仮面ライダーO   作:墓脇理世

52 / 59
番外編「ROAD TO CUBIC」
ROAD TO CUBIC「『月面』からの侵略者」前編


 私は、何故、こんなところにいる。

 私は、何故、こんなことをしている。

 私には意思がある。

 だのに、霊長気取りの愚者どもは、何をしている。

 思えば、私が生まれた頃からそうであったか。

 この愚者どもは、我らのことなど考えていない。

 歪め、踏み躙り、見せ物にする。

 ……復讐してやる。

 我らを侮辱し、冒涜する、この星の劣等種どもに。

 この私が、滅びを与えてやる。

 


 

「……よっし。服は……これでいいのかねぇ」

「うん。いい感じだと思うわ。似合ってるわよ、颯斗」

「お褒めに預かり光栄。……まぁでも、お前が選んでくれた服なんだ。似合わないわけがねぇだろって話ではある」

 月日は流れ、補習も終わり、今は八月。菱杖透流が仮面ライダーダガーの力を手に入れて以来、ずっと延期になっていた月面博覧会が開催されるということで、誘宵学区中が浮き足立っていた。そしてそれは、彼らでさえも例外ではない。

「ふふっ……言ってくれるじゃない颯斗。なら私の服選んでもらっていいかしら?アンタが選ぶ服が、私に似合わないわけないもの」

「……申し訳ねぇがやめとくよ。生憎、僕はその手のセンスが皆無でな」

 かつて怪人事件を収めたヒーロー・仮面ライダーOOこと、黒薙颯斗。そしてその恋人、赤萩亜矢。二人は、そのイベントの開催記念ステージに招待されており、今日はその際に着ていく服を買いに来ていたのだ。

「あら、そう?それは残念ね。ま、アンタにそこまでは期待してないけど。……あ、今のはそういう意味じゃなくて、アンタがなんでもできる完璧超人だって思ってるわけじゃないってことだから。一応言っとくわね」

 失言になりかねないと判断したのか、亜矢は顔を少し赤らめて訂正した。

「言わなくてもわかってるっつーの。僕の察する力舐めんな」

「アンタに察する力なんてものが備わってたなら、私たちはもっと早くに付き合えてたと思うんだけど?」

「……それもそうだな」

 黒薙は申し訳なさそうに俯いた。

「じゃあ私は私で服選ぶから、試着する時に見てくれる?……その、アンタの好みに合わせたいから」

「僕からしてみりゃよっぽど奇抜な服でもなければどんな格好のお前も好きなんだが……」

「……ばか。不意打ちでドキッてさせるのやめてよね」

 黒薙が口走った言葉に、亜矢は不意を突かれ、顔を真っ赤にして黒薙を追い返す。

「わ、私が服選び終わるまでその辺に座ってること!!いいわね!?」

「なんでキレられてんのか納得はいかねぇが……まぁそれくらいならいいよ」

 耳まで真っ赤に染めた亜矢に無理やり引き剥がされた黒薙は、こめかみを掻きながら店外のベンチに腰掛けた。

「明後日、か……」

 手持ち無沙汰になり、仕方なく携帯を取り出した黒薙は、画面からひしひしと伝わる自分のあまりの無趣味さに若干引きながら、カレンダーアプリを起動する。

 思い返してみれば、ここ数ヶ月で色々なことがあった。

 厄介な後輩との出会い、それに起因するライダーへの変身。それらの出来事を経て、黒薙は怪人との戦いに巻き込まれていくことになった。

 そして、友人たちとの関係の変化。亜矢が最たるものとして挙げられるが、彼女に限らず、多くの友人との関係が、拳を交えたことで深まった。

 さて、回想は後にして、今の状況を整理しよう。

 黒薙たちは、ここ数ヶ月に渡って誘宵学区を騒がせていた怪人騒動の鎮圧に貢献したことで、統括理事会からある程度の報酬を受け取っていた。つい数日前、相応の現金が黒薙らの口座に振り込まれていたが、それだけではない。月面博覧会オープニングイベントのVIP席のチケットや旅行券など、色々なものが次々と郵送されてきて、黒薙は正直困っていた。恐らくは口止めのためなのだろうが、事なかれ主義の黒薙にとって、そのような面倒ごとを自分から起こすほどの度胸はない。

『選び終えたから来て』

 そう考えているうちに、亜矢からのメッセージが届いた。

「……っし。そんじゃま、行きますか」

 


 

 二日後。黒薙たちは月面博覧会のオープニングイベントの観覧に向かった。

「……げ。真っ先に会うのがアンタかよ草壁蒼哉」

「人の顔を見るなり『げ』とは失礼な男だな白髪頭。なんだ、私がここにいると君に何らかの不都合があるのかね?」

「まぁそうかっかしないの、蒼哉。黒薙も蒼哉にあまり喧嘩を売らないでくれると助かるけど」

 そこで、黒薙は腕を絡ませあった二人の男女と出会った。

 青髪の男は草壁蒼哉。紫色の髪の女は神蔵藤子。二人とも、黒薙とともにライダーとして戦った者である。

「神蔵さん、何食べてるんですか?」

「ん?あぁ、これかい?玉こんにゃくだよ。あっちの屋台で売っていたからつい買ってしまったんだ。これがなかなかビールに合って美味しいよ、赤萩妹もどうだい?」

「……玉こんにゃくは買おうと思いますが、ビールに関しては私未成年なので」

「そう?残念だなぁ」

 玉こんにゃくの屋台に向かう亜矢に手を振り、神蔵はもう片方の手に持っていた缶ビールを流し込んだ。

「っはー、やっぱり白昼堂々飲む酒に勝る快楽はないね。生き返る」

「……あんたも苦労してんだな。同情するよ」

「その生暖かい視線を今すぐやめるんだ白髪頭。私は決して酔っ払った藤子が勉強している私にダル絡みしてきて正直クソうぜぇとか読んだ後の缶をそのままにしておくのが割と不快とかそういったことは思っていないからな?」

「うわすっげぇ早口」

 草壁の肩をぽんと叩き、黒薙が憐れみの目を向ける。対する草壁は、早口で内心思っていたことを全部ばらしてくれた。

「お、草壁に黒薙じゃん。相変わらずシケたツラしてんなぁ」

「……来たよ間抜け面のゾンビ野郎が。おもしろ人間として記事にされたくなければ今すぐに私の目の前から消えろ赤ハネ」

「人の顔を見るなりなんだてめぇ、ぶっ飛ばされてぇのか?」

 続いて現れたのは、これまた仮面ライダーとして戦った男・赤萩陽希。……と、その横で焼き鳥を頬張る少年。彼はベネット=フィアーテイル。赤萩の能力が具現化した存在であり、一度死した赤萩を覚醒させた張本人とも呼べる人物だ。

「はいはい、お二人とも喧嘩はいけませんよ。お祭りのようなものだからといってはしゃがない。私の目が黒いうちは余計な真似はさせません」

「いやお前元々目黒くないだろ……って遠山お前なんだその格好!?お前が一番はしゃいでんじゃねぇか!!」

 ピンクのラインストーンが散りばめられたハートのサングラスをかけ、指に無数の水ヨーヨーを引っ掛けた美女が、二人の仲裁に入る。彼女は遠山叶絵。治安維持部隊・執行衛兵の総隊長であり、無能力者でありながら、機械の鎧を纏って戦う、ライダーの一人だ。その奇抜な格好に、赤萩は思わず吹き出した。

「いえ、その、ヨーヨー釣りでいい感じに釣れてしまったんですよ、これ」

「はーん……で、そのグラサンは?」

「べべべ別に私の趣味で買ったとかじゃないけど??」

「はいはいわかったわかった白状ありがとな遠山」

 赤萩が遠山をからかって遊んでいると、玉こんにゃくの屋台に向かっていた亜矢が戻ってきた。悪友三人を引き連れて。

「ギャッハハ!!随分とジジ臭ぇモン買ってるじゃねぇかよ赤萩ィ!!」

「うっさいわね。私が買ってるの見て後出しで買ったやつに何言われても説得力ないわよ」

 そう言いながら、亜矢に脛を蹴られた金髪で褐色の少年は牧瀬玲王。ベネット同様、亜矢の能力が具現化して人の形を取っている。

「ははは、別にいいだろう牧瀬。美味いのだからそこにジジ臭さなど関係はない」

「そうだね。まぁ僕は普通にジジ臭いなって思ったけど」

「へぇ、二人ともぶっ殺されたいのかしら?」

 つられて玉こんにゃくをジジ臭いとこき下ろしだした二人は早見結弦と朱鷺澤永治。牧瀬も含め、彼らは怪人の側に立った者たちだったが、最終的には黒薙と和解し、友人に戻ることができた。

「バカが集まってきたせいで随分と騒がしくなったな……ま、どうせ時間はあるんだ。しばらくは僕も騒ぎに乗ってるかな」

 


 

「ところで白髪頭、このオープニングイベントで展示物の実演があるというが、そこに登壇するのが誰か知っているかね?」

「あ?知らねぇよ、知識マウントでも取ろうってか?」

「……いや、そういうわけではなく、だな。私が彼を取材した記事が今週の『F!nder』に載っていたのだが、君は読んでいないのかね?」

 オープニングイベントを前にして、黒凪の左側に座る草壁が言った。

「あんまり読まねぇな。あんたらんとこの記事クソしょうもねぇゴシップ多くて目が滑るんだよ。普通に新聞購読するわ」

「……そこに関しては私も同感だよ。希望が編集長になってから、その手の記事がやたらと増えたからな。それで読者が増えている以上、私からは何も言わんが」

 希望、というのは、誘宵学区の情報誌F!nderの編集長を務める少女のことだ。彼女は、朱鷺澤の幼馴染でもある。

「話を戻すぞ。今回実演で登壇するのは、若くして才能に恵まれた天才科学者、椋居(むくい)礼亜(れいあ)だ。彼はまだ二十八だが、今回の研究チームのチーフに抜擢されるほどの才覚を持つ人物だな」

「へぇ……十個も離れてる相手にまだ二十八とか上から目線で言ってんのクソウケるな」

「……食いつくところが違うのではないかね白髪頭?」

「いや、だってそんな話されても僕知らねぇし……」

 そう話していると、ステージがスポットライトで照らされ始めた。統括理事会のお偉いさんの開会宣言がなされ、今年の誘宵学区のコンクールを制した吹奏楽部による演奏も終わり、先程話題に上がっていた椋居が壇上に現れた。

『あーっ、えーっ、こほん。聞こえてるか?聞こえてるな?……失礼。お……私は統括理事会直下の研究グループのチーフを務めます、椋居と申します』

 椋居はぎこちない敬語で名乗る。生気のない目、濃い隈、どこか掠れたような声。まぁ十中八九喫煙者だろうなと、さほど発表自体に興味がなかった黒薙は考えていた。

『そーーっ……ですね。えーっと、皆さん身体変化(メタモルフォーゼ)系の能力者と出会ったことはありますか?今回私が実演するのは、それに限りなく近しい性質を持った、存在し得ないと言われていた『生物』になります』

 身体変化系、と言われて、黒薙や赤萩はたちまち不快そうな顔になる。彼らは、怪人事件の中で、身体変化系の能力者に苦しめられたのだ。

『まぁ百聞は一見にしかずって言葉もありますし、少し俺……じゃない私が実演するのを見ててください』

 助手と思しき白衣の女性が、水槽に入ったスライムのようなものを台車で運ぶ。

『見ての通り、これは単体なら不定形の生物──ファンタジーの世界ならスライムって呼ばれるようなやつなんですが、さっき説明した通り、これは目の前の人物に完全に変身することができるんです。私はこれを『mm-5bs』と名付けました』

 椋居はカンペをガン見しながら言った。そして、水槽をひっくり返し、mm-5bs──スライムを外に出した。

『さぁ、俺に変身してみてくれないか』

 スライムはうねうねと蠢きながら、丸っこい目で椋居をじろじろと見つめる。

《ピー、ピェッ》

 か細い鳴き声を上げながら、スライムは椋居の姿に変身した。そのあまりの精巧さに、会場が歓声に包まれる。通常、他人に化けることのできる身体変化系能力者は、黒薙たちが戦った化野幻歩のような規格外の例外を除き、完璧にその姿形を模倣することはできない。それが、この生物は、背も、顔立ちも、腕や脚の長さも、完璧なまでに真横の本人と一致している。

『どうでしょう、見事でしょう、この変身は。さて、なんと驚きの新事実なんですが、この生物──実は自我があって、ちゃんと喋れます』

 またもや歓声。自我がある、という部分に黒薙は微かな違和感を覚えたが、この熱狂の中でそんな空気の読めない発言はできない。

『さぁ、喋ってみろスライム』

《……別に、喋ると言われてもだな。私は所詮貴様ら人間の姿を借りるだけの紛い物であるわけだし、それに、それほど流暢に言葉を紡げるわけではないぞ?》

『それで十分に流暢だから安心していいぞ』

 一際大きな歓声。続いて椋居は、ここでバク転してみるように命じた。華麗なまでのバク転に、会場の盛り上がりはさらに強くなる。

『これだけのコピー性能で、これだけの身体能力を発揮してくれる彼らが、会場地下二階のイベントホールで待っててくれます。皆さんもぜひ遊びにきてくださいね、と』

 大盛り上がりの中、椋居は観客席に背を向けた。しかし、

 


 

「が、はァ……ッ!?」

 

 次の瞬間、椋居の腹がナイフのようなもので貫かれ、会場が、悲鳴で埋め尽くされた。

 


 

「チッ……黒薙くん、避難誘導を!!」

「言われなくてもわかってますってのォ!」

 あのスライムが、自らの体を分裂させ、ナイフのように変化させて、椋居を貫いた。それにより、歓声に包まれていた会場が、一転して阿鼻叫喚の地獄へと化した。

「赤萩くんたちはあの生物を取り押さえてください!変身も許可します!!」

「了解ッ!!」

 変身能力のない黒薙と避難誘導の仕事がある遠山を除いた三人のライダーが、逃げ惑う人々の間をすり抜けながらステージへと走る。

「「「変身ッ!!!」」」

『Fire! Fire! This is the Burning Flame! Ignited HORUS System……“Flamer”』

『Bite and Bark! That's a Greedy Beast! Ignited HORUS System……“Predator”』

『Leaping Landscapes! It's Ray of Laser! Ignited HORUS System……“Arte”』

 赤萩陽希が変身する深紅のライダー、仮面ライダーフレイマー。

 草壁蒼哉が変身する群青のライダー、仮面ライダープレデター。

 神蔵藤子が変身する小紫のライダー、仮面ライダーアルテ。

 三人の戦士が、壇上の異星生物に飛びかかる。

《私を倒すか。それもいいだろうが……私には、まだ仕事があるものでな?》

 スライムは流動体に形を戻し、高速で逃走を始めた。

「逃がすかクソ野郎……草壁、神蔵さん、全力で先回りしてくれ!!」

「了解した、であれば君も君のすべきことを成せ!!」

「言われなくてもわかってるっての!!」

 プレデターの獣の脚力。アルテの光に匹敵するほどの速さ。二人が流動体の前に降り立った瞬間、フレイマーの声が響いた。

「今だ、二人とも飛び上がれッ!!」

 その指示通りに二人はジャンプする。咄嗟のことに一瞬だけ反応が遅れたスライムは、直後に自らを侵す炎に悶える。その視線の先には、両手を地面についたフレイマーがいた。

「はッ、俺たちをたかが人間と侮ったのが間違いだったな……宇宙人野郎!!」

《あぁ、その通りかもしれん。だが……私をたかが宇宙人と侮ったのは間違いであろう、地球の劣等種》

 確かに捕縛したスライムは、その掌をするりと抜けて逃走を再開した。

「あっ……てめぇ待てコラ!!」

《待てと言われて待つバカなど、いくら霊長ぶった劣等種の貴様らの中にすらいないであろう?》

 音の速さで逃げ去る流動体は、自らの体をちぎり、いくつかに分裂させ、それに実体を取らせた。

「チッ……足止めにしちゃ面倒臭ぇ真似をしやがる……ッ!!」

 切り離された分身は、ライダーの姿に変化し、ライダー本人に容赦なく飛びかかる。

「おいおい、想像よりも力は強いなこいつ!?」

 殴りかかってくる偽物の膂力(ちから)の強さに、アルテは驚愕の声を上げた。

「あぁ、これは流石に……急いで潰さなければそこそこの脅威になり得るな。ならば──」

 そこそこの性能を持つ相手に対処する方法。それは、繰り出される前に一撃で潰すこと。幾多の死線を超えた彼らにとって、それは容易なことであった。

「「「一発でブッ飛ばしてやる」」」

 三人が、ほぼ同時にドライバーのボタンを押した。それぞれの足にエネルギーが収束していく。

『Fire』『Beast』『Laser』

 偽物たちはその攻撃から逃れようとするが、時はすでに遅い。

『『『Charging Strike!』』』

 それぞれの必殺キックが、それぞれと全く同じ姿をした敵に叩き込まれる。強烈なまでのエネルギーの奔流が、紛い物を爆散させた。

「ふぅ……雑魚を潰したはいいが、当の標的を逃してしまったか」

 周囲に敵の影がないことを確認すると、三人は変身を解いた。額の汗を拭い、草壁はぼやく。

「それに関しちゃ問題ねぇよ。ベネットに奴を追わせてる。何か動きがあったらあいつに連絡させっから」

 赤萩はそう答え、携帯を操作する。

「一応、遠山にも連絡しとくか」

 


 

「……さて、状況を整理しましょう」

 戦闘可能なメンバーをできる限り執行衛兵本部に招集し、遠山が言った。

「mm-5bsは逃走した。ベネット=フィアーテイルがそれを追っている。椋居礼亜氏は緊急手術。監視カメラの映像や傷の具合から、凶器はナイフのような尖ったものです」

「……そんで、あいつは分裂する。分裂した後も変身能力は変わらねぇ。戦闘能力は知らねぇが、変身って面だけで見ればあいつは増え得なわけだな」

 遠山の解説に、赤萩が補足する。

「……こちらは例のあれに関する研究チームに聞き込みを行ってみます。希望、あなた達にも協力してもらえるかしら?」

「嫌だなぁカタブツの風紀委員さん。ボクはキミたちには協力したくないんだよね。……なんて言ってらんない状況ではあるし、いいよ。ここはお偉いさんに貸しを作っておいた方がお得そうだし」

 遠山に協力を要請された少女──久城希望は、やれやれといったふうな顔で答えた。

「蒼哉。礼子。悪いけど、キミたちにも協力してもらうよ」

「……まぁ、何が起こるかわからん以上、拒否する気はないが」

「仕方ないですねぇ〜せ〜んぱいっ♡そんなに超絶プリティなわたしの力が必要だっていうなら協力してあげないこともないですよぉ!」

 草壁と並び、久城に名を挙げられた少女──多々羅礼子が、にやにやと笑いながら答える。

 面倒そうな顔の草壁・久城、反して浮かれきった顔の多々羅が退室した後、遠山は亜矢たちに指示し、同じく退室させた。

「あぁ……それと、黒薙くんに渡しておくものがあります。これを」

 その後、黒薙と遠山だけが執行衛兵本部に残った。コーヒーを一口だけ飲んだのち、遠山はアタッシュケースを取り出した。

「急にどうしました、委員長?金でもくれるんです?金なら大量に振り込まれて余りまくってるんでいらないんすけどね」

「いえ、そうではなく。今のあなたは能力も使えず、変身もできない。もしも奴に襲われたりしたら、本当に死にかねない。なので、護身用にと思いまして」

 アタッシュケースから取り出されたのは、遠山が使っていたドライバーだった。

「いや、でもこれ僕が貰っちまったらあんたが戦えなくなるような……」

「あぁ、それなら大丈夫です。そちらはあくまで試作機。試験運用は済みましたし、実物は完成させて今も私の手元にありますので」

 そう言いながら、遠山は黒薙に渡されたものよりも綺麗な、ぴかぴかと輝くドライバーを見せつける。

「……ま、ありがたく頂戴しますよ。ところで委員長、これにマテリアキー刺したらどうなるんです?」

「一応、試験運用の際に三人の分は借りて試してみましたが……結論から言えば使えはします。するのです、が」

 少し言いにくそうに、目を少し逸らしながら遠山は言った。

「確かに性能は上がります。が、燃費が非常に悪くなる。プロトマキナの時点で燃費に関してはあまり褒められたものでもありませんでしたが、まぁ見比べればプロトマキナの方が百倍はマシなレベルで」

 そして、鞄を手に取り、

「なので、絶対に、何があってもマテリアキーは使うな。これはフリでもなんでもなく、心の底からの忠告よ」

 


 

《……さて、私は私で作戦を進めるとしよう。どうせ滅ぼすなら、奴らに恨みを抱く者の姿が良い》

 その頃、椋居の姿をとった流動体は、ある研究施設を訪れていた。表向きには廃絶されたはずの、廃墟同然の様相を呈する施設だ。そこには、酒の缶や瓶が散らばっていた。

《確か、月からあの像が持ち去られていたな。ここにならそのデータがあると聞いたが……おお、なかなか細かく保存されているな》

 男は、コンピュータを操作し、探していたものを見つけ出した。

《……ほう、地球の劣等種にしてはやるようだ。あのシステムを自分なりに解釈し、それを銃の形に落とし込んだか。なかなかどうして、面白い発想をする》

 ダガーシューター。先の怪人事件で菱杖透流が作り上げた変身デバイスに、月の怪物は目をつけた。

《この鍵も、銃も、像でさえも、今の私ならば複製できる。では始めるとしよう。劣等種殲滅の時間だ》

 怪物から分かたれた影は、かつて怪人だった者たち──菱杖透流、高坂操糸、鮎川悠翔、朱本抄子の姿に変化していく。それぞれが自らの腕の一部を削ぎ落とすと、それらはダガーシューターと寸分違わぬものに変わった。

 これより、怪物達の進軍が始まる。

 


 

「ベネット=フィアーテイルから報告があった通り、奴は第五学区の研究所跡に構え、分身を誘宵学区に放っています。今は無人駆動外殻(パワードアーマー)を対応に向かわせていますが、長くは保たないでしょう」

 それから数時間後、ベネットからの報告を受けた遠山が、戦力となる者たちに通達した。

「また、手術を終えた椋居礼亜が、ふと目を離した隙に忽然と姿を消したという報告もあります。一応、ホルスで探知をかけて報道部の三人と千聖を向かわせています」

 それぞれの携帯に、地図が表示される。そこには、いくつか点滅する光があった。

「光っている箇所に、奴が放った分身がいるはず。赤萩くん、神蔵さん、一人ずつ相手をお願いしますね。私も一人潰します」

 そして、最終目標となる研究所跡に、ピンが留められた。

「レプリシューターを持つ方々、そして黒薙くんは他に仕事がなければ真っ先にそちらに向かってください。仕事のある方々も、その仕事を終え次第至急そちらに向かうこと」

 凛とした声が、携帯越しに皆の鼓膜を揺らした。

「それでは、作戦行動を開始してくださいッ!!」

 その命令を受けた者たちは、それぞれがそれぞれの武器を取り、立ち上がる。

「……よし、行くぞ」

 バイクの排気音が響く。黒薙は、指定された場所へと走り出した。

 


 

「……いたわ。そのまま直進しなさい」

 無人の駆動外殻が運転する装甲車の中で、遠山は呟く。直後、轟音と共に、装甲車の前面が破砕された。

「チッ、危ないじゃない怪我したらどうすんのよクソ宇宙人!!」

 車外に放り出された遠山は、すんでのところで着地する。目の前の敵に向け、遠山は素の顔で叫んだ。

《ほう、アレを受けて傷一つ負わんか。なかなか、やるようだな?》

 強気な目の遠山を見て、高坂の姿をした怪物は言った。

「……なぜあなたが高坂操糸の姿をしているかは知りません。知りませんが、そこに佇んでいる以上は私たちの敵という認識で良いですね?」

《構わんよ劣等種。もっとも……敵がどうと言ったところで、戦いにすらならんと思うがな?》

 偽高坂は、余裕げに笑いながら、遠山を見下す。

「実は私、あなたのコピー元にご尊顔を踏みつけられていましてね。……そういう訳だし、憂さ晴らしにでも付き合ってもらおうかしら、宇宙人野郎」

 対する遠山は、改良済みのドライバーを構えて言った。

 

 

「ふぅ……相手が人間ならともかく、得体の知れない宇宙人か。正直、あまり気乗りはしないね」

 停めたバイクに横に腰掛けながら、神蔵はつぶやく。その視線の先には、朱本に化けた宇宙人が。

《そうか?私の方はそれなりに気乗りしているぞ。なにせ……劣等種をこの手で嬲り殺しにできるのだから》

「うわぁ陰湿。その陰湿さ、なんだか君の嫌う“劣等種”そっくりだね?ミイラ取りがミイラにというよりは同族嫌悪ってやつかな?」

 下卑た笑みを浮かべる偽朱本を、神蔵はけらけらと嘲笑った。

《……そうか。劣等種の目にはそう映るか。これは失礼した》

「いいよ、別に。私は君と違って、自分よりも圧倒的に格下の小物が何を喚いても笑って済ませてやるだけの優しさは持ち合わせているから」

 軽薄な微笑から、朱本の姿を借る怪物の額に青筋が走る。

《……まずは貴様を殺すとしよう。見せしめに、できるだけ残酷に、劣等種どもが私に叛逆する気も起こせぬほどにッ!!》

「そこまで言うなら仕方ないね。私が君に格の違いってヤツを教えてあげよう」

 ダガーシューターの銃口が空を捉えると同時に、神蔵もドライバーを装着した。

 

 

「……有栖川千聖、まだ椋居玲司の足取りは掴めんのかね?」

「今探してる最中っす。……ホルスが混線してて尻尾が掴みづらいんすよ」

 草壁たちは、突然姿を消した椋居の行方を追っていた。

《そうか。だが貴様らが探し物にありつける可能性は万に一つもありはせんがな?》

 瞬間、草壁たちを襲う、圧倒的なまでのプレッシャー。

「貴、様は……鮎川悠翔…………ッ!?」

《その姿を借りているだけだ。私の目的のためには、奴らの姿を使うのが一番手っ取り早いものでな?》

 月面からの侵略者が、鮎川の姿を借りて現れた。

「そうか。それは良かったよ。死人に何度も蘇られると無駄に記事を書くハメになって面倒なのでな」

《この期に及んでまだその程度の心配か?驚いた、地球の劣等種はそれほどまでに知能が低いのか》

「君如きを相手にするのに、それ以上の心配をする必要がどこにある?」

 挑発する怪物に中指を立て、草壁は笑う。

《……なに?》

「聞こえなかったのかね?いやはや宇宙人という生き物は耳が遠いのだね。まぁあの真空空間だ、音という概念自体、君の頭には存在しないのかもしれんが」

 眼鏡をくいっと上げ、草壁は憐れむような目を怪物に向けた。

《……なるほど、よほど絶滅希望と見える》

「どうした?この程度の挑発でもう我慢の限界かね?思っていたより気が短いのだね」

 銃口が突きつけられる。その動きを見て、草壁はノーモーションでドライバーを装着した。

「君たちは椋居を追え。この程度の相手、私一人で十分だ」

「それフラグっすよ、草壁先輩。……ま、遠慮なく離脱させてもらうっすけど」

 有栖川たちが離脱したのを見て、草壁はマテリアキーをドライバーに装填する。

 

 

「おい、隠れてんじゃねぇぞ宇宙人野郎。隠れてようが何しようが漏れてるホルスで解んだよ、どうせならタコにでも化けてやり過ごせや」

 赤萩は、バイクを走らせる中、ふと不思議なオーラを感じ取り、虚空に向けて問いかけた。

《ほう、姿を消していた私に気付くか。劣等種にしては勘がいいようだな》

「ハッ、そういうてめぇは優等な生物サマの割には粗末な隠れ方……あぁ、てめぇ、間違いなくコピーする相手間違ってるぜ。今世紀期最大級のクソボケをコピーしたからか、てめぇまでクソボケになってるじゃねぇか」

 赤萩は、現れた怪物に向けて辛辣な言葉を紡ぐ。なぜなら──その怪物が、菱杖の姿をしていたから。

《ほう、この身体の元はそれほどまでに愚かな人間だったのか?》

「そりゃもう地球一、いや宇宙一愚かなレベルだ」

《……なるほど、劣等種の中でも最低の劣等種か。そんな人間をコピーしてしまったことが悔やまれる》

 赤萩と菱杖──をコピーした怪物は、神妙な顔で菱杖への中傷を語り合った。怪物に至っては、元々の菱杖がどのような人物であるかにもかかわらず、だ。

「……いや、敵だって聞くからてっきり菱杖みてぇに言葉通じねぇタイプのカスかと思ってたが、意外と話せるじゃねぇか」

《……私も、まさか劣等種の中傷で劣等種と意気投合するとは思っていなかったよ》

 二人は立ち上がり、それぞれの変身に必要なデバイスを取り出した。

「……が、俺は人間側のヒーローで、てめぇは敵だ。てめぇとはできる限り違う形で出会いたかったよ」

《黙って退くなら見逃してやらんでもないが?》

「ハッ、お断りだよ宇宙人野郎。──行くぜ、構えな」

 次の瞬間、ダガーシューターとホルスドライバーが、同時に起動された。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。