その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問10.キークをギャグ堕ちさせて『魔法少女育成計画』episodes集の常連キャラとする方法を述べよ。ただし、ギャグ堕ち工作開始時点でrestart勢は誰も死んでいないものとする。



第10話 身体は闘争を求める

 

◇マジカルデイジー

 

 ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』での日々は楽しい。マジカルデイジーに敬意を抱いてくれるのっこちゃん、夢ノ島ジェノサイ子、@娘々と繰り広げる冒険の日々は、マジカルデイジーに充足感を与えてくれる。

 

 けれど、いくつか不満はある。

 1つ目の不満は、モンスターの狩場を独占したり、モンスターを横取りしたりと、マナーのなっていない魔法少女がいることだ。

 

 モンスターはマジカルデイジーが遠慮なく力を振るえる貴重な対象だ。マジカルキャンディーを欲しがる気持ちはわかるが、ちょっとぐらいマジカルデイジーのパーティーに譲ってくれてもいいのにと思わずにはいられない。

 

 2つ目の不満は、ゲームのグラフィックとでも言えばいいのだろうか。このゲームの世界の風景は単調だ。日中は太陽しかない青空。夜間は星も月もない夜空。各エリアの建物は数パターンのデザインが使いまわされているし、各エリアのフィールドも似たような道が多い。

 

 せっかく、魔王討伐に向けて色んなエリアを冒険するゲームなんだから、グラフィックにこだわってほしかった。こういうところがもったいないゲームだと感じる。

 

 3つ目の不満は、食事だ。ゲームの世界では、魔法少女も変身前と同じようにお腹がすく。1日に数回食事をしないと強烈な空腹に襲われる。それなのにゲーム世界の食べ物は、ショップで買える保存食だけ。これはさすがに酷い。この仕様のせいで、今や食事はただの作業だ。せっかくの楽しい冒険も、食事の時が近づくと憂鬱になってしまう。

 

 

 結果、いくつかの不満を抱えたマジカルデイジーは、現実世界に戻って早速、近所のレストランで暴飲暴食した。店の外の天気の移り変わりを楽しみながら、様々な料理の味を舌で楽しんだ。

 

 普段のマジカルデイジーは生活苦だ。こんな贅沢、不可能だ。

 けれど今のマジカルデイジーには、参加賞の十万円がある。

 

 

(よくよく考えると、新作ゲームのテストプレイを3日間やって、それで十万円稼げるって実入りの良いバイトだよね。しかもゲーム世界の3日間は、現実世界の一瞬だし)

 

 食事で舌を満足させて、風景で目を満足させて。マジカルデイジーは帰路につく。その道中、人気のない路地裏でマジカルデイジーは立ち止まる。探偵っぽい装いをした少女がいたからだ。少女は凛とした眼差しでマジカルデイジーを見つめている。

 

 見覚えがある。彼女はディティック・ベル。

 マジカルデイジーと同じく、ゲームの参加者だ。

 

 

「……」

 

 マジカルデイジーにとって、ディティック・ベルの印象は悪い。

 モンスターの狩場を独占するチェルナー・マウス。ディティック・ベルは、パーティー仲間の彼女の迷惑行為を容認しているからだ。

 

 狩場の独占をやめてくれと、プフレがチェルナー・マウスに申し込んだ決闘が、チェルナー・マウスの勝利に終わってからというもの。ますます勢いづくチェルナー・マウスに、マジカルデイジーが文句を言いに行ったことがあった。

 

 

「まぁ子供のやることだから。大目に見てあげてよ」

「チェルナーは子供じゃないもん! ファミリーを養うリーダーだもん!」

「今はリーダーごっこをやりたいみたいだからさ。満足したらやめてくれるって」

「ごっこじゃないもん! チェルナー本気やもの!」

 

 その時のディティック・ベルの言い分は不快だった。強力な魔法にものを言わせて狩場を独占しているのはチェルナー・マウスなのに、まるでマジカルデイジーがわがままを通そうとしているかのような口ぶりだった。

 

 せっかく良い気分だったのに。

 マジカルデイジーはため息を零し、魔法少女姿に変身する。マジカルデイジーの行く手を塞ぐようにディティック・ベルが姿を現したということは、そういうことだ。マジカルデイジーは、身バレしている。

 

 

「……何の用かな?」

「あなたと話をしたくてね。私に戦う意思はないよ」

 

 ゲームの世界ではなくわざわざ現実世界でマジカルデイジーに会いに来る意味は何なのか。マジカルデイジーが要件を問うと、ディティック・ベルは変身を解いた。マジカルデイジーよりいくらか年上の、大人の女性だった。

 

 魔法少女同士が敵対する時、変身を解いている状態は致命的な隙だ。魔法少女と一般人の身体能力の差は尋常ではない。それがわからないディティック・ベルではないはずだ。

 

 わかっていて、ディティック・ベルはマジカルデイジーが魔法少女に変身し終えるまで待ち、自分は変身を解除した。

 

 少なくとも、話をしたいというのは本当らしい。

 

 

「まずは謝罪を。ごめんなさい。あなたたちの快適なゲームを妨害してしまって」

「謝るくらいなら、狩場の独占をやめるように説得してほしいんだけど」

「それはできない」

「どうして?」

「悲劇を防ぐために必要なことだから」

 

 パーティーメンバーに嫌われたくない等のしょうもない理由が出てくると思ったら、数段スケールの大きい理由がディティック・ベルから紡がれた。嘘だとしても、さすがにふっかけすぎではなかろうか。

 

 

「ゲームの参加者の中に、プレイヤーキルを画策する悪い魔法少女がいる。当人の目的はわからない。魔王討伐の報酬(百億円)を確実に我が物にせんとする金銭欲なのか、他者の命を摘み取る悦楽なのか。それとも私の思いつかない何かなのか。とにかくテストプレイヤーをゲームオーバーにしたがっている者がいる。そしてここからが問題なんだけど――ゲームで死ねば、現実でも死ぬ」

「……は?」

 

 一瞬、理解が追いつかなかった。

 

 

「死ぬ? え、なんで」

「ゲームマスターもまた、私達テストプレイヤーを殺したがっているからだよ。あの世界は表向きは楽しいゲームなのかもしれない。けれどその内実は、ゲームマスターの遊び場だ。ゲームマスターは己が殺意を抱く魔法少女を、殺し合いを誘発しやすい環境に閉じ込めて、悲劇が起こるのを楽しみにしているんだ」

 

 ゲームマスターがマジカルデイジーに殺意を抱いていると言われても、恐怖よりも困惑が勝る。どうしてマジカルデイジーは命を狙われているのか。マジカルデイジーはこれまで世のため人のため魔法少女活動に尽くしてきた。

 

 そりゃあ『悪党』には恨まれているだろうが、今までマジカルデイジーが倒してきた『悪党』に、1つの仮想世界を作ってマジカルデイジーたちを閉じ込める芸当は不可能だ。じゃあ、誰が。どうして。『悪党』以外に、マジカルデイジーが恨まれる覚えはない。

 

 

「森の音楽家クラムベリー」

 

 怖気が走った。

 気づけば、両手で肩を抱いている。ディティック・ベルに何かされたか? いや、彼女は変身を解いている。彼女の魔法でマジカルデイジーに干渉できるはずがない。

 

 

「何か思い出せることはない?」

 

 ディティック・ベルの問いかけに、首を左右に振って答える。

 

 

「わからない。何なの、この気味の悪い感じ……」

「音楽家。この言葉を聞いて心がざわつく人達が殺し合うさまを、ゲームマスターは期待している」

「……どうしてあなたにはそんなことまでわかるの?」

「私は探偵の魔法少女だからね。私の魔法は情報収集能力に秀でている」

「あなたがゲームマスター側の魔法少女だからじゃないの?」

「その疑いを晴らすことはできないね。信じてくれとしか言えない。信じてもらうために、私は今、変身を解いている。マジカルデイジー。あなたに私の生殺与奪の権を握らせている」

「……」

「私は死にたくない。みんなにも死んでほしくない。平穏無事にゲームを終えることを願っている。そのためにマジカルデイジー、あなたの力を借りたい。どうか私を助けてほしい」

 

 ディティック・ベルが深々と頭を下げる。

 ディティック・ベルからもたらされた衝撃の情報の洪水に、マジカルデイジーは対処しきれていない。ディティック・ベルの言動からは誠実さを感じるが、ここで安易に協力要請に応じて良いものなのか。

 

 

「私に、何をしてほしいの?」

「今は特にこれといったことはないよ。悪い魔法少女が策を弄そうとしていることを察知できたら妨害する。それくらいでいい。あとは……いざという時、私たちの味方になってほしい」

「……あなたの協力者が他にもいるの?」

「いる。まだ内緒だけどね。あなたが私に協力してくれる気になった時に話すよ。今のあなたには、検討する時間が必要だろうから」

「……」

「また後日、会いに来るよ。あぁそうそう。今日こうして私と会ったことはくれぐれも内密に頼むよ。悪い魔法少女に、現実世界でテストプレイヤーを殺害するという発想にたどり着かせないためにね」

 

 ディティック・ベルはクルリとマジカルデイジーに背を向けて、歩き去っていく。

 

 さっきまでは次のゲームを楽しみにしていた。

 再びゲーム世界の3日間が開始されることを心待ちにしていた。

 

 

 今は、どうだろう。

 ゲーム作成者はマジカルデイジーたちに殺意を抱いている。

 テストプレイヤーの立場からは手の届かない敵だ。

 

 テストプレイヤーの中にもマジカルデイジーたちに危害を加えんとする者がいる。

 本心を隠して暗躍する敵だ。

 

 アニメ『マジカルデイジー』の登場人物となった『悪党』はもっとわかりやすかった。

 わかりやすく、対処しやすい敵だった。マジカルデイジーは、彼らとの戦闘を心のどこかで楽しんでいる節があった。

 

 しかし、此度マジカルデイジーに立ち塞がるのは、絶対に倒せない敵と、本心を隠して暗躍する敵だ。それらと戦う自分自身を想像してみても、あまりワクワクしなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇マジカルデイジー

 

 マジカルデイジーの心境がどう変わろうと、ゲーム世界に強制的にログインさせられる瞬間はやってくる。

 

 唐突にゲーム世界に放り込まれる非日常の一幕も、今やすっかり日常に変わっている。ログイン3回目だけあって、マジカルデイジーは何の困惑もなく、自室から荒野エリアの光景に視界が切り替わったことを受け入れられている。不思議なものだ。

 

 刹那、魔法の端末が通知音を奏でる。

 パーティーメンバーからのメールか。それともゲームからの新たなお知らせか。

 

 

『怖がりな魔王が、魔法少女(ゆうしゃ)に怯えています。魔王に笑顔を取り戻すため、魔王を信奉するモンスターの士気が上昇します。これ以降モンスターがすごくレベルアップします』

 

 お知らせの内容自体は、マジカルデイジーの想定内だった。

 赤い骸骨の特殊能力『長距離攻撃反射』のような初見殺しこそあれ、今まで出会った各エリアのモンスターはどれも弱かったからだ。後々強化予定だったということなら腑に落ちる。

 

 一方、なんでこのタイミングで強化されたのかという謎は残る。

 誰かがフラグを立てたか? 

 

 

「……」

 

 マジカルデイジーは魔法の端末から視線を上げる。

 

 気配を感じる。

 不穏に揺らめく気配。私は今、何かに見られている。

 視線に宿るのは、明確な敵意。けれど、目線の主はどこにもいない。周囲を一瞥しても、どこまでも空虚な荒野エリアの光景が広がるのみだ。

 

 

 ――透明な敵がいる。

 

 ゲーム世界への2回目のログインの際、マジカルデイジーのパーティーは白い水着の魔法少女:スイムスイムと出会った。いかにも水系統の魔法を使いそうな装いの彼女は、透明な敵のことを教えてくれた。スイムスイムが1人の時に奇襲を仕掛けてきた正体不明な存在を情報共有してくれた。

 

 なるほど。

 透明な敵の次の標的はマジカルデイジーらしい。

 

 

(へぇー)

 

 自然と頬が緩む。気づけば口角が上がっていた。

 謎のモンスターがマジカルデイジーに襲いかかろうとしている。普通なら怖がるべきなのかもしれない。けれど、マジカルデイジーの気分は高揚していた。

 

 マジカルデイジーの最盛期は中学生だった。アニメ『マジカルデイジー』も、マジカルデイジーが中学生の時の出来事をベースに脚色を加えた物語となっている。

 

 マジカルデイジーの精力的な献身により、周囲から『悪党』はいなくなり、地元は平和になった。そうしてマジカルデイジーが必要とされなくなってからも、魔法少女活動はずっと続けてきた。ずっと慈善活動を続けていたし、ずっと体と魔法を鍛え続けてもいた。マジカルデイジーの青春は、魔法少女で完結していた。

 

 このゲームの世界は、マジカルデイジーの新たな活躍の場だ。

 平和なのは望ましい。けれど同時に、マジカルデイジーはまた輝きたい。

 承認欲求に飢えているつもりはないが、かつての栄光をもう一度取り戻してみたい。

 

 

 スイムスイムから透明な敵の話を聞いた時、マジカルデイジーは純粋に興味を抱いた。

 戦ってみたいと思った。けれど、パーティーのみんなを危険に巻き込んでまで透明な敵に戦闘を仕掛けるのは違うと、己を律してきた。

 

 でも、今は1人だ。

 パーティーのみんなと合流するまで、少しばかり猶予がある。

 

 透明な敵。当然ながら姿を目視できず、ただ気配を察知しただけの敵。

 けれど、わかる。強敵だ。きっと、マジカルデイジーが今まで魔法少女として積み上げてきたすべてを駆使しないと勝てなさそうな相手だ。

 

 ワクワクする。

 やっぱり敵はわかりやすい方が良い。

 こうして真正面から正々堂々と敵対してくれる方が良い。いやまぁ視認できないから正々堂々ではないかもしれないけど、こういうのは心意気の問題だ。

 

 

 ディティック・ベルから『ゲームの死=現実の死』と突きつけられた時は混乱した。

 けれど考えてみればなんてことはない。致命傷を受ければ死ぬのは当たり前のことだ。

 死ななければ良い。それだけの話だ。

 

 このゲームが策謀がうずまく舞台なのは理解した。

 生き残るために身の振り方をしっかり検討しないといけないことも理解した。

 

 けれど、今は。一旦、難しいことは考えずに。

 今はただ、目の前の強敵との時間を楽しみたい。

 

 

 マジカルデイジーは気配のある方をじっと見つめたまま、手元で魔法の端末を操作して、ショップで購入した武器を召喚する。

 

 ショップでは『武器+1』といった、風情もへったくれもない装備を購入できる。新しいエリアのショップになるほど装備の強さ(+の後の数字)は増し、デザインも洗練される。

 

 また、購入した武器は、誰の魔法の端末にインストールするかによって、形態が変わる。マジカルデイジーが武器を買って、召喚すると、先端で花開く魔法のステッキに変貌する。マジカルデイジーはステッキを握り、透明な敵の出方をうかがう。

 

 

(さぁ、どう来る?)

 

 彼方より風を切る音が迫る。遠距離からの直線攻撃だ。

 マジカルデイジーはしゃがみつつ、ステッキを振り上げる。衝撃音と、何かを吹っ飛ばしたような感触。ステッキを当てられる攻撃、物理攻撃だ。それも軽い。音もなく射出されたことから推測するに、矢の類か。少なくとも銃弾ではない。

 

 風を切る音が複数になる。連射しているようだ。

 迫る攻撃が何なのかの情報を得た今、かわすだけならたやすい。

 今度は最小限の動きで攻撃を回避する。

 

 気配の方向。遠距離攻撃がマジカルデイジーに届くまでの時間。速度。

 これらの要素を合わせると、透明な敵のおおよその位置は推測できる。

 

 

「デイジービーム!」

 

 推測した位置の付近の足元にデイジービームを数回、放つ。地面をこするような角度で放たれたデイジービームは、土を分解して土煙を醸成する。

 

 透明な敵が視覚を頼りにするタイプなら、遠距離攻撃の精度が落ちるはず。

 透明な敵が土煙を嫌がってその場から動けば、風がうねる。土煙が形を変える。

 己の体の色は変えられても、周囲の環境までは変えられまい。

 

 マジカルデイジーの推測は次の瞬間、裏切られた。

 連続する射出音。しかし土煙が全然動かない。

 

 

「なッ」

 

 動揺のせいで回避が遅れた。

 マジカルデイジーの肩口に鋭い衝撃。血しぶきが舞う。

 

 透明な敵というのは、まさか。

 自分を透明にしているのではなく、マジカルデイジーの視覚を騙しているのか?

 それは厄介だ。強敵との戦いで、己の五感を信じられない状況は、マジカルデイジーの戦術を大きく縛る制約となってしまう。

 

 

 さぁピンチだ。

 どうする、マジカルデイジー。

 お前ならこれをどう打開する?

 

 己に勝気に問いかける。これだけで、無限に元気が湧いてくる。

 逆境に打ち勝ってこそ正義の魔法少女というもの。栄光は、苦難の果てにあるものだ。

 

 

 足を回して構える。その過程で地面を擦って、砂塵を散らす。自身が砂塵をまとう。

 透明な敵がマジカルデイジーの視界をあざむいていると仮定した時、透明な敵がマジカルデイジーにどんな光景を見せようとするのか。

 

 透明な敵はさっきと同じように、砂塵に変化がないようにマジカルデイジーの視覚を騙しつつ、追撃しようとするのではないか。

 

 

(ここ!)

 

 マジカルデイジーは足に力を込めて、一気に前方へ跳躍。何も見えない空間に蹴撃を放つ。足に確かな感触が走り、見えない何かが吹っ飛ばされる音が轟く。

 

 

(よしヒット!)

 

 透明な敵は遠方からの攻撃に終始していた。加えて、マジカルデイジーの視界をあざむける優位性に慢心していたのか、攻撃を仕掛ける距離を変えず、真正面からの攻撃一辺倒だった。それだけ情報があれば、反撃くらいできる。

 

 とにかくこれで一撃入れられた。

 透明な敵は想定より柔らかい。手応えがある。

 肉弾戦でもダメージの蓄積を期待できる。

 

 ……しかし、ここまで戦闘を続けてようやく一撃、となると逃走も視野に入れるべきだ。

 もう透明な敵とは十分に戦った。モンスター図鑑にも詳細が記録されているだろう。ショップに行けば、『透明なモンスターを視認できるメガネ』といった新アイテムが販売されているかもしれない。ここが引き際かもしれない。

 

 マジカルデイジーは戦闘狂ではない。

 強敵との戦いは楽しいが、戦場で死にたいわけじゃない。

 

 

 マジカルデイジーが蹴り飛ばした方向から、ゆらりと透明な敵が立ち上がる気配がする。透明な敵が、だんだん色を帯びていく。マジカルデイジーの攻撃で己を透明化できなくなったのか? マジカルデイジーの疑問をよそに、透明な敵は色を取り戻し――そこにいたのは、チャイナドレスをアレンジしたコスチュームを身にまとった人物だった。

 

 

娘々(にゃんにゃん)……!?」

 

 透明な敵はモンスターじゃなかった?

 魔法少女で、しかもパーティーメンバーの@娘々だった?

 

 

 ――ゲームの参加者の中に、プレイヤーキルを画策する悪い魔法少女がいる。

 

 ディティック・ベルの言葉が脳内でこだまする。

 まさか、@娘々が悪い魔法少女なのか。

 @娘々が凶悪に笑みをゆがませて、マジカルデイジーへと駆け込んでくる。

 

 いやそれはおかしい。

 @娘々の『お札の中にものを閉じこめられる』魔法では己を透明にはできない。

 @娘々自身をお札の中に閉じ込めて、お札から飛び出すようなこともできないはず。そもそもお札なんてどこにも飛来していなかった。

 

 いや、透明になる手段は魔法少女の魔法だけじゃない。魔法の国には様々な魔法のアイテムがある。確か羽織ることで己の体を透明にできるマントだってある。

 

 ……じゃあ、本当に@娘々が?

 

 

 マジカルデイジーの視界の先で、@娘々に変化が訪れる。ぶくぶくと体の内側から泡が沸き立つように皮膚が膨れ上がる。風船を膨らませたかのように顔だけが膨張する。

 

 

「え」

 

 顔だけが5メートルクラスになった@娘々がギョロリとマジカルデイジーを睨み、大きく口を開く。鋭く純白な牙が太陽光を反射してギラリと輝く。

 

 なんだこれは。

 なんなんだこれは。

 

 異形と化した@娘々がマジカルデイジーを喰らわんと飛びかかった。

 しかし、@娘々の着地地点にマジカルデイジーはいない。地面に穴が開いているだけだ。

 

 とっさにマジカルデイジーは己の真下にデイジービームを連射していた。連射して、とにかく連射して、人が余裕で入り込めるサイズの穴を作って、穴の中に飛び込んでいた。

 

 

「はっ、はっ……!」

 

 重力のなすがままにマジカルデイジーは穴の奥底へと落下していく。

 心臓の激しい鼓動が収まらない。呼吸が中々落ち着かない。マジカルデイジーの恐慌状態は続いている。

 

 もしも。いやさすがにないとは思うが。

 あの化け物がまだ追ってくるというのなら、問答無用でデイジービームを撃つ。

 そのつもりでずっと上空を見上げるも、化け物が追ってくる気配はない。ちらっと下を見る。穴はまだまだ続いている。マジカルデイジーはまだ上空を警戒していても問題ない。

 

 代わりに、何かが差し迫る音をマジカルデイジーの聴覚が捉える。

 デイジービームを放つと、デイジービームは何かを貫き、マジカルデイジーの体に細かく分解されたつぶてがパラパラと振りかかる。あの化け物がマジカルデイジーを殺すために大岩でも放り込んだか。

 

 いや待て。考え直せ。

 敵は、マジカルデイジーの視覚を騙すことができる。

 普通じゃあり得ない化け物の光景の捏造だってできる。

 さっきの@娘々っぽい怪物は、あくまで虚構だ。

 

 追撃の気配はない。マジカルデイジーはそろそろ落下速度を落とすために、穴の側面にステッキを突き刺す。ステッキをしっかり両手で持って、落下の勢いを殺そうとする。

 

 だが、その時。重力に従って穴を落ち続けるマジカルデイジーの体が、唐突に広々とした空間に放り出された。

 

 

 真下に、マジカルデイジーの落下先に何かがいる。

 ……あれは、ドラゴン?

 今まで出会ったモンスターと比べると、あまりに大きい。

 赤い鱗を身にまとったドラゴンが空を見上げる。マジカルデイジーと目が合う。ドラゴンの漆黒の瞳は、敵意と殺意に満ちている。

 

 倒さなければ。

 マジカルデイジーは構えた。デイジービームを撃つための構えだ。

 

 が。

 

 デイジービームの発射を躊躇した。

 草原エリアの赤い骸骨のことが脳裏をよぎる。

 赤い骸骨(スケルトンパワード)。特殊能力『長距離攻撃反射』を持つモンスター。

 もしかして、このドラゴンも?

 

 ドラゴンが口を開ける。口の奥から深紅の光が漏れる。

 デイジービームを撃ったら反射されて死ぬかもしれない。でも、デイジービームを撃たなければ確実に死ぬ。

 

 

「ぅううううッ!!」

 

 マジカルデイジーは、ありったけの勇気を総動員してデイジービームを放った。

 同時に、ドラゴンが咆哮とともに巨大な火球を吐き出した。

 

 デイジービームは火球を貫き、ドラゴンを貫いた。

 しかし火球はあまりに面積が大きい。火球の分解が間に合わない。

 

 だれかたすけて。

 マジカルデイジーが願う間もなく、彼女の矮小な体は巨大な火球に呑み込まれた。

 




次回 第11話
『あーあ、作戦壊れちゃった』
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