その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問21.波山中学の生徒から『モンスター』と呼ばれている国語教師:繰々姫のメンタルを救うため、新たなあだ名を提示せよ。この時、新しいあだ名は繰々姫の中学1年生レベルの容姿を示すと同時に、『モンスター』と同じくらい、波山中学の生徒が使いやすい類いとする。



第21話 こういうのでいいんだよこういうので

 

◇ウェディン(残り時間22時間51分)

 

 波山中学2年生:結屋美祢(むすびやみね)にとって、妖精トコが示した条件をクリアして、永続的に魔法少女ウェディンの力を得るのはアリだった。

 

 美祢にとって損なことはやらない。美祢にとって得なことはやる。

 ずっとその物差しを使って生きてきた。これからも変わらない。これこそが美祢がたった一度の人生を謳歌するための絶対的な判断基準だ。周りからどう評価されようと、美祢の指針は未来永劫変わらない。

 

 美祢にとって魔法少女の力はとても魅力的だ。

 元々『魔法少女』が好きだというのもあるし、魔法少女の力があれば辛い受験勉強を放棄できるかもという可能性にも惹かれた。

 

 

 魔法少女の力を得られるのなら悪い連中とだって戦ってみせる。

 魔法少女の力は、そのくらいの危険を冒すだけの価値がある。

 

 ただ、さすがに魔法少女になりたての状態で、他の魔法少女仲間が何をできるのかをロクに知らないままに、悪い魔法使いの一味を迎撃しようとしたのは失敗だった。

 

 ウェディンはキャプテン・グレースたちと一緒に兎耳の魔法少女と戦ったが、ウェディンはまるで役立たずで、兎耳の魔法少女を逃がしてしまった。

 

 

 その後、ウェディンたちは1人の魔法少女を捕まえた。

 彼女の名はスイムスイム。変身前はとても幼い女の子、変身後は蠱惑的な体に白いスクール水着をまとった変態、というちぐはぐな存在だ。

 

 ウェディンたちはスイムスイムを連れて、波山中学の理科準備室へと戻った。そしてウェディンはスイムスイムに、自分たちに危害を加えないことと、ウェディンの許可なく変身したり変身を解除したりしないことを約束させた。己の魔法を行使して、たとえスイムスイムが悪い魔法使いの一味であっても、良からぬことをしないようにと予防策を施した。

 

 

 今はスイムスイムに変身を解除してもらっている。また、繰々姫の『何本ものリボンを自由自在に操る』魔法によるスイムスイムの拘束も解いている。万が一にも、理科準備室に縛られた水着の女の子がいると、学校の生徒に目撃されたくなかったからだ。

 

 幸い、先ほど妖精トコが『協力者から連絡があった。ちょっと話してくる』と言い残して理科準備室から屋上へと飛び立っていたため、スイムスイムの解放に反対する者はいなかった。

 

 

 ウェディンの魔法でスイムスイムを約束の枷で縛った今、スイムスイムを過剰に警戒しなくていい。ということで、ウェディンたちは己の魔法少女名や魔法をスイムスイムに紹介した。

 

 

(それにしても……)

 

 その後、ウェディンは改めてスイムスイムを見つめる。

 スイムスイムは以前から魔法少女活動を続けてきた先輩だ。アニメや漫画の魔法少女と、現実の魔法少女は何が違うのか。普段はどんな活動をしているのか。気になる。ウェディンの中の好奇心がみるみる膨らんでいく。

 

 

「ねぇスイムスイム。魔法少女って普段どんなことやってんの?」

 

 ウェディンが切り出すよりも先に、キャプテン・グレースがスイムスイムに問いかける。すかさずウェディンも「それは私も興味ありますね」と続ける。

 

 冒険とやらを求めて各所で衝動的に騒動を起こすキャプテン・グレースこと芝原海。

 常に己の利益を考えて理性的に立ち振る舞うウェディンこと結屋美祢。

 

 グレースと自分との相性は悪いと想定していたのだが、『魔法少女』という超常の存在に対する姿勢という1点では、グレースとウェディンは手を取り合えるようだ。

 

 

「大したことはやってない。ボランティアしてるだけ。迷子の子供を親まで連れていったり、酔っぱらいの人を介抱したり」

「悪い奴と戦ったりしないの? ほら、異世界からの侵略者みたいな?」

「人によってはあるのかもしれない。でも私は経験ない」

「えー、マジでただボランティアしてるだけなの? つまんねぇ」

 

 グレースが不満そうに口をとがらせる一方、ウェディンは嬉しかった。

 魔法少女モノとは、日常に魔法を持ち込むことがメインテーマだ。スイムスイムが語った日々の活動は、ウェディンが思い描く『魔法少女』の解釈と一致していた。

 

 

「そういえば、スイムスイムがどんな魔法を使えるか聞いてなかったよね?」

 

 グレースやウェディンが魔法少女の実態に興味を持っていた一方、ファニートリックはスイムスイムの魔法が気になっていたらしい。確かに聞いていなかった。

 

 

「私は『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を使える」

「どんなものにも?」

 

 スイムスイムが語った魔法の内容はウェディンに新たな疑問をもたらした。

 

 

「それって例えば、地面を潜ることはできますか?」

「できる」

「繰々姫のリボンの拘束を抜けることはできますか?」

「できる」

「じゃあ、どうして魔法を使って逃げようとしなかったんですか? 逃げようと思えば、私が約束であなたを縛る前に逃げられたはずでしょう?」

「みんなが悪い人には見えなくなってきたから」

「え」

「困っているのなら何か力になれないかなと思って。だからここに残ってる」

「あなたはキャプテン・グレースに襲われて、私たちに捕らえられて……なのに、私たちが悪人じゃなさそうだから協力したいって、そう思ったんですか?」

「うん」

「……」

 

 ウェディンは言葉を失っていた。

 

 スイムスイムのコスチュームだけ見れば、まるで魔法少女たりえない。ただの変態だ。

 しかしこの子の日々の活動内容といい、精神の高潔さといい、それらは間違いなく、ウェディンが好き好んできたアニメや漫画の魔法少女そのものだ。

 

 スイムスイムは清く正しく美しい魔法少女の鏡だ。

 そんなスイムスイムが今、ウェディンの魔法のせいで自由を奪われている。

 

 

「……スイムスイム。さっき私と交わした約束を覚えていますか?」

「あなたたちに危害を加えないこと。ウェディンの許可なく変身や変身解除しないこと」

「ええ。2つ目の約束を破棄します。これからはスイムスイムの自由意思で変身や変身解除を行うようにしてください」

「わかった、ありがとう」

「今の話はトコには内緒ですよ? バレたらうるさいので」

「気をつける」

 

 スイムスイムは高潔な魔法少女だ。素晴らしい魔法少女だ。今までのスイムスイムとの会話でそれがよくわかった。それでもウェディンは『自分たちに危害を加えないこと』という約束は破棄しなかった。

 

 『スイムスイムを縛る約束を全部取っ払ってしまいたい』と主張する感情優先派のウェディンと、『何であれ、我々に危害を加えないように縛る約束は残していて損はない』と主張する損得優先派のウェディン。ウェディンは後者の意見を採用した。

 

 美祢にとって損なことはやらない。美祢にとって得なことはやる。

 美祢の絶対的な行動指針。誰に何と言われようと頑なに変えなかった美祢の物差し。

 

 今日初めて、十数年付き合ってきたこの物差しを捨てたくなって。

 でも結局、物差しを捨てられなかった美祢のことが少し嫌いになった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇トコ(残り時間22時間29分)

 

 正直者が馬鹿を見る。

 魔法の国のマスコットキャラクター:妖精トコが気に入っている日本のことわざだ。

 

 これまでトコは素質がある者を見つけるや否や魔法少女の力を与えて、育ててきた。狡く、汚く、卑劣で、卑怯で、計算高い。そんなトコの理想の魔法少女を追い求めてきた。

 

 だが、魔法少女の素質があっても、トコの求める人間性を持った魔法少女には出会えなかった。お花畑な奴、夢見がちな奴、道徳倫理を手放せない奴、稚拙な悪事すらままならない不器用な奴。トコの理想は無茶苦茶ではないはずなのに、トコ的に不適格な魔法少女ばかりだった。

 

 トコの理想ではなくても、有能な者やトコに利益をもたらしてくれる者はとりあえず最後まで育てた。トコの理想ではないうえに、トコの邪魔にしかならない無能は育成を途中で放棄した。

 

 正直者が馬鹿を見るのがこの世界の真理だ。

 それがわかっていて、どうして世の人間どもは知恵を振り絞って、悪賢く立ち回ろうとしないのか。己の人生を充実させるためになぜベストを尽くさないのか。自分のために他人を蹴落とそうとしないのか。トコにはわからなかった。

 

 

 そんなある時、トコは相棒と出会った。2年前のことだ。

 相棒は幼少から姉に虐待され続けていた。姉からの虐待の回数を減らすために、姉を不機嫌にしないよう絶妙な立ち振る舞いを模索し続けていた。

 

 姉より優秀ではないが、姉に迷惑をかけたり恥をかかせたりするほど無能でもない。学校でも、近所付き合いでも、あらゆる場所で適切なポジションを維持するべく、相棒は己の日常を完全に演技に染めていた。

 

 

 見つけた。

 ついに見つけた。

 

 トコには不思議な確信があった。トコは相棒に魔法少女の力を与えた。相棒は姉を殺さないラインを見極めた復讐をして、姉と己の力関係を逆転させた。それから相棒は、トコの教えをどんどん吸収して成長していった。

 

 このまま育成すればトコの理想が、『ずる賢く、自分本位で、損得勘定に長け、常に優位な立ち回りをし、最終的には勝者の席を我が物とする』魔法少女が完成する。トコはいつになく舞い上がっていた。

 

 

 それがいけなかったのだろう。

 トコと相棒の悪事が魔法の国に露見した。

 

 トコと相棒は出資者から仕事を請け負い、こなしてきた。

 仕事の大半は魔法の国の関係者を暗殺する仕事だった。相棒は初めて人を殺した時こそ少し震えていた。けれど、数を重ねるごとに、標的ごとに最適解を導き出して最低限の労力で暗殺を完遂するようになった。

 

 相棒は成長途上にありながらとても優秀だった。だから油断していた。

 まさか相棒の暗殺現場にトコが居合わせていたことを探知されてしまうとは。

 

 

 トコの不始末で相棒が、トコの理想の魔法少女が終わってしまう。

 そんなことがあってはならない。

 

 トコは魔法の端末で出資者に助けを求めた。

 出資者は『まずは捜査班を叩きのめしてほしいにゃん。捜査班が機能停止になった隙に、別次元に隠れ家を持つ魔法少女を手引きするにゃん』とメールを返してきた。

 

 だからトコと相棒はB市で捜査班を待ち伏せして、撃退した。

 元々、いざという時のために、相棒の通う波山中学校で魔法少女の素養のある者を選定していたことが幸いした。捜査班はトコが作った即席魔法少女の数の多さに圧倒され、動揺し、最終的に逃走した。

 

 その騒動に乗じて、相棒が捜査班の1人をこっそり殺した。

 相棒はこんな時でも優秀で、出資者の望みをきっちり叶えた。

 

 

 だというのに。

 トコは先ほど理科準備室から屋上へと移動してから、出資者から届いたメールを確認した。その内容は、トコが望んだものからあまりに乖離していた。

 

 

 ――大変申し訳ないことに予定が変更されましたにゃん。

 

 そんな一文から始まった、出資者からの情報はとにかくふざけていて、トコと相棒を取り巻く状況が悪化の一途をたどっている現実を突きつけてくるものだった。

 

 曰く。魔法の国の外交部門がB市全域に真球の形状の結界を張ったこと。

 曰く。結界はあらゆる魔法的な要素を通さないこと。 

 曰く。魔法少女やマスコットキャラクターでは結界を脱出することはおろか、結界に触れ続けるだけで死に至ること。

 曰く。結界の効果は24時間であり、現時点で結界が作られてから1時間半が経過していること。

 曰く。外交部門は魔王パムを投入し、面子をかけてトコたちを潰そうとしていること。

 曰く、曰く。曰く。

 

 出資者からのメールは『結界が切れるまで逃げ切ってくれれば応援をよこすにゃん』との旨の内容で締めくくられていた。

 

 

 トコは怒りのままに魔法の端末を破壊したい衝動を抑え込み、改めて『にゃん』というウザったい語尾が多用されている、出資者のメールに目を通す。

 

 それから魔法の端末の電源を落とし、目をつぶって考え始める。

 これからどう動くのが最善か。捜査班を全員殺すか、24時間逃げ切るか。どっちにしたって容易なことではない。

 

 

 今回、トコが波山中学で集めた肉壁は計6つ。誰もが新米魔法少女(ニュービー)で頼りない。いくら魔法が強力でも、使い手がポンコツではどこまで役に立つか。

 

 かといって、新たに魔法少女を調達することもできない。

 そもそも魔法少女の素養のある人間の数は少ないし、素養のある人間を捜すべく動き回って、それで応援を組み込んで強化された新生捜査班と出くわしたんじゃ本末転倒だ。

 

 それに、運良く素養のある人間を見つけて魔法少女にしたところで、そいつも結局は新米魔法少女(ニュービー)だ。コストに見合った成果は得られない。

 

 トコと相棒はこれ以上、味方を増やせない。

 現状のカードでやりくりするしかない。

 

 

(あ、待って。そうだ忘れてた。あの変態がいるじゃん)

 

 仕事を求めて偶然B市を訪れたと主張する、コスチュームが白スクの変質者:魔法少女スイムスイム。もしも彼女が本当に捜査班の一員ではないのなら……利用できないか?

 

 スイムスイムは新米ではない。

 魔法少女を続けている期間の話ではない。スイムスイムは明らかに修羅場を経験している。長年、魔法少女を育成し続けてきたトコにはわかる。

 

 新米魔法少女(ニュービー)では鎧袖一触にされるだろうベテラン相手でも、スイムスイムならある程度はもつのではないか。

 

 捜査班だって応援を加えて戦力を強化したのだ。

 こちらだって追加の肉壁を手に入れて使いつぶしたって何ら問題ない。

 

 

 とにかく結界の効果が切れるまでの24時間。残り22時間半を凌ぎ切って、相棒と一緒にB市から逃げおおせる。そのためならいかなる手段だって厭わない。

 

 せっかく見つけた、最高の相棒だ。

 失ってたまるものか。

 

 

 トコは己の考えを整理した後、理科準備室の魔法少女たちへと合流するべく、屋上を飛び立つ。背中の羽でふわふわ浮遊しながら落下する最中、校舎の掛時計が目に入る。

 

 時計の針が示す時刻は、トコが魔法の端末の電源を落として今後の方針を考え始めた時から1分が経過していることを明示していた。あれだけ色々考えていたのに、たったの1分。

 

 時間の流れが異様に遅く感じる。

 トコに嫌がらせをしているのではないかと錯覚してしまうくらい、校舎の掛時計の秒針がスローモーションで動いているように思えて仕方がない。

 

 

「遠いなぁ……」

 

 トコはため息を零した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間18時間22分)

 

 

 ボクが魔法少女軍団にあえて投降し、彼女たちと行動を共にし始めてから数時間が経過した。ボクは今も変身を解除したままだ。ボクが相変わらずウェディンの管理下にあると妖精トコに示すことで、ボクが無害だとアピールするためだ。

 

 ところで現在、ボクを含む魔法少女軍団はB市の外れにある、キャプテン・グレースが所有する古いアパートに拠点を移している。

 

 

 拠点を移したきっかけは、屋上から理科準備室へと戻ってきたトコが魔法少女軍団に結界について話したことだった。

 

 少なくとも結界が解けるまでの間は、悪い魔法使いの一味の動向を警戒しなければならない。もう夜が近い中、いつまでも学校の理科準備室を拠点にするわけにもいかない。そこでキャプテン・グレースが自身の所有するアパートを提案したのだ。

 

 誰も住んでいないそのアパートは、奇抜な恰好をした魔法少女たちが身を潜めて、悪い魔法使いの一味への対策をじっくり考える場として非常に適しており、グレースの提案に否を唱える者はいなかった。

 

 そんなわけで拠点を変えてから、魔法少女軍団は悪い魔法使いの一味との決戦に備えて、思いつく限りの準備を始めた。己や仲間の魔法を知り、決戦に向けた作戦を考えて、必要そうな道具を各地から収集して。各自がそれぞれ準備を進めていった。

 

 ボクは魔法少女軍団の準備を手伝わなかった。いや手伝えなかった。ボクから準備に協力する旨を申し出ても、彼女たちの方から断られてしまったからだ。

 

 変身前の幼女な体格のボクに何かを手伝わせるのは気が引けたのか、それとも何だかんだ今も全然信用されていないのか。真相は定かではない。

 

 

 ボクは基本的にアパート内で待機するのみだった。が、暇にはならなかった。魔法少女たちが準備の合間を縫って、ボクに積極的にかかわってきてくれたからだ。

 

 ボクは魔法少女たちとの交流を積み重ねていった。

 たった数時間だが、それでも彼女たちの人となりは把握できてきた。

 

 

「スイムスイム、何か欲しい物ある?」

「グレース?」

「これから学校の校庭に私の魔法の海賊船を召喚して、良さげなアイテムを回収するの。ただ全部は持ち出せないかもだから、第一希望を聞かせてくれ」

「海賊旗」

「お、わかってるじゃん。引っぺがしてくるよ」

 

 キャプテン・グレースは腕白小僧をそのまま女子中学生にしたかのような人だった。自分を偽ることなくやりたいことを躊躇せずに実践するその様は、人を惹きつける何かがあった。

 

 

「ごめんなさい!」

「ファニートリック?」

「海ちゃ……あ、キャプテン・グレースがあなたをいきなり襲ったでしょ? それに私たちもあなたを捕まえて、連行して。怖い思いをいっぱいさせて。なのに私たち、全然謝ってないことに気づいて。本当に、本当にごめんなさい!」

「気にしないで。この界隈ならよくあることだから」

「よくあることなの……?」

 

 ファニートリックは魔法少女軍団の中で比較的、世の一般常識に近い感性を持つ女子中学生だった。ファニートリックを見つめていると、なぜか脳裏にシャドウゲールの顔が思い浮かんだ。

 

 

「あなたはどうして魔法少女になったの?」

「なりゆきで。あるいは運命とか、不運とか?」

「辞めようと思ったことはない?」

「私が魔法少女だからこそ、できた縁もあるから」

「友達が大事なのはそう、その通り。でもあなたはあんなに小さい子供なのに……」

「私は子供じゃない」

「だけど――」

「心配してくれてありがとう」

 

 繰々姫は教師の職業柄か、見た目が子供のボクが魔法少女として危険に身を投じる可能性を心配していた。とても良い大人という点で、繰々姫はディティック・ベル様と共通項があった。

 

 

「ヘンタイ」

「……」

「ヘンタイ」

「私のこと?」

「うむ」

「私は変態じゃない」

「みんなお前をそう呼んでた」

「それは誤解。私はスイムスイム」

「スイ…ムイ?」

「スイムでいいよ」

「ムイムイ」

「それでも良い」

「スイム」

「それでも良い。あなたの名前は?」

「メイはメイだ」

「よろしく、メイ」

「よろしく、ヘンタイ」

「?」

「?」

 

 テプセケメイはどこまでも不思議ちゃんだった。波山中学の理科準備室で飼っていたエジプト陸ガメが魔法少女になっただけあって、情緒が凄く独特だった。

 

 というか、陸ガメって。男を魔法少女:ラ・ピュセルにするだけじゃ飽き足らず、人間以外の生物を魔法少女にし始めるとか、まほいくシリーズってば見境なさすぎやしないか。

 

 

「ねね、スイムスイム。あなたは他の魔法少女に会ったことあるの?」

「ある」

「ホントに!? ねぇどんな魔法少女がいるの!? 教えて教えて」

「ケンタウルスの魔法少女がいた」

「「ケンタウルス!?」」

「他にも100メートル級の魔法少女もいた」

「へ、へぇ。そんな魔法少女もいるんだ。……世界は広いなぁ」

「か、香織ちゃん。やっぱり魔法少女やめようよ、怖いよ……」

 

 レイン・ポゥは未知に好奇心旺盛で、ポスタリィは未知を怖がっていた。ただ、ボクがあえて提示した奇抜な魔法少女に対する反応は、どこまでも等身大の女子中学生のそれだった。

 

 

「悪い魔法使いがこれから何をしでかすかわかったものじゃない。世界の危機なの。お願い、スイムスイム。あなたにも力を貸してほしい」

「良いよ」

「……え、良いの? そんなあっさり?」

「私は魔法少女だから。困った人は助けたい」

「ありがとう、スイムスイム! ほら、ウェディン。魔法魔法」

「トコ。あなたの猜疑心は筋金入りですね……。我々に危害を加えない。私の許可なしに変身も変身解除もさせない。すでにこれだけ縛っているのに、これ以上何を縛ると?」

 

 トコは何かもう露骨だった。

 ゲスさが隠しきれていない。そもそも隠そうとしているかも怪しい。

 

 トコからは、3年前のN市で魔法少女同士が殺し合いをした原因を生み出した電子妖精ファヴと同種のにおいがした。ただそれでも、ファヴと比べるとマシに思えてしまうのは、トコには愛らしい妖精の外見補整があるからだろうか。

 

 一方のウェディンはロジカルに物事を捉える性質のようだ。しかしそんな彼女はボクへの魔法を一部解除してくれたし、新しい約束を結んでくる気配がない。意外と情に脆い一面もあるのかもしれない。尤も、ウェディンの魔法はなぜかボクに通じていないのだけども。

 

 

 ということで、彼女たちの情報収集はかなり進められた。

 彼女たちの人間性の解像度はかなり上がった。

 

 

(……で、この中に凶悪犯いるってマ??)

 

 魔法少女育成計画がライトノベルであるという関係上、彼女たちは個性の主張が強めだ。でもみんな良い人に見える。なお、トコは除く。

 

 トコは黒でいい。一般人を一気に魔法少女にして早速、凶悪犯を捕まえにやってきた捜査班を『悪い魔法使いの一味』と偽って戦わせているのだ。この時点でアウトだ。

 

 ただトコは凶悪犯側であって、凶悪犯ではない。

 トコ自身は15センチ程度の小柄な妖精であり、彼女に戦闘能力が備わっているような印象はない。

 

 だから、魔法少女軍団の中に凶悪犯がいるはずなんだけど……。本当に? 信じられないんだけど。ここで彼女たちの誰かがいきなり『楽しかったぜェ! お前らとの友情ごっこォ~!!』って豹変し始めたら思考停止する自信あるよ?

 

 

 凶悪犯の正体はまるでわからない。でも、情報収集としては十分だろう。

 そろそろこのコミュニティから抜け出して他から、特に捜査班陣営から情報収集しても良い頃合いだ。何ならちょっとここに長居しすぎたまである。

 

 あとはどういう理由付けでこの魔法少女軍団と別行動をとり始めるかだ。

 ただ抜け出すだけなら魔法少女の身体能力を使えば簡単だ。だけど、せっかく数時間を費やして魔法少女軍団と交流して、大なり小なり彼女たちから得られた好感を棒に振るのはもったいない。当たり障りのない理由を残して離れたい。

 

 アパートの屋上でウェディンとテプセケメイが何やら話している。ウェディンに理由を言い残してから去ろう。ウェディンならきっと、ボクの語る理由に納得したなら特に引き止めずに見送ってくれるだろうし。

 

 ボクはアパートの屋上の扉を開け――ようとして。

 強烈に嫌な予感に襲われた。ボクは魔法少女に変身してから、改めて扉を開ける。

 

 

 屋上には2人の人物がいた。

 ウェディンとテプセケメイの組み合わせではない。

 

 1人はウェディン。

 彼女は屋上で仰向けに倒れていた。大の字のポーズで、ウェディングドレス衣装の各所を黒い杭のようなもので打ちつけられており、それはもうわかりやすく拘束されていた。

 

 もう1人は。

 

 

「え……?」

 

 ボクを見つめて、困惑の声を漏らしたもう1人は。

 隻眼隻腕で、赤い襟巻を首に巻いていて、手裏剣型の髪留めで結った漆黒の髪が揺らめいていて。そんな、忍者風の装束の見目麗しい魔法少女だった。

 

 

 アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?

 

 ……うん。ボクはこの人を知っている。リップルだ。

 3年前。N市で勃発した魔法少女同士の殺し合いの場で、スイムスイムは多くの魔法少女を殺したキルリーダーだった。スイムスイムが殺害した1人には、リップルの相棒だったトップスピードも含まれていた。

 

 リップルは復讐を果たすためスイムスイムと交戦し、左目と左腕を失いながらもスイムスイムの殺害に成功した。ボクがスイムスイムに憑依する前の出来事だ。

 

 ところで。リップルがここにいて、ウェディンを拘束したってことは、あなたは捜査班の一員ってことだよね? 現場のリップルさん的に、スイムスイムがあなたの目の前にいるという状況はいかがでしょうか……?

 

 

「おお、いいところに来てくれました! ちょうど忍者に奇襲されてピンチだったんです! 汚いなさすが忍者きたない! なのでまずはどうかこの囚われの姫モードの私を助けてください、スイムスイム!」

 

 ボクが戦々恐々としている中、ウェディンがパァァと目を輝かせてボクに助けを求めてくる。

 

 

(ウェディンしゃん!??)

 

 ボクへの救援要請はいいんだけど、せめてボクの名前は呼ばないでほしかった!

 これじゃあ『死人が生き返るわけないじゃん、他人の空似っしょ。ボク、スイムスイム違う』説をごり押すことすらできない。

 

 

「ッ!!」

 

 ほらぁ! 『まさか。本当に?』って言わんばかりにリップルの瞳が大きく見開かれているじゃん! ボクを凝視するリップルの眼光がどんどん鋭くなっていくじゃん! ふぇぇ!

 

 

「早く私に救いの手を――ぴぇ!?」

 

 ボクに助けを求め続けるウェディンが悲鳴を零す。ボクへと視線を注ぐ中で、ついリップルの恐ろしい形相が視界に入ってしまったからだろう。

 

 

「どうしてお前が生きている!? スイムスイム!」

 

 リップルはボクとの距離を詰めると、怒声を轟かせる。

 

 

「…………」

 

 さて、状況はとことん最悪です。

 スノーホワイトの時とは違って、そもそも話が通じる気がしない。逃げるにしたってリップルの方がボクより素早いのは確実だし、リップルはスイムスイム殺害の有識者だ。これは、今度こそ終わったかな??

 

 

 だれかたすけて(フェレンゲルシュターデン現象)

 

 




次回 第22話
『ボクは誓って殺しはやってません』
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