仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第33話「明かされし『背反』のクイーン」

 それから数日が経過して、六月二十三日。あと一週で六月も終わりに差し掛かる。

「さて、お仕事お疲れ様ですマルチフェイス。あなたのおかげで、面白い情報が手に入った」

「ん〜……月面博覧会なんてぃ、そんなに面白いものかねぃ?」

 件の廃ビル。そこに立ち入ったスーツ姿の男の身体が、一瞬にして小柄な少女のものへと変化を遂げた。

「えぇ、面白いですとも!!OOのものと全く同じカタチをしたバックルですよ?これを面白いと言わずに何を面白いと言うべきか!!まさに天はワタシたちに味方している!!」

 近日中に、誘宵学区内の博物館で開かれるとされる、月面探査機が持ち帰ったものを展示するイベント。そこに、OOのドライバーと同型のバックルが紛れ込んでいることに気が付いた菱杖は、化野を関係者に擬態させて情報を探らせていたのだ。

「関係者向けの先行公開が近日中に行われる。ワタシたちの目的はそこに侵入して、そのドライバーを奪うことです」

「へぇ……面白そうじゃないか。つまり俺たちもその手伝いをするってことだろう?」

「えぇ。話が早くて助かります、パラサイト」

 怪人たちは、目的のためにと作戦を練り始める。

『……待って。その前に、青いOOとあの紫女に復讐させてほしい』

 そんな中で、顔の下半分を機械で覆った朱本が言った。

「やめておきなよライブラリ。それは目的を果たしてからでも……」

『できる、とでも言うつもり?あなたも知ってるはず、怨みの感情と苦しみで夜も眠れない気持ちは!!』

 鮎川がそれを止めようと割って入るが、朱本は機械音で叫ぶ。

「喚くな、鬱陶しい女だ。……どうせOOたちのことだ。どこかから自分たちの作戦を聞きつけて邪魔しに来るのだろう。その時に潰せばいい」

 高坂は、人形を縫いながら言った。

『そんな悠長に言ってられない!!わたしは今すぐにでもあのクソ女どもを……』

「うるさいですねぇライブラリ。死にたくなければ黙っていてもらえませんか?」

 業を煮やしたのか、怒りを多分に含んだ声色で菱杖が言う。

『……ッ!!』

 朱本は、怒りのままに椅子を蹴倒して自らの部屋へと戻っていった。

「おっと、本当にいいのかい、センセイ?あのままじゃ彼女、本当に潰れちゃうかもよ?」

「そうなる前にワタシの能力でもかけておきましょうか……その前に独断で出て行ってしまえば、それはもう処刑するしかありませんが」

 ロベリアと菱杖は、朱本が駆け上がって行った階段を見ながら言った。

 


 

「おはようございます、先輩。昨日のニュース、見ました?」

「おうおはようミスティ。僕は基本的にはネットニュース派だから見てねぇけどなんか面白いモンでもあったか?」

 翌朝。ミスティが神妙そうな顔をして黒薙に話しかけた。

「これです。来月から開かれるっていう月面博覧会のCMに写ってました」

 ミスティが見せた写真は、OOドライバーと同型の石像のものだった。

「これ、何に見えます?」

「色はよくわかんねぇけど……僕のドライバー、だよな?」

「ピンポーン。正解です」

 上機嫌そうにミスティは言う。

「おっと、なんの話をしているのかね白髪頭」

「うげっ、草壁蒼哉……」

 そんな二人の会話に割って入るように、草壁が現れた。

「その写真……例の催し物のものかね?興味でもあるのか?」

「はい。この展示物が特に……ほら、先輩のに似てるでしょう?」

「あぁ……確かに白髪頭のベルトはこんな形だな」

 草壁は顎を撫でて少し思案する。

「……近くにある関係者向けの先行公開。F!nderの編集者代表として私が向かうことになっているのだが、その時に見てこようか?」

「いいのか?」

「あぁ、構わない。正直、私としてもそれに興味があるし……な?」

 サムズアップしながら、草壁は笑った。

 

 

「……おはよ、“黒薙“」

「おっすおはよう“赤萩さん“……なんっつーか、この呼び方なかなか慣れねぇな」

「ね。……元々はそう呼び合ってたはずなのに、不思議よね」

 それから少し後。廊下で亜矢と遭い、二人で教室へと向かった。

「なんていうか、あの銀髪オッドアイ……ロベリアだっけ?あいつ、なんだったのかしら……?」

「さぁな。……一つわかるのは、朱鷺澤は自分の意思であいつに従ってるわけじゃないってことくらいか」

「……そうね。私もそうは思うんだけど、アンタはなんでそう思ったの?」

「目を見りゃわかる」

 黒薙は息を吐きながら言う。

「なんて言えばいいかわからねぇが……その、あの時のあいつの目……あれはとてもじゃねぇが、ブレない一つの芯を持ってる”人間”じゃなかった。昔から見てきたんだよ、あぁいう全てを他人に委ねさせられてる人間の目」

 遠い目をして言う黒薙が、どこか遠くに行ってしまうような錯覚を覚えて。

「……ごめん颯斗、ちょっとこっちきて」

 亜矢は小声で階段下の人目につかない場所へと黒薙を誘導した。

「あ?何を……」

「……ごめん。なんか、このままだとアンタまでどっか行っちゃいそうな気がして」

 目に少し涙を浮かべて、亜矢は黒薙を抱きしめた。

「〜〜ッ!?あのなぁ……ま、あんなことがあった後じゃ疲れててもおかしくはねぇか。どうせ誰も見てねぇし……お前の気が済むまで、そうしてくれていいよ」

「うん……」

 それから二人は、数秒ほどではあったが、言葉もないまま、そこで抱き合っていた。

 


 

「……また襲撃事件ですか。これで何回目かしら?」

 下総から報告を受け、遠山はため息をついた。

「被害者は?」

打樋(うてび)亜雄(あお)。前の怪人野球部のバッターどす」

 その情報を聞き、遠山は息を吐く。

「……また、怪人事件に関わった生徒が、ねぇ」

 遠山の手元には、ここ数日で起こった襲撃事件の資料が束ねられている。

「始まりは波風衛。続いて怪人野球部のキャッチャーと審判、そして今日のこれ。……『フラワー』を何人か、ピッチャー・東堂(とうどう)一直(かずき)の護衛につける。『スプレー』は東堂の周辺の観察をお願いするわ」

「他の奴らはどないしまひょ」

 下総の問いを受けると、遠山はニヤリと笑った。

「他に元怪人だった生徒には、私の方から心強い護衛をつけます。一応、足止め程度以上の結果は残してくれると思いますよ」

 

 

「そういうわけで私がアンタの護衛やることになったんだけど……なんで私のゴシップ狙ってきたクソ女のお守りなんかしなきゃいけないのかしら」

「その節は本当にご迷惑おかけしましたぁ……」

 かつて怪人事件に関与した生徒が狙われている、ということで、つい最近釈放された多々羅の護衛として亜矢が駆り出されていた。

「……というか、私だって怪人事件に関わった生徒なのに、わざわざ固まらせるって何考えてんのかしらあのクソ年増」

「年増、って言っても一つしか違わないじゃないですかぁ……」

「あ?アンタ自分が口答えできる立場にいるとでも思ってんの?」

「うぅっ、ごめんなさぁい……」

 亜矢の辛辣な言葉に、多々羅は思わず涙をこぼした。

「あー……ご、ごめん、私も言い過ぎたから……」

 自分の言葉で多々羅を泣かせたことに罪悪感を覚え、亜矢はハンカチを差し出す。

「うっ、ありがとうございますぅ……ひっく……」

「……そうね。アイスでも食べに行く?」

「いいんですかぁ!?」

 亜矢の提案を聞き、多々羅は目の色を変えた。

「……ったく、現金なやつ」

 

 

「……よう、久しぶりだなバスジャック犯?」

「アンタは……黒薙さんかァ?」

 同時刻、黒薙はかつて戦った怪人の変身者・志々田(ししだ)顕吾(けんご)と接触していた。

「正解。……ま、僕もそこまで暇でもないんだが、ここ最近、怪人事件に関わった生徒が襲撃される事件が起きてるってんでテメェの護衛だ」

 人選ミスな気はするけどな、と黒薙。

「……一応聞いとくが、もう怪人の力に手を出す気はねぇんだよな?」

「あァ。オレはアンタに救われた。無能力者が虐げられる世界を変えようと思ってたのに、気付いたらクズになっちまってたんだ」

「……なるほどな。ンな顔で嘘つく人間はいねぇだろうし信じさせてもらうよ」

 ちょうどそこにあった自販機に小銭を入れ、黒薙は紅茶と缶コーヒーを一本ずつ買った。

「飲むか?」

「コーヒーの方なら」

 

 

「はい、こちらは遠山です。どうなさいました?」

『……例のやつが現れました。護衛の『フラワー』は全員気絶させられて、『スプレー』はなんとか見つからんまま場を凌げたってところどす』

 翌日の放課後、遠山は下総から襲撃事件の続報を受けていた。

「……東堂一直は?」

『一発でやられました。なんかを探してるみたいでしたけど、なかったんか、合掌して帰りやがりましたわ』

 その言葉を聞き、遠山は通話を切る。

「了解。……さて、そろそろ、こちらも動く頃合いかしら?」

 


 

「本当に大丈夫なんですかねぇ、また怪人事件に関わったひとがやられちゃったんでしょう?」

「みたいね。……っていうか。昨日も言ったと思うけど私も怪人事件に関わった生徒なんだし、やっぱり二人で固まってたら余計に危ない気がするのよね」

「……それはわたしも思いますねぇ。あ、亜矢さん一口食べます?」

「じゃあお言葉に甘えて。……うん。美味しいわ」

 また襲撃事件が起こったと報告を受けた二人は、ケーキ屋で駄弁っていた。

「ここのスイーツ、すっごい人気ですからねぇ……予約しておいた日が懲罰房出た後でよかったぁ……」

「……ここを予約しておいてアレやったってアンタってすごいアホよね」

「自覚はありますのでご心配なくぅ〜!!だいたい何年も好きだった相手にずっと告白を先送りにしてきたひとにアホとか言われる筋合いありません〜!!」

「テメッ、どこでその話聞きつけてきやがったのかしら!!??」

 多々羅の発言に、亜矢は目をひん剥いた。

「あっはは!!綺麗なお顔が台無しですよぉ?」

「うっさいわね誰のせいで……!!」

 それからしばらく、二人はこういった調子で会話を続けた。

「修学旅行の時から思ってたけど、アンタの相手って疲れるから嫌なのよね……」

「そうですかぁ?わたしは赤萩せんぱいと話すの楽しいし好きですよぉ?なんかぁ、籠の中の虫けら観察してるみたいでぇ」

「誰が虫よ。……じゃあ、お会計行くわよ。アンタの奢りね」

「えぇっ?いや別にいいですけどぉ……貸しにしておくんでちゃんと後で返してくださいねぇ?」

 そもそもここに来たいと言い出したのは多々羅であるため、会計は後輩に任せた。最悪な先輩である。

「次、どこ行きますぅ?」

「そうね…………ッ、多々羅、伏せなさいッ!!」

 店を出て、次にどこに行こうか考えていた矢先に、何者かから襲撃された。亜矢は多々羅の手を取り、どこか安全な場所を探す。

「どこか……逃げられる場所は……ッ!?」

『あるわけない。……初めから持ってることがわかりきってる相手を狙えばよかったのに、なんで野球部を先に狙わせたんだろ』

 しかし、怪人は──ジェリーフィッシュ・シャトランは、ふたりを逃がさない。

『今からふたりまとめて倒すけど……覚悟はいい?』

「逆に聞くが、今から二人がかりでてめぇを倒そうと思うんだが覚悟はいいか?」

 ジェリーフィッシュがそう問うた、次の瞬間。路地裏から、赤萩と草壁が姿を現した。

「……遅いのよ、お兄ちゃん!!」

「これでも飛ばしてきたんだ、勘弁してくれよ……」

 赤萩はドライバーを取り出しながら言った。

「それじゃ行くか、草壁」

 二人の腰に、ドライバーが巻きつけられる。

「「変身」」

『Fire! Fire! This Is the Burning Flame!』

『Bite and Bark! That's a Greedy Beast!』

 二人は、それぞれに対応したライダーに変身した。

『たった二人で私に勝つつもり?』

「私もいること忘れてもらっちゃ困るんだけど。いつまでも守られっぱなしってのはシャクだし……アンタを倒させてもらうわ」

 亜矢はレプリシューターを取り出そうとする。しかし、それは横にいた多々羅によって遮られた。

「ちょっと何すんのよアンタ……」

「不思議に思わなかったんですかぁ?怪人事件に関わった赤萩せんぱいが、一方的に別の関わった生徒の護衛につけられたことぉ」

 多々羅の鋭い目は、ジェリーフィッシュへと向けられる。

「つまりぃ、わたしの方にも赤萩せんぱいを守れって命令が下されてるんですよぉ……これでぇ、四対一ってわけですねぇ!!」

「いやアンタさっきの含みのある物言いは何だったのよ、裏切るのかと思ってビビったじゃない」

「裏切ってほしかったんですかぁ?じゃあ今からでもジェリーフィッシュ側に付きますけどぉ」

「いやそうは言ってないわよバカなのアンタ?」

 茶番を繰り広げるふたりに、ジェリーフィッシュの触腕が伸ばされる。

「女の子同士のじゃれあいに混ざろうとするのは無粋ですよぉ。馬に蹴られて死ねばいいのにと思いますぅ」

「そんな当たったら痛そうなもの振り回さないでもらえるかしら?」

 だが、それらは二人の手に握られたそれによって打ち抜かれた。

「──行くわよ、多々羅」

「足引っ張らないでくださいよぉ、せんぱぁい♡」

 そして生まれた一瞬の隙を突くように、二人はレプリシューターの引き金を引いた。

「「解錠」」

『Queen Charge……Open“Hornet“』

『Bishop Charge……Open“Scandal”』

 ハニカム構造の鎧が亜矢の体に貼りつく。新聞紙やフィルムの切れ端を集めたような鎧が多々羅の体に巻きつく。瞬く間に怪人への変身を遂げた二人は、互いにレプリシューターを構えて、ジェリーフィッシュへと飛びかかった。

 


 

「なんで僕のところに二人も元怪人押しつけられなきゃいけないのか誰か教えてくれねぇかな……」

 一方その頃、黒薙は、別の仕事が入ったミスティに護衛対象の生徒を押し付けれていた。

「おっ、なんだァ?オレ様と殴り合うかァ?」

「……っつーか、なんでこんなクソめんどくせぇヤツなんだよ。あいつぜってー僕に面倒ごと押し付けたかっただけだろ…………」

 ちなみに、ミスティが護衛することになっていたのは内村(うちむら)殴打(おうだ)。以前、黒薙たちが修学旅行に行っている間に草壁が戦った怪人、ナックル・シャトランの変身者だった男だ。

「心中お察しするぜェ黒薙さん」

「せんでいい、面倒なことをするのが仕事なんだよ」

 黒薙はため息を吐きながら言った。

 

 

 それから少し経ったころ。二人を連れながら見回りをしていると、不意に違和感を覚えた。

「待て。……何かいる。下がれ」

 そう告げて、黒薙は周囲を見渡す。

「へぇ、意外と察しがいいんだね」

 同時に、虚空から声が響いた。その手が、内村の元へと伸ばされる。

「チッ、ちょっと痛ぇかもしれねぇが我慢しやがれ……ッ!」

 内村の手首を、その影が掴む。引きずり込まれる寸前に、黒薙の爪先が内村の体を吹き飛ばした。

「か……ッ!?」

「黒薙さんアンタいくらなんでも……ッ!?」

 さらに、志々田にもタックルをかます。怪人から離れたところに移動させられた二人の手が、さらに何者かによって引かれる。

「ナイスっす先輩!おびき寄せ作戦大成功っす!!ほら乗った乗った!!」

 元怪人の二人の手を強引に掴んだのち、有栖川は二人を護送車にぶち込んだ。

「別に逃がしてもいいけど、ぼくがきみを殺してアレを追うとかは思わなかったの?」

「逆に聞くが、草壁蒼哉と相討ちになる程度の実力であいつを倒した僕を殺せるとでも思ってんのか?……なぁ、鮎川悠翔」

 黒薙はドライバーを構えながら言った。

「いや、思ってないよ。ぼくの仕事はジェリーフィッシュが仕事してる間にあの二人を連行することだったけど、それもできなさそうだし……まぁ、仕事は失敗したけど、きみにダメージを与える程度はしておこうかな」

 そう言うと、鮎川はこれだけ告げて姿を消した。

「……きみの妹が面白いことになってるけど、助けに行ってあげたら?」

 

 

「チィッ……レーツェル、まだ行けるか!?」

「余裕ですよクソ女。……ったく、なんだってこんな面倒ごとに巻き込まれなきゃいけねぇんだ……ッ!!」

 その裏で、ミストOOとアルテは朱本──ライブラリと交戦していた。赤萩たちがジェリーフィッシュと遭遇したと報告を受け、そこに向かおうとしている中で強襲された。

「それにしても……前に戦った時よりも強くなっていないか君ィ!?」

 ライブラリの攻撃を一つ一つ弾き落としながら、アルテが言う。

『うるさい……殺す、殺すッ!!』

「言葉が通じないやつの相手ほど面倒なものもない……ッ!!」

 しかし、遠隔攻撃を捨て、狂ったように接近戦に走るライブラリの攻撃に、苦戦を強いられていた。

「あぁもう邪魔だ!接近戦に長物はあまりに不得手すぎる!!」

 アルテにとって最大の強みであるエネルギー吸収だが、相手が拳で挑んでくる以上、無用の長物である。杖を投げ捨て、アルテは拳を構えた。

『今更構えても遅い……ッ!!』

 ライブラリの拳が、アルテの顔を撃ち抜く。

「ふっ……ようやく、隙を見せてくれたな」

 直後、アルテの眼光が、ギラリと煌めく。全体重を乗せたカウンターの拳が炸裂したのは、その一瞬後のことだった。

『ぐ……ッ!』

 ライブラリは歯を食いしばって上体を起こす。しかし、

「あぁ、それ以上動いたら首切り落としますから。それが嫌なら今すぐ変身を解いて投降しろ。私だって二度も同じ人間を殺したくはねぇ」

 苛立ちを示したミストOOが、その首にオブリビオンセイバーを突きつけた。

 


 

(アイツの触手は見た限りは八本。全部を同時に動かせると考えると、四人でもなかなか厳しいか)

 フレイマーはジェリーフィッシュの攻撃を捌きながら思考する。

『Tune Reacter Eye』『GauntRed Checker!』

 その意思をくみ取るように、プレデターは武器を出現させて、ジェリーフィッシュへと飛び込む。

「……あぁ。こっちも行くぞ」

『Tune Heat-Up. Ignited Burning Flamer!!』

 フレイマーもブルーフレイマーに変身し、ジェリーフィッシュの元へと駆け出した。

『チッ、面倒な真似を……ッ!!』

 二方から襲い来る攻撃に対処するため、ジェリーフィッシュは八本の触腕を振るう。だが、相手は二人だけではない。

「ほら、さっきまでの余裕はどこ行ったのかしら?」

「わたしたちのこと忘れちゃヤですよぉっ!!」

 ホーネットの毒針と、スキャンダルのレーザーが迫る。

『どいつもこいつも主張が激しい……あたしくらい慎ましくないと、あの男も愛想尽かすのに』

「あぁん!?誰が乳は慎ましやかなのに主張が激しいクソ女だって!?ブッ殺す!!」

『ンな話はしてない……ッ!』

 ホーネットの毒針が突き刺される寸前に、無数の怪人が召喚され、物量戦で押し返された。

「……なるほどぉ。今の言葉を聞くにぃ、ジェリーフィッシュも黒薙せんぱいのこと好きなんですかぁ?意外でしたぁ、いくらクズのわたしでも女主導のNTRはあんまりソソられませんけどぉ」

『だから、ンな話はしてないって言ってるんだけどアバズレ。そんなに殺されたいの?』

「ん〜どこかで聞いたような言葉遣いですねぇ、好意の対象の真似から入るタイプですかぁ」

 スキャンダルは、ケラケラと嘲笑するように畳み掛ける。

『うるさい女。死んで』

 槍のように鋭く尖った触手が、スキャンダルへと伸びる。しかし、

「「遅い」」

 一点を衝く形に変わったガントレッドチェッカーと、二本の毒針が、その触手を奪い去った。

『チッ、雑兵程度じゃ力不足か……ッ!!』

 撃ち抜かれた触手を再生させて、ジェリーフィッシュはスキャンダルへと殴りかかった。

「か、あ……ッ!?……よ、うやく。隙を突けましたねぇ……??」

 痛みを堪えながら、スキャンダルは両腕を伸ばす。

「あなたのっ、弱みはぁ……お見通しですよぉ……ッ!!」

 スキャンダルの変身が解除される。小さな口から血を吐きながら、なおも笑みを浮かべる多々羅の腹を、ジェリーフィッシュが蹴り抜いた。

『……そんな能力を使ったところであたしの戦力は削れない。無駄死にだったね、スキャンダル』

「いや……お前の弱点、ソイツのおかげで丸見えだぜ」

 勝ち誇ったように言うジェリーフィッシュの首筋近く、触手の生え際を、フレイマーの拳が撃ち抜く。驚いたような声を上げるジェリーフィッシュに、プレデターが嘲笑にも似た声をかけた。

「あぁ。そう見せびらかすようにピカピカと光らせていては、狙ってくださいと言っているようなものだぞ」

 続けて、プレデターの腕に装備されたソレが、ジェリーフィッシュの触手を何本か消しとばす。スキャンダルの能力で曝け出された弱点を、的確に撃ち抜いていく。

「なんでもいいけど……私、倒した相手をいたぶる奴って大っ嫌いなのよね」

 そして、最後に残った二本を、ホーネットが吹き飛ばした。

『……ッ、やって、くれる……ッ!!』

「それじゃ、終わらせるぞ」

 フレイマーの言葉を引き金に、三人は各々のデバイスを操作した。

『Heat-Up Tuning Break!』

『Beast Charging Crash!』

『Hornet Drive』

 アクロバティックな動きで、フレイマーの踵が振り下ろされる。次いでプレデターの両腕から獣のようなオーラの波動が放たれ、とどめに、上空へと飛び上がったホーネットが舞い降り、毒針をジェリーフィッシュの胸に突き立てた。

 ドンと爆発が起きる。怪人の鎧が剥がれ落ち、そこには、一人の少女が現れる。

「なぁテメェら、僕の妹に何やってやがんだ…………?」

 そこに現れた黒薙は、声を震わせて問うた。

「……わ、たしが。私が聞きたいわよ。……なんで、アンタがこんなこと…………」

 亜矢も同じく声を震わせる。赤萩も驚きと困惑を綯い交ぜにした表情で言葉を失い、その少女のことを知らない草壁さえも、少女の外見から事情を察したのか、頭を抱えた。

 なぜなら、数秒前まで怪人がいた場所に立っていた、銀髪に真紅の眼の少女こそが──黒薙颯斗の実妹、黒薙澪であったからだ。

 


 

「……おい、何がどうなってんだ。誰でもいいから説明してくれよ…………」

 焦りと困惑の混じった声色で、黒薙は言った。

「……赤ツインテと礼子が怪人に襲われたと聞いて、私たちが駆けつけた。そして撃破した。そうしたら中から君の妹と思しき少女が現れた。以上だ」

 草壁は、あくまで落ち着き払ったまま応えた。

「嘘、だろ……?なぁ澪、全員で僕にドッキリ仕掛けてるとかそんなのだよな……??」

 声を震わせて、乾いた笑いと共に、澪へと問いかける。

「……本気で、そう思ってる?」

 しかし、応える声は、冷たいものだった。

「…………そう、か。一個だけ聞かせてもらっていいか?……お前は、なんで怪人の力なんかに手を出したんだ?」

 黒薙の問いに、澪はしばし俯くと、胸中のモノを吐き出した。

「…………兄さんが戦いに巻き込まれるのが嫌だった。ライダーになる前から、兄さんはずっと危ないことに巻き込まれてばっかりだった。なんで?なんで兄さんばっかりが危ないことに巻き込まれなきゃいけないの?そんなのおかしい、兄さんには何の罪もないのに!!傷ついて、裏切られて、それでも何でもないみたいに笑って、また戦って!!なんで!?戦える人なら他にいくらでもいる!!陽希さんも亜矢さんも草壁先輩も戦えるじゃん!!なのになんで兄さんは戦うの!?あたしがこんなに心配してるのに、なんで兄さんは気付いてくれないの!!??」

 澪の言葉を聞き、黒薙は思わず、戸惑うような表情になる。

「亜矢さんも最初は兄さんが戦うの嫌だって言ってたよね!?だからあたしは亜矢さんの背中を押したんだよ!?この人なら無茶しがちな兄さんを止めてくれるって、そう思ったから!!なのに亜矢さんは兄さんを止めるどころか、その背中を押した!!ふざけないでよ、兄さんのことなんて何も知らない部外者のくせに!!」

「……違う。私は…………っ!!」

 亜矢は否定しようとするが、捲し立てるような澪の想いに、その言葉は押しのけられる。

「陽希さんも、草壁先輩も、レーツェル先輩も!!他に戦える人がたくさんいるのに、なんで誰も兄さんのことを気にかけてくれないの!?少しくらいは休んでもいいって、その程度の言葉でいいのに!!誰よりも普通なのに、普通じゃなきゃいけないはずなのに!!なんで兄さんの戦いを止めてくれないの!?苦しんでる人を救うのがヒーローなんじゃないの!?だったら助けてよ!!誰よりも苦しんでる兄さんを、助けてあげてよ!!」

 いつからか涙すら流して、澪は叫んだ。

「……澪。お前は…………」

「……なに?たった一人の家族を心配することのなにが悪いの?兄さんだっていつもあたしを守ってくれるよね?……たまには、あたしが守りたいって思うことすら許されないの?」

 あぁ、この子は私と同じなんだ。その言葉を聞いて、亜矢は得心した。亜矢だって、義兄が危険に巻き込まれることを嫌がり、自分は承認欲求を満たすための道具じゃないとまで言い放ってしまったことがある。もちろん、彼が傷つくのは嫌だ。それでも、罪を償うためだからと自分に言い聞かせてきたが、黒薙には戦わなければならない理由などないのではないか?

「……いや、待てよ。確かに家族に傷ついて欲しくないって気持ちはわかるが、お前が怪人になったことと黒薙を守りたいってのは矛盾してねぇか?」

 赤萩が質問すると、澪は遠い目をして答えた。

「……怪人になって兄さんをちょっと傷つければ、しばらくは戦わないで済むと思った。だから、怪人になった。クロージャーは兄さんに致命傷は与えないって言った。だから……」

 続く言葉を、パチンと鋭い音が遮った。

「……ふざけんなよ。テメェ、ンなことのために怪人として大勢を傷つけたってのか!?」

 黒薙が、澪の頬を叩いたからだ。

「……ンなこと、ってなに?あたしがどれだけ兄さんを心配してたと思ってるの!?」

「ンなことだろうが!!戦える力のある奴が戦わないと誰かが傷つくから僕が戦うんだろ、なんでンな簡単なことすら分からねぇんだお前は!?」

「だから、他に戦える人がいるのに兄さんが戦う理由なんてないって言ってるでしょ!?自分のことなんて何も考えずに他人を守るなんてバカの言葉でしかない!!自分のことすら守りきれない兄さんに他人を守れるわけなんてないじゃない!!」

 澪が、鋭く言い放った。

「……あぁ。そうだな。だから僕は、僕たちは戦うんだ。一人でも傷つく人を減らすために、しがらみや過去を忘れて手を取り合うんだよ。……お前に心配かけたのは謝る。謝るから、もう怪人なんかにならないでくれよ……お前が僕を心配してくれてるのと一緒で、僕だってお前が危ないことしてたら心配になっちまうんだよ…………」

 黒薙は、涙を浮かべて言った。

「……あ、ちょっといい雰囲気のとこ悪いんだけど澪ちゃん?さっきアンタ、クロージャー、つまり菱杖が颯斗には致命傷は与えないって言ったって言ってたわよね?」

 そんな中、思い出したかのように亜矢は言う。

「言った、けど……」

「……あんまりこんなこと言いたくないけど、言わせてもらうわね。菱杖は颯斗の両腕を切ろうとした。それを致命傷を与えたと解釈するかどうかはアンタの自由だけど……少なくとも、失血死しかねないくらいの血は出てたわよ?」

 そして、決定的な一言を告げた。

「う、そだ……じゃあ、あたしは…………ご、ごめんなさい、そんなこと知らなくて、そんな奴に手を貸してたなんて…………ッ!!」

 亜矢の表情からそれが嘘でないと察した澪は、両目に溜まった涙滴をポロポロと溢しながら叫んだ。

「……いいんだよ、澪。自分の意思で怪人になっちまったことについては、これからちゃんと裁きを受ければいい。だから、そんなに気に病まなくていいんだよ」

 包み込むように、柔らかな声色で黒薙は言い、その右手を澪の頭に載せようと伸ばす。しかし、直後に、その場の全員がバランスを崩して地に膝をついた。

「イイ雰囲気なところ悪いですが……仕事の一つもロクにこなせない、使えない部下の回収に来ましたよ」

 右手をカッと広げて、菱杖は歪んだ笑みを浮かべた。




 澪がジェリーフィッシュだってことは初登場時からわりと口調とかで匂わせてきましたがようやく種明かしできました。というわけで墓脇です。
 澪は初めて出てきた時から徹底して黒薙を心配してるんですよね。初期の亜矢さんも黒薙に戦って欲しくないと言っていましたが澪はそれよりもいくらか過激なんですよ。極端な話、黒薙さえ傷つかなければ他の誰が傷付こうとなんとも思わないってことですから。
 それからスキャンダルの能力について。彼女は両腕に巻き付いた新聞紙やフィルム(と言ってもデザインは出ていないわけなので皆様の想像に委ねる形になりますが)を相手に巻きつけて、ホルスを送り込むことで、送り込んだ量に対応した時間、相手の弱点を可視化するんです。その間自分も身動き取れないから修学旅行編では使わなかったんですね!いやまぁ普通に後付けなんですけど……。
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