その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問20.キャプテン・グレースこと芝原海を異世界転生させた時に彼女と相性が良さそうな作品を挙げよ。この時、芝原海のたぐいまれなるフィジカルは異世界転生時も引き継がれるものとする。



第20話 変態だーー!!!!

 

◇キャプテン・グレース(残り時間23時間40分)

 

 B市の波山中学2年生:芝原海(しばはらうみ)の昨日までの人生は、ただの準備期間だった。海の人生は今日、本番を迎えた。魔法少女キャプテン・グレースの力を手にしたことによって、海の冒険が本格的に幕を開けたのだ。

 

 

 きっかけはささいなことだった。

 冒険の匂いがする。今日は最高の日になる。朝起きてまもなく、海は確信を抱いた。海のこの手の確信は外れたことがなかった。

 

 だから。海はクラスメイトが誰もやりたがらない文化祭の清掃委員に立候補し、幼馴染の根村佳代(ねむらかよ)を引き連れて、清掃委員会の打ち合わせに参加するべく、放課後の理科準備室に足を運んだ。

 

 どうして理科準備室が打ち合わせ場所なのかと疑問には思ったが、疑問はすぐに放り投げた。これから海を待ち受けている最高の日を思えば、そんな疑問は些末事だ。

 

 理科準備室には、海や佳代を含む5人の生徒と国語担当の姫野先生が集まった。姫野先生が促して、文化祭清掃委員会の打ち合わせが始まる中、海はただただワクワクしていた。

 

 普段の海ならこんなつまらない打ち合わせなんかに参加しない。

 でも海の直感がしきりに『ここで何かがある!』と叫んでいる。心がどんどん高揚していく。さぁ何が来る、どう来る。何でもいい。何があってもあたしはいける。

 

 そして、海は最高に面白い未知と遭遇する。

 打ち合わせが始まって早々、海たちの前に少女が現れた。光をまとい、半透明の羽を使って浮遊する、15センチくらいの身長をした少女だった。

 

 少女の名はトコ。妖精という種族らしい。

 そんな妖精トコにより、海たち理科準備室に集結した面々は魔法少女の力を手に入れた。

 

 

 海は己の力を持て余している自覚があった。

 海には物心ついた頃から強大な力があり、しかし力を十全に振るうには、海の世界はあまりにスケールが小さかった。

 

 幼稚園の頃は野山を駆けまわり、サバイバル生活を楽しんだ。獣と戦ったこともある。遭難したこともある。

 

 小学生になって、同志:佳代を見つけてからも色んなことをした。佳代と一緒に、夏休みに本州を縦断したり、空手道場の師範をやっつけたり、暴走族を潰したこともあった。

 

 どれも楽しい冒険だった。しかしどうしてもスケールが小さい。

 海の体は成長し、体に秘める力はますます増していく。けれど世界は何ら変化を見せない。海の心はより新鮮な冒険を希求しているのに、どうして。

 

 

 世界に少しだけ不満を持ち始めた折、海はトコから魔法少女キャプテン・グレースの力を与えられた。海は理解した。海が力を持て余していて当たり前だったのだ。海はまだ、世界の一端しか知らなかったのだから。

 

 海の今までの人生は、井戸の中で無双していた蛙のようなものだった。

 しかしそれも昨日までの話。海という名の蛙は今日、大海を知った。世界に魔法が存在することを知った。海の世界は広がった。今日から海の本当の冒険が始まるのだ。

 

 ゆえに今、海はキャプテン・グレースとして最善を尽くす。

 トコは言った。『悪い魔法使いに追われているから助けてくれ。悪い魔法使いを倒してくれたら、お礼に魔法少女の力をそのままあげる』といったことを確かに口にした。

 

 海の新しい冒険にキャプテン・グレースの力は欠かせない。

 だからまずはトコの提示した条件をクリアする。条件をクリアできずに、魔法少女の力も魔法についての記憶も奪われるなんてことがあってはならない。

 

 グレースは先ほど、路上で悪い魔法使いの一味と交戦した。

 一味の1人、兎耳で着物姿の魔法少女は手強かった。今まで海が戦った誰よりも強かった。キャプテン・グレースはコスチュームの片刃剣(カトラス)を振るって交戦するも、数度の打ち合いの後、兎耳に逃げられてしまった。

 

 

 次は絶対に兎耳を倒す。

 グレースは強固な意思を心に宿しつつ、己と同じく理科準備室で魔法少女になった同志たちと情報交換を開始した。同志たちの魔法少女名や魔法すらロクに共有していなかったことが、兎耳を逃がした主因に他ならなかったからだ。

 

 グレースたちは互いに顔を突き合わせて魔法少女名を共有し、魔法の内容も共有し始めようとして。だけどそこで、悪い魔法使いの一味との交戦で派手に戦った影響で人々が何だ何だと集まろうとしていることに気づき。場所を変えようとして。その道中。

 

 

「止まって」

 

 グレースたちの先頭を浮遊するトコが制止の声を上げた。

 

 

「魔法少女がいる」

 

 グレースたちは路地裏から、トコが指さす方へと視線を向ける。そこにはふんわりとしたピンク髪の少女が立っていた。表情は乏しく、そこから感情を読み取れない。

 

 暖色のコートに身を包み、露出を極力控えた装いをしている少女が手に持っているものは、魔法の端末。さっきグレースたちが魔法少女の力を与えられた際に、トコから配られたものだ。なるほど、確かに魔法少女だ。

 

 

「悪い魔法使いは逃げたんじゃなかったんですか?」

「別動隊ってこと?」

 

 グレースの背後でウェディンやレイン・ポゥが各々疑問を零している。グレースも皆と同種の疑問を抱いている。ゆえに動いた。ピンク髪に直接聞くのが一番早い。

 

 隣の建物の壁にジャンプし、壁を蹴って、反対側の建物の壁にジャンプし、壁を蹴って、建物の屋上に着地する。それからカトラスを構えて、ピンク髪へ飛び込んだ。ピンク髪はグレースの襲撃に気づき、カトラスの一撃を難なくかわしてみせた。

 

 こいつも強敵だ。

 グレースの心が高ぶる。高揚する。

 

 

「よぉピンク髪。あんたも兎耳と同じ、悪い魔法少女の一味でしょ? あんたは逃げずに最後まで戦いなさいよね!」

 

 グレースはピンク髪に飛びかかる。カトラスを振るう。ピンク髪はグレースから視線を決して離さず、落ち着いて攻撃を回避している。ピンク髪から攻撃を仕掛ける気配はない。

 

 グレースの攻撃を回避するので精一杯という様子には見えない。そうだ。相手も魔法少女ならば、グレースの『すごくかっこいい魔法の海賊船を出せる』魔法のように、相手も固有の魔法を持っているはずだ。切り札で形勢をひっくり返すタイミングをうかがっているのかもしれない。

 

 ますます闘争心がわきあがる。

 新しい世界はどこまでもグレースを楽しませてくれる。

 

 

「どうして攻撃してくるの?」

「あんたが悪い連中の一味だからよ」

「悪い連中? 何のこと?」

「あんたの心に聞きなさい!」

 

 ピンク髪はグレースの攻撃をやめさせようとしている。つまり、ピンク髪にとってグレースの戦闘行為は都合が悪いということ。ならば戦闘を継続する。ピンク髪から話を聞くのは、倒した後からでも問題ない。

 

 グレースはフェイントを織り交ぜながらカトラスを振るい続ける。しかしピンク髪は回避し続ける。まるで、お前より強い剣士を知っていると言わんばかりだ。

 

 ピンク髪は会話で交渉できないと判断したのか、得物を構える。小剣だ。キャプテン・グレースのコスチュームにも同じような見た目の得物が――

 

 ――グレースは腰に手を添える。小剣がない。いつ盗られた? わからない。わからないことが愉快で仕方がない。

 

 

「ははっ!」

 

 グレースはピンク髪へと飛び込む。カトラスを振るい、ピンク髪の小剣で受け止められる。ピンク髪の膝がグレースの手の甲を狙い、グレースは肘でピンク髪の膝を打ち抜いた。

 

 

「なっ!?」

 

 グレースの肘がピンク髪の膝に接触した瞬間、水しぶきとともにピンク髪の膝が崩壊した。だが当のピンク髪は平然としている。

 

 ピンク髪は道路を強く踏んだ。グレースの視界が、下から飛び出してきた黒く円状の物体で塞がる。これは、マンホール? マンホールが急激にグレースへと迫ってくる。ピンク髪がマンホールを思いっきり手で押したのだろう。

 

 ならば押し返す。グレースは渾身の右手を突き出した。迫りくるマンホールはグレースの力に一瞬だけ抵抗し、その後ピンク髪へと吹っ飛んでいった。

 

 グレースが跳ね返したマンホールはピンク髪に当たらなかった。というかピンク髪がいない。一体どこへ。周囲を見渡すと、路地裏に駆け込もうとするピンク髪の姿。

 

 

「待ちやがれ!」

 

 二度も逃げられてたまるか。

 グレースが後を追うべく駆け出した矢先、ピンク髪は立ち止まり、両手を上げた。ピンク髪の奇怪な行動の意図を知るべく、グレースがピンク髪の視線を追うと、魔法少女たちがピンク髪の包囲網を形成していることに気づいた。

 

 グレースがピンク髪と戦っている間、他の魔法少女たちはトコの指示に従い、こっそりと布陣を作っていたのだろう。

 

 グレース以外の魔法少女は戦闘に慣れていない。ピンク髪と直接戦えば実力が透ける。そうなればピンク髪に隙をつかれて逃げられるかもしれない。

 

 だから戦闘はグレースに任せて、魔法少女たちはピンク髪を包囲し、人数の優位性を主張するにとどめている。兎耳を逃した反省を活かしている。

 

 

「……降参」

 

 ピンク髪は両手を上げたまま、無表情のまま降伏の旨を告げる。彼我の人数差を前に戦況を覆せないと判断し、諦めたようだった。

 

 サレンダーか。つまらない。

 もっともっと戦いたかったのに。

 

 だが、グレースはあくまで魔法少女同士の戦闘を楽しみたいだけであって、戦意を持たない相手を意味もなく虐げたいわけではない。相手が白旗を上げたのにこちらが暴力を振るい続けたのでは、どっちが悪い魔法使いかわかったものじゃない。

 

 消化不良のまま終わった戦闘に不満は残るが仕方ない。

 それに、これで戦闘の機会が消えたわけじゃない。あの兎耳との再戦だって控えている。グレースはどうにか己を納得させ、たぎる戦意を引っ込めた。

 

 グレースの目の前で、繰々姫(くるくるひめ)が魔法のリボンを操り、ピンク髪の体をぐるぐる巻きに縛り上げた。何だか蛹みたいだった。

 

 

 ◇◇◇

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間23時間32分)

 

 

 海賊風の魔法少女に襲撃された時、ボクはすさまじく焦った。

 B市に潜伏中の凶悪犯にいきなり目をつけられ、命を狙われたものと想定したからだ。

 

 しかし海賊少女と戦う内に、彼女は凶悪犯ではないと判断した。

 確かに彼女の攻撃1つ1つは鋭く強烈だった。しかし彼女の剣戟からは、『まさかこの程度であんたは終わらないわよね?』といった、信頼という名の圧力が感じられた。

 

 戦闘狂ではあるのかもしれない。でもボクの命を奪いたいわけではなさそうだ。そんな彼女の意思は、捜査班の1人を殺したであろう凶悪犯の人物像と合致しない。

 

 例えるなら、あれだ。大型犬がとんでもない勢いでじゃれついてくるような感じ。遊んで遊んでタックルで飼い主を転ばせても、『これくらい平気っしょ』と言わんばかりに飛びかかって、頭を押しつけてきて顔を舌でぺろぺろ舐めてくるあの感じ。そんな印象を海賊少女から抱いたのだ。

 

 

 ボクは海賊少女の攻撃を凌ぎながら常に視線を海賊少女の周辺に移していた。このような芸当ができるのは、アカネとの模擬戦闘経験の賜物だ。ボクの体には今、剣道の高校全国大会個人戦準優勝者たるアカネの教えが生きている。技量を持たず、力に任せて剣を振るうだけの相手ならさほど脅威ではない。

 

 周囲に目を配り、華美なコスチュームを身にまとう魔法少女たちがたどたどしく周囲に散らばる様子を見て、察した。

 

 プフレは言っていた。『魔法の国の監査部門の捜査班が凶悪犯を捕まえようとしたが、凶悪犯が想定以上の戦力(魔法少女軍団)を有していたため撤退した』と。眼前の海賊少女と、ボクを取り囲もうとする彼女たちこそが例の魔法少女軍団なのだろう。

 

 

 ボクはプフレから凶悪犯の人数を聞かされていない。

 しかし魔法少女軍団全員が凶悪犯、という線はない。もしもそうなら捜査班が凶悪犯の戦力を想定外として撤退したことが矛盾する。

 

 倒すべき敵と、守るべき味方が混在したグループ。

 これが魔法少女軍団の正体だ。

 

 

 ――だったら降参してみるか?

 

 

 悲劇を防ぐ。

 それはつまり悪い企みをもって暗躍する敵の思惑を打ち砕くということだ。

 

 ボクの目的を為すために必要なのは情報だ。情報がなければ状況に応じて適切な判断を下せない。あえて降参してこの集団の中に入り、情報収集するのはアリだ。

 

 危険な策には違いない。最悪ボクは死ぬ。

 捕まってしまえば、何をされるかわからない。

 状況次第で『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で逃走することを視野に入れているが、ボクの魔法なら魔法少女軍団から絶対に逃げられると考えるのはあまりに楽観的だ。

 

 だが、ここはリスクを承知で踏み込んでみよう。

 どこかで綱渡りを成功させなければ、悲劇を防げない。まほいく世界で悲劇を防ぐとはそういうことだ。

 

 ゲーム世界の時もそうだ。

 ボクは殺されるリスクを承知でアカネを煽りつつ説得したことで、アカネの正気を取り戻すことができた。結果、アカネという協力者を得ることができた。

 ボクはプフレ、シャドウゲール、マスクド・ワンダーを信じて目的を話したことで、ゲーム世界の底を潜り抜けてゲームから脱出する策を決行できた。結果、マジカルデイジー以外の魔法少女が生存したままゲームを終わらせることができた。

 

 いずれもボクが挑戦して勝ち取った結果だ。

 逃げ腰ではこうはならなかった。

 

 それに。魔法少女たちを24時間、B市に閉じ込めている結界の存在が非常に気がかりだ。この結界が解ける瞬間を物語の時間制限だと仮定すると、まほいくシリーズ第3部はとんでもなく早期決着で終わる可能性がある。

 

 ぐずぐずしていたら展開に置いていかれ、悲劇を防ぐどころか『なんの成果も!! 得られませんでした!!』となりかねない。可能性がある以上、ゆっくり事を構えている場合じゃない。

 ……決めた、降参しよう。

 

 とはいえ、逃げる意思すら見せずに降参するのはいらぬ疑いをかけられかねない。ボクはマンホールで海賊少女の視界を防いだ隙に逃げようとしたけど他の魔法少女たちに包囲されているから渋々降参しました、という建前で降参した。

 

 

 さて、どうなることやら。

 

 ボクを捕らえた魔法少女軍団は人目を気にしながらどこかへ向かおうとしている。ピンク髪の少女たるボクが縛られまくった姿を目撃されたら通報待ったなしゆえ、慎重に慎重を重ねて移動しているようだ。

 

 

「リボンの人」

「ふひゃ!? な、なにかな?」

 

 ボクが後ろを振り返ると、ボクの体をリボンで縛っている人がビクリと肩を震わせる。驚かせてしまったらしい。内心で謝りつつも、ボクは用件を口に出す。

 

 

「私が縛られている姿を見られたくないのなら、私の服の中で縛ればいいと思う」

「……あ、そっか」

 

 リボンの人はボクのコートの内側にリボンを動かしてボクをぐるぐる巻きにしてから、ボクのコートの外側から縛るリボンを解いた。

 

 そうして魔法少女軍団はボクを連れて、中学校――銘板には波山中学と書かれていた――に入り、理科室の奥にある理科準備室に連行した。

 

 

 ◇◇◇

 

繰々姫(くるくるひめ)(残り時間23時間23分)

 

 きっと今、自分は夢を見ているのではないか。次の瞬間には父に声をかけられて目覚め、布団から身を起こすのではないか。もう何回、そんな想像が頭をよぎっただろうか。

 

 それくらい、波山中学の国語担当の教師:姫野希(ひめののぞみ)にとって今日は現実感がなかった。

 なぜか理科準備室で開かれる文化祭清掃委員会の打ち合わせに参加する。それだけだったはずなのに、トコという名の妖精が現れ、姫野希は魔法少女:繰々姫の力を得てしまった。

 

 悪い魔法少女をやっつけてほしい、やっつけてくれたら魔法少女の力をずっとあげる。

 トコの提案は希にとってまったく魅力的じゃなかった。悪い魔法少女の実力がどれほどのものかわからないのに、警察でもない希たち魔法少女が戦うだなんて、危ないだけだ。

 

 希は反対した。魔法少女として悪い魔法少女と戦うリスクを提唱した。

 しかし唐突な非日常を、理科準備室に集まったほぼ全員が受け入れた。否定的だったのは、ファニートリックだけだった。

 

 結局、希は折れた。魔法少女としてみんなと戦うことを受け入れた。

 トコの『先生が生徒を守りたいって気持ちはわかる。だったら先生も生徒と一緒に戦ってよ』との言葉が、希の心に深く突き刺さっていた。

 

 

 それから希は繰々姫として、トコの言う悪い魔法使いの一味と戦った。繰々姫が主に戦ったのは兎耳の魔法少女だ。しかしまるで歯が立たなかった。

 

 繰々姫、キャプテン・グレース、ウェディン、テプセケメイの人の4人で相手をしたのに、兎耳の魔法少女は当たり前のように4人の攻撃をいなし、最終的に逃げきった。

 

 それから一旦場所を変えて作戦会議だ、となったところでトコが新たな魔法少女を見つけた。綺麗なピンク髪の少女だった。さっきとは違い、悪い魔法少女の一味とは限らなかった。

 

 だが、グレースが少女に速攻で攻撃を仕掛け、トコが『あいつも悪い魔法使いの一味かもしれないから倒そう!』と息まき、最終的に少女が降参したので繰々姫がリボンで拘束した。

 

 そして今がある。

 波山中学の理科準備室で、繰々姫たち魔法少女が取り囲む中心で、リボンでぐるぐる巻きになっているピンク髪の少女はちょこんと正座をしている。心なしか、縮こまっているようにも見える。本当にこの人は悪なのだろうか。繰々姫の脳内で疑問がうずまく。

 

 

「あなたのお名前は?」

「スイムスイム」

「どうしてここに来たの?」

「仕事が欲しくて」

 

 繰々姫はピンク髪の少女にいくつか質問をしてみる。彼女、スイムスイムは求職活動中だったらしい。魔法少女は変身前と変身後とで、姿形があまりに様変わりする。スイムスイムの見た目と『仕事』というワードが結び付かないことを踏まえると、スイムスイムの変身前は大人なのかもしれない。

 

 

「みんなの名前は?」

 

 スイムスイムが繰々姫たちを見上げて質問を返す。

 繰々姫は素直に応えようとした。

 

 

「待って」

 

 が、トコが止めた。

 トコはスイムスイムに警戒の眼差しを注いでいる。

 

 

「スイムスイムは相手の名前を知ることで攻撃を仕掛けられる魔法の持ち主かもしれない。安易に名前を教えるのは危険よ」

「いや、それは大丈夫。こいつの膝に一撃喰らわせた時、膝が割れて水になったんだよね。つまり、こいつの魔法は水タイプ。あたしたちの名前を知ったからってどうこうできないわよ」

「確かに魔法少女が使える魔法は1種類だけど、でもその魔法はとても強力なのよ。水系統の魔法だからって、名前を教えても安全とはならないの」

「いや大丈夫。あたしの勘がそう言ってる」

「あのね、わたしの言ってることわかる?」

 

 トコの発言をグレースが否定する。グレースの発言をトコが否定する。2人が互いに視線でバチバチと熱い火花をぶつけ始めた時、ウェディンが声を上げた。

 

 

「ここは私の出番ですね」

 

 ウェディンはスイムスイムへ近づき、正座中のスイムスイムと目線を合わせるためにしゃがみ込む。

 

 

「これからは私の指示に従ってください」

 

 ウェディンはスイムスイムに命令し、スイムスイムは反応しなかった。繰々姫にはウェディンの目的がよくわからない。言質を取って安心したい、ということだろうか。

 

 

「もう一度言うので、うなずいてください」

「それはいや」

「なぜですか?」

「あなたの魔法はきっと、命令で相手を縛るタイプの魔法。その命令を受け入れると、あなたに『死ね』と命令されたらおしまいだから」

 

 明らかに場の空気が凍った。

 スイムスイムが当然のように発した『死』という言葉が、魔法少女に夢も希望もありはしないことを物語っているように思えてならなかった。

 

 

「……あなたの推測どおり、私の魔法は『約束をしたらそれをぜったいに守らせる』魔法です。ただ、私があなたに魔法を使おうとするのは、私たちの安全確保のためであって、あなたに死の恐怖に震えてもらうためではありません。なので約束の内容を変えます」

 

 場の空気を変えるためか、ウェディンがコホンと咳をしてからスイムスイムに語りかける。スイムスイムはウェディンの瞳をジッと見つめている。

 

 

「今、理科準備室にいる我々に今後危害を加えないこと。私の許可なく魔法少女に変身したり変身を解除したりしないこと。これならどうですか?」

「……わかった」

 

 ウェディンが提示した新たな約束を前に、スイムスイムは少しばかり悩んだ後に肯定した。これでスイムスイムはウェディンの魔法の支配下に入ったことになる。

 

 

「これだけ約束しておけばトコも安心でしょう? あとはスイムスイムの変身を解除させておけば万が一のこともありません。では、私たちの魔法少女名をスイムスイムにも教えておきましょう。スイムスイムとしても、我々の名前を知らないままでは会話するにも面倒でしょうし」

「まだダメ。ちゃんと魔法が効いているか、確認して」

「トコはとことん疑り深いですね。まぁ、ちょうど魔法の試運転をしたかったところなので良いですけど。……あ、いや。ちなみに今のはダジャレではないのであしからず」

 

 ウェディンは恥ずかしそうに頬を赤らめつつも、スイムスイムに向き直る。

 

 

「ではスイムスイム。変身を解除してください」

 

 ウェディンの命令を聞くや否や、スイムスイムの周囲をまばゆい光が包む。

 

 

「マジで言いなりじゃん、すご」

「ねぇ海ちゃん。こっち見ながら言わないでくれない? 何か企んでないよね?」

「いやいやべっつにー?」

 

 キャプテン・グレースがニヤニヤ笑う。

 ファニートリックがキャプテン・グレースを警戒する。

 

 

「へー、先輩たちってそういう趣味あるんですね?」

「香織ちゃん!?」

「違うよ!? 違うからね!?」

 

 レイン・ポゥが意外そうに眼を見開く。

 先輩をからかいにかかるレイン・ポゥの発言にポスタリィが驚く。

 ファニートリックが慌てて否定する。

 

 そうこうしている内に光は収まり、そこには――とても幼い女の子がいた。教師のくせに見た目が中学1年生レベルの希よりもさらに幼い。小学校低学年くらいだろうか。

 

 

「「「子供!?」」」

「子供じゃない」

 

 繰々姫たちは驚愕の声を響かせる。驚いていないのは理科準備室をぷかぷか浮遊しているテプセケメイだけだ。スイムスイムは否定しているが、姫野家のような超絶童顔な家系が他にも早々いるとは思えない。スイムスイムは見た目相応の年齢に違いなかった。

 

 

(私はなんてことを……)

 

 こんなに小さい子供をリボンで拘束してここへ連れてきた。

 その事実が罪悪感へと変化して、繰々姫へと襲いかかる。

 

 しかし、それでもスイムスイムを縛るリボンの拘束は解かなかった。拘束を解けばトコが怒鳴り散らすことが容易に想像できたからだ。トコが怖いわけではないが、機嫌を保っておくに越したことはない。

 

 

「何か、ごめんなさい」

「?」

「いえ、こちらの話です。ついでなので最後まで確認しておきます。スイムスイム、変身してください」

 

 幼子を約束で縛ったウェディンも、繰々姫と同様の罪悪感を抱いていたのだろう。ウェディンはスイムスイムに謝罪した後、スイムスイムに次の命令を下す。

 

 スイムスイムの体が再び光に包まれ、そこにはピンク髪の少女がいた。

 水泳用ゴーグルとヘッドホンを装着し、なぜか白いスクール水着を着ている。スイムスイムが着用している純白の水着は、繰々姫がスイムスイムの体をリボンでぐるぐる巻きにしている状況下でも、非常に目立っていた。

 

 さっきとは別の意味で場の空気が凍った。

 

 

 ◇◇◇

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間23時間14分)

 

 ボクはウェディングドレス姿の魔法少女の命令を受け入れた。

 しかしウェディングドレスの人に変身解除や変身を命じられても、無理やり体が動くようなことはなかった。

 

 想定通り、ウェディングドレスの人の『約束をしたらそれをぜったいに守らせる』魔法はボクに通じなかった。やはりボクは、精神に作用する魔法全般を無効化する体質らしい。なんでかは全然わかっていないのだけど。

 

 でも、ちゃんと魔法が効いているフリをするように努めた。

 でないと、かわいらしい容姿とは裏腹に猜疑心が強い、トコという名の妖精に、ボクが魔法少女軍団の中に身を置くことを納得してもらえなさそうだったからだ。

 

 ウェディングドレスの人の命令通りに変身を解いて、再び変身して――場の雰囲気が一変したのを感じ取った。

 

 何かやらかしたか?

 ボクは周囲を見渡し、己に視線を移し、気づいた。

 

 魔法少女に変身してから着替えることはできる。だからボクはウェディングドレスの人に従って魔法少女の変身を解除するまでは、きちんとした恰好をしていた。けれど、魔法少女に変身した直後は、強制的にコスチューム姿になる。ボクの場合は、白スク姿になってしまう。

 

 つまり今のボクの格好は……。

 あ、みんなの目がヤバい。

 

 

「あの。どうしていきなり水着姿に?」

「これが私のコスチュームだから」

 

 ウェディングドレスの人が問いかけてくる。

 いっそテキトーな嘘を並べて煙に巻いてしまいたかったが、それでトコを始めとする魔法少女軍団に疑われたんじゃ本末転倒だ。ボクは正直に話すしかなかった。

 

 

「変態だ」

「変態じゃん」

「……変態、ですね」

 

 ステージマジシャン風の人と虹色衣装の人と郵便配達員の人がボクを見下ろして、次々と言葉を漏らす。ボクは「違う」と否定する。

 

 

「……」

 

 リボンの人が口をあんぐりと開けている。ボクは「変態じゃない」と追加の言葉を添えるも、リボンの人は再起しそうにない。

 

 

「はー、エロいなぁ。こういう魔法少女もいるのか」

「完全にいやらしい漫画の登場人物じゃないですか、あなた」

「私は変態じゃない」

「いや、まごうことなき変態ですよ。その水着姿で魔法少女は無理でしょ」

 

 ほんとだもん! ボクは変態じゃないもん! うそじゃないもん! 

 ボクは必死に抗議するも、海賊少女やウェディングドレスの人を始め、誰も聞き入れてはくれなかった。唯一ボクの姿にリアクションを見せずにただただ浮遊しているアラビアの踊り子風の人に助けを求める眼差しを向けてみるも、当人は上の空だった。

 

 

 だれかたすけて!(くっ、殺せ!)

 

 




次回 第21話
『こういうのでいいんだよこういうので』
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