仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第45話「報いはここに、過ぎたる『野望』と」

「流石にここからは車では進めなさそうですね……黒薙くん、レーツェルちゃん、覚悟はいいですか?」

「上等。ありがとうございました、先生」

「……先生の恋人の目は、必ず覚まさせますから」

 水削の問いに、ふたりはそう答える。だが、ミスティのそれが方便であることくらいは、水削も察していた。

「本当は生徒にこんなもの背負わせたくはありませんが……行ってらっしゃい、必ず生きて二学期にまた会いましょう」

 それでも、罪を犯したのだから裁かれるべきだと、自分に言い聞かせた。

 

 

「陽希、どうやらOOたちもこっちに向かってるらしい。待つか?」

「そうだな……もし敵が三人四人でこっちに向かってきた場合、俺たちだけじゃ対処しきれないかもしれない。少し待とう」

 赤萩は、黒薙を待ってから突入することに決めた。

「菱杖透流、てめぇだけは俺がこの手でぶっ潰してやる……ッ!!」

 

 

「悪りぃ赤萩陽希、待ったか?」

 塔の入り口まであと十メートル程度。そこで待っていた赤萩と合流すると、黒薙は声をかけた。

「先輩をつけろよ黒薙。別に待ってねぇ。そっちこそ走ってきたみたいだが疲れは大丈夫か?」

「当たり前だろ、僕を誰だと思ってる」

 ぶっきらぼうに言うと、黒薙は拳をもう片方の手で包んだ。

「それじゃ行くとするか。正真正銘、最後の戦いってやつに」

「ですね。……目指すは朱鷺澤永治、そしてロベリア=ローゼンロード」

「菱杖透流は俺たちが引き受ける」

「そしてゲノムス=リボーたちはあいつらに任せる、だっけ?なーんか不安なんだよな、まぁいいか」

 四人は塔の頂上を睨み、次の瞬間には足を踏み出していた。

 


 

「チッ、やっぱいるよな雑魚共……ッ!!」

 塔へと足を踏み入れた黒薙たちを待っていたのは、無数の蛇頭の怪人たちだった。

「ちょっと全員伏せてろ!」

『Transcending OO!!』

 OOに変身した黒薙が、オブリビオンセイバーを一振り。すると、並んでいた怪人たちが、ことごとく切断され、消滅した。

「よし、さっさと進むとするか」

 変身を解き、黒薙は言う。それから何階層か進み、その度に雑魚怪人を蹴散らしていったが、そんな中、黒薙の携帯が震えた。

「……草壁蒼哉と神蔵さんも入ったみてぇだ。待つか?」

「まだ四階だぞ?待つほどでもないだろ」

 草壁と神蔵も塔に足を踏み入れた。だが、それを待っていられるほどの余裕はない。

「……だな。それじゃさっさと進むとするか」

 だから、四人は先へ進んだ。

 

 

「来ているようですねぇ……わかってはいましたが、ここまでワタシたちの仕掛けた策を乗り越えられるとなかなかに堪えますねぇ」

「「そんなこと言ってる暇あったら仕事してよね。いつまでお酒飲んでるのさ」」

「わかってます、わかってますってば。これが最後になるかもしれないんですから酒くらい飲ませてくださいよ」

 監視カメラを眺めながら、いつになく高い酒をあおる菱杖に、朱鷺澤は苦言を呈した。

「「最後になるかもしれない、じゃないんだよね。そうやって後ろ向きだから何回も何回も何回もあいつらにやられてきたんじゃないの?」」

「だとしても黒薙くんにボロ負けして無様に捕まった貴方に言われたくはありませんがねぇ?人の振り見てなんとやら、ですよ少年。あ、今ワタシすごいいいこと言いましたねぇ。気軽に尊敬してくれていいんですよ?」

「「自分にも酒にも酔ってるね。尊敬してもらえるほど自分が偉いと思ってるならそれは間違いだって指摘してあげるよ。見た目小学生の女の子侍らせてるロリコン先生?」」

 怪人を超越した戦士と、怪人の頂点に立つ規格外の超人が睨み合う。

「……いえ、ここで仲間割れは得策ではありませんね。失礼しました」

「「こっちこそごめんね、菱杖先生。あいつに苛立ってるのはどっちも同じ、今は争ってる場合じゃない」」

 しかし、今は内輪で争っている場合ではない。本心はどうあれ形式上の和解を済ませると、二人はモニターを見据えた。

「仕方ありません……彼らを出しましょうか」

 菱杖は、控えている二人のOverXに連絡を送った。黒薙たちを迎撃しろ、と。

「「でも彼らは二人とも一度負けてるよね?そこはどうするつもり?」」

「折を見てワタシが乱入します。どうせ赤萩くんのことだ、黒薙くんを貴方とぶつけさせるために、二人をまとめて相手取ろうとするのでしょう。仮に草壁くん達と合流したとして、彼らではあの二人は倒せない」

 菱杖は唇を真横に裂いた。その笑みは、どこか自暴自棄の色を含んでいた。

 


 

「なぁ黒薙、今何階上ったっけ」

「十階から数えてねぇ」

 赤萩の問いに、黒薙はそっけなく答える。

「確か十五ですね」

 とミスティ。

「そうか。そろそろ終わりが見えてくれると嬉しいんだがな……」

「そんなに終わりが見たいなら見せてあげるよぅ?もちろん、きみの死っていう終わりだけどねぃ!!」

 瞬間、赤萩の鼻先を光弾が掠めた。

「おっと、外しちゃったか。でも、次はどうかな?」

 続けざまに光弾が放たれる。赤萩はそれらをなんとか躱すが、だんだんと逃げ場を奪われていく。

「チッ、邪魔だボケがッ!!」

 黒薙がゲノムスの顎にハイキックを叩き込みながら叫ぶ。よろめくゲノムスの鼻に、追撃の拳が叩き込まれる。

「どうせやるなら一対二じゃなく二対二でやろうぜ?あぁ、なんなら四対二でやってもいい。弱いものいじめ、なんて言うんじゃねぇぞ」

「はは……言う気もないよ黒薙颯斗くん。だって俺は君を……」

「殺す気、だろ?ま、させねぇけどな」

 ゲノムスの言葉を遮り、赤萩が言った。先程襲いかかった化野は、ベネットによって締め上げられていた。

「……い、ったいなぁ……っ!!」

 化野の爪先がベネットのふくらはぎを打ち付ける。一瞬生まれた隙を突くように、化野は拘束から抜け出した。

「もう怒ったからなぁ……全員まとめてここでぶっ殺してあげるよぅ!!」

 そして、化野は風を操る能力者に変身し、旋風の刃を作り出す。

「それじゃ、化野が暴れるなら俺も好きにさせてもらおうかな」

 同様に、ゲノムスも試験管をホルスターから引き抜き、中の液体を宙にばら撒いた。

 だが、風の刃が、人を喰らう虫が、黒薙たちを襲うことはなかった。

「おいおい、まさかおれ達を舐めてるんじゃないだろうな?おれ達はリンク能力の化身だぞ?」

「ま、そういうわけです。さっさと変身すりゃいいのに、くだらない理想掲げて必死に能力バトル仕掛けてくるの、流石に哀れすぎません?」

 二人の『化身』が、その能力をかき消したからだ。

「さてと……それじゃ赤萩先輩、あとは任せましたよっ!!」

「あぁ、仕方ねぇから任されてやるよ黒薙!!レーツェル!!」

 黒薙とミスティは、呆ける敵二人を置いて先に進む。

「待て、俺が逃がすとでも……」

「俺が逃がさせないとでも思ったか?」

 追おうとするゲノムスを、赤萩が遮った。

「なぁ、俺一人が相手ってのはそんなに不満か?だとしたら悲しいな、あんなスカスカの肉人形とセット売りじゃねぇと満足してもらえません、ってか?」

 けらけらと笑いながら、赤萩は二人を挑発する。

「そういう問題じゃなくて、単に足止めを任されてるってだけなんだけどな?……まぁ、黒薙くんをこの手でブチ殺したくないかと聞かれたらそうなんだけども」

「ぼくは別にどうでもいいんだよねぃそぅいうのぅ。ぼくはただぁ……きみをグチャグチャに潰したいだけなんだからさーぁ!!」

 対する超能力者たちは、ついにダガーシューターを構える。

「……ま、彼らがどう足掻こうと、あの規格外の化け物には勝てないだろうけどね」

「おっ、やる気になってくれたってか?そう来なくちゃこっちも張り合いがねぇからよ」

 マテリアダガーが装填される。その様を見て、赤萩は獰猛に笑った。

「「壊錠」」

『Open Tyrannosaurus.』

『Open Triceratops.』

 怪人に変身した二人を見下しながら、赤萩もまた、ドライバーを構える。

「それじゃ、いっちょ遊んでやるとするか。せいぜいお前らに嫌な思いさせた上でブッ潰してやるから、今のうちに辞世の句でもしたためとくんだな。変身」

『Wake Up! Burning Armour!! This is the Immortal Flame!! Fly High!! Ignited Phoenix Flamer!!!』

 赤萩の身体が、真紅の鎧に包まれる。

「さぁ、楽しい楽しい潰し合いといこうぜ」

 閑静な塔に、三つの叫びが響いた。

 


 

『行くよぅっ!!』

『そのまま死んでもらおうかッ!!』

 変身を完了させた赤萩に、二人の怪人が襲いかかる。

『Phonix Pfeil!』

「おうおう血気盛んなことで。そういうのは俺も嫌いじゃねぇ。だがまだだ、もっとてめぇを魅せてみろッ!!」

 対するフレイマーも、弓に変わったベネットを握り、二人に対応する。

 パラサイトの触腕が、マルチフェイスの拳が、フレイマーに触れることもなく宙を舞った。

『『な……ッ!?』』

「ビビってんじゃねぇよクソども。元はと言えばお前らから襲ってきたんだろうが、よォッ!!」

 一瞬にして二人の背後に回り込んだフレイマーが、回し蹴りを繰り出す。炎を纏った一撃は、二人を大きく突き飛ばした。

『か……ッ、まだだ、行け検体たちッ!!』

 パラサイトは、キメラを放ってフレイマーを攻撃するが、

「足りねぇ。足りねぇんだよこの程度じゃ。残念ながらチリが積もっても山にはならねぇんだわ」

 しかし、まだ届かない。フェニックスプファイルから放たれる炎の矢の雨が、キメラたちをことごとく葬り去る。

『どけよぅ、あいつはぼくが殺すんだからさーぁ!!』

 マルチフェイスの複眼が、一瞬、黄色く光る。キメラの亡骸の合間を縫うように、まるで悪路で無理矢理ドリフトするかのような音を響かせながら、フレイマーへと襲いかかる。

『潰れて死ねーぃ!!!』

 フレイマーは避けようとするが、いつの間にか両足を墨のようなものが拘束していたことに気がついた。トリケラトプスの突進が、フレイマーを大きく突き飛ばす。

『まだだよぅ、その程度で満足されちゃあこっちもつまらないからさーぁ!!』

 炸裂する拳が、八本の触腕が、続けざまにフレイマーを殴りつける。

『これで終わりだよーぅ!!粉々に砕け散っちゃえーぃ!!!』

 そして、トリケラトプスのオーラを纏った回し蹴りが、フレイマーの胸のディスクを撃ち抜いた。

『おっとっと、もしかしてこれで倒しちゃった感じかねーぃ?まっ、いっかーぁ!!それってつまりぼくが強いってことだしー、ぃ……ッ!?』

 心の底から笑うマルチフェイスだったが、とあることに気がつき、血相を変えた。なぜ、倒したはずの赤萩陽希がそこにいない?

「……ま、お前にしちゃ頑張ったんじゃねぇの?すげぇよ、前に戦った時とはまるで違ぇ。だが残念だったな。お前は俺の足だけじゃなく手も拘束しておくべきだった」

 爆煙を払い、フレイマーが現れる。

『な、にを……』

「そんな難しいことじゃねぇ。ガラ空きの手でシールドを張って、弓でてめぇの足を撃っただけだ」

 フレイマーは笑う。ダメージこそ確かに負っているはずなのに、なぜこの男は平然としていられる?マルチフェイスの、化野の脳内は疑問符で埋め尽くされていた。

「ナニ呆けてんだパッパラパー女。俺がお前なんかのために答えてやったんだ、少しは嬉しそうにしろよ、なぁ?」

 半ば放心状態のマルチフェイスの眼前に、炎を帯びた掌が迫る。パラサイトが止めようと走るが、止めるには、遅い。

『あッ、がァァァァァッ!?』

「次はてめぇだ。……焼け焦げろウジ虫野郎」

 間髪入れず、パラサイトの右横まで移動し、顎に一発叩き込んだ。

『……ッ!!』

「それじゃ、俺が用あるのはクロージャー……じゃねぇんだったか。アイツだし、敗者にはそろそろ退場してもらうとするか」

 フレイマーがベルトのボタンに手を伸ばした──瞬間、その指先が凍りついた。

「えぇ、えぇ。誰に用があるとおっしゃいました?よく聞こえませんでしたねぇ、もう一度お願いしますよ」

 背後から、地球を丸ごと氷で飲み込まんとするほどの冷気を放つ声。その声こそが、

「──ハッ、ようやっとお出ましか諸悪の根源ッッ!!」

「いえ、諸悪の根源はあの事件を仕組んだ男ですが。あれさえいなければワタシも平穏な毎日を過ごしていたのですからねぇ?」

「言うじゃねぇかゲス野郎。……こんな氷程度で俺を封じられるとでも思ったか?」

 指先を燃やしながら、フレイマーは仮面越しに菱杖を睨みつける。

「いえいえ、その程度で封じられてしまうとこちらとしても溜飲が下がりませんからねぇ?……さて、ここらで今度こそ死んでもらいますよ、ゾンビ野郎」

 フレイマーの背後で、二人の怪人が起き上がる。この耐久力も、彼らの恐ろしさを象徴していると言えるだろう。

「ハッ、死人一人相手に三人がかりかよ。大人気ねぇなぁ?」

「なんとでも言ってください、生憎と誇りなどというものはとうの昔に捨てた身でして。──変身」

 菱杖の身体が、凍りついた血の棘で蜂の巣と化す。氷像となった菱杖を、巨きな嘴が啄んだ。

『Breaks, SnowBall Earth, Falling the Pasts. ERA, ERA, Evolution. Ice Aging Dagger.』

 真っ白な死神は、その腕を広げ、歪に笑う。

『さァ、始めましょうか劣等生!!死ぬか殺すかの死の授業の時間ですッ!!』

「上等じゃねぇか。……やってやるよクソ野郎。てめぇのくだらねぇ理想論、俺がこの手で両手でぶち壊すッ!!」

 今ここに、異なる二つの死の形が激突する。

 


 

「──まぁ、待ちたまえよ怪人ども」

 二つの拳が衝突しようとした瞬間、二つの足音が響いた。

「いくら赤萩がインチキ染みた強さとは言え、一人を三人でリンチというのはよくないね」

「……そういうことだ。赤ハネ、君はそこの淫行教師への親父狩りに専念しろ」

「チッ、遅ぇんだよバカップル!!」

 現れたのは、二人の戦士。プレデターとアルテ──草壁と、神蔵だ。

『おや、おやおや!!まさか貴方はあのような弱者に自らの運命を委ねるというのですか!?ワタシにも勝てない弱者ですよ!?』

「弱者弱者とうるさいな、それでも好田さんの後輩か?驚いた、存外頭悪いんだね君。それでよく教師になれたね」

 神蔵が、逸る菱杖に中指を立てた。

「よせ藤子、じきアラサーのオジサン枠に突入する男だ。加齢臭が酷すぎて希望からも何も聞かされていないんじゃないか?」

 草壁は笑いながら追撃を加えた。

『……パラサイト。マルチフェイス。侵入者二人を排除しなさい』

「おっ、キレてるねぇオジサン枠。少し早めの更年期障害?いやぁ、無知って怖いものだねぇ!!」

「それ以上中年の心を抉るのはやめてやってくれ藤子。見ていて心が苦しくなる。……さて、それじゃあ行くとしようか。弱者なりのジャイアントキリングというやつを」

 ドライバーを巻きつけた二人がその手に握るものは、つい先ほど彼らが手に入れた新たな武器。

「「変身」」

『Bite and Bark! That's a Greedy Beast! Ignited HORUS System……“Predator”』

『Materia Majesty!!!』

 草壁がプレデターに変身し、神蔵は一回りほど大きなマテリアキーのボタンを押した。

『何か変わったか?俺の目には何も変わってないように見えるんだけど』

「いいから黙って変身を見届けろよ、節穴」

 そして、二つのマテリアキーが差し込まれた。

『Tune Full-Armed. One Shot! One Kill!! Full-Armored Predator!!!』

『There is Strong Light! Where There is Much Shadow!! Fill With The Salvation!! Majestic Artemis!!!』

 プレデターの全身を覆うように武装が現れ、それらがガシャン、ガシャンと組み合わさっていく。頭蓋と胴体を守る鎧、全てを見通すバイザー、どんな悪路も渡るキャタピラー、そしてあらゆるものを打ち砕く拳。かつて草壁を苦しめた燃費の悪さなど、圧倒的な技術力の前には消え失せた。圧倒的な威圧感を放つそれこそが、仮面ライダープレデター・フルアームド(カスタム)だ。

 対する神蔵は、生まれたての赤子か天使のような純白の蛹を纏う。直後、その殻を破るように、極彩色の光が差した。生まれ落ちたのは、純白のアンダースーツに、同じく純白のアーマーを纏い、黄金の弓を携えた女神。この姿を、有栖川はこう名付けたという。──仮面ライダーアルテ・マジェスティックと。

『何かと思えば一度見た姿じゃないか。その程度で俺たちに勝てると思い込まれたというなら少し興醒めなんだが』

『なるほど、なるほどねぃ!!その真っ白な鎧を血で染め上げろってことでいいんだよねーぃ!!??』

 それを見た怪人たちは、こう評した。

「どうだろうな?実地でこの力を見たならともかく、又聞きの情報程度しか知らんだろう?構えろ怪人、ここから先は戦争だ。敵戦力も知らぬままに戦いに出ることの愚かしさをその身で学ぶといい」

「君は馬鹿だと聞いていたが、思っていたよりも語彙はあるようじゃないか。美的感覚もそこそこ。なかなかに見どころがある。さぁ、テイスティングの時間だ。私という味をせいぜい噛み砕いてみることだね」

 二人は、それぞれの戦う敵と相対した。ここに、彼らたちの最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 


 

『又聞きでもなんでもいいんだけど、君のその力はせいぜいレプリシューターも使っていないナックルを倒せた程度のものだろ?こっちはダガーと肩を並べられるらしいスペックだよ?』

「なんとでも言えばいい。その自信を粉々に砕いた瞬間、君がどんな顔をするか、こちらとしても好奇心が溢れて止まらないのだよ」

 戯れ言を、とパラサイトは言う。その触腕を伸ばし、プレデターを捕らえようとした瞬間、ふと、違和感に気付いた。

「どうした?攻撃しないのかね?あれほどいきり立っていたというのに。小心者なのだね、君は」

 触腕が、触れるギリギリのところで届かない。プレデターは笑い、露になった掌でその先に触れた。

『な、にを……ッ!?』

 ゲノムスは悶える。触れられた触腕が何故か切り刻まれ、一つ残らず消滅したのだ。それだけならまだいい。問題は、なぜ潰されてもダメージがないはずの触腕を刻まれた程度で神経を揺らすほどの痛みを感じているのか、だ。

「そんなに不思議なことかね?こう見えて、今の私は全てのチューンマテリアキーの力を使いこなせるのだがね?報道部として、このようなことを言うのもアレだが……目に見える現実にばかり囚われていては三流以下だ。少しは頭を働かせてみろ」

 仮面の下で、どこか悪戯っぽく草壁は笑う。

『成程。……なら、これはどうかなッ!?』

 暫しの思考ののち、パラサイトはキメラと無数の羽虫を同時に放った。またもや不可視のバリアのようなものに弾かれるが、突破口は既に見つかっていた。

「が……ッ、いいじゃないか。それくらいやってくれなければこちらも張り合いがないからな……ッ!!」

 そう。あらゆるチューンマテリアキーの力をひとつに束ねた影響で、この姿のプレデターは常に触れるものを寄せ付けないホルスの膜のようなものに覆われているが、その反撃は完璧なものではない。このように、同時に何度も攻撃を受けた場合、バリアは破られてしまうのだ。

「合格だゲノムス=リボー。今の君なら、正面から殴り合うだけの価値がある。さぁかかってきたまえよ」

『言ってくれるね素人。お望み通りグチャグチャに潰してあげようッ!!』

 パラサイトは飛びかかると、再生させた触腕を振るい、プレデターの動きを封じる。

『爆ぜ飛んで死ねッ!!』

 指の形を鉤爪のようなものに変え、絶えず斬りつける。その度にプレデターは呻きを漏らすが、それで手を止めるパラサイトではない。ティラノサウルスのオーラを纏った頭突きが、草壁を撃ち抜いた。

『……ふぅ。口ほどにもないなぁヒーロー様。まぁ、ダガー級の力を得た俺に勝てる奴なんてそんなホイホイ出てこられても困るんだけど』

「……はは。獲物にトドメも刺さずに余所見とは、悪役様は随分と甘っちょろいようだな?」

 パラサイトに生まれた、一瞬の油断。それを突くように、光が一点に収束していく。

「敢えて君風に言わせてもらうが……“爆ぜ飛んで死ね”」

 直後、極太のレーザー砲が、プレデターの胸の砲台から放たれた。その一撃は空間を歪ませ、パラサイトの装甲を抉り取る。

『こ、の程度……ッ!!』

 ロケットブーストを起動し、パラサイトへの追撃を計るプレデターだったが、直後、眼前に迫る小さな弾丸の存在に気付き、防御の体制を取った。

『遅いんだよねェッ!!』

 触腕がブスリとプレデターの腕を貫く。プレデターは抵抗を続けるが、その間も、ダガーシューターの光弾はどんどん大きくなっていく。

『弾け飛べッッ!!』

 そして、放たれた。光弾が跳ね、プレデターの肢体が宙に舞う。

『……流石に、もう動かないだろう。でもトドメは刺しておかないとな。自分からトドメを刺すように言ってきたわけだし』

 銃口を突きつけながら、パラサイトは言う。じわりじわりとにじり寄る。その度に命の距離が縮まっていく。至近距離で、確実に命を奪えるだけの威力の攻撃を放とうとした瞬間のことだった。

「……は、は。だから、君は甘いのだよ」

 高速回転するキャタピラが、パラサイトの足首を挟んだのは。

『づ、ゥッ……貴、様…………ッ!!』

「獲物の前で舌舐めずりなど、愚の骨頂も骨頂だとは思わないかね?ほら、立てよ。その程度でくたばるほど脆弱でもないだろう?」

『上等……ッ!!』

 パラサイトは起き上がり、その拳を振るう。プレデターのそれとぶつかり合い、空気を裂く。小細工無しの、拳と拳のぶつかり合い。

(……あぁ、ダガーの力を得た以上当然ではあるが、やはり力強い。だが、だからと言ってこちらが負けてやる必要もあるまい)

 力の激突の余波から、互いに大きく後退する。その肩は激しく揺れている。二人とも、体力の限界などとうに迎えていた。それでも二人をここに縛りつけるものがあった。使命、などという陳腐なものではない。もっと、野生の本能に近いものが。

『Material Attack. Tyrannosaurus Dagger Drive.』

『Materia Retune! Full-Armed Tuning Break!』

 光弾を纏わせた拳と、ホルスを帯びた拳の衝突。その中心に立つ二人以外、この世界には不要と言わんばかりに、塔の壁にヒビが走る。それでも、まだ二人は止まらない。

「……いい加減、倒れてもらおうかッッ!!」

 均等な力の鍔迫り合いを制したのは、プレデターの方だった。肩のブースターが火を吹き、拳の勢いをさらに強めた。炸裂する拳が、パラサイトの胸を撃ち抜く。

 そして、爆発が起こった。バイザーの奥の目を凝らし、起き上がる影がないか、観察する。

 爆煙が晴れる。そこには、鮮血に塗れたゲノムスが転がるだけだった。

「は、はは。……楽しかったよ、仮面ライダープレデター。最後の最後に、最高の高まりを得られた。感謝する、よ…………」

 そう告げると、ゲノムスの胸の上下が途絶えた。変身を解いた草壁は、バランスを崩し、倒れながらも、こう応えた。

「……こちらこそ、なかなかに楽しませてもらったぞ、超能力者ゲノムス=リボー。君は間違いなく、私が戦った中で最強の敵だった」

 


 

 場所は変わって、アルテとマルチフェイスの戦う下層。

『ほぅらっ!!ほらっ、ほらぁっ!!ちょこまかと逃げやがってぃ……っ!!』

「はははははっ!!私が速いんじゃない君が遅いんだ薄鈍!!」

 ひょいひょいひょひょいとマルチフェイスの攻撃を躱しながら、アルテは笑う。飛び退くたびに矢を放ち、マルチフェイスに着実にダメージを与えていた。

『こ、のぅ……っ!!』

 マルチフェイスの複眼が淡い桃色に光る。次の瞬間、空中に浮かんだ無数の光球から、極彩色のレーザー光線が放たれた。

「おやおや、光を操る私を相手に光で勝負とは見上げた心構えだね。その心意気に敬意を表して、こちらも少しだけ本気を出させてもらおうかな」

 弓を離し、グロリアスティックを構えて、アルテは言う。その先端は、すでに開かれている。

「吹き飛べ」

 カツン、と杖が地面を小突いた。次の瞬間、マルチフェイスのそれを上回る量と質の光線が、ゲリラ豪雨のように降り注ぐ。

『まだまだぁっ……遅いんだよねぃっっ!!』

 それを切り抜け、マルチフェイスが飛びかかる。その両腕には、カマキリのような刃が握られている。

「おいおい待て待て待てそんな剣系の武器は私とは相性悪いんだって──ッ!!」

 アルテはあたふたするが、それでマルチフェイスの攻撃の手が緩むわけではない。二本のそれが、無慈悲に振り下ろされる。しかし、火花を散らして吹き飛んだのはアルテではない。

「……はぁ、だから言っただろうに小娘。その手の武器は相性が悪いと。対応手段が限られている上に使い慣れていないものだから加減が難しいんだよ」

 腕に装備した弓を眺めながら、アルテが言った。見下ろされるマルチフェイスは、思考が追いついていないとでも言いたげにアルテを睨みつける。

『い、ま……今のは、何をしたって言うのぅ……っ!?』

「おや、見てわからないかい小娘。簡単だよ?弓で君の剣を弾いて、ついでに腹も切っただけなんだが」

 自慢げに言ってのける神蔵に、マルチフェイスの脳内は怒りで埋め尽くされていく。

『ふっっっっっざけるなぁぁぁぁっっっっっ!!!さっきからぼくをバカにしやがってぃ!!!!もう怒ったからなーぁ!!!!!』

「いや、私はバカにしているつもりなどないよ?──だって君、元からバカじゃないか」

 けらけらと、アルテは笑う。

『きみだけはぼくが殺してあげるからぁ……喜んでよねぃ!!!!』

「殺されて喜ぶやつがどこにいるのかね、小娘。なら君こそ喜びたまえ。私のような強者に直々にその鼻っ柱を叩き折ってもらえるのだから」

 駆け出すマルチフェイスに中指を立て、アルテは弓を番えた。

『甘いんだよねぃ!!』

 マルチフェイスの速度が上がる。その複眼が何色にも続け様に点滅し、その度に放つ迫力が増していく。

『潰れろぅっっ!!!』

 肩から放たれたエネルギー弾を拳を纏わせ、アルテへと叩きつける。

「……なるほど、少しはやるようだね。でも、私には少しばかり届かないかな?」

 しかし、その拳の軌道は、すんでのところでズラされた。至近距離で、光の矢が放たれたのだ。

『……っ!!ふざ、けるなよぅ……っ!!!』

 ぴょんと飛び退き、マルチフェイスはダガーシューターの銃口を押す。

『Material Attack. Triceratops Dagger Drive.』

 その銃口から、一際巨大な光弾が放たれる。漏れ出るエネルギーが、床や壁を抉りながら、アルテへと一直線に伸びる。

「……流石に、これを正面から喰らうのもなんだし、抵抗させてもらおうかな」

 対するアルテは、ドライバーからマテリアマジェスティを抜き取り、弓に突き刺した。

『Material Attack! Lunatic Ray!!』

 光の矢が空気を裂く。それがマルチフェイスの光弾に触れた瞬間、刹那の拮抗すらなく、真正面から光弾をかき消した。

『な、ぁ……っ!?』

 それでも、なお勢いが落ちることはなく、殺人光線が、マルチフェイスの懐を撃ち抜いた。

「……さて、まだ生きているだろう?大人しく投降すれば命くらいは見逃してあげよう、さぁどうする?」

『……お断り、だねぃ。バァァァァァカ!!』

 神蔵はマルチフェイスに手を差し伸べるが、当のマルチフェイスは草壁に化け、出現させた刃をアルテに向けた。

『この姿なら、きみはぼくに手出しできない……そう、だよねぃ?』

 その様を見て、アルテはハァとため息をこぼし、

「甘いんだよ、狩り殺されたいのか、クソガキ」

 一切の容赦を捨て、傷口を蹴り上げた。

『あっ、がぁ……っ!?』

「もうダメだ。私はこう見えて蒼哉に似て平和主義者だし、まぁ見逃してやってもいいかなと思っていたが、あろうことか蒼哉を愚弄するとは。どうしてそこまで的確に地雷を踏み抜けるんだい、君は」

 元のマルチフェイスに戻されたソレを見下しながら、アルテは冷淡に告げる。

「──だからせめて、苦しんで死ね、外道」

『Material Finish! Majestic Eclipse!!』

 光を帯びた回し蹴りが、マルチフェイスの胸を貫く。回避も、防御も、意味をなさない。故に、そこにマルチフェイスが、化野幻歩が存在した痕跡など微塵も残さず。

「──命を以って学習しろ、小娘。私の恋人を愚弄することは、貴様ごときの命を幾らベットしようと許されることではないと」

 大きな穴の空いた壁を虚ろに見つめながら、アルテは言った。

 


 

『さぁ、死合いましょうか赤萩くん!!ワタシと、貴方!!勝者はどちらか一人のみ!!勝った方が生き残り、負けた方は命を失う!!地獄の選抜試験の開幕ですッ!!』

「ハッ、随分とテンションが高ぇなクソ野郎!!まぁそりゃそうか、俺だっててめぇを前にして怒りと興奮で前が見えねぇわけだからなァ!!」

 叫びと叫びがぶつかり合う。それだけで、空気がビリリと揺れた。

『凍りつきなさいッ!!』

 先手を取ったのはダガー。踏み出しながらも右手を引き、氷の波動を放つ。

「甘ぇ、その程度じゃ俺には届かねぇんだよッ!!」

 対して、フレイマーは矢を放ち、氷を吹き飛ばす。

「消し飛べッ!!」

 バンッと、小さな爆発音が響く。ダガーはそちらに気を取られるが、フレイマーの本命は──。

「その程度のブラフに引っかかるやつが俺に勝てるわけねぇだろ間抜けッ!!」

 ダガーの背後に回り込み、弓と銃口を重ね、二つの火を放つ。そして、一瞬、ダガーの動きが止まった隙に、

『か、はァ……ッ!?』

 真横に移動し、その横腹に二発の拳を叩き込んだ。だが、それで倒せるほど、ダガーは弱くはない。

「な…………ッ!?」

『はぁ……貴方は馬鹿なのですかぁ?ワタシに、あの程度の攻撃は通用しないんですよ』

 ヒットアンドアウェイ戦法を取ろうとするフレイマーの腕を掴み、その鳩尾に拳を滑り込ませ、ダガーは嗤う。

『これは先程あれだけ無遠慮にバカスカ殴ってくれたお礼です、受け取ってくださいッ!!』

 氷を纏い、ダガーの拳が棍棒と化す。逃げようと試みるが、足下が凍りつき、身動きが取れない。そうしているうちに、氷の鈍器が、フレイマーの側頭部を強打した。

「ご、がァ……ッ!?」

 脳が揺れる。思考が一瞬中断される。横薙ぎに吹き飛ばされるフレイマーの躯体は、ダガーによってさらに蹴り飛ばされた。

『どうです?せっかく手に入れた力を上から叩き潰されるお気持ち、はァ……ッ!?』

「そっちこそ教えてくれよ、一秒前まで舐めてた相手に返り討ちにされる気持ちってやつをよォ!!」

 飛びかかる菱杖の右足を蹴り上げ、生まれた一瞬の隙に、フレイマーの拳が、ダガーの複眼を殴打する。仮面の奥まで衝撃が響き、菱杖の右目は一時的に視力を失う。

『やってくれるじゃありませんか……ッ!!』

 フレイマーの追撃を左の掌底で押しのけ、ダガーは飛び退く。

(空中戦で、正面から打ち砕く……ッ!!)

 そして、ダガーの背に、純白の翼が現れる。

「なるほど、な。……いいぜ、てめぇの策略に乗ってやる。正面からてめぇをぶっ潰すッ!!」

 それに応えるように、フレイマーの背に、炎の翼が現れる。二人は自らの拳で壁を砕き、上空へと舞い上がった。

 それからの戦いは、まるで神話の一節のようであった。二人の天使が、己の持てる全てを出し合い、互角の戦いを繰り広げる。

 プテラノドンとフェニックス。古代と伝説。媒体に違いはあれど、共に空を制する究極の獣。それらの力を借りた、代理戦争が勃発した。

 拳と拳。蹴りと蹴り。単純な肉体同士のぶつかり合いが、伝承クラスのスケールで行われる。

 攻撃を受けるたびに、互いに肉体がすり減っていく。肉を切らせ、骨を断つ。だが、いくら彼らが規格外の強さを持っていようと、体力には限界というものがある。

 だから二人は、同時にドライバーを操作した。全身全霊の一撃を、放つために。

『Breaking IceAge』

『Immortal Burn Out!!』

 氷と炎の一撃が、正面からぶつかり合う。それらは混ざり合い、爆発を起こす。二人の羽は焼け落ち、あるいは凍りつき、効力を失った。飛ぶ力を失った鳥は、地面へと叩き落とされた。土煙が上がり、二人を包み込む。

『Rook Charge…Open“Armored”』

 地面にクレーターを作りながら、変身を解除されたソレは、アーマード・シャトランに変身した。

『おやおや、情けない姿ですねぇ!!こちらも多少はみすぼらしくなったかもしれませんが、貴方のそれは度を越した無惨というもの!!かつてワタシに与えられた力で下剋上、といったところですかぁ!?無理だとは思いますがねぇッ!!』

 ダガーブレイカーを破壊され、通常のダガーに戻された菱杖は、声を荒げて笑った。

「五十歩百歩ってトコだろ。てめぇだって弱体化してるんだから」

『おや、嫌ですねぇ!!目糞の分際で鼻糞を笑いますか!!いやはや底辺同士の争いほど醜いものもない!!』

 舌打ちし、ダガーへと飛びかかるが、今の彼にスペックの差を覆せるだけの余力は残っていなかった。

『決死の覚悟の一撃だったのでしょうが……無意味でしたね、え……??』

 吹き飛ばされ、変身が解除された敵を嘲笑うダガーだったが、その鎧から這い出てきた相手を見て、困惑の声を漏らす。なぜなら、そこにいたのは、赤萩ではなく──

『貴方は……ッ!?』

 赤萩の『能力の化身』、ベネット=フィアーテイルだったのだから。

「へっ、吠え面かきやがれマヌケ野郎」

『……ッ、ですが、逃げたところでまた見つけ出して殺すだけですッ!!』

 どこだ、どこに逃げた。倒すべき敵を探す。ベネットを先に始末すれば全てが解決するという考えは、焦燥しきった脳内には存在しなかった。

「──ここだよ、間抜け」

『Crimson Slash!!』

 背後から現れたブルーフレイマーが、クリムゾンスラッシャーでダガーを斬りつける。咄嗟のことで、反撃が遅れた。そして、そのために体を捻ったばかりに、斬撃をドライバーに直接受け──。

『Bishop Charge…Open“Crosser”』

 変身が解かれた菱杖は、怒りのままにクロージャーへと変身した。

「ははっ!!情けない姿だな菱杖透流!!さっきおれになんて言ったっけお前!!」

 ベネットは、手を叩きながら菱杖の痴態を嗤った。

『ではこちらもオウム返しさせてもらいましょう。貴方の宿主も弱体化していますがねぇ?』

 対するクロージャーも、通常のフレイマーに戻った赤萩を揶揄する。

「かもな。……そんじゃ、全力でブッ潰すから覚悟しろ」

 フレイマーは、多くを語らず、ただ拳を構えた。

『いいでしょう……貴方を殺して、ワタシはワタシの目的を遂行するッ!!』

 ライダーと怪人が向き合う。

『Replical Finish. Crosser Drive』

 放たれた巨大な光弾を薙ぎ払い、赤萩は振り上げた拳を叩きつけた。

『Material Finish! Fire Charging Crush!!』

 その拳はクロージャーの胸に突き刺さり、爆炎が、クロージャーを飲み込んだ。

 


 

「こ、こは……?」

 気がつくと、菱杖は真っ白な虚無の世界に横たわっていた。

「あぁ、あの世なんかじゃねぇから安心していいぞ」

 その眼前に現れたのは、光を失った目をした赤萩だ。

「別に、あのままてめぇを殺してやってもよかったんだ。だが、それじゃてめぇのエゴで傷ついた人々、そしてその家族・友人・あるいは恋人の怒りはどこに行く?」

 赤萩は、まるで判決文を読むかのように、淡々と告げる。

「俺は、俺たちは、彼らの想いを全て背負って戦ってるんだ。だから、俺は決めたんだよ」

 掌で火球を転がし、赤萩は歪に笑う。

「最初の質問に答えてやるよ。ここは無数に存在する世界の狭間……って、コイツが言ってた」

「いえいそのコイツがおれだぜっ☆」

「温度差でバグるからもう少しテンション下げてくれ」

 こほん、と咳払い。

「信じるか信じないかはてめぇ次第。ぶっちゃけ俺も半信半疑だ。悪い今のは嘘だ。無信全疑なんだが、重要なのは、ここには誰も立ち入れないってとこなんだよ」

 即死攻撃を無効化する能力に、超高熱の炎。そしてこの不可思議な場所。全てを理解した菱杖の額に、脂汗が筋を作る。

「ま、さか……ッ!?」

「そのまさかだよ。──とりあえずてめぇ、枯れて死ぬまで燃え続けろ」

 生の渇望を叫ぶ間もなく。断末魔を上げる暇もなく。無慈悲な炎が、欲に焦がれた怪物の運命を焼き捨てた。




 神蔵さんこわいよ……。というわけで墓脇です。
 赤萩と菱杖の因縁に決着がつく回でこの書き出しはどうなんだって話なんですけどもね、まぁ神蔵さん怖かったし仕方ないじゃないですか。
 今回、満を辞してプレデターとアルテにパワーアップがやってきました。
 プレデターに関しては以前投稿した番外編に登場したフルアームドの使い回しみたいな感じになってしまいましたが、一応設定上はあれよりもパワーアップしてるんですよ。あれは一部のチューンマテリアキーの力しか使っていないわけですが、今回のは本人が使ってないだけで全部の力使えますから。
 アルテの強化形態、マジェスティックはアルテの最大スペックを200%発揮できるフォームらしいです。有栖川曰く。本来、マルチフェイスダガーを圧倒できるわけがないんですが、そこはまぁ、さすがわけわからん宗教やってる奴に『アルテミス様』とかって祭り上げられるだけはありますね。
 フレイマーvsダガーの互いに弱体化しながら戦ってくやつはビルドのエボルト戦オマージュです。ベネットを分離させて油断させて奇襲するのは当時チェンソーマンのマキマ戦を読んでて思いついたやつですね。
 菱杖の末路は、前も話した『Oの前世』の時からずっと考えてたやつになります。
 最初は不死の力をコピーされて、仕方ないからそれ以上の火力で永遠に苦しませ続けるっていうウィザードのフェニックスみたいなやられ方をイメージしてたんですけど、世界と世界の狭間に隔離して死ぬまで燃やされ続けるオチもなかなかに悲惨ですよね。
 さて次回は黒薙vs朱鷺澤の最終決戦!あと2話でO本編は完結です!最後までついてきてください!墓脇でした!
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