仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第43話「糸の切れた『傀儡』」

瑠璃(るり)。大丈夫ですか?こんな人混みに貴女を連れてきたくはなかったんですがねぇ……」

「大丈夫……わたし兄さんが思っているほど弱くないから……」

 それは、高坂がとある少女と出会った日のことだった。菱杖は、歳の離れた妹とともにある場所に来ていた。

「……あちらですね。行きますよ瑠璃。絶対にワタシの手を離さないでくださいね?」

 そう約束して、菱杖は妹の手を握りしめた。はずだったのに、だ。

「こ、ここ、どこぉ……??」

 人の波に呑まれて、瑠璃は菱杖とはぐれてしまった。

「兄さぁん…………」

 泣き出しそうだったが、それは我慢した。年齢よりは小さく見られてばかりだが、もう迷子になって泣くような年齢ではないのだ。

「……おい。迷子か?」

 そんな時、ある男が瑠璃に声をかけた。高坂だ。

「……うぅ。そうなんですぅ……兄さんとはぐれちゃって…………ふえぇ…………」

 高坂の目つきに怯えながらも、なんとかその旨を伝えた。

「……お前、名前は?」

「瑠璃ですぅ……菱杖瑠璃…………」

「……菱杖、か。もしかして、お前の『兄さん』というのは菱杖透流のことか?」

 首をブンブンと振った。

「……お前、携帯は持っていないのか?」

「あ、あるにはあるんですけど、その……電源が…………」

 ハァと高坂はため息を吐いた。

「待てよ、今少し見てみるとする。……あった。番号は知っている。自分の携帯を貸すからあとは勝手にかけろ」

 鞄から一枚の紙を探し出し、そこに書かれていた番号を打ち込み、瑠璃へと手渡した。

 

「よかった……心配したんですよ瑠璃……!!」

「ちょっ、近いよ兄さん……」

 十数分後、待ち合わせた場所で二人は再会した。

「ありがとうございます高坂くん、貴方には感謝してもしきれない…………!」

「その必要はありません。自分はただ目の前で泣かれるのが鬱陶しかっただけなので」

 担任教師と鉢合わせてしまったことを後悔するような表情で、高坂は言った。

「いえ……何のお礼もしないというのもなんですし、これからワタシたちはお昼なのですが、ご一緒にどうでしょう?」

「必要ありません。……自分は用事があるので、これで」

 無愛想に、高坂は言った。

「あ……その、待ってください……!」

 歩き去る高坂にちょこちょことついて行き、瑠璃は呼び止めた。

「……何だ?」

「あ、あの……高坂、さん……こ、これ、その、わたしの、番号、なので……よかったら、もらってください…………!」

 小さな紙を差し出され、高坂はわずかに目を見開いた。

「……はぁ。貰っておくとするぞ」

 別に、拒否してもよかった。しかし、なぜかできなかった。

 この日を境に、二人は少しずつ二人の時間を歩んでいった。

「……で、なぜ自分は呼び出されているんですか、菱杖先生」

「いえ、その……一つ確認をと思いまして…………」

 しばらくして、放課後、帰宅しようとしたところを、菱杖に呼び止められた。

「……その、貴方と付き合い始めた、と瑠璃が楽しそうに言っていたのですが…………」

「……そのことですか。まぁ、確かにそんなこともありましたが…………やめろ、とでも言うつもりですか?」

 高坂は隠そうともせずにそう言った。その涼しげな顔を見て、菱杖は笑った。

「いえ、そうではありません。……でしたら、一つ約束してください。絶対に、あの子を幸せにすると」

 高坂は、穏やかな顔で頷いた。

 しかし、

「……すみません、すみません、菱杖先生…………!!」

「貴方が謝る必要はありませんよ……悪いのはワタシです、なんの危機感も抱かずに妹を送り出してしまったワタシなんですから…………ッ!!」

 菱杖瑠璃は、C-ARC事件で、その意識を失った。

 菱杖と高坂は、後悔を抱えたまま、日々を送っていった。

 そんなある日、菱杖は高坂を呼び出すと、こう誘った。

「……高坂くん。唐突ですが、瑠璃をあんなにした野郎への復讐に興味はありませんか?」

 否定したかった。復讐なんてしても気は晴れないはずだ。なのに、体は勝手に頷いてしまう。

「できる、んですか…………?」

「それができる力を、ある男に与えられたんです」

 空虚な笑みで、菱杖は笑い、

「貴方も、覚悟があるのならば、ワタシについてきてください」

 そして高坂は、怪人となった。

 


 

「な、んだ。アレ……ッ!?」

 突然の轟音に、思わず黒薙は窓を開けて空を見上げた。突如として現れたそれは、周囲の木々を飲み込みながら、どんどん大きくなっていく。

「委員長ッッ!!」

「今調べてるから黙って頂戴!!」

 万全のコンディションで臨めるよう、作戦参加メンバーはみな執行衛兵本部に集まっている。だが、この土壇場で状況が急変するか?

「出たわ、謎の塔の出現地点はここから南に50km、特例区・第十八学区。その中心部にホルスが収束しているみたい。……考えたくないけど、この土壇場でこれって絶対コウモリ野郎がいるじゃない……ッ!!」

 舌打ちしながら、遠山はそれぞれに指示を出していく。

「……ッ、おい待てふざけんな……ッ!!」

 扉に手をかけた瞬間、赤萩が叫んだ。その隙間から、大量の虫が、応接室に入り込んできたからだ。

「この匂い……お前ら!!全員伏せろッ!!」

 赤萩の呼びかけのままに、全員がその場に伏せた。次の瞬間、上空で虫たちの体が爆ぜた。

「この虫……まさか、ゲノムス=リボーのあれか……ッ!!」

 這いながら、黒薙は舌打ちする。ドライバーを取り出そうとするが、この体勢では上手く取れない。

「ま、ず……ッ!!」

 外へと出ようと能力を使おうとした草壁の頬に、虫の脚が触れる。次の瞬間、虫が炸裂し、草壁の肌を傷つけた。

「蒼哉ッ!?」

「気にするな、この程度かすり傷だ……せめて開けた場所に逃げるぞ、多少の怪我は覚悟しておけッ!!」

 頬から赤黒い血を流しながら、草壁は叫ぶ。今度こそ能力を発動し、一足先に外に出たが、そこで、信じられない光景を目にした。

「ふざけるな……冗談も大概にしろ……ッ!!」

 ライダーたちのバイクや、執行衛兵の装甲車の内部に入り込んだ虫たちが、ボンと音を立てて破裂したのだ。

「今の音、何が起こったんで……ッ!?あのクソども、こっちの足を潰しに来たってわけですか……ッ!!」

 その光景を見て、ミスティは絶句する。

「っていうかこの虫どんだけいるわけ!?待ってやめて近寄らないで近寄るなっつってんだろ!!」

 腕に触れた虫を叩き落として、亜矢は言う。その両目からは大粒の涙が溢れている。洗脳されたりおうちデートを邪魔されたり、ゲノムスの虫には全くいい思い出がないのだ。

「ちょっ、こっち飛んできてるのだけど……!?」

 爆発寸前の虫が、ブブブと神蔵の足元に落下していく。

「いやぁぁぁぁぁ!?気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃぃぃぃぃ!!!!」

「……まったく、騒々しいひと」

 だが、それが爆発することはなかった。

「……夜中にパンパンうるさいからどこの誰がこんなクソ忙しい時期に花火大会やってるんだって思って見に来てみればこれか。色々と大変だね」

 銀髪の少女が放った水が、虫をはたき落としたからだ。

「澪……ッ!!」

「イェーイみんなのあなたの澪ちゃんだよっ。キラッ。……じゃないよ兄さん。これは何?兄さんがいてなんでこんな悲惨なことになってるわけ?」

 掌の上でくるくると水のボールを回しながら、澪は責め立てるように言う。

「多分敵の能力で作られた虫だ。なんか爆発するんだよ」

「はぁ、爆発。爆発ね。ならあたしが来たのは正解だったみたいだね」

 黒薙と話す片手間に、水の弾丸を虫たちに撃ち込む。

「……行って、兄さん。虫はあたしがなんとかするから。こんなところで足止め食らってられないでしょ?」

「……あぁ。そうだな。……任せたぞ、澪」

「任されたよ、兄さん」

 黒薙たちを退かせて、澪はレプリシューターを抜いた。

「……今なら、あの男にグッチャグチャにされて死にかけてブチギレてる今なら、この能力だって使いこなせる。どうせ人の言葉なんて理解できないだろうけど、今のあたしの状態をなんて言うか教えてあげる。解錠」

『Queen Charge……Open“Jellyfish”』

 そして、片手でくるくると弄びながら、言い放った。

「……虫の居所が悪い、ってワケ」

 直後、激流の群れが、虫たちを飲み込んだ。

 


 

「ちょっと傷治しますからじっとしててください草壁先輩」

 ある程度離れた地点で、亜矢は草壁を止まらせ、能力で顔の傷を治していた。

「……感謝するよ、赤ツインテ」

「いりませんよ、怪我したまま戦って負けられても面倒ですから」

 亜矢はミルクキャンディを噛み砕きながら言う。

「……しかし、どうしたもんっすかね。虫のせいで草壁先輩と神蔵さん用に作ったやつも置いてきちまいましたし」

「今希望に連絡しているわ。避難を煽るために現場の写真を撮らせるつもりなのだけど、ついでに取ってきてもらうわ」

 ため息をつく有栖川に、遠山は優しく応えた。平時であればとても許せることではないが、なにしろ状況が状況だ。無理に取りに戻っていれば、それこそ肺が焼け爛れていたことだろう。亜矢ならばその損傷もカバーできるのだが、深い傷の治療にはそれだけの体力を要する。

 

 

「「……うん。順調に向かってるみたいだね。他の装甲車を手配して足をなんとかしようとしてるみたいだけど……そんな上手くいくわけないよね」」

 その頃、朱鷺澤は監視カメラの映像を見てほくそ笑んでいた。

「覗き見なんて趣味が悪いねぇ朱鷺澤永治くん。悪の首魁にしてはやることが小さいよ」

「「覗き見がどうとか君にだけは言われたくないな、ゲノムスさん。僕とロベリアのやりとりをこそっと見てたの知ってるんだけど」」

 笑いかけるゲノムスに、朱鷺澤はゴミを見るような視線を向ける。

「「……で、君の作戦は見事失敗みたいだね。だから言ったのに。あいつらは強いって。悔しいけど、機転は効くんだよ」」

 朱鷺澤のため息が、宙に浮かぶ。

「俺の武器は虫だけじゃないんだけどな?手数が俺の最大の取り柄。次も出すけど、構わないね?」

「「いいね。やろう。今はあいつらの戦力を少しでも分散させなきゃだし」」

 朱鷺澤が答えると、ゲノムスは笑い、鉄製の鍵をぷらぷらと見せびらかした。

 

 

「どれだけ歩いたのかしら……やっぱ体力つけたほうがいいのかなぁ……」

「亜矢先輩には悪いですけど、休んでる暇はないですからね……?」

「アンタに言われなくてもわかってるわよレーツェル……自分の体力のなさを今日ほど呪う日もないでしょうね……」

 遠い目をしながら、亜矢は歩を進める。運動能力自体は高いのに、それを使いこなせるだけの体力が亜矢にはなかった。

「……とはいえ、歩きっぱなしというのもアレですし、そろそろ休憩挟みましょうか。五分後にまた動きます」

 見かねた遠山が、休憩を提案する。しかし、その瞬間。まるでタイミングを見計らっていたかのように、背後に怪物が現れた。

「遠山先輩ッ!!」

「安心なさい、その鼻息の荒さで私が気付かないわけないでしょう?」

 対する遠山は、懲罰手甲(ジャッジメントハンド)を操作し、その怪物を拘束する。が。

『ギ。ギギ。ギギギグ。グギャッ!!』

 怪物は、力任せに光の鎖を引きちぎった。そのまま、全力で遠山へと殴りかかる。

「スト緑ッ!!」

 その拳が遠山の頭蓋に触れようとした瞬間、コンマの差で草壁の指先が遠山を転移させた。

「この威力……以前私が戦ったものとはまるで別物のようだな……ッ!!」

 その拳の衝撃波が、草壁の頬を掠める。次の瞬間には、遠く離れたところにあった街路樹が、一瞬にして抉り取られた。

「颯斗、行って。ここは私と牧瀬で食い止め……」

「その必要はありませんよ、亜矢様」

 黒薙たちを先に進ませようとした亜矢だったが、その肩に冷たい手が触れた。それが誰のものか、知らない亜矢ではない。

「フローラ……!」

「お急ぎの用事でしょう?こんなところで戦力を減らされてもたまったものじゃありませんから。行ってください亜矢様」

 ナイフをくるくると回しながら、フローラは言った。

「……えぇ。任せたわ」

 亜矢たちは颯爽と走り去る。フローラが指をパチンと鳴らすと、木陰から二人の人物が姿を見せた。

「おうおう、ここは俺たちの出番って訳だし、お前らバケモノは通してやらねぇよ?」

「そういうことだから、死んでもらおうかな。文句はあの世で言ってもらいたいけれど」

 そう。彼らこそが、統括理事長によって存在を許された数少ない『路地裏』にして、街の掃除屋。ランク10の超能力四人からなる傭兵集団『ファング』だ。

 第一位、『虚数接続(イマジンコネクタ)』。罪科(つみとが)七志(ななし)

 第二位、『吸血黒翼(ナイトブラッド)』。アズリア=ラキュラス。

 第六位、『氷結凍土(フリーズエリア)』。フローラ=レーギンレイヴ。

 赤萩を除く三人の超能力者が、それぞれ臨戦態勢を取り、三体の怪物を挑発した。

 


 

「次から次へと相手が湧いてきているようですねぇ朱鷺澤くん?」

 ゲノムスのキメラが『ファング』と交戦しているのを見て、菱杖が言った。

「「そう言わないでよ、戦力は削れてるわけだしいいでしょ?こっちの駒はまだある。次は君の秘蔵のアレを出すけど、いいよね?」」

「どうぞどうぞ。どうせ後には引けないんです、ここでパーっと総力戦と行きましょう」

 菱杖の返事と共に、何台もの駆動外殻(パワードアーマー)が姿を表した。中には誰も入っていない。

「かつてとある統括理事が築き上げた駆動外殻の技術、そして有栖川千聖が確立させた遠隔操作タイプの駆動外殻。それらを凌駕する絶対の機体があれば、そう思ったワタシはついにコレを作り上げたのです!!」

 ガシャン、ガシャンと音を立てながら走り出す駆動外殻たちを見て、菱杖は笑う。

「無人型駆動外殻……エンプティ、とでも名付けましょうか。純粋なスペックはレプリシューターで変身した怪人の数倍、それだけの戦力が一気に襲い掛かった時、彼らはどうするのでしょうかねぇ!?」

 

 

「……よし、希望はこちらに向かっているようね。手配しておいたアレももうすぐこちらに着くみたい」

 携帯を横目で見ながら、遠山は言う。今度こそ数分とはいえ休憩を取ることができたため、ある程度は気を休めているように見えるが、警戒は怠っていない。

「亜矢、これ飲んどいた方がいいぜ。お前さっきから体力使い過ぎてっからな」

「うん、心配してくれるのは素直に嬉しいしありがたいんだけどそのドクロは何?怖いんだけど」

 赤萩が亜矢に謎のドリンクを手渡す。なんらかの魔術的な儀式に使えそうな髑髏のキャップを見て、亜矢は目を見開いた。

「一本で疲労も全部吹っ飛ぶ魔法のドリンクだな。体の奥から元気が溢れ出てくるぞ」

「えっ怖……まぁもらうけど…………」

 恐る恐る口に運び、ぐいっと流し込んだ。

「……ん。んん??確かにちょっと体が軽くなった気はするけど……言うほど……??」

 訝しげに首を捻る亜矢だったが、次の瞬間、その感覚に電撃のようなものが走った。

「今の……金属がぶつかる音?それにこの匂い……グリスか何か?」

「どうしたんですか亜矢先輩、何か聞こえたんです?」

「いや、今なんか変な音とか匂いとかしなかった?ちょっとずつ近づいてるっぽいし……結構な数いるっぽいけど…………」

「いえ、私は特に何も感じませんけど……」

 そう呟く亜矢に、ミスティは訝しげな目を向ける。しかし、次の瞬間には、自分が間違っていたことに気がついた。

「……あぁ、なるほど。これは確かにいますね……ッ!!」

 不気味な機械人形の群れが、ウィーン、ウィーンと均質な音を立てながら、木々を切り倒して現れたのだ。

「この数……流石に馬鹿にならないでしょ……っ!!」

 一斉に放たれる機関銃の掃射。なんとか物陰に隠れてやり過ごすが、逃げる暇はない。逃げ場も、当然ない。黒薙たちはドライバーを構えた、次の瞬間のことだった。

「おらおらどけどけぇですぅ!!クズ鉄人形一丁上がりぃっ!!!」

 猛スピードで走ってきた鉄の塊が、駆動外殻たちを薙ぎ倒し、弾き飛ばしたのは。

「礼子!?君は一体何をしているのかね……!?」

「ちょうど通りがかったんで乗ってきただけですよぉ!!久城せんぱいも連れてきましたからねぇ!!せんぱい達もさっさと乗ってくださぁい!!」

 装甲車から降りてきた多々羅が、レプリシューターを抜きながら言った。

「ここはわたしがなんとかしますから、先急いでくださぁい!解錠っ!!」

 スキャンダルに変身して、機械人形たちに飛びかかる。しかし、

「あっ、いやっ、ちょっ、ごめんなさいやっぱ一人でこれ無理でしたぁ助けてぇぇぇ!!」

 大量の機械人形に揉まれながら、スキャンダルは助けを求めた。

「……ッ、行くわよ牧瀬ッ!!」

「ギャッハハ、了解だ宿主サマッ!!」

 それに応えるように、亜矢と牧瀬が飛び出した。しかし、圧倒的な物量の前には、どれだけの質も時には意味をなさない。

「あぁぁぁぁ痛い痛い痛いですぅ!!」

 苦しむスキャンダルだったが、次の瞬間、痛みから解放された。

「……まったく。スキャンダル、あそこにあたしもいたのに黙って置いてくなんて酷くない?」

「状況が読めんが……どうやら俺はあいつ曰くヒーローらしいからな。目の前で苦しむ女の子に手を貸すのは当然だろ?」

 二人の怪人が、機械人形をまとめて吹き飛ばした。

「ジェリーフィッシュ!……と、どちら様ですかぁ…………??」

「そのクラゲの兄の友人だ。……何やら騒がしいと思って黒薙に電話してみれば、まさかこんなことになっていたとはな」

 現れた怪人のうち、ジェリーフィッシュではない方──エンヴィこと早見が、胸を逸らしながら言う。

「ギャッハハハッ!!そんじゃ始めるとすっか!!最強怪人ズVS恐怖の殺戮人形の異種格闘技ってヤツをなァ!!!」

 


 

「よかった、間に合って本当によかったよ。キミたちが動けなきゃ永治は助けられないし、まぁ相当危なかったよね?」

「いや別にあんたがなんかしたわけでもねぇだろ久城さん……で、草壁蒼哉と神蔵さんの強化に使うアレは?」

「一応それっぽいのは全部持ってきたよ。あとは勝手にキミたちで探すといいんじゃないかな」

 装甲車に乗り込み、例の塔まで向かう最中、久城が言った。

「私がコレを呼んでおいてこういうことを言うのもなんだけれど、またあの爆発する虫にでも襲われたら終わりなのよね……」

「だったらお前一人で徒歩で向かうか遠山?」

「別にそういうことは言ってないわ。黙っていなさいリビングデッド」

「ぷっくく。リビングデッドだってよ陽希!!」

「リビングデッドだってよオニイサマ」

「リビングデッドですって赤萩先輩」

「よしお前ら全員ここで焼死体にしてやるから覚悟しろ」

 空気を和ませようと、ぼやく遠山に言ってみたが、周りが赤萩を煽り出す。結果として空気は和んだ。

「……?ちょっと待て。何かいるぞ。あれは……高坂操糸、ってやつだな?」

 ふと、窓から周囲を確認していたベネットが言った。その一言に、一瞬前に和んだ空気が凍りつく。

「……ここは私が出るわ。せっかくアレも完成したところだし…………」

「待ってくれ、委員長。……僕が出る。行かせてくれ」

「……は?黒薙くん、あなた、自分が何を言っているかわかってる?」

 自分が迎撃に向かおうとしたところ、間違い無く最大戦力の一角である黒薙がそう言ったものだから、遠山は思わず喧嘩腰で対応する。

「なんて言うか……あいつだけは、僕がこの手で倒さないといけない気がするんだ。大丈夫。すぐに倒して追いつくから。……だから、お願いします。僕に行かせてください」

 真剣な面持ちで、黒薙は頭を下げる。それほどまでに悲痛な黒薙の声を、遠山はこれまでに聞いたことがなかった。だから、

「……仕方ありませんね。行きなさい仮面ライダーOO。勝って兜の緒を締めろ」

 装甲車を止めさせ、黒薙を降車させた。

「……自分は、貴様たちを足止めするためにここに来た。貴様は車を降りて一人で自分を相手取り、先に進ませる魂胆なのかもしれんが……残念だが、その車もここから先へは進ませんぞ」

 目の下の隈が目立つ男は、レプリシューターを片手に提げたままに言う。その背後から、先程のものと同型の機械人形が現れた。

「さぁ、潰せッ!!」

 その号令に応えるように、機械人形はガトリングガンを構え、その引き金に指を添えた。だが、

「……テメェが何を考えてようが知ったこっちゃねぇんだが、こっちはどうしても先に進ませて欲しいわけなんだわ。わかるか?愉快に爽快に理解できますか脳筋野郎って聞いてんだが」

「その程度の安い挑発に自分が乗るとでも思っているのか?」

「乗らせる手段がこっちにはあんだよ。……折角だし聞いてけよ」

 続く黒薙の言葉に、高坂の意識が一瞬、逸らされる。

 

「──お前の恋人を廃人にしたあの事件の首謀者、実は僕の親父なんだが、その息子に復讐とかしてみたくはねぇか?」

 

「……ッ、そのつもりはない。自分は知っているぞ、貴様がかつてC-ARC事件の関係者を惨殺したことは!!」

「……おっと、僕としたことが黒歴史バラされちった。で、いいのか?僕とお話ししてる間に、あの車は行っちまったみてぇだが?」

 乾いた笑いを浮かべる黒薙に、高坂は歯を剥き出しにして言葉を連ねる。

「ハッ。……知らんか?自分は、この機械人形どもを奴らの方に向かわせられるのだがな?」

「そっちこそ知らねぇのか?テメェが向かわせた案山子ども、今頃ウチの化身ちゃんに消し飛ばされてるはずだぜ?」

 ドライバーを構え、黒薙は高坂を挑発する。

「……前言撤回だ。最初はそんな気などさらさらなかったが、貴様の顔を見ていると、段々と殺意が湧いてきた」

「そうかよ。そんじゃま、正当防衛って事で。遠慮なく潰させてもらうぜ」

 お互いが、お互いの構えを取る。加害者の息子と、被害者の恋人。二人の視線が交錯し、火花を散らす。

「変身」「解錠」

 二人は駆け出した。その拳を、相手を殴るためだけに握りしめて。

 


 

「さて問題。あのクソ親父がわざわざ誘宵学区を実験の場にしたのはなぜでしょうかハイ高坂操糸くん!」

 棍を用いたピエロの攻撃を素手で軽くあしらいながら、OOは問う。

『貴様がその男に情報を漏らした、そうだろう!?』

「残念ながら不正解。正答は僕にもわっかりませーん」

 怒りのままに振るわれた拳が、OOの胸のディスクの中心に突き立てられる。しかし、OOは気にした素振りもなく、その右腕を捻り上げた。

『が……ッ!?』

「あのクソ親父は僕のことを嫌ってる。それこそ殺したいくらいに。そしてそれは、僕にとっても同じことなんだよ」

 そのまま、ピエロを空中に投げ飛ばす。

「言っちまえば、僕とテメェらは同じ穴の狢ってわけだ。テメェらは僕のクソ親父に復讐したい。僕もクソ親父に復讐したい。同じ相手に向ける殺意だが、そこには確かな違いがある。それが何か、わかるか?」

 嘲りを含んだ声で話すOOに、ピエロの怒りが炸裂する。しかし、その渾身の一撃を、OOは難なく回避した。

「属する立場が正か負か。単純な話だろ?僕がヒーローで、テメェらはヴィラン。あぁ単純だ。単純すぎて反吐が出る。やっぱこういう善悪二元論でモノ語るのは良くねぇよな」

 カウンターの拳が、ピエロの角をへし折る。

『ふざけるな……ッ!!貴様に、貴様如きに、自分たちの何がわかるッ!!』

 ピエロは腰を落とし、その拳を一直線にOOの腹に叩き込んだ。この時、初めて黒薙にダメージが入った。

『苦しかった!!辛かった!!どうしてあいつが、あんなにいい子だったあいつが巻き込まれなければならないと!!返せよ、自分の大切な人を返せェェェェェッッッ!!!』

 怒りの宿った拳が、OOを吹き飛ばす。だが、そこで攻撃を止めるピエロではない。飛び上がり、何度も追撃を叩き込む。顔面に。肩に。横腹に。腕に。腰に。膝に。哀しき道化は、ひたすらに暴力の限りを尽くす。

『貴様らの目には、どうせ自分たちのことなど道を踏み外した無法不良(ロードアウト)程度にしか映っていないだろう!!??ならば見せてやる、これが、貴様らが取るに足らないと吐き捨てた弱者の怒りだッッッッ!!!!』

『Pierrot Drive』

 巨大な光弾が放たれる。そこに撃ち込まれた一粒の弾丸が、それを巨大な炎の輪に変化させた。

『ォォォォォォォォオオオオオオオオッッッ!!!!』

 ピエロの放つ全力のキックは、OOの胴体をくの字に折った。

「か……ッ!!チッ、少しはやるようじゃねぇか……ッ!!」

『貴様の方は強かったのは最初の方だけのようだが、なァッ!!』

「言うじゃねぇか。なら、絶対に埋められない力の差を、覚悟の量と質の違いを、見せてやるよ」

 脱力。普通の怪人を倒す程度ならば、雑念の籠った拳でも十二分に事足りる。だが、高坂のように、限界まで覚悟を決めた相手には、不純物の混じった拳は決定打とはなり得ない。だから、

(見様見真似でうろ覚えの能力をパクらせてもらうが、悪く思うなよ菱杖透流)

 迫るピエロの拳を、反射反応だけで躱しつつ、OOは自らに能力をかけた。

 菱杖透流の『怨敵操作(コントローラー)』。誘宵学区最強級の精神操作能力。それをコピーして、自らの思考から雑念だけを数秒間消し飛ばす。

 数秒間。純粋な拳が相手を倒すには、その程度で十分だ。

「──ライダーパンチ」

 ドライバーのレバーは倒さない。その動作は、純粋な一撃の中には必要のないモノだから。

 ただの拳が、ピエロの顔の中心を、真っ直ぐに打ち抜く。

『なん、だ……この、力、はァ……ッ!?』

 その拳から、OOの莫大なまでのホルスが流れ込み、ピエロの体内で暴れだす。

『が……ッ、あァァァァァッッ!?』

 直後に、爆発が巻き起こる。ピエロの変身が解け、高坂は膝をついた。

「どうやら、僕の勝ちみてぇだな?」

 高坂を見下ろしながら、OOは言った。

 


 

「くっ……!何故だ、何故自分を殺さない!?自分は敵だぞ、今にでも起き上がって貴様を殺すかもしれないんだぞ!?」

「そんなに死にてぇのか?恋人とやらはまだ死んでねぇのに?」

 地に這いつくばりながら吠える高坂に、嘲るように黒薙は答えた。

「あぁ、あいつはまだ死んではいないな……だが…………たとえ心臓が動いていたとしても、一向に目を覚まさないのであれば。植物状態になっているあいつを、生きていると呼べと言うのか!?」

 上体を起こし、高坂は叫ぶ。

「確かにあの事件に巻き込まれて命を失わなかったのは幸運かもしれない!!だがな……もう自分には、いつか目を覚ますかもしれないという希望的観測なんてできないんだよ……縋るべき一縷の希望なんてものが見えるほど、自分の目は澄んでいないんだよッ!!」

 憎悪にも似た感情を視線に乗せ、高坂は吠える。

「……なるほどな。ところで、お前にとってめちゃくちゃいい話があるんだが、聞いてかねぇか?何、別にお前を騙そうって訳じゃねぇから」

 辛うじて這う高坂の隣に、無防備に腰を下ろしながら、黒薙は言う。高坂の返事も待たずに、続きの言葉を吐いた。

「お前の恋人のこととか、全部調べさせてもらったよ。その上で言うが……」

 

「……つい数日前、C-ARC事件の被害者のうち、意識を失っていた何人かが目を覚ました。ここまで言えばもうわかるよな?」

 

「……ありえない。そんなはずがないだろう!?これまで目を覚まさなかったあいつが、今更目を覚ますなど……」

「僕だってあり得ねぇって思ったよ。だが現実だ。実際に、菱杖瑠璃は目を覚ましたんだ。今は面会できねぇが、近いうちに可能になる」

 そして、黒薙は、真剣な眼差しで高坂と向き合った

「お前は怪人としてはそこまでの悪事を働いた訳じゃねぇ。今から大人しく捕まりゃあ、せいぜい数年の収監で済むはずだ。だから、大人しく降伏してくれ。いくらクズの僕でも、無関係の女の子から大切な人を二人も奪いたくねぇ」

 二人。そう言ったということは、つまりこの男は菱杖透流を殺すつもりなのだ。恋人の兄を殺すという相手に従う者がどこにいる?

「……本当に、瑠璃は目を覚ましたのか?」

 だが、意思に反して、高坂の口はそう応えてしまった。

「あぁ。僕を信じてくれ」

 その真っ直ぐな瞳に、高坂は確信を得た。この男は嘘を吐いてはいない。だが、自分にあれだけ良くしてくれた菱杖先生を裏切ることができるか?恋人を喪い、絶望の淵にいた自分に力を与えてくれた恩人を、裏切ることなどできるのか?

 だが、一瞬、恋人と再び笑い合える未来を想像してしまった。

 その希望は、次の瞬間に奪われることになる。

『──ははっ、その顔が希望に染まるのをぼくはずっと待ってたんだよねぇっ!!』

 高坂の背中が、剣で貫かれたのだ。

「か……ッ!?ビー、くル……き、サま……ッ!!」

『なに睨んでくれてるんだ?これは因果応報ってやつだよ?一度はぼくを殺し、そして復活した朱本を殺したきみに、ぼくが報いを与えているだけさ!!』

 レプリシューターに接続された刀身を撫で、ビークルは嗤う。

『ずっときみが憎かった。無惨に、グチャグチャに殺してやりたいと思っていた!!だから我慢してたんだよ、ぼくがきみを殺すのは、どうしようもない絶望の淵に立たされた時か、淡い希望を掴みかけた時にしよう、ってねェ!!』

 再び刀身を高坂に向け、ビークルは下卑た笑みを浮かべる。

「……待てよ。テメェ、僕の目の前で人を殺すつもりか?ざけんじゃねぇよボケ野郎。こいつは僕が確保した、執行衛兵の所有物だ。器物損壊罪でテメェを殺してやってもいいんだぞ?」

『……あぁOO。きみの相手はこいつを殺してからにしてあげるから待っててよ。どうせすぐ終わるんだから、さァッ!!』

 威嚇する黒薙を意にも介さず、ビークルはその刀身を振り上げた。

「……黒薙颯斗ッ!!貴様は自分のことなど気にせず先に進めッ!!この男は自分が止めるッッ!!」

 ドライバーを構え、ビークルを止めようとした黒薙に、高坂は叫ぶ。

『へぇ……できるものならやってみなよ!!』

 迫る凶刃をわずかな動きで躱し、震える指先で、レプリシューターの引き金を引いた。

「解、錠…………ッ!!」

『Knight Charge……Open“Pierrot”』

 高坂が、全力でビークルに殴りかかる。その様子を見て、黒薙は先に向かうことに決めた。高坂が決死の覚悟で繋いだ道を進まないわけにはいかない。彼がビークルを倒せない可能性など考慮もしない。絶対に振り返らない。それこそが、高坂なりの償いなのだと、なんとなく理解していたから。

「死ぬんじゃねぇぞ……テメェが死んだら、その瑠璃って子が悲しむんだからな……ッ!!」




 高坂と恋人の関係はそのうち盛ると思います。というわけでみなさんこんにちは、墓脇です。
 今回、予告していた通り一話から出てきてた彼を掘り下げさせてもらいました。いかがでしたか?
 ここで一つ裏話をさせていただきますが、実は高坂は初期案だと途中で味方になるタイプの敵怪人だったんですよね。
 昔別のところにアップしていたOの元になった作品では、改心してしばらくは怪人としてライダーに協力し、最後には牧瀬(牧瀬じゃないけど)にやられる立ち位置でした。
 色々と設定とかは変わっていますが、高坂の設定的には最後はこうするしかないなと思い、頑張ってもらいましたね……。
 ちなみに目を覚ましたという彼の恋人は今後後日談的な話で登場しますのでお楽しみに。
 さて、次回は草壁&神蔵VS彼らにとって思いもよらない人物たちのバトル回となります。
 遠山が完成させたというものの正体も明かされることと思われます。
 それでは次回をお楽しみに。墓脇でした。
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