第36話「闇を映すは墨と『
菱杖透流が黒薙たちへと向けて送った犯行声明。それが影響を与えたのは、黒薙たちだけというわけではなかった。
「黒薙に、赤萩に、牧瀬……?朱鷺澤の失踪とも、関係があるのか……?どうして俺には、何も『特別』がないんだろうな…………」
それは、あるいは黒薙たちの友人に。
「あの声は、あの話し方は、あの態度は、間違いなく透流くんのもの……なんでですか、透流くんはもっと優しい人だったじゃないですか……っ!!」
あるいは、黒薙たちの担任教師、及び菱杖の恋人に。
(あの男の側につくつもりはない。かといって、黒薙颯斗を助けるつもりもない。私は私の目的を遂行するだけ。待っていてください──アルテミス様)
あるいは、訳あって怪人に与しているものの、今まで一度も戦場に立っていない少女に。
あるいは、あるいは、あるいは。
それぞれが、あの放送から異なるものを受け取っていた。
……さテ。それでハ、語るとしようかネ。『異能共鳴』の少年の物語ノ、一つの区切りと云う奴ヲ。
さア、ページを読み進めロ。少年が望んだ結末を掴み取ることができるカ、その目で確かめるがいいネ。
「亜矢様。到着しました」
「うん。ありがとフローラ。……別に、そこまでついて来なくてもいいんだけど」
「何を仰いますか亜矢様。私はあなたの家族です。不出来なお嬢様のことを心配してしまうものなんですよ、私ってやつは」
七月の朝。亜矢はフローラの車で学校へと向かっていた。
「誰が不出来なお嬢様よ」
「……それに、黒薙颯斗に言われてしまったんですよ」
「無視?……で、颯斗になんて言われたって?」
亜矢の問いを聞き、フローラは語り出した。
つい数日前のことなのですが、黒薙颯斗が席を外していたので、亜矢様がお眠りになっている時に、着替え等の最低限の用意だけして、亜矢様のお部屋から出て行こうとしたんです。その……私も、陽希様のことで血迷っていまして、仕事のことを優先しようとしてしまったんです。
『……何してんだよ、あんた。なんで亜矢のことを見ててやらねぇんだ?』
『……陽希様の仕事の引き継ぎがあるのよ。非情だと嘲ってもらっても構わない。だから、私に…………』
『干渉するな、とでも言うつもりか?』
その時に、偶然黒薙颯斗と居合わせてしまいました。
『……えぇ、そうよ。それが、あなたに何か関係あるのかしら?』
陽希様の件で気が動転していた私は、つい彼にきつく当たってしまって。
『関係あるのか、だぁ?……ふざけんじゃねぇよ。あぁ、そうだな。僕にはなんの関係もねぇかもしれねぇ。だが……亜矢はどうなる?』
彼の言葉を聞いて、ハッとさせられました。
『テメェは!!たった一人残された、亜矢の家族なんだろ!?普段気丈に振る舞ってても、あいつは弱い女だ!!喪失感に潰されそうになってる時に、家族がそばにいてやらねぇでどうするってんだ!?』
あぁ、私はなんと愚かだったのだろう。あの男に言われるまで、そんなことにすら気がついていなかったんです。
『……ま、僕も人のことは言えねぇんだが。しばらくは僕もここに来れねぇから、その間は亜矢のことはあんたに任せたい。頼めるか?』
『……えぇ。仕事の方は仲間に頼んでおきますか』
「へぇ……そういうことだったのね」
「そういうことだったんです。……ところで亜矢様、黒薙颯斗はしばらく来れないと言っていましたが、それについては、何か言っていましたか?」
フローラが問うた。
「なんていうか……自分をもう少し見つめ直したい、って言ってた。こんな時にこんなこと言ってごめんっては言われたけど……アイツ、カッコつけて溜め込むタイプだから」
亜矢は、慈愛に満ちた瞳で、愉しげに語る。
「……きっとアイツも、私と同じ。目の前の現実に打ちひしがれて、それでも前を向こうとしてる。だから、私は信じる。アイツは、必ず強くなって戻ってくるって」
「……っくしゅ!……なんだ、誰か僕の噂でもしてやがるってか……?」
その頃、黒薙はある場所へ来ていた。
「ギャハハ!!赤萩か早見あたりだろうな!!……で、もう一回言ってもらうぜ黒薙。なんの目的で俺の下まで来た?」
学生寮以外で、牧瀬が拠点としている廃工場だ。
「……僕は弱い。何かを成し遂げる力が、僕にはないんだ。……僕は、もっと強くなりたいんだよ」
真っ直ぐな瞳が、牧瀬を射抜く。
「──だから頼む。僕を鍛えてくれ。今の僕にはお前の力が必要なんだ」
その言葉を聞き、牧瀬は鉄骨から立ち上がった。
「鍛える、か。……別に構わねぇが、一つだけ気に食わねぇことがあるんだよな」
そして、躊躇なく黒薙の顔に拳を振るって、言った。
「……今のお前には、菱杖を倒すって言った時のあの輝きがねぇ。まずはそれを取り戻させてやるよ。安心しろ、取り戻せなかったらお前を殺すだけだからよ!!」
その拳を僅かな動きで躱して、黒薙は応えた。
「あぁ、いいぜ。やってやるよ……!!」
「蒼哉。怪我は治ったからいいけど、あんまり無茶はしないでね?」
「開口一番何だね藤子。私がそんなに無茶をするように見えるのか?」
「見えるから言ってるんだよ」
退院してから一日が過ぎた。顔を洗った草壁にタオルを手渡しながら、神蔵は言った。
「ところで、蒼哉は知っているかい?最近、能力者同士の乱闘事件が起きているそうだけど」
「噂程度には、な。確か……『怪人の手先は俺が倒す』だったか?」
「だね。蒼哉も気をつけた方がいい。少し調べたんだが、ランク7以上の能力者だけがアレに巻き込まれているそうだよ」
鞄を片手に扉を開ける草壁に、神蔵はそう声をかけた。
「あぁ。……君の方こそ気をつけろよ。今までもそうだったと言えばそれまでだが、いつ怪人が現れるかもわからないんだ」
「おや、蒼哉。こんなところで会うなんて奇遇だね。いつもはもっと早く来ているのに、今日はどうしたんだい?」
「あぁ希望。一応はこちらも病み上がりでな。数十分ほど長めに睡眠をとっていただけだよ」
学校に向かう道の途中で、草壁は、偶然にも久城と出会った。
「あぁ、菱杖透流にやられて怪我をしたと言っていたね。キミがいない間、ボクと礼子で何とか回してあげていたのだから、キミはボクたちに感謝すべきじゃないかな?」
「……二度も迷惑をかけて、本当にすまないな、希望」
「いいよ。昔からキミには腐るほど迷惑をかけてきた。まだ負債は残ってるし、いくらでも迷惑をかけてくれて構わないよ」
微笑みながら、久城は言う。その頬に、僅かな紅がかかっていたことに、草壁は気付かない。
「……それに、近いうちに、またキミに迷惑をかけることになりそうだしね」
「ん?何か言ったかね?」
「……何でもないよ。ただ、キミのそういうところに、昔のボクは惹かれたんだろうな、ってね」
久城の言葉を聞き逃した草壁だったが、それ以上を追及する気はなかった。
「あの頃の私と一緒にされるのは、なんというか、羞恥だのが一斉に襲ってきて胸が痛むからやめて欲しいのだがね?」
「そうかい?ボクはあの頃のキミの方が今のキミより好きだけど?」
「……そう言われてもね。自分のくだらない我儘で君を振り回したあの日々は、私にとっては忘れたいものなのだが」
苦虫を噛み潰したような顔で、草壁は言った。
「いやぁ、キミに振り回される日々はそこそこ楽しかったよ?何なら今からでもあの日々に戻ってみたくもあるくらいだしね」
「ははっ、無茶を言うなよ希望。私に藤子を裏切れとでも?」
「ふふっ、言ってみただけだよ?嫌だなぁ、まさか本気にしてしまったかい?」
久城は微笑む。その笑みは、ひどく空虚なものに見えた。
「……希望。何か、あったのかね?」
「いやいや、何もないよ!どうしてそう思ったんだい?」
「……いや、君がいいのならいいのだがね」
空虚な笑みを、空虚な笑みで覆い隠そうとする久城。しかし、草壁には、踏み込むことはできなかった。この少女は、自分の助けなど求めていないと知っていたから。
「まぁ……何か困ったことがあるなら、相談くらい乗るぞ?」
「いいって言ってるだろう?キミもしつこい男だな、昔のキミとは違ったしつこさだ」
空虚に空虚を塗り重ねて、久城は笑う。
「……そう、だな。それじゃあ、放課後にまた会おう」
だから、草壁も、心配を仮面で隠して、手を振った。
「ふぅ〜ん……青春ですねぇ〜…………」
「いや、あれは青春とはまた違うような気がするのだが……」
「いやいや、青春に決まってますよぉ〜。確か久城せんぱいって朱鷺澤せんぱいのことがって痛い痛い!!痛いですぅ!!離してくださぁい!!」
昼休み。多々羅を食堂に呼び出し、草壁は昼食を取っていた。久城の話題になり、多々羅は饒舌に考察したが、直後に何者かに耳を捻り上げられ、痛みに悶えた。
「希望、いくらなんでもやりすぎじゃ……いや失礼、赤ツインテの方だったか」
「なんで赤萩せんぱいと関係ない話題なのに耳引っ張ったんですかぁ……うぇえん痛いよぅ……」
現れたのは、久城ではなく亜矢。
「いや、アンタのことだしまたロクでもない邪推で他人への風評被害をばら撒いてるんだろうなって思ったらつい……」
「してませんけどぉ!?赤萩せんぱいはわたしのことなんだと思ってるんですかぁ!?」
「そういうことやりかねないやつだと思ってんのよ……」
ツインテールの先をくるくると玩びながら、亜矢は言った。
「今回に限ってはその手の話ではないから安心していいぞ赤ツインテ。あぁ、だからといって礼子に謝罪する必要はない。そいつはそれをされても文句を言えない行動ばかりしているからな」
「むぅ……わたしの扱いが雑ですぅ……」
多々羅は唇を尖らせた。
「あぁ赤ツインテ、間違ってもこんな女に同情したりなどするなよ。この女は自分の顔面偏差値が平均以上であることを自覚した上で他人のゴシップを周囲から吐かせようとするクズだ。そもそも君と白髪頭の交際もどこからかバレていたのをこの女が吐かせたのだからな」
「……へぇ〜。いいこと聞いたわね〜。ツラ貸せやコラ」
「ひぃ〜ん今回に限って言えばわたし何もしてないのにぃ〜!!」
ぴゃっ、とコミカルな顔で多々羅は泣く。
「……まぁ、突然耳引っ張ったのは謝るわ。ところで……相席いいですか、草壁先輩?」
「構わないが……白髪頭はどうしたんだ?」
「颯斗なら自分をもう少し見つめ直したい、って……」
「……あぁ、あんなことがあったんだ。そこまで思い詰めていたとしてもおかしくはない、か」
草壁は顎を撫でて言った。
「……で、多々羅?久城先輩がどうしたって?」
「……ぷいっ。何もしてないのにわたしをいじめる赤萩せんぱいとは口利きたくありませんっ」
「ふ〜〜ん……また耳引っ張られたいのかしら?」
多々羅を睨みつけて、亜矢は言う。
「うぅ……わたしかわいそ……なんでこんな暴力せんぱいに脅されてるんですかぁ……」
「話をするくらいいいだろうに、何を怖がっているのか私には理解できないのだがね……」
赤萩と揃って怒られた時、内心震え上がっていた自分を棚に上げて、草壁は呟いた。
「はぁ……仕方ないですねぇ……かくかくしかじか……というわけなんですけどぉ……」
「それで通じるんだから便利よね。何がとは言わないけど」
ため息を吐き、多々羅は簡素に経緯を話した。
「……まぁ、十中八九青春でしょうね」
「ですよねぇ!?草壁せんぱいは青春じゃないとか言うんですけどぉ……」
「……へぇ。草壁先輩、女心がわかってないんですね…………うわ〜神蔵さんかわいそ……」
「ははは、縊り殺されたいらしいなクソガキども?」
笑顔で圧をかける草壁。それを気にかけず、亜矢と多々羅は中身のないガールズトークを繰り広げる。
「……まぁ、君が元気そうなのはよかったよ赤ツインテ。多々羅と軽口を叩ける程度にまで回復しているとはね」
「そうですか?……まぁ、これでも結構無理してるみたいなところはあるんですけど、せっかく助けてもらったのに、私が悲しそうな顔してたら、それこそ颯斗やお兄ちゃんに失礼じゃないですか」
「……そうか。どうやら君は、私が想像していたよりも強いらしいな」
草壁は、微笑みながら言った。
「はい、明星学園報道部です」
『あぁ草壁くん?ちょうどいいわ、能力者戦闘事件が再び起こった。今すぐ向かってちょうだい』
「突然だな……ッ!?了解した、今すぐ向かう!!」
放課後。草壁が部室で記事を書いている最中に、遠山からの電話があった。
『場所はそちらのバイクに送ったわ、モニターで確認しておいて』
専用マシン・エルドラドパスファインダーに跨り、草壁はそこへと向かった。
「……な、んだ、これは」
その景色を目にするなり、草壁は絶句した。
「死ね、怪人の手先が!!」
「怪人の手先はオマエだろうが!!」
二人の能力者が、激闘を繰り広げていたからだ。
「もしや、これを私に止めろというのかね……!?」
汗が流れ出る。本来これは執行衛兵の仕事だろうに、なぜ自分がやらねばならないのか、理解ができない。脳が混乱する。
「ま、まぁ、任されたからには仕方ないか。……あの女狐、いつか必ず噛み殺してやる」
草壁は、能力を用いて、争っている二人を引き離した。
「誰だオマエは……怪人の仲間か!?」
「仲間割れか!?二人まとめて殺してやる!!」
二人の能力者が、草壁へと襲いかかる。放たれた風の刃を紙一重で躱すが、その風圧までは殺しきれない。
「……ッ、まず……ッ!?」
頭をコンクリートにぶつける直前で、草壁は後方へと瞬間移動した。
「あぁ、くそ。なぜ私がこんな目に遭うんだ……」
直後、草壁の足元が大きく揺れた。
「くっ……これ以上生身でやり合ってやる必要もないか。悪く思うなよ」
なんとか能力の範囲から抜け出した草壁は、腰にドライバーを巻き付けて、言った。
「構えろモンスターチャイルドども。ここからは戦争だ……ッ!!変身……ッ!!」
『Bite and Bark! That's a Greedy Beast!』
プレデターに変身して、二人の能力者と対峙する。
「怪人の手先どころか怪人そのものだと……ッ!?」
「親玉を呼んだってわけか……!!」
「何やら盛大な勘違いをされているらしいが……」
変身した草壁を見るなり、その姿を怪人と評した二人。その片割れの背後に回り込み、手刀で気絶させながら、プレデターは言う。
「私は怪人ではない。仮面ライダーだ。そこを間違えるな」
逃げようとするもう一人を絞め落とし、プレデターは変身を解除した。
「さぁて、まさか気付かれていないとでも思ってたんですかぁ〜?」
同時刻。多々羅は、ある人物と相対していた。
「多々羅。お前、菱杖先生を裏切ったんだってなぁ……」
「もともとわたしは操られてただけですも〜んっ。根も葉もない陰謀論信じて街の闇を暴くなんてカッコつけちゃう馬鹿と一緒にしないでくださぁい♡」
その相手とは、以前にミスティが倒した怪人・森澄寛也。かつて報道部に所属していた男だ。
「この街が腐っているのは事実だろ。お前……あの事件を擁護する気か?」
「はぁ〜ヤですねぇ。頭悪いひとって要点も理解できてないのに勝手な理屈で済ませた理論武装もどきで食いついてくるから相手したくないんですよねぇ〜」
森澄の額に、ピキリと青筋が走る。
「なにピキっちゃってるんですかぁ?こんなとこで高みの見物決め込んでて、ポッケからレプリシューターチラチラ覗かせてるのに馬鹿じゃないは無理がありますよねぇ〜?」
「何だと?」
森澄は冷や汗を浮かべながら自分のポケットを凝視した。
「はぁい、引っかかりましたねぇ〜?ジャーナリストが相手の言葉を無条件に信用するとか愚の骨頂ですよぉ?」
「多々羅……死にたくなけりゃ、俺を侮辱したこと、謝罪しろ」
「ヤですよぉ。森澄せんぱいみたいなわたしより頭悪いしセンスもない雑魚に頭下げるとか普通に考えてないですってぇ」
べーっと舌を出して挑発する。
「そうか……じゃあ、俺が殺してやるよ」
「果たして殺されるのはどっちか、試してみますぅ〜?」
二人は向き合い、互いにレプリシューターを構える。
「俺が手にした新しい力……こいつでお前を殺す」
「できるものならどうぞご自由にぃ」
マテリアピースが差し込まれ、二つの引き金が同時に引かれた。
「「解錠」」
『Bishop Charge……Open“Scandal”』
『Rook Charge……Open“Phantom”』
「ほらぁ、さっきまでの威勢はどうしましたぁ!?」
スキャンダルは、透明化と解除を繰り返し、森澄が変身した怪人──ファントム・シャトランを翻弄していた。
『クッ……卑怯な真似しかしないってのか!』
「森澄せんぱいにだけは卑怯とか言われたくないんですけどぉ?」
なんとか対応とするファントムの背を、極彩色の光線で撃ち抜く。
(残念ですけどぉ、わたしの能力──『
多々羅の有する能力・『光学透過』は、
「ほらぁ、隙だらけですよぉ!!」
そして、見つけた最大の隙を突くように、渾身の一撃を放った。
『おい、さっきまでの威勢はどうした、多々羅?』
それから数分後。怪人の片方の変身が解かれ、地に伏していた。森澄が、ではない。大技を放ち、ファントム・シャトランを撃破したはずの多々羅が、である。
「なに、がぁ……ッ!?」
腕を踏みつけられ、多々羅は悶える。
(さっきまではわたしが勝っていたはず……何が、起きたんですかぁ……っ!?)
思考を繰り広げるが、答えは出ない。
『お前には死んでもらう。──恨むなら、無策で首を突っ込んだ自分を呪え』
銃口が突きつけられる。無機質な電子音声は、まるで死刑執行のカウントダウンをするかのように、刻々と響いていく。
「……ハァ。どれだけ私の足を引っ張れば気が済むというのかね、君は」
しかし、その光弾が放たれることはなかった。否、正確には放たれたのだが、多々羅へと届くことはなかった。
「せ、せんぱぁい……♡」
「そのハートは何かね礼子、ところ構わずサカるな発情期の猫か」
プレデターがファントムの頭上に瞬間移動し、その頭蓋を蹴り飛ばしたからだ。
『草壁……ッ!!』
「あぁ、安心していいぞ怪人。君の正体は既に把握している。……裏切りを防ぐためと礼子につけておいた盗聴器だが──どうやら役に立ったようだな、寛也?」
『何故だ、何故お前までもが俺の邪魔をする!?』
「逆に聞くが、何故君は私が邪魔をしないと思っていたのかね?私は分類上は正義のヒーローらしいぞ?」
ガントレッドチェッカーの鋒を突きつけて、プレデターは言う。
『ふざけやがって……昔から、お前のことが嫌いだったよ。だからここで死ねッ!!』
激しく飛び退き、体勢を整えて、ファントムは言った。
「別に構わないが──まさか君は、君ごときが私に勝てると、本気で思っているのかね?」
対するプレデターは、中指を立てて挑発する。今、戦いの火蓋が切って落とされた。
(さすが、と言うべきか……怪人としての身体能力のスペックは高いようだな。だが、所詮は力任せ。基礎性能に変身者が追いついていない。本当に礼子はこの程度の相手に負けたとでも言うのか?)
上体を軽く動かし、プレデターはファントムの攻撃を続け様に避ける。
『どうした、避けてばかりじゃ俺は倒せないぞ!?』
ファントムは声を荒げて挑発する。それと同時に放たれたテレフォンパンチを、軽々と受け止めて、プレデターは言う。
「……あぁ、君の大体の力量は把握したよ。正直、この程度の相手に礼子が敗れるとは思わないのだがね」
拳を受け止めた掌に、だんだんと力が篭る。
『ぎ……ッ!?』
「そんなに回避をやめてほしいのかね?いやはや自殺願望の強いことで」
ボキリ。骨を砕く音が響いた。
『あッ、がァ……ッ!?』
「もう君のチマチマした小ネタは見飽きた。せめて一発で倒してやるから……歯を食いしばれ」
悶えるファントムの横腹に蹴りを入れ、プレデターは嗤う。
『Beast Charging Strike!』
低く飛び上がり、両脚を開く。ディスクから供給されたホルスの波動が獣の顎門を象り、真っ直ぐに振り下ろされる。
「やったか……」
爆煙の中、プレデターは嘆息する。背後に迫る魔手には、まだ気付かない。
「ダメですせんぱぁい!!避けてくださぁい!!」
いち早く気付いた多々羅が、声を荒げる。プレデターは危機を感知し、体を捻った。
「……ッ!?」
剣の鋒が、プレデターの横腹を切り裂く。その剣を握っているのは、先程倒したはずのファントム・シャトラン。
「何が、起きている……ッ!?」
『気付かないようじゃ俺には勝てないぞ草壁ェ……そこでみっともなく死ぬんだな!!』
その剣が乱雑に振るわれる。プレデターは難なくそれらを捌くも、背後から現れたもう一人のファントムに切り裂かれた。
「成程、分身能力を持っているというわけか……ッ!!」
草壁は舌打ちと同時に、追加武装をチューンする。
『Tune Reacter Eye』
複眼を覆うプロテクター。それを用いることで、本体を探そうと試みる。
『何でもいいが……これだけの数を、本体を探しながら倒せるとでも思ってるのか?』
無数に増え続けるファントムが、同時にプレデターへと襲いかかる。実体を持つ分身の攻撃が、同時にプレデターを追い詰めていく。
「馬鹿な……実体を保ったままの分身だと……ッ!?」
力任せの拳を何発も受け、プレデターの体がノーバウンドで数メートル吹き飛ばされた。
『もうお前のチマチマした小ネタは見飽きた』
意趣返しと言わんばかりに、ファントムは言う。握った剣をプレデターの首に突きつけ、今にも突き刺されようとした瞬間のことだった。
「ハ……ようやく、隙を見せたな……?」
突きつけられた剣を力任せに振り払い、プレデターの腕のガントレッドチェッカーに、マテリアキーが挿入された。その形は、獣の爪に似ていた。
『Critical GauntRed!!』
薙ぐような蒼い斬撃が、無数の分身を霧散させる。
『な……ッ!?』
「的が増えたのであれば、その全てを撃ち抜けばいいだけの話だろう?口先の焦りを本気だと捉えたのなら、それは未熟と言わざるを得ないな寛也」
ガントレッドチェッカーが、一点を貫くためのカタチに姿を変えた。
『が……ッ、あァァァァッ!?』
それは、ファントムの胸のエンブレムに突き刺さり、爆発を巻き起こした。
こんにちは、墓脇です。ついに最終章です。早いね。
草壁を主人公にした今回のエピソードですが、個人的に一番書いてて楽しかったのが多々羅ちゃんなんですよね。まさか初めて出した時はここまで愉快な女になるとは思ってませんでした。
さて次回は怪人たちがひさしぶりに学校に襲来します。黒薙も復帰して、ますます戦いが激化していく最終章。アイツとかアイツとかアイツとか予想の外から襲いくる怪人たちにご注意ください。ほかに特に書くこともないんで以上です。