その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問16.のっこちゃんの出した魔法少女名変更の上申書が受理された時にオススメしたい魔法少女名の案を挙げよ。ただし『森の音楽家クラムベリー』の『森の音楽家』のような二つ名は使ってはならず、15文字以内の魔法少女名としなければならないものとする。



第16話 魔王、それは君がみた光

 

◇のっこちゃん

 

 

「――私が魔王だよ」

 

 魔王城エリアの最深部。魔王の間。

 そこでスイムスイムが己が魔王だと宣言した時、のっこちゃんはこの場の誰よりも混乱している自覚があった。のっこちゃんは混乱する胸中が表に出てしまわないよう抑え込むのに必死だった。

 

 わからない、わけがわからない。

 どうしてスイムスイムは、自分が魔王だって宣言したのか。

 だって、だって。私が魔王のはずなのに。

 

 

 のっこちゃんは悪い魔法少女の部類だった。

 のっこちゃんにはお金が必要だった。お父さんはいなくなった。お母さんは病気で入院中だ。頼れる親戚もいない。お金が必要だった。

 

 子供なのっこちゃんにお金を稼ぐ手段は限られていた。

 4歳の時に手にした魔法少女の力にしたって、お金を稼ぐには無力だ。魔法少女の慈善活動に魔法の国はお金を出してくれない。

 

 ある時。のっこちゃんは森の音楽家クラムベリーの試験に協力した。

 のっこちゃんがかつて属していた魔法少女グループのリーダーがクラムベリーの信者であり、リーダーは試験が順調に進むことを期待して、のっこちゃんに仕事を依頼したのだ。

 

 普通の子供らしく試験の参加者に近づいて、『まわりの人の気分を変えられる』魔法で負の感情を伝播させて、試験を加速させる。

 

 仕事をする度、のっこちゃんは報酬をもらった。

 試験に協力して得られる報酬は、のっこちゃんの貴重な収入源だった。

 

 悪いことをしている自覚はあった。

 試験の参加者に勝手にマイナスの感情を押しつける行為が、良いことのはずがない。

 

 でもそうするしかなかった。

 のっこちゃんがお金を稼ぐには、魔法少女の力で悪いことをするしかなかった。

 

 

 しかしのっこちゃんの資金源は途絶えた。

 森の音楽家クラムベリーが死亡し、彼女の悪事が白日の下にさらされたからだ。

 魔法の国の官憲の手が伸びて、クラムベリーの信者だったリーダーも試験に関与していた疑いで捕まって、行方不明になった。のっこちゃんは運良く捕まらなかった。

 

 でも、ゲームマスターにはバレていた。

 10歳を迎えた折、のっこちゃんはゲームマスターに脅迫された。

 のっこちゃんの罪をバラされるか、ゲームに参加するかの二択を迫られた。

 

 のっこちゃんはゲームに参加した。

 ゲームマスターに逆らえば、のっこちゃんの罪が明るみになる。官憲の手がのっこちゃんに届く。リーダーは今も行方不明のままだ。のっこちゃんは行方不明になりたくなかった。お母さんを悲しませたくなかった。

 

 ゲームの世界で、のっこちゃんは『魔王』となった。

 ゲームの目的は、他のプレイヤーを全滅させること。

 

 ゲームの世界で魔王同士の殺し合いをさせられるのかと戦々恐々としていた。

 しかし、ゲームが始まってみると、みんな『魔王の討伐』を目指していた。魔王はのっこちゃんだ。みんな、のっこちゃんの討伐を目指している。

 のっこちゃんは己が魔王だと誰にも明かせなかった。

 

 誰にも明かせないまま、ゲーム攻略は進められていった。

 『マジカルキャンディー所持数が一番少ない人を脱落させる』イベントが発生した時、のっこちゃんは『私がゲームオーバーします』と立候補しようかと思った。のっこちゃんがゲームオーバーになれば、それは魔王が討伐されたことと同じだからだ。

 

 のっこちゃんが16名の魔法少女から狙われているという構図から逃げたかった。けれど、たった一言、声に出すだけの行為に強烈に嫌な予感を感じて、のっこちゃんは立候補しなかった。

 

 立候補しなかったことは良かったのか悪かったのか。もやもやを抱えたままゲームの世界に3回目のログインを果たした時、のっこちゃんを含む魔法少女たちはファルに緊急招集された。そして、ゲームの世界で死ねば現実世界で死ぬことを宣告された。

 

 のっこちゃんの目的は、他のプレイヤーを全滅させること。

 他の魔法少女たちの目的は、魔王を討伐すること。

 

 ゲームの終了条件は。魔王を殺すか、魔王以外の全員を殺すか。

 つまり、マジカルデイジーが亡くなってしまった状況下で、のっこちゃんは残る15人の魔法少女を殺さないと、生き残ることができない。

 

 天と地がひっくり返るような感覚だった。

 奈落へと突き落とされたような錯覚だった。

 

 みんなを殺したくなんてない。

 同じパーティーとして一緒の時を過ごした夢ノ島ジェノサイ子や@娘々は良い人だ。殺したくない。他のパーティーの人だってきっと良い人だ。殺したくない。

 

 でもみんなに殺されたくもない。

 痛いのは嫌だ。死ぬのも怖い。それに私がいなければ。病気のお母さんはどうなる?

 

 

 結局、のっこちゃんは自分の生存を優先した。のっこちゃんは死にたくない一心で、試験に協力していた時のように、他の魔法少女に負の感情を伝播させた。

 

 のっこちゃんにとって都合の良い事故や事件が起きて、魔法少女の数が減ることを願って、のっこちゃんは魔法を使った。頭がおかしくなりそうだった。

 

 でも、のっこちゃんの暗躍は結果に結びつかなかった。マジカルデイジー以降、誰も死ぬことなくゲーム攻略は進められた。

 

 

 3回目のゲーム世界からログアウトして。のっこちゃんは頭を抱えた。魔王城エリアがすべて攻略される時は近い。のっこちゃんは魔王だ。魔王城エリアを攻略しきった時、魔王城エリアの最奥にはヒントメッセージが用意されているのではないか。そこにはのっこちゃんが魔王だと刻まれているのではないか。

 

 のっこちゃんが魔王だと知った時、みんながどうなるか。

 そんなのわかりきっている。みんな、のっこちゃんを殺す決断をするだろう。だってみんな、すごく強くなったモンスターがたくさんいる危険な世界から逃げたいはずだから。

 

 いよいよのっこちゃんに死が迫っている。

 のっこちゃんは泣いた。死にたくないと泣きわめいた。お母さんに『助けて』と抱きつきたくて、でもできなかった。お母さんの前では、のっこちゃんは明るく元気な子供じゃないといけない。お母さんを心配させて、お母さんの病気を悪化させるわけにはいかない。

 

 

 だれかたすけて。

 

 のっこちゃんがどれだけ拒否しても時間は無常に流れていき。ゲームの世界に4回目のログインを果たした時、のっこちゃんに強烈な重力が襲った。

 

 わけがわからないまま地面に倒れ伏し、しばらくしてからラピス・ラズリーヌに助けられ、プフレに事情を説明されて、ようやく理解した。ゲームマスターは怒っている。のっこちゃんに『魔王』として働けと言っている。これ以上サボったら後はわかるな、と脅している。

 

 魔王城エリアの大広間で、騎士とロボットが次々と召喚され、のっこちゃんたちに襲いかかってきた時、のっこちゃんは理解した。ゲームマスターはここでのっこちゃんに役目を全うしろと言っている。

 

 のっこちゃんは『まわりの人の気分を変えられる』魔法を全力で発動した。ひたすら絶望を振りまいた。のっこちゃんの10年の人生で味わったありとあらゆるネガティブな感情をひたすら、ひたすらフルスロットルで伝播した。

 

 のっこちゃんはさらに念じた。諦めろ、諦めろ、諦めろ、諦めろ。

 のっこちゃんのためにここで死ね。のっこちゃんのせいでここで死ね。

 

 のっこちゃんのせいで、のっこちゃんのせいで。

 いよいよ狂ってしまいそうで、前後左右の感覚すら失われつつあった。

 

 

 でも、ダメだった。

 のっこちゃんはゲームマスターの要望に応えられなかった。

 のっこちゃんが魔法を最大出力で放っても、スイムスイムの心だけはへし折れなかった。

 

 スイムスイムだけは平常心を保っていて、なぜか夢ノ島ジェノサイ子を持ち上げて騎士の集団に投げ飛ばしたかと思うと、ジェノサイ子の両足を掴んで振り回して敵を弾き飛ばした。

 

 

 のっこちゃんの『まわりの人の気分を変えられる』魔法は、あくまでのっこちゃんが起点だ。周りに絶望を振りまきたいのなら、まずのっこちゃんが絶望した時のことを必死に思い出さなければ、効果を発揮しない。

 

 でも、のっこちゃんはスイムスイムの奇行に驚いて。ひたすら伝播していたネガティブな感情が驚愕の感情に塗りつぶされてしまった。

 

 それでジェノサイ子が戦意を取り戻して、みんなが戦意を取り戻して。のっこちゃんが改めて絶望した当時の気持ちを掘り起こそうとしても、もはや手遅れだった。大広間の戦闘は、魔法少女サイドの勝利に終わった。

 

 

 魔王の間の玉座が空席だった時、のっこちゃんは震えた。

 この玉座は間違いなく、のっこちゃんの処刑場だ。

 

 そう思っていた矢先にスイムスイムがいきなり魔王をカミングアウトした。

 わけがわからない。

 

 

「なるほどね」

 

 スイムスイムの魔王宣言に困惑する魔法少女たちの隙間を縫って、魔法の絨毯に腰かける魔法少女:プフレがスイムスイムとの距離を縮めて対面する。プフレは得心がいったと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

 

「不思議に思っていたんだ。先の大広間での戦闘を終えた時、すでにモンスター図鑑は完成していた。魔王を倒していないのになぜ、と疑問だったんだ。皆の士気を削がぬよう、口には出さなかったがね。だが疑問は今、氷解した。魔法少女の中に魔王が隠れ潜んでいたというのなら納得だよ。……では魔王くん」

「今までどおり、スイムスイムでいい」

「ではスイムスイム。いくつか質問をしても良いかな? 真実を知りたいと願う我々に少々付き合ってもらいたい」

「良いよ」

 

 偽物の魔王とプフレが会話の中心にいる。

 本物の魔王であるはずののっこちゃんは蚊帳の外だ。

 

 

「魔王というのは、ゲームマスター側ということかい?」

「違う。私もあなたたちと同じ、1人のプレイヤー。ただみんなと目的が真逆なだけ」

「ほう? とすると、魔王のゲームクリア条件は――」

「――他のプレイヤーを全滅させること」

 

 プフレに問われてスイムスイムが魔王の目的を語った瞬間、空気が凍った。

 魔法少女たちがスイムスイムへの警戒度を上げる。当然だ。魔王の目的が、他のプレイヤーの命を奪うことだとわかったのだから。

 

 のっこちゃんもみんなと態度を合わせないといけない。でないと不審がられる。

 でも、のっこちゃんは上手く己の感情をコントロールできなかった。

 

 だって、合っている。

 スイムスイムが話した魔王の目的は、のっこちゃんの目的と一緒だ。

 

 まさか本当に、スイムスイムも魔王?

 スイムスイムものっこちゃんと同じように、ゲームマスターに脅されて、ゲームに参加する以外の道を閉ざされてしまった1人なのか。

 

 でも、魔王の間に玉座は1つしかない。

 魔王が2人もいるなんて、ありえるのだろうか。

 

 

「どうして自分が魔王だと明かしたのかな?」

「この空席の玉座は、人が座るのにちょうどいいサイズだったから。……今話さないと、みんなが色々邪推して暴走すると思った。例えば、気に入らない人を『お前が魔王だ』って決めつけて、殺したりしそうだなって」

「ふむ、ありえる話だ。それを防ぎたかったと」

「うん」

「君は魔王だ。魔法少女の数が減ることは望ましいのでは?」

「人が死なないに越したことはない」

「つまるところ、君自身の目的は?」

「ゲームを終わらせること」

 

 いや、ありえない。この玉座のデザインはわざとだ。

 魔王は人間サイズであり、1人だと示している。

 

 このゲームにはそういうところがある。

 ヒントを各所に散りばめて、それに気づけず悲劇的な末路を辿る人をあざ笑おうとしているゲームマスターの性格が見え隠れしている。この玉座も明らかにヒントだ。

 

 

「魔王の私がゲームをクリアするには、みんなを全滅させないといけなかった」

「でも私は嫌だった。そんな残酷なこと、やりたくなかった」

「だから、ゲームを終わらせるための方法を考えた」

「考えた結果、ゲーム攻略を遅延させることにした」

「ゲームには必ずそれを楽しむ誰かがいる」

「私達は無理やりゲームに参加させられた。ゲームを楽しむ立場じゃない。なら、このゲームを楽しんでいるのは観客だと思った。観客の1人はゲームマスター。他にも観客がいるかもしれない」

「その観客たちが白けるくらいゲーム攻略を遅延させれば、ゲームが終わるんじゃないかと期待した。私はそのために動いていた」

 

 とにかくスイムスイムの目的がわからない。スイムスイムがのっこちゃんから魔王を乗っ取って、それでスイムスイムに何の利があるというのか。

 

 

「毎日ポップするモンスターの数には限りがある。ゲームのプレイ人数が多ければ多いほど、1人あたりのマジカルキャンディ獲得数は減る」

「各エリアは、そのエリアのショップで売っている強い武具を買わないと難易度が格段に変わる。みんなは、安全に攻略するために時間をかけてマジカルキャンディを集めなければならなかった」

「だから、アカネにひたすらモンスターを斬ってもらって、マジカルキャンディーを独占させて、集めたマジカルキャンディーを『R』で浪費してもらった。そうやってゲーム攻略を遅延し続けた」

「アカネとは元々知り合いだったから、アカネは喜んで私に協力してくれた」

「でもゲームマスターがモンスターを強化したから、アカネの妨害工作を継続できなくなった」

「結局、遅延行為に意味はなかった。ゲームは終わらないまま、みんなは魔王の間にたどり着いた。……私の抵抗は失敗に終わった」

 

 のっこちゃんの頭の中でぐるぐると疑問が巡り、そのせいでスイムスイムの発言があまり耳に入らない。全然集中できていない。精彩を欠いている。

 

 

「プフレ、私からも聞いていい?」

「構わないよ。質問したまえ」

「私は魔王だけど……みんなはどうする? 私を殺す?」

 

 スイムスイムから放たれた問いに、魔法少女たちはざわついた。

 魔王を討伐すればゲームは終わる。でもその魔王はモンスターではなく、自分と同じ魔法少女だった。スイムスイムを殺さなければ、ゲームを終えることができない。でも、魔法少女を、人間を殺すのか?

 

 元々『魔王』という名のモンスターを倒す気満々だっただけあって、魔法少女たちはスイムスイムから突きつけられた問いを前に、回答に窮していた。

 

 

「殺しますわ」

 

 その時、リオネッタが口を開いた。

 ゾッとするほど冷たい声だった。

 

 

「リオネッタ!?」

「リオネッタさん!?」

「リアルドール!? 何を言ってるデース!?」

 

 リオネッタと同じパーティーのクランテイル・ペチカ・御世方那子がとりわけ驚愕の声をあげている。

 

 

「私は、命が惜しいですわ。ゲームに囚われている限り、私たちは常にまな板の鯉。ゲームマスターのさじ加減でいつ命を落としてもおかしくないと、私たちは荒野エリアで思い知ったでしょう? ……これは優先順位の問題でしてよ。私は魔王を、あの変態さんを殺しますわ」

 

 はっきりとスイムスイムの殺害を宣言するリオネッタに、皆の注目が集まる。困惑の眼差し、非難の眼差し、多種多様の眼差しがリオネッタに注がれる。

 

 でも、リオネッタの気持ちは尤もだとのっこちゃんは思う。

 自分の命と、大して知らない人の命を天秤にかければ、当然天秤は自分の命に傾く。

 

 のっこちゃんだってそのように想定していた。

 だからのっこちゃんが魔王だとバレることに恐怖していた。

 恐怖して、現実世界で泣いていた。

 

 スイムスイムは怖くないのだろうか。

 魔王を騙って、リオネッタから殺意を向けられて、恐怖を感じないのだろうか。

 「……変態さん」とポツリと呟くスイムスイムの様子からは、リオネッタからの呼ばれ方に傷ついているようには見えても、リオネッタに殺されることを怖がっているようには見えない。

 

 

「待て、リオネッタ。早まるな」

「こればかりは聞けませんわ」

 

 クランテイルがリオネッタの肩をつかんで咎めようとするも、リオネッタは手で振り払う。つかつかと乾いた足音を鳴らしてスイムスイムへと近づいていく。

 

 

 いつまでも混乱している場合じゃない。

 いい加減にのっこちゃんはちゃんと考えないといけない。

 

 

 のっこちゃんはどうする?

 のっこちゃんはどうすればいい?

 

 スイムスイムが魔王を乗っ取ったところで、大局的には意味がない。スイムスイムが死んでしまえばその時点で、スイムスイムが魔王を騙ったことが露呈する。そしていつかはのっこちゃんが魔王だとバレる。

 

 そもそもどうしてスイムスイムは魔王を騙った?

 死にたかったから魔王を乗っ取った? でも、死にたいだけなら今までにいくらでもタイミングがあったはずだ。無防備な姿をさらせば、モンスターは喜んでスイムスイムを殺してくれるのだから。

 

 

「……そう。みんなが私を殺さないでくれるのなら、ちょうど『R』で手に入れたボードゲームで、これからみんなと遊ぼうと思ってたのに」

 

 スイムスイムの足元が揺れる。波紋が広がる。

 スイムスイムの体が地面に沈んでいく。

 

 

「スイムスイム!」

「もう話すことはないよ。さようなら」

 

 あっという間の出来事だった。

 スイムスイムはプフレの制止を無視して地面に体を沈めきって、魔王の間から消失した。

 

 

「なっ!? あの変態さんはどこに……!?」

「ダメっす! 人殺しなんて絶対ダメっす!」

「邪魔ですわ、どきなさい!」

「どかないっす!」

 

 スイムスイムが沈んだ地面に駆け寄ろうとするリオネッタの進路をラピス・ラズリーヌが妨害する。魔法少女たちの諍いの声が魔王の間に響くも、のっこちゃんは気にならなかった。のっこちゃんはスイムスイムが沈んだ地面をじっと見つめた。

 

 

 さっきまでのスイムスイムの姿を脳裏に思い起こす。

 あの時、魔王と宣言したスイムスイムの瞳には、刹那的な感情が見えなかった。ただ注目を浴びて満足したいだけでも、自殺志願者でもない。何か狙いがあって、意図的に仕掛けている印象だった。

 

 もしかして、スイムスイムには見えているのだろうか。

 魔王も、他の魔法少女も。これ以上誰も死ななくていい方法が見えているのだろうか。だからこそスイムスイムは魔王を騙って、大立ち回りを演じているのだろうか。

 

 

「あれ? メルっちとチェルっちはどこっすか? アカネっちとワンダっちもいねーっすよ?」

 

 どうにかリオネッタを制止しようとしていたラピス・ラズリーヌがここで、きょろきょろと周囲を見渡して困惑の声を零す。

 

 本当だ。いつの間にか魔王の間からメルヴィル、チェルナー・マウス、アカネ、マスクド・ワンダーの4人がいなくなっている。

 

 

「まさか、スイムスイムを殺しに……!?」

「そんなのダメアル! 止めに行かないと――」

「――皆、落ち着きたまえ」

 

 クランテイルの推測に、@娘々が弾かれたように魔王の間から出ていこうとして。プフレが両手を打ち合わせて音をたてる。プフレの声は魔王の間にすぐさま浸透し、@娘々の足を止める。

 

 

「皆、魔王スイムスイムの処遇を決めあぐねて、落ち着きを失っている。……このような心持ちのまま、バラバラに動くのは危険だ。この場に留まっている我々だけでも状況を精査し、協議し、我々にとっての最善策を見つけ出さなければならない。今の我々には時間が必要なのだよ」

「……そんな時間を設けても、私の結論は変わりませんわよ?」

「それでも構わない。君が落ち着いた心で出した結論ならば、私から否を突きつけるつもりはない」

「ふん……」

「さて、状況を整理する――」

 

 プフレはリオネッタを言葉巧みに丸め込むと、魔王の間に残る魔法少女たちの視線を一身に浴びながら言葉を紡ぐ。のっこちゃんはプフレから足止めの意図を読み取った。

 

 魔王の間から消失したスイムスイム。勝手に魔王の間から飛び出した4人の魔法少女。彼女たち以外が魔王の間から出ていってしまわないようにプフレは誘導している。

 

 

 スイムスイムだけではなく、色んな人が動き始めている。

 魔王なのっこちゃんを置き去りにして、みんな何かを為そうとしている。

 

 のっこちゃんの暗く閉ざされた心に、一筋の光が差し込まれる。

 

 

 今までお金のために手を汚してきた。

 森の音楽家クラムベリーの試験に協力してきた。

 

 ゲームの世界に否応なく巻き込まれてからも、魔王としていくつもの所業を犯した。

 みんなを殺すか。みんなに殺されるか。

 究極の2択を突きつけられて。選択を拒否することすらできなくて。

 

 みんなに猜疑をばらまいてきた。疑心の蓄積を加速させてきた。

 大広間では、みんなを本気で殺そうとした。

 

 

 こんな私が、こんな私が。

 今さら期待してもいいのだろうか。

 

 みんなを殺すか、みんなに殺されるか以外の選択肢があると。

 のっこちゃんの窮状を、スイムスイムたちが救ってくれると。

 

 わかっている。こんな考え、都合がよすぎる。

 のっこちゃんは悪い魔法少女だ。罪は裁かれるべきだ。

 

 でも、それでも。のっこちゃんは死にたくない。

 もっと生きたい。お母さんと一緒に生きたい。友達と学校でおしゃべりしたい。

 

 

「……」

 

 スイムスイム。なぜかいきなり魔王を騙った魔法少女。

 のっこちゃんは、スイムスイムを希望だと信じて、すがっても良いのだろうか。スイムスイムに心をゆだねても良いのだろうか。

 

 

(スイムスイムさん……!)

 

 のっこちゃんの頬に涙が伝った。

 

 




次回 第17話
『スイムスイムちゃんはおしまい!』
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