仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第9話「『約束』の決闘場」

「っ、あたしがあいつの言葉を聞いてさえいなければ……あたしのせいで下総は……っ!」

「銭谷……銭谷っ!今はっ、泣いてる場合じゃない、ですっ!それにっ、こんな私でも、わかりますけどっ、銭谷はっ、悪くない、ですっ!」

 執行衛兵の少女──双海(ふたみ)六花(ろっか)が奈菜々の肩を揺らし語りかける。

「でも……でもっ!」

「……双海の言う通り、今はピーピー泣き喚いてる場合でもねぇだろ。そうやって泣きゃ下総の怪我が治ったりすんのか?随分と都合のいい世界に生きてんな」

 黒薙は突き放すような口調で言った。

「黒薙さん、それは、流石に……」

「……僕たち執行衛兵は、たとえ味方が傷ついても意地汚く正義と勝利を掴みとるモンだ、ンなことで落ち込んでる暇はハナっからねぇんだよ」

 黒薙は奥歯を噛み締めて、

「僕だってテメェの仲間が傷付けられてなんとも思わねぇワケねぇよ、ただ、闇雲にキレ散らかすよりももっと時間ってモンは有意義な使い方すべきだって話だ」

 そして、

「菱杖のクソ野郎は僕の手でブチ殺す、だからテメェは今すべきことをしろ、銭谷」

「……そう、だよにゃあ。あたしが泣いたって、何も解決はしにゃい」

 黒薙の言葉を聞き、奈菜々は涙を拭いて顔を上げた。

「救護班が来るまで、応急処置くらいならしといてやるにゃ」

 

 奈菜々の言葉を聞き届けると、黒薙は背を向け、隠れさせておいたミスティーク=レーツェルのもとへ向かった。曰く、伝えたいことがあるから時間をくれ、と。黒薙は少女が見つかるリスクを考慮し、しばらくの間建物の陰に隠れさせておいたのだ。

「……で、結局用って何だよ」

「……そうですね、先輩に限って余計な前説は嫌いそうですし、単刀直入に言いますか」

 少女は空色の髪を指で弄りながら言った。

「明日の12時、第2学区の競技場まで来てください。そこで全ての決着をつけます。時間厳守」

 


 

「……兄さん?そんなにゆっくりしてたら学校遅れるけど」

「あぁ澪、僕今日は急用が入って学校休むんだ。お兄ちゃんがいないからって寂しがんじゃねぇぞ?」

「……いや、別に寂しがるとかそういうのはないから」

 翌朝、黒薙は悠長に食事をとり、妹から急かされていた。

「急用ができた、っていうのは本当なんだろうけど……兄さん、もうなんでも一人で背負いこんで自分を追い詰めるのはやめて」

「……ンなことしてねぇよ、お前にきっちり言われたからな」

「それは嘘。何年兄さんと暮らしてきたと思ってるの?兄さんの嘘すら見抜けない妹なんてここにはいないけど」

「チッ、わーかったよ、善処する……ただ、今回ばかりはお前にも誰にも迷惑かけられねぇんだ」

 真っ直ぐな瞳で澪を見据えながら、黒薙は言う。

「またそうやって逃げるの?……兄さん、あたしは本気で兄さんのこと心配して……っ、だって、嫌な予感がしたの!このままじゃ兄さんがどこか行っちゃう気がして……っ、そんなの、嫌に決まってるでしょ!?」

 目に涙を浮かべ、澪は黒薙に摑みかかる。

「安心しろ、澪。僕は絶対にお前を置いてどこかに行ったりしない。必ず無事に帰って、お前のワガママを好きなだけ聞いてやる」

「でも……」

「愉快に爽快に理解しろ、たった一人の妹よ。覚悟を決めたお兄ちゃんは強いんだぜ」

 

「……あれ?今日黒薙来てないの?」

「あぁ、赤萩か。黒薙なら確か急用ができて休むとか言っていた気がするが……」

「そう……」

 亜矢が黒薙が来ていないことに気付き、ひとり零すと、偶然近くにいた早見が答えた。

「アイツのことだしどうせまた無茶しようとしてんじゃねーの?そこが面白ぇんだけどな!!」

「ま、牧瀬くん……笑い事じゃないよ……」

 牧瀬と朱鷺澤を横目で見ると、

「心配ではあるけど……大丈夫ね」

「ギャハ、それは彼女目線での確信ってやつか!?」

「……ばっ、馬鹿!!旧知の友目線での確信よ!!」

 

「透流くん……どうしてあんなことを……」

 一方、職員室では水削が自身の机に突っ伏していた。臨時集会で菱杖の行動が秘密裏に公表されたからだ。

(私たち、あんなに愛し合ったじゃないですか……嘘だと言ってください、私に何の相談もなくそんなことしませんよね……?)

 そんな水削を見て、好田は拳を握りしめる。壁を殴りつけたりといった行動こそしなかったが、衆人環視でなければ何をしていたか分からなかった。

(菱杖さん、キミがセンセイを……雫石を傷付けるというのであれば私も容赦しない。キミの先輩として、私がキミを止めてみせる)

 そのまま一点を見据えると、ヒュッと、目にも留まらぬ速度で拳を振るった。

(けれど、私は知っているよ。キミが何の考えもなくそんな真似をする馬鹿ではないことくらいね)

 直後、ズドン、という重い音が響く。好田が振るった拳が衝撃波に変化し、壁をわずかに抉り取ったのだ。

「……!?何が起こったんですか!?まさか透流くんが……!?」

「……あぁ、ごめんよセンセイ。ちょうどそこに蚊が飛んでいたから潰そうとしたらつい力みすぎてしまった」

「こっ、この馬鹿ーーっ!!!おまっ、詩帆はいつもそうやって……」

 背伸びして好田(律儀に膝を曲げてくれている)の胸ぐらを掴む水削。本人は真剣なのだろうが、側から見れば親子のじゃれ合いのようにも見えて。

「〜〜〜!!!」

 周囲の教師からの視線に晒されていることに気がついた水削は、すぐに走って職員室の外へと逃げ出していった。

「あっ、待つんだセンセ……イ……」

 好田は水削を追いかけようと試みたが、次の瞬間に断念した。自身の背後に、威厳を湛えた壮年の男の、殺気にも似たオーラを感じたからだ。

「……また貴様か、好田」

「き、教頭先生……違うんですこれは……」

「言い訳はエレガンスに欠けるぞ、小娘。何度も何度も校内を破壊しよって……何度始末書を書けば理解するのか、貴様は」

 


 

11時20分。黒薙は最低限の荷物だけを持って自宅を出た。交通機関は使わない。バイクに跨り、第2学区の競技場に向かう。道中、旧友が恋人と二人で切り盛りしているというバーを見かけたので、バイクを停めてドアを開けてみた。

「あの?今は閉店中ですよ?……なんだ、黒薙ちゃんか。亜季(あき)は今買い出しに行っているから用があるなら後で来てね」

燐華(りんか)さんか……じゃ、今度飲みに来るって伝えといてください」

 出てきたのは、黒薙の旧友である美梁木(みやなぎ)亜季の恋人、五和町(いつわまち)燐華。黒薙は今度妹でも連れてくると伝えると、バーを後にした。

「……あれ?颯斗じゃないの、あんた学校はどうしたのよ?」

 そこからしばらくバイクを走らせ、交差点に停まると、女のような口調の男に呼び止められた。

「あぁ、美梁木。ちょっとヤボ用があってな。行く前にお前のツラでも拝もうかと思って店寄ったけど居なかったから」

「あら、それは悪いことをしたわねぇ……そうね、少しアタシとお話していかない?」

「いや、いいよ悪いし……」

「そっか。じゃあ言い方を変えようかしら……アタシは今久し振りに合った友人ととても話したいわ。ダメかしら、颯斗?」

「チッ……急いでるから手短に頼むよ」

 美梁木に連れられ、近くの公園のベンチに二人で座った。

「……僕は多分、今から、今までの全てを賭けた戦いに行かなきゃならないんだ。それで朝、澪に“僕がいなくなる気がして”とか言われてさ……」

 黒薙は旧友に語る。まるで己の罪を悔いるかのように。

「それを聞いてから、そんなガラでもねぇのに不安になっちまって……こんな時、お前ならなんて言うかなんて思っちまってな」

「ふぅん……別にいいんじゃない?アタシはあんたが人間らしくなってくれて嬉しいけど」

 だって、と美梁木。

「妹に心配されて不安になるなんて、あの頃のあんたには無かったでしょう?アタシの方がよっぽど人間らしかったわ」

 過去を振り返り、美梁木は笑う。

「大丈夫よ、あんたはこんなところでは死なない。アタシにはわかるわ」

「根拠は?」

(おとめ)の直感、以上の根拠が必要かしら?」

「……いや、ねぇな。お前の勘はよく当たる、十分信用に値する……ありがとう、美梁木。今度澪でも連れて飲みに行くよ」

「未成年のあんた達にアルコールは出せないけど、いいカクテルを作って待ってるわ」

 黒薙は頭を下げると、その場を去った。ミスティーク=レーツェルとの約束の時間まで、あと10分。

 


 

「悪い、待たせたか?」

「いいえ、今来たところです」

「……なるほど、とっくに着いてましたってか」

 約束の時間ちょうどに競技場に足を踏み入れた黒薙。そこには、すでに空色の少女が佇んでいた。

「さて、何から始めましょうか……私が先輩を呼んだのはあらゆる意味で決着をつけるためなんですけど、まず私のこれまでの行動の弁解をさせてください」

 少女は深く頭を下げると、地震のこれまでの一貫性のない行動について話し始めた。

「信じてもらえないかもしれませんが……私は、ここではないどこか、別の世界から来ました」

「……随分とまぁ、信憑性に欠ける物言いだな」

「ですよね、裏切り者の私がこんなことを言っても余計に信じられないと思います……でも、先輩はこれを信じざるを得ないんですよ」

 空色の瞳は真っ直ぐに黒薙を見据える。

「私は魔物との戦いの中、主に命じられるがままに世界を超えた……さて先輩、このお話に聞き覚えはありますか?」

「仮にお前が異世界から来てたとしても、それが僕の夢に現れるなんてあるわけ……」

「あるんですよ、それが。私がこの世界に現れたことで先輩が『異能共鳴』の力に目覚めたんですが……そもそも、この能力は無数に存在する平行世界の先輩自身にアクセスする能力なんです」

 少女は饒舌に語る。

「先輩が『異能共鳴』に目覚めたことで、私を送り出した平行世界の黒薙颯斗と……あっ」

「……待て、お前を送り出したのが僕?いや信じたわけじゃねぇけど……」

 黒薙の問いに、少女は目を瞑る。

「……はい、私の主は黒薙颯斗です。きっと先輩は“主”の意味を知りたがるでしょうから、教えますね」

 

「私は、ミスティーク=レーツェルは、『異能共鳴』それそのものが具現化して人の形をとったもの……能力の化身、なんですよ」

 

 少女の言葉に、黒薙は息を飲む。

「……ッ、能力の化身とやらがこの世界に移ってきたことはひとまず信じるとして、それと僕がスキルリンクなんてもんに目覚めたことに何の関係が……」

「……私たち能力の化身は、そもそも、元となる能力が存在しない限り存在できないんですよ。しかし私はそれが存在しない世界に来てしまった」

 

「もちろんそれは本来起こりえないはずなんです……そして、整合性を保つために先輩は『異能共鳴』の力に目覚めた」

 まぁ、遅いか早いかの違いでしかないんですけど、と少女。

「じゃあお前が記憶を無くしたってあの話は?記憶を無くした割には随分と鮮明だな」

「本来と異なる方法で世界を超えると、その代償として記憶を失うんです」

 本来なら私は全ての記憶を失ったままのはずだったんですけど、と続ける。

「先輩がマテリアキーを使ってOOに変身したことで、目覚めつつあった『異能共鳴』が完全に覚醒したんです……そして化身たる私も同時に記憶を取り戻した」

 頭を深々と下げ、少女は言った。

「ごめんなさい先輩、何も言わずにあんなことをしてしまって……でも、私は一刻も早く先輩が『異能共鳴』の力を自在に操ることができるようにしなければならなかったんです」

 少女の言葉に、黒薙はため息をつく。

「ハァ〜、ひとまずはお前の言うことを信じるよ、そんな目で嘘をつかれても困るしな。で、最後のそれの理由も聞きたいところだが……言うつもりもなさそうだしな」

 少女は目を閉じて開けると、ある提案をした。

「……先輩、今から私たちは本気で戦うわけですが。勝った方は負けた方に一つ命令を下せる、っていうのはどうでしょうか?」

「言うじゃねぇかクソガキ……お前が勝ったら何をさせるつもりだ?」

「これからOOとして戦う際は、常に私の指示を守って動いてもらいます」

 少女の傲岸不遜な笑みを受け、黒薙も口を横に裂き、

「……いいじゃねぇの。なら僕が勝ったら……執行衛兵に戻ってこさせてやるよ、お前にも僕と一緒に戦ってもらう」

 二人は微笑むと、互いに距離を取り、ベルトを腰に巻きつける。

 対照的な動きで、マテリアキーを構える二人。

 ベルトに鍵が突き刺さり、門が開かれる。

 戦いの火蓋は、今切って落とされた。

 


 

「「変身ッ!」」

 二つの声がシンクロする。一方は赤黒い鎧を、もう一方は灰色の鎧を纏い、互いに剣を握りしめ、走り出す。

『Reclaim Lost Time! Time OO!』

『Regains Mist World…… Proto OO……』

 互いの刃がぶつかり合い、火花を散らす。以前までのOOであれば黒いOOの力に負け、防戦を強いられていただろうが、今は違う。

『……認めますよ、先輩は確かに強くなっている』

「お褒めに預かり光栄だよペットちゃん」

 黒いOOは舌打ちすると、一度剣を退け、即座に速度を活かした連撃に切り替えた。

『ただし、あくまで常識的な範囲で、ですけどね』

「チッ、速さ頼りか、厄介な真似をしやがる……ッ!」

 続けざまに剣を振るう黒いOOの腹を蹴り、OOは数歩下がる。少女が次に顔を上げた瞬間には、OOの鎧は森林のごとき緑へと変わっていた。

『The Wind Fluttering! Spin-OO!』

「だが、速さなら僕の方が上だ」

 OOがベルトのレバーを倒す。両足にエネルギーが収束し、黒いOOの周りを高速で移動しながら、意趣返しとばかりに連続攻撃を放つ。

『……セービングキャンセラー限定解除、レベル1→2』

 そう唱えると、黒いOOの胸のディスクが回転し、どす黒いオーラを放った。その瞬間、OOの刃をことごとく切り返し、高速移動中のOOの腹にオーバーヘッドでキックを叩き込む。

『意趣返しでもしたつもりかもしれませんけど……私も先輩と同じで負けず嫌いなんですよね』

 勝った、と言わんばかりに不遜に笑う。しかし、その笑みは重力の拳によってかき消される。

『Intention Of Iron! Metal OO!』

「そうだな、誰かさんに似て詰めが甘ぇ、相手の死体を確認するまでは調子に乗るんじゃねぇぞ後輩」

 ナックルをそのまま投げ飛ばし、OOは走る。

『邪魔です……っ!私だってこの程度で先輩に勝てるなんて思ってませんよ……っ!』

 黒いOOは仮面の下で犬歯を剥き出しにして叫んだ。

『(悔しい、って。こういうことだったんですね、先輩……。私は今、初めて本気で「勝ちたい」と思っています)』

 剣を打ち合いながら、少女は闘志を燃やす。

『(もう目的なんてどうでもいい、ただこの一瞬の駆け引きを永遠に楽しんでいたい……終わらせるなら私の手で終わらせたい!)』

 そして、黒いOOは叫んだ。

『セービングキャンセラー、完全解除!レベル2→5ッ!』

 闇より黒いオーラが黒いOOを包む。

『勝つ、絶対に勝つッッ!!私は、先輩に負けたくないッッッ!!!』

「イイ顔になったじゃねぇか後輩さんよォ!もっともっと楽しもうぜ、この刹那の戦いってヤツをなァ!!」

 野獣のごとき咆哮が響き渡る。少女の剣が、少年の首を刎ねようと振り下ろされるが、それをコンマの差で躱し、

『Time OO!』

「遅ぇよ、そんなんじゃまだまだ遅ぇんだよォォォォォ!!!!!!!!」

 次は、少年の刃が少女の仮面めがけて振り上げられる。少女は剣を顔の目の前にかざし、間一髪で攻撃を防いだ。

 互いに一歩も譲らぬ剣戟の中、戦いはついに佳境を迎えようとしていた。

『勝つのは私です……ッ!!』

「勝つのは僕だ……ッ!!!」

 互いのベルトから鍵が抜かれ、その剣に同時に装填される。

『『Material Attack!Oblivion Time Slash!』』

 電子音が同時に鳴り響く。赤と黒の斬撃は、周囲に強大な衝撃波を巻き起こしながら相殺した。

『この一撃で……ッ!』

「決めるッッ!!!」

『Material Finish! Oblivion Time Strike!』

『Material Finish…… Oblivion Strike……』

 再びベルトに鍵が装填される。二人が全く同じ動作を行なったということは、つまり同レベルの技同士がぶつかり合うということで。

「オッラァァァァァァ!!!!」

『ハァァァァァァァッ!!!!』

 互いに飛び上がり、空中で放ったキック同士が衝突する。血よりも緋い赤と、闇よりも黯い黒の激突。二つの影は拮抗しつつも、

『(私の力が吸い取られている……ッ!?まさか先輩……)』

 徐々にOOの優勢に傾きつつあった。

「これで、終わりだァァァァァッッ!!!」

 何度もレバーを倒し、その都度OOのキックの威力が上昇する。今のOOのそれは、まさしく、少女が夢見た、希望と絶望の清濁併せ呑むシルエットで。

(まだ不安定とはいえ……無意識に『異能共鳴』の力を操るとは……ッ!)

 故に。少女の力は敵わず。

 ついに全ての余力を失った少女は、紅の波動の全てをその身に受け、倒れ伏した。

 


 

「あーあ……負けちゃいましたね、私」

「そうだな、勝っちまったなぁ、僕が」

 少女が言うと、黒薙は嫌味ったらしく下卑た笑みを浮かべて言った。

「ぐっ……!先輩を今すぐぶん殴りたいこの気持ちをどう抑えろというんですか……!」

「殴りたきゃ殴ってくれてもいいんだぜ?その分倍にして殴り返すけど」

「殴り返されたらそのまた倍にして殴り返しますから安心してくださいよ先輩♡」

 軽口を叩き合う二人。

「……さて、先輩。私は先輩と本気で戦い、そして敗れた。自分で提案したことです、勝負には敗れても約束は破りませんよ」

「じゃあお前は……」

「はい、執行衛兵に戻らせていただきます……ただ、あれだけ盛大に裏切っておいて遠山先輩たちに怒られないか……」

 シュン、と肩を落とす少女を見て、黒薙は、

「ハッ!あれだけ僕と死闘を繰り広げたヤツがンなことの心配かよ……その辺は僕が何とかするから安心しろよ、レーツェルちゃん」

 黒薙は親指を立てて少女に微笑みかける。

「そうですか……なら安心なんですけど……」

 少女は心底気まずそうな顔で、上目遣いで黒薙を見つめる。

「それはそうとして……そろそろ私のことをあだ名で呼んでくれてもいいんじゃないですか?ほら、最初に名乗ったじゃないですか」

「あだ名ぁ?……悪い、レーツェルちゃん。ド忘れしちまったみたいだ」

 悪びれもせず言ってのけた黒薙の顔面に拳を叩き入れ、少女は叫んだ。

「こっ、こんの大バカ野郎〜!!!最初に名乗ったじゃないですか、ミスティって名乗りましたよね!?何で忘れるんですか命名したのあなたのくせに!!!!」

「ハァ!?僕が命名したっつってもそれはお前が元いた世界での僕だろ!?違う世界のことまで責任取れるかクソ女!!!」

「ハァ〜!?『異能共鳴』の力があれば並行世界の自分とリンクできるって言いましたよねぇ!?分からないはずがないんですよバカ先輩!!!」

 二人は顔を突き合わせてバチバチに火花を散らすが、

「……そろそろやめようぜ、ミスティ。こんなことで一々体力使いたくねぇし」

「ですね……改めまして、これからよろしくお願いしますね、先輩」

「よろしくお願いされてやるよ、後輩」

 差し出された手を握り、少女──ミスティが本当の仲間になった。

 

 ──だが。

 その次の瞬間。

 耳をつんざくような轟音が響き。

 黒薙たちの前に。

 最恐の敵が、現れた。

「ふひひ。脱獄せいこーう☆」

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