仮面ライダーO   作:墓脇理世

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Ordinary Days「水面の情は揺れども消えず」

「……ごめん智衣(ともえ)。待った?」

「ぴぇっ!?……な、なぁんだ澪ちゃんでしたか……トモも今来たばっかですっ!!大丈夫ですっ!!」

 黒薙颯斗の妹、黒薙澪の朝は普段であれば早い。だが、今日はいつもとは違った。

 普段の彼女の朝が早いことは、ひとえに彼女が水泳部であることに起因する。明星学園の水泳部は誘宵学区の中でも特にレベルが高く、それ目当てで入学する生徒も少なくはない。

 しかし、今日は夏休みの中盤。学校も、部活も、何もない。

 さて、澪が待ち合わせしていた彼女は来栖(くるす)智衣(ともえ)。澪と同じく、明星学園水泳部に所属する女子生徒だ。そして、澪にとって数少ない『友人』でもある。

「そう?なら良かった。あんまり智衣待たせるとまた泣かれそうだし」

「なっ、泣きませんよっ!!トモをなんだと思ってるんですかっ!?」

「でも今まさに半泣きになってるじゃん。そういうとこだよ智衣。その反応が可愛いからみんな智衣のこと好きなの」

 澪は智衣の頭を撫で、微笑みながら彼女の頬をつついた。

「で、どこ行くの?別にどこでもいいけど」

「えぇっと……まず本屋行きたいんですよね……新刊が出てたはずなので……」

「ふ〜ん?なら本屋だね。さっさと行っちゃお」

 本屋に行きたいという智衣の言葉を聞くと、澪はその手を取り、エレベーターまで足を進める。

「……で、欲しい本って何?ワンピとか?それともヒロアカあたり?」

「な、なんでジャンプの漫画縛りなんですか……どっちも読んでますけど、今日はその辺じゃなくて、ですね……」

 智衣は新刊コーナーに目を向け、自分が求めている本を探し始めた。

「……あった。ありましたよっ」

「……で、何を探してたの?……随分と、肌色の多めな表紙だね」

「ま、まぁ、ギリギリ年齢制限かからないレベルの作品なので……」

 智衣が手に取った本の表紙を見て、澪は露骨に嫌そうな顔をした。銀髪ロングの美少女が半裸の男を何人も侍らせている表紙だから、無理もないといえばそうかもしれないが。

「……逆ハーレム、ねぇ。智衣はそういう願望あるんだ」

「いえっ、そういうわけではないんですよっ!!ただこれっ、主人公に責められるイケメンの表情がやけにえっちでっ、澪ちゃんも読んでみたらわかると思いますよっ!!」

「いや、あたしそういう女攻めモノ好きじゃないし……」

 心底軽蔑したような目で、澪は智衣と距離を取る。

「じゃっ、じゃあどういうのが好きなんですかっ!?」

「そりゃもう、オラオラ系の男子が無口なクール系女子に猛アタックするけど相手が無表情だから反応が読めなくてとかそういうのに決まってるでしょ?で、ヒロインが顔に出してないだけでめちゃくちゃ照れてたりするの」

「けっ!!純愛厨がよぉっ!!」

「逆ハーレムなんて不健全極まりないものよりはマシ」

「なっ……なにおう……っ!!」

 二人がバチバチと火花を散らし合う中、ふと、シャッター音が鳴った。音のする方を振り返ると、そこには。

「ふひひっ。お宝写真ゲットですぅ!!面白かったですよぉジェリーフィッシュ☆って痛い痛い痛い!!なんでわたしの頭叩くんですかぁ!!」

 報道部の部員にして澪の後輩、多々羅礼子がカメラを構えていた。

 


 

「……で、なんであなたがあたしたちについてきてるわけ?」

「暇でしたしぃ、何か面白いことでもないかなぁと思ったんですよぉ♡」

「今すぐ帰れって言ってるんだけど伝わらない?スキャンダル」

「えぇ伝わりませんよぉ?あっやめて叩かないで痛いから」

 多々羅は当然のように居座り、二人をファストフード店に連れ込んだ。

「そっ、それで、この子は誰なんですか?」

「わたしは多々羅礼子って言いまぁす♡世界一キュートで有能なジャーナリストってところでしょうか☆」

「はっ、はぁ……」

 疑問符を浮かべた智衣に、多々羅が答える。

「……っていうか、ジェリーフィッシュにも友達っていたんですねぇ。あの性格なんで友達いないと思ってましたぁ〜」

「……スキャンダル。黙ってくれない?」

「嫌ですぅ〜!!おしゃべりなムードメーカーがわたしなので黙るなんて選択肢ないですもん……あぁごめんなさい拳骨は流石に勘弁してくださぁい!!」

 拳を抑え、澪は大きなため息を吐いた。

「ね、ねぇ澪ちゃん……さっきからジェリーフィッシュとかスキャンダルとか……なに?」

「……なんて言えばいいのかな。ハンドルネームみたいなものかな?別に本名は知ってるけど、いまさら呼び方変えるのもアレだし」

「ですですぅ〜」

 まさか自分たちが怪人であるなどと伝えるわけにもいかず、澪と多々羅はなんとか躱す。

「……ふぃ〜。ごちそうさまでしたぁ。あっ、特に用はないんで帰りますねぇ〜。それでは失礼しまぁす♡」

 凄まじい勢いでハンバーガーを食べ終えると、多々羅は慌ただしく場を去った。

「な、なんだったんですかあの子っ……」

「あいつは何も考えずにああいうことするアホだからいちいち気にしなくても大丈夫だよ智衣」

「そ、そうなんですか……」

 困惑する智衣に、澪は感情を押し殺した声で答える。

「アホは放っておくとして……ゲーセンでも行く?アホの相手したらすごい疲れてストレス溜まっちゃった。発散したい」

「いいですねっ!!行きましょうっ!!」

「うわ、急にテンション上がるね……」

 口直しのようなノリで、二人はゲームコーナーに向かった。

 

「いぇーいフルコンボですっ!!見てました澪ちゃんっ!?」

 リズムゲームの最高難易度をなんとかクリアし、智衣は笑った。

 

「ふふ。楽しい。もふもふ天国だね」

 UFOキャッチャーでもふもふとしたぬいぐるみに囲まれ、澪は半ばトランス状態になった。

 

「ちょ、ちょっ!!手加減してくださいよぉっ!!」

「さっき純愛を侮辱した仕返しだよ、受け入れて」

 エアホッケーで、一切の加減なく智衣を追い詰め、澪は不敵に笑った。

 

「あぁ……楽しかったですねっ、澪ちゃんっ!!」

「うん。楽しかった。ありがと、智衣。今日誘ってくれて。嬉しかったよ」

 少し頬を染めながら、澪は素直に伝えた。

「そう言ってもらえて嬉しいですっ!!あっ、そうだっ!!今週の土曜日もまたどうですかっ!?」

 テンションの上がった智衣が問う。

「土曜……は、ごめん。土曜から一週間くらい旅行行くから…………」

「そ、そうでしたか……ごめんなさい…………」

 澪の告白を受け、智衣は気を落とす。

「うぅん、言ってなかったあたしも悪いしね。……あぁ、そうだ。これ、受け取ってくれない?」

 その様子を見て、申し訳なさそうに、澪はぬいぐるみを差し出した。

「いっ、いいんですかっ!?ありがとうございますっ!!大事にしますねっ!!」

 智衣の表情は一転し、喜びの色に染まる。

「うん。あんまりいっぱい持って帰れないし。……それじゃ、また」

 手を振り、澪は帰路についた。たまには、こんな日常も悪くないな。そんなことを、一人想いながら。

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