その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問14.マスクド・ワンダーの勝利用のポーズ(右手を上にあげ、左手を胸の前で曲げ、足を大きく開くポーズ)と対をなす、敗北用のポーズを提案せよ。ただし、ポーズを取った際にマスクド・ワンダーの豊かな胸が揺れてはならないものとする。



第14話 頼れる仲間はみんな目が死んでる①

 

◇マスクド・ワンダー

 

 

「……困った」

 

 三田(みた)(このみ)は途方に暮れていた。

 教科書、参考書、問題集、各種テキストが所狭しと敷き詰められた自室で、好は呆然と天井を見上げていた。

 

 

 好が魔法少女になったのは、中学1年生の時だ。

 きっかけは覚えていない。けれど勉強と違って、何をすれば良いのか、何をするのがダメなのかがふわふわしている魔法少女が苦手だった。

 

 だから好は勉強を、高校受験を優先して、中学時代は変身を封印してきた。勉強に終わりはない。勉強を言い訳にすれば、魔法少女という役割からいくらでも目を背けられた。

 

 好が魔法少女活動に肯定的になったのは高校生になってからだ。

 これもきっかけは覚えていない。だけど、おぼろげな夢を見るたびに、好の中で『魔法少女はかくあるべし』というイメージが固まり、積極的に慈善活動を行うようになった。

 

 勉強に飽きたわけではない。『魔法少女は力ある正義の体現者であり、世のため人のため、己が身に宿した力を役立てなければいけない』という不思議な使命感が好の心を駆け巡っていたからだ。

 

 魔法少女として東奔西走する姿はマニュアル至上主義の好らしくない。

 けれど好は、マスクド・ワンダーとしての自分が嫌いじゃなかった。

 

 

 そんな好は最近、ゲームの世界に巻き込まれた。

 最初はワクワクした。自分以外の魔法少女との出会いや、容赦なく倒していいモンスターの存在はマスクド・ワンダーの心に新鮮な刺激をもたらした。このゲームの世界は日頃、慈善活動に精を出していたマスクド・ワンダーへのご褒美だと解釈していた。

 

 けれど、ゲームの世界はご褒美なんかじゃなかった。

 ゲームで死ねば現実でも死ぬ。それなのに、マスクド・ワンダーたちは魔王を討伐しないといけない。魔王の強さがわからない中、それでも魔王に挑んでゲームをクリアしなければ、マスクド・ワンダーたちはいつまでも『すごくレベルアップしたモンスター』の脅威に怯えながらゲーム世界に滞在しなければならない。

 

 それでもマスクド・ワンダーは、正義の体現者としてふるまい続けた。

 己の命が脅かされている不安や恐怖はもちろんある。泣きたい気持ちもあった。

 でも好が夢想するマスクド・ワンダーは、強大な試練が立ちはだかっても絶対に屈しない。だからマスクド・ワンダーは正義の体現者としての自分を努めて演出した。

 

 好の気丈な演技は今のところ看破されていない、と思う。

 パーティーメンバーのプフレとシャドウゲールから心配されていないし、新メンバーのスイムスイムもマスクド・ワンダーに心から憧れてくれている。

 

 だが、ここで好に新たな試練が訪れた。

 『オフ会』と呼称されるイベントだ。

 

 魔王が待ち受けているらしい魔王城エリアの探索は、魔王城エリアのショップを見つけて、必要そうなアイテムを一通り購入しきった段階で終わりを迎えた。ゲーム世界からのログアウト直前のイベント発生により、ファルに荒野エリアの街へと強制転移させられたからだ。

 

 『マジカルキャンディーの数が一番少ない人をゲームオーバーさせる』イベントのような、魔法少女の死を待ち焦がれる類いが待ち受けているのではないか。内心で戦々恐々としていたマスクド・ワンダーだったが、今回は平和的なイベントだった。

 

 『じゃんけん大会の優勝者がマジカルキャンディーを1000個ゲットできる』イベントでプフレが優勝してから数分後、マスクド・ワンダーは現実世界に戻ってきた。そこでようやく、新たな試練の存在に気づいたのだ。

 

 スイムスイムはゲームの世界でみんなが死なないように動いていた。

 そんな彼女が今現在、心に秘める作戦を共有してもらうため、ゲームマスターの監視外の現実世界でみんなと会うこととなった。

 

 現実世界でみんなと会える。

 それはすごく楽しみだ。みんなの素顔も気になって仕方がない。

 

 でも、でも。好にはわからなかった。

 魔法少女同士の会合にどんな服装で行けば正解なのかがわからなかった。

 

 

「どうしよう」

 

 こんなこと両親や、学校や塾の先生には聞けない。

 かといって相談できる友達もいない。

 

 マスクド・ワンダーはクローゼットを開く。ハンガーラックには制服の夏服・冬服・合服にジャージ……と、およそ学校用の服装しかかけられていなかった。

 

 好の人生で私服を必要とする瞬間はなく、無駄なものにお小遣いを投じる癖もない。

 今まではそれで問題なかった。でも今は困っている。

 

 教科書に好の求める答えは載っていない。

 父親のパソコンを借りて調べてみるも、有益な情報は得られない。

 

 

「合服なら大丈夫……かな?」

 

 好は迷い尽くした末、合服に着替えて家を発った。慣れない電車移動で『人小路邸前』までたどり着き、もたつきながらバスに乗り換えて『人小路邸前』で降りて、好はようやく目的地に着いた。

 

 

「凄い……」

 

 好を待ち受けていたのは、絵に描いたような豪邸だった。見渡す限り人小路家の敷地のようで、好の通う学校よりもはるかに敷地が広い。

 

 

「もしかして同業者かな?」

 

 好が人小路邸に圧倒されていると、声をかけられる。

 声のした方へ視線を向けると、とても見目麗しく、とても見覚えのある3人が好を見つめていた。

 

 あぁそうか、その手があったか。好は3人の姿に感心した。

 魔法少女同士の会合に、好がマスクド・ワンダーに変身した姿で赴かなかったのは、マスクド・ワンダーの、その……ぴっちりとした服装で公共機関を使っては目立ちすぎる上、余計なトラブルを招きかねないと考えたからだ。

 

 けれど、魔法少女がコスチューム以外の服装に着替えることは禁じられていない。

 今回のように魔法少女同士が現実世界で、目立ちすぎずに落ち合うには、マスクド・ワンダーに変身しつつ、別の服に着替えるのが正解だったということか。1つ勉強になった。

 

 それにしても、不思議な組み合わせだ。

 左からアカネ、ディティック・ベル。そして――

 

 

「――スイムスイム」

「あなたは、マスクド・ワンダー?」

「そう。よくわかったね」

「何となく。学生だったんだ」

「うん」

 

 好とマスクド・ワンダーの間には明確なオンオフがある。好の大人しい言動についてスイムスイムにどう思われるか心配だったが、スイムスイムはいつも通りだ。態度を変える様子はない。好の杞憂だったようで、安心した。

 

 

「でも、どうしてアカネとディティック・ベルがここに?」

「2人とも私に協力してくれてるから。オフ会に参加してもらった方が良いと思って」

「当たり前よ。ここへきてハブられたらみっともなく泣きわめく自信あるわよ」

「同じく」

 

 好が投じた質問にスイムスイムが回答し、即座にディティック・ベルとアカネが同調する。3人はずいぶんと気の置けない仲を築いているようだ。

 

 

「みなさん、早いですね」

 

 と、ここで。人小路邸の屋敷から1人の少女が歩み寄ってくる。スイムスイム達と違って魔法少女に変身していないが、発言からしてオフ会を知っている魔法少女で間違いない。このですます口調はシャドウゲールか。右手に何か、名状しがたい球体を持っている。

 

 

「あなたは?」

「あ、そっか。シャドウゲールです。……まずは黙って私の後ろについてきてください」

 

 ディティック・ベルに疑問を向けられた少女:シャドウゲールは思い出したかのように魔法少女名を名乗ると、クルリと反転して歩を進め始めた。

 

 謎の球体に謎の指示。好はスイムスイムたちと顔を見合わせてそろって疑問符を浮かべるも、ここであえてシャドウゲールに逆らう理由はない。シャドウゲールの進むにしたがって、好たちも歩み始める。

 

 人小路邸では、多くの人が働いているようだ。好たちは彼ら彼女らの側を通り抜けるが、誰も好たちに視線を向けない。

 

 好は察した。シャドウゲールが持つ謎の球体で、魔法的な細工を施している。だからあの人たちは好たちに気づかない。気づけない。

 

 人小路邸の屋敷に入った後もしばらく移動は続き。人通りがぱたりと消えた廊下でようやくシャドウゲールは立ち止まった。

 

 

「もう話しても大丈夫です」

「今のは結局なんだったんだ?」

「……さぁ、お嬢の考えていることは私にもさっぱりです」

「お嬢?」

「プフレのことです」

 

 シャドウゲールにアカネが問いかけると、シャドウゲールは一瞬、「え、この人ホントに『たまはどこだ?』系の言葉以外も話せたんだ」と言いたげに目を見開きつつも、何とか平静を保ってアカネに返答していた。好もシャドウゲールの気持ちがよくわかる。

 

 

「ここは私の部屋――今回の会合の場です。はぁ、お嬢もなんでわざわざここを選んで……」

 

 シャドウゲールはドアノブを握って扉を開き、好たちを招き入れる。好たちが順番に部屋に入り、シャドウゲールが扉を閉める。

 

 その部屋は、異常に広かった。身近な例で挙げるなら、荒野エリアの街くらい広かった。さらに豪華絢爛な家具の数々が、好たちを出迎えてきた。

 

 

「はぁ!?」

 

 部屋の主であるはずのシャドウゲールがなぜか驚愕の声を轟かせている。

 

 『お嬢』という呼び方からして、プフレとシャドウゲールの関係は貴族と使用人だと推測していたため、シャドウゲールの部屋は質素なものかと想定していた。でも想定と現実は異なっていた。人小路家は、使用人もしっかり厚遇しているらしい。

 

 

「……ずいぶん豪遊してるんだね?」

「いやいやいや違いますって!?」

 

 好が素直な感想を述べると、シャドウゲールが首をぶんぶん左右に振って否定してくる。別にパーティー仲間が金に物を言わせて好き放題していたって、好はシャドウゲールを嫌ったりしないのに、何をそんなに焦っているのだろう。

 

 

「あれ、変身が解けてる? どうして??」

「変身できなくなっている。さっきの光学迷彩装置(?)といい何でもありか」

「ベルの変身前の姿、初めてみた」

 

 ふと後ろを振り向くと、絶世の美少女3人衆がいつの間にか変身を解いていた。20代の女性と10代の少女と10歳未満の女の子だ。

 

 

「ようこそ」

 

 状況がよくわからない。好が謎を紐解くべく思考の海に己を投じようとしたところで、部屋の奥から1人の少女が声をかけてきた。見やると、円卓を取り囲むように配置された椅子の1つに座った少女が薄く笑みを浮かべている。多分、彼女がプフレだ。

 

 

「此度のオフ会の主催者、プフレだ。余興は楽しんでもらえたかな?」

「楽しむ人より、困惑してる人が多いと思う」

「おや、それは残念」

 

 比較的メンタル面に余裕のある好がプフレに回答すると、プフレは大仰にため息を吐いた後、場を収めるべく動き出した。

 

 

「さて、整理しよう。君の魔法少女名は?」

「マスクド・ワンダー」

「君は?」

「ディティック・ベル」

「君は?」

「アカネ」

「君は?」

「スイムスイム」

「ッ!?」

 

 プフレから魔法少女名を問われた面々は1人ずつ回答する。この場で一番幼い少女が『スイムスイム』を名乗った時、好は驚愕に身を震わせた。

 

 

「ぇぇえええええええ!? スイムスイムがこんな子供!? 嘘でしょう!?」

「子供じゃない」

「これは驚いた。スイムスイム、君は正真正銘の神童だ。逸材だね」

「私は子供じゃない」

 

 シャドウゲールが驚きのままにスイムスイムを指差すと、スイムスイムが不服を表明する。プフレの称賛にもスイムスイムはすかさず不服の旨を述べる。よっぽど子供なのがコンプレックスらしい。好はスイムスイムへのリアクションを頑張って控えた。

 

 

「いやぁ、そういう反応わかるなぁ。私もスイムスイムが7歳だって知った時はびっくりしたもん」

「「7歳ッ!?」」

 

 つもりだったが、ディティック・ベルからさらなる爆弾を投下されたことで、つい好もシャドウゲールと一緒にびっくりしてしまった。

 

 いや、だって7歳って。

 スイムスイムは言葉数が少なかったから、もしかしたら子供かもしれないと考えたことはあったが、いくらなんでも7歳は想定外だ。

 

 こんなに小さい子が今まで、ゲーム世界でみんなが死なないように奔走していたというのか。好がマスクド・ワンダーとしてゲーム世界をのほほんと享受している間も、ずっと。

 

 

「では、この場に居合わせた人物の正体が明らかになったところで、次はこの空間の種明かしといこうか。ここは異界化した空間だ。この異界では、あらゆる魔法的な効果が遮断される」

「変身が解けたのはそういうことね」

「そういうことだ。しかし君もスイムスイムとつながっていたとは意外だったよ、ディティック・ベル」

「まぁ色々あってね」

 

 好の感情を置き去りにして、周囲の会話は進んでいく。プフレとディティック・ベルは互いに視線を交わして微笑みを交わす。プフレがどこまでも余裕のある笑みな一方、ディティック・ベルの笑みにはプフレへの警戒心がうかがえる印象だ。

 

 

「いや勝手に私の部屋に変な細工を加えないでもらえますか?」

 

 もしかしたらプフレとディティック・ベルとの間で剣呑な雰囲気が作られるかもしれない。という好の予想はシャドウゲールが発言を差し込んだことで払拭された。

 

 

「『異界化』って何ですかパワーワード過ぎませんか何してくれてるんですか?」

「ふふ。護がみんなを迎えに行っている間に、作り変えさせてもらったよ。前に君に改造させたアイテムの中にちょうどいいものがあったのでね」

「……はぁ。私もうここで生活したくなくなったんですけど」

「ならば私の部屋に来ればいい。歓迎するよ」

「従者が主人と同棲してるってバレた瞬間、私は路頭に迷うんですが。お嬢は私に飢えて死ねって言いたいんですか?」

「そうではないのだがね。……安心したまえ。後で元に戻すさ」

「本当ですか?」

「もちろんだとも」

 

 プフレとシャドウゲール。この2人のやり取りを見ていると、ふと『蜜月な関係』というワードが脳裏をよぎる。好にも友達がいれば。友達を作ろうとしていれば。こうして軽快なやり取りを交わせる友達が今、好の隣にいてくれたのだろうか。

 

 

「話を戻そう。この部屋は異界化しており、あらゆる魔法的な効果が作用しない。つまり、ゲームマスターが介入する余地のない空間だ。我々の密会にこれほどふさわしい場もあるまい。この場を用意できたのは、シャドウゲールの魔法の賜物さ。便利だろう?」

「すごい」

「わかるかい、スイムスイム? その感性は大事にしたまえよ」

「うん」

「さぁスイムスイム。遠慮はいらない、君の作戦を話してくれ」

「わかった」

 

 プフレはこの不思議空間を設けた理由を告げると、スイムスイムに視線を送る。スイムスイムは円卓を取り囲む椅子の1つに率先して座り、好たちがスイムスイムに続いて他の椅子に座るのを待ってから、作戦を告げるべく、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 ◇◇◇

 

◇メルヴィル

 

 すごくレベルアップしたモンスターは、メルヴィルの都合の良い駒にはなってくれなかった。マジカルデイジーと共倒れになったグレートドラゴン以降、モンスターは魔法少女のキルスコアを稼いでくれなかった。

 

 むしろ強化されたモンスターはメルヴィルに牙を剥いた。

 マジカルデイジーの死を理由にして、ディティック・ベルとラピス・ラズリーヌから離脱してチェルナー・マウスと2人パーティーを作ったメルヴィルには、いつでも単独行動のチャンスがあった。チェルナー・マウスにモンスターの狩場を守るよう言い含めれば、メルヴィルはいつでも他の魔法少女を暗殺する機会を得られた。そのはずだった。

 

 しかし、強化されたモンスターは、みなそろってメルヴィルの迷彩を看破する。

 透明になろうと、フィールドのオブジェクトに擬態しようと、他のモンスターの姿に成りすまそうと、モンスターはメルヴィルの『色を自由に変えられる』魔法なんて知ったことかと襲ってくる。己の魔法で騙せない相手はメルヴィルの苦手分野だ。素の魔法少女の身体能力で対処しないといけないからだ。

 

 結局、メルヴィルはチェルナー・マウスと行動を共にせざるを得なかった。『ものすごく大きくなれる』チェルナー・マウスに守ってもらわなければ、他の魔法少女を殺すどころか、己の命すらまともに保てないからだ。実際に一度、図書館エリアでメルヴィルは単独行動に走った結果、モンスターに殺されかけた。

 

 

 とにかくモンスターが邪魔すぎる。どうしてこうなった。

 メルヴィルはチェルナー・マウスに保護されながら、内心で忸怩たる思いを抱いていた。

 

 状況はメルヴィルに味方してくれない。

 しかしそれでもチャンスはある。ゲーム世界へのログイン直後、魔法少女たちが荒野エリアにランダムに配置されるタイミングだ。

 

 確かに図書館エリア等の深部エリアのモンスターは強い。けれど、初期エリアたる荒野エリアの敵は強くなったといえど大したことはない。

 

 加えて、今のメルヴィルはチェルナー・マウスとの2人パーティーだ。チェルナー・マウスだけが相手なら、多少ログイン後に合流が遅れても、いくらでも言い訳できる。つまり、ログイン直後に魔法少女殺害に多くの時間を費やせる。

 

 ゲーム内のモンスター事情は変われど、メルヴィルのやることは変わらない。願わくば、殺す優先順位が高い対象が、ログイン時にメルヴィルの近くに配置されますように。

 

 神頼みは趣味じゃないが、メルヴィルは祈った。

 祈って、ゲームの世界への4回目のログインの時を迎えた。

 

 

「ぐッ!?」

 

 直後。上方から強烈な重圧がメルヴィルに襲いかかる。たまらず地に膝をつき、手をつき、それでも耐え切れずに荒野エリアの地に倒れ伏す。何者かに攻撃されている。メルヴィルは攻撃から逃れるべく必死に体を動かそうとするも、メルヴィルの意思に体は応えてくれない。

 

 このままだと潰される。圧死してしまう。

 誰が、どうやって、なぜ。ぐるぐると思考だけが突き進むだけで、メルヴィルは何もできない。何もできないまま、時間だけがいたずらに過ぎていく。私は、死ぬ? 再試験に合格できずに? 死んだと思っていたクラムベリーと、二度と再会できずに?

 

 

 だれかたすけて(生存本能)

 

 

「メルっち!」

 

 メルヴィルへと指向性の伴った声が届く。目線だけどうにか上に持っていくと、そこにはラピス・ラズリーヌがいた。ラピス・ラズリーヌは歯を食いしばって重圧に抵抗しながら、メルヴィルの手をつかみ取る。

 

 

「ッ!」

 

 刹那、メルヴィルの目に映る光景は様変わりしていた。

 メルヴィルを襲っていた重圧からも解放されていた。

 

 ここは、荒野の街か。メルヴィルが周囲を見渡すと、数名の魔法少女の存在を確認できた。なぜか全員、目から光を失っている。

 

 

「あんがとな、ラズリーヌ。けんどごれ……?」

「説明は後っす! みんなを助けなきゃなんで!」

 

 ラピス・ラズリーヌに聞きたいことは山ほどあった。しかしラピス・ラズリーヌはメルヴィルの疑問を置き去りにして姿を消した。『宝石を使ってテレポートできる』魔法でどこかに瞬間移動したのだろう。

 

 話を聞ける人はいないか。

 荒野の街を重苦しい雰囲気が漂う中、メルヴィルは周囲を見渡し、プフレを選んだ。

 

 

「プフレ」

「あぁメルヴィル。命拾いしたようだね」

 

 魔法の絨毯に座ってぷかぷか浮いているプフレに話しかけると、プフレがゆっくりと顔を上げた。いつも泰然自若としていた彼女も、見るからに意気消沈している。

 

 

「我々の状況も君と同じだろうよ。ゲームの世界にログインしたら謎の重力に襲われ、地面にたたきつけられた。あわや押しつぶされて殺される寸前で、ラピス・ラズリーヌが救助してくれた。おかげで今、我々はここにいる」

「ラピス・ラズリーヌは宝石のある方向へテレポートできる魔法の持ち主だ。彼女は、ロクに体を動かせないほど強烈な重力下であっても唯一、宝石を投げてテレポートしてを繰り返すことで、重力を無視して移動できる。そんな彼女は荒野の街が安全地帯だと知ってから、みんなを救うために荒野エリアを飛び回っている」

「ラピス・ラズリーヌのテレポート魔法のおかげで我々は生き延びられたけれど、他の魔法少女が無事である確証はない。手遅れの者もいるかもしれないね」

「それに荒野の街がずっと安全だという保証もない。ファル氏を問い詰めてみたが『こんなの知らないぽん』の一点張りで黙秘を貫く姿勢なのでね」

「元々ゲームマスターは我々の生殺与奪を握っている。今まで我々はマスターの戯れで生かされていたが、ゲームマスターはいよいよもって、我らを殺したくなったようだ」

「もうこうなったらどうしようもない」

「我々はただ座して死を待つしかあるまい。……あぁそうだ。辞世の句を作りたくなったら言ってくれたまえ。コツを教えよう」

 

 プフレはメルヴィルに話すだけ話すと、メルヴィルからの質問は受けつけないとばかりにスッと目を閉じる。

 

 

 メルヴィルは右を見る。コック姿の魔法少女:ペチカが「うぅぅ……!」と恐怖に体を震わせて泣いている。

 

 メルヴィルは左を見る。巫女服姿の魔法少女:御世方那子が「びえええええぇぇぇん!」と号泣している。

 

 メルヴィルは後ろを見る。チャイナ服姿の魔法少女:@娘々が虚空を見上げて「結局みんな死んじゃうアルか? あの時のように……あの時ってなにアルか?」とブツブツ独り言を続けている。

 

 

 なんだこれは。

 わけがわからない。

 これが本当に森の音楽家クラムベリー主催の試験だというのか?

 

 ありえない。

 だってクラムベリーは強者との戦いを欲していた。

 強者と強者がぶつかり合う機会を欲していた。

 そのためにクラムベリーはこれまで何度も試験を開催していた、はずだ。

 

 なのに、これはなんだ?

 

 集めた魔法少女たちを戦わせることなく。

 クラムベリー自身が試験の場に乱入することなく。

 ただ全員まとめて圧死させようとする。

 まるで、もう飽きたからって、集めた魔法少女たちをゴミ箱に捨てて処分しようとしているかのような。

 

 

 これは本当にクラムベリーの試験なのか?

 こんなものをクラムベリーは望んでいるのか?

 私も、私も……クラムベリーにとってのゴミになってしまったのか?

 

 

 メルヴィルはただ、立ち尽くすことしかできなかった。

 

 




次回 第15話
『頼れる仲間はみんな目が死んでる②』
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