時は、少し前に遡る。
黒いOOが怪人を倒し続けていたなかの一日、ある雨の日のこと。赤髪の少年が、路地裏で一人、雨に打たれていた。
「俺に……もっと力があれば……!」
「おや、何かお困りのようですね?」
少年の背後に、長身の男が現れる。
「アンタは……?」
「ビショップ。貴方のように迷える子羊を救済する聖職者とでも言いましょうか」
男は嗤う。だが、その笑みは、ひどく空虚だった。
「貴方は力が欲しいのでしょう?ワタシならば貴方に力を与えられる。何者にも敗れることのない、絶対的なまでな力を」
「なんでもいい、俺に力をくれ!」
少年は、何かに迫られているかのように切迫とした表情で男に縋る。
「了承しました。たった今から、貴方は誰より強い鎧の騎士となる」
男に差し出された銃と鍵を受け取り、少年は狂ったような笑みを浮かべた。
「ははっ、これで……これで!アイツを傷つけずに済む、これでアイツを守ることができる!!」
「……バスジャック犯を確保しました。人質に取られていた生徒たちはすべて解放済み、護送車を頼みます」
『わかりました……本当にすみません、黒薙くん。貴方にばかり悪役を背負わせて』
「いいんすよ、僕が背負うことで誰かの苦しみが無くなるならいくらでもこの身を捧げるって決めてんすから」
いつになく淡々と話す黒薙。
『……また力を得たようだな』
「……まーた来やがったなパクリ野郎、すいません委員長。一旦切ります」
そこに、黒いOOが現れる。
「前は本調子じゃなかったんでな、今回は楽しませてやるよクソ野郎」
『先刻の負け惜しみときたか、これで私に敗れれば相当な恥だぞ?』
「言ってろ、変身」
『Metal OO!』
OOの身体が青黒い鎧に包まれる。
「今の僕はちょっとキレてる、うっかり殺しちまうかもしれねぇから……まぁ、気をつけてくれよ」
『口先だけならいくらでも盛れることを忘れるな』
互いに剣を取り出し、打ち合う。
ぶつかり合う刃は火花を散らし、ただでさえ大きな緊迫感をさらに増幅させる。
『……あぁ、なるほど。これは、確かに力強いな』
「だろ、
『調子に乗るな』
黒いOOは後方に飛び退く。
『屈辱だが認めてやろう、今の貴様は強い。見違えるほどに、な』
「そう、テメェ以上にな」
『それでこそ斃し甲斐があるというもの、私に力を解放させたこと、後悔するといい』
瞬間、黒いOOの胸のディスクからどす黒いオーラが溢れだす。
だが、そのオーラは、突如として消え去った。OOの背後に、執行衛兵たちが現れたからだ。
「逃げんのか腰抜け」
『勘違いするな、罪もない者を巻き込むのは性に合わんだけだよ』
「それを逃げるって言うんだけどな」
『何とでも言え、次に会うときは必ず斃す』
黒いOOは、出現させた青白い霧に隠れるようにして姿を消した。
「ちゃ〜っす先輩、自分が無理はするなって言ったのに全然守ってくれないみたいで安心したっすよ」
「そりゃどうも」
「イヤミなんすけどね先輩、まぁ無事そうで何よりっすけど」
真っ先に装甲車から降りてきたのは有栖川。どうやら、黒薙のことを心配していたらしい。
「そんなことより先輩、あとでアヤさんにちゃんと謝っとくっすよ〜?相当泣いてたっすからねカノジョ」
「赤萩さんが泣いてた……?いやありえねぇだろ僕をからかうのも大概にしろ有栖川」
「……自分は言ったっすからね。先輩がそれでいいなら自分は干渉しないっすよ」
露骨に不機嫌そうに有栖川は言った。
「確かに自分は基本不真面目で嘘も時々つくっすけど今回ばかりはマジっすからね?女の子の涙を嘘と切り捨てるような先輩は一回誰かにぶん殴られるべきっす」
「あ痛ァ!」
瞬間、黒薙の足に激痛が走る。理由は簡単。有栖川千聖が黒薙の足を踏みつけたからだ。
「ハイヒールじゃなかっただけありがたいと思えっす……バスジャック犯のID照合、明星学園高等部1年、志々田顕吾。確保っす」
黒薙に毒を吐きながらも有栖川は冷静に、職務を執行する。
「……ほーら先輩、何ぼけっとしてるっすか?帰るっすよ。先輩らしいっちゃ先輩らしいっすけど、絶対安静っつったのに勝手に抜け出したんすから少々荒療治になるっすけど覚悟しとくっす」
「いってぇ……僕はテメェみたいな暴力ヒロインを育てた覚えはないぞ」
「いやすんません自分先輩に育てられた覚えないんすけどキモッ」
「……ってか委員長、前から気になってたんすけど、僕ら執行衛兵が授業受けてる最中に怪人が出たらどうなるんすか?」
バスジャック犯・志々田を捕らえた翌日の午後。風紀委員室での会話だった。
「その場合は授業中であろうと戦いに向かってもらうことになっています。ただ、問題はやはり誰が出撃の指令を出すか、といったものですね」
「それではワタシがやりましょう」
背後から突然男の声が聞こえ、遠山は反射的に飛び退いた。
「……なんだ、
「失礼ですねぇ遠山さん。いやなに、執行衛兵の顧問になったものの仕事がなくて困ってたんですよ」
長身の男、菱杖
誘宵学区において、執行衛兵の顧問に選出された教師は、顧問の座についている限り教壇に立つことを制限される。
執行衛兵が学生による自治組織である以上、日々の授業の時間を削ってまでモニターと向き合って危険を察知する、というのは不適切であるためだ。
無論、教師による自治組織も存在はする。だが、誘宵学区は学生の街。権力も戦力も、基本的には学生の方が遥かに強いのだ。
さらに言えば、教師にも教師としての仕事がある。そう何人も監視用の人員を増やせるほど、誘宵学区の人手は足りていない。
「……というか、最近その手の輩が出ないので忘れていたんですけど、これまでも授業中の監視って菱杖先生でしたよね?」
「えぇ、まぁ。ワタシが顧問に就いてからは一度も授業中に暴れる子は出ていませんよ。だから暇なんですけどね」
菱杖は鬱屈とした笑みを浮かべながら言った。
「そういうワケですから、貴方たちはせめて授業を受けている間だけでも普通の学生として過ごしてください」
菱杖が口にした瞬間に、備え付けの電話がチリリリ、と鳴り響いた。
「はい、こちら執行衛兵本部です……有栖川さん、どうかしましたか?」
『「どうかしましたか?」じゃないっすよ!怪人が三体も現れたっす、目的は不明っすけど何かを探してるみたいっす、今周辺の生徒たちを避難させてるんすけどなるべく早く来てください、見つかったらマズ……っ!?』
『誰に見つかったらマズいのかな?』
何者かが有栖川の携帯を奪ったらしい。電話の先から、口を抑えられて呻きを漏らす有栖川の声が聞こえた。
『まあぼく的にはきみのような末端の人間には興味はないんだけど。そうだね、執行衛兵に『
『……知りませんし、知ってても教えると思うっすか?』
『うん、思ってないけど一応聞いておかないとダメかなって思っただけだよ』
電話越しに聞こえたのは、男と呼ぶには若々しく、少年と呼ぶには少し大人びた声。怪人は、有栖川の顔に手を添えながら囁いた。
『ぼくとしては別に知らなくてもいいんだけど、それじゃダメらしくてね。持ってそうなヤツってくらいでいいから教えてくれないかい?』
『……自分に、仲間を売れと言うつもりですか』
『そうなるね。選択肢は二択だよ、誰かを生贄にするか、命を捨てるか』
『そんなもの、決まってるでしょうが……っ!』
有栖川の声が怒りに震える。
『先輩っ!自分がこいつらを足止めします、そう長くは持たないんで早いところ助けに来てくださいっ!』
電話越しの声は途切れた。
「委員長、場所は?」
「第8学区、廃工場付近です」
「了解!」
「私、どうすれば良かったのかな……」
その頃、赤萩亜矢は一人黄昏ていた。奇しくも、有栖川が怪人たちと逃亡劇を繰り広げている第8学区の端の廃工場で。
「赤萩さん!?なんでこんなところにいるんだ、早く逃げろ!」
バイクに乗ったまま、黒薙は叫んだ。
あまりにも唐突な黒薙の言葉に何か言い返そうとする亜矢。しかし、その声は轟音にかき消された。
『ぼく達3人からよくここまで逃げたね、褒めてあげるよ。ただの一執行衛兵と思っていた相手がまさかランク9の高位能力者だったとはね』
打ち傷と擦り傷に塗れた有栖川は、駆けつけた黒薙を顧みて不敵に笑った。
「遅いっすよ先輩。おかげさまでこんなに怪我しちゃったっす」
「悪いな有栖川……もう喋んな。テメェらだな、ウチのかわいい部下を傷物にしてくれたのは」
黄色いボディの怪人は嗤う。
『ハハッ、だとしたらどうするんだい?』
「テメェらを一人ずつブチのめして懲罰房にブチこむだけだよ」
『ハハハッ!面白いねきみ、気に入ったよ“異能共鳴”!』
両手を広げて声を高々に怪人は叫ぶ。
『OOはぼくが倒して捕まえるよ、アーマード、ライブラリ。きみ達はきみ達で好きにやっていてくれ』
ライブラリ、と呼ばれた怪人の少女は頷き、亜矢を見つめる。
「アヤさん、逃げるっすよ!あの女に見られたらお終いっす!」
「えっ、ちょっ、どういうことなの有栖川ぁッ!?」
その行動を感知した有栖川は亜矢の手を引き、半ば強引に走り出した。
『逃がさない、スペアプラン……!』
ライブラリは有栖川たちを追うように飛び出した。
「先輩っ、バイク借りるっすよ!」
黄色い怪人と交戦する黒薙を一瞥すると、有栖川は黒薙のバイクに跨った。
「振り落とされるっすから、しっかり自分にしがみついててくださいアヤさん……!」
「わかった、わかったからちゃんと後で説明しなさいよ────っ!?」
制御キーを入力し、超加速モードを限定解除する。
しかし、一足遅かったらしく、アクセルを開く頃にはライブラリは真後ろまで迫っていた。
『逃がさない、って言ったはず』
「ッ、その程度の速さで追いつけると思ってるなら、それは勘違いだって教えてやるっすよ……ッ!」
ライブラリがバイクに手をかけたまま、有栖川はバイクを走らせる。
『それは……こちらのっ、台詞……っ!』
遠心力を利用し、ライブラリは飛び上がる。
『捕まえたっ』
「なんて言わせないっすよマヌケっ!」
目の前に立ちふさがるライブラリを撥ねる形で、半ば強引にバイクを運転する有栖川。
『……少しはやる。けれど、私の方が速い』
ライブラリは地を蹴り、バイクの真横に移動すると、そのまま蹴り飛ばした。
「ッ、あァァッ!?」
亜矢はなんとか受け身を取ることができたようだが、満身創痍であった有栖川はそれすらできずに、地面に放り出された。
「有栖川っ!?……怪我人なのよ、それをアンタはっ!」
『そちらから私にかかって来てくれるの?私としてはそちらの方が好都合』
亜矢は、鞄を持ってライブラリに突撃する。しかし、膝蹴りを腹に喰らい、一撃で倒れ臥した。
『無傷で捕らえるのが好ましいって言われたけど……正当防衛だから』
『……待てよ』
何者かに呼び止められ、後ろを振り向くライブラリ。直後、斧で切りつけられ、ノックバックする。
『……アーマード、どうして私を攻撃した?』
『俺が“そいつにだけは手を出すな”って言ったのに無視して襲ったからだろ』
『あぁ、そうですか。ならばワタシも貴方を攻撃しますが悪く思わないでくださいね』
そんなアーマードを、また別の怪人が貫いた。
『クロージャー……!』
『失礼、せっかくシャトランの力を渡したというのに能力を使っておくのを忘れていまして』
『ホラ、そんなものかい!?その程度でよくもあんな啖呵を切れたものだね!』
「チッ、このクソ野郎……ッ!存外に硬ぇ!」
三人の怪人が火花を散らす裏側で、OOは黄色いボディの怪人と鍔迫り合っていた。
「硬ぇ相手にはコレしかねぇよな……ッ!」
『Replace! Metal-OO!』
アーマーを換装し、OOは攻撃に優れたメタルフォームになる。
『Gravity Knuckle!』
「オラッ!いい加減くたばりやがれ……ッ!」
Gを圧縮した拳が黄色い怪人を襲う。
『いいねぇ、少しは面白ことしてくれるじゃん……!』
黄色い怪人は嗤い、OOを真っ直ぐに見据えると、大きく踏み込み走り出した。
「クソ野郎が、一発ブン殴ったくらいじゃ分からねぇってかァ!?」
『そう粋がらなくてもいいさ、どうせすぐ楽になるんだから!』
次の瞬間、黄色い閃光がOOの体を撥ね飛ばした。
「……ッ!硬ぇ上に速いってのはちっとばかし反則じゃねぇのかテメェ!?」
『何が反則なものか、この程度に着いてこれないきみが鈍間なだけだよ』
「言うじゃねぇかクソが……ッ!」
OOはベルトからマテリアキーを抜き、ナックルに挿入すると、必殺技を放つ。
『Material Attack! Gravity Fist!』
拳が直撃し、爆風が起こる。しかし、次の瞬間には、爆風を跳ね除け、怪人は傷ひとつなくそこに佇んでいた。
『あぁ、ごめんね。薄々気づいてると思うけどぼくはきみが今まで戦ってきたポーンとは全くの別物なんだ』
「チッ、なら何だってんだクソが……ッ!」
『きみが前に倒したライノ、あれもぼくと同じナイトなんだけど、そもそも後付けでナイトになった彼と初めからナイトのぼくとでは素材が違うんだよね』
怪人は高笑いし、滑るようにOOの耳元まで移動した。
『今のきみじゃあぼくには逆立ちしたって勝てないってことだよ、理解できたかな?哀れなナイトもどきクン』
「っざけんなコラ……ッ!」
『出来るだけ生け捕りがいいらしいけど、どうせ後で治すんだし……腕の一本や二本、へし折っても構わないよね?』
怪人は懐から銃のようなものを取り出し、銃口を撫でた。
『じゃあね、負け犬クン……実験室でまた会おう』
三人の怪人たちは、亜矢をそっちのけで内紛状態になっていた。
『だいたい……アーマードが聞こえる声量で言っていれば私は追わなかった』
『そういうワケです、大人しくしてくださいね』
『チッ、クソが……ッ!』
そんな中で、ボロボロの身体を引きずりながら、有栖川が亜矢に囁いた。
「アヤさん……逃げましょう、怪人たちが潰し合ってる今しかチャンスはないっす」
「あっ、ごめん有栖川……でも」
「でもも何もないっす、自分の傷のことはいいっすから、さっさと逃げるっすよ」
亜矢は、傷だらけの有栖川に手を引かれ、それでも後ろを振り返ってしまう自分に気がつく。
『では、死なない程度に死んでください』
『Replical Attack. Crosier Drive.』
クロージャー、と呼ばれた怪人は、黄色い怪人と同型の武器に、チェスの駒のような形状をしたマテリアキーを差し込み、炎の弾丸を放つ。
『……ッ!』
炎に包まれ、アーマードの走行は解除される。
『クロージャー、やりすぎ。アーマードが死んだらどうするつもり?』
『あぁ、失礼しました……おや?まだ逃げてなかったんですかスペアプラン』
クロージャーの冷めた視線に晒されるが、亜矢はそれどころではなかった。
変身が解除されたアーマードの正体が、彼女のよく知るとある人物だったからだ。
「嘘……嘘って言ってよ……っ」
「どうしたんすかアヤさん!そんなことしてる場合じゃ……ッ!」
血を吐く有栖川にも気付かず、亜矢はひたすら涙を流し続ける。
「お兄ちゃん……なんでこんなこと……」
黄色い怪人の放った一撃は、大地を抉りOOの右の腕を切断した。──はずだった。
『……おっと。邪魔が入ったか』
『『異能共鳴』の力を貴様らに渡すわけにはいかんのでな』
『なるほど?今はきみと戦ってもぼくに得もなさそうだし、ここが引き時かな』
怪人からOOを守ったのは、意外にも、黒薙と敵対していた黒いOOだった。
『じゃあね、また会おう『異能共鳴』。次はその両手だけでも貰いたいね』
そう告げると、怪人は影一つ残さず姿を消した。
「……テメェ、どうして僕を助けたんだ?」
『言っただろう?『異能共鳴』の力は強大だ。その力をどこの馬の骨とも知れぬ者に渡したくはないものでな』
黒いOOはニヤリと笑い、OOに背を向けて去っていく。
『強くなれ『異能共鳴』。誰にも負けないほどの力を手にするほどに』
『別に泣きたければ勝手に泣けばいいですけど、あれだけ時間をあげたのに逃げようともしないということは……捕まる覚悟ができている、ということですよねぇ?』
クロージャーの手が亜矢の眼前まで迫る。しかし、その手は無数の銃弾により跳ね除けられた。
「静聴なさい怪人ども!ここはすでに我々執行衛兵が包囲した!!」
声を高々に青髪の少女が叫ぶ。
「よぉーう、ゴミクズどもが雁首並べてよろしおすなぁ!」
金髪の少年は声を張り上げ、ハンマーのような武器を構えて嗤った。
「怪人の皆々様、あなた方の正体は大体割れているのです。その状態で逃げることができるとお思いでしょうか?」
銀髪を短く切り揃えた少女は、あくまで蠱惑的に微笑む。
「執行衛兵のほぼ全戦力がここに揃っています、ライダーシステムの試作型も完成しましたし……」
そして、遠山が淡々と言葉を紡ぐ。
「これ以上騒ぎを起こすというのであれば、私たちの総力を挙げてあなた方を抹殺します」
『やれやれ、面倒になりましたねぇ……ライブラリ、アーマードを連れて逃げますよ』
『……仕方ない。アーマードの再教育は任せたから、クロージャー』
待て、と青髪の少女が追いすがるが、地を蹴り駆け出した頃には、怪人たちは姿を消していた。
「敵の逃走方法などはだいたい理解しました。あとは対策をするだけ、ですが……」
遠山は視線だけを動かし、未だ涙を流し続ける亜矢を見つめると、
「
三人は三者三様の返事をし、それぞれの仕事へと向かった。
幹部大量登場にスピンオフ主人公本編登場と大忙しの回でしたね。
特に、アーマードに関しては、ヒロインの兄ということもあり、今後も深く話に関わってきます。次回以降の彼の動向に注目していきたいところです。
感想などございましたら、是非コメントしていただけますと幸いです。墓脇でした。