「状況を整理しましょう」
執行衛兵本部に赤萩たちを集め、遠山が言った。
「水削先生の病室に現れた例のバッタ怪人が菱杖瑠璃を攫った。その過程で好田先生が重傷を負ったと」
「あぁ。……すまんスト緑。菱杖の妹を救えなかったのは、赤ハネが足止めを食らっている最中にヤツに追いつけなかった私の責任だ」
草壁が申し訳なさそうに言う。
「いえ、誰の責任とかそういうものではないわ。強いて言えば、鮎川悠翔という前例がありながら病院に怪人が現れることを予測できなかった私の責任よ。あなたが気に病むことではないわ」
遠山はそう言うと、一息ついて手元の缶コーヒーを飲み干した。
「続いて、帰宅途中の朱鷺澤永治がシマウマ怪人に襲われ怪我をし、同行していた少女──ええと、朱鷺澤周子と呼べばいいのかしら?彼女が誘拐された。その際、朱鷺澤永治が再び能力を使用した形跡があり、それによってシマウマ怪人が撤退したようね」
咳払いののちに、遠山はそう続けた。
「朱鷺澤永治の能力云々は今はそこまで重要視すべきことではないわ。いや、そこそこ重要な事項ではあるのだけれども。……赤萩くんの証言通りならば、件のバッタ怪人とこのシマウマ怪人は繋がっている。そうよね?」
「あのバッタ野郎が言ってたのは『あいつが撤退したから俺も退く』とかそんなだった。そのタイミングが同じならそういうことなんじゃねえか?」
落ち着き払った声色に僅かな怒気を滲ませ、赤萩が言う。
「……ともあれ、まずは菱杖瑠璃・朱鷺澤周子の両名の救出ね。私は上にホルス情報提供を要請してくるわ。それから……ライダー・怪人ともに、いつでも出撃できるよう準備を整えておいて」
そう言い残して、遠山は執行衛兵本部を後にした。
「……朱鷺澤くん。聞いているのかしら朱鷺澤くん。私もそこそこ忙しいから早く用事を済ませたいのだけど朱鷺澤くん。……やっぱり聞いてないわねこいつ」
シマウマ怪人に襲われ負傷した朱鷺澤は、その傷がそこまで深くなかったことから、執行衛兵本部の医務室で休ませられていた。一日が経ち、一人で考え込んでいたところに、芯の通った凛とした声が耳に入ってきたが、それを言葉として認識できるほど、今の朱鷺澤は落ち着いてはいなかった。
「……あ。遠山先輩、ですか?」
「えぇそうよ遠山先輩よ。先輩を無視するなんていい性格してるじゃない後輩。……で、私が来た理由はわかってるわね?」
それから数分経ち、ようやく朱鷺澤は視界に映った女性の姿に気がついた。
「……僕の能力のこと、ですか?」
「正解。なかなか鋭いじゃない。私も家族に等しい相手を拐われて気が気じゃない後輩にこんなこと言うのも鬼だなと思ってはいるのだけど、そういう綺麗事を通せるほど落ち着いた状況じゃないのよ。……だから、聞かせて。場合によっては、あなたも奴らに身柄を奪われるかもしれない」
いつになく深刻な表情で、遠山は朱鷺澤に詰め寄る。
「……話してもいいですよ。先輩が交換条件を飲んでくれるのでしたら、ですけど」
「交換条件?どんな条件を提示するつもりかしら?私に飲める要求なら……」
「……周子を助けに行くとき、僕も連れて行ってください」
遠山が言い終える前に、朱鷺澤が言い切った。
「……正気?あなたには戦闘能力もなにもないのよ?その能力だって今は使えないのでしょう?生徒をすすんで危険に晒すほど、私は腐っていないわ」
「正気です。能力が使えないなら、別に戦う手段があればいいんですよね。プロトマキナでしたっけ?あれを貸してください」
「……無茶よ。あれは私や黒薙くんのように鍛えている人間が振り回されずに乗りこなせるもの。あなたのような素人が使っても、スペックに振り回されるだけ」
「……そんなことわかってます。それでも貸してください。それが無理なら情報の提供はしません。情報が不十分なまま無策で敵に突っ込んで屍の山を築き上げてください」
朱鷺澤は、真剣な表情で遠山を睨みつける。
「……強情ね。どこぞの白髪頭とそっくりだわ。……わかりました。不服ではありますが、あれをあなたに貸しましょう。なので情報を提供してください」
「ありがとうございます。こんな無茶を聞いてもらって」
朱鷺澤は安堵の笑みを浮かべる。
「……僕が怪人に殺されそうになったとき、脳内にロベリアの声が響いたんです。周子がロベリアの器だとか、僕に今死なれたら困るとか、そんなことを言ってました。そしたら意識が消えて、気付いたらここに寝かされてて」
「意識が消えている間に、ロベリア=ローゼンロードがあなたの体で能力を使用した。そういうことね?」
「はい。多分そういうことだと思います。……やっぱり、あのボールが原因なんだと思いますよ」
「……でしょうね。……ありがとうございます朱鷺澤くん。では、私はこれで失礼します。後からあれを持ってくるので、今はしっかりと休んでください」
遠山はそう言って、医務室を出た。
(……以前の報告から、彼が命の危機に瀕した際に能力が現れている。なら、戦場で彼を瀕死にさせれば、能力は使えるか?いや、暴走のリスクもある。ただ、彼の言葉を信じるなら、彼は能力を使用する際、黒薙くんとレーツェルちゃんのような融合状態にあると見ても良さそうね)
地下に伸びる階段を下りながら、遠山は思案する。
「……なら、亜矢ちゃん用にと作ってたアレ、使えるかしら?試してみる価値はありそうね」
「……水削先生。すみませんでした。菱杖瑠璃を助けられなくて」
その頃、赤萩は水削のもとを訪れていた。
「いえ……あなたにとっては憎い相手の妹です。助けようとしてくれただけで十分ですよ」
無理に明るい表情を作り、水削は言った。二人の間に、沈黙が生まれる。
「……ごめんなさい。こんなこと言っちゃダメだってわかってるんですけど、私はあなたを恨んでいました。透流くんがひどいことをしたのは知ってますよ?でも、透流くんを殺したあなたを、私は許しきれなかった」
沈黙を打破するように、水削が口を開いた。
「……でも、瑠璃ちゃんを助けるためにあそこまでしてくれた。……私が思ってたよりも、あなたは善人だった」
「……俺は、善人なんかじゃないです。自分が助けたいと思った相手だけを助けるエゴイストなんです。ヒーローなんて名乗ることもおこがましいくらいなんですよ」
「それでも、あなたの私情は、憎い相手の肉親を救いたいと願った。……違いますか?」
見透かしたような目で、水削は笑う。
「……買い被りすぎですよ、先生。俺はそこまで他人のことを考えてない。単純に、ただ目の前で誰かが拐われるのを見過ごすだけなのが嫌だっただけです。……昔、妹が誘拐事件に巻き込まれたことがあったんで、あの時の思いを他の誰かにもさせたくないってだけなんです」
「……なら、赤萩くんは立派なヒーローじゃないですか。誰であっても、目の前で苦しんでいる人がいたら助けるんでしょう?」
「違います。……先生がどう考えていようと先生の勝手ですけど、そうやって俺を持て囃すのはやめてもらいたいですね。こんなこと言うのもなんですけど、結構不快なので」
不快感を露わにした顔で、赤萩は言った。
「……ご、ごめんなさい。赤萩くんの気持ちを何も考えずに無神経なことを言ってしまって」
「いや、別に謝らなくてもいいんですよ。……じゃ、俺は帰ります。時間使わせてすいませんでした」
そう言うと、赤萩は病室を退出した。その後ろ姿に何かを覚えた水削は、ベッドを抜け出した。
(彼はああ言っていましたが、間違いなく、彼はヒーローとされるものなのでしょう。……あんな根っこからの善人に、わたしはなんで酷いことを思ってしまったんでしょう)
水削は今でも、菱杖を殺した赤萩を許すつもりはない。そして赤萩にも、そのことを許されるつもりはない。しかし、この短いやりとりで、水削の中の赤萩像が明確に変化した。墓地で彼の姿を見た時に思ったことを撤回する。
(……わたしにも、何かできることがあるとするならば。立ち上がらなければ、あの子の兄の恋人として格好がつきませんよね)
上着を羽織り、水削は足を動かす速度を速めた。
「よーし、これでホルスはだいたい再現できて……んのか、コレ?」
「えぇ。できているはずですよ。これを私たちにフィードバックすることで、間違いなく私たちは強化される」
「はー、そーゆーモンかね」
その頃、玉虫と相馬は、ラボでそんな言葉を交わしていた。
「では腕に装置をつけてください。今からそこに炉心二人のホルスを注入します。その装置が生きている限り、枷をつけている二人からホルスが流れ込み続ける。身体にも相当の負担がかかりますが、それに見合うだけのリターンはあることでしょう」
「おーよ……ッ!?」
相馬に言われるがまま、玉虫は装置を腕に装着する。次の瞬間、莫大なホルスが体内に放出され、耐えきれずにその口から血痰を吐き出した。
「が……ッ、アァァァァァァッッッ!!」
「その痛みこそ力の代償。鎮痛剤も注射しましょう。左腕を出してください」
悶えながら、玉虫はなんとか左腕を差し出した。相馬はその腕を固定し、血管に鎮痛剤を注射する。
「はー……こりゃ、やべーな……!!」
「えぇ。あなたの反応を見ていると、自らにも襲いかかる痛みに身震いさえします。鎮痛剤を先に注射してから填めるとしましょう」
左腕に鎮痛剤を打ち、しばらくして、相馬もその装置を身につけた。
「……えぇ。脳裏が痺れますね。感覚が研ぎ澄まされていく。今ならば、なんだってできる気がする」
目をひん剥き、相馬は言う。
「……作戦の決行は明日の十三時。数多の怪人を生み出した明星学園を、我々の手で滅ぼすとしましょう」
『ホルス反応確認。場所は……明星学園!?各員、今すぐに急行して!!』
翌日の十三時ちょうど。明星学園にて莫大なホルス反応が検出された。
「ホルスの残滓を辿れば、奴らがどこから来たかわかる。明星学園に現れた反応は数は多いけど、そのホルスは一人のものを他人に移しているに過ぎない。であれば、その出所にもう一人がいるはず」
その頃、執行衛兵本部の地下ラボで、遠山が言った。
「千聖。それ、あとどれくらいで完成しそうかしら?」
「あと二十分あれば上等っすね。……なんで私はここに残るっすけど、いいんちょ〜は連中の根城攻めた方がいいんじゃないっすか?」
朱鷺澤用にドライバーを改造していた有栖川は、目線も動かさずに言う。
「元々そのつもりよ。……地図データは渡しておくわ。終わり次第全速力で届けに来て」
「了解っす。……そんじゃま、いっちょ本気出しますか」
手だけを動かし、有栖川は遠山を見送った。
「悪いわね朱鷺澤くん、少し遅れたわ。……こちらがマキナドライバーとイグニッションオープナーよ。それなりのスペックを発揮できるけど、危険は伴うものと理解しておいて」
「わかってますよ遠山先輩。……ありがとうございます、こんな無茶聞いてもらっちゃって」
それから少しして、遠山は装甲車の内部で待機していた朱鷺澤にマキナドライバーを差し出した。
「……まったく、ズブの素人を戦場に引きずり出すとは、ついに頭がおかしくなったかと思ったぞ」
「……言ってくれるわねヒョロガリモヤシ。一発ブン殴られたいのかしら?」
「……やめておこうスト緑。死人が出るぞ。君のようなゴリラ女に殴られては私でなくとも無事ではいられまい」
「ははははは終わったらマジでブン殴るわお前覚悟しとけよ」
額に青筋を浮かべ、遠山はエンジンをかける。自動運転システムが起動し、装甲車が動き始めた。
「赤萩。別に私は構わないんだけどさ、この数を二人だけで相手できると思うか……?」
その頃、赤萩と神蔵は、二人で怪人の群れと対峙していた。
「いや、神蔵さん、あれを二人で相手するわけねえだろ。何考えてんだアンタ」
「だよね?いやぁ二人だけであれはいくら私でも厳しいかなぁと……」
「一人でだぞ?俺は本体を叩きに行くから、雑魚はアンタに任せた!!」
二人で怪人たちの相手は流石に……と文句を垂れる神蔵を置いて、赤萩はバイクで怪人の群れに突撃し、モーセのように道を切り拓いて進んでいく。
「ハァ!?いや待て、二人でも厳しい数だって言ったそばから一人にする奴があるか普通!?……あぁもうわかったよ!!やりゃいいんだろやりゃあ!!」
半ば自棄になった神蔵はドライバーを構え、怪人たちと向き合った。
「……ありました。どこに行ったかと思いましたよ」
水削は、積み上げられた書類の山から、木の小箱を発見していた。菱杖が赤萩に殺される前日に、突然押しかけてきた菱杖が置いていったものだ。もしも菱杖が敗れ、それから、ライダーたちだけでは対処しきれないほどの事態になった時に渡すよう言われていたものだった。
「これは……なるほど、そういうことでしたか……透流くん、ありがたく使わせてもらいます」
そう言って、水削は家を出て、停めておいた車に乗り込んだ。低身長の水削にも扱えるように作られた、特別製のオートマ車。菱杖とも幾度となくドライブを重ねた車体を、今は彼が遺したものを紡ぐために、動かそう。
『おー、神蔵藤子か。お前が強いってことはよーくわかってるが……一人で強化された俺たち全員相手にってのは流石に無理がねーか?』
「ははは、私も同感だよ。本来ならあの赤いバカが一緒に戦うはずだったのに、君たちの本体を倒しにと行ってしまった」
グラスホッパーのうちの一人が言った言葉に、神蔵は苦々しい顔で頷く。
「ところで、君たちは本当に人間か?不自然なほど似通ったホルスに、寸分違わぬ話し方。まるでボタン一つで大量生産された人造人間のようだけど」
そして、神蔵は挑発的な笑みを浮かべて言った。
『あー、そー思うのも無理はねーかもな。だが安心しな。俺たちは全員怪人に変身してるだけのただの人間だ。……まー、ちょーっと本体の能力使って意識とホルス埋め込んではいるけどな』
対するグラスホッパーは、悪びれもせずに答える。
『別に誰彼構わず手駒にしてるわけじゃねーぜ?俺の本体が能力を仕掛けてるのは『フェアリー』の俺の部下どもと、あとは怪人だった奴らの身近な人間だけだ。流石にそこは弁えてっからよ』
「怪人の身近な相手を巻き込んでいる時点で弁えられてはいないと思うけどね?」
『いーや、あいつらはすぐ近くにいながら身近な相手が怪人になることすら止められなかったカスだからよ。連帯責任で当然の罰だってんだ』
軽薄に言うグラスホッパーに、神蔵は静かな怒りを解放していく。
「なるほど。職務怠慢、ね。……つまり、君からすれば、私はいの一番に倒さなければならない仇敵ということだ。なにせ、恋人が怪人に手を貸したのを止められなかったわけだから」
『分かってるじゃねーか神蔵藤子。そーだな……そんじゃ、せめて苦しまねーよーに殺してやるよ』
グラスホッパーが指先で他の怪人たちに指示すると、それに合わせて無数のバッタ怪人が神蔵へと飛びかかった。
「そうかい。……ならば私も、せめて苦しまないように君たちを倒すとしよう。変身」
グラスホッパーたちの腕が神蔵を捉える寸前で、神蔵の体が鎧に包まれた。紫色の波動が、近くの怪人たちをまとめて吹き飛ばす。
『Leaping Landscapes! It's a Ray of Laser! Ignited HORUS system……“Arte”』
「さぁ、テイスティングの時間だ。私という正義の味を、せいぜい噛み締めろッ!!」
「……で。てめぇが、例のバッタ怪人の本体ってことでいいんだよな?……
赤萩は、積み上げられた机の上に座り込んだ男に向かって問うた。
「正解。……いー目してんじゃねーか、しっかり覚悟キメたみてーで何よりだよ、赤萩陽希」
机の山から飛び降り、バッタ怪人の本体──玉虫は答える。
「……で?念のため聞いとくが、てめぇは何のためにこんな時間を起こしやがった?」
「あ?言うわけねーだろ赤萩陽希。んなこと話してお前に同情されちゃたまったもんじゃねーからよ。お前もヤるからにゃ本気でやり合いてーだろ?そんなに俺のバックボーンが知りたきゃ俺を倒してから勝手に漁れ」
玉虫は挑発的に笑うと、懐から白いレプリシューターを取り出し、マテリアピースを装填した。
「まー、お前は俺を倒すこともなくここで死ぬんだが、な?」
直後、玉虫から爆発的なまでのホルスが放たれた。そのあまりの力に、赤萩は思わず冷や汗をかく。
(……おいおい、いくらなんでも強すぎねえか?いくらロベリア=ローゼンロードを素材にしたとはいえ、ここまで強くなるもんなのか??)
「ビビってんじゃねーよ赤萩陽希。マジで恐ろしーのはこっからだからよー!!」
放つオーラに気圧されながら、赤萩もドライバーを構え、フェニックスレッドマテリアキーを挿し込む。
「変身ッ!!」
「
それぞれの体が、鎧に包まれていく。
『Ignited Phoenix Flamer!!!』
『Fairy Charge……Open “Grasshopper”』
フレイマー・イモータルフェニックスと、グラスホッパー・フェアリーシャトラン。ライダーと怪人が向き合うと、二人は同時に駆け出した。
「ほう、来ましたか。私一人相手に三人がかりとは、何とも大人気ない」
朱鷺澤たちが向かったのは、とある病院の地下──本来、存在するはずのない研究施設だった。
「嘘、ですよね…………?」
そこに佇む男の姿を見て、朱鷺澤はそう漏らした。
「……確かに、ここ数日あなたが欠勤しているという話は伺っていた。しかし……それがまさか、これのためだったとは」
遠山も、怒りを孕んだ声で男を睨みつける。
「……おっと、そんなに怖い顔で睨まないでください。殺意が湧くではありませんか」
男は、ニヤリと笑って、朱鷺澤を見下した。
「黙りなさい。殺意が湧いてるのはこっちの方よ。……
「どうして?決まっているでしょう。あなた達を迎え撃つためですが。……ええ。私は初めからこちら側ですよ?朱鷺澤くん、あなたを診ているとき、私がいかに必死で殺意を抑えていたかわかりますか?」
相馬は狂気的な笑みを浮かべ、白いレプリシューターから光弾を放つ。朱鷺澤へと伸びたそれは、しかし朱鷺澤に触れずに空を切った。
「朱鷺澤永治に代わって言おう。理解できんし、する気も毛頭ない──とな。現役の医者が誘拐事件の首謀者ときた。一面記事にはもってこいだな」
横合いから朱鷺澤を僅かにワープさせた草壁は笑い、相馬の顎に軽いジャブを叩き込む。反撃を喰らう直前で能力を発動し、朱鷺澤の前まで移動した。
「記事になどさせませんし、そもそもできませんがね。何故なら……あなた達は、皆、ここで無惨に死ぬのですから」
その光弾を全て躱し、相馬は銃にマテリアピースを挿し込んだ。それに合わせるように、それぞれが変身の動作を行った。
「「「変身」」」
「乖錠」
それぞれの体が、装甲に包まれる。
『Ignited HORUS System……“Predator”』
『Go, Rider Machina』
『Go, Proto Machina』
『Fairy Charge……Open “Zebra”』
相馬が変身した怪人──ジブラ・フェアリーシャトランに向かい、三人がほぼ同時に駆け出した。
「強化されていて、その程度か。なら、いくらでも勝ち筋は見えてくる。……と、君が五体くらいしかいなければ言っていたのだがね……ッ!!」
無数のグラスホッパーの攻撃をいなしながら、アルテはぼやく。無理もあるまい。仮面ライダーアルテは物理的な攻撃に対抗する手段をあまり多くは持っていない。相手がホルスをそのまま攻撃に用いてくるタイプならば相性は最高なのだが、反面、肉弾戦に特化した敵との相性は最悪なのだ。
『残念だったなー、こっちも本気で来てるわけなんだわ。速攻でお前を片付けてこの学校を粉砕する。そして怪人と近しい関係だったやつらを皆殺しにする。その目的のために手間を惜しんではいられねーよな?』
「知らないよそんなもの。興味もないね。そんなに人を殺したいなら私なんて放っておいて先に行けばいいのに」
『そーしたらお前は俺を追ってくるだろ?そーなると面倒だから今こーしてるわけよ』
四方八方から飛びかかるグラスホッパーは、言うと同時にハイキックを繰り出した。
「あぁくそ、数が多い……ッ!!」
光を両足に収束させ、なんとか殺戮の鎌の葬列から抜け出し、アルテは嘆息する。
「仕方ない……いくら疲れるとはいえ、出し惜しみしていられる状況でもないし、ここは少し本気を出すとしようか」
一人の怪人が飛びついてきたのを杖の一振りで払い、アルテは通常より一回りほど大きなマテリアキーのボタンを押した。マテリアマジェスティ。有栖川千聖が生み出した、アルテ専用の強化デバイスだ。
『させねーよ?それを使われたらいくら俺たちでも危ねーからな!!』
「いやぁ、させないと言われてもね?させてくれとしか言えないよね」
変身を阻止しようと、無数のグラスホッパーがアルテへと飛びかかる。想定内だ。最高戦力を簡単に使用させてくれる敵など、そう多くはないのだから。
全神経を両眼に集中させる。敵の狙いは当然ながらアルテの手。そこを潰そうと攻撃を仕掛けようとしている。であれば、
『な……ッ!?馬鹿なのかお前、そんなことしたら俺たちにゃ勝てなくなるってのに……!!』
アルテはマテリアマジェスティを上空に投げ飛ばした。一瞬の迷いの後、グラスホッパーたちもそちらに飛び上がる。
「まんまとかかってくれたね。どうやら、馬鹿は私ではなく君たちだったようだ」
その光景を見て、アルテはほくそ笑む。そして、助走をつけて飛び上がり、ドライバーのボタンを押した。
「私のものに気安く触れるんじゃない、壊れたらどうしてくれるんだ?器物損壊罪で訴えるぞ」
『Laser Charging Strike!』
紫色の光を纏った右足が、マテリアマジェスティに群がるグラスホッパーを横薙ぎに吹き飛ばす。その余波でさらに飛ぶ速度を増したマテリアマジェスティを左手で掴み取り、ドライバーに装填した。
「さぁ、覚悟しろ怪人ども。私を本気にさせたことを後悔させてあげようじゃないか」
『Majestic Artemis!!』
仮面ライダーアルテ・マジェスティックに変身した神蔵は、その手に握られた弓を、ただ真横に引いた。次の瞬間、黄金色の斬撃が、怪人たちを切り裂いた。
『クソッ、最悪の事態に陥っちまったなー……だが、まだだ。ピンチこそチャンス、諦めない俺マジ最高!!』
「いいねぇその自棄っぷり。それでどうするんだい?全員で特攻かますくらいしないと私を倒すのは難しいと思うよ?」
『そーだな。よくわかってるじゃねーか神蔵藤子ッ!!』
グラスホッパーはニヤリと笑い、銃口を押した。無数の電子音が、同時にいくつも流れていく。
「なるほど。面白い。それじゃあ……どっちが上か、試してみようか」
対する神蔵も、仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、黄金の弓・ルナティックアローズにマテリアマジェスティを差し込んだ。
『Fairial Attack. Grasshopper Drive』
『Material Attack! Lunatic Ray!!』
何人もの怪人がグラスホッパーに飛び上がり、アルテに向けて蹴りを叩き込む。それらが触れるか触れないかといったところで、金の光矢が怪人たちを撃ち落としていく。しばらくして、爆発が起こった。爆煙の中に佇むのは、変身の解けた神蔵ただ一人。
「あの形態の私を変身解除まで追い込んだのは、君たちが初めてだよ。そこは褒めてあげよう。あれだけの力があれば、どんな敵でも倒せたろう。ただ……」
倒れ伏した怪人の変身者達を見下ろし、神蔵は言った。
「……君たちが勝利するには、少しばかり頭数が足りなかったかな?」
(目を凝らせ。狙いを定めろ。奴の強みは脚力とそれに付随する移動速度だ。しっかり見切りゃそれほど苦でもねえ)
飛び跳ねながら機を窺うグラスホッパーを見据え、フレイマーは思案する。
「そこだッ!!」
攻撃すべきか否か、一瞬だけグラスホッパーの思考に迷いが生まれた。その一瞬の隙を縫うように、炎の矢が放たれる。
『おーっとっと!!危ねーじゃねーかこの野郎!!火傷したらどーしてくれんだ!?』
「チッ、アレを避けたってのかよ……ッ!!」
しかし、グラスホッパーはそれを間一髪で躱した。フレイマーから距離を取り、グラスホッパーは声を荒げる。
(距離を取られれば、こっちの攻撃が通りにくくなる。かと言って、いつまでも距離を取ってちゃ向こうも決定打は出せねえはずだ)
(なーんて、あの野郎は考えてんだろーな。そしてこっちに飛んでくると。見え見えなんだよ、超能力者)
距離を詰めるべく、フレイマーが先に駆け出した。それを読んでいたと言わんばかりに、グラスホッパーも地面を蹴った。
『Tune Reacter Eye』
「──ハッ。隙だらけなんだよ、イナゴ野郎ッ!!」
高く飛び上がったグラスホッパーを睨み、フレイマーは弓を引いた。狙いは全ての怪人の弱点である胸のエンブレム。リアクターアイをチューンして放った矢が、目標から逸れることは有り得ない。
『はー……お前、その程度のしょっぺー攻撃が俺に効くと思ってんのか?』
しかし、グラスホッパーはため息を吐き、そのまま飛び降りた。向かってくる炎の矢は、その足に触れた瞬間に掻き消された。
『つまらねーなー。もっと正面から殴り合おーぜ?じゃねーと……俺の殺意が抑えきれねーからよッ!!』
炎の矢が掻き消えたのを見て、フレイマーは急いで防御態勢をとる。しかし、それが万全なものになる前に、グラスホッパーの拳が腹を撃ち抜く。
「ご、ア……ッ!?」
重い。これまでに戦ったどの怪人よりも膂力が強い。飛びそうになる意識を、舌を噛んで呼び戻す。
『おー、効くだろ?俺もそこまで試し打ちはしてねーんだけどよ、パンチ一発でダイヤモンドくらいならブチ壊せると思うぜ?』
「ハッ、そうかよ……ッ!!」
吐き捨て、フレイマーはフェニックスプファイルにマテリアキーを装填する。
《で、どうすんだよ。知ってると思うけど、アイツ強いぞ。今のおまえでも勝てるかわからねぇ》
「決まってんだろ。……なんとかする。ベネット、ちょっと無理するがいけそうか?」
《いけるに決まってんだろ?俺を誰だと思ってんだ相棒》
ベネットは笑うと、ホルスを限界まで解き放った。
「消し飛べェッ!!」
『Material Attack! Phoenix Burn Fire!!』
七つに分かれた炎の矢が、グラスホッパーへと向かっていく。それらが怪人に突き刺さり、直後、爆煙が巻き上がった。
「ハッ。てめぇの敗因は一つ。俺を舐めてかかったことだ」
勝ち誇ったようにフレイマーは言う。しかし、
『ははっ!!残念だったなー!!敵の死体を確認するまで戦いは終わりじゃねーんだよ!!『路地裏』のくせに詰めがあめーんだよバーカ!!』
『Grasshopper Drive』
爆煙から飛び出したグラスホッパーが、ホルスを右足に集中させ、飛びかかった。
「が………………ッ!?」
『お前の敗因は一つ。俺を倒し切るまでに気を抜いたことだ。……んじゃ、死ぬか』
銃口が、フレイマーの頭蓋に押し当てられた。
「スピードもパワーもその程度か。それで、本当に私を倒せると思ったのかね?」
「朱鷺澤くんだけなら勝てるかもしれないけれど……草壁くん、ついでに私には勝てないわ」
軽口を叩き合いながら、二人はジブラの攻撃をいなしていた。
「こっちは……体動かすだけでも一苦労だって言うのに……っ!!」
「文句を言うなら戦いについてきた自分に言いなさい朱鷺澤くん!!」
「別に文句は言ってませんよ!!」
不器用な動きで怪人の剣戟を躱し、プロトマキナが言う。
『……ん成程。あなた達の力量は見極めました。結論としてはごくシンプルに……大したことはありませんね』
「……言ってくれるじゃないか。そういう君も大した力はないように見えるが?」
『目に見えるものだけが真実とは限りませんがね』
「ジャーナリストにそれを言うかね?」
ジブラの発言を鼻で笑い、プレデターは言う。
『では……一人ずつ潰していくとしましょう』
殴りかかってきたプレデターを軽く爪先で小突き、ジブラは笑う。
『まず草壁蒼哉、次いで遠山叶絵、最後に朱鷺澤永治ですね。特に最後はどこまでも無惨に殺して差し上げましょう。あれだけのコトをしたんです、それくらい多めに見てください』
ジブラの手に長剣が現れ、それがプレデターの胸に突きつけられた。
「チッ、先程までとは見違える速さだな……ッ!!」
大きく飛び退き、プレデターは舌打ちをする。それと同時に、チューンマテリアキーを装填した。
『Full-Armored Predator!!』
仮面ライダープレデター・フルアームド改に変身したプレデターは、ドライバーのボタンを押し込む。
『Beast Charging Strike!』
胸の砲台から、極太のレーザー光線が放たれる。だが、それがジブラに届くときには、すでにその射線上にジブラの姿はなかった。
『まずは一匹』
長剣が、プレデターの肩から腰にかけてを切りつける。その一閃はドライバーに傷をつけ、プレデターを強制的に変身解除へと追い込んだ。
「が、は……ッ!?」
倒れ込む草壁には目を向けず、ジブラはマキナへと駆け出す。
「あなたが草壁くんを倒してくれたおかげで、こちらも多少はやりやすくなったって気付いてるかしら?」
対するマキナも、
『その速度──あぁ、私の体が重くなっていることと合わせて考えると、つまり私からホルスを食っているというわけですか』
「正解。長引けば長引くほどあなたは弱っていくし、私は強くなっていく。──あとは、言わなくてもわかるわよね?詰みよ」
『成程、面白い。では、本当に詰みかどうか試してみましょうか』
ジブラが地面を蹴った。眼前まで迫り、振るわれた長剣を小さく飛び上がって躱し、マキナはカウンターの拳を二、三続け様に撃ち込む。
「だから、言ったでしょう?──そのまま倒れてもらいましょう。悪く思わないことね」
『Smash HORUS Cancel』
緑色の光を纏った拳が、ジブラの腹に突き刺さった。浮いたジブラの胴体に、追撃のキックを何発も叩き込む。
『成程。多少は出力もあるようですね。ですが……所詮はその程度。まぁ、草壁蒼哉よりは見どころはありましたよ』
だが、吹き飛ばされたジブラはゆらりと起き上がり、マキナの背後まで回り込んだ。
『では、今度はこちらの番です』
『Zebra Drive』
振り向くマキナの胸を、オーラを纏った長剣が斬りつけ、その装甲を弾き飛ばした。
『詰み……でしたねぇ。何か言い訳があれば聞きますが?』
「はは、そうね……せいぜい吠え面かきやがれ、誘拐魔」
挑発するように遠山の顔を覗き込むジブラに、当の遠山は野生的な笑みで中指を突き立てる。
『ほう?』
次の瞬間、ジブラの後頭部に、凄まじいまでの激痛が走った。プロトマキナの拳が、全力で振るわれたのだ。
(実戦経験のない僕が勝つ方法。それは、強いひとが戦っている間に淡々と奇襲の目を探ること。──ありがとうございます遠山先輩。時間を稼いでくれて)
朱鷺澤は、最悪の事態に陥った際のために、遠山から奇襲戦術について聞かされていた。それを、この最悪の事態にて実行に移すだけ。
『Strike HORUS Cancel』
プレデターやマキナの戦闘中にチャージしていた分の力を、ここ一番の機会に解き放った。しかし、それでも、
『……ほう。痛いではありませんか朱鷺澤永治。担当医に向かってなんてことをしてくれるのでしょう』
ジブラは倒れない。逃げに回ろうとしたプロトマキナだったが、次の瞬間、ジブラに蹴倒された。
『あなただけは殺すと決めていました。──では、終わりましょう』
長剣が振り下ろされ、プロトマキナの装甲が砕け散った。変身の解けた朱鷺澤を見下ろし、ジブラはその足を高く振り上げる。
『では、さようなら。あなたはここで死ぬ運命だったのです』
次の瞬間、キキーッと引き摺るような音が響いた。それは、敵の主力と会敵したライダーたちが追い詰められていく絶望の中に、僅かな希望の明かりを灯す。
「ごめんなさい、赤萩くん……到着するのが、少し遅れました……!!」
赤萩に突きつけられていたグラスホッパーの銃は、突如として現れた水削によって弾き飛ばされる。
「……よかった。射的とか得意じゃないけど、ちゃんと当たってくれた」
突然の敵に困惑するグラスホッパーを見て、水削は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「なんで、来たんすか……アンタがいても足手纏いにしかならねえ!!今ならまだ間に合う、逃げてくれ!!」
そんな水削に、赤萩は声を荒げる。
『その通りだ。水削しずくセンセーよー、俺にとっちゃお前も狩るべき敵でしかねーわけだが……大人しく病院で寝てりゃ、まだ見逃してやってもいーかなって思ってたんだけどよー』
赤萩に同意し、グラスホッパーはじわりじわりと水削へとにじり寄っていく。
「……できることがあるのに、一人寝てるなんてできませんから。だから、重い体を引きずってここまで来た。詩帆を傷つけ、瑠璃ちゃんを攫ったあなたを倒すためにッ!!」
『できること?そんなもんねーよバカ女。お前がここでできるのはただ死ぬことだけだ。……じゃー、死んどくか』
「はい。直接わたしにできることはないかもしれません。けれど……間接的にならどうでしょう?」
水削が懐から取り出したのは、銀色のボディに赤黒い刻印のなされた、鍵型のアイテム。菱杖が念のためにと遺した、逆転の一手だ。
「それは……菱杖、透流の……ッ!?」
それを見て、赤萩は驚愕の声を上げた。
「はい。……赤萩くん。あなたが透流くんを憎んでいることは百も承知です。それでも……」
背後にグラスホッパーが飛び上がっているにも関わらず、水削は微笑みを湛えた表情で言う。
「……あの子を助けるために、彼の力を使ってもらえませんか?」
グラスホッパーの爪先が頭蓋の数ミリ付近まで迫る。だが、それが水削を蹴り殺すことはなかった。それより先に、グラスホッパーの胴体を、ベネットが蹴り飛ばしたからだ。
「……俺は、菱杖透流が嫌いです。水削先生がどれだけあの男の良いところを知っていたとしても、それを教えられたとしても、その印象が絶対に反転することはないと確信するくらいには憎い」
ベネットに攻撃を指示した赤萩は立ち上がり、水削へと歩み寄る。
「正直、アイツの遺した力なんて使いたくもない。……でも、そこの区別もつかないほど、子供でもないんですよ」
そして、差し出されたマテリアダガーを受け取り、不敵に笑い、
(菱杖透流。俺はてめぇが大嫌いだ。目的が正しけりゃ何してもいいって考えてやがるところが何よりも嫌いだ。だが、それは俺も大して変わらねえ。てめぇも俺のこと嫌いだったろ?なんだかんだ言って、俺とてめぇは似てるわけだ。──なら、ご同類のアイツのことも嫌いだよな?)
マテリアキーの挿されたドライバーの側部、マテリアチューナーに、マテリアダガーを充てがう。
(俺もアイツは嫌いだ。……利害の一致ってことで、今だけ力貸しやがれクソ野郎)
ダウンしていたグラスホッパーが起き上がる。それに合わせて、赤萩もドライバーを操作する。
「変身……!!」
赤萩を囲む炎のリングが、上から氷に覆われる。炎と氷が混ざり合った棘が次々と重なり合い、繭を形作る。
『Tune Dagger Pteranodon』
広げられた翼が、眉を突き破った。
『Evolving Lost Wing! Ignited Reviving Dagger!!』
「てめぇが俺を倒せるなんてとんだ勘違いをしてやがるってなら……そのくだらねぇ理想論、俺がこの手でぶち壊すッ!!」
骨のような意匠を携えた姿──仮面ライダーフレイマー・ダガーフェニックスに変身し、赤萩は駆け出した。
「……ッが、あァッ、あァァァァァァァァアアアアアッッ!!」
命の危機に瀕し、再びロベリアの力が現出する。だが、相馬が仕掛けた装置によって、同時に異常なまでの苦痛を覚えていた。
『ふっ、はははははっ!!いかに『輪廻共存』であっても能力を使用できなければただの木偶の坊!!さぁ、そのまま息絶えなさい!!』
ジブラは高らかに笑い、長剣を再び振り上げた。だが、次の瞬間、その体に注がれ続けていた力が、プツリと途絶える。
『なに……ッ!?』
ジブラが振り向けば、機器に固定されていたはずの瑠璃と周子の姿が消えている。そこで、ジブラは思い出した。自らの身体、及びそれに触れているものを透明化させる能力を持った人物の存在を。
『多々羅礼子か……ッ!!』
「正解ですぅお間抜けさん♡戦えるはずのわたしが来てないことを不思議に思わなかったんですかぁ〜?」
朱鷺澤たちをある程度下がらせた時点で、スキャンダル・シャトランに変身していた多々羅は能力を解いた。同時に、五人が姿を現した。
『……ですが、無意味なことです。あなた一人で私は倒せない』
「でしょうねぇ?そもそもわたしぃ、ここに戦いに来たわけじゃありませんしぃ?」
多々羅は笑いながら両手を顔の横に挙げる。
「あ゛ッ……多々羅、さん……ありが、と…………ッ!?」
「苦しそうですねぇ朱鷺澤せんぱい?飴ちゃん舐めますぅ?」
「いや、いいよ……ッ!!」
痛みに喘ぐ朱鷺澤を尻目に、多々羅は言った。
「……あれ?え〜じ?」
その声で、倒れていた周子が目を覚ました。
「周子……ごめんね、こんなとこ見せ、て…………?」
朱鷺澤は謝るが、目の前で起こっていることに対する困惑が徐々に混ざっていき、言葉が途切れる。朱鷺澤の懐にしまっていたボールが浮かび上がり、周子と共鳴を始めたのだ。疑問を口にしようとするが、それよりも先にボールが周子に取り込まれた。
「うっ……あぁ、そうだったんだ」
一秒前までとはまるで違った声色で、周子は言葉を紡ぐ。
「『ごめんね』はこっちのセリフだよ、えーじ。あれだけのことをしておいて、何も知らないみたいな顔してわらってたんだから」
体の方が追いついていないのか言葉は辿々しいが、それでも、なんとなく、朱鷺澤にも違いが伝わった。
「周子……?」
「今、思い出したんだ。ぼくが、ロベリアとしてやってきたことの、そのすべてを。ひどい話だよね。そんな風にわらうしかくなんて、ぼくにはなかったのに」
「そんなこと……」
「あるんだよ」
虚ろに笑う周子を、朱鷺澤は否定しようとするが、周子自身がそれを制した。
「……でも、だからってぼくにしぬ気はないよ。そのつみをせおって、つぐなうために生きていく」
周子は目にギラリと殺意の火を灯し、ジブラを睨みつける。
『だから、どうすると?あなた如きが私に勝てるとでも思っているのですか?』
「できないことではないでしょ?……えーじといっしょなら」
ジブラの問いに、勝ち誇ったような笑みで周子は応える。
「いいけど……でも、変身とかもできないし、どうやって…………」
朱鷺澤は困惑を隠せないままに首を捻った。すると、次の瞬間、爆音が響いた。周子ではない。ジブラでもない。一同が音のする方を振り返ると、扉を突き破り、有栖川がそこに佇んでいた。
「ギリギリセーフ……っすよね?朱鷺澤先輩、今能力使えるっすか?」
「多分、感覚的には使えそうな気がするけど……」
朱鷺澤の答えを聞くと同時に、有栖川は赤いドライバーを朱鷺澤に押し付けた。
「じゃ、それで変身して戦ってください。使い方は見てわかる通りっすから」
「いや、見てわかるって言われても……」
ドライバーを押し付けられた朱鷺澤は、困惑のままにそれを装着した。
「……あ、そ〜っした。朱鷺澤周子さん。あなたが朱鷺澤先輩の化身ってことはわかってるっすよ。そんでそれ、化身と融合するとさらにスペック出せるんで。……じゃ、私はささっと退散するっすよ〜!!」
そう告げると、倒れていた者たちを連れて、有栖川と多々羅は上に昇っていった。
『……成程。専用のドライバーですか。ですが、そう簡単に変身させると思いますかね?』
「うん。そうだけど、それが何か?──えーじ。手、出して」
ジブラの攻撃が迫っているが、気にせず、周子に言われるがままに、朱鷺澤は手を伸ばした。光が二人を包み込み、ジブラの攻撃を弾く。
『……ほう。面白いではありませんか』
次の瞬間、光の中に現れたのは、銀髪が混ざり、赤と金のオッドアイに栗色のハイライトを携えた、朱鷺澤永治の姿。
「「……不思議と、戦い方が見える。今なら、誰にも負ける気がしない」」
スネークマテリアピースを構え、空いていたもう片方の手に光が集う。それは瞬く間に、紫色のタイムマテリアキーに変化した。二本の鍵をドライバーに差し込み、朱鷺澤はグリップを引いた。
『Time! Snake! S-Set!』
「「──変身」」
朱鷺澤の体を、二つのリングがスキャンしていく。一方は緑色の蛇に姿を変え、形成されたアンダースーツに絡みつき、装甲に変化した。
『Take My Hand, Shake Your Heart. Linkage HORUS System……“Carnacia”』
「「悲劇の輪廻は、ここで断ち切る。──いくよ」」
蛇のようなライダー──仮面ライダーカルナシアに変身し、朱鷺澤は怪人を挑発した。