仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第40話「繋がる絆と『不死』の翅」

「……おぉ寒い寒い。永治、君はこれを着てそこで待っているんだ」

 ロベリアは、朱鷺澤の肩に自らの燕尾服をかけると、菱杖が開けた穴から、先程まで二人が戦っていた倉庫に入った。

「ん〜、ないなぁ。あれを失くしたとなると彼女に怒られちゃうんだけどねぇ」

 凍りついた床にしゃがみ、何かを探しているようだ。

「おっと、腰が痛くなってきた。……ん〜っと、っとォ!?」

 体を伸ばそうと立ち上がった瞬間、足下がふらつき、ロベリアは倒れた。

「いってて……菱杖センセイも気が利かないねぇ、少しは加減というものを知らないのかな」

 強打した後頭部をさすりながら、ロベリアは立ち上がる。

「……ん?おや、あるじゃないか。これで怒られずに済むと考えると気が楽でいいね」

 直後、視界の端に異質なものが映ったため、目を凝らしてよく見てみると、それはレプリシューターだった。先程の菱杖の攻撃の勢いでファントムの手から転げ落ちていたのだ。

「さて……祭りが、始まりそうだね」

 菱杖に開けられた穴から空を見上げ、ロベリアは言った。

 


 

「な、んだ、これ……ッ!?」

 空が、突然に暗くなったのを見て、黒薙は思わずつぶやいた。

「寒い…………」

 亜矢は、両手で自らを抱きしめながら震える。

「急に空が暗くなったと思えば、今度はなんだこの冷気……一体、何が起こってるってんだ……ッ!!」

 震える手で、黒薙は携帯を取り出し、誘宵学区のSNSを確認する。

「……クソッ、ロクに繋がりもしねぇ。回線までイカれちまってやがる」

 しかし、一向にロードが進まないことを確認すると、舌打ちと共に携帯の電源を切った。

「ここに留まってもいられねぇし……亜矢、立てるか?」

「……ん。寒いけど、だからっていつまでも縮こまってちゃ何も変わらないし。ちょっとでも体動かして温めないと」

 首を押さえながら言った恋人に、黒薙は思わず笑みを浮かべる。

「流石だよ、亜矢。……ンじゃ、取り敢えずここにいる連中とは合流するか」

「私とアンタと多々羅と……あとほか誰いるっけ?」

「一応、ミスティが草壁蒼哉と神蔵さんの見舞いに来てるらしい。あとは早見がいるはずだ」

 黒薙と亜矢は席を立ち、まず草壁らが入院しているという病室まで向かった。

 

 

「よう後輩、僕の熱烈なラブコールが届いたようで安心したぜ」

「いちいち気持ち悪いんですよ先輩。いちいち思考をこっちに送ってこなくても私はここで待つつもりでしたけど?」

「ハッ、勝手に言ってろクソボケ。……で、草壁蒼哉も神蔵さんも大丈夫なのか?」

 病室に着くなり、黒薙とミスティが言葉のプロレスを始める。

「あぁ白髪頭。一応は大した問題もない。普通に立ち上がって歩くこともできる。念のためにしばらくは能力の使用は控えろと言われたがね」

 そんな二人に冷ややかな視線を向けながら、草壁が言った。

「無事そうで何よりだよクソ野郎。っつーか、能力控えろって話なら変身もできねぇって訳か」

「まぁ、そういうことだろうな。……で、君がここに来たのはこの空のことで間違いないんだな?」

 眼鏡を拭きながら、草壁は言う。

「……まぁな。取り敢えずミスティ借りてくぞ」

「好きにするといい。私も私で少し探ってみるとするか」

「いやお前はここで寝てたほうがいいだろ。病み上がりなんだし」

 黒薙の言葉に、草壁は驚いたように目を見開いた。

「……驚いたな。君に他人を思いやるような優しさが残っていたとは」

「うるせぇ殺すぞクソ眼鏡」

 少し照れながら、黒薙は言った。

 

 

「や〜い先輩のツンデレ〜」

「前から思ってたけど、アンタ結構私とキャラ被ってるわよね颯斗」

 病室を出るなり、ミスティは黒薙を煽った。同時に亜矢も卑屈な笑みで黒薙の右腕を抱いた。

「おいクソ女コンビどさくさに紛れて僕の乳首を狙うな乳首キャラは他所で事足りてんだよ」

 さも当然のように両脇の二人が自分の乳首を狙っていることに感づいた黒薙は、軽く二人の頭をはたいて離れさせた。

「っつーか誰がツンデレだよ……男のツンデレなんて一部にしか需要ねぇだろ……」

「その一部がこの私よ」

「ばッ……うるさいばか黙れ」

 不意打ちで心を刺され、黒薙の頬が真っ赤に染まる。そんな時だった。パシャリ、という音が通路に響いたのは。

「ラッキー、せんぱいのスキャンダルゲットですぅ!!」

「……兄さん、なんでそんな勝ちまくりモテまくりみたいな状況になってるの?」

 カメラを向けるのは、下衆な笑みを携えた後輩と、どこか拗ねたような表情の妹だった。

 


 

「……ふぅん。亜矢さんはともかく、なんでレーツェル先輩まで兄さんに抱きついてるのか気になるんだけど」

 一通りの説明(言い訳とも言う)をし終えた後、澪はミスティに冷ややかな視線を送った。

「いやぁ、なんかその場のノリですよ。だいたい私と先輩は同一人物みたいなものなんですからそういうことでこの場は流してくれませんかね」

「つまりなんですか?レーツェル先輩は兄さんは自分に抱きつきたくなっちゃうようなナルシストだとでも言いたいんですか?」

 どことなく嫉妬の色を帯びた瞳が、ミスティではなく黒薙へと向けられる。

「おい澪なぜ僕を見る」

「ははっ、なんだそういうことですか!!そんなに先輩に抱きつきたいならそう言ってくださいよ!!」

 これじゃ私が気遣いできない女みたいじゃないですか、と。満面の笑みで、ミスティは言う。

「はぁ!?なっ、あたしは別に……ッ!!」

「まさか……できないんですか?先輩のことをボロ雑巾程度にしか思ってない私ですらできたことを?その程度で負けを認めるようなザコだったとは……」

「おい待てやテメェ誰がボロ雑巾だコラ」

 抗議する黒薙は無視し、ミスティは澪を睨んだ。

「……ふざけないでください。あたしだって兄さんに抱きつくくらいできますし?」

 煽られて怒りで顔を真っ赤にした澪が、ミスティを押しのけて黒薙の腕に抱きついた。

「……悪りぃ澪、僕は妹に欲情する趣味はねぇんだが」

「うるさいバカ兄さん黙って」

 もはや怒りなんだか羞恥心なんだかわからない感情でいっぱいの澪を見て、少しの微笑ののちに、亜矢は黒薙の肩を叩いた。

「ねぇ颯斗、ちょっといいかしら?」

「あ?いや別に構わねぇけど……」

 黒薙の耳に自らの口を近づけると、ふっと微温い息を吹きかけた。

「〜〜ッ!!何やってくれてんのテメェ!?」

「あっはは!!今ですよ多々羅ちゃんシャッターチャンスです!!何の仕掛けもなくハーレムを堪能できるわけないですよねぇエロ先輩ッ!!」

「サンキューです亜矢せんぱぁい!!ほいパシャっとぉ!!」

 みるみるうちに真っ赤になっていく黒薙から、亜矢の体が離れる。次の瞬間、パシャパシャパシャパシャと、連続してカメラのシャッターが切られた。

「………………もしかして亜矢さんたち、最初からグルだったってこと?」

 頬の赤を明確な怒りの色に染め、澪は三人を睨みつける。

「あ、えっと、いや、その、これは……」

 その殺意に、亜矢は言葉を途切れさせる。

「赤萩亜矢。多々羅礼子。ミスティーク=レーツェル。三人揃ってそこに正座しろ」

 冷たい声が、矢のように三人に向けられる。

「いや、別に僕はそこまでは怒ってないから大丈夫だぞ…………?」

「だから何?兄さんが怒ってなくてもこっちははらわた煮えくり返るくらいにはキレてるんだけど?」

 バイオレンスの香りを感じ、やんわりと澪を止めようとする黒薙だったが、完全に鉄拳制裁の流れに入った澪に、それは通用しない。

 小さな拳骨が多々羅の頭上に振り下ろされようとした、次の瞬間だった。

「おやおや、まさかこんなところに群がっていてくれるとはね」

 重苦しいばかりの威圧感。赤と金の二色の眼。透き通るような銀の髪。毒々しい紫の燕尾服。そして傍らに控える、生気のない目をした美少年。その感覚を、黒薙と亜矢は知っている。

「テメェは……ロベリア=ローゼンロード…………ッ!!」

「覚えてくれていたようで嬉しいよ黒薙颯斗くん。それじゃ……殲滅の時間だよ」

 どこか神秘的なオーラを纏う美青年が、平穏を切り裂いた。

 


 

「……ッ、何が殲滅の時間だテメェ。そもそもテメェに僕たちと直接戦う力はねぇだろうが」

 仰々しく語ったロベリアに、黒薙は怒りを込めた声で言った。

「そうだね。僕にはまだ直接戦う力はない。認めるよ。僕はただ、開戦の狼煙を上げにきただけさ」

 動じることもなく、ロベリアは言う。その指がパチンと鳴らされた時、黒薙たちは、それぞれ違う場所へと転移させられた。

「さぁ、始めようか赤萩亜矢くん。絶望の時間だよ」

 レプリシューターを構える亜矢に、歪んだ笑みを浮かべながら言った。

 

 

「この空といいこの圧といい……さっきから一体何が怒っているんだ……?」

 同時刻、早見は空を見上げながら呟いた。

「もし、何か起こったら……その時は俺一人でも…………」

「俺一人でも、なんですか?」

 直後、速水の背筋に走った冷たい気配。早見は大きく飛び退き、臨戦態勢を取る。

「あなたは……菱杖、透流…………ッ!!」

「先生をつけてもらえると嬉しいんですがねぇ劣等生クン。……質問なのですが、しずくの病室はどちらで?」

 ひどく空虚な笑みで、菱杖は迫る。

「俺が、答えると思いますか?」

「あぁ、やる気だと言うのであれば相手になってあげても構いませんよ。病院内で暴れるのは流石にどうかと思いますがねぇ?」

 レプリシューターを抜きながら、菱杖は笑った。

「まさか、手加減したまま俺を倒すつもりですか?舐められたものですね……ッ!!」

「ワタシが本気を出してしまうと最悪この病院ごと吹き飛ばしかねませんからねぇ……彼女の病室さえ吐いていただければ命だけは保障しますが、どうでしょう?」

「答えはこれですよ、菱杖先生。……ここで、あなたを倒します」

 二人がレプリシューターを構えた──瞬間、小さな影が間に割って入った。

「早見くん、下がっていてください。……彼とは、一度話しておかなければならないと思ってたんです」

 水削は、真っ直ぐな目で菱杖を見据えた。

 

 

「朱鷺澤さん……あなたには、レプリシューター使い二人に勝てるほどの戦力はないはず。大人しく投降してくれれば、痛い目は見ずに済みます」

 澪が言う。しかし、視線の先の朱鷺澤は、澪の存在など気にも留めない。

「……交渉決裂。行こうスキャンダル、ここで朱鷺澤さんを潰して、兄さんの憂いを取り除く」

 澪と多々羅がレプリシューターを構え、マテリアピースを挿入し、引き金を引こうとした瞬間のことだった。

「……と、だえ、ろ」

 朱鷺澤の右手が突き出され、グッと閉じた。秒の世界にも届かないような、ほんの僅かの時間ののち、

「ご、は……ッ!?」

 硬く結ばれた澪の唇の両端から、赤黒いものが流れ落ちた。

「ジェリーフィッシュ!!……何をしたか知りませんがぁ……三十六計逃げるに如かず、ですねぇ……ッ!!」

 澪に肩を貸し、多々羅は能力で姿を消した。だが、保って数秒だ。物理的に右も左も分からない場所で、力の抜けた人間ひとりを守り抜くことが、果たして可能か?

「はっ、はは……お嬢ちゃんカワイイ顔してるねぇ、食べちゃいたいくらいだぁ……とでも言いたそうな顔じゃないですかぁ……ッ!」

 能力が解ける。この数秒で朱鷺澤から逃げ切れるかと問われれば、答えはノーだ。

(どんなものかもわからない能力に対処しながら、たった数秒しか使えない能力で身を隠し、ジェリーフィッシュを守る、ですかぁ……ッ!!)

 再び伸ばされた掌に、足下から拾い上げた石を投げつけ、多々羅は思案する。

(まったく、意味わからない無理ゲー押し付けてくれるじゃないですかぁ……ッ!!)

 


 

「ミスティ、ここがどこか分からねぇか?」

「わかったら苦労しませんよ先輩……私たち、完全に切り離されました」

 周囲を見渡して、ミスティは呟いた。少なくとも病院ではない。何らかの建造物の中であることだけは確かだ。

「っつーか敵もいねぇし……あいつら無事なんだろうな…………?」

「まぁ、まずは誰かしらと合流しますか……」

 二人がしばらく歩くと、手を振る影が見えた。亜矢だ。

「亜矢か。……そっちは大丈夫だったか?」

 駆け寄り、問うが、微笑むばかりで返答はない。

「おい大丈夫か亜矢……なんてな」

 しかし亜矢は、何の躊躇いもなく、黒薙に向けて拳を振るう。対する黒薙も、まるで前もって知っていたように、流れるように攻撃を躱した。

「テメェは僕をナメすぎなんじゃねぇのか?この僕が、恋人のパチモンに騙されるわけがねぇだろうが。わざわざ直にブン殴るために出てきてやったってのに、その顔でクソみてぇな笑い方しやがって」

 そして、黒薙の拳が、亜矢に化けたモノの顔の中心に突き立てられた。バゴォッ!!と、重い音が響く。

「ってて……いったいなーぁ、よくもぼくのご尊顔を傷つけてくれたなーぁ!!」

「他人の皮被ってるクソが何言ってやがる。っつーか、なんで僕が今更テメェの相手なんて面倒な真似をしてやらにゃならんのだ。テメェ自身も愉快に爽快に理解してるだろうが……はっきり言って、テメェはもう周回遅れなんだよ」

 黒薙は中指を立て、偽亜矢──化野を挑発する。

「ふ、ふっふふ。ふふふふふふっ!!ぼくが周回遅れぃ?面白いことを言うねぃ、でもぅ……これを見てもぅ、まだ同じことが言えるかなぁ?」

 黒薙の言葉に、化野は笑う。その姿を元のもの──果たしてそれが本当に元のものかは誰も知らないが──に戻した少女の懐から抜かれたのは、血を思わせる色合いのレプリシューター。

「これねぃ、クロージャー……じゃなかった、ダガーから貰ったんだよねぃ。本当にぼくが周回遅れかどうかぁ……試してみるといいよぅ」

 化野は、真っ赤なレプリシューター──ダガーシューターと呼べるそれに、マテリアダガーを装填する。

壊錠(かいじょう)ぉう!!」

 そして、引き金が引かれる。銃口から弾き出された光弾が地面に触れ、跳ね返る。

『Dagger Charge. Open Triceratops. Based On Mulchface』

 マルチフェイスに変身した化野の外装が、血の光弾を浴び、内側から食い破られていく。

『ふっ……ふっふふふっ!!これがぼくの真の力ぁ!!さぁかかってこいOOぅ、コテンパンにしてあげるからねぃ!!』

 そして、強化態・ダガーシャトランとなった化野は、意趣返しと言わんばかりに中指を天に突き立てた。

「いいぜ、やってやるよ……ッ!!」

 黒薙も、それに応えるようにドライバーを装着し──無意識的に、マテリアトリニティを起動していた。

(……あぁ、そうですか。先輩は、トランセンドになって敵を仕留めきれないということに恐れを抱いている。菱杖透流のあれがトラウマになってるってわけですか)

 その様を見て、ミスティは内心で呟いた。

「……先輩。終わったらお説教ですからね」

「死亡フラグ立てんな後輩。……行くぞ」

 そして、二人は肩を並べ、『変身』する。

『Oh! Trine OO!! Excellent!!!』

『Ignited HORUS system……“Mist OO”』

 武器を構え、二人は怪人へと立ち向かっていった。

 


 

『遅い、遅い、遅いねぇーぃ!!そんな攻撃じゃ蚊も落ちないよぉーぅ!!』

 鎌の一振り、レイピアの一突き、それらを軽々と避け、マルチフェイスは嗤う。

「いや……遅ぇのはそっちだよ、ボケが」

『Time Master!』

 マテリアトリニティの力で加速したOOが、マルチフェイスの背中を斬りつけた。

『んー?あれぃ?今、何かしたのぅ?』

 しかし、与えられたダメージは、無に等しい。

「嘘だろ……ッ!?」

『嘘じゃないよぅ、そんなしょぼい攻撃でぼくを倒せると思ってんのぅ?』

 俊敏な動きで、マルチフェイスの腕が振るわれる。OOの身体を捉えた無造作な一撃は、見た目に反して重い。

「が……ッ!?」

 吹き飛ばされ、壁一つぶち抜いて、OOはようやく着地する。

「先輩ッ!!」

『心配しなくていいよぅ、きみもOOと同じように潰してあげるからさーぁ!!』

 マルチフェイスの拳を腹部で直接受け、ミストOOの身体が宙に舞う。

「づ、ゥ……ッ!!」

 このままでは背骨を壁に打ちつける、そう判断したミストOOは、レイピアを地面に突き立て、壁との衝突を防ぐ。

「先輩、立てますか」

「当たり前だろ、こちとら伊達に場数は踏んでねぇ」

 二人は立ち上がり、武器を構え直した。

『いいねぃ、そうこなくっちゃぁ!!』

 その様子に、マルチフェイスは拍手を送った。

「……先輩、アレを倒すには、普通の攻撃じゃ無理です。ですけど、タイミングを合わせた必殺技を上手く弱点にぶち込めれば勝算はある」

「分かってる。……その腰のオモチャであいつの弱点を探れ。それまでは僕が囮になってやる」

 そう言い、再びマルチフェイスへと襲いかかる。

「先輩に無理させるんですから、ちゃんと仕事はしてくださいよ……」

『Tune Reacter Eye』

 ミストOOの複眼が、緑のプロテクターに覆われる。その視界の端々に映る情報群から、マルチフェイスの弱点を一心に探る。

『無駄だよぅ?』

「……ッ、させるわけねぇだろバーカ」

 ミストOOへと攻撃が迫るが、それをOOが受け流した。

(……よし、まだ決定打は与えられねぇが、あの野郎の攻撃パターン自体は読めた。これなら逸らせる)

 僅かな動きで、迫り来る攻撃の数々を潰していく。

「……見えました、先輩」

「あぁ、伝わったよミスティ。……んじゃ、いっちょ反撃開始と洒落込むか」

 弱点の捕捉が完了した。思考をリンクさせ、黒薙にもその弱点が伝わる。マルチフェイスの一撃を踏み台として、OOは大きく飛び退き、鎌を槍に変形させた。

『いい、いいねーぃ!!本気でかかってきてみてよぅ!!力の方向性はこっちで合ってるはずだからさーぁ!!!』

「あぁ……その余裕、後で後悔しても知らねぇぞ」

 直後、OOの身体が消えた。否。感覚が強化されたマルチフェイスですら感知できないスピードで、OOが後ろを取ったのだ。

『……ッ!やる、ねぃ……ッ!!』

 オブリビオンセイバーで四肢を突き、自由を奪う。ほんの一瞬程度の効力だが、戦場では、その一瞬が勝敗を分ける。

『Trinity Spin Slash!!!』

『Mystical Thrust!』

 二つの穿撃が、マルチフェイスの両肩に突き刺さり──爆発を巻き起こした。

「やったか……!?」

「それ禁止ですよ先輩、フラグが立つので」

 爆煙が上がるが、警戒は解かない。とはいえ、確かな手応えを感じ、ある程度の慢心はあったかもしれない。

『ふふっ、ふふふふっ!!やるねーぃ、でも残念、今のぼくにその程度の攻撃はあんまり効かないよーぅ!!』

 煙を払い、何事もなかったかのように、マルチフェイスは起き上がった。

「確かな手応えはあった……あの攻撃で無傷の筈がないんです……」

 それを見て、ミストOOは声を上擦らせる。

『そうだよぅ。つまりぃ、ぼくのこの姿の本当にすごいところはぁ、どんな傷も跳ね返す再生力なんだよねぃ!!』

 ミスティの動揺がよほど嬉しかったのか、マルチフェイスはけたたましく嗤った。

『さーてぃ……じゃぁ、死んでもらうよぅ!!』

 OOたちへと駆け出したマルチフェイス。しかし、腕を振るう直前に動きを止め、一方を見据えた。

『ふっ……ふっふふふぅ!!あはっ、はははっ!!ダメだねぃ、きみたちよりよっぽど面白い相手が現れたっぽいしぃ、そっち片付けるのが先になっちゃうよぅ!!』

 そう叫ぶと、マルチフェイスは、凄まじい速度でそちらへと向かっていった。

 


 

「何が、絶望の時間よ。別に私はアンタに遠慮してやる理由なんてないのよね。ここでアンタを殺してしまったとしても、正当防衛として自分を正当化できるわけだし」

 その少し前、亜矢はロベリアと対峙していた。

「わざわざそれを口に出すのは、自分にそう言い聞かせるためだね。君のそれを否定する気はないよ。人を殺すのは辛いことだ。君の気持ちはよくわかる」

 ロベリアは笑い、亜矢へとにじり寄る。

「とはいえ、心を壊して人形にするのは惜しい。そんなことをしても僕のお人形遊びにしかならないからね。……大人しく投降するなら、君の心を壊さずに済むんだけど、どうしようか?」

「……ハッ、格好つけてんじゃないわよゲス野郎。アンタなんかに跪くくらいなら、舌でも噛みちぎって死んだ方がマシ」

 空虚に告げるロベリアを睨みつけ、亜矢はレプリシューターを構える。

「アンタを潰して朱鷺澤が戻るのかどうかなんて知らないし、そもそもアイツを助けてやる義理なんて私にはない。……でも、助けてあげたいって思っちゃうのよね」

「ははっ、永治が聴いていたら喜びそうな言葉を言ってくれるね!ちなみに、それはどうしてかな?」

「決まってんでしょ。……私の恋人の望みだからよ」

 豪語すると、亜矢はどこか卑屈に笑った。

「私には、私のすべてをアイツに捧げるだけの覚悟がある。えぇ依存よ。こんな献身的ないい女、他にいないわよね」

「……驚いた。君、僕が壊すまでもなく壊れているじゃないか」

「えぇ、それがどうかした?私はアンタのお仲間に家族を殺されてんのよ。正直今こうして平然とアンタと言葉を交わせてることに自分でも驚いてるわけ。私が何を思ってるか聞かせてほしい?アンタたちへの怨嗟と怒りと殺意とその他諸々の悪意よ」

 レプリシューターの銃口が、真っ直ぐにロベリアへと突きつけられた。

「逆恨みだねぇ。僕は彼の行動なんて知らないし、それで君の家族が死のうと何とも思わないよ。それで僕を恨むのは筋違いじゃないかな?」

「そうね。だから何?私は菱杖透流に付くヤツは全員ブッ潰すって決めてんの。アンタだって例外じゃない。投降すべきは果たしてどっちかしらね」

 亜矢の言葉に、ロベリアは不敵に笑う。

「まぁ、君が壊れてようと、僕たちに向ける牙がまだあるというのは面倒だし……ここで、牙ごと木っ端微塵に砕いてあげるよ」

 そして、右手が伸ばされ──パッと、その掌が開かれた。

「──目覚めろ」

 虚空にヒビが走る。少しずつそのヒビは広げられ、やがて世界に一つの穴を生み出した。

「う、そでしょ…………っ?」

 現れた男を見て、亜矢の顔が青ざめる。

「さぁやれ赤萩陽希。君の妹の心をへし折ってやるんだ」

 呼び出された男こそ、ロベリアの仲間に殺された、亜矢の家族だったのだから。

「お兄、ちゃん……あんな奴の言葉を聞く気!?やめてっ、私のっ、私のお兄ちゃんに…………っ!!」

 先程までの威勢が嘘であったかのように、亜矢は取り乱す。

「うん。いいね。いい泣き顔だ。やるんだ赤萩陽希。僕の命令は絶対、そうだろう?」

 対して、ロベリアは愉悦を感じた顔で、赤萩へと語りかけた。

 赤萩の腕が、亜矢へと向けられる。亜矢の体が、恐怖に震える。──そして、その掌が、亜矢の頭を撫でた。

「……もう泣くな、亜矢。俺に任せとけ」

 そう言うと、赤萩は、亜矢を守るようにして立った。

「……なるほど、意志の力で僕の支配を解いたということか。だけど残念だね。僕のチカラで蘇ったモノは、僕に歯向かうことはできない。──途絶えろ」

 対するロベリアは、ただその掌を閉じる。赤萩の命は、そこで散る──はずだった。

「僕のチカラが、効かない……?」

 そこに佇む赤萩は、何もなかったようにただ佇むのみ。ダメージを受けたような素振りも見せない。

「不思議そうなツラだな。そんなに俺に能力が効かなかったのがショックか?」

 不敵に笑い、赤萩はロベリアを挑発する。

「うん。それに関しては素直に驚いてるよ。どういうことか、説明してもらえるかな?」

 目を見開いたロベリアが、顎を撫でながら問うた。

「何も不思議な話じゃねぇよ。死の寸前、俺の頭ん中にある景色が浮かんでな。真っ白な世界で、自分自身と殴り合った。そして死んでいった。お前は、俺を呼び起こすべきじゃなかったんだよ」

 問いに答える赤萩の左目が、一瞬だけ金色に染まった。

「その俺の影こそが、俺の能力の化身だった。そして俺は、能力を持ったまま死んだ」

「……だとしても、ランク10と言えども一介の能力者に過ぎない君が僕のチカラを弾ける理由にはならなくないかい?」

「そう結論を急ぐなよ、早漏かてめぇ」

 どこか妖艶な笑みを浮かべ、赤萩はロベリアの鼻先に指をかざした。

「俺の能力は、ただの炎じゃなかった。言うなら、俺は今まで、断片的にしか能力を掴めてなかったんだ。今際の際に、やっと能力の本質を理解できたってことだな」

 そして、赤萩と、赤萩から分かたれた影は言った。

「「俺の能力は『不死共立(イモータルリンク)』。森羅万象すべての『核』を世界の狭間に隔離し、それが朽ち果て消えることを打ち消す能力。ま、物理的な死の無効化まではできねぇけどな」」

 


 

「……これは驚いた。つまり、僕の作戦は失敗ってことでいいのかな?」

「どうした、逃げんのか?腰抜けが、自分で殴りかかってくる度量もねぇくせに俺の妹に手ェ出してんじゃねぇよ」

「まぁ、僕は非力だからね。勝てない戦をする気はない。──帰るよ、永治」

 そう言うと、ロベリアは飛び立った。同時に、多々羅を追っていた朱鷺澤も、その場を離れていった。

「……お兄ちゃん、本当に、お兄ちゃんなの…………?」

「「さぁ、どうだかな。俺は自分を赤萩陽希と認識してるが、本当にそうかは誰も知らねぇ。言うなればスワンプマン。自分を赤萩陽希と誤認してる泥の塊かもしれねぇ」」

 そう答える赤萩の左目は、金色だった。心なしか声も二重に重なって聞こえた。

「……っててめぇ俺の口で何言ってやがる!恥ずかしいからやめろクソガキ!!」

「え〜?そうかぁ?カッコいいと思ったんだけどなぁ……」

 赤萩から分かたれたその少年は悪びれもせずに言った。

「あ、あの、お兄ちゃん……その人は…………?」

「おれかぁ?おれはベネット=フィアーテイル!陽希版の牧瀬玲王みたいなモンだ!」

 ベネットと名乗った少年は、掌を差し出した。

「え、えっと……よ、よろしく?」

「おう!よろしくだ亜矢!」

 若干困惑しながら、亜矢はその手を握り返す。

「さて、亜矢……突然だが、どっか遠くに逃げてくれ。……来るぞ」

 二人が握手したのを見るなり、赤萩は亜矢の背を押した。

「な、何が来るの?」

「敵だ。それもクソ強ぇやつ……ほら来た、下がれッ!!」

 亜矢を庇うようにして赤萩は立つ。その目の前に、マルチフェイスが現れた。

『あーはっはっ!!きみ面白いねぃ、死んだはずなのに生き返っちゃうなんてさーぁ!!』

「その辺りの文句はてめぇんとこの銀髪に言ってくれ、っつーかそっちも知らねぇ内に随分と厳つくなりやがって」

『でしょぉーぅ?この力があればーぁ、生き返ったきみをまた殺すのも簡単なんだよねぃ!!』

 マルチフェイスは歪んだ笑みを浮かべた。しかし、赤萩の表情は、余裕のそれから変わらない。

『なんでビックリもしてくれないのかなーぁ?それじゃつまんないんだけどーぅ!?』

「ははっ、いや悪いな!お前が新しい力を手に入れたとしても、俺だって死んでる間に新しい力を身につけたんだ。お前じゃ俺には勝てねぇよ」

『へぇぃ?まぁ弱いままのきみを殺してもそれはそれでつまんなそうだしぃ?その力ぁ、見せてくれるんだよねぃ?』

 マルチフェイスが挑発する。赤萩の方も、挑発に乗る準備は万全だ。

「おう。……行くぞベネット。強敵の鼻を明かしてやろうぜ」

「あぁ、最終戦争(ラグナロク)の始まりだ!!」

 赤萩がドライバーを装着する。右手に握られるのは、真っ赤なマテリアキー。その中央には“P”の字が刻まれている。

『Phoenix! Set!』

 ドライバーに、マテリアキーを装填し、ヘッドを回す。

「「変身ッ!!」」

 赤萩の指が、ドライバーのボタンを押した。

 


 

『Open!』

 赤萩の体が、紅蓮の炎に包まれていく。

『Wake Up! Burning Armour!! This is the Immortal Flame!!』

 その炎は不死鳥のように燃え上がり、赤萩から噴出したホルスを焼き、真紅のアーマーを形作る。

『Fly High!! Ignited Phoenix Flamer!!!』

 今ここに、最強の戦士が誕生した。

『Phonix Pfeil!』

 ベネットの身体が炎に変わり、次の瞬間には弓型の武器──フェニックスプファイルとなって、フレイマーの腕に収まっていた。

『ふっ、ふふふっ!!それがきみの新しい力ぁ!?いいねぃ、最高だよぅ!!もっとぅ、もっと力を見せてみてよぅ!!全部上から捻り潰してぃ、ぼくの力を思い知らせた上でブチ殺してあげるからさーぁ!!』

「獲物の前で舌舐めずり、ってのは三流のやることだって知らねぇのか?御託はいい、行くぞクソ野郎」

 それだけ言って、フレイマーはマルチフェイスへと飛びかかった。

『遅い、遅いねぃ!!どれだけ強くなったとしてもぅ……そもそもの出来はぼくの方が上なんだよねぃっ!!型落ちベルトでぼくに勝てるとでも思ったのかなぁ!?』

 マルチフェイスの腕が、フレイマーの肉体を貫く。それによって、彼あるいは彼女の脳に、一瞬の慢心が生まれた。

「遅いのはてめぇだよ、それで本気のつもりか?」

 一瞬にしてマルチフェイスの背後に回り込んだフレイマーが放つ、烈火の一矢。燃え盛る一撃が、ダイレクトに、その装甲を貫く。

『あっ、つぅ……っ!!よくもやってくれたなぁ……っ!!』

 マルチフェイスは声を震わせ、全力でフレイマーへと飛びついた。その両腕が、確かにフレイマーの両肩を掴む。

『そのまま潰れて死んでねぃ!!』

 肩のアーマーから、トリケラトプスの形をしたエネルギー塊が現出し、フレイマーの胸部のアーマーを突き刺した。

『ははっ、流石にこれで無事なんてことはないよねーぃ?ぼくの全力の一撃だよぅ?』

 地面に叩きつけられたフレイマーを見ながら、マルチフェイスは呟く。一瞬、装甲の中で瞬きをすると、フレイマーの姿が視界から消えていたことに気が付き、

『なぁ……っ!?』

「いや効いたぜ、俺じゃなきゃ死んでるとこだった……ま、俺だから死なねぇんだけどな」

 急いで振り返ると、そこにはフレイマーが立っていた。確かにダメージを与えたはずだ。あの一撃を喰らってまともに立っていられるはずがない。なのに、フレイマーは無傷のままに立っている。

「人の顔見て驚くなよ、傷つくだろ。いや仮面被ってるから顔は見られてねぇけど」

『どっ、どういうことかなぁ!?ぼっ、ぼくの全力だよぅ!?』

「単純な出力の差だよ。それ以外に何がある?」

 取り乱すマルチフェイスを見据え、フレイマーは言った。

「てめぇは俺を型落ちだとか言ったな。……その言葉、そっくりそのままてめぇに返してやるよ」

 侮蔑の意が籠った言葉に、マルチフェイスは激昂する。

『ふっっっざけるなぁっっっっっ!!!!もう怒ったからなぁ!!!!ここできみをグチャグチャのメチャメチャに潰してぇ、汚いミンチにしてあげるよぅ!!!!!』

 ダガーシューターの銃口が押された。そこに、血の色のエネルギーが収束していく。

『Material Attack. Triceratops Dagger Drive』

 放たれた光弾は、その余波で地面を抉りながら、フレイマーへと突き進む。

「それがてめぇのマジの本気か。流石にマトモに受けたら俺でも危ねぇかもな。……だから、こっちも、ちょっと本気出させてもらうぞ」

 その斜線上に佇むフレイマーは、静かにマテリアキーをドライバーから抜くと、フェニックスプファイルへと挿入した。

『Material Attack! Phoenix Burn Fire!!』

 七つに分かれた炎の矢が、トリケラトプスの光弾と正面からぶつかり──それを無惨にかき消した。

『さっきからぁ……ぼくをナメやがってさーぁ!!!!殺すぅっ、きみだけはぼくが殺してやるよぅ!!!!!』

「そうしたきゃ別にすりゃいいじゃねぇか。ま、できねぇだろうがな」

 背中に炎の羽を広げ、フレイマーはマルチフェイスへと飛びかかる。マテリアキーは、再びドライバーに装填されている。

『Material Finish!』

 莫大なエネルギーを放ち、マルチフェイスは迎撃しようと試みる。

『Immortal Burn Out!!』

 しかし、いくら莫大と言えど、いくら非常識なほどのエネルギー量がそこにあったとしても、それは所詮常識の範疇だ。フレイマーが放つ、底抜けに非常識なまでのホルスの前には、その程度は無にも等しい。爆炎を帯びたキックが、マルチフェイスの胸を撃ち抜いた。

『あぁっ……がぁぁぁぁぁっ!!!!』

 内側から巻き起こる、強大なエネルギーの奔流。制御不能のソレが行き場を失ってしまえば、どうなるか。次の瞬間、マルチフェイスの体の奥を起点として、大爆発が起こった。その熱で、冷え切っていた空に、再び灯りが燈った。

『あぁっ、はぁっ…………おぉっ、覚えてろぅ、よぅ…………っ!!次はぁっ、次こそはぁっ、きみをブチのめしてあげるからさーぁっ!!!』

 それだけの攻撃を受けてなお、マルチフェイスの変身は解かれなかった。ボロボロになり、捨て台詞を吐きながら、煙に飲まれて姿を消した。




 墓脇です。
 今回は赤萩がついに復活しました。死んだ人が軽々しく生き返っちゃうとその作品の死生観に悪い影響与えちゃうってわかってはいるんですけどね、まぁこれに関してはロロロくんがアホだったということで許してください。
 元々赤萩がリンク能力者だという設定はありまして、菱杖に殺されるところも最初から決めてました。問題はどう生き返らせるか、そしてどう能力を覚醒させるかだったんですよね。雑な生き返らせ方だと前述の通り作品の死生観がぐちゃぐちゃになってしまいますので……いやこの生き返らせ方はわたしも雑だとは思いますけどね……というか不死とか言っといて死までは止められないってそれだいぶ名前負けしてんじゃんって話なんですけども……。
 今回の亜矢は割と過激な発言が多かったような気もしますが、あれは家族の仇と近しい関係の奴の前でテンションが上がっていたんですね。まぁその家族は生き返ったんですけど。
 そもそもスピンオフで三年前の亜矢がちらっと出てるわけですが、性格は少しは明るくなったとはいえ、元々が精神的に不安定なところあるのであの子……。
 というわけで、墓脇でした。
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