「……どうやら、ここが最上層みてぇだな」
最後まで上り詰め、そこに佇む影を見て、黒薙は言った。
「「──うん。そうだよ。久しぶりだね黒薙颯斗」」
杖に腕を絡ませ、艶めかしく微笑み、朱鷺澤は言った。
「……朱鷺澤、お前その見た目は…………」
「「今更いちいち突っ込まないでよね、汚らわしい。君だってそこの女の子……名前なんだっけ?あぁそうだレーツェルだ。レーツェルさんと合体できるんでしょ?そんな君に化け物とか言われたくないかな」」
「別にそこまでは言ってねぇよ」
はは、と乾いた笑いが黒薙の口から漏れた。
「……ひとつ聞かせろ。お前は朱鷺澤なんだな?」
「「なに当たり前のこと聞いてるのさ。もしかしてボケた?若いのに白髪で可哀想って思ってたけど、もうそこまで老化進んでたんだね」」
「残念ながら僕の髪はプラチナブロンドだ。それに、僕のこれを白髪と呼ぶなら、今のお前だって大概に白髪混じりじゃねぇか」
黒薙は諦めたように、ドライバーを装着した。
「……先輩、多少はロベリア=ローゼンロードの影響を受けているとはいえ、今のあれは正真正銘の朱鷺澤永治です。だからって手加減なんてしたら死にますからね」
「わかってる。……やるしか、ねぇんだな」
ミスティもドライバーを構え、真っ直ぐに朱鷺澤を見据える。
「「それじゃあ、始めようか」」
朱鷺澤が杖で地面を小突くと、か細い音がカーンと響いた。それぞれが、それぞれの変身の動作を取る。
「「変身ッ!!」」
「「廻錠」」
戦う前に、少しだけ昔話をさせてほしい。
僕は黒薙颯斗。毎度お馴染み仮面ライダーOOの中の人だ。
昔話って言っても、僕の出生がどうとか、そんなこの状況ですべき話じゃねぇモンじゃねぇから安心してくれ。
今から三年前、僕と朱鷺澤が初めて会った時のことを、よければ聞いていってほしい。
「黒薙は……アレだな。なんというか……オーラがおぞましい」
「誰のオーラがおぞましいって早見く〜〜ん??」
当時、僕たちはまだ中二だった。あの頃の僕は、結構荒んでたし、今ほど周りに人が集まってくるようなやつでは断じてなかった。友達なんて牧瀬と早見と……あとは、今色々あってアメリカ留学中のやつらくらいしかいなかったよ。今でこそ付き合ってるが、亜矢と仲良くなったのだって中三からだ。それまでは互いにただの根暗なクラスメイト程度にしか思ってなかったんだから。
「ギャッハハ!!黒薙よぉ、その辛気臭ぇツラはどうにかならねぇのか!?」
「なるわけねぇだろボケ。辛気臭ぇツラは生まれつきだ。悲しいことに、クソみてぇな父親にばっかり似ちまったらしくてな」
牧瀬は……この頃から何も変わってないな。今も昔も人の逆鱗を無遠慮にまさぐってくるカスだ。ここまでで何回あいつをぶん殴ったもはや覚えてねぇ。
「そもそも、黒薙がやたらと辛気臭いのは顔面のせいではないだろう。顔はそこそこにいいわけなんだから、精神面がオーラとして漏れ出てるだけなんじゃないか?」
「ははは生きてるだけで女の子にキャーキャー黄色い声上げてもらえる勝ち組モテ男サマは余裕だねぇ」
早見は……中身はまぁあんまり変わってないか。今との違いって言うと、強いて言うならこの頃は右目を隠してなかったってくらいだが……まぁ、それに関しちゃあんまり語りたい話でもないし、ここらはおいおい話すとして。
さて、本題に移るか。こいつらとの過去を語ることと、僕と朱鷺澤の出会いを語ることに、特にイコールで繋がるような関係があるわけでもねぇし。
三年前の四月終わり頃、だったかな。久城さんに頼まれたとかって荷物を、あいつは運んでた。知っての通り、あいつは男としては割と小柄な方だし、
「……おいそこのお前。よかったら持とうか?」
「うひゃぁっ!?」
それが無性に気になって、僕はあいつを呼び止めた。
「き、気持ちだけ受け取っておきます……え、えっと、黒薙くん……ですよね?あんまり迷惑かけたくないです、し…………」
「チラチラと人の顔色を伺うんじゃねぇ。目の前で猫が側溝に嵌ってたらお前だって助けるだろ?……いや、今の例えはわかりづらいか。まぁそういうわけだから持たせろって。朱鷺澤……だったか」
うわぁ今にして思い返すとめちゃくちゃイキってんな僕……。この時の僕、そこらのオタクのSNSとかより酷いかもしれん。
「で、でも……」
朱鷺澤がなんか言う前に無理やりダンボールを二、三箱奪いとった。
「……で、どこに持ってけばいいんだ?」
「え、えっと……」
正直、この時はまだこいつと仲良くなるなんて思ってなかったな。
「ち、ちが……」
「何が違うんやコラ?自分今当たったっちゃ?」
……そう。それからゴールデンウィークの最中に、こいつが不良に絡まれてんのを見るまでは。
「とりあえず金出さんとしばくど!?」
「しばかれんのはテメェだよ肉ダルマ殺すぞ」
放っておくわけにもいかなかったから、とりあえずその不良をボコって朱鷺澤を連れて逃げた。この時の僕マジで颯爽と現れたヒーローだったな。今でもこれまでの人生で一番のヒーローエピソードはこれだと断言できる自信ある。で、そんなこんなで懐かれましたとさ。
「……ねぇ、黒薙くん」
それからしばらくして、二人で飯食ってるときに、あいつは口を開いたんだ。
「どうした?」
「……もしも、僕が弱くなかったら、黒薙くんは僕を助けてくれなかった?」
あの時はびっくりしたよ。まさかこんなメンヘラみたいなこと聞かれるとは思ってなかったから。
「……なわけねぇだろ。僕が相手の強さを見てつるむ相手決めてるとでも思ってんのか?なら僕は今頃牧瀬とも早見とも関わってねぇだろうよ」
この時の僕は、なんで気付かなかったんだろうな。朱鷺澤が、一人で考え込んじまうタイプだってこと。
「……黒薙くんは、強いね。僕も、黒薙くんみたいに強くなりたいな…………」
「やめとけやめとけ。僕は大して心も体も強くねぇよ。それに……仮に強かったとしても、余計な厄介ごとに巻き込まれるだけだぞ?」
だからこそ、僕はお前を助けたい。悪いのは僕とは言え、こんな終わりで納得できるわけねぇだろ。
「じゃあ、もし僕が強くなって、余計な厄介ごとに巻き込まれたりしたら──」
『Are You Ready To Fight? Never Look Back! Beat Up Your Enemy! With Your All Strength! Break Up! Transcending OO!! Excellent!! Amazing!! Awesome!!』
『Evolute Mist Blade! Ignited HORUS System……“Mist OO”』
『Linked Charge. Rises Ouroboros. Over Linkage. Catch the Engage. 』
ドライバーを起動して鎧を纏うは、仮面ライダーOOと、ミストOO。それに相対する、紫の蛇の怪人こそが、朱鷺澤永治が変身した最強の怪人、ウロボロス・シャトランである。
「行くぞ朱鷺澤。……失われた時間の力、見せてやる」
「さぁ始めましょう、限界のサリューを。聞こえているんでしょう?ロベリア=ローゼンロードッ!!」
二人は、それぞれが倒すべき相手へと語りかける。
『『いいよ、黒薙くん。君のその力ってやつ、僕が正面からぶっ壊してあげるから。あとレーツェルさん、君の声はちゃんとロベリアに聞こえてるみたいだよ』』
不敵な笑みを浮かべ、ウロボロスは言った。その頭上では、無数の亀裂が空を裂いていた。
『『これが何か、疑問に思ってるって感じだね。いいよ、教えてあげる。これは僕が能力を使いこなせるように菱杖先生に協力してもらった時の副産物だよ。僕の能力ってさ、人とかだけじゃなくて攻撃も殺せるみたいだから』』
「ハッ、戦場でペラペラ弱点を話すのはご法度って知らねぇのか?ド素人だな。三流以下だよ」
『『別に、君程度になら教えても問題ないかなって思っただけだよ。だって君、僕より弱いし』』
言い終わると同時に、風の刃や氷の波動が、波状に放たれた。
「なるほど、こりゃ確かに強力だ。だがなんか勘違いしてねぇか?別に僕は、これに対応する術がないわけじゃねぇんだが」
オブリビオンセイバーを右手に構え、それを横薙ぎに振るい、攻撃をかき消す。
『『うん。いいね。でもその程度で満足してちゃ、僕には届かないよ?』』
直後、OOの四方を囲むように、無数の槍が現れた。この刃の葬列を、オブリビオンセイバーでは防げない。だから、
「沈め」
今度はグラビティナックルを装備し、重力の拳で、槍を全て跳ね飛ばした。
『『だから、それじゃダメなんだって』』
次に現れたのは、地面を駆けずり回る雷撃たち。だが、それも、OOにとってはさほど苦ではない。スパイラルスピアーの先端を飛ばし、雷撃を迎え撃つ。
「これでこっちの手札はあらかた見せた。さぁ、正々堂々殴り合いといこうぜ、朱鷺澤」
『『正々堂々?二対一で何言ってるのさ、僕如きを相手にするのに二人がかりなんて恥ずかしいとは思わないの?』』
「生憎、僕は敵に余計な情けはかけねぇようにしてるんだ。だから──ちょっと痛くても泣くんじゃねぇぞ」
瞬間、OOの姿が消える。ウロボロスの懐に潜り込むと、その顎目掛けてグラビティナックルを振り上げた。だが。
『『効かないよ』』
並の怪人ならば一撃で沈みかねないそれを、ウロボロスは片手で受け止めた。
『『つまらないな、この程度、能力を使うまでもないじゃん』』
OOの拳を引き、ガラ空きになった胴を膝で打つ。朱鷺澤に絡んできた不良に対し、黒薙が叩き込んだ技だ。それが今、回り回って黒薙へと返る。
「ご、はァ……ッ!?」
OOの身体が、ノーバウンドで数メートル跳ねる。
「隙だらけです……ッ!!」
意識の外からミストOOのレイピアが迫る。しかし、届かない。
『『君に至ってはやる気あるの?ってレベルだね。僕を舐めるのも大概にしてくれない?迷惑なんだよね。その程度でこっちに向かってくるの』』
確かにその装甲を貫いたはずのレイピアの刃先が掴まれる。
『『死んで』』
腕が大きく捻り上げられ、ミストOOの掌からミスティカルレイピアがすり抜ける。そして、頭蓋を掌底が叩き潰す。
「か……ッ!?」
『『うん。そういえば化身が消えれば能力は使えなくなるんだっけ?そういう手っ取り早いのは嫌いじゃないし……そういうわけだから』』
吹き飛んだミストOOを睨みつけ、ウロボロスは杖のヘッドを捻った。
『Kill Materia. Ouroboros-Strike.』
ウロボロスの首から放たれる無数の蛇が、ミストOOに向かって伸びる。咄嗟の判断で黒薙は身代わりとなったが、
『『へぇ、また自己犠牲か。僕に対してもそれを発揮してくれたらよかったんだけど……自分が沈んでちゃ意味なくない?』』
ウロボロスの一撃を受け、その変身は解かれてしまった。
「チッ……想像より遥かに強ぇじゃねぇかよ……ッ!!」
地面を転がり、口から血の玉を吐き出しながら、黒薙は悪態をつく。
『『君の貧相な想像力じゃ所詮その程度ってことでしょ?そのまま死んでもらってもいい?』』
「断る。……僕を、ヒーローを舐めてんじゃねぇぞクソ野郎」
朱鷺澤を睨みつけ、ドライバーに二つのデバイスを装着した。
『Discharging This Silly Curse! Fusions Triple Power!! Oh! Trine OO! Excellent!!』
トラインフォームに変身する。マテリアトリロエッジを構え、OOはマテリアトリニティのボタンを押した。
『Time Master!』
瞬間、世界の時間が遅くなる。ウロボロスはOOを目で追おうとするが、それは叶わない。
『Trinity Time Slash!!!』
意識の外から、OOの斬撃が、ウロボロスを斬りつける。
『『チッ、小ネタばっかりチマチマチマチマと……ッ!!』』
ウロボロスは舌打ちしながら腕を振るう。しかし、すんでのところで届かない。
(危なかった……一瞬でも避けんのが遅れてたら今頃吹っ飛ばされてるとこだ)
時間を置き去りにしながら、追撃の機会を見つけるため、OOは思案する。
「そこだッ!!」
獲った。ウロボロスの胸の装甲を、確かに鎌が捉えた。
『『……捕まえた』』
だが、まだ致命的なダメージには至らない。マテリアトリロエッジの刃が、ウロボロスに掴まれる。
「……ッ、させるかよ……ッ!!」
『Metal Master!』
このままでは刃を砕かれる。そう判断したOOは、刃を高速回転させ、斧に変形させることで、その手を弾いた。
『『なるほど、頭は回るみたいだけど……さっきのやつとかじゃないと僕は倒せないよ?』』
「どうだろうな?やってみねぇとわからねぇだろうが、よッ!!」
グラビティナックルを装備し、必殺技・グラビティフィストを放つ。四方八方から襲いくる重力の拳に、ウロボロスの動きが僅かに止まる。
『Trinity Metal Slash!!!』
蒼い斬撃が、ウロボロスの胸を斬りつける。重力の拘束が解けた頃には、視界にOOはいない。
『『どこに逃げても無駄なんだけどな。地の果てまで逃げたとしても、僕は必ず君を見つけ出してバラバラのグチャグチャに殺してやる』』
霧が立ち込める。ウロボロスは呆れたような声を漏らした。
「へぇ……らしいですけど、どうします?先輩」
「そいつは困るな。僕はまだやり残したことが山ほどあるわけだし、そう簡単に死んでやるわけにはいかねぇよ」
直後、ウロボロスの前後を挟むように、二つの刃が迫る。
『Spin Master!』
「今度こそ、散ってもらうぞ」
逃げ場を奪うように、スパイラルスピアーの穂先を射出させて、OOは笑った。
『Trinity Spin Slash!!!』
『Mystical Thrust!!』
前後から、弱点を狙った刺突が繰り出される。
『『だから、意味ないんだって』』
しかし、それでも、ウロボロスは倒れない。
『『──いい加減君たちの相手も飽きてきたな。もうここで死んでくれない?』』
そして、首の蛇がアクロバティックに舞い、OOとミストOOの足下を奪う。
『Kill Materia. Ouroboros-Smash.』
身動きの取れない二人の胸に、禍々しいオーラを纏った拳が叩きつけられる。
「か、は……ッ!?」
二人の体が、轟音と共に風を切り裂き、壁へと力強く叩きつけられ、その変身が解除された。
『『さて、万策尽きたと見ていいのかな?思ったより粘ってくれたね』』
「いいや、まだだ……まだ、僕たちは戦える…………ッ!!」
『『やめとけばいいのに。足掻いても無駄なんだよね、足掻けば足掻くほど苦しんで死ぬことになるってなんでわからないかな』』
「ハッ……生憎、僕って生き物は往生際が悪いらしくてな……ミスティ、いくぞ」
ボロボロになりながらも、黒薙はミスティへと手を伸ばす。二人の影が重なり、一つになる。
「「変身」」
『Enough Power Too Breaking Everything……Breaking OO……Spin Charge』
ブレイクフォームに変身し、OOは深く腰を落とした。
《先輩、できるだけ時間を稼いでください。奴のホルスを消耗させなければ、私の起死回生の一手は不発に終わります》
(わかってる。……せいぜい逃げ回って大技をポンポン出させるしかねぇか)
心の中で作戦を決めると、OOは全速力で駆け出した。──ウロボロスの、真逆へと。
「「ハッ、ここは戦略的撤退だ!!三十六計逃げるに如かず、ってなァ!!」」
その様を見て、ウロボロスは思わずため息を吐いた。
『『……は?舐めるのも大概にしてよ。もういいや、全部終わらせてやる』』
そして、杖を高く掲げ、
『Ouroboros-Strike.』
無数の蛇が、OOへと襲いかかる。
「「大人しく食らってたまるかよ……ッ!!」」
『Spiral Pierce!』
対するOOも、スパイラルスピアーにトランセンドマテリアキーを装填し、穂先を放ち、襲い来る蛇たちを撃ち落としていく。
《いいですよ先輩、その調子でどんどんあいつを煽ってください!あぁして立っているだけで相当ホルスを消耗しているはずです、あと一息ですよ!!》
(簡単に言いやがって……言っとくが、こっちだって相当ホルス使ってるからな!?)
心の中で叫びつつ、OOはウロボロスを挑発する。人差し指を曲げ伸ばしし、OOはなおも逃げ回る。
『『逃がさない……どこまででも追い詰めて、必ず殺してやる……ッ!!』』
二色の眼を血走らせながら、ウロボロスはOOを追う。
《ホルスの流れからして、次の攻撃は十中八九あの蛇ですね。七割がたあれで足元掬ってきます。あ、でもこれただの考察なんで信じるのは六割くらいにしておいてくださいね》
(いやもう少し発言に自信持ってくれないと怖いんだが)
声には出さず、軽口を叩き合う。しかし、その目は笑っていない。ベットは自分の命。負ければその場で生涯を終えかねない危険な賭けに興じているという自覚が、二人にはあった。
『『消えろ』』
『Ouroboros-Strike』
ミスティの読み通り、ウロボロスは蛇たちを放ち、OOの足を奪おうとする。だから、
「「こっちだって、そう簡単にやられてやるわけねぇだろうがッ!!」」
『Transcending Oblivion Slash!!』
鎧の色を変え、OOはオブリビオンセイバーを振るった。斬撃が、寄せ来る蛇を両断する。高圧のホルス同士がぶつかり合い、互いの距離を大きく突き放した。
『『でも、これでやっと君を捕まえられるね。……さっきからちょこまかと逃げやがって。せめて君だけは苦しんで死ねるように頑張ってあげるよ』』
だが、直後、ウロボロスの姿が消え──OOの背後をとった。
「「ま、ず──ッ!?」」
OOは、咄嗟にマテリアキーを換え、鎧を青く染め上げる。そして拳にグラビティナックルを装着し、反撃を試みる。その全ての動作が、ウロボロスの攻撃に届かない。
「「ご、ばァ…………ッッ!!??」」
黒薙の身体が宙を舞う。ミシリと、重苦しい音が体内に響く。折れてはいけないモノが、今か今かと衝撃を心待ちにしている。あと一発でも喰らえば、間違いなく、黒薙の肉体は肉体としての機能を失う。
『『まだ分離しないんだ。意外だね。それじゃあ、どこまでなら耐えられるか試してみよっか』』
変身が解除されても、まだ二人の融合が解けないのを見て、ウロボロスは愉しげに言う。
直後、放たれた旋風の刃が、黒薙の右腕を切り落とした。
「「──ほう、これは驚いた。まさか、ここにきて悪手の中の悪手を披露してくれるとはな」」
次の瞬間、両眼を血の色に染めた黒薙が放った光の矢に貫かれ、ウロボロスは動揺した。何故、切り落としたはずの腕が生えている?何故、あれほど弱っていた黒薙がここまで堂々と佇んでいる?
「「何を呆けていやがる、小物が。お前が僕を呼び起こしたんだろうが」」
そもそも、目の前に立っているこいつはなんだ?姿は黒薙のはずなのに、放つホルスも黒薙のものであるはずなのに、朱鷺澤の心が、こんなものは『黒薙颯斗』ではないと否定する。
「「まぁ良い。どうせお前はここで死ぬんだ。最期の瞬間くらい好きに呆けていろ。この手に
詠唱が始まり、黒薙の右手に光が収束していく────が。
「「……ふ、ざけんじゃ、ねぇよ…………ッ!!」」
直後、鉄錆臭い風とともに、その光が霧散した。黒薙が、自らの顔を爪で裂いたのだ。
「「テメェが強いってのは、わかる……何となく、だがな…………」」
肩を揺らしながら、黒薙は呻く。
「「……だが、今は手ェ出すんじゃねぇ。これは……他の誰でもねぇ、『僕』の戦いなんだからよォ!!」」
そして、両眼の色を数刻前と同じものに戻し、真っ直ぐにウロボロスを見据えた。
「「……悪りぃな朱鷺澤。今のは気のせいってことにでもしといてくれ」」
『『……馬鹿だね。あのままやってたら僕を殺せてたかもしれないのに。これで君が勝てる確率は万にひとつもなくなっちゃったけど?』』
「「そうだな。僕が勝てる確率は現状ゼロだ。僕が勝てる確率は、な?」」
次の瞬間、黒薙の眼の蒼が、いっそう色濃く瞬く。
「「ありがとうございます、あれだけ考えなしに暴れてくれて。おかげさまで……私の作戦が遂行できる」」
人格が切り替わる。目元の血を拭い、ミスティはホルスドライバーを装着した。
『『あぁ、それ中身替えられるんだっけ?まぁ、僕にしてみればそれする必要ないんだけど』』
「「どうでしょうね?今はそれをする必要がなかったとしても、必要に駆られた場合はどうします?それとも、無理矢理中身を引きずり出された場合とか」」
新たなマテリアキーをちらつかせ、ミスティは笑う。
『『なるほど、それで僕をどうにかするつもりなんだ。でも無理だと思うよ?二人して最大出力を出して僕にやられてるんだし』』
「「あなたはそういう考え方するんですね。ちなみに私は
そして、そのボタンを押した。
『Liberation Material Force!!』
空気の色が、変わる。
『Liberty! Set!!』
「「変身」」
ドライバーが開かれ、ミスティの体が光に包まれていく。
『Open! The Show Must Go On!! There Is An Only Way To Win!! Tearing Off The Chain!! You'll Get An Authentic Liberty!! 』
青白いアンダーアーマーを、刺々しい鎧が覆う。
『Get Ready, Liberty-Mist OO!!』
そして、ミスティが黒薙の体を借りて変身した──仮面ライダーミストOO・リベレートモードは、言った。
「「さぁ、始めましょう。ここからは本当の本当に加減なしです。愉快に爽快に理解してください、一人の人間を貶める悪辣さというものが、どれだけの怒りを解放させたか」」
『『何を言ってるのかわからないな。僕は僕の意思のままに動いてるって言ってるじゃん。気持ち悪いんだよね、死んでよ』』
二人は駆け出す。切り裂かれた空気が爆ぜる音が、あたり一面に響いた。
ミストOOの放った衝撃波が、ウロボロスの左腕を掠める。
《速い……さっきまでとは比べ物にならない……ッ!!》
ウロボロスの中のロベリアが、戦況を見て冷や汗を流した。今の消耗しきったウロボロスであれば互角程度だろうか。その程度のホルスでしかないはずだというのに、この妙な気迫はなんだ。反撃が届けば、間違いなくこちらが優勢に立てるはずだ。なのに、勝利のビジョンが浮かばない。
「「何ビビってるんですか、さっきまでの威勢はどこ行きました?ダメージ蓄積してるこっちに遠慮してくれてるならありがたいですけど、そういう気遣いはいいですよ」」
『『そんなつもりはないよ、勘違い甚だしい女の子は好きじゃないな』』
「「僕も嫉妬深い男は大嫌いだよ、って先輩が言ってますけど」」
軽口を叩きながらも、ミストOOは攻撃を止めない。レイピアの刃先が空気を貫き、その度にウロボロスの集中を乱させる。
『『……めんどくさいな。いい加減くたばってよ、死に損ない』』
「「お断りします。そんなに死んでほしいなら……本気でかかってきてくださいよ」」
ウロボロスの杖とミスティカルレイピアがぶつかり合い、爆ぜるホルスが、互いの身体を突き飛ばす。
(チッ……やっぱり純粋なパワー勝負になるとキツいですね……ッ!!)
ピシリと、ミスティカルレイピアにヒビが走る。おそらく、この戦いではもうこの武器は使えない。であれば、どうするか。
『『殴り合いでもするつもり?嫌だなぁ、そういう暴力的なの、はッッ!!』』
答えは単純。硬く握りしめた右の拳で、力一杯殴ればいい。杖から光弾を放ち、ウロボロスは応戦しようとするが、のらりくらりと蠢くミストOOに、それは通用しない。
「「ブッ飛べッ!!」」
ドンッ。拳が敵の胸を抉る感覚が直に伝う。そこからホルスを流し込み、ウロボロスの身体は、さらに激しく宙に舞った。
「「まだまだ足下がお留守ですよ、っとォ!!」」
着地点まで先回りし、追撃を試みる。しかし、
『『そう何度も食らってやるわけないじゃん。馬鹿なの?能無しは死んでよ』』
ウロボロスの杖から、強大なまでのホルスを圧縮した波動が放たれ、ミストOOは吹き飛ばされた。
『『最初は強いって思ったけど……いざ終わってみたらこんなものか。呆気なかったね。それじゃ……終わらせてあげるから、せめて苦しみながら死んでよね』』
倒れたミストOOの顔を覗き込みながら、ウロボロスは言う。
「「……その言葉、そっくりそのまま返しますよ。私がなぜ先程から執拗に胸を狙っていたのかすらわからないとは、存外大したことないんですね。……終わらせてあげますから、せめて苦しみながら消えてください」」
ミストOOの両眼が、鋭く光った。その右手が、ウロボロスの胸に押し当てられる。
『『かッ、は……ッ!?な、にを…………』』
「「私の仕事はここまでです。……あとは任せましたよ、先輩」」
そして、ドライバーのボタンが押され、
『Linkage Liberty!!』
『黒薙颯斗』そのものが、ホルスとしてウロボロスの中に叩き込まれた。
真っ白な空間だった。あるものといえば、そこらに偏在する、墨汁の雫が垂れ落ちたような黒い染みだけ。
「くろ、なぎくん…………?」
真っ黒な鎖に縛り付けられた朱鷺澤は、虚ろな視界に映ったかつての友を、半ば反射的に口にした。
「……朱鷺澤。僕はお前に、謝りに来たんだ」
その鎖に手を伸ばし、黒薙は言う。
「……いま、さら。今更、そんなことができると思ってるの?」
だが、その手は不可視の障壁に阻まれ、届かない。
「わかってる。もう遅いなんてことは僕が一番よくわかってんだよ。……でも、だからってお前を見捨てられるわけがねぇだろうが」
黒薙の手が、障壁に優しく触れる。
「確かに、僕は自分を嘘や偽りで隠してきた人間だ。そのくせ面の皮も厚い。お前を裏切っておいて、まだ上から目線でお前を助けたいなんて抜かせるような、そんなクソ野郎だ」
障壁が、黒薙の掌を焼いていく。
「それでも、この想いは本物だ。どこまでも自分勝手かもしれねぇが、もうお前が汚れていくところなんて見たくねぇんだよ……ッ!!」
それでも構わず、黒薙は障壁を撫ぜる。
「本当に、ごめんなさい…………ッ!!」
ピキリ、と。障壁にヒビが入る音がした。
「本気で悪いと思ってるなら、今ここで死んでみせてよ……そうしてくれなきゃ僕の心は汚れたままなんだよ。僕を助けたいなら、僕のために死んでくれるよね……?」
朱鷺澤は、震える声で問う。
「それが、お前の心からの望みであるなら」
黒薙は、懐から取り出したナイフで、自らの胸を指し示す。その刃先が、少しずつ肉を裂き、刀身を赤黒く染めていく。
「違う……違う!!やめてよ、なんでそこまでできるの!?おかしいよ、自分の命を軽く見るような真似をしないでよ!!」
滴る紅を見て、朱鷺澤は慌ててそれを止めた。
「違う。違うんだ。僕は……本当に君に死んで欲しくなんか……違う、君を殺したくて……わからない。わからないよ……本当の僕がどっちかなんて、もう僕にもわからないんだよ…………」
鎖がより強く食い込む。痛みに喘ぎながらも、朱鷺澤は言葉を紡ぐ。
「教えてよ、黒薙くん……僕って、どんな人だったっけ……君を殺したいほど憎んでる僕と、君と赤萩さんを祝福したい僕と……本物の僕って、どっちなの…………?」
「……僕は、人の感情ってやつがよくわからなくてさ。小説問題とかも無駄に時間かけちまうタイプなんだよ。だから、本当のお前がどっちかなんてのはわからない。……ただ、一つ言えることがあるとすれば…………」
柔らかな声で、黒薙は言った。
「……本当のお前がどうあれ、僕は、今も、お前のことを友達だと思ってるよ」
パキン。ガラスが割れるような音が響き、二人を隔てていた障壁が消滅した。
「僕も、君のことは友達だと思ってる……でも、それだけが僕じゃない。君を憎んでる僕も、きっと、本当の僕なんだ」
鎖が、少しずつ緩められていく。
「……ねぇ、黒薙くん。あの日の約束、覚えてる?」
そして、呪縛から解き放たれた朱鷺澤は、黒薙を真っ直ぐに見据えて問うた。
「あの日の……?」
「うん。もし僕が強くなったら……ってやつ」
記憶を手繰り、その記憶を完全に掴んだ瞬間、朱鷺澤は言った。
「多分、ここで君と話していられる時間は、そう長くない。そして、次に戻った時、僕の身体はロベリアさんに乗っ取られてると思う。だから……お願い、黒薙くん。『僕』を止めてほしい」
「……でも、それでもしお前が…………」
「口答えしない。まさか二回も約束破る気なの?酷いよ黒薙くん……僕はこんなに君を愛してるのに……僕のことは遊びだったんだね……くすん…………」
わざとらしい嘘泣きに、黒薙は呆れたような笑みを浮かべる。
「……わかったよ。僕がお前を助けてやる。だから、お前も本気で僕に助けられろ。もう僕は、何があってもお前を裏切らない」
そして、一切の迷いもなく言ってのけた。
「…………約束だからね。嘘ついたら針千本飲ませてやる」
「そっちこそ」
軽口を叩きながら、二人は小指を絡めた。世界のモヤが晴れていく。次の瞬間、黒薙はその世界から弾き出されていた。
『『貴、様ァァァッッ!!ふざけるなよ『異能共鳴』ッッ!!僕の永治に余計なことをした罪、地獄で償わせてやるッッッ!!』』
そして、強引に引きずり出されたロベリアが、怒りを露わにしてミストOOの身体を蹴飛ばした。大きく吹き飛び、融合が解除される。
「あァッ!?」
「痛ってぇじゃねぇか、クソ野郎……ッ!!」
黒薙は自らの足をブレーキ代わりに踏ん張り、壁に叩きつけられるのを防いだ。
「……さて、どうやら表に出てきてくれたらしいな、ロベリア=ローゼンロード。どういう心境の変化だ?朱鷺澤にこっぴどくフられでもしたか?」
『『知ってて煽るのは自殺希望ってことでいいよね?』』
ウロボロスは目を光らせて黒薙を威嚇するが、もはや黒薙にそれに怯えるだけの焦りはない。
「どうだかな。……可愛くねぇ後輩と可愛い友達からの頼みだ。僕がなんとかしてやる。今助けてやるから首洗って待ってやがれ朱鷺澤」
ドライバーが、黒薙の腰に巻きつく。
『Time! Set!』
「変身」
『Open! Reclaim Lost Time! Time OO!』
そして黒薙が、OOへの変身を完了させた。
「テメェをぶっ倒して、僕の友達を返してもらう。行くぞクソ野郎。失われた時間の力、見せてやるッッ!!」
『Oblivion Saber! Over Oblivion Shield!』
剣と盾を構え、OOはウロボロスへと駆ける。
『『ハッ、遅いんだよねェ!!』』
ウロボロスは杖を高く掲げ、周囲のホルスを一点に束ねる。直後、それは殺戮の雨となって降り注いだ。
『『避けられるものなら避けてみろ!!どこにも逃げ場なんて与えないけどねェッ!!』』
「別に避ける必要なんてねぇだろ。全部この身で受け止めちまえばいいんだから。まさかその程度のこともできねぇと思われてんのか?だとすりゃすげぇ心外だよ」
できるわけがない。鼻で笑うウロボロスだったが、目の前で起きている現象を見て、目を見開いた。
『Mate-Reading』
塔を丸ごと叩き潰さんばかりのエネルギーが、全てOOの盾に吸い取られたのだ。
「テメェのお仲間の力、借りさせてもらうぜ」
『Crosser! Multiface! Parasite! Triplet Material Attack!!』
そして、そのホルスの槍の雨は、ウロボロスを打ち破るための光に変わった。
『『ぐ、が、は……ッ!?ぼ、くを。僕から、永治を奪わせるわけないだろうが……ッ!!ここで死ね、永治を苦しませる害虫はッッ!!』』
「なんだなんだ、最近はブーメラン投げ大会でも流行ってんのか?朱鷺澤を苦しめてんのはテメェも同じだろうがッ!!」
拳と拳が、互いの顔面を撃ち合う。互いに、想う相手は同じ。だからこそ、ロベリアはいとしい人を穢す黒薙を許さないし、黒薙は友人の魂を穢すロベリアを許さない。
『『ふざけるな……貴様は、永治を裏切った!!永治の心に消えない傷を残した!!なのに何故友達なんて名乗れるんだ!?人の心を持たないバケモノが、人に触れようとするんじゃないッ!!』』
「確かにそうかもしれねぇ……だが、朱鷺澤に悪人を押しつけてその心を穢すテメェにだけは言われたくねぇなァッ!!」
杖とオブリビオンセイバーが拮抗し、二人は大きく飛び退いた。
『『僕の望みのためにも、永治の安寧のためにも……ここで死ね、
「僕の望みのために、朱鷺澤の願いのために……ここで消えやがれ、強敵ッッッ!!!」
『Kill Materia. Ouroboros-Sacrifice.』
『Material Finish! Oblivion Time Strike!!』
蛇の幻影を纏い、ウロボロスが飛び上がる。
真っ赤なオーラを纏い、OOが飛び上がる。
二つの影が、互いにその足を突き出し、全力をもって相手を迎え撃つ。
『『ハハッ、僕の勝ちのようだねェッッ!!』』
拮抗が崩れる。OOは叩き落とされ、ウロボロスの一撃が、OOへと伸びる。
「いや……残念ながら、勝つのは僕の方だよ」
しかし、その両足がOOに届く寸前に、オーバーオブリビオンシールドがかざされた。蛇の幻影が、盾へと飲み込まれていく。
『『ま、さか…………ッ!?』』
「あぁ、残念ながらそのまさかだ」
そのエネルギーの全てが吸い尽くされ、ウロボロスの全身から一気に力が抜けていく。
『Mate-Reading.』
「喰らいやがれ、クソ野郎────」
バキリ。盾のディスクにヒビが入った。おそらく、もう一度攻撃を受ければこれは瓦解する。そして、その瞬間、OOから勝利の未来は消失する!だから、OOは、次ぐ攻撃の前に、動いた。
「これが、僕たちの、絆の力だァァァッッッッッ!!!」
『Crown. Hornet. Envy. Snake. Quadruplet Material Attack!!』
金、赤、ショッキングピンク、そしてライトグリーン。四色の色彩が、OOの拳に宿り──その拳が、ウロボロスの胸の中心、ホルスが漏れ出る傷口に、叩き込まれた。
仮面ライダーO、ついに次回最終回です。ここでわたしから何かごちゃごちゃ言うのは無粋なので、その手の言い訳は次回のあとがきまで取っておきます。
ただ一つだけ言わせてください。
バトルだけで一話保たすのってメチャクチャ難しいですね。もう一生分のバトル書いたような気がするので、次回作はハートフルな展開にします。トホホ〜バトルなんてもうコリゴリだよ〜。
さて!何度も言いますが!!次回!!!最終回!!!!です!!!!!
最終回はバトルしません!!!!完全なエピローグです!!!!!楽しみにしておいてください!!!!!!墓脇でした!!!!!!!