仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第38話「禁じられた『水鏡』

『オラオラどうしたァ!?威勢がいいのは口だけかァ!?』

 真紅の影が変身したモノ──フレイマーとアーマード・シャトランを無理やり繋ぎ合わせたような外見の怪人・アルターフレイマーは、フレイマーに変身した赤萩を吹き飛ばし、傲岸不遜に笑う。

『どうした、まだ一分も経ってねぇぞ!あと九分十五秒、それで俺を倒してみせてくれるんだよなァ!?』

 横たわるフレイマーの横腹を蹴り上げると、数メートルに渡って吹き飛んだ。

「が……ッ、ってぇな。手加減する気なんてありませんってか……ッ!!」

『当たり前だろ?俺はお前だ。お前だって化野と戦った時に過去の自分をぶん殴れるみたいで気分がいいとか言ってただろ?そういう面じゃ、俺ほど殴りやすい相手もいないだろうに……どうしてまだ本気を出さねぇんだ?』

 フレイマーの首を絞め上げながら、影は言う。

『いいやわかってるよ。お前は怖いんだ。お前の生き写しとも言えるこの俺を倒すことで、今までの人生が否定されるんじゃねぇか、ってな』

 力任せに腕を振るうと、フレイマーは地面に叩きつけられ、何度もバウンドして地を這う。

『どうした!?俺を倒すんだろ!?だったら立ち上がれよクソ野郎、俺を倒してお前の存在を証明してみせろ!!』

 影がそう言うと、変身が解け、血塗れになった赤萩が立ち上がった。

「あぁ。……何度でも立ち上がるさ。過去の亡霊、それも自分なんかに負けてたまるかってんだ!!」

 


 

「やっと勝ちの目が見えてきましたねぇ〜……行きますよぉジェリーフィッシュ!」

「あたしに指図しないでスキャンダル。……まぁ、手くらいなら貸してあげる」

 怪人の鎧を触腕で貫きながら、澪はぶっきらぼうに言った。

「あと十匹……どっちが多く狩れるか、競争しない?」

「いいですねぇ〜!わたしが勝ったらお兄さんのスキャンダル、よろしくお願いしますねぇ〜!!」

「じゃ、あたしが勝ったら牧瀬さんの弱み探ってもらおうかな」

 軽口を叩き合いながら、二人はレプリシューターを構える。

『『Replical Attack』』

 二つの銃口が、周囲に満ちるエネルギーを収束させ、巨大な光弾を生み出す。

『Scandal Drive』

『Jellyfish Drive』

 光弾は幾重にも分かれ、逃げ惑う怪人の進む先を一つずつ奪っていく。

 ドン!!と爆音が鳴り響いた。爆煙の先には、コンクリート片以外の何も存在しない。

「……これ、どっちが多く倒したんでしょうかねぇ?」

「……よくわかんなかったし、五分五分ってことにしておく?」

「ですねぇ〜……じゃ、わたしが牧瀬せんぱいの弱み探るんでジェリーフィッシュもお兄さんのスキャンダル掴んだら教えてくださいねぇ!」

 

 

「さすが、元ランク10なだけはあるね。中々に手強い相手だ」

『えーぃ?そんなに褒められると照れちゃうなぁ』

「はは、そうかいそうかい。もっと調子に乗ってくれてもいいのだよ?その方が私もやりやすいしね」

『うーん、それは無理かなーぁ。だってぃ、ぼく調子に乗っちゃってても強いからさーぁ!!』

 仮面の中で冷や汗を浮かべながら、アルテは苦笑する。以前赤萩が一度倒した相手であることは聞いているが、どうもその話と現在の戦闘力に大きな差が見える。それから一月以上が経ち、強くなっているのだとしても、あまりにも強い。

(調子に乗っていても強いというのは厄介なものだね……ッ!!)

 襲い来る光弾を吸収しながら、アルテは思案する。この怪人は変身能力を持っている。どんな怪人にも変身でき、その特性を活かした攻撃ができる。だが、直接攻撃でさえなければ、グロリアスティックはその全てを吸収する。

『むーぅ、面白くないなーぁ!!正々堂々と勝負しろーぉ!!』

 豪を煮やして、マルチフェイスが飛びかかった。マンティスに変身し、双剣で斬りかかる。

「おいおい、武器を使って私に挑むのは反則じゃないかい!?」

『さっきから人の攻撃全部消してる人に言われたくないなぁ!!』

 杖で斬撃を受け止め、ドライバーのボタンを押す。

『Laser Charging Strike!』

 無数の光が、マルチフェイスへと降り注ぐ。だが、マルチフェイスの足は、止まらない。

『つーかまーえたーぁ』

 飛びかかり、アルテを押し倒す。マウントを取り、その拳をアルテの仮面目掛けて一直線に振り下ろした。

「……ッ、甘いね。そんな大振りの拳、私に届くと思うのかい?」

 離れた場所に落ちていたグロリアスティックが、紫の軌跡を描きながらアルテの右手に収まる。そのまま右へと振り払い、マルチフェイスの拳を逸らした。

『いったいなーぁ!!もう怒ったからなーぁ!!』

 一瞬たりとも怯まずに、マルチフェイスは再びアルテへと走り出した。

(流石に、これの相手に時間をかけるのは面倒だ……ならば、できるかどうかは知らないが、賭けに出るしかない、か)

 そんなマルチフェイスを横目に、アルテは再度ドライバーのボタンを押す。先程のように、無数の光が空中に渦を巻く。

『無駄だよーぅ!!もうそれはさっき見たしねーぃ!!』

 空を見上げ、マルチフェイスは嗤う。しかし、アルテの狙いはそこではない。

「さて……無駄かどうかはまだわからないよね?」

 光の束はひとつに合わさり──マルチフェイスではなく、アルテの方へと降り注いだ。

『な……っ!?ぼくに勝てないからって自滅する気ぃ!?そんな白けることしないでほしいなーぁ!!』

 直後、マルチフェイスの頬を、一筋の光が貫いた。その発射源には、翼を広げた杖を携えた戦乙女が。

『ま……まさかぁ……っ!?』

「そのまさかだよ小娘ちゃん。あの光を自分に向けて撃ち──これで吸ったまで」

 アルテは笑い、マテリアキーをグロリアスティックに装填する。

「君如きにかけてやれる時間はそう長くなくてね。悪いけど、ここで幕引きにさせてもらおうかな」

 マルチフェイスは逃げの姿勢を見せたが、危機を感じた時には、もう遅い。

『Glorious Bright!』

 先程までとは比べ物にならないほどの光が、マルチフェイスの鎧を隙間なく貫く。爆発が巻き起こると、そこには、気を失った化野が倒れていた。

「全く、世話を焼かせて、くれ、る……ね…………」

 同時に、アルテの変身も解け、地面に倒れ伏した。一気に力を使いすぎたのだ。

 


 

『どうした?二人がかりでそれじゃあ……少し物足りないな』

 パラサイトは、二人の攻撃を受け止めながら言った。

(チッ……草壁先輩が消耗した後でさえなければもう少しなんとかなったかもしれませんが……っつーか何でこんなに強くなってやがんだこいつは!?)

 迫る触腕を間一髪で逸らしながら、ミストOOは毒づく。

『そら行け俺の検体たち。臨床試験のお時間だ』

 虚空から、パラサイトの私兵が放たれる。以前ミスティが相対したものと同じ、犯罪者を材料としたキメラだろう。草壁はその光景を目にし、ため息をついた。

「……なるほどな。パラサイト、貴様はやはり救いようのない下衆なのだと再確認したよ」

『再確認したからなんだって話ではあるけどね。実際君いま俺に押されてるわけだし』

 パラサイトが笑いながら検体たちに指示を出すと、検体たちは一切にプレデターへと襲いかかった。

「……すまないが、私は敵対する相手への情は極力抱かないようにしていてな。これを倒すのは良心が痛むが、躊躇はしないぞ?」

 プレデターは吐き捨て、襲いくる検体の胸を貫く。どす黒い鮮血を噴き出し、検体は倒れる。

『おぉ!!なかなかに酷いことをするじゃないか!!急所を逸らして余計に苦しませるなんてねぇ!!』

「……なるほどな、下衆が。せめて苦しまないようにと思っていたが、急所そのものをズラしていたということか…………ッ!!」

『正解正解!!さぁやるんだ検体たち!!一匹減った程度で怯んでいる暇はないよ!!』

 舌打ちするプレデターに、検体たちが押し寄せる。

(チッ、どこまで外道な真似をすれば気が済むんだ貴様は……仕方ない、私とて殺した相手が苦しむ様など見たくないしな)

『Tune Reacter Eye』

 複眼を覆うプロテクターで、検体の弱点を探す。その一瞬の隙を突くように、検体の腕がプレデターの肩を掴んだ。

『ハハッ!!いいよ、そのままやるんだ!!』

 逃げ場がない中で、獣の鉤爪が迫り──爆音があった。だが、倒れたのはプレデターではない。

『なるほど、今の一瞬でやったというわけか!!なんて面白いんだ、君は!!』

「余裕そうなとこ悪いですけど……隙だらけ、ですよ」

 草壁を賛美するパラサイトの胸に、レイピアの鋒が突きつけられる。

「死んでください」

『Mystical Thrust!』

 電子音とともに、多量のホルスが、パラサイトの胸を貫いた。

「さて、終わった、か……ッ!?」

 ミストOOの元へ駆け寄ろうとしたプレデターだったが、爆炎の中から起き上がったパラサイトを見て、その足を止めた。ミスティの体が、強引に吹き飛ばされる。

『うん、そこそこ痛かったね。けど、前に俺を倒した時はもっと効いたな』

 つまらなさそうに、パラサイトは言う。その視線は、プレデターへと向けられていた。

『じゃあ……君も死のうか』

 プレデターに向かって走り出す。対するプレデターは、リアクターアイを用いて弱点を探す。

「……ッ!!」

 重々しい一撃が、プレデターの鳩尾に突き刺さる。

『さて、どう殺してあげようか……』

「……は、はは。よく引っ掛かってくれたなパラサイト…………ッ!!」

 不敵に笑うプレデターを見て、パラサイトは後退しようと試みた。しかし、直後に、足元が崩れ、無様にも引き倒された。

『Tune Burst Knuckle』

「ここまで来たんだ、貴様をわざわざ逃がしてやる道理がどこにあると言うのかね?」

 眼前に迫る、蒼い拳。それは回避すら許さず、パラサイトの仮面の中央へと突き刺さった。

『Beast Charging Smash!』

 


 

「さて……どうしましょうかね。マルチフェイスもパラサイトも敗れた。ですが、彼らにはまだ利用価値がある」

 廃ビルで、安酒をあおりながら菱杖はつまらなさそうに言った。

「助けに行ってあげたらいいんじゃないかな。こちらの戦力は大して残っていないしね。あの早見とかいう少年も裏切ったんだってね」

「えぇ。ワタシが力を与えて差し上げたにも関わらず、常に絆されて向こうにつきましたよ。怪人が倒されるのは別に構いませんが、懐柔されるとなると困るんですよねぇ」

 眠りこけている朱鷺澤の髪に指を這わせながら他人事のように言ってのけるロベリアに、菱杖はため息をつく。自分は戦場に出ないからといって好き勝手言ってくれますねぇと皮肉の一つでも言ってやりたかったが、不味い酒のもたらす劣悪な酔いは、その気力すら失わせる。

「まぁ、ロベリアさんの言う通り、助けに行ってあげますかねぇ……」

 度数だけが強いアルコールを飲み干し、菱杖は廃ビルを後にした。

 

 

「……ったく、あんまり無理するもんじゃないですよ草壁先輩」

「……青薙、すまないな」

「すまないって思ってるならまずその呼び方やめてくれません?」

 ホルスの消耗で虫の息だった草壁に肩を貸しながら、ミスティは呆れまじりに言う。その背後に、菱杖が現れる。

「……ッ!!すみません草壁先輩、下がっててください…………ッ!!」

「おやおや、随分と嫌われてしまったものですねぇ……ご安心くださいレーツェルさん。今日はワタシは戦いに来たわけではありませんよ」

「あ?ンな言葉を誰が信じると思ってんだ?」

 軽快を解かず、せめて今ろくに動けない草壁だけでも守ろうと構えるが、対する菱杖は、一瞥もせずに、倒れたゲノムスの元へと向かう。

「……そいつを連れて帰るってわけか。そうされると困っちまうんだがな」

「でしたら力尽くでも止めてみますか?できませんよねぇレーツェルさん、何せ今の貴女はプレデターという重荷を抱えている!!仮にそうでなかったとしてもワタシには勝てませんが……それを守りながらワタシからパラサイトを奪取するなど、不可能ですからねぇ!!」

 乱雑にゲノムスの体を抱えると、菱杖は笑い、こう残して、姿を消した。

「それから一つだけ言っておきますが……優位に立っていられるのは今のうちだけ、ですよ」

 

 

「うっわ……大丈夫かー神蔵さん」

「くろ……なぎ…………?」

「あー返事はしなくていいんで。疲れてるだろうし寝てていいっすよ」

 その少し後、黒薙と早見は倒れていた神蔵藤子を見つけ、介抱していた。同じく倒れていた化野は、すでに菱杖に回収された後だった。

「一応、護送車くらいは呼んどくか。早見、僕の鞄から携帯取ってもらっていいか?」

「はいはい……全く、正義のヒーロー様は人遣いが荒いな」

「文句言うんじゃねぇよバーカ。あーはい黒薙だけど、そうそう、護送車な、頼むわ有栖川」

 有栖川に電話を繋ぎ、護送車の手配をした。神蔵を抱えて、校門の方へと向かう。

「おっと、早見じゃないか。昨日までとは見違えるような表情だね、何かいいことでもあったかい?」

「特にありませんよ好田先生。先生こそ何やら楽しそうですが、何かいいことでも?」

「ふふっ、秘密だよ」

 校門の方では、好田が避難の誘導をしていた。安堵のこもった声で、好田は早見に語りかけた。

「それにしても、こんな遅くまで校舎内で一体何をしていたんだ?」

「……その、ちょっと色々ありまして…………」

「あーはいはいその話は後でお願いしますねー先生。今はそんな小難しい話しないで、ほら」

 このままではボロが出ると判断し、黒薙が割って入った。

 その数分後に、澪・多々羅・ミスティ・草壁が校舎から戻ってきた。護送車も到着し、後は黒薙たちの避難のみとなった時のことだった。

「……ッ!?」

 校舎の方から、新たな怪人が現れた。その掌から、青白い光線が放たれる。

「あ、づゥ……ッ!?」

 あまりに突然のことで、黒薙たちも反応が遅れた。その光線は、好田へと直進し、その皮膚を焼いた。

「貴、様ァァッ!!」

 早見はエンヴィに変身し、怪人へと飛びかかる。しかし、その拳が怪人へと振るわれる寸前に、怪人は崩れ落ちた。パリパリと外骨格が剥がれ落ち、そこに現れたのは──。

「せん、せい……ッ!?」

 小学生、よくて中学生にしか見えない容貌の女性。そして、好田の友人でもある、黒薙たちの担任教師。水削しずくであった。

 


 

「……早見、テメェは好田先生をあっちに乗せてやってくれ。頼む」

「そうは言うが、お前が連れているその女の人はどうするつもりだ?」

 黒薙は落ち着き払った様子で早見に指示を出す。しかし、その内心は困惑に侵され尽くしていた。

「ぁ……うぅ……わ、わたしは、何をしたんですか……!?」

「記憶がない、なんて言うつもりですか?あんなことをしておいて?ふざけるのも大概にしてください、あの怪人からあなたが現れた以上そんなふざけた言いがかりが通用すると……ッ!!」

「落ち着け澪、事情を聞いてみねぇことには……」

「兄さんは黙ってて!!」

 ヒートアップする澪を止めようとしたが、黒薙の手は力強く払い除けられた。

「答えてください先生、どこでその力を手に入れたんですか!?何のためにそんなものに手を出したんですか!?」

 水削の胸ぐらを掴み、半ば脅すように問い詰める。

「ほ、本当に知らないんです……わたっ、わたしは…………」

「この期に及んで……ッ!!」

「ふっ……はははっ!!その女に聞いても無駄だぞ!!」

 高笑いとともに、ある男が現れた。ファントム・シャトランこと森澄だ。

「森澄せんぱい……まさか、あなたがやったんですかぁ?」

「あぁその通りだ多々羅、なにせその女は俺を侮辱したものでな?だから利用してやったんだ、俺の能力で幻覚を見せてな」

 森澄は、下卑た笑みを浮かべて言った。

「なるほどな。……つまり、テメェが諸悪の根源ってわけだ。テメェをこの手でブッ潰せば、少なくともこの場は解決するってことでいいんだよな?」

「できるものならやってみろ、こちらには草壁とそこの女という人質がいるんだ、何をしてもいいが、人質の命の保証はできないぞ?」

 草壁と神蔵を交互に指差し、森澄は嗤う。

「チッ、ここまでのクズに会ったのは久しぶりだなオイ……ッ!?」

 舌打ちする黒薙だったが、横合いから薙ぐような圧を受け、バランスを崩して倒れた。圧力をかけた張本人は、悪びれもせずに言った。

「ごめん颯斗、邪魔なとこに突っ立ってたから、つい……」

「痛ってぇな亜矢。邪魔だったからつい、じゃねぇよ……っつーか逃げろっつったろ、こんな危なっかしいとこに戻ってくんなっての」

 亜矢はぺろりと舌を出して言った後、その表情を真剣なものへと変える。

「……ま、事情は大体わかってるから。水削先生が、そのクズにやられたんでしょ」

 嫌悪をむき出しにした視線を、森澄へと向ける。

「それがどうした?まさかこの腐った街の奴隷である教師を擁護するとでも言うのか?哀れなメスだ、俺が調教でもしてやろうか?」

「腐ってんのはアンタでしょ醜男。いいから先生を解放しなさい。……さもなければ、血を見ることになるわよ」

 亜矢の言葉に、森澄は怒りを露わにする。

「醜男……!?お前、俺を侮辱したな!?今すぐ謝罪しろこの売女がァ!!」

「お断りよ醜男。……つまりこれって、交渉決裂ってことでいいのよね?だとしたら、私がアンタに遠慮してやる必要なんてなくなった訳だけど……前言撤回すべきは、果たしてどっちの方かしら」

 亜矢の懐から、レプリシューターが取り出された。

「忘れたのか売女、こちらには人質がいるんだぞ!!動くな、動いたらこの女を殺すぞ!!」

「うっぷぷ、間抜けですねぇ森澄せんぱい!!あなたがカッコつけてる間に人質は保護済みですよぉ!!」

 凄む森澄だが、銃口を突きつけるべき人質がいないことに気が付き、目をひん剥いた。その様を見て、多々羅は笑った。

「どいつもこいつも俺を侮辱しやがって……なら強行突破だ、立て人質ッ!!」

 そう叫ぶと、澪に拘束されていた水削が起き上がり、その両腕を解いた。

「助けられるものなら助けてみろ!!俺を倒してもその能力は解けないがなァ!!解錠!!」

『Open“Phantom”』

『Open“Mirage”』

 森澄がレプリシューターの引き金を引く。それに連動するように、虚ろな目の水削もトリガーを引いた。二人の体が、怪人の装甲に包まれていく。

「……亜矢、やっぱお前は下がっ「てろとは言わせないわよバカ颯斗」最後まで言わせろよ……」

 危険を察し、亜矢を離れさせようとする黒薙だが、当の本人は、それを拒む。

「アンタは神蔵さんを早く護送車に乗せてあげて。あ、そこのレーツェルもよ」

 神蔵と草壁を交互に指差して、亜矢は言った。

「……それに、自分の意思とは関係なく怪人にされるって、どうも嫌な親近感覚えるし」

「……ったく、わかったよ亜矢。本当にどうしようもなくなったら呼べよ?……あと、これ貸しとくわ」

 黒薙は頭を掻きながら、あるものを手渡した。

「ありがと颯斗。……ま、今回に限って言えばアンタの出番はないから、悠々自適にジュースでも飲んで吉報を待ってなさい」

 黒薙とミスティを見送り、亜矢はレプリシューターを構えた。それに続くように、残された澪と多々羅も構える。

「颯斗と話してた私を奇襲しなかったこと、後悔しても遅いわよ。……解錠」

『Open“Hornet”』

『Open“Jellyfish”』

『Open“Scandal”』

 三人の女傑が、ここに並び立った。

 


 

『多々羅、お前は俺に負けたことを忘れたのか?お前程度の相手が二人増えたところで俺には勝てないぞ!!』

「……あたし達の力量を測る前からその言動、すごい小物臭いな」

『小物……ッ!?許さん、三人揃ってこの俺を侮辱しやがって!!全員ここでぶっ殺してやるよォ!!』

 ジェリーフィッシュが何気なくこぼした一言に、ファントムは激情を露わにする。

「……来なさい、小物」

 そんなファントムを嘲笑うように、ホーネットは中指を突き立てた。

『クソ売女がァァッ!!』

 ファントムが三人に分かれ、ホーネットへと襲いかかる。

「せんぱいっ!!」

「大丈夫よ多々羅。……今は、水削先生の足止めをお願いするわ」

 当のホーネットは、軽やかなステップを踏みながら、襲いくる攻撃の数々を躱していく。

「ねぇ。アンタの芸って、もしかしてそれだけ?だとしたら相当つまらないわね。能力にかまけて粋がるだけの弱者。私が最も嫌いなタイプ」

 挑発しながら、腕の装備から毒針を出現させた。

「それじゃ……今度は私の番、ってことでいいのよね?」

 回避の足を止め、飛びかかるファントムたちの胸に、一寸の狂いもなく毒針を突き刺していく。

『まぁ、何をしようと無駄なんだけどな?』

 しかし、潰せば潰すほどに、ファントムは湧いて出る。

「チッ、面倒な真似してくれるわね……ッ!!」

 無限に分身を増やすファントムを前に、ホーネットはそう吐き捨てた。

 

 

『わ、たしの……邪魔を、しないで…………っ!!』

 一方で、ジェリーフィッシュとスキャンダルは水削が変身した怪人──ミラージュ・シャトランに翻弄されていた。

「あぁもう、分身よりこっちの方が面倒臭いな!!」

「怒ってる暇があったらその触手ちゃんと使ってくださいよぉ!!」

 ミラージュも、ファントム同様に分身を生み出しているように見えるが、実は違う。本体は一体だけで、そのほかは全て蜃気楼にすぎない。

「どれだけ蜃気楼で誤魔化そうと、わたしの目は誤魔化せませんよぉ!!」

 スキャンダルの目がギラリと光り、ミラージュを凝視する。すると、その本体がピカリと眩い光を放ち始めた。

「そこです、もらいましたぁ!!」

 極彩色の光線の束が、ミラージュを貫いた──ように見えた。

「ちょ、どこに撃ってるのスキャンダル!?」

 しかし、その光線は、スキャンダルのすぐ目の前のジェリーフィッシュに全て直撃した。

「えぇっ!?いや、あの、わたし確かにアレに向けて撃ったんですけどぉ……」

「……ふぅん。まさか、ね」

 何かに気付いたのか、ジェリーフィッシュはレプリシューターを構え、光弾をいくつか撃ち出す。だが、それは全て、見当違いな方向に向かって飛んでいくだけであった。確かに、ミラージュへと向けて放ったはずなのだが。

「……まだ確証が得られない。スキャンダル、さっきの能力もう一回使って」

「はいはい、わかりましたよぉ……っ!!」

 再びスキャンダルの目が光った。それと同時に、光線を束ねたものをいくつかに分岐させて撃ち出した。

「……なるほど。ちょっと読めてきた。あと一つ試したいことあるし、ちょっとは無理してもいいかな」

 それも見当違いな向きへと放たれていったが、もはや見向きもせずに、ジェリーフィッシュはミラージュへと飛びかかる。その首の八本の触腕を全て使い、眼前の敵を全力で殴りつけた。

「えぇ、あのぉ、これ、どういうことなんですかぁ??」

 反撃を触腕で受け流し、大きく飛び退いたジェリーフィッシュに、スキャンダルは疑問の声を上げる。

「簡単なこと。アレの能力がわかったから、ちょっと説明する」

 拳を構えて飛びかかるミラージュをスキャンダルの方に受け流して、ジェリーフィッシュは言う。

「ソレはさっきの音的にミラージュなんて名前みたいだけど、実際の能力は蜃気楼なんかじゃない」

 スキャンダルの腕から放たれた英字新聞の切れ端が、ミラージュをジェリーフィッシュの方へと弾く。

「さっきのあの実態のない分身はブラフ。加えて、スキャンダルの光線やコレの球を見当違いな方向に逸らすこと。……もう、ここまで言えばあなたでもわかるはず」

 触腕で、スキャンダルの方に押し付ける。

「つまり、アレとわたしの相性はすこぶる悪いってことですねぇ!!……ってじゃあどうするんですかぁ!!ジェリーフィッシュ一人で相手するつもりですかぁ!?」

「いや、そうではなく」

 押し付けられたミラージュをフィルムで巻き取るスキャンダルを見ながら、ジェリーフィッシュはため息をついた。

「……亜矢さん、そっちの敵との相性はどうですか!?」

「……えっ、私!?正直最悪だけど何!?こっちはこっちで忙しくてそっち見れてないんだけど!?」

 すると、ジェリーフィッシュの触腕がホーネットの方へと伸ばされ、その体を攫った。

「えっ、ええっ!?ちょ、アンタ何を……」

「……つまり、こういうこと。実はあたしたちもアレと相性悪いし、相手する敵交換しません?」

「仕方ないわね……任せたわよ、澪ちゃん」

 それぞれが向き合う敵を変え、臨戦態勢をとった。

 


 

『さっきのクソ売女はそこそこ手強かったが、それ以下にしか見えないお前たちとやり合っても消化試合にしかならないと思うがな?』

「言いたきゃ好きなだけ言ってればいい。それがいくら間抜けだったか、後で理解するのはそっちだし」

「あぁ、そんなこと言っても無駄ですよぉジェリーフィッシュ。だってそこの森澄せんぱい、思い込みで好き勝手誤報撒き散らして、一切自分の非を認めない間抜けですもんっ」

「いや、それはあなたもそうじゃないかな」

「ちょっと失礼ですよぉジェリーフィッシュ一〜!?」

 ファントムそっちのけでくだらない言い争いを繰り広げる二人の間に割って入るように、怪人は飛びかかる。

「スキャンダル、こういう時なんて言うんだっけ?女の子同士のじゃれあいに混ざろうとするのは無粋、だっけ?」

「ですねぇ、よく覚えてるじゃないですかぁ!ちなみにその続きは覚えてますぅ?『馬に蹴られて死ねばいい』とかそんな感じなんですけどぉ」

 だが、光線と触腕が、その頭蓋を叩き伏せた。その頭が、地面に無様に突き刺さる。

『が……ッ!?』

 倒れながらも、後続の無数の分身が二人に襲いかかった。

「残念な頭。なんであたしたちが亜矢さんと代わったかまだわかってないの?」

「せんぱいがいくら分身しようと、ただ的が増えるだけなんですよぉ!!ちなみにわたしは知ってますよぉ?せんぱいの分身は、大量に出せばその戦力が落ちるってことはぁ!!」

 しかし、その分身たちは、八本の触腕と極彩色のレーザーの群れによって、霧散させられた。

『ふ、ざけやがって……どいつもこいつも、俺を侮辱しやがってェェッ!!』

 続けて、分身を一人出し、二人がかりで二人へと飛びかかる。

「もう、何をしても無駄。……何より、こんな奴のために割く時間が無駄」

「……そういうわけですからぁ、さっさと死んでくださぁい!!」

 その胴体に、二つの膝が突き刺さる。二人のファントムは、体をくの字に折り曲げた。

『『Replical Attack』』

 二つの電子音が共鳴する。

『Jellyfish Drive』『Scandal Drive』

 二つの巨大な光弾が、ファントムを撃ち抜いた。

 

 

「さて……先生、意味がないことはわかってるけど、一応聞かせてもらうわ。……どうして、怪人になんてなったの?」

『うる、さい……わたしの、邪魔を…………』

「……やっぱり、ね。じゃあ行くわね、先生。私は今から、あなたをこの手で止める」

 腕の武装に毒針を出現させ、ホーネットは構える。

(しかし、どうにも腑に落ちないのよね。こんな芸当ができるのは私の知る限りは菱杖くらいしかいない。……あの男は確かにクズだけど、恋人を怪人として利用するなんてありえる?なんて、今考えることじゃないわね)

 一瞬、そんな思考が脳裏をよぎった。その一瞬で、ミラージュはホーネットの懐まで潜り込む。

「……ッ!!」

 繰り出される拳を間一髪で躱し、その拳を踏みつけ、ミラージュの背後へと回り込む。無防備な背中に、毒針を突き立てる。

『……ッ、いい加減に……ッ!!』

「するのは先生の方よ……生徒に心配させてんじゃないわよバカ教師ッ!!」

 ホーネットは叫び、ミラージュの両肩を掴むと、その頭を相手の額に叩きつけた。

『わ、たしは……わたしはぁ……ッ!!』

 くるり、とレプリシューターを構え、いくつかの光弾を放つ。ホーネットはそれをひょいと躱すが、

「ま、ず……ッ!?」

 そちらはブラフ。本命は、隙だらけになったホーネットを襲う拳の方だ。

「か、は……ッ!?」

 腹部に強烈な打撃を加えられ、ホーネットは片膝をつく。だが、まだ、倒れはしない。

『どう、して……そこまでして、わたしの邪魔を……ッ!!』

「えぇ、何度だって立ち上がるわよ……先生や私みたいに、望んでないのに戦わされるような目に遭う人がいる世界、私は認めないッ!!」

 銀色の翅を広げて、上空へと飛び上がる。

「だから、私は……ここで、あなたを止めるッッ!!」

『Replical Attack. Hornet Drive』

 弾かれると解っていてなお、光弾を放った。弾かれた光弾は、ホーネットの手元へと跳ね返る。

『Hornet Drive. Hornet Drive. Hornet Drive』

 手元に迫る光弾に、更なる光弾を加え、その力を増幅させる。

「ほら……こっちにばっか気ぃ取られてると……後ろが危ないわよ!!」

 あまりにも大きな光弾に目を奪われるミラージュの背後に、アサシンが回り込む。その毒針がミラージュを貫いた瞬間、鏡のヴェールは綻び──巨大な光が、真正面から弾けた。

『わ、たしは……まだ…………ッ!!』

「いいや、終わらせるわ!!それが私に、あの男につけ込まれて怪人になった弱者に課せられる責任ってヤツなのよッッ!!」

 ホーネットは、レプリシューターに、黒薙から預かったもの──マテリアブレイカーを、装填した。

『Material Attack』

 どす黒い波動が、一点に集中する。

「だから──いい加減に、目を覚ましなさいッッッ!!!!」

『Breaking Drive』

 全ての能力を破壊する一撃が、囚われの姫君に掛けられた枷を、文字通り打ち砕いた。

 


 

「ハァ……まだだ、まだ俺は生きている……まだ俺を侮辱したあの売女どもへの復讐はできる……ッ!!」

 澪と多々羅によって打ち破られた二人のファントムは、森澄本人ではなく、彼が生み出した分身だった。一度に大量の分身を生み出し、消耗しきった森澄だが、まだ反撃の兆しはある。

「そうだ……クロージャーからまた新たな力を与えられれば、俺があの売女どもを殺すことは容易じゃないか!!こうなったらもう策を選んでいる余裕など……」

「ない、よなぁ?」

 その背後から投げかけられる、軽薄な声。浅黒い肌に、煌びやかというよりは下品な印象を与える金髪。その男が誰か知らなかったことは、森澄にとって幸せなことだったか、或いは。

「誰だお前は……俺は俺を侮辱した売女どもに復讐しないといけないんだ、邪魔をするならまずはお前から消してやるッ!!」

「ギャッハハ!!オレを消す、か。できるモンならやってみな下っ端!!てめぇの目の前にいる巨悪を挫いて、その力を証明してみろ!!」

 レプリシューターの引き金を引き、男は怪人の『王』になった。

「その姿……お前がクラウンか!!俺は運がいい、なにせお前をクロージャーに捧げれば更なる力を得られるんだからなァ!!」

 森澄もファントムに変身し、クラウンを撃破しようと試みる。

『ハッ、クロージャー……おっと、今はダガーだったな。ソイツに捧げられるのはどっちだろうな?』

 クラウンの右手に、無骨な剣が現れる。

『あと1%程度なんだ……せいぜい、いい肥やしになってくれよ?』

 一方的な『殲滅』が、そこに巻き起こった。




 墓脇です。
 今回は、ライダーを題材とした小説なのに、バトルシーンにライダーが誰一人登場しないというインド人もビックリな展開になりましたが、まぁ仮面ライダーの力は元を辿れば怪人と同じものなのでセーフです。ちゅーか亜矢マテリアブレイカー使ってたしね。実質あいつがライダーだよもう。
 さて、ここから後二話は色んなキャラに主役が移る感じの話になってます。次とその次に誰が来るか楽しみにしててください。
 まぁ言うほど今回の主人公が亜矢だったかって言われると微妙なところなんですが、ミラージュと決着つけたのは亜矢なので大丈夫です。何が大丈夫かは知らんけど大丈夫だよ。きっと。
 最後牧瀬にデータ集めるために襲われた小物化が進む森澄くん、果たして無事で済むのか……?
 ますます加速するOの流れ。このまま最終回まで一気に駆け抜けるので楽しみにしていてください。墓脇でした。
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