その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム 作:超天才清楚系病弱魔法少女
問22.リップルの失った左腕にサイコガンを装着してもらうよう説得せよ。この時、サイコガンの装着期間は一時的でも構わないものとする。
◇リップル(残り時間18時間20分)
その日、リップルは魔法の国の人事部門所属:
魔法少女が魔法の国で出世し、権力を得るためには、日々の魔法少女としてのボランティア活動をいくら重ねても意味がない。いくつかクリアすべき条件がある。その内の1つが7753の研修を受けることだった。
7753の魔法のゴーグルを前に隠し事はできない。7753がゴーグルを使って研修相手のあらゆる情報を収集して魔法の国の人事部門に提出し、それが魔法少女の出世の判断基準に使われるのだ。
リップルは魔法の国なんて嫌いだ。そもそも魔法の国なんてものがなければ、N市で魔法少女同士が殺し合うことも、お人好しのトップスピードが死ぬこともなかった。
しかしリップルは魔法の国を滅ぼしたいわけではなく、出世を望む理由があった。7753に見られて困る秘密もない。研修はリップルの望むところだった。
だがリップルがB市を訪れてしばらくして、状況が急変した。
『B市に暗殺犯が潜んでいる。監査部門の捜査班が暗殺犯を捕まえようとしたが、暗殺犯側が想定外の戦力を有していたため撤退を余儀なくされた。死者も発生している。近隣の魔法少女は捜査班の協力をするように』との有無を言わさぬ命令を魔法の端末で受け取った。
リップルは命令通り、捜査班に合流した。出世を望む以上、命令への反抗的な態度は控えるべきだ。それに暗殺犯を捕まえるという荒事はリップル向きだ。ここで活躍できれば、リップルの査定に好影響となるはずだ。
捜査班はリップルを含めた計5名で再編された。
監査部門の捜査班班長:魔法使い『マナ』。
同じく監査部門の捜査班メンバー:兎耳の魔法少女『下克上羽菜』。
人事部門からの助っ人:ゴーグルに学ラン姿の魔法少女『7753』。
外交部門からの助っ人:黒いドレスコートの魔法少女『魔王パム』。
そして野良魔法少女『リップル』の5人だ。
1種類の魔法しか使えない魔法少女とは違い、魔法使いゆえに、マナは『呪文と儀式で様々な魔法を使う』ことができる。また、マナは魔法の国の道具を数多くB市に持ち込んでいる。
その内の1つ、『探し人の大まかな方向がわかる』魔法の杖を使って、リップルたちは市内を車で移動し続けた。そうしてリップルたちは暗殺犯+想定外の勢力たちの拠点を突き止めた。そこは居住者のいないボロアパートだった。
リップルたちは奇襲を仕掛けることにした。
魔王パムは上空から、下克上羽菜はアパートの入口から、リップルはアパートの屋上から。三方向から一気に攻め入り、制圧する。捜査班の中で比較的戦闘能力の低いマナと7753はアパートから少し離れた路上で、車の中で待機する。そういう役割分担となった。
リップルは屋上に降り立ち、ウェディングドレス姿の魔法少女をクナイで拘束し、無力化した。それから次の相手を捜そうとして――リップルは悪夢と再会した。
白い水着姿の魔法少女:スイムスイム。
リップルの相棒にして、唯一の友達だったトップスピードを殺した仇敵と再会した。
3年前、リップルはスイムスイムを殺したはずだった。
スイムスイムとの死闘の末。リップルは視界も定かではない中、それでもスイムスイムをスタングレネードで気絶させた。
そして。気を失い変身を解除したスイムスイムの体を、リップルは何度も何度も刃物で突き刺した。人体を直接突き刺した時の、あのまとわりつくような感触を忘れるはずがない。
そのはずだった。
なのにスイムスイムが今、リップルの視界の先にいる。
ウェディングドレスの魔法少女も確かに奴を『スイムスイム』と呼んだ。
「どうしてお前が生きている!? スイムスイム!」
「…………」
気づけばリップルはスイムスイムとの距離を詰めて声を荒らげていた。
スイムスイムは沈黙を保っている。
リップルの脳裏に、事前にマナから共有してもらった暗殺犯の情報がよみがえる。
魔法の国の関係者ばかりを暗殺する正体不明の凶悪犯。凶器は巨大な刃物。『人買い』との悪名高いマスコットキャラクター:トコと結託している。
(……こいつが暗殺犯なのか?)
あぁ、それはすごく合点がいく。納得できる。こいつならそれくらいやってのける。N市で多くの魔法少女を平然と殺してみせた、この女なら。
それに。暗殺犯側が有していた想定外の魔法少女軍団の外見的特徴についてマナが提示した際、
マナたち捜査班は一度、魔法少女軍団と交戦し、撤退を強いられている。その時、捜査班メンバーが1人殺されている。その時、最も捜査班を殺しやすいのは、マナたちの前に姿を現さず潜伏していたスイムスイムなのではないか。
3年前、実はスイムスイムは死んでいなかったのか。
それとも誰かがスイムスイムを生き返らせたのか。
真実は定かではない。
だが、こいつは間違いなく――暗殺犯の有力候補だ。
「なぜ生きているか。私にもわからない」
「はぁ?」
(こいつ、とぼけるつもりか?)
スイムスイムはリップルに返答するや否や、アパートの屋上から下の階へと潜り込む。リップルは屋上を飛び降り、階下の窓を蹴破って部屋に侵入する。
天井から部屋に着地したスイムスイムは近くの黒い布をつかんでリップルに投げつける。白い髑髏マークが刻まれた海賊旗らしきものを、リップルはクナイで切り刻み、スイムスイムはさらに床へ潜る。
リップルは再び窓から地上へ飛び降りる。窓越しに、アパート内のスイムスイムが床へ、地面の下へと潜っていく様子を視認する。リップルはB市の中心の方へ移動し、近場の電柱の上に着地する。
スイムスイムの弱点は光と音。
だから3年前、リップルはスイムスイムを殺す際にスタングレネードを使った。
しかし残念ながら、今のリップルの手持ちの武器はコスチュームに付属している手裏剣とクナイだけだ。スイムスイムへの有効打がない。
だからといって、スイムスイムを逃がすわけにはいかない。
ここでスイムスイムを逃がせば、さらなる犠牲者が生まれるかもしれない。魔法少女だけでなく、無辜の人々もスイムスイムの凶刃に倒れるかもしれない。
幸い、スイムスイムはリップルから逃げようとしている。
スイムスイムにダメージを与える手段をリップルが持ち合わせていないことに気づいていない。
ならば、この状況を利用する。
現在、B市はあらゆる魔法的な存在を通さない結界に覆われている。この結界にスイムスイムをぶつけて気絶させる。それしかない。
リップルは五感を研ぎ澄ませる。
今のリップルに必要なのはスイムスイムに関する情報だけだ。それ以外はすべてシャットアウトし、集中する。
スイムスイムは『どんなものにも水みたいに潜る』ことができる。だが、あくまで潜水魔法だ。いつまでも地中を泳ぎ続けられるわけではない。どこかで必ず地上に顔を出す。
リップルがアパートからB市の中心方向の電柱の上に移動したことは、地中のスイムスイムも視認しているはず。リップルから逃げたいのなら、よりB市の外れを目指して泳ぐだろう。
「ぷはっ」
リップルの耳が、アパートから離れた田んぼで顔を出して息継ぎしているスイムスイムのわずかな呼吸音を捉える。リップルは電線を駆けてスイムスイムの下へと急行し、リップルの接近に気づいたスイムスイムが地中に潜り始める。
リップルが鬼となり、逃げるスイムスイムを追いかける展開がしばらく続いた。
スイムスイムを結界へと誘導する。途中まではリップルの思惑通りだった。しかし、スイムスイムが泳ぐ方向を変えてきた。リップルから逃げる方針は変えていないようだが、決して結界に触れないよう、B市から離れすぎないように逃げ先を変えている。
リップルの思惑に気づかれたか。
それとも己の身を害する結界を察知したのか。
いずれにせよ結界を使えないとなると、もはやリップルにできることはない。
スイムスイムを逃がさないよう追跡は続けるが、応援を――。
「
スイムスイムが呼吸のために地上に顔を出した瞬間。漆黒のドームがスイムスイムを含んだ半径数メートルをすっぽりと覆い、ドーム内部が激しい光に包まれた。
それは、漆黒のドームを隔てた外から観測しているリップルですら、まぶしさについ目をすがめるほどに強烈で暴力的な光だった。
役目を終えたらしい漆黒のドームがみるみる小さくなり、羽となって宙へひらひら飛んでいく。地上では1人の女の子が倒れていた。スイムスイムの変身前の姿だ。気を失っている。
「攻めあぐねているようだったのでな。割り込ませてもらった」
リップルがスイムスイムへと近づくと、眼前に1人の魔法少女が音を立てずに着地した。
魔王パム。外交部門からの応援として捜査班に加わった魔法少女だ。
「余計だったか?」
「いえ……助かりました」
それにしても。今の魔王パムは数時間前にカラオケボックスのフロントで話した時とまるで印象が違う。おっとりとしたおばあちゃんみたいな雰囲気を彼方へと放り投げ、歴戦の軍人の雰囲気を放っている。
「そいつの身柄は任せる」
「あなたは?」
「捕まえそこねた奴がいる。空中を自由に飛び回る、アラビアの踊り子の見た目をした奴だ。私は行く」
魔王パムは飛び立った。魔王パムは『四枚の黒くて大きな羽で戦う』魔法を使えると聞き及んでいた。だが、さっきの漆黒のドームや暴力的な光が『羽』で発現させた事象だとするなら、何でもありにもほどがある。彼女が敵じゃなくて本当に良かった。
「……」
リップルは気を失っているスイムスイムを見下ろす。奇しくも3年前と同じ構図だ。変身していないスイムスイムにリップルの攻撃を防ぐ手段はない。ここでリップルがクナイを突き刺せば、スイムスイムは死ぬ。
どうしてスイムスイムがここにいるのかはわからない。
でも、目の前にスイムスイムが現れたのなら。私は、何度だって。
リップルはスイムスイムの心臓めがけてクナイを投じようとして。
「ッ!」
リップルは目を見開き、その場にクナイを落とした。
自分が今、何のためにここにいるかを思い出したからだ。
リップルは魔法の国で出世がしたかった。
なぜ出世したかったかといえば、権力を手に入れたかったからだ。
なぜ権力を手に入れたかったかといえば、少しでもスノーホワイトの力になりたかったからだ。
スノーホワイトは魔法少女狩りと異名をつけられようと構わずに、悪い魔法少女を捕まえるために無茶を続けている。今でこそスノーホワイトの行いは魔法の国に黙認されているが、スノーホワイトの立場が今後ずっと保障されるとは限らない。
スノーホワイトの安全を少しでも確保できるように。
スノーホワイトが望んだことを誰にも邪魔されずに叶えられるように。
リップルはスノーホワイトをフォローできるだけの立場が欲しいのだ。
だから出世に必須と聞いた7753の研修を受けるため、B市にやってきた。
だから魔法の国の命令に素直に従い、リップルは外様ながら捜査班に加わっている。
今回、捜査班に求められていることは暗殺犯の捕縛だ。
暗殺犯の殺害じゃない。
スイムスイムは暗殺犯の有力候補だ。
だからこそ殺せない。リップルが暗殺犯を口封じに殺したと捉えられてしまうと、班長マナの命に背き、独断行動をした魔法少女として、リップルの評価は下がる。出世の道は遠ざかる。
リップルの私的な感情と、スノーホワイト。
どちらを優先すべきか。そんなものは決まりきっている。
どんなに憎くても、どんなに殺したくても。
少なくとも今はスイムスイムを殺してはダメだ。
リップルはつい舌打ちをしていた。
魔法少女にふさわしくない舌打ちはもう二度としない心積もりだったのに、スイムスイムのせいで台無しだ。
リップルは荒れ狂う感情を理性でどうにか抑え込みながら、スイムスイムを小脇に抱えて駆け出した。
◇◇◇
◇7753(残り時間18時間04分)
もしも半日前の世界に戻れたのなら。
過去の自分に働きかけることができたなら。
ぜひとも伝えてやりたい。
声を大にして言ってやりたい。
吞気にB市の美容室の予約なんかしてないで、B市のホテルで真昼間から惰眠をむさぼってないで、今すぐ市外へ逃げろと。
いつでも7753は絶賛募集中だ。
来たれ、集え。過去改変系統の魔法少女。
――なんて、頭の中でぐるぐると無駄な思考を垂れ流しているのが今の7753だ。
だが、この世は無情だ。決して7753に優しくしてはくれない。7753に迫りくる悲劇を避けるためには、思考放棄せずに両の眼で現実と向き合わないといけない。
本来ならB市でリップルに研修を受けてもらうだけだったのに。
何が悲しくて結界でB市に閉じ込められなければいけないのか。
何が悲しくて暗殺犯を捕まえる捜査班に、荒事が不得手な7753が加わらないといけないのか。
人事部門の魔法少女として捜査班に加わるよう命じやがった上司に思うところはたくさんある。さりとて上司には逆らえない。7753は魔法の国からの給与で生計を立てている専業魔法少女だからだ。
下手に上司に逆らってクビになってしまえば、魔法の力を奪われ、魔法に関する記憶を奪われてしまう。そうなれば最後、7753は技能ゼロ経験ゼロ職歴ゼロの
7753は魔法少女という職業と心中するしかない。
上司にどれだけ無理難題を言われても断ることはできない。
だれかたすけて(青息吐息)
下克上羽菜、魔王パム、リップルの3名が、アパートを拠点にした暗殺犯たちを三方向から奇襲してからしばらくして、リップルが1人の女の子を抱えて7753とマナの下へ帰ってきた。7753とマナは移動手段の車を路上駐車したまま、路地裏でリップルを出迎えた。
リップル曰く、その女の子:スイムスイムは3年前に多くの魔法少女を殺したことがあるとのこと。小脇に抱えていたスイムスイムを雑に地面に落として、『こいつが暗殺犯の可能性が高い』と息まくリップルは非常に気が立っていた。これまで荒事が不得手な7753を気遣ってくれていたリップルはどこにもいない。ピリピリしていて、とても怖い。
「おい」
マナが7753に振り向く。7753の魔法でスイムスイムを調べろ、とのことだろう。相変わらずマナは7753に刺々しい。7753は内心で嘆息しつつ、『相手の能力がわかる魔法のゴーグル』で優先して調べたいステータスを設定し始める。
「ん……」
と、ここで。アスファルトに転がるスイムスイムが身じろぎをした。
スイムスイムがおもむろに体を起こし、目をこする。
「変身しようとしたら殺す。馬鹿な真似はするなよ?」
「……うん」
スイムスイムは付近をきょろきょろと見渡し、即座に放り投げられたマナの脅しを真正面から受けて、コクリとうなずいた。
今の挙措を見る限りだと、ただの幼い女の子にしか見えない。でもリップルが妄言を吐いているようにも見えない。7753のゴーグルではっきりさせるしかないようだ。ゴーグルの設定を終えた7753は、ゴーグル越しにスイムスイムを観察した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
・本名
助けて、スイムちゃん。
・年齢
私を見つけて、綾名ちゃん。
・性別
ぷかぷかただよい。
くるくるまわって。
さらさらこぼれて。
ますますほどける。
・プロフィール
とろとろに体が溶けていく。
もう考えもまとまらない。
だめなのかな、私。死にたくないよ。
ちからが入らない。私は、私は……。
・ステータス
破壊力 :その調子♡
耐久力 :いっぱい経験して♡
敏捷性 :いっぱい人を救って♡
知性 :いっぱい成長して♡
自己主張 :私のことも助けてね♡
野望/欲望 :ねぇ♡
魔法のポテンシャル:待ってるよ♡
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ぴぃ!?」
なんだこれは。なんだこの異様な内容は。
7753の背筋に悪寒が走り、我ながらあまりに情けない声が口から漏れ出てしまった。
「どうした?」
「あ、いえ、その――あ、足に蜘蛛がいてつい……」
「その程度で妙な声を上げるな、情けない奴め。さっさと調べろノロマ」
「ひゃい!」
マナが7753を睨みつけてくる。リップルからも無言の圧力を感じる。
まるでマナが2人に増えたかのようだ。胃がキリキリする。
7753はゴーグルで観測したスイムスイムの基本情報をマナたちに共有しなかった。
7753のゴーグルは、7753の許可なく上司に無理やり改造されており、その都度上司のメッセージがゴーグルに表示される仕様になっている。そこに『今のスイムスイムの奇妙な情報は他言無用』と新規メッセージが届いていたからだ。
7753は調べたいステータスの設定を変える。どうやらスイムスイムの情報すべてがおかしくなっているわけではないようで、7753は心の奥底でホッと息を吐いた。スイムスイムが暗殺犯かをはっきりさせるために、7753はスイムスイムの『殺した人の数』を確認する。
「……この子は暗殺犯じゃないと思います」
「なぜだ?」
「だってこの子、『殺した人の数』が『0人』だって――」
「そんなわけがあるかッ!!」
マナの問いに7753が回答している最中、リップルが激昂した。
周囲の空気がビリビリと振動し、7753は思わず身をすくめる。
「こいつは、こいつは――トップスピードを殺した! 私は確かにこの目で見たんだ! 嘘を吐くな、7753!」
リップルは怒っているようでいて、同時に泣いているようにも見えた。
でも、だからって7753にどうしろというのか。リップルに気を遣って『リップルさんの言うとおり、この子は10人殺してます』だなんて虚偽の報告をすることには何の意味もない。
「もしかしたら」
7753が困り果てていると、スイムスイムが声を上げた。
「3年前、私はリップルに殺された。そして最近生き返った。……もしかしたら、よみがえる前と後とで、私は別人判定なのかも」
スイムスイムが一度死んでいる?
それから生き返っている?
謎は増えたが、7753は謎を一旦無視してゴーグルを操作した。スイムスイムの『ご飯を食べた回数』や『瞬きをした回数』を調べた。
示された数値は、スイムスイムの仮説を立証していた。小学校低学年程度の年齢に見えるスイムスイムが普通に生活しただけではまず示されない、あまりに少ない値だ。
と、ここで7753のゴーグルに情報の洪水が押し寄せてきた。上司から送られてきた大量の情報に7753は目を通し始めて――己の目を疑った。それくらい信じがたい内容がゴーグルにつらつらと表示されていた。
「じ、人事部門の上司から私宛のメールが届いていることに今気づきました。大変なことになってます」
それから7753は上司の指示を確認し、震え声ながらマナたちへ情報提供を開始した。
魔法の国の反体制組織の一員:トットポップの手引きにより魔法少女監獄から、封印刑に処されていた魔法少女3名が脱獄した。
脱獄したのは以下の3名。
1人目は、占い師風の魔法少女:ピティ・フレデリカ。対象の髪の毛があれば、対象がどこにいようとも監視・接触できる魔法を使える。
2人目は、剣士風の魔法少女:プキン。斬った相手に錯覚を与える魔法の剣で極めてレベルの高い精神操作を行える。
3人目は、つぎはぎだらけの服の魔法少女:ソニア・ビーン。触れるものを朽ちさせる、攻防一体の魔法を使える。
そんな脱獄者3名とトットポップがなぜかB市に潜入した。目的は不明。
だが、これがただの偶然のはずがない。必ず意図がある。現在、連中はピティ・フレデリカが率いているとのこと。
封印刑は魔法の国で最も重い刑罰だ。滅多なことでは魔法少女は封印刑とならない。
ピティ・フレデリカたちは『滅多なこと』に該当するほど危険な魔法少女たちだ。そんな極悪犯罪集団を放置すれば、人間社会に甚大な被害を与えてしまう。
一刻も早く、暗殺犯よりも優先して、B市の結界が解除される前に、ピティ・フレデリカたちを無力化しなければならない。場合によっては、殺さなければならない。
「まずは下克上羽菜さん、魔王パムさんと合流しましょう。2人がいれば、フレデリカ一派が相手でも対処できます」
「わかっている! ……くそッ、羽菜に連絡がつかん!」
「……パムさんにも連絡できません」
「フレデリカ一派が連絡手段を封じる細工をしているようですね」
7753が示した方針を受けてマナが下克上羽菜に、リップルが魔王パムに魔法の端末で連絡しようとするも、通じない。7753は魔法の端末が使えなくなった理由を上司から教えられるがままに口にする。
2人は無事なのだろうか。まさかもう、殺されただなんてことは。
7753は脳裏をよぎった不吉な想像を首をぶんぶん左右に振って消し去る。
その後、7753は上司からの追加の指示を確認し、一瞬固まった。
これを、これを言わなければならないのか? 7753は大いに躊躇したが、それでもありったけの勇気をかき集めて言葉に出した。クビになりたくなければ、7753はどこまでも上司の操り人形に徹しなければならない。
「それと、これからはスイムスイムさんにも協力してもらいましょう」
7753の発言にリップルが固まった。
リップルが「……何を、言っている?」と、信じられないものを見るような視線で7753を突き刺してくる。いっそリップルから逃げてしまいたくなる気持ちを、7753はどうにかこらえた。
「先ほどのスイムスイムさんの仮説は正しいと思います」
「スイムスイムさんの『ご飯を食べた回数』や『瞬きをした回数』は、赤ちゃんから真っ当に生きてきた人間にしては、あまりに少ないですから」
「それなら、スイムスイムさんは生き返ってからは誰も殺していないことになります」
「それに『トコと会話した回数』もたった4回です」
「トコとつながりのある暗殺犯の会話回数とは考えられません」
「昔はともかく今のスイムスイムさんは信用できる方だと、私が証明します」
「当初と状況はずいぶんと変わり、敵は暗殺犯だけではなくなりました」
「協力者は1人でも多い方が良いです」
「スイムスイムさんにも協力してもらいましょう、マナさん」
7753の提言に、マナは黙して考え込む。リップルは何かを言いたそうにパクパクと口を動かしている。右手が強く強く握り込まれており、手のひらから血が流れている。
「――色々と教えてくれてありがとう、7753」
沈黙を破ったのはスイムスイムだった。
「あなたたちに協力はする。でも、私は1人で動く」
「え」
スイムスイムの言葉に7753は目を丸くする。
脱獄者はトップクラスの戦闘能力を有する魔法少女だ。特にプキンとソニア・ビーンは130年前のイギリスで大暴れし、千を越える屍を積み上げてきた怪物だ。そんな怪物といつどこで出くわすかわからない中で単独行動するだなんて、あまりに危険だ。
「私は『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を使える。魔法少女に変身している限り、私にプキンの魔法の剣は通じない。1人で行動して、もしもフレデリカたちに捕まっても、あなたたちの情報を漏らすことはない。私の単独行動にリスクはない」
「ですが!」
「私がいるせいでリップルの調子を崩してしまうのは本意じゃない」
「スイムスイムさん……」
「7753、心配してくれてありがとう」
7753はどうにかしてスイムスイムを引き留めようとして、上司から『スイムスイムの好きにさせろ』との指示が下る。7753は黙った。ここでスイムスイムを引き留めなかったせいでスイムスイムは死ぬかもしれないのに。7753はあくまで上司に逆らわなかった。
スイムスイムは己が7753たち捜査班に協力する意思の証明として、暗殺犯側が有する魔法少女軍団について、各魔法少女の名前や魔法等を共有する。それから7753たちに背中を見せて、テクテクと歩き出し――途中で振り返った。
「リップル。この一件が終わったら、いつでも殺しに来ていいよ」
スイムスイムはリップルにそう言い残して去っていく。
リップルはスイムスイムの背中をずっと凝視していた。
次回 第23話
『殺してでもうばいとる』