仮面ライダーO   作:墓脇理世

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ROAD TO CUBIC「『月面』からの侵略者」後編

 黒薙は、ミメシスを倒した。

 チリ一つ残さず、完膚なきまでに叩き潰した。

 そのはずだった。

 ならば、カブトムシの成虫ほどのサイズのこれは一体なんだ?

「チッ、まだくたばってねぇってか……ッ!!」

 小さな分身は逃げ出す。黒薙はそれを捕まえようと走るが、高速で動く流動体は、そう簡単には掴めない。

「待てコラ、逃がすか!!」

 ある程度まで逃げたところで、流動体は移動をやめた。黒薙は掴みかかろうとするが、直後、眼前の生気のない男にそれが吸い込まれていくのを見て、目を見開いた。

「あんた……椋居礼亜だよな?こんなとこで何してんだ?手術終わってすぐ逃げ出したって聞いたが……」

「見ての通りだ仮面ライダー。……まったく、危うく死ぬところだったぞ。まぁ、死ぬ覚悟をして賭けに挑んだのは俺なんだが」

 賭け?黒薙の脳裏に疑問符が浮かぶ。

「……あんた、なんの話をしてるんだ?その分だと、あんたはあのバケモンと通じてるって風にも聞こえるが」

「だから、そう言っている。……あぁ、そうか。お前は何も知らんのか。とはいえ、身内以外にはこのことは隠していたからな。無知は罪、などと言うつもりはない」

 この男が何を言っているのか、理解できない。できないが、この男が敵であるということだけは、察することができた。

「……椋居礼亜。悪いが、疑わしきを罰するが僕ら執行衛兵のモットーでな」

 だから黒薙は、腰に備え付けられた拘束用の銃を抜いた。

「……フ。ハハ。それで脅しているつもりか?甘いな。銃口を向けるなら殺傷能力を持つものにしたほうがいい。非殺傷用の武器では脅迫にすらならん」

「……よし分かった、愉快に爽快に理解したよ。テメェをここでしょっ引いて、目的から何から全部吐かせてやる」

 黒薙はその引き金を引く。だが、乱雑に振るわれた椋居の腕が、その光弾を弾き飛ばした。

「効かんな。……とはいえ、ここらが潮時か。今の俺には、変身しているお前をどうにかする力などないしな?」

「テメェ、逃すかッ!!」

「いいや逃がしてもらおう。俺にはまだ果たすべき使命があるのでな」

 そう言うと、椋居はおよそヒトとは思えないほど高く飛び上がった。

「本日の午後八時だ。誘宵学区中にコレの分身をばら撒く。止めたければ好きにしろ」

「聞きてぇことは山ほどあるが……そもそも、どうしてわざわざそれを話した?止めてほしいとでも思ってんのか?」

 報いの不可解な行動に、黒薙は疑問を口にする。

「ハ、まさかな。お前たちヒーローを叩き潰し、希望などどこにもないと知らしめてやるだけだ」

 その疑問に、ダガーシューターから白煙を吐きつつ報いは答える。そして、

「……遠山叶絵あたりか。奴には『フェアリー』とでも伝えておけ。俺の目的とやらも少しはわかるだろうよ」

 白煙が身を隠し尽くす直前に、それだけ言い残し、椋居は姿を消した。

 


 

「……ってな訳です。あの野郎、誘宵学区に対して宣戦布告じみたことをしやがった」

 その後、黒薙は、椋居と交わした言葉の一切を遠山に報告した。

「『フェアリー』……椋居礼亜は、本当にそう言ったのね?」

「はい。……委員長、ソレって、もしかしてまた路地裏絡みだったりします?」

「まぁ、大まかな区分で言えば」

 聞き慣れぬ名について、黒薙は問う。

「『フェアリー』というのは、最近になって現れた組織ね。ただ、今までに現れた連中と一つ違うところがあって……彼らは、主としたリーダーを持たない」

 その問いに、遠山が答える。

「『ファング』なら罪科七志、『スパーク』なら逆巻荒天、あるいは『イモータル』の吾妻琉架のような明確なリーダーが存在せず、あるのはいくらかに分かれた派閥のようなものだけ」

 遠山は続ける。

「それから、具体的な成員が一切不明。ただ一つ分かっているのは、彼らは皆共通して『怪人事件の記憶を持っている』」

 そして、決定的な言葉を口にした。

「……だとしても、それがどうして誘宵学区を襲う理由になるんだ?」

「いくら私でもそこまで知ってるわけがないでしょう。……ただ、彼はある程度前まで、ある男と共同で研究を行なっていたそうね。それが、一定の時期から、個人でのそれに変わったのだとか。……あぁ、これはただの噂よ。話半分に聞いておきなさい」

 黒薙の疑問に、遠山は助言にも似たものを口にする。

 その噂がもし事実で、統括理事会に関するものであったとしたら、確かに椋居の行動は納得のいくものとなる。

「……さて、私は戦力を派遣してくるけど、あなたはまだ何か知りたい情報があるようね?」

「情報、っつーよりは確信を持ちたいんすよ。あいつの行動原理が知りたい。どんな理由であれ市民に危険を及ぼす奴は潰すとはいえ、せめて目的くらいは知っておきたくて」

「……そう。好きにしなさい。ただし、私が連絡したら戻ること。独断で勝手な行動は許さない」

 部屋を去る遠山にそう伝え、黒薙は携帯を取り出した。

「……ありがとうございます、委員長」

 そして黒薙は、ある人物へとメッセージを送った。

 


 

「お疲れ様ですぅせんぱぁい!それでぇ?この超絶カワイイわたしに何の用ですかぁ〜?」

「おうお疲れ多々羅。超絶カワイイお前にしか頼めねぇことがあってな、ちょっと調べて欲しいモンがあるんだよ」

 黒薙が連絡を取っていたのは、自称・報道部の敏腕ジャーナリスト、多々羅であった。

「ははぁ……せんぱい、わたしを動かすのが上手くなりましたねぇ?そんな手に釣られクマーってやつですよぉ!!」

「チッ、バレたか。まぁそんなことはどうでもいい。テメェは僕に一つでっけぇ借りがあるよな?」

「ほへ?何でしょう……心当たりがないんですけどぉ……」

 多々羅のやたらと整った貌が、こくりと揺れる。

「修学旅行。テメェのせいで僕は亜矢と十分にイチャつけなかったんだが?どう落とし前つける気だコラ」

「ひぃっ!?ちょ、ちょちょ、顔が怖いですよぉ黒薙せんぱぁい!!」

「そりゃ怖くもなるだろうよ、二ヶ月経ってもまだ根に持ってるわけだからな」

 黒薙は半ば脅すような口ぶりで多々羅に詰め寄る。多々羅は涙目になりながら首をブンブンと振った。

「わかりましたぁ!!わかりましたからもう脅さないでくださぁい!!わたしになにを調べろって言うんですかぁ!?」

「よしいい子だ。……椋居礼亜について調べて欲しい。あいつの過去とか研究テーマとか、なんでもいいからとにかく多くの情報を、四時間以内に集められるだけ集めてくれ」

 涙目の多々羅に、黒薙は無理難題を押し付けた。

「四時間、ですかぁ……あんまり期待しないで待っててくださいねぇ?そんな時間じゃろくな情報も掴めないと思うのでぇ……」

「とか言って、もう探し始めてるんだろ?久城さんあたりが。せいぜい期待して待っとくぜ、後輩」

 そう言うと、黒薙は背を向けて歩き去った。

「まぁ、確かにそうなんですけどぉ……なんて、ウダウダ言ってても始まらないか。仕方ないですねぇ、わたしの本気、せんぱいに見せつけてやろうじゃありませんかぁ!!」

 


 

『せんぱい、取り急ぎ集められた分だけまとめたので目を通しておいてくださいね♡』

 それから三時間半が経過し、多々羅からメッセージが届いた。

『サンキュ、確認しとく』

 黒薙はそう返信すると、添付されたファイルを開いた。

「……なるほど、な。ウチのクソ親父に人生狂わせられたのにゃいい加減飽きてきた頃だったが、こっちもこっちでなかなかにドギツい話じゃねぇか」

 一通り目を通し終えて、黒薙は携帯の電源を切った。向かう場所は決まっている。黒薙の足が、ひとりでに動き出した。

「悪りぃな委員長。後でいくらでも怒られてやる。だからしばらく僕のことは忘れてもらうぜ」

 

 

『お掛けになった電話は、電波の届かないところにあるか────』

 その頃、何度かけても反応のない黒薙に対して、遠山は憤慨していた。

「あンのクソ後輩、出ねぇ……!!私忠告したわよね!?独断で勝手に動くなって!!」

「まぁでも颯斗ってそういうところありますから……」

「えぇそうねそれが解っていて勝手にさせた私が間違っているのでしょうねぇ!!」

 遠山の激情が空気を揺らす。

「……とはいえ、大方予想できたことではあるけれど。彼単独で行かせるのはあまりにも危険すぎる」

 手元の缶コーヒーを流し込み、しばらくして冷静を取り戻した遠山は言った。

「赤萩くんと牧瀬玲王を神殿に向かわせましょう。亜矢ちゃん、あなたと澪ちゃんには牧瀬玲王が抜けた病院の防衛を頼むわ」

「わかりました。けど私と澪ちゃんの穴埋めはどうするんですか?」

「もともとその近辺には余剰戦力がそこそこある。そちらのリソースを割けば問題はないでしょう」

 亜矢の問いに、遠山はそう答える。

「……さて、私たちも向かいましょう。奴の言葉が本当なら、じきに誘宵学区中が怪物で埋め尽くされるはず」

 


 

 そして、二十時を迎えた。その時計の音とともに怪人たちが現れ、誘宵学区を埋め尽くしていく。

「来たわね……総員、迎撃準備ッ!!」

 遠山の司令に合わせ、各所で防衛戦が始まった。

 

 

「……それで、貴様は俺のもとへ一人で来たというわけか。ところで、知っているか黒薙颯斗?勇気と蛮勇には大きな違いがあるということは」

「知らねぇな。理解する気も毛頭ねぇ。っつーか、それを説くならそっちも僕と大差ねぇだろ椋居礼亜」

 黒薙は、一人で椋居の待つ神殿に参じていた。

「なぁ、一つ聞かせてもらえねぇか?テメェが誘宵学区の住民たちを巻き込もうとした理由ってヤツを」

「ハ、その問いに答える義理がどこにある?まして、親しくもない貴様に……」

「あぁ、これは確認であってテメェが過去にどんな目に遭ったかってのは既に調べてあるんだわ。で、テメェ、研究のパートナーが首吊ったんだってな?」

 軽薄な声に、椋居の額がビキリと音を立てた。

「なんだっけな、テメェの研究テーマ。あぁ思い出した、サイボーグ技術による身体の故障の回復だったか。なのにテメェは今、こんな訳わからねぇ宇宙人の研究に精を出してたわけだ。おかしな話だよなぁ」

「……黙れ」

「いいや黙らねぇ。ところでお前、サイボーグ技術に関する研究の時はトップシークレットにしてたらしいな。完成させるまでは世に出したくなかったとかそんな感じか?なら、どうして……」

 黒薙の言葉を遮るように、椋居の拳が射出された。それを紙一重で避けつつ、黒薙は続ける。

「……その研究の失敗がネットに出回っちまったんだろうな?研究の先頭にテメェじゃねぇ誰かの名前が載せられた上で、よぉ?」

「……そうか。そこまで調べていたのか。どうやったかは知らんが、虫唾の走る真似を」

 椋居は観念したように空虚な笑みを浮かべると、柱に背を預けて語り始めた。

「お前は俺に聞いたな、黒薙颯斗。なぜ誘宵学区の住民を巻き込むような真似をしたのか、と」

「あぁ聞いたよ。それがどうした?」

「俺をそこまで調べ上げた執念深さを評価し、その答えをやろうと言っている」

 椋居の指先が、柱に突き刺さる。

「あの実験の主導者は俺だった。だが、その事故が公に曝された時……あいつは、俺が負うべき責任を独りで背負ったんだ。そして中傷に晒され、家族にまで危害を加えられ……精神を病んで、家族全員で自らの命を絶った」

 柱は粉々になり、神殿の天井が傾いた。

「そうさ。あいつはこの街に殺された。あんなに心根の真っ直ぐだった男は、才能の欠片もない劣等種どもに殺されたッ!!だから俺は決意した、統括理事会の上層まで上り詰め、この街を丸ごと潰すとッ!!」

「……ふざけんじゃねぇ。その為に、テメェは関係ねぇ奴らまで巻き込もうってのか?」

「あぁその通りだ。結果として俺は月面博覧会のチームのトップに立つことができた。そこで、奴と出会った」

 黒薙が向ける銃口にも一切気を配らず、椋居はどす黒い笑みを浮かべていく。

「驚いたよ。奴は俺を見るなり、俺と全く同じ姿に変わっていったのだからな。話していくうちに互いの利害が一致していることを知り、俺は賭けを申し出たさ」

 その皮膚が、細い線のようなものを浮かべて脈動した。

「あの会場で俺を貫かせ、俺が死ねば奴の勝ち。俺が生きている間に奴が死ねば俺の勝ちというルールでな。勝った方は、敗者の持つ力を利用できるというルールだ」

 そして椋居は、懐からダガードライバーを取り出した。その手には、ダガーブレイカーが握られている。

「そして──これが、俺の答えだ」

 それらが装着されると同時に、世界の音が、消えた。

「テ、メェ……ッ!?」

「──変身」

 レバーが倒される。空から振り下ろされる鮮血の槍たちが椋居を貫き、漏れ出した負のオーラがアーマーを形成していく。

『Breaks, Ridiculous, Avenging the Pasts.』

 放たれた衝撃により、黒薙は大きく吹き飛ばされる。

『ERA. ERA. Evolution. Extincting Nemesis.』

 ミメシスとは真逆の色合いの怪物。黒と青と銀の脅威。仮面ライダーネメシスが、そこに佇んでいた。

 


 

「……だが、テメェがいくら強くても、勝てねぇモンってのはあるんだよ。本当はこんな他人の褌で相撲取るような情けねぇことは言いたくねぇが……知ってたか?どうやら赤萩や牧瀬がこっちに向かってるらしいぜ?」

『成程、お前はそいつらに救いを求めているわけか。……だが、残念だったな』

 ネメシスの指先が天を衝く。すると、空気が揺れた。それと同時に、迫る二つの気配が消えた。

「……今、何をした?」

『魔術だよ。名前などいちいち覚えてはいないが、生物を空間の狭間に隔絶するものだ。まぁ、同時に二匹までしか消せん欠陥品ではあるが……どうする?これでお前は孤立無援。あまり愚かな答えを出さないことを願っているぞ』

 魔術。テクノロジーの街では聞き慣れない名だが、実際にソレはこの世に存在していると、黒薙は知っていた。というのも、かつて捨てた父親がそれに携わっていたからなのだが。

「……ハッ。上等だよクソ野郎。なら僕はテメェを正面から殴り倒す」

 ポケットに入れた手で携帯を操作しながら、黒薙は啖呵を切った。

『そうか。それは残念だ。──ならば死ね、劣等種』

 攻撃が迫る。黒薙はマキナOOに変身し、その攻撃を躱す。

(コイツは強ぇ、僕一人じゃとても勝てねぇ程度にはな。……なら、せいぜい時間を稼いで神蔵さんや有栖川の到着を待つ)

『お前は時間稼ぎに逃げたいのかも知らんが……逃げるなら本気で逃げろ、死んでも俺は責任を取らんぞ?』

 戦力差を自覚し、状況を覆し得る味方を呼び寄せようとするが、それを見逃がすほどネメシスは甘くない。超高圧のホルスを纏った拳が、マキナOOの腹部を撃ち抜いた。

「ご、ばァ…………ッッ!?」

『もっとも、逃がしてやるつもりもないがな』

 マキナOOの身体が浮き、二十メートルほど吹き飛ばされる。

(チッ、いつもの感覚で啖呵切ったはいいが、コイツやっぱりクソ強ぇ……ッ!!)

『どうした?反撃してはくれんのか?俺は一方的な虐殺は好きではないのだがな』

 ネメシスの脚が迫る。マキナOOは咄嗟の判断で自らの足にエネルギーを集中させ、なんとかその一撃を回避した。

『ハ。やればできるじゃないか劣等種。だがどうする?俺はお前に時間を稼がせてやるほど優しくはないぞ?』

「だったら見せてやろうじゃねぇか、僕の本気ってやつをなァ!!」

 腕のアーマーが鈍く光っている。これだけのホルスを放っているのだから、その分吸収される量も増えているのだろう。

「消し飛べ、クソ野郎ッ!!」

『Oblivion HORUS Cancel.』

 周囲から凄まじい勢いでホルスが吸い上げられる。トランセンドフォームでの戦闘時以上のホルスをその拳に纏わせ、マキナOOは全力でネメシスの仮面を撃ち抜いた。

 ネメシスは吹き飛び、爆煙を巻き起こす。起き上がる影はない。マキナOOはひとまず安堵する。

「……とりあえず、呼び出した二人に連絡しとくか」

 黒薙は変身を解き、携帯を取り出そうとする。──次の瞬間、背後ににじり寄る狂気。ドライバーにかけていた手を退け、臨戦態勢を取った。

『……つまらん。本気でやってこの程度か?どうやら俺はお前を過大評価していたようだ』

 両腕を交差させ、防御の構えを取る。だが、繰り出される一撃は、その程度では防げはしない。

『Breaking Extinction.』

 宇宙さえ落とすと錯覚するほど、重く、傷ましい一撃だった。故に、マキナOOの装甲は砕け、呆気なく、生身のまま柱へと叩きつけられた。

「……ッ、あァァァァァァァァッ!?」

『そこまで悲鳴を上げられるほどの気力が残っていたか。大した頑丈性だ。もっとも、お前は今から俺に殺され、無様に死ぬのだがな』

 ダガーシューターが黒薙へと向けられる。仄赤い視界が、自らの死のみを鮮明に捉えた。

『さらばだ英雄。地獄で悔い続けろ』

 そして、どす黒い光弾が放たれた。

 


 

 ──だが、放たれた光弾が黒薙の脳漿を弾き飛ばすことはなかった。

 淡い光とともに現れた少女が、光弾を弾いたのだ。

「……先輩、だいぶ困ってるみたいですね?ほんと、私が来なかったらどうなってたことやら。しばらく見ない間に随分と頭の出来が悪くなったようで何よりです」

 少女はどこかシニカルに笑い、ネメシスを真っ直ぐに睨みつける。

「……ハッ、帰ってくるのが早ぇんだよクソ後輩。あんなお涙頂戴な別れ方しといて一月経たずに戻ってきてんじゃねぇよボケが……なぁ、」

 黒薙はどこか満足げな笑みを浮かべながら、震える腕で壁をつき、なんとか立ち上がる。

『……ありえん。お前は、確かに消滅したと資料にあった。何故だ、何故お前がここにいる?答えろ……』

 ネメシスはその少女を見て、仮面の奥で目を見開いた。絶対に来るはずのなかった助っ人。その姿に、椋居礼亜の鉄面皮が崩れ去る。

「『ミスティーク=レーツェルッ!!』」

 そして、異なる感情を孕んだ二つの声が、同時に少女の名を叫んだ。

 


 

「その疑問に応える義理は私にはありませんね、どこの誰か知りませんけど。……で、先輩は戦えないくせにそいつに挑んでボコられたわけですか。ダッサ。一回死んだ方がいいんじゃないですか?」

「ハッ、言ってくれるじゃねぇか死人が。少しは先輩を敬えボケ。っつーかテメェ今までどこ行ってやがったんだ?」

「別に答えてもいいですけど……今ここで答えるのはちょっとアレですね。すみませんそこのどなたか。邪魔なんで今すぐ消えてもらえませんか?」

 ミスティの悪意を多分に孕んだ声が、ネメシスの怒りを駆り立てる。

『……消えるのはお前だ、劣等種の性奴隷が』

「性奴隷、ですか……私、そういう需要があると思われるくらいには可愛いですもんね」

「顔だけは平均点以上だからなお前。まぁ僕から生まれた化身なら当然だが」

 再び光弾が放たれる。ミスティはそれを目を向けることすらせずに腕を振るい、はたき落とした。

「なるほど、強いですね。どうりでウチの先輩がボッコボコにされるわけだ。まぁ、私ほどじゃないですけど」

「……なぁミスティ、僕の覚えてる限りお前は生身でアレ撃ち落とせるほど強くはなかったが?」

「知りませんよ、私も夏休みで強くなったということでここは一つよろしくお願いします。……じゃ、先輩。いけますよね?」

 ミスティは声色を瞬時に変え、懐からドライバーを取り出して、黒薙に問う。

「……当然。ようやく本気出せそうだわ。その点に関しちゃ、テメェに感謝しといてやるよ」

「まったく、素直じゃないんですから。亜矢先輩ならともかく、先輩のツンデレなんて需要ありませんよ一部除いて。……さて、それじゃ行きましょうか。黄金コンビの復活です。せめてド派手に舞いましょう」

 黒薙は、装着していたマキナドライバーを仕舞い、懐からOOドライバーを取り出した。

『Existence of Glory!!』

『Liberation Material Force!!』

 二人の手に握られた大きなマテリアキーが、莫大なまでのホルスを放ち、空間を満たしていく。

「「変身ッッ!!」」

『Are You Ready To Fight? Never Look Back! Beat Up Your Enemy! With Your All Strength! Break Up! Transcending OO!! Excellent!! Amazing!! Awesome!!』

『The Show Must Go On!! There Is An Only Way To Win!! Tearing Off The Chain!! You'll Get An Authentic Liberty!! Get Ready, Liberty-Mist OO!!』

 黒薙はOO・トランセンドフォームに、ミスティはミストOO・リベレートモードに変身し、それぞれの武器を出現させた。

『Over Oblivion Shield!』

『Mystical Rapier!』

 そして、ネメシスを指して、

「こっからは冗談抜きの本気バトルだ。覚悟しなクソ野郎。失われた時間の力、見せてやるッ!!」

「そういうわけですし……始めましょう、限界のサリューをッ!!」

 


 

『……ハ。雑魚が一人から二人になったところで、大した違いはあるまい』

 ネメシスは煩わしそうに腕を振るい、衝撃波を放った。相手が先程までの黒薙であれば、一撃で戦局を決定的なものにできるものだ。しかし、今のOOに、それは通用しない。

「さっきまでヘナチョコ見せて悪かった。お詫びに本当の僕の力を見せてやるよ」

『Mate-Reading.』

 その衝撃は大盾・オーバーオブリビオンシールドに吸収されていく。

「目には目を、歯には歯を。なら、宇宙には宇宙の力をぶつけるのが定石ってモンだよな?」

『Comet! Solo Material Attack!』

 直後、空中に生成された小型の隕石。それが、ネメシスの懐深くに突き刺さった。

『ハ。まだだ、まだ足りんッ!!』

「でしょうね。だって先輩弱いですもん。満足したいなら私とやり合いましょう?」

 体勢を立て直したネメシスに、ミスティカルレイピアの鋒が迫る。

『ハ、上等ォ!』

 ネメシスはそれを左の裏拳で逸らすと、ミストOOの胸に向けて右の拳を突き出した。

「いやんエッチ。代価も払わずに女の子の胸触ろうなんてふてぇ野郎ですね」

 ミスティは残像を残しながらそれを躱すと、その拳の中心をレイピアで突いた。

『が、ァァ……ッ!!』

 ネメシスは追撃をすんでのところで回避し、両手を地につけた。土が巻き上がり、それらは強大な槍と化す。

『砕け散れ、劣等種どもッ!!』

 大地を抉らんばかりに飛来する、殺戮の刃。OOたちは加速機構を稼働させることでそれらの全てを避け切ったが、ネメシスの本当の狙いはそこではない。立ち込める土煙が、ネメシスの姿を覆い隠した。

「野郎、どこ行きやがった……?」

『ここだよ、愚鈍な劣等種が』

 背後から迫り寄る声。OOがそれに反応すると同時に、拳が後頭部を叩く。

「……ッ、にゃろッ!!」

 視界が揺れる。oはグズグズになった平衡感覚でなんとかネメシスを捉えると、その顎に反撃の拳を叩き込んだ。

「先輩、立てますか?」

「大丈夫だよ、もうだいぶ回復してきた」

 差し伸べられたミストOOの手を掴み、 OOは起き上がる。

「見たところ、だいぶ膂力があるようですね。先輩、取り敢えず全力でブン殴って削ってください」

「あ?テメェ瀕死の怪我人に何言って……っておわァ!?」

 優しめの蹴りがOOの背中を押した。このクソアマ、終わったら原型無くすまでブン殴ってやる。内心で呟き、観念して拳を握った。

『Gravity Knuckle!』

 OOの拳に、青いナックルが装着される。

「……ってな訳で、仲良く殴り合いといこうぜ?」

『……ハ。せいぜい、俺を失望させるなよ』

「誰に向かって言ってんだマッドサイエンティスト。テメェこそ、僕が隙作る前にくたばんじゃねぇぞ」

 OOは吐き捨てると、力任せに拳をこめかみへと叩きつけた。反動で跳ね返った腕をそのまま叩き込むことで、片腕でのラッシュが完成する。

『この……ッ!!』

 ネメシスは、繰り出された一発に、同じ威力の拳を打ち込んで相殺させ、生じた一瞬の隙にハイキックを繰り出した。

「ハッ……甘ぇんだよ、クソ野郎ッ!!」

 しかし、その首を刈り奪る鎌のような蹴りは、OOを捉えなかった。古武術における移動法の一つ、膝抜きだ。大技を放ち、ガラ空きになった胴に、OOの拳が突き刺さる。

『Material Attack! Gravity Fist!』

 重力の拳が、ネメシスを大きく吹き飛ばした。まだ気は緩めない。OOは追撃のために地を蹴った。

『ハ。やはりお前は愚鈍だな。判断力がまるで足りんッ!!』

 その様を見て、ネメシスは笑いながら、ダガーシューターを抜いた。そこには、先程までドライバーに装填されていたマテリアキーが嵌め込まれている。

「まず……ッ!?」

『Material Attack. Alternative Nebula Drive.』

 光弾が弾ける。誰も耐えることのできない一撃が、正確にOOを撃ち抜いた。

『……存外、大したことはなかったな。一瞬は肝を冷やしたが、所詮はその程度。俺に勝てると思っていたのが愚かというものだ』

「で、誰が大したことないって?テメェが教えてくれたことじゃねぇか、倒した敵にゃ気ィ付けろってよ」

 踵を返したネメシスは、背後に響く声に、思わず振り返った。その攻撃を盾で流しきったOOの姿に。それが、最大の敗因に変わることも知らずに。

「ありがとうございます、先輩。……たまには、感謝させてもらいますよ」

『Material Attack! Mystical Thrust!!』

 ネメシスの胸の中心に、最大威力の刺突が突き刺さった。それはネメシスを中心に爆発を引き起こし──次の瞬間には、血に塗れた椋居が、そこに倒れ込んでいた。

 


 

「さて、椋居礼亜。体は痛ぇだろうがこっちも仕事でな。遠慮なく拘束させてもらうぜ」

 黒薙はしゃがみ込み、懐から手錠を取り出して、それを椋居の手首に当てた。

「……あんたの恨みはわかる。僕も同じ立場ならそうなってただろうからな。だが、本当にそれしかやり方がなかったのか?」

 黒薙は問う。その声色は柔らかく、椋居に真っ直ぐな救いを差し出すようなものであった。

「あんたはまだやり直せるはずだ。だから、釈放されたら僕を頼れよ。僕はあんたを否定しない」

 その言葉を聞き、椋居は仄かに笑みを浮かべた。

 だが、その笑みは、安らぎに満ちたものなどでは、到底なかった。

「……ハ。ハハ。ハハハハハハハッ!!俺を否定しない、か。ならば肯定してもらおうか、この消えない復讐心をッ!!」

 鈍く光る金属骨格を露出させた義手が、黒薙の腕を跳ね除ける。

「まだやり直せる?できるわけがないだろう。今の俺は復讐心だけで動くモンスターなのだから。他の方法はなかったのか?なかったに決まっているだろう。他のどのようなやり方であってもヒトの醜い内面までは変わらないのだから!!」

 椋居はどこかネジが外れたように笑うと、再びドライバーを装着した。

「よく理解したさ。俺がどれだけ死力を尽くそうがお前たちは俺を止めるのだろう。ならばいっそ、俺の命もろとも、この島を丸ごと海に沈めてしまえばいい!!」

「待て、僕の話を……」

「お前のようなガキの話に大人が耳を傾けるとでも思ったか?目障りだ、まずはお前ごと消え去れッ!!変身ッッ!!」

 ダガーブレイカーのボタンを二度押し、ドライバーのレバーは再び倒された。

『Dagger Break. Accepted. Mode_GENESIS.』

 椋居の体が、超大なホルスの奔流に飲み込まれる。それは瞬く間にヒトのようなフォルムを形成し、誘宵学区の中心に吠えた。

「おいおいマジかよ、このデカさ……ッ!!」

 黒薙は再び変身し、オブリビオンセイバーを構える。ミストOOに目配せし、同時に飛び上がって怪物──モードジェネシスへと斬りかかる。

『aH。aND愚鈍。iAAaGuNiS。』

 人の耳には部分的にしか知覚できない言葉を紡ぎながら、モードジェネシスはホルスの大剣を振るった。OOたちはなんとか間一髪でそれを躱したが──次の瞬間、ビルの上層が真っ二つに両断された。

「チッ、なんなんだよありゃァ……ッ!!」

「つべこべ言わないでください先輩。うるせぇ。被害が大きくなる前にあの核っぽいやつ壊さないとまずいでしょう」

 二人は両足にホルスを集中させ、上空へと飛び上がる。赤と青の二つの斬撃がモードジェネシスへと伸び──届かないままにかき消された。

『aN無駄oWiKaGA』

 モードジェネシスが両手を前に突き出すと、地上から大量のホルスが吸収され始めた。先程街中に放たれた怪人たちが、モードジェネシスへと吸い寄せられているのだ。

『oRiBoRH』

 そして、どす黒い波動が放たれた。二人は回避しようと試みたが、なんとか直撃は免れたものの、わずかに掠っただけにも関わらず、変身解除へと追い込まれた。

「が……ッ!?本気で、規模が違ぇ……ッ!!」

 モードジェネシスは構うことなく第二撃の構えをとる。周囲のホルスが一点に集中していく中、ミスティは黒薙を真っ直ぐ見据えた。

「……先輩。実はあれを倒せるかもしれない方法が一つだけあるんですけど、何かわかりますか?」

「知るかよ。……まず僕とお前が一つになるアレをやるのは含まれてるか?」

「はい。……そこから先は、合わさってから考えましょう。失敗してもその時はその時です。今度は一緒に死にましょうね」

「ハッ。誰がテメェなんかと心中するかボケ。……やるからには勝つしかねぇだろ」

 直後、エネルギーの暴力とも呼ぶべき波動が、再び放たれた。

 


 

 しかし、その一撃は、より強いホルスの流れによって断ち切られることとなる。

『Don't Be Afraid! There Is Ultimate Linkage Skills!! Go, Over The World!! Fly High, Extrication For Everything!!』

 そこに佇むは、赤と青を混ぜ合わせた戦士。両手に大剣を握り、巨悪を真っ向から睨みつける勇士。

『Get Ready, Link-Liberty OO!!』

 戦士、仮面ライダーOO・リンクリベレートフォームは、軽やかに両腕を振るった。それと同時に、二色の斬撃が空を舞う。モードジェネシスは、掌をかざしてそれを受け止めようとするが、

『aN……!?』

 ホルスでできたはずの掌が粉々に切り刻まれ、その防御は突き破られた。再生を試みるが、ホルスが漏れ出るばかりで、元の形には戻る気配がない。

「「悪りぃが、その腕は簡単にゃ治らねぇぞ。なんせ僕が真っ二つに切っちまったんだからな。僕のホルスが混ざった以上、もうお前の思うようにその力は使えねぇ。……じゃ、その力、借りるぜ」」

 切り口から漏れ出すホルスが、飛び上がったOOの腕に吸い上げられていく。

「「これが欲しいのか?だったらくれてやるよ、腹ン中でよく味わいな」」

 怒りのままに振るわれる、モードジェネシスの左の拳。それを軽やかな動きで回避すると、OOは二本のオブリビオンセイバーをその腹に投擲した。

『aG……!?』

「「っつーかテメェ、さっさと赤萩と牧瀬吐き出せやコラ。その腹ン中にいるかどうか知らねぇけど」」

 OOの手にクリムゾンウォリアーが現れた。真紅の一振りが、モードジェネシスの左腕に走る。

「「あとテメェのペットくんのおかげで草壁蒼哉が大怪我中らしいんだわ。どう落とし前付ける気だ?別にあいつがどうなろうと構わねぇが、神蔵さんが落ち込むのはあんまり見たくねぇんだよ」」

 続いてOOの腕に現れるはガントレッドチェッカー。青黒い矢が、宙に浮かんだ無数のスフィアを撃墜していく。

『uSoRK、aHeAaMoA……!!』

「「おぉ、千切れた腕でまだ足掻く気か。その執念に敬意を表すよ。ホラ一発撃ってみな?」」

 モードジェネシスは左手を構え、ホルスを収束させた波動を放った。しかし、爆煙の中から現れたのは、ノーダメージのOOの姿。

「「なかなかにいいセン行ってたぜ。まぁ、僕たちにゃ敵わねぇけど」」

《何が僕たちですか、気恥ずかしいんでやめてくださいよ先輩》

(まぁそう言うなって。二人合わさってんだから僕たちって言うのが普通だろうが)

 声に出さずに軽口を叩き合う。モードジェネシスは再び左手を握ると、OOへと全速力で振るう。

「「不意打ちはあんまり良くないんじゃねぇか?ンなこともわからねぇとなると、人の心まで無くしちまったってか?なら僕が愉快に爽快に理解させてやるよ」」

 不意打ちの拳を見切り、OOは先程の一撃を全て飲み干していたグロリアスティックを振るい、モードジェネシスの左手を吹き飛ばした。

「「さて、そろそろトドメといくか……いくぞ、ミスティ」」

《いくらでもいけますよ。ブチかましちまいましょう》

 黒薙がドライバーに手をかける。それに合わせて、モードジェネシスも頭蓋を突き出した。開いた口に、全てのホルスを集中させる。

『Skill Linkage Liberty!!』

 そのエネルギー弾が放たれると同時に、黒薙は飛び上がる。胸のディスクが高速で回転し、クリムゾンレッドとスカイブルーの光をその脚に纏わせる。

 赤と青の美しき軌跡が、巨大な光弾とぶつかり合う。刹那の拮抗。光弾は霧散し、光が、怪物の核を撃ち抜いた。

 


 

「……あれ、椋居礼亜いなくねぇか?」

 戦いを終え、黒薙は変身を解いた。しかし、怪物が霧散した位置に、椋居の姿は見えなかった。消えたのか?いや、まだ生きてはいるはずだ。その予感を、肌で感じ取っていた。

「……とりあえず委員長に連絡しとくか」

 黒薙は携帯を取り出し、電話アプリを起動すると、遠山に繋いだ。

「もしもし、委員長ですか?あの、椋居礼亜倒したんですけど……」

『おやおや黒薙くん。報告より先にまず言うことがあるのでは?と私は思うのだけれどどうかしら』

 不機嫌そうな声で、遠山は答える。

「…………勝手に独断で動いてすみませんでした」

『よろしい。で、椋居礼亜を倒したけれど、どうしたと?』

 少しだけ声を穏やかなものに変えて、遠山は聞き返した。

「……倒したんですけど、いないんですよね」

『は?いない?……なるほど、よく分かったわ。こちらでも捜索しておきます。失礼するわ』

 プツン、と電話が切れた。黒薙も椋居を探しに出ようとしたが、直後、視界がぐにゃりと歪み、

「……あぁ、やっぱり怪我してるとこにアレは負担が大きかったみたいですね」

 黒薙の意識は、闇に消えた。

 


 

「……あ、起きたんですね先輩。お疲れ様です」

 翌日の昼ごろ、黒薙は執行衛兵本部の医務室で目を覚ました。

「ミスティか……どれくらい寝てた?」

「だいたい半日ほどですかね?傷に関しては亜矢先輩の能力である程度塞いで、輸血でなんとかしたみたいです。もう今日中に帰っていいそうですよ」

 ミスティは告げる。

「そうか、ありがとな。……で、聞きてぇんだが、椋居は見つかったのか?それから、赤萩と牧瀬は大丈夫だったか?」

「どちらに関してもオールグリーンだそうです。椋居礼亜は確保され、赤萩先輩・牧瀬先輩共に無事が確認できているようですね」

 気怠げに言うと、ミスティはホチキスで留められた紙の束を手渡した。

「今回の報告資料です。とりあえず後で目通しといてください。……あ、それから」

「あ?」

 付け足すような言葉に、黒薙はつい聞き返した。

「今日の七時、空いてます?遠山先輩に焼肉でも行かないかって誘われてるんですけど」

「……空いてるよ。行っていいなら場所送ってくれ。……じゃ、僕もそろそろ帰るかな」

 ほぼ完治した体を起こし、枕元に置かれていたカバンを手に取る。

「じゃあな。あの時みたいな無茶は二度とすんなよ」

「わかってますよ先輩。それじゃ、また焼肉屋で会いましょう」

 二人は言葉を交わし、別れた。

 


 

「さて……全員集まったわね?こほん。これより全員だいたい無事に椋居の乱切り抜けられた記念&レーツェルちゃん帰還記念の打ち上げを行いたいと思います。では皆さん、乾杯を」

 遠山が言う。庶民的な焼肉屋の座敷を貸切状態にした執行衛兵第六六支部の面々はそれぞれのグラスを手に取った。

「「「かんぱ〜い!!」」」

 チン、とグラスのぶつかる音が響いた。その響きは、さながら此度の終戦を告げる鐘の音のようであった。




 墓脇です。今回は『Oにおける夏映画』をイメージして書かせていただきました。本編の菱杖やロベリアを上回るやばい敵感を演出したかったのですが、いかがでしたか?
 ミスティの復活に関しては、黒薙も言ってた通りだいぶ早いものになってしまったなという感覚はありますが、彼女もアメリカで色々あったんです。月白たちと色々あったんですよ。こちらの話も来年の今くらいにはできると思いますので第二部O’の応援よろしくお願いいたします。

 今回の大ボスとも言えるモードジェネシスについてですが、実はこれは本編で没になったダガーの最終形態の設定を流用したものになります。と言っても、実体がなかったりバカでかかったり自我がなくなるといった点はそちらにはなく、ただダガーブレイカーの拡張機能という没設定を再利用しただけですが。
 そして何より、OOの究極フォームについてですね。こちらはミスティと融合した黒薙が、リバティマテリアキーとマテリアブレイカーを用いて変身する究極の形態です。ただ、これは『異能共鳴』の力を増幅させて周囲のホルスに干渉させているもので、今回のように全体がホルスで構成されているものに対しては有利なのですが、例えばウロボロスに対してはそこまでの効力は発揮されないものでした。スペックはOO史上最高ですが、『Fang』の迦衣やモードジェネシス以外に対してはトランセンドとリベレートの二人がかりで戦った方が強いです。

 椋居に魔術を教えた相手などは謎に包まれたまま終わってしまいましたが、いずれそれも語られることであろうと思われます。語られなかったらごめんね 

 というわけで、次はVシネ枠!お楽しみに!墓脇でした!
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