廃工場では、遠山と高坂が。
埠頭では、神蔵と朱本が。
地下道では、草壁と鮎川が。
山道では、赤萩と菱杖が。
それぞれ対峙していた。
そして、ほぼ同時に、それぞれは叫んだ。
「「「「変身ッ!!」」」」
カチャリと、遠山の体を機械の鎧が包んでいく。胸に緑のライトが灯り、電子音が響いた。
『Ready, Start Up. Go, Rider Machina.』
そこに佇むは機械の戦士。試作機ではない、実戦用の装備を身に纏った、一人の兵士。仮面ライダーマキナ。
対する高坂を模した怪物は、血の輪に囲まれた。陣から飛び出す槍が、彼の体を貫いていく。
『Dagger Charge. Open Sabertooth. Based On Pierrot.』
ピエロに変身した怪物は、サーベルタイガーのオーラに噛み砕かれ、その姿を変容させる。
立ち塞がるは太古の魔人。刃向かうものを咬み尽くした、一匹の獣。ピエロ・ダガーシャトラン。
遠山は、明らかに格上の強敵に向かって、不敵に笑う。
「こちら仮面ライダーマキナ。これより、制圧を……いえ、駆除を開始します」
紫色のリングが、神蔵の体を通過する。小紫のアンダースーツに、胸のリングから生成された黒い鎧が張り付いていく。
『Leaping Landscapes! It's a Ray of Laser!』
そこに佇むは神秘の戦士。荘厳なる輝きを湛え、魔なる者を滅する、裁きの光。仮面ライダーアルテ。
対する朱本を模した怪物は、浮かび上がる無数の球体から放たれる血の熱線に灼かれる。
『Dagger Charge. Open Ammonite. Based On Library.』
ライブラリに変身した怪物は、アンモナイトの触手に包まれ、その姿を変容させる。
立ち塞がるは太古の魔人。その数で世界を埋め尽くした、海の王者。ライブラリ・ダガーシャトラン。
青色のリングが、草壁をスキャンしていく。ホルスによって変質した身体に、金と銀の鎧が装着される。
『Bite and Bark! That's a Greedy Beast!』
そこに佇むは猛き戦士。捕食者の力を宿し、敵を撃ち抜く、鋭い眼光。仮面ライダープレデター。
対する鮎川を模した怪物は、周囲を回転する血の衛星に、次々に追突される。
『Dagger Charge. Open Mammoth. Based On Vehicle.』
ビークルに変身した怪物は、マンモスの足に踏みつけられ、その姿を変容させる。
立ち塞がるは太古の魔人。極寒の地を闊歩し、仇なす者を踏み砕いた重騎士。ビークル・ダガーシャトラン。
赤色のリングが、赤萩をすり抜けていく。真紅に変質した外皮は、銀の鎧を纏う。
『Fire! Fire! This is the Burning Flame!』
そこに佇むは熱き戦士。燃え盛る炎を抱き、世界を暖かく照らす、一条の希望。仮面ライダーフレイマー。
対する菱杖を模した怪物は、放った光弾を飲み込み、内側から血の槍に穿たれる。
『Dagger Charge. Open Pteranodon. Based On Crosser.』
立ち塞がるは太古の魔人。風を裂き、幾多の空を渡った、双翼の天使。クロージャー・ダガーシャトラン。
それぞれがそれぞれの敵と向き合い、それぞれの武器を構えた。戦いの火蓋が、今、切って落とされる。
腕に装着された刃を構え、遠山へと飛びかかるピエロ。それが装甲とぶつかり、火花を散らそうとする寸前に、マキナは右腕を引いた。振り下ろされた剣が空を切る。
「なるほど、なかなかに素早いようで何よりです」
《そうであろう。元より高い身体性能をさらに底上げしているのだから──なァッ!!》
続け様に腕を振るい、ピエロは云う。恐るべき速度で飛来する斬撃は、辛うじて回避したマキナをすり抜け、廃工場の壁を切り裂いた。余計な破壊のない、正確無比な一閃。その切れ味に、マキナは舌打ちをする。
(……何より恐ろしいのは、これだけの切れ味の一撃が、これだけの速度で放たれることにある。ったく、面倒な真似してくれるじゃない)
腰に備え付けられた、相手の動きを封じるための二丁拳銃『ガンキャプチャー』。それを抜き取り、襲い来る斬撃の隙間を縫うように放っていく。だが、それらは全て、腕のブレードで両断された。
「な……ッ!?」
そうして生まれた、一瞬の焦り。怪物は、その一瞬を見逃さない。
《そうして隙を見せるか。貴様はやはり劣等種だな》
無数の刃が、マキナの装甲を貫く。あちこちから火花が散り、マキナの脳内に警告音を響かせていく。
《何を企んでいたかは知らんが……構わん。そのまま死ね、劣等種》
そして、その頭蓋へと、鋭い刃が振り下ろされた。
(あの触手を用いた攻撃……なかなかに厄介だね。軌道が読みづらいし、殺傷能力が高い。そんなのが何発も飛んでくると思うと、流石の私も恐怖を感じるよ)
アルテは、ライブラリの触手による遠隔攻撃に苦しめられていた。アルテの専用武器『グロリアスティック』には相手の特殊攻撃を吸収・エネルギーに変換する機構が備わっているが、それはこのように、物理攻撃に対しては一切の効力を発揮しない。故に、この怪人は、アルテにとって天敵とも呼べる相手だった。
「まったく……困ったタコさんだね。もう少し近づいてくれてもいいのだよ?あぁ、それ以上近づくと私の美貌にやられてしまいそうだから遠慮しているというのであれば許してあげなくもないけれど」
《随分と饒舌だな、劣等種。その饒舌は恐怖の裏返しか?劣等種らしい、小賢しい策を弄するものだ。感動すら覚える》
見抜かれている。軽口を叩いて調子を取り戻そうとするが、その魂胆が相手に見抜かれている。マスクの中の神蔵のこめかみに、一筋の汗が伝った。
《そんなに近づいて欲しければ望み通り……近づいてやったぞ》
ライブラリは瞬時にアルテの背後に移動すると、その触手を装甲へと突き刺した。
(見ればわかることだが、奴は外見の通り、攻撃の一つ一つが重い。正攻法で防ぐには流石に無理がある、か)
ビークルの重々しい攻撃を大きな動きで躱しながら、プレデターは思案していた。決定打になるような攻撃は手持ちにはほとんどない。しかも、ホルスの更なる混線を防ぐために強化フォームへの変身は控えるよう言われている。至って平静な草壁の思考が掴んだ答えは、「久城たちが椋居を見つけるまで、時間稼ぎに徹する」ことだった。
《どうした、逃げてばかりでは私は倒せんぞ?先程のあの啖呵はただの虚勢だったか?》
「言ってくれるな、怪物が……ッ!!」
プレデターは手甲型の武器『ガントレッドチェッカー』を腕に装着し、ビークルに向けて光の矢を放つ。何も、この程度で相手に致命的なダメージを与えられるとは思ってはいない。それがその場凌ぎの牽制になれば万々歳。自らの足に力を込め、勢いよく飛び退く。
《……つまらん。劣等種め、せめて私を愉しませてくれるかと思っていたが……興醒めだ。そのまま滅びろ》
直後、プレデターに向かって伸ばされた、ビークルの腕。音を超える速さで振るわれた鞭が、プレデターを大きく突き飛ばした。
《どうした劣等種、もう少し私に近付いてみてはどうだ?一度劣等種を中傷し合った仲だ、あまり遠距離から貴様を甚振りたくはない》
「ハッ、近付いたら近付いたで一発で楽にしてやるとかいう気だろ?そんなやつに近付くバカがどこにいるよ。悪りぃがこっちはそう何度も生き返ったりはできねぇんだ」
フレイマーは、クロージャーとの遠距離戦闘に臨んでいた。状況は芳しくない。そもそも、フレイマーの基本装備に遠距離戦闘に適した武器は存在しないのだ。専用武器『クリムゾンウォリアー』は中距離向きの斧で、ホルスの混線を防ぐためにマテリアチューナーの使用も禁止されている。故にフレイマーは、レプリシューターを使うしかないのだが、そもそもレプリシューターでは大した威力は発揮できないわけで。高威力の光弾を放つクロージャーを相手に、苦戦を強いられていた。
「チッ、そのヤケに威力高ぇの反則じゃねぇか!?」
《何が反則なものか。命を賭した戦場に反則などという言葉は存在しない》
「あのクズの体でそれ言ってると思うと笑えるな……っておいてめぇまだ俺が喋ってる最中だろうが!?」
一瞬の隙を突くように、クロージャーが飛びついた。フレイマーの首に右手をかけ、木々をへし折りながら速度を上げていく。
《共に劣等種を貶した仲だ。せめて、貴様は楽に殺してやる》
フレイマーの体が、弧を描きながら空中に投げ飛ばされた。
マキナが、アルテが、プレデターが、フレイマーが倒されようとした瞬間。
戦士たちが戦場に散ろうとした、その瞬間。
全員のドライバーから、甲高いブザー音が鳴った。
《が……ッ!?なんだこの耳障りな音は……ッ!!》
怪物たちはその音に苦痛を感じ、悶えだした。正気を取り戻した瞬間には、倒そうとした相手からは距離を取られていた。その眼光は、数秒前とは異なり、鋭く瞬く。
「……遅い。全くもって遅い。本ッッッ当に使えないわね、あのクソ報道部ども」
全身の装甲の隙間から火花を散らしながら、マキナは憎らしげに言う。
「蒼哉がいたらもうちょっと早くに終わってるはずだけど……もしかして、蒼哉たちも巻き込まれてる感じかな?」
触手の猛攻をなんとか掻い潜ったアルテは、椋居を追う恋人のことを考えながら言った。
「仕事の遅い上司に部下だ。それに苦しめられる私の身にもなってほしいのだがね……」
一方のプレデターは、自分が先行させた報道部の仲間の顔を浮かべながら、呆れのため息を吐いていた。
「さて……悪りぃな宇宙人野郎。訳あって今まで本気出せなかったが、こっからは別だ。全力でてめぇをブッ潰させてもらう」
そして、赤いマテリアキーを構えて、フレイマーが言った。
《……戯れ言を。そもそもあの時点であれだけ私に追い詰められていたのだ。いくら本気を出そうと、私を倒すなど出来はしまい》
軽薄に言ってのけたフレイマーに、クロージャーは言う。
「いや、すまないね。私たちは本気を出すなと司令官にきつく言われていたのだよ」
同時に、ビークルと同じようなやりとりをしていたプレデターが応える。その右手には、チューンマテリアキーが握られている。
「椋居なにがしを見つけるまで、バカでかい力で電波がジャミングされかねないからと言って、戦力をセーブした状態でやれと言われていたのだよ。悪いね宇宙人くん。私も手加減してやるつもりはなかったんだけど」
同じく、アルテが言った。その声色には、さっきまで痛めつけてくれた分、全部倍にして返してやるといった怨嗟の色が含まれていた。
「……と、みんな言ってるんでしょうね。まったく、私には彼らと違って強化形態などないというのに。……まぁ、でも、」
マキナはため息を吐き、ドライバーの輪郭を撫ぜる。
「彼らが本気を出すというなら、私もそれなりに強くなれる。ようやく、こちらもあったまってきた」
マキナの身体中に備え付けられた機構が、回転しながら熱を放つ。
《何が、起きている──?》
「さぁ?せいぜいその足りない頭で考えてみることね、“劣等種”」
マキナが言い放つ。それと同時に、三箇所で爆発的なホルスの上昇が起こった。
『There is Strong Light! Where There is Much Shadow!! Fill With The Salvation!! Majestic Artemis!!!』
『One Shot! One Kill!! Full-Armored Predator!!!』
『Wake Up! Burning Armour!! This is the Immortal Flame!! Fly High!! Ignited Phoenix Flamer!!!』
アルテが、プレデターが、フレイマーが、己の持てる最大の力を振るえる形態に姿を変える。そうして放出された、誘宵学区を丸ごと包まんばかりのホルスは、マキナにも更なる力を与える。
「改めて言わせてもらうわ。──仮面ライダーマキナ。これより、制圧を……いや、害獣駆除を開始します」
駆動する機構を震わせ、マキナは、凛とした声で言い放った。
「よくも私をあれだけねちっこく責め立ててくれたね。なら、今度はこちらの番かな。さぁ、テイスティングの時間だ。君の力の味を、私が確かめてやる」
白と金の弓を携え、アルテが言った。
「悪かったな、顔面盗作くん。今から私の本気を見せてやる。ここからは戦争だ。泣いても喚いても、どちらかが斃れるまで死合い続けようじゃないか!!」
蒼銀の拳を構え、プレデターは言う。
「さて……俺がこの姿になったんだ。歯ァ食いしばりな。あろうことか菱杖透流の姿を借りて誘宵学区を滅ぼそうってんなら……てめぇのその理想論、俺がこの手でブチ壊すッ!!」
そして、灼熱の色に染まった指を前後させ、フレイマーが言った。反撃が、始まる。
《ふん。いくら貴様が強くなったとしてと、元が蟻ほど矮小な力だ。私の敵では、な──》
ピエロが言い終えようとした瞬間のことだった。
「「誰が、誰の何にならないと?」」
ピエロの顎に、強烈な一撃が叩き込まれ、一瞬、意識が停滞する。目の前にいる敵の輪郭がブレる。
《……貴様。今、何をした──ッ!?》
「わざわざ答えてやる意味、あるかしら」
先程までの敬語で飾り立てた言葉とは違う、本当の言葉。それこそが、マキナが心のままに戦っている証だ。
(ありえん……なぜ、この私が気圧されている……ッ!?あのような、大した力もない劣等種に……ッ!!)
視界に確かに映っているはずの敵。その攻撃が、視界に映る像とは全く別の方向から飛来する。予測不可能な攻撃に、ピエロは苦戦していた。
「「「立っているだけでも、少し息苦しいでしょう?人の姿を借りているだけのあなた達に、呼吸の必要があるのかどうかは知らないけれど」」」
マキナの声が、三重に聞こえた。音のする方に振り向くが、打撃は、視界の外から襲いくる。
「あなたは今こう思っているのよね?『劣等種ごときに、この私がスピードで負けるわけがない』……そんな風に」
《……ッ、だとしたらどうする……ッ!!》
苦し紛れに、ピエロは言う。その様を見て、マキナは嗤った。
「ははっ、本当にそう思っていたのね!!なんて愚かな“劣等種”なのかしら!?理解能力が足りていないようねぇ!!」
いつになく上機嫌に、マキナは笑う。その間にも、ピエロへの攻撃の手は止めない。
「あなたは私を速いと感じている。それ自体は間違いではないわ。……でも、それだけだと思っているのだとしたら、少し残念ね」
ピエロの耳元に這い寄り、問いかけた。
「さっきのあれから、少し質問を変えるわ。あなたは今、立っているだけで体が重く感じているんじゃない?」
振り払うように腕が振るわれる。その刃は、マキナに届かず空を切る。
「まぁ、当然のことだけど。あなたのようなホルスの塊のバケモノは、逆立ちしたって私には勝てないってことよ。理解できたかしら、“劣等種”。……だって」
ほくそ笑むマキナの声が、廃工場に響いた。
「あなた、目を疑うほどに遅いんですもの」
その言葉に、ピエロは怒りを爆発させる。
《私が、遅い……だと?ふざけるなよ劣等種がッ!!これを受けても同じことが言えるか試してみるがいいッッ!!》
『Material Attack. Sabertooth Dagger Drive.』
爆発的な速度でマキナに飛びかかり、光の刃で滅多切りにする。その斬撃の群れは、周囲にあったものを片っ端から消し飛ばし、捨てられたオブジェクトを破壊し尽くし、廃工場を更地にした。
《……フン。口ほどにもない。やはり劣等種どもは愚かだな。劣等種のボス猿が惨めに死した事実、奴らの絶滅をもって知らしめてやるとしよう》
ピエロは振り返ると、廃工場の外へと歩き出した。だが、
《……な、に?》
「あらあら、そんなに驚かなくてもいいじゃない?」
その瞬間、死体も残さず刻まれたはずのマキナが、ピエロの眼前に現れた。
「それとも、そんなに私が生きていたことが衝撃だったかしら?」
マキナは笑いながら中指を突き立てる。
《何故だ、何故貴様が生きている……ッ!?》
「何故って……普通に逃げたからですけど」
焦燥に支配されるピエロに、マキナは柔らかな声をかけた。それは、どこか暖かく、しかし冷酷な嘲笑を孕んでいた。
《できるわけがない……ッ!!あれは、私の全速力だぞ!?》
「あれで、全速力……?驚いたわ。……随分とちっぽけな全速力のようね?」
冷たい笑みを浮かべ、マキナはドライバーのボタンに手をかけた。ピエロは怒りのままに腕を振るうが、もう遅い。
『Machina Burst.』
振るわれる剣は、回し蹴りで跳ね除けられる。
『Strike HORUS Cancel.』
そして、もう片方の足にエネルギーを収束させ、頭蓋を砕くための鉄槌が、振り下ろされた。
ピエロの装甲が弾け、中の怪物は流動体に戻る。直後、流動体の核のようなものが、踏み砕かれた。
「はぁ、痛いわね。……希望、あとで一発ぶん殴ってやろうかしら?」
《姿が変わったとしても、大して変わりは……いや、このホルス量。貴様、今何をした…………ッ!?》
「別に特に何もしていないけどね。……おっといけない。なろう主人公みたいな台詞を言ってしまった」
反省反省、とアルテは頭を掻いた。一瞬で背後まで迫り、銃口を突きつけるライブラリなど、まるで気にも留めていないと言わんばかりに。
《……そうか。ならば死ねッ!!貴様は、ここで殺さなければ、必ず障害となるッ!!》
「あぁそうかい。ところで、君は一つ思い違いをしているようだけれど……」
アルテが言い終える前に、ライブラリは、その引き金を引いた。確かに光弾が相手のこめかみを撃ち抜いた感覚はあった。にも関わらず、自らの肩が撃ち抜かれている。
「……君がここで私を殺そうという場合でも、私は最大の障害になると思うが?」
痛みが遅れて来る。幸い、傷は深くはない。自己補完の範疇で対処可能だ。私が負けるはずがない。ライブラリは、そう自分に言い聞かせた。
《……その通り、かもしれんな》
「かもしれないじゃなく、本当にそうなんだけどね。君が本気を出しても、私には敵わないんじゃないかね」
アルテは軽薄に笑う。その様子に怒りを覚えたライブラリが光線を放つが、弓を振るっただけで、その光線は霧散した。
「ははっ、そんなに驚くなよ。鬼婆って言われてるみたいで傷つくじゃないか……って誰が鬼婆じゃ〜い!!」
《劣等種の考えは読めん……自らの発言の責任を相手に押し付けるのが、最近の劣等種の流行りなのか?》
「マジレスするんじゃないよ情報弱者。人に喧嘩を売るなら相手の情報くらい調べるのは定石じゃないかね?……っと、すまない。私も君についてよく知らなかった。お互いについて理解を深めるために、まずは拳で語り合おうじゃないか」
ノリツッコミに理解を示さないライブラリに、少し不機嫌そうにアルテは言う。
《……そうかもしれんな。どうやら、貴様を相手するのに、遠距離攻撃は分が悪いようだ》
「私を一つ知ってくれてありがとう。ちなみにもう一つ教えてあげたいのだけど、近距離攻撃でも分が良くなることはないと思うよ」
そう、距離を詰めるライブラリに笑いかける。
《な……ッ!?》
「さぁ、次は君のことを教えてもらおうか」
繰り出した拳は受け止められ、カウンターがその顎を揺らした。
「一つ、君は反応速度が遅い。二つ、君は存外打たれ弱い。ありがとう宇宙人くん、これで互いに同じだけ理解し合えたね」
《がは……ッ、ふざ、けるなよ…………ッ!!》
ライブラリは何とか立ち上がり、空中に無数の飛行物体を出現させる。それらから生えた無数の触腕が一つに擦り合わされ、高速回転するドリルに姿を変えた。
「おいおい、流石にそれは反則じゃないかね!?ドリルまで持ち出すなんて殺意満載じゃないか!!」
《知ったことか。……認めよう。貴様は強い。だからこそ、私も全力で貴様を狩り殺すッ!!》
直後、ドリルの群れがアルテを襲った。回転する殺戮の槍が、火花を放ちながら飛びかかる。ぐちゃりと肉を潰す音が響いた。
《他愛ない、な……ッ!?》
勝利を確信したライブラリだったが、直後、自らの失敗を悟った。背後に迫る、凄まじいまでの威圧感が、それを引き起こしたのだ。
「いやぁ危なかった。いくら私が強いからって、ドリルで身体中にバカスカ穴開けられると流石に死ぬからね……」
こめかみを掻きながら、アルテは言う。そのあまりにも堂々とした姿に、ライブラリは目を見開いた。
《貴様、なぜ生きている……ッ!?》
「うーん、わからないかね?単純に当たってないというだけなのだけど……」
《そんなはずはないッ!!確かに私は肉を潰す音を聞い……まさか、あの音は……ッ!?》
アルテの言葉を受け、ライブラリは何かに気がついた。
「あのドリルって、君の肉を飛ばして変化させたやつだろう?つまり、それ同士が互いを削り合えば、グチュッて嫌な音も鳴るよね」
驚きに僅かに震えるライブラリに一瞥もせずに、アルテは弓を向ける。
「君の
『Material Attack! Lunatic Ray!!』
光の矢が風を裂く。音を置き去りにして、それは敵を貫くために伸びる。
《貴様の
『Material Attack. Ammonite Dagger Drive.』
その一条の光をかき消すべく、正面から光弾が撃ち出される。鋭く尖ったそれが、光の矢にぶつかり、軌道を半周分逸らした。
「……え、マジ?すまない、さっきの発言は訂正させてもらおうかね。どうやら私はまだ君を知らなかったらしい」
跳ね返され、自らへと伸びる殺人光線。それを一瞥し、アルテは虚空から杖を抜いた。
「……だからこそ、全力で君を倒そう」
その殺人光線の、すべてのエネルギーが、アルテの杖──グロリアスティックに吸い尽くされ、
『Material Attack! Glorious Bright!!』
それを何倍にも増幅した光の群れが、今度こそライブラリを貫いた。
《まさか、劣等種の中に、これほどの者がいたとはな……》
倒れたライブラリの体が崩れ、瞬く間に蒸発していく。その様を見て、アルテは変身を解いた。
「感謝するよ宇宙人くん。なかなかに、楽しい戦いだった」
「さて。この姿になった私はもはや君如きには止められない。どうする?私は平和主義者だ。争いは大嫌いなのだよ。君が尻尾を巻いて月に逃げ帰るというのであれば見逃してやるが」
《少しばかり鎧を着込んだだけで気が大きくなったようだな?貴様が身につけたのは装甲ではなく虚勢なのではないか?》
「……ほう、言ってくれるじゃあないか」
プレデターは拳を合わせて笑う。直後、プレデターの懐深くに、ビークルが潜り込んだ。重い拳が、プレデターの腹に沈み込む──ことはなかった。
《な──ッ!?》
見えない障壁が、ビークルの腕を切り裂いたのだ。
《何が、起きた──ッ!?》
切り裂かれた腕を再生させ、ビークルは問う。
「何が、とはまた随分と曖昧な質問だな?なにか気になることがあるのであればまずは思考を整理するところから始めるといい。要点も定まらん奴の相手は好きではないのだよ」
しかしプレデターは答えない。嘲りの色を濃く表した声で、ビークルを挑発するのみ。
「どうした?要点を絞ることすら出来ないのかね?……いやはや、残念だ。その体の主はそこそこに聡明で気に入っていたというのに、思い出に泥を塗られた気分だよ」
その冷淡な気迫に、気がつけばビークルは飛び退いていた。
「逃げられるとでも思うのかね?」
その顔の中心に、ブースターによって威力が増幅した拳が迫る。それは回避すら許さず、ビークルを地面に叩き落とした。狭い地下道で、怪物は何度も打ち付けられる。
《が……ッ!?》
「随分と打たれ弱いじゃあないか。どうした?同じダガー何某でもゲノムス=リボーはもっと手応えがあったぞ?」
仮面の下で、草壁は猟奇的な笑みを浮かべる。顔こそ見えないが、放つオーラがその殺意をビークルに伝えていた。ゆえに、ビークルは、否応なしに自覚させられた。すでに自分は狩られる側に回っているのだと。
(あり得ん……何故、私が押し負ける……ッ!?このような、大した力も持たない劣等種ごときに……ッ!!)
相手の攻撃を避けようとしても身体が上手く動かず、こちらの攻撃はろくに当たりもしない。分裂した他の個体と思考を共有してはいるが、苦戦しているものの、これほどの恐怖を覚えてはいなかった。他の個体が、圧倒されながらも戦闘の形を保っていられているのに、自分だけは一方的に狩られている。
「どうしたね?随分と腰が引けているようだが?」
重い拳が、何度目かビークルの体に沈み込む。もはや、勝機などない。本能で理解させられた。だが、人間を滅ぼすために目覚めた復讐者としての矜持が、敗走を許さない。
《せめて、貴様だけは殺さねばならんッ!!》
直後、ビークルの両腕から冷気が放たれる。それはプレデターの四肢の自由を奪っていく。
《死ねッ!!》
『Material Attack. Mammoth Dagger Drive.』
身動きの取れなくなったプレデターに、莫大な力の奔流が襲いかかった。それは地下道の一帯を崩落させ、プレデターから逃げ場を奪い去る。崩れた天井が、プレデターへと降り注いだ。
《流石に死んだとは思うが……貴様にはトドメを刺すところまでやらねばなるまい》
ビークルの足が瓦礫を蹴飛ばす。そこにはプレデターがへたり込んでいた。
《……先程までは考えられんほど呆気なかったな。私たちを愚弄したこと、後悔しながら死んで逝け》
引き金に指がかけられる。だが、そこから光弾が放たれることはなかった。
「──だから、言ったろう?君では私に勝つことは叶わないと。……いや、よく考えたら言っていなかったね。失礼した」
ビークルの脇腹を、プレデターの胸から放たれたレーザー砲が穿ったからだ。
《か、はァ……ッ!?》
「ほう、もはや口答えする体力も残っていないか。どうやら、君よりも私の方が何枚も上手だったようだな」
痛みに喘ぐビークルを尻目に、プレデターの指先が、無慈悲にもマテリアチューナーのボタンを押した。
「じゃあな、怪物。君のことは三秒くらいは覚えておいてやるとしよう」
『Materia Retune! Full-Armed Tuning Break!』
全てのエネルギーが、プレデターの右腕に収束する。回避など許さない。蒼銀の拳が、ビークルの胸を撃ち抜いた。爆発が起こる。ビークルの形を保っていた外殻が崩れ、核が剥き出しになる。直後、拳から漏れ出すホルスの第二波が、核を粉々に叩き砕いた。
「……ハァ。痛みを誤魔化すのにも限度があるか。あとは、他の連中に任せるとする、かね…………」
「だークソ!!ちょこまか飛び回るんじゃねぇ菱杖透流の分際で!!」
《私をその汚物の名で呼ぶな劣等種、殺されたいのか?》
「じゃあその姿使わなきゃいいだけだろうがよクソ野郎!!」
フレイマーとクロージャーは、互角の戦いを繰り広げていた。正確にはクロージャーが若干優位に立っているが、これには理由がある。
「クソ……ベネットの野郎、ご主人様が戦ってんだからさっさと戻って来いってんだ……ッ!!」
武器・フェニックスプファイルに変身する、赤萩の能力の化身であるベネットが、未だに彼のもとに戻っていないのだ。
《フ……どうやら貴様の頼みの綱はまだその手に渡っていないようだな?》
「あん?それがどうしたってんだクソ野郎?」
《いやなに、勝利の女神に見放されたようで哀れと感じただけだ》
気丈に笑うクロージャー。一瞬の後、フレイマーの拳が、その顔の中心を撃ち抜いた。
「ハッ、ヒトを煽るならもっと勝利が確実になってからにすべきだぜ宇宙人野郎。月では舐めプして反撃食らうのが常識的なのか?」
《……貴様》
「キレんなって。更年期かよ。歳食って気性荒くされても困るんだけどな?」
フレイマーは中指を立てながら挑発した。起き上がったクロージャーからある程度の距離をとりつつ、フレイマーは思案する。
(さっき打ち合った分だと、接近戦は向こうに分がある。中距離は言わずもがな。……ったく、マジであのバカはどこで油売ってやがる)
その思考は、迫るハイキックに阻害された。
「な……ッ!?」
《戦場でよそ見をするなど、愚の骨頂だとは思わんか?なぁ、劣等種よ》
足の甲がフレイマーの顔の中心を撃ち抜く。数メートルにわたって吹き飛ばされ、フレイマーは悪態をついた。
「ハッ、効かねぇな。菱杖透流本人の方が百倍は強ぇ」
《そうか、であれば何度も撃ち込んで貴様の生命活動を終わらせるまで》
繰り出されるラッシュ。それらを紙一重で躱しつつ、フレイマーは勝機を見定める。
(ダメだ。やっぱあのバカ来ねぇと勝てねぇわ)
ベネットが戻らない限り逆転はない。そう判断したフレイマーは、時間稼ぎのフェーズに移行した。襲い来る攻撃を、一つ一つ受け流していく。
《どうした?守ってばかりでは勝てんぞ?》
「悪りぃな、今攻めても勝てねぇもんで」
《随分と潔いな。ならば、そのまま──》
受け流す手を弾き、フレイマーの脇腹に銃口が突きつけられた。
《──死ね》
『Material Attack. Pteranodon Dagger Drive.』
プテラノドンを模した光弾が、フレイマーを貫く。
「が…………ッッ!?」
ノーバウンドで壁に激突する。それでも、追撃の手は止まない。クロージャーがフレイマーに飛びかかり、その拳が振るわれた。
《……?》
だが、その拳はフレイマーに当たらずに空を切った。何が起きた?刹那の出来事に、疑問符が浮かび上がる。
「……ハッ、おっっっせぇんだよボケ野郎。どこで道草食ってやがったんだ鳥頭」
「せっかく助けてやったおれにその口の利き方はないんじゃないか陽希?お前見捨てて逃げるぞ」
「いや悪りぃ悪りぃ、そんな怒んなって」
突如として現れたベネットが、フレイマーを横から攫っていたのだ。
《貴様……何者だ?貴様のデータはどこにもなかったと思うが》
「そりゃないだろーよ。だっておれ、この街の戸籍持ってねーし」
クロージャーの問いに、ベネットは真顔で答える。
「ただ一つ確実なのは……コイツが来たんだ、てめぇはもう俺たちには勝てねぇぞ」
《……雑魚がいくら増えようと、何も変わらんと思うが?》
「ハッ、言ってろタコ。……ベネット、来いッ!!」
直後、飛び上がったベネットのシルエットが歪に変形した。
『Phonix Pfeil!』
一瞬前までベネットだった弓を構え、フレイマーは笑う。
「さっきまでバカスカ殴ってくれた礼だ。ありがたく受け取れ、クソ野郎」
放たれた炎の矢が、クロージャーに迫る。クロージャーはそれを躱し、フレイマーに銃口を向けた。
《それがいくら強かろうが、当たりさえしなければただの豆鉄砲だ。勝負あったな》
「何見て言ってんだてめぇ?メクラか?」
しかし、その銃口は、炎の矢で埋められた。高圧のホルス波が暴発し、クロージャーの右腕を潰す。
《な、にィ……ッ!?》
「『勝負あった』ってのはなぁ……」
弓を高く掲げ、フレイマーは言う。
「……こういう時に使うんだよ、クソ野郎」
『Material Attack! Phoenix Burn Fire!!』
上空に放たれた炎の矢が、幾筋にも分かれていく。
「ハッ、今日は出血大サービスだ。一発食らって死にやがれ、クソ野郎ッッ!!」
『Material Finish! Immortal Burn Out!!』
フレイマーは炎の翼を広げて飛び上がり、ドライバーのボタンを押した。炎の矢の群れとともに襲いかかる、まるで太陽がそのまま落ちてきたかのような超高熱。それはクロージャーを、元となった核ごと撃ち抜き、焼き尽くした。
「……ハッ、覚えてやがれ。俺の戦いに、加減の二文字はねぇってな」
『……でも陽希、おれが来なかったら負けてたよな?』
「うるせぇ黙れ馬鹿野郎」
赤萩たちがそれぞれの敵と戦っている頃、黒薙たちはベネットが特定した研究所に向かっていた。
《……ほう、随分と早いじゃあないか。どうしてここがわかった?》
「知るかクソが。テメェなんぞに教えてやるつもりは毛頭ねぇよ」
椋居を象った怪物が問うが、黒薙は答えない。
「テメェの目的は知ったこっちゃねぇ。ねぇが、流石にこれだけの数の怪人相手に勝てるなんて思っちゃいねぇよな?」
黒薙がそう言うと同時に、同行していた怪人たちがレプリシューターを構えた。研究所の最奥で、入口は黒薙たちで埋め尽くされている。逃げ場は、どこにもない。
《逆に聞くが、なぜ私がここに来たか理解できていないのか?》
しかし、怪物は臆することもなく、背後の危機からある物体を取り出した。シルエットだけならばOOドライバーと瓜二つのオブジェ。血のような色合いをしたそれを、黒薙は知っている。
「ダガー、ドライバー……ッ!?」
ダガードライバー。かつて月面で発見され、菱杖透流によって奪われた変身デバイス。変身者に強大なまでの力を与えるそれが、怪物の掌中に収まっていた。
「ギャッハハハ!!なんだその程度かよ!!勿体ぶった割にはしょうもねぇモンぶら下げやがって!!」
だが、牧瀬は怯えることすらせず、それを一笑に付した。
「……ほんっっっと、その通りよ。牧瀬と同程度の出力しか出せないポンコツに縋ろうなんて、情けないと思わないのかしら?」
「ギャハッ、こいつぁ手厳しいじゃねぇか赤萩ィ!!」
「だってアンタに情をかけてやる必要なんてないから。……で、その程度のおもちゃで私たちをどうしてくれるのかしら?」
リンク能力者と、その化身が、怪物を挑発する。
《……劣等種が。よほど死にたいと見える》
「……自分が必死で掴んだものをゴミ扱いされてイラつく気持ちもわかるけど、その反応はすごくダサいと思うな」
怒りを顔に表した怪物に、澪が追撃の口撃を叩き込んだ。そして、
「来いよ怪物。お前がいくら足掻いたところで俺たちには勝てないと思い知らせてやる」
早見の一言で、怪物の怒りは頂点に達した。
《…………皆殺しだ。貴様ら全員、ここで死ね》
「はぁ……なんでみんなこんなに好戦的なんですかね……まぁやるって言うならわたしもやりますけど……」
水削のため息に合わせて、怪物の腰にドライバーが巻き付けられた。
《私を愚弄したこと、後悔しながら死んでいけ。変身》
『Eclipse, Craters, Moonlight Rays. ERA, ERA, Ignition. Eliminating Nebula Mimesis.』
怪物の体が、内側から血の槍によって食い破られる。そこから吐出したホルスが、アーマーを形取っていく。仮面ライダーミメシスが、そこに佇んでいた。
《……特に、戦う力も持たずに戦場に来た愚かな男は》
「……もしかして僕のこと言ってんのか?だとしたら残念、その指摘は的外れだよ」
ミメシスは黒薙を挑発するが、当の黒薙は、それを笑い飛ばした。
「なんせ……護身用にガラクタを持たされたモンでな」
取り出されたマキナドライバーに、ミメシスは一瞬の驚きを見せる。
《……どういうことだ?》
「見て分からねぇのかマヌケ、こういうことだよ」
黒薙はマキナドライバーを装着し、懐からタイムマテリアキーを取り出した。
「武装、完全
ドライバーに、マテリアキーが装填される。
「変身」
『Ready, Break Up. Deform, OO Machina.』
マキナの鎧が現れ、OOの色に染まっていく。それらが黒薙の身体に完全に張り付き、白煙を上げた。仮面ライダーマキナOO。変身能力を失った黒薙が見つけた、唯一の対怪人戦闘手段だ。黒薙の変身の後を追うように、それぞれがレプリシューターの引き金を引く。
「さぁ、来いよクソ野郎。失われた時間の力、見せてやる」
《そうか……だが、その程度で私は倒せんッ!!》
ミメシスの拳が、マキナOOを打つ。当然、マキナOOは両腕を交錯させて衝撃を殺すが、その程度で耐えられるほど、ダガーの力はか弱いものではない。腕から伝う衝撃が、マキナOOを大きく突き飛ばした。
「颯斗ッ!!」
「……ッ、亜矢、僕より先に
ホーネットの手が差し伸べられるが、マキナOOはそれを拒絶した。自分を救おうと伸ばした手が地獄からの誘惑を掴むのならば、それを振り解くほかはない。
「ハッ、この程度で本気かよ?……つまらねぇ、こんなモンより朱鷺澤の方が百倍恐ろしかったよッ!!」
マキナOOは吐き捨てる。追撃の拳が迫るが、それはエンヴィによって遮られた。
「黒薙、お前は馬鹿なのか!?敵を煽る暇があったら避けるなりなんなり……」
「そういう説教は後で頼むぜ、親友!!」
エンヴィがなんとか軌跡を逸らすと、そこにマキナOOが飛びかかった。真紅の閃光が、ミメシスの頬を殴打する。
「まだだ、消し飛びやがれッ!!」
一瞬ノックバックしたミメシスに、マキナOOの連打が突き刺さる。衝撃の群れは、意趣返しと言わんばかりにミメシスを弾き飛ばした。
「残念だけど、あなたにダウンする暇は与えない」
「ギャハッ!!そういう訳だ、さっさと死になァ!!」
ジェリーフィッシュとクラウンはほぼ同時に踏み出し、ミメシスに追撃を叩き込む。
「逃げ場なんてどこにもありませんよ」
着地地点にスタンバイしていたミラージュは、レプリシューターの引き金を引いた。
『Mirage Drive.』
乱反射する光弾が、ミメシスを貫く。ミメシスはなんとか着地すると、ミラージュに向かって走り出した。
「ギャッハハ!!お前の相手はオレだってのォ!!」
それを遮るように、クラウンが割って入る。ミメシスの拳を左手で受け止め、その顔の中心に右の拳を叩き込むが、同様に掴み返された。
互いが互いの手を振り払い、打撃を打ち合う。実力は拮抗している。それはつまり、外的な要因があればどちらかに傾きかねないということで。
「ほら、背中がガラ空きよ?」
ホーネットとジェリーフィッシュの毒針が、ミメシスの背を刺した。直後、ミメシスの体がバランスを崩した。
《貴、様ァ……ッ!!》
ガクッと片膝をついたミメシスに、マキナOOの拳が突き刺さる。仰反ったミメシスは、なんとか起き上がると、マキナOOの腹部を蹴り飛ばした。
「が……ッ!!」
《矜持を説くつもりなどはない。だが、ここまで愚弄されて黙っているなど、できるはずもあるまい!!》
怒りと共に、ホルスの波動が放たれる。その高圧の衝撃波は、全員の体を突き飛ばした。
《消し飛べ、劣等種どもッ!!》
『Over ERA, Nebula, Eliminating Mimesis Slash.』
ミメシスの手刀が空を切る。それは血よりも赤い光の刃となり、四方を囲むように放たれた。鮮血の剣が、怪人たちの鎧を切り裂く。
「テ、メェ…………ッ!!」
《安心するといい、劣等種のボス猿。貴様はできる限り苦しんで死なせてやる》
吹き飛ばされた友人たちを心配するマキナOOに向かって、ミメシスが走り出す。だが、必殺の拳を振るう直前、急激に力が抜けるような感覚を覚えた。ホーネットたちの毒ではない。ではなんだ?周囲を見渡す。すると、先程切り裂いた怪人たちの変身が解かれていた。しかし、彼らの表情は、あの攻撃のダメージで解除されたとは思えないような、野蛮な笑みだった。
《……貴様。何をした?》
「今から死ぬテメェに聞かせてやる筋合いはねぇよ」
マキナOOは怒りを多分に孕んだ声で応える。その腕の装甲は、赤い光に満ちていた。
《なるほど、姑息な手を。……ならば、正面からその力を打ち砕くまでッ!!》
『Over ERA, Nebula, Eliminating Mimesis Strike.』
ミメシスは飛び上がり、その拳を握った。紅の光が、その両の拳に収束する。それが、全力でマキナOOへと振るわれる。
「ハッ。できるモンならやってみやがれクソ野郎!!こちとらテメェに負けるつもりは毛頭ねぇよッ!!」
『Machina Burst. Oblivion HORUS Cancel.』
マキナOOは迎撃の拳を握る。赤い光を纏った拳同士がぶつかり合い、鍔迫り合いを起こした。
「オラッ、さっさと死にやがれェェッ!!」
マキナOOの左手が、ミメシスの攻撃の軌道を逸らし、空いた胴に、右の拳を全力で叩き込んだ。
《ぐッ……がァァァァァァァァッッ!?》
そして、ホルスの奔流が、ミメシスを文字通り消し飛ばした。