その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問17.チェルナー・マウスと出会って1分で友達になり、その1分後に絶交する方法を述べよ。ただし、目的達成のために美味しい食べ物を利用してはならないものとする。



第17話 スイムスイムちゃんはおしまい!

 

◇メルヴィル

 

 スイムスイムの魔王カミングアウトには驚いた。

 まさか『魔王』なんて仰々しい字面の存在が魔法少女たちの中に潜伏しており、他の魔法少女を皆殺しにする目的を課せられているとは思わなかったからだ。

 

 しかし同時に納得した。

 このゲームは森の音楽家クラムベリーが用意した再試験の場……のはずだ。ならば、魔法少女が命を賭して戦い合うための仕掛けを幾多にも張り巡らせているのは当然で、あくまで『魔王』も数ある仕掛けの1つだったのだろう。

 

 

「もう話すことはないよ。さようなら」

 

 魔王城エリアの最奥たる魔王の間で、己の正体が『魔王』だと明かしたスイムスイムが床に潜って姿を消した直後、メルヴィルはスイムスイムを追うことを即決した。

 

 魔王なら堂々と殺していいからだ。魔王の目的は他の魔法少女の皆殺し。この時点で、魔王当人の意思とは関係なしに、魔王を殺していい大義名分が生まれている。魔王の殺害が、魔王以外の魔法少女たちのゲームクリア条件なのだからなおさらだ。

 

 加えて、魔王はメルヴィルが作り上げた『真っ先に殺したい奴ランキング』第1位のスイムスイムだ。また、懸念点だったスイムスイムの魔法の内容もおおよそ推測できた。幾通りかの方法を試せば、スイムスイムに有効打を与えられる攻撃を見つけ出せるだろう。

 

 何せ、今のメルヴィルは魔王城エリアで火炎放射器とスタンガンを購入済みだ。魔属性の敵に特別に有効な武器とのことだったが、モンスター図鑑が完成した今も魔属性の敵は図鑑に記録されていなかった。つまり『魔』属性の敵とは魔法少女のことだ。

 

 魔王殺しを正当化できる状況が生まれており、魔王を殺しうる手段も手中にある。

 こんな絶好の機会をみすみす逃す手はない。

 

 

 メルヴィルは『色を自由に変えられる』魔法で周りから自分とチェルナー・マウスが透明に見えるようにしてから、チェルナー・マウスの手をつかんだ。

 チェルナー・マウスがメルヴィルを見つめて疑問の声を発しようとしていたのを、口の前で人差し指を立てて『しーっ』という口を作って黙らせた。

 

 そうしてチェルナー・マウスを連れ立って、魔王の間をこっそり抜け出した。

 メルヴィルたちは今、魔王城エリアから図書館エリアを経由して山岳エリアにいる。

 

 

「ねぇねぇ、みんなに何も言わずに離れて良かったの? みんなチェルナーたちのこと心配するやもよ?」

「とく魔王見っげが先決だぁ」

「そっか!」

 

 チェルナー・マウスは今もメルヴィルに懐いている。青い物を見ても、メルヴィルが赤だと言えば、素直に赤だと納得してくれる状態だ。これは使える。

 

 いくらスイムスイムを殺す大義名分を得たとはいえ、メルヴィルの手でスイムスイムを殺してしまえば、皆からの心証は悪くなる。チェルナー・マウスにスイムスイムを殺してもらうに越したことはない。チェルナー・マウスでは無理だった時にメルヴィルが手を下せばいい。

 

 

「まおーはどこ行ったんかなぁ?」

「あでがあら」

「ほぇ、そうなの? どこどこ?」

「荒野エリア」

 

 チェルナー・マウスが苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 どこまでも無垢な(チョロい)チェルナー・マウスのこの手の渋い表情は珍しい。『ものすごく大きくなれる』魔法を使ってもなお、荒野エリアを襲った重力攻撃に抵抗できなかったことがトラウマになっているらしい。

 

 

「でもあそこは……」

「んだ。ゲームマスターがおれら押しつぶんだどした場所さ。みんな行きたがきやね。魔王の逃げ場所さ最適だ」

「おぉ、確かに!」

「んだんて荒野エリアいぐべ」

「わかった! メルヴィルは賢いなー」

 

 メルヴィルは乗り気になったチェルナー・マウスを伴って荒野エリアへ向かう。 

 

 待ち望んだスイムスイム殺害の瞬間。至福の時は近い。

 己の最期を悟った時、スイムスイムはどんな表情をするだろうか。

 

 森の音楽家クラムベリーは生きている。絶対に生きている。

 この絶対的な真理に歯向かうものに、相応の報いを。

 

 メルヴィルはニィィと口角をゆがめた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇アカネ

 

 アカネとマスクド・ワンダーは、リオネッタがスイムスイムに明確な殺意を表明した辺りでこっそり魔王の間を抜け出していた。魔王城エリアから図書館エリアを経由して地底エリアへと迅速に移動する。

 

 

「ここでお別れね」

 

 地底エリアの最奥。かつてマジカルデイジーと共倒れしたグレートドラゴンがいた地点にたどり着いた時、マスクド・ワンダーがアカネに微笑みかける。しかしアカネはマスクド・ワンダーに愛想笑いの1つも返せなかった。

 

 

「スイムスイムのことが心配?」

「当たり前だ。私は今もこの作戦には反対だ。あまりにスイムスイムが危険すぎる」

 

 モンスターを次々倒してマジカルキャンディーを独占して、みんなのゲーム攻略を妨害する『遅延戦術』を採用していた頃は良かった。危ない役目はアカネが担っていて、スイムスイムは安全だったからだ。

 

 でも、あの時のオフ会でプフレが提示した作戦は2人の立場が逆転している。

 今進めようとしている作戦は、スイムスイムが危険で、アカネは安全な作戦だ。

 

 

「確かに危険な作戦よね。失敗すればあの子は死んでしまう。私も容易には賛同できなかったわ。でも誰に強制されるでなく、他ならぬスイムスイム自身が望んだ。だから私は作戦に乗った」

「あの子はまだ7歳だぞ! スイムスイムが望んだからって脳死で便乗しちゃダメだろう!?」

「誤解しているようだけど、私は考えなしに作戦に賛同したわけではないわ。正義に年齢は関係ない。あの子が心から望んだ正義に年齢の枷をはめるべきではないわ。私は同志スイムスイムの覚悟を尊重したまでよ」

「……」

「……」

 

 アカネはマスクド・ワンダーとにらみ合う。プフレの作戦に反対し続けていたのはアカネだけだった。マスクド・ワンダーはスイムスイムの意思を聞くや否や作戦に賛意を示し、ディティック・ベルやシャドウゲールも結局は折れた。プフレの作戦を許容した。

 

 アカネはそれが許せない。

 どいつもこいつも、スイムスイムの命を何だと思っている。

 

 

「ここでにらみ合っていてもしょうがないわ。もう作戦は動き出している。我々にできることは、己の役目を全うして、あの子が生き残れるように最善を尽くすことじゃないかしら?」

「そんなことはわかっている」

「そう、ならいいわ」

 

 マスクド・ワンダーはぐっとしゃがみ込み、勢いよく跳躍する。そこで『いろんなものの重さを変えられる』魔法で自身の重さを極限までに軽くして、マジカルデイジーが作った穴へと入り込む。荒野エリアへ向かうためだ。

 

 

「そんなことはわかっているんだ……」

 

 アカネは怖かった。

 スイムスイムを失いたくない。

 スイムスイムを危険な目に遭わせたくない。

 

 でもアカネが抱える気持ちは、スイムスイムの意思に反している。

 

 

――魔法を私利私欲に使う悪い魔法少女のせいで、たくさんの人が悲しんでいる。被害に遭うのは、いつも弱い人。

――アカネ。私は戦いたい。

――もう誰も悲しまなくて済むようにしたい。

 

 スイムスイムは戦いたがっている。

 悲劇を防ぐために己の命を賭すことが必要なら、当然のように命を賭けてしまえる。プフレの作戦にだって賛成してしまえる。

 

 

――でも、私は弱い。あなたの力が必要。

――助けて、アカネ。

 

 あの時、スイムスイムはアカネの力を欲してくれた。家族を失って、すっかり気が狂ったアカネに殺されかけてなお、それでもアカネを望んでくれた。

 

 スイムスイムはどこまでも健気で、賢く、愛しい女の子だ。

 アカネはスイムスイムの力になりたい。でもスイムスイムにはずっと生きていてほしい。スイムスイムに迫るあらゆる危険を排除したい。スイムスイムを守りたい。

 

 

 わかっている。

 アカネはただスイムスイムを失いたくないだけだ。

 本当に守りたいのはアカネ自身の心だ。

 

 これはわがままだ。

 私のわがままなんだ。

 私のわがままで、スイムスイムを縛りつけちゃダメだ。

 

 だから、私は。

 

 

(お願い、死なないでスイム……! あなたまで死んでしまったら私は、わたしは……)

 

 胸の内で暴れる感情をそのままに、アカネは刀を振り上げて。

 地面めがけて力いっぱい振り下ろした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 魔王の間で魔王を乗っ取り、『魔法少女のみなさん。残念ですがさようなら』ムーブをかまして床に潜ったボクはそのまま床下を泳ぎ続けて、山岳エリアで顔を出す。

 

 そこから地上を駆けて荒野エリアへ移動し、シャドウゲールからメールで受け取った座標へと移動する。地面に手を突っ込み、目的のブツを引っ張り出す。

 

 シャドウゲールが埋めた盾だ。『シールド+10』の四隅に『火炎放射器』を合体させたシャドウゲール印の魔改造盾だ。

 

 ボクが手を抜いた地面に穴は開いていない。

 つくづくボクの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法は便利だ。

 

 

 ボクは次の目的地に移動した後、魔法の端末を操作し『魔法の絨毯』を召喚する。プフレが弱者を装うために普段使いしている魔法の絨毯と同じものに乗って、盾と一緒に上へ、上へ。魔法の絨毯に浮遊感を与えていく。

 

 さて、後は――。

 

 

「あー! 見つけたぁ!」

(ひぇっ!?)

 

 前方から轟く声が空気をビリビリと振動させ、ボクは魔法の絨毯から落ちてしまいそうになる。どうにか踏みとどまり、前を見やるとチェルナー・マウスと目が合った。彼女は人差し指でビシッとボクを指している。なお、ここは100メートル上空である。

 

 

 デカァァァァァいッ説明不要!!

 いや、デカ過ぎんだろ……

 

 『ものすごく大きくなれる』魔法を使って100メートルサイズとなったチェルナー・マウスが、どしんどしんと足音を響かせながらボクへと駆け寄ってくる。瞬く間にボクとの距離を詰めて、ボクを見極めるようにぬうっと顔を近づけてくる。

 

 

 いや、怖。

 だれかたすけて(語彙力喪失)

 

 

「チェルナーはさっきの話、難しくてわかんなかった」

「……」

「おまえ、どうして逃げたの?」

「……」

「結局、まおーってなんなの?」

「……」

「おまえは悪い奴なの?」

「……」

「何か言わないのかぁ?」

「……ごめんなさい」

「なんで謝るの? チェルナーわかんない! ねぇなんで逃げたの? おまえを殺せばチェルナーたちはゲームを終わらせられるの?」

 

 このチェルナー・マウスの詰めっぷり、まさかパワハラ上司!?

 会社ガチャ、配属ガチャでゴミ運だった新入社員を待ち受けているらしい地獄。これがそうなのか……?

 

 

()れ、チェルナー」

 

 ボクがチェルナー・マウスの迫力に萎縮していると、第三者の声が届く。いつの間にかチェルナー・マウスの肩にメルヴィルが乗っかっている。

 

 

「魔王さ敵だ。仲間でねぇ。人間でねぇ。人の形どごした、悪辣なモンスターやね。そいづ殺せば、おれら救わんぜ」

「わかった! チェルナーまおーやっつける! みんなを助ける!」

 

 メルヴィルがチェルナー・マウスの肩から飛び降りて、チェルナー・マウスが拳を振り上げる。一切の迷いなく、ボクへと拳を叩きつけようとする。

 

 ボクは『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を行使してチェルナー・マウスの拳を避けようとせず、魔改造盾を両手で構える。ボクは軽くジャンプして魔法の絨毯から離れて、盾の内側でぼそりと呟いてみた。

 

 

 ――計画通り。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 つまるところ、オフ会で決まった作戦は『ボクの魔法でゲーム世界の果てに向かい、その果てすら潜り抜けて、ゲーム世界から物理的に脱出する作戦』だ。

 

 この作戦の肝は、どうやって『ゲーム世界の果て』にたどり着くかだった。

 プフレがまだ『猛スピードで走る魔法の車椅子』を所持していた頃。草原エリアを開放するための固定ミッション『荒野エリアの端から端まで踏破する』をクリアするついでに、ゲームの果てを探したことがあったが、終ぞ見つけられなかったそうだ。

 

 魔法少女が日頃ゲーム攻略を進める地上からは、万が一にも脱出できないようにゲームマスターが対策しているからだろう。

 

 そこでプフレが提案した。スイムスイムのゲーム参加が決まったのがゲーム開始直前ならば、ゲームマスターのスイムスイム対策が万全ではない可能性がある。スイムスイムの魔法でひたすら地下に潜り『ゲーム世界の底』を目指すのはどうかと提案した。

 

 魅力的な提案だった。

 

 スノーホワイトが助けてくれるまでありとあらゆる策を用いて、魔法少女たちが死なないようにするボクの戦術には遅かれ早かれ限界が来ると想定していた。それに、ひたすら守り、耐え忍ぶ戦術だ。正直、ボク好みではなかった。

 

 一方、プフレの提案はギャンブル性は高いが、攻勢に打って出る戦術だ。ゲーム世界を物理的に脱出した先で、安全圏でふんぞり返っているゲームマスターに男女平等パンチを叩き込める可能性すら秘める戦術だ。そこには夢がある。ロマンがある。

 

 魔法少女の死者数に応じて加算されるスノーホワイトポイントが何ポイントに到達したらバッドエンドになるのかがわからない以上、悠長なことはやってられない。ボクはプフレの提案に乗ることにした。

 

 しかしそれはそれで懸念事項があった。ボクの魔法はあくまで泳ぐ魔法だ。ボクが『ゲーム世界の底』に向かって泳いでいる最中に窒息して意識を失えば、そこで死ぬ。

 

 そう。どれくらい潜れば『ゲーム世界の底』にたどり着けるかわからないことが懸念だった。かといって、事前に検証するわけにもいかない。

 

 ゲームマスターがベル様の『たてものとお話しできる』魔法を制限しているように、ボクが『ゲーム世界の底』に行こうとしていることがゲームマスターにバレれば、ボクの魔法も制限されてしまう。

 

 

 一発勝負しか許されない。

 チャンスは一度きり。

 

 ゆえにその一発勝負の成功率を上げる必要があった。

 

 

 話し合いの末、まずはチェルナー・マウスを利用する方針となった。

 巨大化した彼女にボクを下へと叩きつけてもらうことで、ボクが『ゲーム世界の底』に到達するまでの時間短縮を図るのだ。

 

 そのために、必要なら透明な敵の殺意も利用する。

 

 

 オフ会の中で、『透明な敵の有力候補=メルヴィル』というのが皆の総意となった。

 

 ゲーム世界には己を透明にできるアイテムはなく、透明になるには魔法を使うしかない。ボクたちオフ会メンバーが申告した魔法に偽りはない。

 

 チェルナー・マウスは巨大化魔法。ラピス・ラズリーヌは宝石でテレポートする魔法。マジカルデイジーはデイジービーム。クランテイルは下半身を色んな動物に変える魔法。御世方那子は動物を仲間にする魔法。夢ノ島ジェノサイ子は無敵のスーツ。魔法が割れている彼女たちも透明な敵ではない。

 

 ボクたちが魔法を知らないのはペチカ、のっこちゃん、@娘々、リオネッタ、メルヴィルの5名。この内、正気を失っていた頃のアカネに殺されかけていたペチカを除外すると、残り4人。

 

 そこからボクを背後から襲って殺そうとした狡猾な人物像を踏まえると、マジカルデイジーが亡くなった後で、図書館エリアでベル様だけを1人残して、チェルナー・マウス、ラピス・ラズリーヌと3人パーティーを再編成しようとしたメルヴィルが自然と有力候補として浮かび上がった。

 

 

 このことを踏まえ、チェルナー・マウスを利用できる状況を作り出すため、ボクたちは作戦の細部を詰めた。

 

 まず、マスクド・ワンダーの『いろんなものの重さを変えられる』魔法で荒野エリア全体の空気を重くして、みんなを殺さない程度に地面に叩きつける。その後、ボクが魔王の間で魔王カミングアウトをしてから逃げる。

 

 そうすれば、メルヴィルならボクの逃げ先が荒野エリアだと推理してくれるはずだ。

 

 すごく強くなったモンスターが跋扈する世界で、メルヴィルは単騎では動けない。それはメルヴィルがチェルナー・マウスと2人パーティーを作って以降、透明な敵として他の魔法少女を殺さなかった事実が立証している。

 

 なぜかは知らないが、メルヴィルはボクに殺意を持っている。

 ボクが魔王で、公然と殺しても良い存在だと知れば、必ず追ってくる。チェルナー・マウスを伴って追ってくる。

 

 あとはボクが魔法の絨毯で上空に逃げれば、ボクと会話するにしろ、攻撃するにしろ、チェルナー・マウスは巨大化せざるを得なくなる。

 

 あとはメルヴィルにチェルナー・マウスを煽ってもらえばいい。それで状況は完成する。メルヴィルは、自身の思考が利用されていることにまず気づけない。

 

 ……仮にメルヴィルがチェルナー・マウスと一緒にボクを追いに行かなかった場合は、魔王の間でプフレとベル様が2人がかりでチェルナー・マウスを煽りに煽る別プランがあったのだが、それはさておき。

 

 ここまでは計画通りだ。

 後は成功を祈るのみ。

 

 

 さぁ始めようか。

 『ゲーム世界の底』にたどり着き、その果てすら潜り抜けた先で、ゲームを終わらせられる未来があると信じて……上空からのワンチャンダイブ!!

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

「ぐぅッ!?」

 

 チェルナー・マウスが振り下ろす渾身の拳が盾にぶつかる。ボクの体を激しく打ちつける衝撃に自然と苦悶の声が漏れる。隕石のごとく地上へ落下するボクの速度が増加する。マスクド・ワンダーが『いろんなものの重さを変えられる』魔法で重力を強化してくれている。

 

 ボクの体はあっという間に荒野エリアの地上へたどり着き、そのままマジカルデイジー作の穴へと背中から落ちていく。

 

 地底エリア最奥にたどり着いた時、そこには新しい穴が作られていた。傍らにはアカネが立っている。アカネの『見えているものなら何でも斬れる』魔法で作った、ひたすら奥まで続く穴だ。

 

 

「スイム!」

 

 アカネがボクを見上げている。心底心配そうにボクを見つめている。

 ボクは頑張って笑みを作ってみる。ボクの試みは、スイムスイムの無表情を崩せただろうか。答えはわからないまま、ボクはアカネを置き去りにして新しい穴の中に墜落していく。

 

 深く深く落ちていく。

 穴の底を視認できたタイミングでボクは息を深く吸い込む。背中が底に触れてまもなく、ボクは両手に持つ魔改造盾を伴って地面の下へと潜り始めた。

 

 

 底へ。底へ。ボクの体は落ち続ける。

 だが重力の加護が薄まり、潜水速度が若干落ち始める。

 

 ここでボクは魔改造盾の内側のピンを抜いた。刹那、魔改造盾の四隅から燃焼ガスが激しく噴出する。このシャドウゲール製の盾は、チェルナー・マウスの拳の勢いを獲得しながら墜落するための道具であり、推力を味方につけて潜水速度を補強するための道具だ。

 

 

 ボクは魔改造盾の力を借りてどこまでも、どこまでも地面の遥か奥深くへと突き進んでいく。世界は有限だ。大地には果てがある。地球だってそうなのだから、ゲームの世界のフィールドにだって果てはある。絶対ある。

 

 ……はずなのだが。

 一向に底が見えない。

 

 

 まだか!? まだなのか!?

 もう息がもたないって!

 

 ……やっぱこれ、博打すぎたかも。

 でもこの作戦アリだと思ったんだよなぁ。ただこうなってしまうと、最後までボクの身を案じて作戦に否定的な姿勢を貫いていたアカネに申し訳ない。

 

 アカネにはあの世でわび続けなければ。

 ……ところでボクが死んだらどうなるかって疑問ってどうなってたんだっけ?

 

 まぁいいか。

 嫌でもこれからわかる。思い知らされる。

 

 

「……」

 

 もうダメだ。

 意識が、だんだん遠く……。

 

 

 だれかたすけて(メーデー)

 

 ……………………。

 …………。

 

 ……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スノーホワイト

 

 キーク。

 ゆがんだ正義に心酔し、明確に道を踏み外した悪い魔法少女。

 

 彼女は、森の音楽家クラムベリーが開催した凄惨な試験の生き残り、通称『クラムベリーの子供達』の中から選んだ17名を、ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』に放り込んだ。

 

 キーク基準で正しい魔法少女だけをすくいあげ、キークの気に入らない魔法少女には死んでもらうための舞台に17名を強制的に参加させた。

 

 魔法少女たちをゲームから解放させるため、スノーホワイトはキークとの交渉に臨んだ。しかし初回の交渉は平行線のまま終わった。スノーホワイトが所持している手札ではキークの心変わりを期待できず、交渉の仕切り直しを余儀なくされた。

 

 キークは自前の電脳空間に引きこもり、ゲームを運営している。

 『電脳空間で自由自在に行動できる』魔法少女が作った世界の中で、キークを直接倒してゲームを強制終了することはできない。

 

 幸いなのは、キークが未だにスノーホワイトを気に入っており、スノーホワイトのまたの来訪を望んでくれていることだ。心が読めずとも、キークはわかりやすい。彼女の言動から内心を読み解くのは容易だった。

 

 交渉の門戸が開かれている限り、スノーホワイトにはチャンスがある。

 悲劇を防げる可能性がある。

 

 

 スノーホワイトは情報を集めた。手札を集めた。

 初回交渉時はまだ誰も死んでいなかった。しかしゲーム参加者の名簿には、放置していては危険な魔法少女の名もあった。事は一刻を争う。

 

 スノーホワイトは手段を選ばなかった。

 魔法少女管理部門の責任者(ラギ・ヅェ・ネント)に接触し、『困っている人の心の声が聞こえる』魔法を使って彼から管理部門のパスワードを盗み出し、キークのあらゆる個人情報を収集した。

 

 

 そして今、スノーホワイトは二度目の交渉に臨もうとしている。

 

 

「スノーホワイト!」

 

 キークは満面の笑顔でスノーホワイトを迎えてきた。スノーホワイトはなるべく無表情を装うよう努めているが、それでもきっと険しい顔をしていると思う。なのに、キークは何がそんなに嬉しいのか。

 

 

「良かった、嫌われちゃったかと思ったよ。今度は緑茶を淹れてみたんだ。飲んでみてよ。味はしっかり調整しているからびっくりするくらい美味し――」

「スノーホワイト! 早くみんなを救ってほしいぽん! マジカルデイジーが死んでしまったぽん!」

 

 スノーホワイトは最善を尽くしたつもりだった。でも遅かったようだ。

 スノーホワイトは後悔を胸に抱き、しかし表には出さない。

 

 

「マスターがモンスターを超強化しちゃったし、このままじゃ――」

「うるさい黙れ」

 

 キークが魔法の端末の電源を落として、空間投影中のマスコットキャラクターの姿を消すと、何事もなかったかのような笑みを形作る。キークは「どうぞどうぞ」と手のひらを広げて、眼前の椅子に座るようスノーホワイトを促す。

 

 スノーホワイトは素直に座り、キークはテーブルを挟んだ向かい側の椅子に座り、双方向かい合う。初回交渉の時と全く同じ構図だ。

 

 

「さっきファルが言ってたけど、ゲームは全然順調じゃなくてさ。最後の魔王城エリアまで攻略したってのに、死んだのはアニメ化で調子に乗ってたマジカルデイジーだけ。他の連中はまだ生きてる。ふざけた話だよ」

 

 深々とため息を吐くキーク。その周囲の壁・天井・床に埋め込まれた無数のモニターには、残る16名の魔法少女たちの姿が投影され続けている。

 

 

(……?)

 

 スノーホワイトはとある映像が気になった。スイムスイムだ。彼女はゆらゆら揺らめく魔法の絨毯の上で、ごつい盾を両手に持って、巨人の魔法少女に立ち向かおうとしている。なぜ? スイムスイムの魔法があれば物理攻撃は無効化できるはずなのに。

 

 

「だからさ、次のメンテ中にゲームの大幅アップデートをするんだ。ソーシャルゲームなんだから、追加シナリオの実装は欠かせないよねぇ? まだまだゲームは終わらせない。もっと厳しい基準であいつらを審査してやらないと」

 

 あ、スイムスイムが巨人の魔法少女の拳で吹っ飛ばされた。スイムスイムの背中はあっという間に地面に吸い込まれていき、そのままどんどん地面に潜っていく。

 

 その時。スイムスイムのごつい盾の四隅から何かが噴出し、スイムスイムは潜水スピードを加速させていく。え、本当に何をしているの?

 

 

「ほら見て、スノーホワイト。……スノーホワイト?」

「何でもない」

 

 キークが不思議そうにコテンと首をかしげるのを見て、スノーホワイトは内心慌ててキークの指先を見る。キークの機嫌を損ねてしまい、交渉が打ち切られてしまったらマズいというのに、今のスノーホワイトはあまりに緊張感がなかった。つくづくスノーホワイトらしくない。

 

 キークの指先に埃が集まり、光り輝く粒子となり、9×9マスの白い立方体パズルが生み出される。立方体パズルはキークの指先から離れてもなお浮遊し、ひとりでに形を変えて、ある一面に何もないマスが現れた。

 

 

「このマスがゲームの世界。あたしはこの四角形の中に舞台を作って、クラムベリーの子供達に再試験の機会を与えてあげた」 

 

 立方体パズルがさらに回転し、ゲーム世界のマスがキークの前へと移動する。

 代わりにスノーホワイトの前に別のマスが現れる。

 

 

「このマスにはまだ何もない。スノーホワイトのために空けていたの。……スノーホワイト。あたしはね、あなたに理想の世界をプレゼントできる。ラ・ピュセルも、ハードゴア・アリスも、あなたが望んだすべての魔法少女が生きている世界をプレゼントできる」

 

 ダメだ、やっぱり気になる。

 スノーホワイトはスイムスイムが映し出されたモニターにこっそり視線を移す。スイムスイムは相変わらず潜水し続けていた。スイムスイムは感情が顔色に表れにくい魔法少女だが、それでも苦しそうだ。もうすぐ窒息してしまうのでは。

 

 

「この前はごめんね。何の見返りもなしにあたしと一緒に正義を執行しようって誘っても良い気分はしないよね? だからプレゼントを用意したんだ。……さぁスノーホワイト、今日から始めよう。正しい魔法少女が胸を張って生きていける世界を作ろう!」

 

 早くキークとの交渉を制しなければ2人目の犠牲者が生まれかねない。

 今からスノーホワイトはキークの心を壊す。そのために必要な情報はすべてスノーホワイトの中にある。キークの精神を崩壊させ、キークの魔法行使をやめさせて、ゲームを継続不能にさせる。スノーホワイトは口を開こうとした。

 

 

 刹那。

 

 それは、瞬きに満たない間で発生した事象だった。

 9×9マスの白い立方体パズルの1マス。ゲーム世界のマスから何か出てきた。最初はピンク色、次は白色、最後は肌色。そんな謎の物体がマスから射出し、キークへ。

 

 

「ぎゃいん!?」

 

 まるで自動車が歩行者を跳ね飛ばしたかのような衝突音が鳴った。

 キークが床に倒れる。キークの上にかぶさるようにして謎の物体も倒れる。謎の物体をよく見てみれば、それはスイムスイムだった。

 

 

「……」

 

 スノーホワイトは半ば放心した状態で、2人の下に歩み寄る。

 キークはメガネが割れて、鼻血が流れ、白目をむいている。スイムスイムのロケット頭突きをまともに正面から喰らってしまったからだ。いくら現実離れした美貌を持つ魔法少女であっても、さすがに酷い有様だった。

 

 スイムスイムもキークと同じく白目をむいている。ただ運良く顔の尊厳は守られたようだった。気絶しているからか、スイムスイムの変身が解けて幼い女の子の姿に戻る。小さな呼吸音が聞こえる。スイムスイムは生きている。

 

 

「なにこれ」

 

 スノーホワイトは困惑に満ちた胸中を一言、零した。

 

 電脳空間で直接キークを倒すことはできない。だからスノーホワイトは魔法の国のルールを破ってでも迅速に情報を集めて、キークの悪行を止めるために再交渉に臨んだというのに。その結果がこれだ。スイムスイムが不意の一撃でキークを倒し、解決してしまった。

 

 結局、スノーホワイトが奔走した意味はあったのだろうか。

 

 

 スノーホワイトはやるせない気持ちを引き連れながら、キークの魔法の端末をポケットに入れて、スイムスイムを背負って、キークを右手で抱え持ち、一応白い立方体パズルを左手に持ち、キークの電脳世界を後にする。

 

 

 それからまもなく、キークの構築した電脳世界は崩壊した。

 ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』は終焉を迎えた。

 




次回 第18話
『まったく、小学生は最高だぜ!!』
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