その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問18.リオネッタをツボらせる渾身の爆笑ギャグを披露せよ。ただしリオネッタを笑わせる際に、『まわりの人の気分を変えられる』のっこちゃんに協力を求めてはならないものとする。



第18話 まったく、小学生は最高だぜ!!

 

◇メルヴィル

 

 チェルナー・マウスがスイムスイムを真下に殴り飛ばしてからまもなく、ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』が強制終了した。

 

 何の前触れもなく、ファルからのお知らせもなしに、ゲーム世界のメルヴィルの意識は現実世界の久慈真白の中に引き戻された。間違いない。魔王が死に、ゲームクリア条件を達成したからだ。

 

 真白はスイムスイムを殺せたことに歓喜した。抵抗できるわけがないのにチェルナー・マウスの拳を盾で防ごうとしたあの滑稽な姿といったらもう。

 

 真白は喜ぶだけ喜んで、そこから先は3日後を待った。確かに魔王スイムスイムを殺してゲームをクリアした。だが、森の音楽家クラムベリーが合格者15名で再試験を終わらせるわけがない。

 

 次のゲームクリア条件を定義し、再び真白たちをゲームの世界に呼び寄せるはずだ。試験の生き残りが1人になるまで、あの手この手で試験を続行するはずだ。

 

  

 そんな真白の推測は、外れた。

 ゲームからログアウトして3日経っても、1週間経っても、真白の意識がゲーム世界に強制投入される気配がない。

 

 

 どうして?

 まさか本当にクラムベリーが15名を合格にした?

 もしもそうだとして、どうしてクラムベリーは一向に私の前に姿を現してくれない?

 

 漠然とした不安感。ふと気を抜けば『やっぱりクラムベリーは死んでいるのでは?』だとか『ゲームマスターはクラムベリーではなかったのでは?』だとか、あり得ない妄想が真白の思考に絡みついてくる。振り払うのも一苦労だ。

 

 

 今日も山の神様が、巨躯の熊が、我が物顔で付近をうろついている。

 

 メルヴィルならあの熊だってたやすく殺せる。

 だが今の真白は魔法少女の資格をはく奪されたままで。ゲーム世界のように魔法少女に変身できない。魔法少女の力なしに山の神様に勝つのは至難の業だ。

 

 山の神様に見つからないよう気をつけて歩を進める。弱者のふるまいを強いられていることに忸怩たる思いを抱えながら、真白は音を殺して家へと――。

 

 

 トン、と。背中に何かがぶつかった。

 視界の端に見覚えのない鈍色の光。見下ろすと、そこには鉤爪があった。血に濡れている。これは誰の血だ。

 

 鉤爪が引き抜かれる。力が抜けて、抗えぬまま真白は倒れる。

 腹部を刺された? 誰に? なぜ? いやあの鉤爪はまさか。

 

 

「探しましたわよ、メルヴィル」

 

 真白を襲った犯人:リオネッタが真白の前でしゃがみ込む。リオネッタの瞳は作り物めいていて、リオネッタの感情が読み取れない。倒れる真白に目線を合わせるため、リオネッタが真白の髪をつかんで持ち上げる。

 

 

「あの時はよくも脅してくれましたわね」

「私は弱みを握られたままでいるのを良しとはしませんの」

「他人に好き放題操られる人形遣いなんてお笑い種ですもの」

「あなたのことをいっぱい調べましたの。痛い出費でしたわ」

「必要経費だと割り切れるようになるまで何日かかったことか」

「当のあなたが魔法少女の力をはく奪されていることには驚きましたわ」

「あなたを殺さずに放置するという選択肢もありましたわ」

「ですがあなたが魔法少女の力を取り戻す可能性があると、あのゲームが示した以上、捨て置けませんわ」

「あなたが生きている限り、私の秘密の漏洩リスクがつきまとう」

「だから――私を思い通りに操った代償をその命で払ってくださいな」

 

 リオネッタは真白に言いたいことだけ告げると真白の髪をつかんでいた手を放し、真白から立ち去った。真白は顔を地面にぶつける。

 

 

 真白は諦めていなかった。リオネッタは油断した。真白にトドメを刺さなかった。

 まだ助かる。適切に応急措置をすれば、まだ真白は助かる。幸い、真白には心得がある。真白としての猟師生活、メルヴィルとしての魔法少女活動のたまものだ。

 

 リオネッタと距離が離れるまでは死んだふりを続ける。そこから応急措置をする。怪我を放置し続ければ死ぬ。かといってすぐに治療を開始して、リオネッタに気づかれても死ぬ。タイミングを見極めなければならない。こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 

 真白の体に影が差す。

 このシルエットは、山の神様。

 

 

 だれかたすけて(絶望)

 

 山の神様が強者らしく、弱者の真白に飛びかかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇リオネッタ

 

 リオネッタは何でも屋だ。文字通り、何でもする。

 労力に見合った報酬を積んでさえくれたら、盗みも働くし人も殺す。

 

 元々は九条李緒(くじょうりお)という名だった。

 だが、本名はとっくの昔に捨てた。

 

 裏稼業の家系に生まれたわけではない。

 九条家は裕福な家庭だった。両親は潤沢な資産を持っていて、とても良い人だった。李緒は両親の無償の愛を享受しながらのほほんと生きるお嬢様だった。

 

 しかし、この世界は。

 ただの良い人が何事もなく天寿を全うするにはあまりに悪意がひしめいていた。

 

 両親は悪人に騙されて、裕福な家庭は壊れた。

 大切なものは、失って初めて気づく。当時の李緒は何も知らない子供だった。失ってから駄々をこねても手遅れだった。

 

 だが不幸中の幸いか、李緒には魔法少女リオネッタの力があった。手段を選ばなければお金の稼ぎようはあった。李緒はお金のために李緒であることを辞めた。リオネッタとして両手を血に染め始めた。ずいぶん前の話だ。

 

 

 スイムスイムが魔王の間を去ってからしばらくして、ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』は強制終了した。不意に現実世界に意識を戻されたリオネッタは数時間後、魔法の国からメールを受け取った。

 

 ――ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』の主催者を、『魔法の国』の交渉役が捕まえた。君たちは違法なゲームから解放された。本件は関係者以外、他言無用とする。

 

 ただ事実と命令を淡々と述べているだけの簡素なメールだった。ゲームマスターの横暴に巻き込まれ、死ぬかもしれなかったリオネッタたちに対する配慮が感じられない。

 

 魔法の国にはそういういい加減な所がある。魔法少女を軽んじている態度が透けて見える。尤も、魔法の国がずさんだからこそ日々魔法を悪用して生計を立てられているリオネッタが、魔法の国に物申すつもりは毛頭ない。

 

 

 付近の木に登って、木の幹にちょこんと腰かける。メルヴィルが大きな熊に襲われてボロ雑巾になっていく様を見下ろす。

 

 魔法の国は、もう魔法少女じゃないのにゲームに参加させられていた面々への連絡を怠っていたようだ。でなければメルヴィルがあまりに能天気だ。もしもゲームの主催者が逮捕され、ゲームが終わったと事前に知っていれば、無駄な抵抗だと知りつつも、それでもリオネッタの復讐を警戒し、家出なり何なりできていただろうに。

 

 

 熊に蹂躙されたメルヴィルがいよいよ動かなくなる。リオネッタはメルヴィルの観察をやめて、数日ぶりに魔法の端末を確認する。いくつかメールが届いていた。差出人は、送信日時から順にクランテイル・ペチカ・御世方那子。

 

 

「……」

 

 クランテイル。ペチカ。御世方那子。ゲームマスターの横暴でゲーム世界に囚われた時に、なりゆきでパーティーを組んだ魔法少女たちだ。

 

 メールを確認する。3日前にクランテイルから『せっかくだから4人で会わないか?』とのメールが届いている。リオネッタはメールを消去した。

 

 メールを確認する。2日前にペチカから『みんなでパーティーをしませんか? 腕を振るって美味しい料理をたくさん用意しますよ?』とのメールが届いている。リオネッタは断腸の思いでメールを消去した。

 

 

 本当なら3人と仲良くしておくべきだ。

 友達は便利だ。使い倒せる。盾になる。使うだけ使って、ダメになったら捨てる。今までだって何度かそうやってきた。

 

 でもなぜか、3人に対しては不思議とそういう気持ちになれない。

 今さら良い人を気取りたくなったわけでもないのに、どうして。

 

 

 ふと、リオネッタの脳裏にとある光景が映し出される。

 リオネッタがスイムスイムを殺すと宣言した時に、3人が驚愕の表情でリオネッタを見つめてきた光景だ。あの時、リオネッタと3人とは住む世界が違うことをまざまざと思い知らされた。わかっていたことだったのに、なぜか胸が痛かった。

 

 あの3人は、リオネッタにはまぶしすぎる。

 現実世界でも会って、交流を重ねてしまえば、リオネッタは目を焼かれる。いつか己がこれまで犯した所業の数々と向き合うことを強要され、心を壊してしまう。そんな破滅の未来を防ぎたいと、心が防衛反応を示している。

 

 なるほど、これが原因か。

 今まで出会ったリオネッタの友達よりもはるかに、3人の心が清らかだから。リオネッタは彼女たちを使いつぶすことを躊躇している。彼女たちを闇の世界に巻き込むことを嫌がっている。つまり、闇の世界を生きるのはリオネッタ1人で十分だと考えている。

 

 

 やはりこれは良い人を気取っているのではないか。

 リオネッタは己の愚かさを嘲笑した。

 

 

 メールの確認を再開する。1日前に御世方那子から『みんなのメールをスルーとは何事デース!?』とのメールが届いている。リオネッタはメールを消去した。

 

 メールを確認する。また御世方那子からのメールだ。『ペチカさんのデリシャス料理を食べたくないと!? ありえまセーン!』とのメールを、リオネッタは消去した。

 

 メールを確認する。次も御世方那子からのメールだ。そろそろメールの内容を見ずに消しても良いのではないかと思いつつも、一応メールの本文に目を通す。

 

 

『ヘイヘーイ! まさかリアルドールが現実世界じゃロクに外にも出られない陰キャガールだとは思わなかったデース! リア充那子の勝ちデース!(☝ ՞ਊ ՞)☝』

 

 は??

 このクソガキ……っ! ! !

 

 

『首を洗ってお待ちなさいな!!!!!』

 

 リオネッタは衝動のままに御世方那子にメールを飛ばす。

 御世方那子は明らかにリオネッタを舐め腐っている。いい加減、リオネッタの恐ろしさをわからせなければならない。リオネッタは強い使命感を胸に抱き、木の幹から飛び立った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

「ん……」

 

 レースカーテン越しに部屋に差し込む日光に促されて、ボクは目を覚ます。ベッドからゆっくりと身を起こす。

 

 はっきりとしない意識のまま、何となしに部屋を見る。ここはアカネの妹、不破藍の部屋だ。アカネに許可をもらって、ボクが使わせてもらっている部屋だ。

 

 次に姿見を見る。魔法少女に変身前のスイムスイム(7歳児)の姿が映っている。

 ……あれ。何か大切なことをやっていたような気がするんだけど、いつの間に眠っていたんだっけ?

 

 

「スイム!」

 

 直後、不意打ちの大きな声がボクの鼓膜をビリビリ震わせる。見ると、部屋の入口にアカネが立っている。変身前の不破茜の姿だ。アカネは深い隈が刻まれた目を見開いて、ボクを凝視している。

 

 

「おはよう?」

 

 アイサツは絶対の礼儀。古事記にもそう書かれている。

 ボクがアカネに声をかけると、いきなり抱きしめられた。

 は、はわわ!? この流れはまさか――!?

 

 

「どうしたの?」

「良かった……! このまま二度と起きてくれなかったらどうしようって、私、私……」

 

 てっきり前と同じように髪を吸われるのかと身構えていたら、アカネがボロボロと涙を流し始めた。あれ、ボク何かやっちゃいました?

 

 

「私は大丈夫だよ」

 

 ボクはアカネが落ち着くまで声をかけ続けた。

 アカネの背中を撫で続けた。

 

 しばらくすると、静かな呼吸音が聞こえ始める。アカネは眠ってしまったようだ。ボクを抱きしめる力が弱くなったので、ボクはアカネをベッドに寝かせて立ち上がる。

 

 だんだんボクのことは思い出せてきた。

 ボクはゲーム世界から物理的に脱出するための作戦を実行し、地下をひたすら潜る中で窒息して意識を失ったのだった。

 

 結局、作戦はどうなったのか。

 ゲームはどうなったのか。

 情報が足りない。

 

 

「久しぶりだね、スイムスイム」

 

 どうやって情報収集するべきかを悩んでいると、ボクの背後から声がかかる。振り向くとそこにはスノーホワイトがいた。スノーホワイト=サン!?

 

 

 ――もしも何か悪いことをやったなら、その時はわかるよね?

 

 あれ。これもしかしてボク、これからスノーホワイトに裁かれます?

 

 ……はい、スイムスイムちゃんはおしまい!

 スイムスイムちゃんの来世にご期待ください!

 

 

「そう。私を殺しに来たんだね」

「え?」

「場所を移してもいい? アカネに私の死ぬ姿を見せたくない」

「違うよ!?」

「違うの?」

 

 スノーホワイトが力強く首を縦に振る。

 どうやらスノーホワイトはボクを殺しに来たわけではなかったらしい。

 

 アカネを起こしたくなかったため、ボクはスノーホワイトを伴って不破家のリビングに場所を移す。そこでお互い、テーブルを挟んで椅子に座り、ボクはスノーホワイトから事情を説明してもらうこととなった。

 

・スノーホワイトがゲームマスターを捕まえたことで、ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』は終わったこと。

・スノーホワイトがゲームマスターを捕まえられたのは、ゲーム世界を自力で脱出したスイムスイムの功績(ゲームマスターの不意を突いたロケット頭突き)があってこそだということ。

・スイムスイムはかれこれ1週間、意識を失っていたこと。

・アカネはスイムスイムを病院に連れて行こうとしたが、死んだことになっている人を病院に連れていくのはマズいことや、スイムスイムの命に別状がないことを理由に、アカネの行為をスノーホワイトが止めたこと。

・アカネが1週間、スイムスイムを献身的に看続けたこと。

 

 

 無事作戦が成功したのは良かった。窒息した時、絶対死んだと思ったもの。

 ただ、ボクの無茶でアカネの情緒をグチャグチャにしてしまったのはつくづく申し訳ない。1週間も意識不明だったとか、そりゃアカネも泣きますわ。

 

 

「……それと。ありがとう、スイムスイム」

「?」

「ゲームの記録を全部見たよ。あなたはみんなを死なせないように立ち回ってくれた。私の魔法であなたの心は読めないけれど、それでもあなたの気持ちはよく伝わった。あなたがいなければ間違いなく、もっと多くの魔法少女が亡くなっていた。みんなを助けてくれてありがとう」

「……こちらこそ。ゲームマスターを捕まえてくれてありがとう」

 

 

【朗報】スノーホワイトポイント、溜まってなかった【ゆ、許された】

 

 はー、良かった。安心した。物語の主要人物に睨まれ続けるとか生きた心地しないもの。

 ……あ、いや。まだ安心するには早い。スノーホワイトから突っ込まれる前に先手を打たねば。

 

 

「スノーホワイト。1つ聞いてもいい?」

「良いよ」

「みんなのお墓の場所、教えて」

「……あぁ、そういうことだったんだ。ちょっと待ってて、まとめるから」

 

 スノーホワイトがゲームマスターを捕まえてくれたってことは、ボクの推測どおり、スノーホワイトがボクを監視していたってことだ。だったらちゃんと、スイムスイムが殺した面々のお墓の場所を知らなかったからお墓参りをサボってたって理由づけは必要だよね。

 

 スノーホワイトはボクの魔法の端末に、スイムスイムが殺した者たちのお墓の場所一覧を送った後、「またね」と言葉を残して去っていった。

 

 さて、お墓参りするか。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇のっこちゃん

 

 ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』が終わった。

 のっこちゃんがそのことを知ったのは、ゲームからいきなりログアウトさせられてから数時間後に魔法の国から送られてきたメールからだった。

 

 のっこちゃんの頬を涙が伝う。瞳から次々と涙が零れ出る。

 のっこちゃんはゲームを生き残った。ゲームから現実に帰ることができた。

 もうのっこちゃんの命が脅かされることはない。

 

 泣いて、泣いて。体から水分がなくなるんじゃないかというくらい泣いて。

 それからのっこちゃんは動き出した。

 

 ゲームが終わったのは。のっこちゃんが助かったのは。

 きっと、いや絶対にスイムスイムのおかげだ。のっこちゃんには確信があった。

 

 スイムスイムに会いたい。スイムスイムにお礼を言いたい。

 その一心だった。

 

 

 のっこちゃんは担任の先生にしばらく小学校を休むことを伝えた。

 のっこちゃんは己が演技派だと自負している。立ち去り際に、涙ぐみながら「お母さん……」と呟いてみせたので、先生はのっこちゃんのお母さんの容態が悪化したものと勘違いしただろう。

 

 のっこちゃんは己が属する魔法少女グループのリーダーに土下座して、しばらく魔法少女としての慈善活動を休ませてくれと頼んだ。まじめが服を着て歩いているかのような頑固な性格が特徴的なリーダーはしかし、のっこちゃんの剣幕に押されてのっこちゃんのお願いを認めてくれた。

 

 のっこちゃんは入院中のお母さんに「しばらくお見舞いに行けなくなる」と告げた。お母さんはのっこちゃんをジッと見つめて、ホッと安堵の息を零して「いってらっしゃい」と、のっこちゃんの背中を押してくれた。

 

 きっとお母さんには見抜かれていた。魔法少女のことを知らなくとも、今までのっこちゃんが大変なことに巻き込まれていたことも。大変なことが終わったことも。今、のっこちゃんがやりたいことも。全部、全部見抜かれていた。

 

 

 スイムスイム捜索のために必要な準備をすべて終えたのっこちゃんは早速、スイムスイムを捜し始めた。スイムスイムがどこに住んでいるかをのっこちゃんは知らない。連絡先も知らない。でも、あてはある。

 

 あのゲームには、森の音楽家クラムベリーの試験で見覚えのある魔法少女が数名いた。きっとみんな、クラムベリーの子供達だった。

 

 のっこちゃんは森の音楽家クラムベリーの試験に協力してきた。試験会場を1つ1つ順番に回ればいつかゲームの参加者に、スイムスイムに会えるはずだ。

 

 『いつか』がいつになるかはわからない。明日かもしれない。1週間、1か月……もっとかかるかもしれない。でも、それでも会いたい。この気持ちにだけは嘘をつきたくない。

 

 

 のっこちゃんのスイムスイム捜索活動は1週間で実を結んだ。あのピンク色の髪に薄い表情は間違いなく、スイムスイムだ。ちょうど変身してくれていたおかげで、のっこちゃんはスイムスイムを見つけることができた。

 

 

「あの!」

 

 のっこちゃんはスイムスイムへと駆け寄る。声をかけられたスイムスイムがおもむろに振り向く。今のスイムスイムは普段着だ。白いスクール水着を着ていない。当たり前のことなのに、つい違和感を抱いてしまう。

 

 

 

「スイムスイムさんですよね?」

「うん」

「私はのっこちゃんです。ゲームの参加者です」

「うん」

「あなたをずっと探していました」

「うん?」

「私は、魔王でした」

「うん???」

 

 のっこちゃんはスイムスイムにすべてを話した。

 魔法のことも。家族のことも。お金のためにクラムベリーの試験に協力してきたことも。ゲームマスターに試験を強要されたことも。ゲームで『魔王』としてみんなに死んでもらうために魔法を使い続けていたことも。全部全部、のっこちゃんは話した。

 

 それからのっこちゃんは深々と頭を下げた。

 

 

「あなたに、私を救うつもりはなかったと思います。でも、あなたのおかげで私は救われました。私は今日も生きていられます。……あなたは私の命の恩人です! 助けてくれてありがとうございました!」

 

 ずっと胸の内に秘めていた感謝の言葉をスイムスイムに告げたのっこちゃんは、スイムスイムから反応がないことを不思議に思い、おずおずと頭を上げる。スイムスイムは相変わらず無表情のようで、どこか呆けているようだった。

 

 

「スイムスイムさん?」

「……ん、何でもない」

 

 スイムスイムは軽く首を左右に振って、のっこちゃんに向き直る。

 

 

「のっこちゃんが助かってよかった」

「あ、ありがとうございます」

「ところで、お金を稼ぐあてはあるの?」

「それは……ないです」

「わかった。ついてきて」

 

 スイムスイムはのっこちゃんに背を向けて、何やら魔法の端末を操作した後、テクテク歩き始める。のっこちゃんは首を傾げるも、スイムスイムに置いて行かれないように慌てて駆けだした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 のっこちゃんから打ち明けられた内容は、ボクをとことん驚かせた。

 まず境遇が重い。次に『まわりの人の気分を変えられる』魔法がヤバい。そして何より、のっこちゃんの魔法がボクに通じていなかったという事実が超ヤバい。

 

 これはまさか、スノーホワイト然り、のっこちゃん然り。精神に作用する魔法全般、ボクに通じないのではないか? でもなんで?? わけがわからなすぎて怖くなってきた。

 

 でも今は、ボクの事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない。

 

 

 のっこちゃんはお金に困っている。

 これを解決しなければ、のっこちゃんはいつかまた悪いことに魔法を使わざるを得なくなるかもしれない。今のうちに解決しておくに越したことはない。

 

 しかしボクもどちらかというとお金に困っている側だ。死人だから人権はないし、7歳の体では、どこに行ったって正攻法では雇ってもらえないし。

 

 ボクではのっこちゃんの金銭問題を解決できない。

 というわけで。ボクは今、のっこちゃんを連れて、名探偵ディティック・ベル様のお宅にお邪魔している。

 

 

「それで私に会いに来たのね。いきなり『会いに行ってもいい?』ってメール送ってくるから何事かと思ったよ」

「ベルなら何とかしてくれると思って」

「これは興味本位の質問なんだけど、プフレを頼るのはスイムスイム的にはダメだったの?」

「プフレは頼りすぎると後が怖いから」

「あぁ……」

 

 ボクとのっこちゃんはベル様ハウスのリビングに通され、2人してソファーに座る。ボクはきょろきょろと周囲を見渡してみる。

 

 

「質素な部屋でしょ?」

「うん」

 

 ベル様の問いかけにボクは素直にうなずく。勝手なイメージだけど。名探偵の部屋は色んな本があったり、書類があったりと、整理整頓されつつも物が多いイメージだった。

 

 

「実は引っ越し予定でね。それで荷物を整理してるの」

「そうなの?」

「私さ、探偵事務所をクビになったんだよね」

「え」

「ここのところは仕事休みまくってスイムスイムたちと会ってたしね」

「ごめんなさい」

 

 まさかベル様が名探偵(無職)になっていたとは。のっこちゃんの金銭問題を解決してもらえないかと期待してここまで来たが、さすがにタイミングが悪すぎる。

 

 

「あ、いや。謝ってほしくてこの話をしたわけじゃなくてね。……私さ、独立しようと思ってるんだ。名付けて『ディティック・ベル探偵事務所』」

「かっこいい」

「ありがとう。でも、さすがにクビになった事務所の近くで独立するわけにもいかなくてさ。引っ越しするつもりなんだ。……それでさ、のっこちゃん。もし良かったら、私の探偵事務所でお手伝いしてみる?」

「ベルさんの助手になるってことですか?」

「あぁ、そうなるのか。助手、助手かぁ……良い響きだ」

 

 助手ののっこちゃんを引き連れて事件現場に赴き、事件を解決する姿を想像しているのだろう。ベル様がにんまりしている。ベル様が嬉しそうだとボクも嬉しい。

 

 

「でも、良いんですか?」

「気にしなくていいよ。元々従業員を雇うつもりだったんだ。1人で事務所を切り盛りするのは大変だからね」

「でも、私はまだ子供で……ベルさんのお仕事の役に立てないかもしれませんよ?」

「私はのっこちゃんの境遇に同情して雇おうとしているわけじゃないよ。魔法少女相手なら、私は魔法を隠さずに済む。存分に魔法を活用して、探偵をすることができる。のっこちゃんは絶好の人材なんだよ」

「ベルさん……」

「さすがに10歳の子供を正式には雇えないから、給与は『お小遣い』って形で支払うことになる。私の事務所で働いて得られるお金はきっと、君がクラムベリーの試験に協力していた時と比べると少なくなると思う。それでも良い?」

「はい! ありがとうございます!」

 

 のっこちゃんがベル様に深々と頭を下げる。のっこちゃんの気持ちがボクにもよくわかる。ベル様かっこいいよね、うんうん。……のっこちゃん、お前もベル様教に入らないか?

 

 

「それじゃ、のっこちゃんの住所を教えてよ。近くに事務所を構えるから」

「えぇ!? そんな、悪いですよ!?」

「気にしない気にしない。まだ事務所の場所は決めてなかったからさ。ほら、言いなって。子供なんだから遠慮しないの」

「あぅぅ……」

 

 ベル様とのっこちゃんを取り巻く雰囲気はとても良い感じだ。

 そろそろボクはクールに去るとしよう。

 

 

「あとはよろしくね?」

「うん、任せて」

「スイムスイムさん、何から何まで本当にありがとうございました!」

 

 ボクはベル様に改めてのっこちゃんをお願いすると、のっこちゃんの感謝を一身に受けながらベル様ハウスから去った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 N市の犠牲者たちへのお墓参りに向かうつもりが、のっこちゃんの金銭問題を解決するために時間を使ってしまった。

 

 時刻は夕暮れ。お墓参りは明日にして、今日は不破家に帰ろう。

 そろそろアカネが起きる頃かもしれない。ちゃんと書置きをしてから外出しているが、アカネが目覚めた時、1週間も看病したスイムスイムがいないとなったら、パニックになるかもしれないし。

 

 

 ――みんなを助けてくれてありがとう。

 

 不破家へ帰る最中、スノーホワイトからの感謝の言葉がよみがえる。

 

 

 ――あなたは私の命の恩人です! 助けてくれてありがとうございました!

 

 のっこちゃんからの感謝の言葉がよみがえる。

 

 

 人生で、他人からこうも心から感謝されたことなんて一体何回あっただろうか。

 ……これが魔法少女か。

 

 ゲーム世界での一連の出来事を振り返った時。マジカルデイジーを助けられなかった後悔はある。でもそれ以上に、ボクの心は今、凄まじく充実している。

 

 

 ――その調子だよ。

 

 刹那、ボクの景色が切り替わった。

 真っ白で、果てのない世界。誰かが立っている。

 ボクに背を向けており、顔が見えない。

 

 

 ――その調子でいっぱい経験して、いっぱい人を救って、いっぱい成長して。……いつか私のことも助けてね?

 

 何者かがボクの脳内に直接語りかけたのを最後に、ボクの視界は不思議空間から元の街並みを映し出した。

 

 

 今の不思議現象は一体……?

 え、ボクってマジで何かされてる?

 

 だれかたすけて!(豆腐メンタル)

 

 

 ボクは夕焼けに染まる街並みを見つめて、心の中で助けを求めた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇シャドウゲール

 

 ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』が終わった。

 魔法の国からのメールには、ゲームの主催者を交渉役が捕まえた、と記載してあったが、それを素直に信じるシャドウゲールではない。

 

 魔法の国のスタンスはシャドウゲールなりに知っている。『ゲーム参加者の1人がゲームマスターを倒して事件を解決しました、本件について魔法の国は無力でした』だなんて報告をしたくはないだろう。魔法の国は面子を気にする性質がある。

 

 作戦は成功した。きっとスイムスイムは『ゲーム世界の底』にたどり着き、ゲームを脱出して、ゲームマスターを倒してくれた。だから今がある。シャドウゲールが、ゲーム世界で命を脅かされることなく、安穏と現実世界を生きられる今がある。

 

 以前、オフ会のために勝手に異界化されたシャドウゲールの部屋も今は元通りになっている。プフレは今日も当然のようにシャドウゲールの回転椅子を我が物顔で占拠しているが、日常のありがたみを噛みしめている今のシャドウゲールは、そんな些末事は気にならなかった。

 

 だが、別のことは気になっていた。

 あの時、オフ会でプフレが提示した作戦のことだ。

 

 

「……お嬢はどうして、あんな作戦を推したんですか? 成功したから良かったですけど、失敗すればスイムスイムが無駄死にするだけの作戦でしたよね?」

 

 シャドウゲールは疑問をプフレにぶつける。

 そう、あの作戦には違和感があった。プフレらしくないと感じていた。

 

 プフレが言うように、スイムスイムのゲーム参加が決まったのはゲーム開始直前であり、それゆえスイムスイムは、ゲームマスターの対策が万全ではないかもしれない魔法少女だった。ゲームを壊すキーとなる、とても重要な魔法少女だった。

 

 スイムスイムの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法はとても便利で、応用が利く。プフレがわざわざスイムスイムを捨てる作戦を推さないで、もっとオフ会で議論を進めれば、もっと安全な別の作戦を組み立てられたのではないか。そう思ったのだ。

 

 

「少し考えがあってね」

 

 プフレがシャドウゲールに向き直る。

 シャドウゲールの疑問は正解だったらしい。

 

 

「オフ会を開く前、護はスイムスイムを疑っていただろう?」

「ええ。怪しかったですし」

「それはなぜだ?」

「だって、魔法を無効にするドラゴンに襲われて、魔王城の罠にも引っかかって、普通なら死ぬでしょう? でも、偶然近くにいたマスクド・ワンダーが助けてくれたからスイムスイムは無事だった。それが、いくらなんでも都合が良すぎるように思えて。だから仕込みじゃないかって怪しんだんです」

「そう、都合が良すぎるんだよ。だから試した」

 

 『試した』とはどういうことだ。

 シャドウゲールは首をコテンと傾ける。

 

 

「どこまで潜ればたどり着けるかわからない『ゲーム世界の底』を目指すだなんて、普通は無茶だ。少しでも命が惜しいと思えば当然、反対する。けれど、スイムスイムは私の作戦に乗った。そして、作戦は成功した。確かに我々は作戦を成功させるために最善を尽くしたが……それでも都合が良すぎると思わないか?」

「何が言いたいんですか?」

「スイムスイムは何者かに守られている。だから彼女は、何度窮地に追いやられようとも、死なずに済んでいる。そういう仮説を立てている」

「……お嬢は、スイムスイムで何をするつもりなんですか?」

「さてね、今は秘密にしておくよ。ただ願わくば……これからもスイムスイムとは良き友人でありたいね」

「……」

 

 お嬢が意味深に笑みを深めている。お嬢はまた何か良からぬことを考えているようだった。お嬢に目をつけられたスイムスイムの行く末が心配だった。

 

 が、シャドウゲールは無力である。お嬢のたくらみに巻き込まれても、ご都合主義で生き延びてくれるスイムスイムの姿を祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇魔法少女育成計画restart編 完

 

 

 

 

 

 





――予告――


今度はB市で策謀うずまく殺し合いの幕が上がろうとしている。

ニュービーとベテラン、暗殺者、彼女らの気持ち、村祭り。

そして目立ち続ける白スク姿のおもしれー女。

次章、魔法少女育成計画limited編。


リップル(隻眼隻腕忍者)
「どうしてお前が生きている!? スイムスイム!」
スイムスイム(憑依中)
「…………(だれかたすけて)」


 To Be Continued……?


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