仮面ライダーO   作:墓脇理世

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ROAD TO CUBIC「『不朽』の焔は逆巻きて」中編①

「……なるほど。にわかには信じ難いけれど、理解はしました。それで、その子について検査してほしいと」

 二日後、朱鷺澤と久城は、周子を連れて執行衛兵本部を訪れていた。

「はい。お願いします、遠山先輩」

「まぁ、ちょうど時間もあることだし、構いませんが。……そうですね。その前に一つ、済ませておくべきことがありますし、そちらを先に済ませましょうか」

 遠山は、事務的な口調で淡々と言う。

「というのも、一昨日あなたから預かったものについてです。特にこれと言って特殊な物質で構成されているわけでもなく、内部にある球体も微弱なホルスが付着している程度のものでしたね。そのホルスもレーツェルちゃんのもので、大した危険物でもないと判断されました。こちら返却しますね」

 そう言うと、遠山はロベリア・ボールを朱鷺澤に返却した。

「で、その子……えぇと、周子ちゃん?の検査をすればいいんでしたか?わかりました、では行きましょうか」

 周子の手を握ると、遠山は検査室へと足を運ばせた。

「……ねぇ永治。もしあの子がごく普通の子ってことになったら、どうする?」

「そうだといいけど……そうだな。周子には普通の子として、普通に生きてほしいって思ってるんだ。『輪廻共存』とかロベリアとか、そういったものとは無縁な、平穏な世界を生きてほしいんだよね」

 何気ない久城の問いに、朱鷺澤は真剣な声色で答える。

「……だね。ボクも、そう思うよ」

「……?珍しいね?希望がそこまで他人を気遣うの。何か変なものでも食べた?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね。……ボクをなんだと思ってるのさ、永治」

「血も涙もないサディスト、かなぁ。なんか黒薙くんが前そんなこと言ってたよ」

 冗談めかして朱鷺澤が言った。

「……流石に、キミにそう言われると少し落ち込むなぁ」

「嫌なら普段の言動を改めればいいと思うんだよね……」

「でもそうしたらスキャンダル欲しさで購読してる連中が寄り付かなくなっちゃうからさぁ……」

 朱鷺澤の指摘を受け、久城は、言動を改めるかどうか、本気で悩み始めた。

 


 

「検査結果、出ました。ホルスを確かめてほしいとのことでしたが、どうやら彼女はホルスを生成する能力自体が欠けているようですね。同じ境遇の身として、少し親近感を覚えましたが……おっと失礼、今のは独り言です。忘れてください」

 それから十分ほど経ち、遠山が周子を連れて戻ってきた。

「ロベリア=ローゼンロードの片鱗すら見えませんし、放っておいても大丈夫でしょう。……が、念のため、何か異変が起こった場合は連絡してください。毎度本部にかけられても困るので、私の連絡先を教えておきます」

 そう言って、遠山は朱鷺澤に携帯を差し出した。二次元コードが表示されていたので、朱鷺澤もそれを読み取った。

「ありがとうございます、遠山先輩。……では、僕たちはこれで失礼しますね」

 トークアプリの友達欄に黄色い円環のアイコンが表示されたのを確認すると、そう告げて、朱鷺澤たちは執行衛兵本部を後にした。

 

 

「よかったね、周子。……と言っても、問題はまだ山積みなんだけどね。ひとまず一番の懸念は解決したとみてよさそうだ」

 帰路につく最中、久城が言った。

「そうだね……周子の戸籍とか、服とか、色々と済ませなきゃいけないこととかあるよね」

 通販サイトを眺めながら、朱鷺澤は答える。

「……というか、服もそうだけど髪もね?ろくに前も見えてないし、できるだけ早く美容院にでも連れて行かないと」

「そうだね。……そうだ。希望、明日空いてる?」

 久城の提案を聞き、朱鷺澤は問うた。

「ん?…………あぁすまない、永治から聞いてきてくれるとは思っていなくて一瞬戸惑ってしまった。丸一日空いてはいないけど、午後からなら頑張れば空けられるかな。どうすればいい?」

「お願いしたいけど……もしかして報道部の仕事?なら、僕に何か手伝えることとかない?」

「ない。それだけは断言できるね。まぁ心配しなくてもいいよ。午前でキッカリ全部終わらせて午後空けといてあげるからさ」

 その問いに、久城は、親指を立てて応える。

「……本当に大丈夫?別に急ぎの用ってわけでもないし、あんまり希望に無理させられないよ」

「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃあないか。けど、本当に大丈夫なんだ。それに、無理そうになっても蒼哉に押し付け……ごほん。心優しい副部長サマが引き受けてくれるから問題はないよ」

 どこかで草壁がくしゃみをする姿が浮かび、朱鷺澤は密かに彼を悼んだ。哀れ草壁先輩。希望がいつも迷惑かけてごめんなさい……。

「……まぁ、あの人が代わりにやってくれるなら、いっか…………」

 なんの話?首を傾げる周子の頭を撫でながら、朱鷺澤は呟いた。

 


 

「ありがとうございました、お世話になりました」

 その頃、病院では、瑠璃が退院の手続きを済ませていた。入退院に関する費用は、兄の口座から引き落とされるらしく、瑠璃は、ただ頭を下げるだけして外に出た。

「兄さんの遺産……大事に、使わないと…………」

 ATMから引き落とされた金額を見て、真剣な表情で言う。

「寮の契約はもう済んでるし……明日、新しい服でも買いに行こうかな」

 ぎこちない足取りで、瑠璃はまず新しい寮に足を運ばせた。

 

 

「やぁ、しずく。なにやら元気がなさそうだね?どうしたんだい?」

「察してくれると助かります詩帆……はぁ…………」

 同時刻、水削は友人である好田と、喫茶店で話していた。

「最近は特にため息が多くなっているように見えるが……ふむ」

 好田は顎に手をかけ、思案する。

「そうだ。明日、どこか遊びに行かないかい?私は、たまには童心に帰ってみるのも悪くないと思うよ」

「明日、ですか……まぁ、特に何もないですし、大丈夫ですけど」

 好田の提案に、水削は感情の籠っていない声で言った。

(まぁ、大方菱杖センセイ絡みだろうが……この顔をずっと見せられるのもなかなかに堪える。私にできるかは知らないが、なんとか笑わせてやるとしようじゃないか)

 

 

「さて、と。ひとまずこの仕事は終わりでいいか」

『ファング』のオフィスで、赤萩が言った。瞬間、携帯がブルっと震えた。罪科からの着信だ。

『ハル、明日あたり時間あるか?』

「あ?ちょうど暇だよ罪科さん。またなんかの仕事か?」

『ま、そんなとこだな』

 携帯越しに罪科が言う。

『どうやら、『フェアリー』はある程度の派閥で分かれてるらしい。前にコトを起こした椋居礼亜はどこにも入ってなかったはぐれものみたいだが……で、その一派閥が第七学区のデパートの裏にアジトを作ってるんだと』

「で、そこを俺に叩かせる、ってか?」

『正解!!よく分かってるじゃねぇかハル!!正確にはフユと一緒にだがな!!』

 罪科の大きな声に、思わず携帯を耳から離し、赤萩は苦笑した。

「……アンタとラキュラスはどうするんだ?別のところを当たるってか?」

『これまた正解だ、ハル!!俺たちは俺たちで調べることがあるからな、そっちに当たらせてもらう。じゃ、頼んだぜハル☆』

 軽薄な声が、突き放すように告げた。

「……めんどくせえが、まあ、これも仕事だしな」

 


 

「やぁ、待たせたね永治。仕事の半分は終わらせてきたよ。残り半分は偉ッッッそうに一週間も恋人と旅行してきたとかいうノロケクソ野郎に全部押し付けてきたから実質的に完了したと言っていいだろう」

「うん。お疲れ希望。……で、まずは美容院だっけ?」

「そうそう。ほら、行くよ周子」

 久城は周子に手を伸ばしたが、対する周子は朱鷺澤の後ろに隠れ、それを掴もうともしない。胃袋はがっちりと掴んでいるのだが、最初の自分を殺そうとしてきた女というイメージはいまだに払拭できていないようだ。

「やだ。えーじとがいい」

「……どうやら、ボクは周子に嫌われているらしいね」

「あれだけやって嫌われないと思ってるの、流石に面の皮が厚すぎない?」

「まぁ、実際面の皮の厚さだけで今まで生きてきたようなものだからね……」

 久城は自慢げに鼻を鳴らした。

「なんの自慢にもならないと思うけどね。……まぁ、早く行かないと予約の時間に遅れちゃうかもだし、少し急ごう」

 そうして、三人は美容院へと向かう。

 

 

 

「……頭がかるい」

 しばらくの時間が経ち、長かった髪を短く切り揃えられた周子は、どこか楽しげに笑って言った。

「おぉ……似合っているね、周子」

「うん。清潔感あるし、短い方が周子には似合ってると思うよ」

「……ありがと。うれしい」

 二人に褒められ、少し照れながら周子ははにかむ。

「じゃあ、次は服だね?ちょうどボク今ちょっとしたお金持ちなんだよね。どんな高い服でもこの希望サマが買ってしんぜよう。ホッホッホ」

「なんなのさそのキャラ……まぁ、遠慮はしなくていいよ。希望、あれで本当にお金持ちだからさ。ジャンジャン使わせて経済回させよう」

「うっ……なんだかすごい嫌な予感が……」

 一同は、第七学区のデパートに向かった。

 

 

「いや、あのさ永治?確かにボクはどんな高い服でも買うって言ったよ?」

「言ったね。だから僕も遠慮せずに周子に似合う服バカスカ籠に突っ込んだよ?」

「にしても限度があるだろって話をしてるんだけどわかってる?頼むからわかってて??」

 会計を済ませ、ウキウキで小躍りしている周子を尻目に、久城は朱鷺澤を問い詰めていた。

「だいたいさ、こんなに服あっても絶対使わないよね?あの子が成長するのかどうか知らないけど、仮にするとしたらどうするの?サイズ合わなくなって全部捨てるって?えぇ?どうなんだい永治」

「……ごめん。似合う服をって思って他に気を配れてなかった」

「はぁ……まぁいいけどさ。フリーマーケットなりなんなりで処分の方法はあるし。でも本当に気をつけてね?ボクがいくら小金持ちだからって残高が尽きることはあるわけだからね??」

 そう注意すると、久城は周子を呼び戻した。たったっと、朱鷺澤の背後に隠れるようにして、周子はそれに応えた。

 


 

「うわぁ……すごいいっぱい服買ってる人いる……お金あるんだろうなぁ……まぁ、わたしも兄さんの遺産あるし買おうと思えば買えるだろうけど……」

 朱鷺澤たちの買い物を見ていた瑠璃が、どこか呆れたような声色で言った。

「……まぁ、服なんてそんなにいっぱいあってもって話だけどさ」

 最小限の服だけを詰め込んだカゴをレジに持っていき、瑠璃は呟いた。

 

 

「……しずく。もしかして、つまらないかい?」

「いえ、楽しいといえば楽しいんですけどね……でもね詩帆……わたし、今年で28なんですよ……」

「まぁ、そりゃあ私と同い年だしね……」

 その頃、ゲームコーナーでは、大量のぬいぐるみの入った袋を抱えた水削が憂鬱そうな顔でベンチに座り込んでいた。

「わたし、実はもうぬいぐるみに囲まれてキャッキャできるほど若くないんですよね……そりゃあ可愛いなとは思いますけど……」

 ブツブツと呟く水削を見て、好田はこめかみを掻く。

(うーん……これはこれで、チョイスを間違えたかな……?でもしずく、別に格ゲーとかも上手くないし好きでもなさそうだしなぁ……)

 

 

 朱鷺澤たちや瑠璃、そして水削たちが各々の時間を過ごしている頃、赤萩とフローラは、デパートの地下を駆け回っていた。

「なんか妙なんだよな……こいつらが雑魚なだけか?」

「どうされました、陽希様?」

「いや、なんか妙だなって思ったって話だよ。俺は直接戦ったわけじゃねえから知らねえが、黒薙の話によると『フェアリー』の椋居は相当強かったそうじゃねえか」

 倒した『フェアリー』の成員たちを尻目に、赤萩は呟く。

「まあ、こいつらは単なる下っ端だろうし、あの組織の中でもはぐれ者だったらしい椋居と同列に語るのが間違いかもしれねえが」

『フェアリー』の基地の一つが、このデパートの地下にある。そう報告を受けて来てみたものの、それらしきものはどこにも見当たらない。下っ端の装備にその場所を示すものも見受けられなかった。

「そもそも、本当にこんなところにあんのかね?可能性としちゃゼロじゃねえかもしれねえが、これでなかったら骨折り損だぞ」

「というか、問題は情報源がどこかですよね。……信憑性のない情報で正規構成員を動かすほど罪科様も愚かではないと思いたいですが」

「罪科さん時々何考えてるかわからねえからなあ。実はあの人が裏で手を引いてる黒幕なんじゃねえかって何度思ったことか」

「あはは……その気持ち、少しわかります」

 その場にいない人間の陰口で盛り上がっていたが、次の瞬間、空気が一転したのを肌で感じ取り、二人はそれぞれの銃を構える。

『おいおい、俺のフッドがヤられちまってるじゃねーかよー』

 物陰から現れたのは、見覚えのない怪人だった。胸のエンブレムはシャトランのものと似通っているが、どことなく、それとは異なる雰囲気を醸している。

(……フローラ。ここは俺がなんとかする。お前はひとまず逃げろ)

(了解しました。……ご武運をお祈りいたします)

 怪人に聞こえないよう、小声で話し、フローラは全速力で来た道を戻っていった。

『おいおい待てよ逃がすわけねーだろ侵入者ー』

「そこをどうにかしてもらえねえか?『フェアリー』のメンバーさんよ」

 フローラを追おうとする怪人を拳銃で撃ち、赤萩は猟奇的な笑みを浮かべて言う。

『ほー。お前は確か……赤萩陽希かー。今は仮面ライダーをしているよーだが……昔は怪人だったそーだな?』

「だからどうした?俺とてめぇが同類だとでも言いてえのか?」

『いや、そーじゃなくてだなー』

 怪人は、気怠げな声で赤萩に語りかける。

『俺たちの派閥さー、今怪人の身近なやつ探してんだよー。あの女、お前の家のメイドだろ?いー例だとは思わないか?』

「……ハッ。つまりてめぇは、俺を倒してアイツを拐おうってわけか」

『理解が早くて助かるぜー。まー、黙って退いてくれんならそれに越したことはねーんだけどな?』

 直後、軽薄に笑う怪人の腹が、真紅の拳に撃ち抜かれた。

『Fire! Fire! This is the Burning Flame!!』

「そっちが俺の家族に手え出そうってんなら、こっちが容赦してやる必要もねえよな?」

 吹き飛ばされた怪人は、愉しげに笑う。

『ははっ。そーだよ。それを待ってたんだよ赤萩陽希!!全力で俺と遊ぼーぜ!!』

 そして、フレイマーと怪人が、同時に地面を蹴った。

 


 

『はっはは!!おいおいどーした!?思ってたよりおせーじゃねーかよ!!』

「チッ、ちょこまかと飛び跳ねやがって……ッ!!」

 ピョンピョンと飛ぶバッタ怪人──グラスホッパー・フェアリーシャトランに、フレイマーは苦戦を強いられていた。

(こいつの厄介なのは、このジャンプ力にこそある。こっちがどれだけ攻撃しても、あのジャンプで躱される。ならどうするか)

 右腰に外付けされたデバイスに目をやり、フレイマーは思案する。

(アイツが飛ぶより先にアイツをブッ潰す。それが最善策ってやつだろ。我ながら脳筋だが、今回は仕方ねえ)

 飛びかかるグラスホッパーの腹部を爪先で小突き、吹き飛ばすと、外付けの戦力拡張デバイス──マテリアチューナーに、ヒートアップチューンマテリアキーを装填した。

『The Flame Intensifies! Ignited Burning Flamer!!』

 フレイマーの纏う装甲が、青く変色していく。次の瞬間、先程までの倍の速さで、フレイマーが怪人に飛びかかった。

「悪りいな、確かにさっきまでの俺は遅かった。お詫びと言っちゃなんだが、ちっとばかし本気見せてやるよ」

 フレイマーの拳が振るわれる。グラスホッパーはそれを後方に飛ぶことで躱そうとするが、その拳はブラフ。気がつけば、グラスホッパーの視界からはフレイマーの姿が消えていた。

『な……ッ!?』

「そうビビんな、まだまだ序の口だからよ」

 背後から声が響く。振り向こうとするグラスホッパーの背が、クリムゾンウォリアーによって切り裂かれた。

『痛てーじゃねーかよ……ッ!!』

「知るかクソ野郎。喧嘩売る相手はちゃんと選んだほうがいいぜ?じゃねえと……俺みてえなやつにボコられるハメになるからよォ!!」

 反撃を間一髪で避けると、フレイマーはグラスホッパーと一定の距離を取り──回転を加え、クリムゾンウォリアーを投げ飛ばす。

『あぶねっ!?戦い方が野蛮すぎんだろー、それでもヒーローか!?』

「俺は一度もヒーローを名乗った覚えはねえよ。……いや、あったかもしれねえ。覚えてねえけど」

 グラスホッパーは自慢の脚力でクリムゾンウォリアーを蹴り返すが、がら空きになった胴に、膝蹴りがもろに突き刺さった。

「……それに、俺は『路地裏』だぞ?本来、てめぇと同じ暗がりに生きる人間だ。そんな人間に、高潔な戦いなんて期待してんじゃねえ」

『……ケッ。俺と同じ、かー』

 吹き飛ばされたグラスホッパーは、自らの足を支えにして、なんとか体勢を整えて、言葉を紡ぐ。

『……調子乗んなよ超能力者。誰もがお前らみたいに、望んで『路地裏』なんかに入るわけじゃねーんだよ……ッ!!』

「てめぇの事情なんざ知ったこっちゃねえよ。誰がそんな戯言聞くか。そういうの聞いて欲しけりゃ黒薙にでも頼むんだな。アイツはかなりのお人好しだ。まあ相談相手くらいにはなってくれるんじゃねえか?」

 グラスホッパーの瞳が赤く光る。片手に握られた銃がホルスを収束させ、それが両脚に移された。

『Grasshopper Drive……』

『言ってくれやがってよー……決めた、お前はここで殺してやるッ!!』

 飛び上がったグラスホッパーの蹴りが、フレイマーへと伸びる。しかし、黙って攻撃を受けるだけのフレイマーではない。

「ハッ。殺す、ねえ。お前みてえな雑魚にできるもんならやってみな」

『Heat-Up Tuning Break!』

 カウンターの回し蹴り。蒼い炎を纏った一撃が、グラスホッパーの渾身の攻撃をかき消し、その胸を貫いた。

 爆発が起きる。そこには、どこかで見たことのあるような顔の少女が倒れていた。

「こいつ……最近どこかで見たような……例の件で失踪してたやつの一人、だよな?」

 記憶を辿って、それが誰かを思い出した時点で、赤萩の携帯が鳴り始めた。画面に示された人物は遠山。

「こちら赤萩。どうした?」

『赤萩くん、今デパートの地下にいるようね?そこで何をしているかは聞かないけど、今すぐに上に向かって。ゲームコーナー付近で大量の怪人が出現した!!』

「了解……ったく、何が起こってやがる……ッ!!」

 フレイマーはため息とともに、エレベーターへと飛び込んだ。

 


 

「クソッ、どれだけ追ってくれば気が済むってのよ……ッ!!」

 無数のグラスホッパーに追われながら、フローラは焦りを孕んだ声で呟いた。

 一応、フローラにも多少なり戦闘の心得はある。それこそ、生体アダプタで変身している怪人ならば能力を使えば生身でも勝てる程度には。しかし、アレはどう見ても格上。その上、数も多い。さて、どう切り抜けるか?

「イメージを振り絞れ。骨の髄まで絞り尽くすイメージを……体現しろッ!!」

 フローラがホルスを解放すると、一面はたちまち凍りついた。足が自慢の怪人だろうと、接地しているところを凍結させてしまえば、その自慢の技も封じられる。

 だが、フローラの狙いは、そこだけではない。

 ジリリリリッッ!!

 デパートに備え付けられた防犯装置が、けたたましい爆音を放つ。

『ほー、考えたじゃねーか。一般人を逃がそーってコトだろ?おもしれーじゃねーか。が……俺の能力でフッドはいくらでも作れるんだよなー』

 しかし、背後に現れた新たなグラスホッパーが、冷淡に言った。

『確かお前も怪人の関係者だよな?なら決まりだな。お前にも俺のコレクションになってもらおーか』

「何が望みかなんて知らないけど……お断りね。私はあなた如きに穢せるほど安い女ではないわ」

『言うじゃねーか。怪人でもなきゃライダーでもねー、そんなお前に何ができるってんだ?』

 グラスホッパーは嘲るように笑う。

「そうね……時間稼ぎ、ってところかしら?もう完遂できたみたいだけど」

 対するフローラも、傲岸不遜に笑った。グラスホッパーが疑問の声を発しようとした瞬間、横合いから放たれた炎の矢が、地面に縛り付けられていた怪人たちの胸を貫いた。

「よく持ち堪えてくれたな、フローラ。……じゃ、こっからは俺に任せてお前は逃げな」

「はい、了解しました」

 走り去るフローラを見送ると、フレイマーはベネットを──フェニックスプファイルを握りしめる。

『チッ、面倒な相手に喧嘩売っちまったかなー……』

「てめぇに一つ聞きてえことがある。……そこに並んでたやつら含めてさっきのやつと同じ姿をしてたが、それがてめぇの能力か?」

『そーだとしたらどーする?ちなみにもー一個教えてやると、この俺すらも本体じゃねーよ。いくら雑魚を潰そーと、いたちごっこってやつだぜ』

 グラスホッパーは下卑た笑みで言った。次の瞬間、ゼロ距離で放たれた炎の矢が、その怪人を貫いた。

「そうかよ。……そうだとしても、目の前の敵を見逃してやるほど、俺は優しくねえんだわ」

 怪人を拘束し、遠山に位置情報を送り、フレイマーはさらに上へと走り出した。

 


 

「うるっさ……ッ!!なんだこの音……ッ!?」

 その頃、上層階では、朱鷺澤たちは困惑に包まれていた。

「これは……なるほど、防犯装置の音か。この音だとホルス系統か?……永治。キミは周子を連れて上から逃げてくれるかい?」

「いや、まぁ逃げるつもりではあるけど……希望はどうするの?」

「ボクはここに残る。安心しなよ、変身する道具は持ってきてるからね。……ほらさっさと行く。怪人に変身するところなんて恥ずかしいし人に見られたくないんだよ」

 地下から登ってくる足音を聞きながら、朱鷺澤は周子の手を強く握る。

「……危なくなったらすぐ逃げるって、約束してくれる?」

「あぁ、約束しよう。ボクの逃げっぷりを舐めるなよ」

 久城の笑みを見て、朱鷺澤はそのまま駆け出した。

「……なるほど。足音から察するに、地下から何かが迫っているのか。性質としては怪人に近そうだね」

 同時に、好田も足音の正体を考察していた。

「しずく、私は暴児止めとして避難誘導に回る。君は先に逃げるといい」

「……もし、本当にそれが怪人なら、詩帆だけじゃ対応しきれません。怪人の力があるわたしも、ここに残ります」

「……なるほど。いいけど、無茶はしないでくれるね?これ以上君が傷つくところは見たくない」

 レプリシューターを抜き、ここに残ることを宣言した水削に忠告し、好田は避難誘導に向かった。

『おーおー、お目当てが大量にいるじゃねーか!!好田詩帆に菱杖瑠璃、穐山朱音に時雨坂沙夜、来栖智衣もいるなー、さーてどいつから狩ろうか!!』

 下層から上ってきた怪人が、周囲を見渡して言った。しかし、持ち前のジャンプ力で飛び上がったところに二つの光弾が直撃し、グラスホッパーは撃ち落とされることになる。

「おっと、水削センセイじゃないですか。こんなとこで何を?」

「好田先生とたまの休暇を過ごしてまして。そこにコレですよ。面倒ったらありゃしません。……で、希望ちゃんは何を?」

「永治と買い物に来ていただけですよっと。それで、不運にもアレに出くわしてしまった。最悪の気分ですね。……そういうわけなので、足引っ張らないでくださいよ?キレたボクは何するかわからないのでね!」

「それはこちらの台詞ですよ、希望ちゃん。……行きましょう!」

 群れで襲いくるグラスホッパーを真っ直ぐに見据え、二人の銃口が火を噴いた。

「「解錠ッ!!」」

『Knight Charge……Open“Mirage”』

『Rook Charge……Open“Phantom”』

 怪人に変身した二人が、襲い来る無数の怪人へと飛び込んでいく。

 


 

「ははっ!!ボクの怒りを思い知れカスども!!」

「ストレスばっかで疲れてるんですよこっちも!!いちいち仕事増やさないでください!!教職は体のいい奴隷じゃねぇぇぇぇ!!」

 それぞれの能力を駆使し、怪人たちを翻弄しながら、二人は着実に敵を撃破していっていた。しかし、多勢に無勢。数の暴力の前に、いつまでも均衡を保っていることはできない。

「数だけ揃えた烏合の衆が……ッ!!」

『その烏合の衆に負けてるよーじゃ、負け惜しみにしか聞こえねーなー!!』

「あぁその通りだよクソッタレ……ッ!!」

 無数の怪人がファントムへと襲いかかる。打撃が、ファントムの装甲に多大なダメージを与えていく。

「希望ちゃんッ!!」

「大丈夫ですよ水削センセイ、他人より先に自分の心配してくださいなっとォ!!」

 久城の変身した怪人──ファントム・シャトランの能力。分身を生み出し、それと本人の中身を入れ替えることで、実質的にノーダメージで半永久的に戦闘を続けられるそれを用い、ファントムは間一髪で脱出した。

『でもこの数にゃー勝てねーだろ?大人しく負けを認めな!!』

「お断りします。……そちらこそ、死にたくなければ大人しく負けを認めて欲しいものですね!!」

 怪人が揃って飛び上がったところで、ミラージュはレプリシューターを天高く掲げた。

「弾け飛べッ!!」

『Replical Attack. Mirage Drive』

 放たれた光弾が、グラスホッパーに当たると同時に跳ね返り、幾度となく加速を繰り返し、敵の胸を貫いていく。

「それじゃあ……そろそろボクもキメないとね。センセイに見せ場を奪われるのも癪だし……」

『Replical Attack. Phantom Drive』

 二つの幻影が、代わる代わる入れ替わりながら、グラスホッパーの胸にハイキックを叩き込む。全力の一撃の余波が、後ろに控えていたグラスホッパーたちをも吹き飛ばした。

『ハハハッ!!おもしれーおもしれー!!けどよー、こっちも遊びでやってんじゃねーんだわ』

 倒れた怪人の群れを盗み見て、グラスホッパーの一人が言った。

『やっぱダメだよなー。雑魚ばっか捕まえてもロクな力は貯まらねーわけだしよー。フローラ=レーギンレイヴあたりを捕まえれりゃいー素材になったかもだけどなー』

 グラスホッパーは、軽薄な声色で続ける。

『まー、いー素材なら他にアテはあるしなー。朱鷺澤永治とか、状況さえ揃えば最高のポテンシャル出せるって話だしよー……あっ、ヤベ』

「あ……?」

 うっかり口を滑らしたグラスホッパーを、ファントムが睨みつける。

『いやー、これバラしちゃアイツに怒られるだろーし、今のは聞かなかったことにしてもらおーか!!』

「……キミが何を考えているかは知らない。知らないが、ここでキミを倒して目的から何から全部履かせる必要がありそうだね」

『まー、できねーだろーけどな?俺をさっきまでの雑魚と一緒だと思うなよ?』

 ファントムが、再び大技を放とうとレプリシューターを構える。しかし、その準備が整うよりも先に、グラスホッパーが懐に潜り込んだ。

「希望ちゃん逃げてッ!!」

 ミラージュの叫びが響く、しかし、その忠告が届く頃には、もはや手遅れ。

『Grasshopper Drive』

 緑色のオーラを纏った一撃が、ファントムの胸を撃ち抜いた。

 


 

『さーて、久城希望は始末するとして……その前に、お前も潰しておかねーとな。水削しずくセンセー?』

「……ッ、やれる、ものなら……ッ!!」

 怪人の視線が水削に向けられる。

『Mirage Drive』

 ミラージュは相手の攻撃を防ぐべく、空中に跳弾を放った。しかし、その合間を縫うように、飛び上がったグラスホッパーの蹴りが振り下ろされた。

『これで狩りは終了っと』

 重い一撃を受け、二人の変身が解かれる。

『それじゃー……死んでもらおーか』

 グラスホッパーの銃口が、二人を捉える。

「……私たちの眼前で、そんなことができると思っているなら大した心構えね?」

 だが、その銃口は、遅れて現れた影に遮られた。

『ほー、仮面ライダーが四人に、怪人が二人ねー。今の俺じゃー、流石に厳しいよなー?逃げよっと!!』

「待てコラ、さっきからチョコマカと逃げやがって!!一発ブン殴らせろコラ!!」

 逃げ出した怪人を追おうとフレイマーが駆け出す。しかし、脚力自慢の怪人は、フレイマーの追跡などものともせずに姿を消した。

「クソが……ッ!!」

「はいはい落ち着くっす赤萩先輩。……いいんちょ〜、まずどうするっすか〜?」

 怪人を取り逃がし、怒りに震える赤萩を、同じく変身を解いた有栖川が嗜める。

「まずは被害状況の確認ね。千聖、礼子ちゃん、そちらはあなたたちに任せるわ」

「了解ですぅ♡それじゃ行きましょうかコメット♡」

「あ〜また面倒なのに絡まれたっすね〜……私アルテミス様のそばにいたいのに……」

 多々羅を押し付けられ、有栖川はため息をついた。

「……希望。随分と無理したようね?」

「かな、え…………?」

「黙ってなさい。傷に響くわ。……悪いわね、私たちの到着がもう少し早ければ、あなたがそこまでのダメージを負うこともなかったのに」

 遠山は久城に肩を貸し、デパートの駐車場に無造作に停められた護送車まで運ぶ。

「水削さんも、あんまり無茶しないでほしいね。あなたが傷つけば、悲しむ人は必ず現れるんだから」

「ごめん、なさい。藤子ちゃん……」

「別に謝るほどのことでもない。じゃ、護送車まで運ぶので、楽にしていてほしいな」

 神蔵も、水削を抱き上げ、遠山に続いた。

「……赤ハネ。君が短気なのは元からとはいえ、先程のアレはどうにも様子が違って見えたが……何か、あったか?」

「何もねえよ。あのカスが何匹も湧きやがるからストレス溜まってただけだ」

 一方で、遠巻きにその光景を見ていた草壁が、赤萩に問いかける。

「そうか。……希望といい、水削先生といい、私が知る限り無茶をするタイプではない人種の彼女たちが無茶をしているのを見ていると、どうしてもな。君も気をつけろ赤ハネ。その焦りは、戦場では君の命すら奪う」

「……わかってる。昔死んだ仲間にも似たようなこと言われてんだよ。まあ、アイツが言ったのはお人好しを治せって話だったんだがな」

 草壁の言葉に、かつて死した仲間の幻影を見た赤萩は、重苦しいため息と共に吐き出した。

 


 

「いやー、危なかった危なかった。俺の危機回避能力ってやっぱすげーな!」

「おや、お帰りなさい玉虫(たまむし)。それで、今日はどれだけの者を攫ってきたのです?」

 バッタ怪人の本体──玉虫と呼ばれた金髪の青年は、薄暗闇の閉鎖空間でスポーツドリンクを飲み干していた。

「それがよー、バカな女二匹とセーギノミカタ様方のせーで一匹も釣れなかったんだよ、悪りーな相馬(あいば)センセー」

 玉虫の言葉に、相馬と呼ばれた白衣の男は眉を顰める。

「ほう。……ろくに仕事もしないのであれば、あなたは一体何をしに行ったのです?」

「かーっ、手厳しーねーセンセーは。ただ、一匹面白そーなやつを見つけたんだ。それで今回は勘弁してくんね?」

 玉虫は苦笑いしながら、相馬に自らの携帯の画面を見せた。

「これは……ふむ。銀髪に、赤と金のオッドアイ……ロベリア=ローゼンロードですか。それにしては随分と……幼い気がしますが」

「だろ?そんで、こっちがホルスグラフィーを通して撮った写真だな。一箇所だけ、すげーホルス出してんだろ?」

 続いて玉虫が出した写真は、円状の一箇所だけが強烈なホルス反応を起こしているものだった。二つを見比べて、相馬は首を捻る。

「前者から察するに、例のボールとこの少女が合わさって起こっているのでしょうか。なるほど、そうであれば話は早い」

「それから、こいつは朱鷺澤永治に手を引かれてた。監視カメラの映像も覗いてみたが、どーやら朱鷺澤永治とかなり近い関係らしーな?」

 玉虫の笑みが、より歪なものに変わっていく。それに合わせるように、相馬も下卑た笑みを浮かべた。

「……なるほど。それは、良い。であれば、炉にはピッタリでしょう」

「あー。俺たちの力を高めて、さらに革命を起こすだけの力になる。楽しくなってきたじゃねーの!!」

 そして、二人は悪意を一つに束ねた。

「菱杖瑠璃に仕込んでおいたナノチップから、彼女の居場所は容易に特定できる。それだけでは足りないとは思っていましたが、アレがいるとなれば僥倖でしょう」

「あー、あの怪人事件の根幹のゴミクズどもだ。見せしめにゃちょーどいーか。大多数の記憶を無くした奴には響かなくても、記憶を持ったままのやつの記憶に刻みつけりゃいー。それじゃ始めるとしよーぜ、俺たちの戦いを」

 


 

「……よかった。無事だったんだね希望。それで……約束破ったことについての謝罪は?」

 翌日、久城が入院することになったと聞かされるなり、朱鷺澤は表情を変えて病院へと走っていた。

「……ごめん永治。まさか、敵があれだけの強さを持ってるとは思ってなかったんだ」

「……もし遠山先輩たちが間に合ってなかったら、希望は今ここにいなかったかもしれないんだよ。なのに、なんで君はそんな軽い言葉を吐けるの?ふざけないでよ、君から連絡がなくて、僕がどれだけ心配したと思ってるんだよ!!」

 寝かされた久城に詰め寄り、朱鷺澤は声を荒げる。

「……だめ。ケンカしないで」

 そんな朱鷺澤の裾を、周子が引いた。

「……ごめん、希望」

「いや、いいんだ永治。元はと言えば何も言わずに無謀な戦いに挑んだボクが悪いわけだし……ボクに文句を言う資格はないよ」

 久城は伏し目がちに言う。

「ただ、あの怪人が一つ気になることを言ってたんだ。永治なら、状況さえ整えば最高のポテンシャルを発揮できるって……何言ってるかわからなかったけど、あの目は、確実に何か良くないことを企んでいる目だった。それだけは伝えておきたい」

 そして、怪人の言葉を、朱鷺澤に伝えた。

「……わかった。せいぜい夜道には気をつけるよ」

 

 

「水削さん……ご無事で何よりです……!!」

「しずく、また君は一人で無茶をしたそうだね……」

 その頃、水削のもとにも同様に、見舞いの客が訪れていた。

「心配かけてごめんなさい。詩帆、瑠璃ちゃん……」

「あぁいや、私は君を責めようとは思っていないよ。むしろ君をこんなにしたあのゲス野郎をこの手でグチャグチャに叩き潰したいと思ってるくらいだしね。……まぁ、怪人に対抗できる術を持たない私が何を言っても、粋がってるだけの弱者にしかならないけれどね」

 自嘲的に、好田は笑う。

「……それはともかく、二人とも、これからはあんまり外に出ない方がいいかもしれません。あの怪人たちは、二人ともを狙っているようでした」

「ど、どういうことですか……?」

「どういうも何も、そのままです。……あいつらは、二人の身を狙っているようでした。目的も何もわからないけど、捨て置くにはあまりに危険すぎるでしょう?」

 水削が、二人に怪人の狙いを伝えた。二人は神妙な表情で思案しだした。

 

 

 しかし、そうして生まれた静寂は、次の瞬間に打ち破られることになる。

 


 

『おーおーやってるみてーだなー怪人のお仲間の分際ででけーツラしやがってよー!!』

 グラスホッパーが、再び水削の前に姿を現した。

『さーて、今日は仕事がつかえてるんでなー、手っ取り早く菱杖瑠璃回収して終わらせっか!!』

 グラスホッパーの手が、瑠璃へと伸ばされる。直後、その腕に電撃のようなものが走った。能力で腕力を強化した好田が、全力で手刀を打ち込んだのだ。

「瑠璃さん、逃げるんだッ!!ここは私が食い止め……ッ!!」

『させるわけねーだろバーカ!!お前みてーな雑魚にゃもー用はねーんだ、さっさとくたばりな!!』

 無造作に腕が振るわれ、好田の体が宙を舞う。

「ご、ば……ッ!?」

『あー悪りー悪りー。力の加減が難しーんだわ。まーでもお前も怪人のお仲間なわけだし、多少痛い目見ても自業自得ってことで頼むわ!!』

 血を吐く好田の腕を踏みつけ、笑う怪人。腰を抜かして震える瑠璃に視線を向けた。

『さーて、それじゃ行こーぜ菱杖瑠璃。お前の兄貴の犯した罪を代わりに償う時が来たぜ!!』

「や、やだ……っ!!はな、してよ……っ!!」

『恨むならお前のバカな兄貴を恨むんだな!!さーて行くぞー!!』

 グラスホッパーの腕が瑠璃を締め上げる。直後、炎の矢が、その懐を射抜いた。

『おーっと赤萩陽希、お前の相手してる暇はねーんだよ、さっさと消えな!!』

 だが、グラスホッパーは怯みもせず、同じ姿の怪人を三人ほど呼び出し、フレイマーにけしかけた。

「この野郎……ッ!!」

『ハハッ!!病院で騒ぐなんて非常識をヒーロー様ができるわけねーよなー!?』

 気絶した瑠璃を抱え上げ、グラスホッパーは逃走する。

「クソッタレ……ッ!!ベネット、周囲の被害をゼロにして片付けるぞ!!」

《おまえ無茶言うなァ!?わかったよ、ゼロ距離で胸をブチ抜け!!》

 ベネットの言葉を受け、フレイマーはグラスホッパーの胸にその切先を突きつけた。マテリアキーは装填しない。相手がリアクションを起こす寸前で弦を引く。

『がッ!?』

 残りの二体も同様の手段で倒し、フレイマーは逃げ出した怪人を追う。

「てめぇ!!もう逃がさねえぞ!!チョコマカチョコマカと逃げやがって!!」

『はーめんどくせーなー!!つーかアレ秒で倒したのかよ!!やるじゃねーか!!』

 グラスホッパーは手を叩き、瑠璃を投げ飛ばした。横合いから飛び出した二人のグラスホッパーが、そのまま瑠璃を連れ去る。

『行かせねーよ?お前はここで俺に倒される。自分の欲で怪人に手を出したクズにゃ、誰も救えやしねーんだよ!!』

「そうかよ。……ベネット、あいつらを追えッ!!」

「了解っ!!」

 弓から人に姿を変え、ベネットは飛び上がり、グラスホッパーたちを追った。

『無理だな。どー足掻いても追いつけやしねー。そんでもって、弓のないお前は俺と大差のねー性能だ。詰みだな。……ってなわけで、ここで死んでもらおーか』

「ハッ、上等だ。なら俺は、ここでてめぇを返り討ちにしてやっからよォ!」

 そして、フレイマーは拳を握り、グラスホッパーの懐へと潜り込んだ。

 


 

 その頃、朱鷺澤と周子は寮に戻ろうと病院の外を歩いていた。

「……えーじ、ぼくたち、どうなっちゃうの?」

「どうにもならないよ。……というか、させない。何があっても、君だけは絶対に守り抜いてみせるから」

 首を傾げる周子の言葉に、自分でも驚くほど気障な台詞が、口をついて出た。だが、次の瞬間、その言葉を脅かす影が現れる。

『絶対に守り抜いてみせる、ですか。いやはや、随分と泣かせてくれるではありませんか。……まぁ、それは今から有言不実行に変わるのですが、ね』

 背後に強烈な悪意を感じ、いつでも周子を守れる体勢で、朱鷺澤は飛び退いた。

 そこに佇んでいたのは、シマウマのような外見をした怪人。その右手にはバターナイフを思わせる長剣が握られている。

「……どちら様ですか?」

『答えるとお思いで?』

 朱鷺澤の問いかけをスパリと切り捨て、怪人──ジブラ・フェアリーシャトランは笑う。

『こちらからも質問ですが、私がここに来た理由くらいは分かっていますか?』

「はい、痛いほどに分かってますよ……ッ!!」

 朱鷺澤の手に、じめっとした汗が浮かぶ。確かに自分が狙われているとは聞いていたが、いくらなんでも早すぎないか?

『いえ、あなたは何も分かっていない。そこの少女を守ると口では言いながら、あなたの手足の動きはまず自分が逃げられるようにしているようですが……ふむ。あの男が口を滑らせたのを人伝に聞いたわけですか』

 値踏みするような視線に、思わず朱鷺澤の足が震える。

『正直に言って、あなたを狙っていたのは昨日までの話です。もっと良い標的を見つけたものでしてね。……そう。そこの銀髪の少女ですよ。怪物の分際で純真無垢な少女に擬態する巨悪を、せめて私たちで利用して差し上げようというわけです。これで、あなたの足りない頭にも理解できますね?』

 ジブラが長剣を突きつける。あと数歩でも進めば、その刃先は朱鷺澤の喉笛を貫くだろう。

『……とは言え、私たちの理念に則れば、あなたも始末しなければならないわけで。さてどうしましょう?大人しくそこの少女を渡し、残り僅かながら安穏な日常を送るか。ヒロイックに私に立ち向かい、何も成さずに死ぬか。三秒待ちましょう。せめて懸命な判断を期待しますよ?』

 ジブラの声が脳内に反響する。こんなのはほぼ一択だ。何を迷ってる?何よりも大切なのは自分の命だろ?周子を差し出せ。そして本土のどこかに逃げ帰れ。そうすれば、生き延びられるんだぞ?僅か三秒の間に、そんな言葉が朱鷺澤の脳裏に浮かんだ。

『……時間です。答えを聞きましょうか』

「……決まってますよ。クソ食らえだ、ゲス野郎」

 好戦的な笑みを浮かべ、朱鷺澤は中指を立てる。それと同時に、周子の手を引いて走り出した。

『……ハァ。そこまで馬鹿だと哀れみすら覚えますね。手っ取り早く元怪人のゴミを処分できると考えればそちらの方が楽ではありますが、ね』

 ジブラも同時に走り出し、その長剣を振るった。刃先が、朱鷺澤の背を掠める。

「あ……ッ!!周子、逃げろッ!!」

 地面に倒れ込みながら、朱鷺澤は叫ぶ。周子は、目に涙を浮かべながら頷いた。

『泣かせますね、怪人風情が。救いようのないクズの分際で情だの愛だのを囁き合う様を見ていると、殺意すら湧きます』

「はは……ッ、怪人って意味なら、あなたも同じでしょ……ッ!?」

『毒を以って毒を制すことも時には必要なのですよ。安心してください。全ての怪人とその近しい人物を殺し尽くしたのち、私はあの男の首を刎ね、自らの腹を切るつもりですから』

 怒りを孕んだ声で見上げる朱鷺澤の手首を踏みつけ、ジブラは笑う。

『ではあの少女を捕らえるとしましょうか。あなたを殺すのはそれからです。……だから、死に急ぐんじゃありませんよ』

 足首を掴む朱鷺澤の手を蹴り飛ばし、ジブラは周子を捕らえるために走り出した。

「や、だぁ……っ!!はなして、よぉ……っ!!」

『出来ない相談ですねロベリア=ローゼンロード。今のあなたに罪はなくとも、かつてのあなたの犯した罪を償う義務はあるわけですから……まぁ、恨むならかつての自分を恨んでください』

 周子を片腕で拘束しながら、ゆっくりと、朱鷺澤に迫る。

『さぁ……では、せいぜい無惨に死んでください』

 長剣が、朱鷺澤の首を断とうと振り上げられる。周子の絶叫が響き、その音を割くようにして長剣が振り下ろされた。しかし、

 


 

『まったく……君は何をしてるんだい?彼女は僕の器なんだから、ちゃんと守ってくれないと』

 真っ白な空間で、紫の影がそう呟いた。

『……仕方ない。君に死なれても困るし、今だけは力を貸してあげよう』

 

 

「──輪廻。途絶えろ」

 

 

『……なに?どういう、ことだ?』

 ジブラは、機能を失った自身の右腕を見つめ、呆然と呟いた。

『まさか、あなたが能力を使ったとでも言うのですか……ッ!?』

 そして、ハイライトのない目をした朱鷺澤に問うた。しかし、朱鷺澤は答えない。

『──チッ、あのボールを奪おうと思っていましたが……作戦変更、今は退くとしましょう……ッ!!』

 ジブラは、左手に握った銃から煙を吐き、姿を消した。それと同時に、コントロールを失った朱鷺澤の体が倒れ伏した。

 

 

『……あー。あいつ逃げやがった。悪りーな赤萩陽希、お前の相手はまた今度に持ち越しだ!!』

「待ててめぇ!!この期に及んで逃げるってのか腰抜け!!」

 同時に、グラスホッパーもまた、ジブラの逃走を感じ取り、逃げの態勢に入っていた。

『だから悪りーなって言ってんだろ!!決着はまた今度だ!!その時まで互いに死ぬんじゃねーぞ!!』

「一人だけスッキリしたみてえに言ってんじゃねえ!!独りよがりなセックスしかできねえ素人童貞かてめぇ!!」

『ハハッ!!なんとでも言いな!!今回俺に殺されなかっただけお前は得したんだからよ!!』

 追い縋るフレイマーを振り払い、グラスホッパーは飛び去った。

 


 

「……ったく相馬センセーよー。俺が赤萩陽希といー戦いしてたとこに水差すんじゃねーよ」

 本拠地に戻ってきたグラスホッパーこと玉虫は、膨れながら白衣の男・相馬に言った。

「私に言われても困りますね。いやはや、まさかあちらが能力を使うとは。椋居氏の件で一度使ったとは言っていましたが、ここで再びその兆候を見せるとはこの私にも予想できませんでした」

「じゃあ何なら予想できんだよあんた……じゃー何だ?そいつ捕まえたはいいけど狙いは朱鷺澤永治に戻す感じか?」

 右腕を治療しながら言う相馬に、玉虫は呆れたような声で問う。

「いえ、彼女をスキャンにかけましたが、あのボールさえあれば、彼女ひとりで充分です。そして、あのボールのホルスはこちらに記録されている。十割とは行かないまでも、八割程度ならあのホルスを再現できることでしょう」

「……なるほどな。つまり、完全勝利(ビクトリー)ってわけだな?」

「……まぁ、言いたいことはありますがそのような認識でいいでしょう」

 玉虫の言葉に、相馬はため息を吐きながら答える。

「ホルスの再現が完了し次第、コトを起こしましょう。幸い今は黒薙颯斗もいない。椋居氏のような失敗を犯す恐れはありません。──『フェアリー』のドクトリンに則り、正義を執行しましょう」

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