのだがね」

 そう言うと、プレデターは腰に備え付けられたマテリアチューナーに目を落とした。

(この力は極力使いたくなかったのだがね……やたらと体力を消耗するから……)

 だが、そんなことを憂いていても仕方がない。使わないことで発生するデメリットが使うことで発生するデメリットを上回るのであれば、使うしかないのだ。

『Tune Reacter Eye. Tune Breast Cannon. Tune Auto Shield』

 複眼を覆う緑色のプロテクターに、胸部に出現した巨大な大砲。そして宙に浮かんだ盾を見て、ビークルは感嘆の声を漏らした。

『ぼくがいない間に、そっちも面白いものを手に入れてたんだね?』

「面白いかは知らないが、使えることは事実だ。君を消し炭にする程度には、な」

『言ってくれるじゃん……じゃあ、できるかどうか試してみたら?』

 直後、加速に加速を重ねたビークルが、プレデターへと襲いかかった。

(攻撃は全て盾で防げる。限度はあるが、一撃ブチ込めば私の勝ちだ。イージーなゲームだ)

 盾は自動で動き、ビークルの攻撃を阻む。現実には草壁のホルスで動いているだけなのだが。

(よく目を凝らせ草壁蒼哉。ここ一撃のチャンスを見極めろ)

 高速で移動するビークルを、リアクターアイで睨みつける。

「……ッ、見えたッ!!」

 最大の隙を捉えたプレデターは叫ぶ。胸の大砲から、極太のレーザー光線が放たれる。

『甘いんだよ、そんなのじゃぼくは倒せやしない!!』

 その一瞬だけ前、ビークルの一撃についに盾が崩れた。草壁の頭蓋を、高速回転する円盤が切りつける。

「『……ッ!!』」

 直後、両者の体がノーバウンドで百メートル近く吹き飛んだ。変身が解かれ、鮎川は舌打ちした。

「チッ、ぼくの一撃じゃなくて反動で変身解かれるとか、一番屈辱なんだけど?」

「安心したまえよ、君の一撃はちゃんと私に届いたぞ?」

 同じく変身が解除された草壁は、斜めに切り下ろされた傷跡から溢れ出す血を拭って言う。

「……そう、そいつは幸いだ。ところで大丈夫かいプレデター、こんなところでぼくと話していて」

 鮎川の一言に、草壁は顔色を変えた。腕時計の示す時間を見ると、戦い始めてから十五分が経過していた。

「チッ、力尽くでもそこを通してもらうぞ……ッ!」

「あ、別にいいよ?ぼくの足止めは終わった。あとは帰るだけ。じゃあねプレデター。次に会ったらまた闘り合おう」

 そう言うと、鮎川は姿を消した。レプリシューターの煙などではなく、本当に、姿を消したのだ。

 


 

『わたしは別にアーマード……フレイマーには興味ない。わたしを殺した黒いOOさえやれれば、それで』

「そうかよ……あぁ、ここでお前にいいこと教えといてやるよ。お前がヤっちまいてぇその黒いOOとやら、今頃は蒼いOOになってるぜ」

『どっちにしても同じこと。わたしが殺したいのはそいつ一人だから』

 ライブラリはそう言うと、栞のような剣を右手に握った。

「今まで見たこともねぇ武器使ってくるんじゃねぇよライブラリ。……なら、こっちもお前に見せたことねぇ秘密兵器使うが文句はねぇな?」

『別にない。それが戦いだし』

 フレイマーは中指を立てて挑発する。腰の右に備え付けられたマテリアチューナーに、一本のキーを挿し入れた。

『Tune Heat-Up.』

『The Flame Intensifies! Ignited Burning Flamer!!』

 すると、赤萩の体を包む鎧が、真っ青に染まった。

『それがあなたの秘密兵器?色変わっただけに見えるけど』

「そう思いたけりゃそう思えばいい。ただその場合、お前は自分がいかに愚かだったか思い知ることになるがな?」

 そう笑うと、切りかかってきたライブラリの一閃を、クリムゾンウォリアーを横に薙いでかき消した。

『なるほど、これは手強い。倒すのは骨が折れそう』

「だろ?俺くらい軽くノしてくれねぇと、レーツェルは倒せねぇぞ」

『倒せない、とも言ってない』

 対して、ライブラリは空中に無数の本を出現させ、そこから幾筋もの光線を放つ。

「ハッ、光線で俺に勝とうなんて笑わせてくれるじゃねぇか!いいぜ、同じ土俵でどっちが上か教えてやるよ!」

 フレイマーも同様に、無数のスフィアを空中に浮かべ、そこから熱線を放った。同程度の威力の攻撃同士がぶつかり合い、相殺する。

『……どっちが上か、って言ったけど、結局似たようなレベル』

「うるせぇぞクソアマ、その他ひっくるめて俺の方が上って意味だ」

 クリムゾンウォリアーが炎を纏う。再び栞の剣とぶつかり合い、衝撃が二人の腕を後方に弾いた。

(チッ、死人のくせに強くなってるってのは反則じゃねぇか……!?)

(このままいけば決着はつかない。けどそれでいい。わたしの仕事は足止め。あの二人がOOとホーネットに接触するまで時間を稼ぐだけ)

 拳と拳が触れ合う。

 脚と脚が互いの首に突きつけられる。

 光線と熱線がかき消し合う。

 クリムゾンウォリアーが本のシールドに阻まれ、栞の剣が召喚された盾に弾かれる。

「ハァ、ハァ……クソ、なんだってんだそのスタミナ……ッ!」

『ハァ……もう限界?』

「そろそろな。……だから、全力でブチかます……ッ!」

 それから十数分。互いに消耗する中で、赤 フレイマーは持てる全てをかけた一撃を放つ。

『Heat-Up Tuning Break!』

 蒼炎を纏った回し蹴りが炸裂する。その一撃で、ライブラリの変身は解かれた。その後に、フレイマーの装甲に走るラインが、仄かに灰色に染まった。

「なんとかなったか……んじゃライブラリ、てめぇを拘束させてもらうぜ」

「え、嫌だけど。目的を果たす前に捕まるなんて愚の骨頂。そういうわけだから帰る」

 朱本は、そう言って姿を消した。

 

 

「……あれ、お前ら何してんだ?」

 数分後。赤萩たちは黒薙と亜矢を発見していた。

「白髪頭!朱鷺澤永治に襲撃されたか!?」

「黒薙!朱鷺澤ってやつに襲われなかったか!?」

「あ?……いや、まぁ会ったは会ったが、逃げられた」

 鬼気迫る表情で問いかける二人に、黒薙は少し引きながら答えた。

「……というか、二人ともボロボロだけど何があったの?詳しく説明してくれる?」

 亜矢は、擦り傷まみれの二人を困惑したように見つめて言う。

「……朱鷺澤永治が第七学区に向かっているのでは、と思ってね。白髪頭の家が第七学区にあることはこちらも知っている。だからこそ朱鷺澤永治に襲われるのではないか、と思ったのだが……大丈夫だったかね?」

「朱鷺澤の方は特に。……ただ、一つだけわかったことがある。朱鷺澤は、ある男に唆されてる」

 黒薙は少し伏し目がちに言った。

「どういうことだ?」

「……僕たちを路地裏に連れ込んで、誘宵学区を潰すために力を貸してくれと頼んできたやつがいた。朱鷺澤の『化身』とかって名乗ってやがった」

 そして、黒薙は続けた。

「朱鷺澤はそいつの言うことに一言も発さずに従ってやがった。あれじゃどっちが主かわかりゃしねぇが……あの時の朱鷺澤の目、何つーか、何にも映ってなかったんだよ」

 


 

「おかえりなさい、ロベリアさんに朱鷺澤くん。どうでした?」

「黒薙颯斗くんたちへの接触、それから宣戦布告は完了したよ。あぁ菱杖センセイ、そろそろ永治にかけた能力を解除してやってくれないか?」

 それから数時間後。ロベリアたちはアジトにしている廃ビルへと帰還した。

「いいんですか?また五月蝿くキャーキャー喚かれると迷惑を被るのはワタシたちなんですがねぇ……」

「そう言わないでほしいな、永治にさせたいことが一つあるんだ。それをしたらまた能力をかけて黙らせてくれてもいいよ」

 ロベリアは冷たく言う。

「仕方ありませんねぇ……ところで、朱鷺澤くんに何をさせるつもりでしょう?」

 菱杖が問うと、ロベリアはどこか歪な笑みを浮かべて言った。

「ファントムってやつの代理の変身者を元・報道部の二人から決めるのだろう?それを永治に決めてもらおうかとね」

 

 

 それから少し後。能力をかけられたまま、朱鷺澤はある部屋に入れられた。そこには、かつて怪人としてミスティに撃破され、身柄を拘束されるも、菱杖によって解放された二人の報道部員──神山(かみやま)銀子(ぎんこ)守澄(もりずみ)寛也(ひろや)が、目隠しと猿轡をつけられた上で、椅子に縛り付けられていた。

「さぁ、能力を解除してくれるかい?センセイ?」

「いいでしょう……ちょちょいのちょい、っと」

 菱杖が朱鷺澤の額に手をかざす。朱鷺澤の目に、光が灯った。

「ぁ……えっ、なっ、なんですか、この人……大丈夫な……んぐっ!?」

「永治。今君がすべきことはそこで狼狽えることじゃあないよ」

 目が覚めた途端に犯罪の香りを漂わせる光景を目にして狼狽する朱鷺澤の口を、ロベリアの手が塞ぐ。

「でっ、でも……こ、この人たち、は……ッ!?」

「聞き分けの悪い子だ。……僕は、狼狽えるなと言ったんだけどな」

 自身のの言葉を耳にしても、なお目の前に縛り付けられた二人を心配する朱鷺澤に、心底うんざりしたような声色でロベリアは言った。

「そんな悪い子には……お仕置きが必要かな?」

 直後、脳を侵すような感覚が脳内に広がった。

「あ……ッ、ひッ、やっ、ァ……ッ!!」

 温もりなど存在しない、ひたすらに無機質なキス。しばし舌を絡ませたのち、強引に結びつけられた唇を離し、妖艶に微笑みながら、ロベリアは言う。

「永治。君がすべきは、そこに転がった二匹のうち一匹を選んで生かすことだよ。僕たちの正義の前に、必要なことなんだ。選べ」

 機械的な瞳が、朱鷺澤の瞳を覗き込む。

「……できるわけ、ないですよっ!!っこ、この人たちだって、生きて……」

「おやおや、精一杯日々を生きている、なんて戯言を言ってしまうのですかぁ!?自分が惚れていた女性と交際を始めただけの男性を殺害しようとした朱鷺澤くんとは思えない台詞ですねぇ!?」

 菱杖が眼鏡を直しながら言った。

「違いますよ……僕は、僕は……っ!!」

「……君が選ばないなら、僕が君が無意識的に切り捨てようと思った方を消すけど、どうする?」

 腹を括ろうとしない朱鷺澤に業を煮やしたのか、ロベリアは冷たく言い切った。

「な……ッ、にをするつもり、で──」

 朱鷺澤が言い切る前に、ロベリアの右手が空を切った。

「神山銀子。君は僕の主に不要と判断された。彼こそ僕にとっての全てだからね。そういうわけだから……輪廻。途絶えろ」

 直後、世界の色が反転した。

 次の瞬間には、神山の体は、まるで元々なかったかのように消失していた。

「……ッ!?ロ、ベリア、さん……ッ!?おッ、あァッ!!うゥァ……ッ!?」

 その様子に耐えられなかったのか、朱鷺澤は蹲って胃液を漏らした。

「さん付けだなんて余所余所しいし、呼び捨てで構わないよ。君が殺してもいいと思った相手を僕が殺す。これで僕と君は名実ともにパートナーになれたね」

「ち、が……ッ!!ぼっ、僕は殺してもいいなんて……」

「僕の前にそんな飾り立てた言葉は通用しないよ。直接的にそう思わなかったとしても、君は僕の言葉を受けて、無意識にどちらが力を使いこなせるか考えた。君の選択だよ。甘んじて受け入れろ」

 ロベリアの指が、朱鷺澤の顎を撫ぜた。

「……さて、もうそろそろ大丈夫かな。センセイ、もう一度永治にあれを」

 朱鷺澤は制止の言葉を述べようとするが、遅い。菱杖の掌がかざされ、その意識は闇へと消えた。

 


 

「……怒らないから正直に言って欲しいんすけど、草壁先輩。あんたま〜〜〜たホルス大量消費しましたよね?」

「……さぁ、なんのことだかさっぱりわからないな」

「わかんなかったらなんッッッであんたはこんな病床(トコ)でオネンネ中なんすかねぇ!!??」

 翌日。あれから戻るまでの間のバイクの運転中に意識を失った草壁は、路面に叩きつけられて総合病院へと運ばれていた。神蔵も入院していた病院だ。身体に異常はないため、今日のうちに退院することになる。

「……とは言ってもな。あれを使わねば退けられない相手だったのだがね」

「そうかもしれないっすけど……ま、無事でよかったっす。バイクから落ちた怪我も大したことないみたいですし」

 有栖川は嘆息する。

「やぁ蒼哉、大丈夫だったかい?」

「あぁ、大丈夫だよ藤子。そっちは検診かい?」

「ご明察。さすが私の愛しい(ひと)だね」

「ふふっ、君のことで知らないことなどないさ」

 その直後に、神蔵が入室した。唇と唇が触れ合いかねない距離まで隣接するものだから、有栖川が無理矢理二人の間に割って入った。

「あ〜もう!!彼氏いない女の前でイチャイチャしない!!嫌味っすかあんたら!?」

「えっ?君も蒼哉とイチャつきたいのかい?申し訳ないけどそれは……」

「違うっすよ!!っつ〜かどうせイチャつくなら爆乳美女かメカクレショタがいいっす!!」

 有栖川は吠える。

「……って、そうだ、そうでした。私草壁先輩なんかと話してる暇ないんだった。神蔵藤子さんっすよね?今時間あるっすか?」

「私か?……すまないね、私は今蒼哉とイチャイチャしないと蒼哉成分が足りなくてどうにかしてしまいそうなんだ。後にしてもらえるか?」

「……もうイチャイチャしながらでいいんで話聞いてくださいっす」

 呆れたような声色で有栖川は言った。

「……そこまでして私に用があるのかい?」

「そこまでして用があるから言ってるっす」

 真っ直ぐに見据えて、有栖川は言う。

「……なるほど。それほどまでなら話くらいなら聞いてあげよう」

 真剣な目の有栖川に、神蔵は向き合うとした。

「ありがとうございます。じゃ、まず結論から言うっすけど……神蔵藤子さん。仮面ライダーになってみる気はないっすか?」

「……藤子を危険に晒すことなど、私が許すわけがないだろうが」

「よしなよ蒼哉。まぁ普通に断る気ではあるけれど、事情くらいは聞いてあげよう」

 有栖川の言葉に、草壁は嫌悪を露わにするが、神蔵がそれを止めた。

「……私からはうまく説明できる自信がないんで、こっからは専門家のお力を借りるっすけど許してほしいっす。んじゃ、そういうわけっすから後は任せたっすよ、いいんちょ〜」

「だから最初から私一人にやらせておけって言ったのに……」

 病室の扉に手を振る有栖川。呼ばれた遠山は、頭を抱えながら顔を出した。

「……神蔵藤子さん。あなたはこれまで自分の体質に疑問を抱いたことはありませんか?超高圧のホルス波を受けてホルス過敏症の症状が出るのはまぁそこそこあることですが……あなたの場合、何もなくても症状が出たことがあったはずです。そうですよね、草壁くん?」

 遠山の問いかけに、草壁は絞り出すような声を放つ。

「……なかったわけではないな」

「でしょうね。過去の受診歴は調べましたし、それをせずとも前回の検診の記録を見ればよくわかりますもの」

 遠山は淡々と言葉を紡ぐ。

「な、にを言う気だい、君は……」

「単純なことですよ」

 そして、遠山は言った。

 

「あなたの不調の原因は、あなたの内側にある。もう少し細かく伝えましょうか。あなたは、あなたの中に宿る大量のホルスに苦しめられていただけなんですよ」

 

「あの記録を見たときには驚きました。なにせここ数年で色々な人を見てきましたが、自分で一切ホルスを放出できない方がいらっしゃるとは思いませんでしたから」

 そう言うと、遠山は挑発的に笑った。

「遠山叶絵、貴様……ッ!」

「あぁ、いいんだよ蒼哉。君が私のために怒ってくれるのは嬉しいが、今はそれは必要ない。……それで、私が蒼哉と同じそれになれば、治療してもらえるとかいうことかい?」

 神蔵は清々しげな顔で遠山に問う。

「いえ、そういうわけではなく。というか簡単に治療できる症状なら前例もあるはずでしょう?」

 その問いを、バカにするかのように切り捨てた。

「ではどうなると?言っておくが、私は藤子を危機にさらすなど……」

「変身することで体内のホルスを放出できると言っても、まだ言えますか?それが唯一あなたの恋人の病を治せる手段だとしても?」

 遠山の笑みが、嘲るようなものに変わる。

「……考えておくよ。それまで変身に必要な道具は捨てないで置いてくれ」

「いい返事を、期待していますよ」

 それだけ伝えると、自身の連絡先が記された名刺を手渡し、遠山は病室から出て行った。

 


 

「ふふっ、蒼哉、美味しいかい?」

「……あぁ。さすが藤子、好い店を知っている」

「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「大層な言葉など並べずとも、私の想いは君に伝わっていると思いたいのだがね?」

 翌日の夜八時ごろ。部活動を終えた草壁は、神蔵に連れられてある場所へと連行されていた。神蔵オススメの飲み屋である。未成年をこんなところに連れてくるのか、と文句を言いたくもなったが、料理の味は悪くないし、帰りのこともあるから今日は呑まないと言っていたため、それは引っ込めた。

「……しかし、名目上は学生の街であるというのに、このような大人の遊び場が堂々と佇んでいるというのはいかがなものかね」

「とは言っても、この街の人口の三割は大人だよ?教師だとか塾講だとかそういった立場の人間だってたまには羽を伸ばしたくなるものなんじゃないか?私は日頃から呑んだくれているから知らないが」

「そこを誇らしげに言われても困るのだがね……」

 ひょいと刺身を口に運びつつ、草壁は言う。

「蒼哉、私にも少し貰えないか?」

「はいはい」

 箸を神蔵の口元へと運んだ。

「んむ。……あぁ、美味しい。君に口に運んでもらえたから余計にそう感じるのかもしれないけどね」

「恥ずかしいことを言ってくれるなよ……」

 少しだけ頬を染める草壁を見て、神蔵はわずかに口角を上げた。

「……おっと、失礼。少し出てくるよ」

 その直後、携帯がブルっと震えて電話の着信を知らせたため、草壁は離席した。

「……あぁ。私だよ。何の用だねスト緑」

『今更呼び名に文句をつけるつもりはないけど……緊急事態よ。あなたと赤萩くんの報告にもあった、かつて撃破された怪人のうちの一人──朱本抄子がそちらに向かっている。というか、鎮圧に向かったレーツェルちゃんが押されてそちらに吹き飛ばされてきている』

「……あぁ、なるほど。つまり、私にヤツを倒せと言いたいんだな」

『できない、とは言わせないわ。……黒薙くんも赤萩くんも向かわせてるけど、今一番近いのはあなただから……せめて、どちらかの到着まで持ちこたえてほしい』

 そう伝えられると、遠山からの電話は切れた。

「……すまない藤子。こんな夜だが怪人が出た。こちらに向かっているそうだから、私は迎撃に向かうよ。支払いは私の財布から頼んだよ」

 財布を置いて、草壁は店を出る。すると、直後に、目の前を青白い光が通過した。その正体は、ライブラリの攻撃で吹き飛ばされたミスティであった。

「ッ、あァ……ッ!!」

 どうやらここに至るまでに相当の攻撃を受けたらしく、変身が解除されたミスティの体には、多くの擦り傷や打ち傷が見られた。

『ふふっ、哀れ。わたしを殺しておいて、あの報告を受けていて、なお、わたしが報復にこないとでも思ったの?』

 ライブラリは挑発的に笑いながら、ミスティへと迫る。

「……別に私がそいつに肩入れしてやる義理はないのだがね」

 ハァ、と草壁は息を吐くと、ミスティの前に立ち、ライブラリを阻んだ。

『……プレデター。そこをどいて。わたしはそいつを殺せればそれでいいから』

「そうは言っても、一応私はヒーローという区分に含まれるらしいのだよ。目の前で失われそうな命のひとつくらい守らせろ」

『あなたがヒーローを名乗るの?自分の意思でこっちについたあなたにそれは無理だと思うけど』

「かもしれんな。……だから、手を引けと?ふざけるなよライブラリ。たとえ私の手がどれほど汚れていようと、それが目の前で散りかねん命を見捨てる理由になどなるはずがないだろうが」

 草壁は怒りを明確に示して言った。

『だから、どうするの?あなたではわたしに勝てない。そこの女の皮を被った化け物を庇って死ぬか、前言撤回して逃げるか、今ならまだ好きな方選ばせてあげる』

「であれば私の選択は第三の選択肢の『君をここで潰して恋人の平穏を守り抜く』一択だよ。変身」

 言い放つと、草壁はドライバーのボタンを押した。

『……“Predator”』

 草壁の体がプレデターのアーマーに包まれた。

「構えろ巨悪、ここからは戦争だ……!!」

『構わない。叡智の結晶でその戦争とやらを終わらせるだけ』

 ガントレッドチェッカーを構えたプレデターと、栞の剣を構えたライブラリ。今、二人が正面から向き合った。

 


 

『Tune Auto Shield』

 プレデターはシールドを出現させると、ライブラリへと飛びかかった。

『その板切れ、なんの真似か知らないけど、無駄とだけ言わせて』

「さてどうだかね?そちらこそ気付いたほうがいいのではないか?」

 栞の剣がプレデターの盾を切り裂くも、同時に三本の刃がライブラリの複眼の片方を引き裂き返す。

「……ッ、想像以上に力強いな」

『……無駄。本気で来てその程度なら、わたしは倒せない』

「言ってくれるな、ライブラリ……その言葉、後から撤回はさせんぞ」

 プレデターはガントレッドチェッカーを組み直すと、光の矢を何本と放つ。迎撃するように放たれる無数のレーザー光線。それらは相殺し合い、かき消される。

「そのまま果てろ」

 ガントレッドチェッカーを一点を貫くことのみに特化した形状に変形させて、プレデターは拳を突き立てる。刃が怪人の装甲を貫き、肉を抉る感覚が腕に伝う。

『……ッ、さっきから、痛い…………ッ!!』

 対して、ライブラリは栞の剣を再び振るう。それはプレデターに変身した草壁の装甲を両断し、その胸に豪快な切り傷を生んだ。

「かッ、あ……ッ!!」

 プレデターは膝をつく。

『……そのまま、死んで』

 ライブラリの剣がプレデターを掠める。が、次の瞬間には、真っ向からそれは砕かれた。

『Beast Charging Smash!』

 膝をついたプレデターだったが、それは大袈裟なハッタリ。ドライバーのボタンを押し、必殺技が炸裂する。

『……ッ、調子に、乗るな…………ッ!!』

 ライブラリの右足がプレデターの頭蓋を蹴り抜く。重心を崩したプレデターに、レプリシューターの銃口が突きつけられる。

『いい加減大人しく死んで』

 電子音とともに、引き金が引かれる。

『Library Drive』

 幾重にも別れた光弾が突き刺さり、プレデターの変身は解かれた。

「ぐッ、あァッ……!?」

『わたしを手間取らせた罰。せめてあなたは苦しめて殺してあげる』

 その足が、草壁の腕を踏みつける。

『ほら、もっと抵抗して。最後まで苦しみ抜かせた上であなたを殺す。その方が……あの怪物も絶望して死ねる……ッ!?』

 狂気的に笑うライブラリだったが、悪寒を覚え、ふと背後を振り返った。

『……だ、れ。あ、なた、は…………』

「君が今苦しめているそのイケメンの恋人だよ」

 その悪寒の主は、神蔵であった。

「待て藤子、君が来て何ができる!?君を傷つけたくないから私は……」

「……恋人を傷つけたくないのが、何も君だけだと思うなよ」

 その目は明確な苛立ちを孕む。その感情を向けられるのは、ライブラリ以外にない。

「だ、めです……一般人を……巻き込む、わけには…………」

「うるさいぞ黒薙の後輩。……それに、私はただの一般人ではない」

 懐からあるものを取り出すと、ふふっと笑う。

「と、うこ……まさか、君は……ッ!」

「すまなかった蒼哉。君を学校まで迎えに行ったのはあの店に連れていくためではなく、ただのついでだったんだよ」

 それを腰に押し当てて、神蔵は続ける。

「叶絵ちゃんからこれを受け取るために、明星学園に向かったに過ぎない。これについて文句は言わせないよ。君が私を守るためと言ってライダーの力に手を出したんだ。同じことをされても文句は言えないだろ?」

 ベルトが自動的に巻きつく。

「だから……二人ともできるだけ下がっていてくれ。私の戦いに、君たちを巻き込みたくはない」

 マテリアキーを左手に、ワイングラスのように持つ。

『誰だか知らないけど、わたしに勝つつもり?なら、甘い』

「おやおや、まだ苦味も知らない小娘が一丁前の口を利くね?」

 右手でヘッドを回す。瞬間、神蔵の体から、目視できるほどに濃度が高く、また多量のホルスが放出された。

『Laser! Set!』

 “L”と刻印されたマテリアキーが、ドライバーに装填される。

「さぁ、テイスティングの時間だ。──変身」

 そして、神蔵の手がドライバーのボタンを押した。

 


 

『Leaping Landscapes! It's a Ray of Laser!』

 神蔵の体を、紫色のリングが包み込む。溢れ出るホルスが神蔵の体を変質させ、毒々しいアンダースーツを形成する。ドライバーから生み出されたアーマーが体に吸い付き、その上から、縛りつけるようなラインが走った。

『Ignited HORUS system……“Arte”』

 マスクの複眼部分が金色の光を放つ。この瞬間、神蔵の、仮面ライダーアルテへの変身が完了した。

『無駄。変身したところでわたしには勝てな……』

「どうした?言い切ってもいないうちに絶句するのはやめてもらえるか?」

 ライブラリはそう言うが、その言葉は最後まで続かなかった。

「あぁ、無理か。──なにせ、目を貫かれたものな」

 アルテが放った光線が、先程切り裂かれたライブラリの複眼を撃ち抜いたからだ。

『……殺す。殺す、殺すッ!!』

「好きにしてみるといい、小娘。もっとも、それが君ごときにできるならの話だがね?」

 くいと中指を突き立てて、アルテは笑う。

『Glorious-Stick!』

 そして、アルテの右手に大きな杖──グロリアスティックが現れた。

『死ね。早く、死ね……ッ!!』

「ははっ、そう喚いていても決定的な一撃を放たなければ私には勝てないぞ?」

『調子に……乗るなッ!!』

 続けざまに振り下ろされる剣戟を躱しつつ、アルテは杖での打撃を着実に重ねていく。

「どうやら、ここで幕引きのようだね」

 剣を弾き飛ばし、ライブラリは丸腰となる。

『なんて思うような馬鹿が、なんでわたしに勝てると思うの?』

 しかしライブラリは不敵に笑うと、無数の光線を油断しきったアルテに食らわせた。

『さぁ、今からゆっくりじっくり痛めつけて殺してあげる』

 じわりじわりとにじり寄る。

「……は、はは。まさか君は、今の攻撃程度で私がダウンしたとでも思ったのかな?」

 しかし、立ち込めた煙の中で、アルテの笑い声が響いた。

『……う、そ。ありえない、だって今の攻撃は…………ッ!!』

「全力でその程度なら、いささか興醒めといったものだね」

 グロリアスティックを天高く掲げて、アルテは言う。

「何が起こったんですか、今の……」

 その様子を見ていたミスティが、そう漏らした。

「何が起こった?はは、面白いことを言うね黒薙の後輩!ただこの杖で全部弾いただけだよ!!」

『……いいことを聞いた。つまりそれをあなたから奪えばあなたはもう攻撃を弾けない!!』

「みたいだね。やってみるかい?」

 ライブラリが叫ぶと、アルテはそれを嘲笑するかのように言った。

『上等……ッ!』

 無数のレーザーと剣術、そして体術を組み合わせた連撃に、当初は涼しい顔で受け流していた神蔵も、仮面の中で冷や汗をかいた。

「く……ッ!!」

 そして、ついにアルテの手からグロリアスティックが離れる。

『はッ、そのまま死ねッ!!』

 その隙を突くように、ライブラリの拳が迫る。

「……残念ながら、そういうわけにもいかないのでね」

 だが、アルテはあくまで不敵な笑みを浮かべる。直後、アルテの右の手の甲が、ライブラリの拳を弾いた。

『な……ッ!?』

「何を呆けている?ここまでで私の力は見せてあげたろう?」

 そして、一瞬だけライブラリが怯みを見せた。アルテにとって、その一瞬は反撃に足るだけの時間だった。

『か……ッ!?』

 光のラインを描き、グロリアスティックがアルテの右手に戻る。横薙ぎの殴打が、ライブラリを一方的に突き飛ばした。

『よ、くも……ッ!』

 ライブラリは吹き飛ぶ体を右腕を支柱代わりに留め、必殺技を放つ。

『Library Drive』

 無数の光弾がアルテに迫る。しかし、その全ては、グロリアスティックに吸収された。

『う、そ……?』

「そろそろ飽きたし……終わりにしようか、小娘」

 そう言うと、グロリアスティックの先端部が、まるで羽を広げるかのように展開した。

『Material Attack!』

 ドライバーから抜き出されたマテリアキーが、グロリアスティックに装填される。その動作を見て、ライブラリはその場を去ろうとするが……。

『Glorious Bright!!』

 乱反射とともに、天使のような杖から放たれる無数の光線は、無慈悲にもライブラリを貫く。

Σας χαιρετώ(では、これで)

 アルテがギリシャ語で告げるとともに、大爆発が起こった。二人の戦いは、それで終結した。




 こんにちは皆さん。墓脇理世です。
 今回は神蔵さんが初めて変身しましたね。なぜミスティや草壁があそこまで苦戦したライブラリを圧倒できたかと言いますと、本作のライダーは本人が放出しているホルスの量だけ出力が高くなるんですね。
 神蔵は自分でホルスを放出できず、能力開発も受けてなくて、ホルスドライバーの力で初めて体外に放出できるわけなんですけど、つまり他のやつらと違って能力を使うために体内に残しておく分が不要なんですよね。なのでスペックも他より高いんです。逆に言えば彼女には伸び代がないということでもありますけど。

 さて、次回は大きく話が動きます。あと3話で今の話も終わりですのでここからは前に言った通りにジェットコースターみたいに進んでいきますよ!お楽しみに!!
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