その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問23.『相手の能力がわかる魔法のゴーグル』を使う度、7753(ななこさん)に「ステータス、オープン!」と言わせる方法を述べよ。ただし、上司から7753に圧力をかけてはならないものとする。



第23話 殺してでもうばいとる

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間17時間38分)

 

 

【速報】ボク氏、なんか生きのびる【生きたぜ…ぬるりと……】

 

 

 B市に潜伏した魔法少女の凶悪犯。

 これを捕まえる目的を持つ捜査班メンバーの下から立ち去ったボクは魔法少女に変身した後、入り組んだ路地をテクテク突き進み、ポリバケツの陰に身を隠す。

 

 落ち着いて思考を整理したかったからだ。

 時刻は22時半頃。大分、人通りは減ったとはいえ、通行人はちらほら存在する。そんな彼ら彼女らに白スク姿のボクを見られるのは非常によろしくない。ボクに露出癖はないし、騒ぎになれば『敵』に気づかれかねない。

 

 

 それにしても、我ながらよく生き残ったものだ。

 

 アパートの屋上でリップルとエンカウントしてしまって。

 案の定リップルがブチ切れているようだったから全力逃走して。

 ちゃんと地面を潜水しているはずなのに当然のようにリップルに追跡されて。

 息継ぎをしようと地上に顔を出したタイミングでなぜか視界がいきなり真っ白になって。

 『目がぁぁぁああああーーーー!!』と叫ぶことすらできずに気絶して。

 目を覚ましたら、おでこが特徴的な子(マナ)に『変身しようとしたら殺す』って脅されて。

 

 でも、なんか生きている。

 九死に一生を得るとはこのことか。

 

 ボクが五体満足のまま今を迎えられているのは、7753のおかげだ。

 察するに、7753は『ステータス、オープン!』魔法の使い手だ。生き返ってからのボクが悪事を働いていないことを7753が証明してくれたおかげで、ボクは自由を取り戻せている。こうして思考を巡らせることができている。

 

 ただ復活したボクが潔白だとなると、ボクが宿る前のスイムスイムに相棒を殺されたリップルの気持ちのやり場がなくなってしまうわけで。

 

 血が出るまで右手を強く握るリップルの姿を見ていていたたまれない気持ちになって、つい『殺しに来ていい』とまで言ったのはマズかっただろうか。ボクは死にたくないけど、でもリップルに落ち度はないしぃ……。うー! 心がつらいよぉ!

 

 

 ……ところで、どこまでボクのことが7753にバレたのだろうか。

 実はボクの中身が18歳男子だってことまで知られてしまったのだろうか。

 

 そういえば7753、ゴーグルでボクのステータスを確認していた時に「ぴぃ!?」って悲鳴を上げてたよね? てことは『うわ!? え、中身が18歳の男!? きもっ!?』って思われていても何ら不思議じゃないわけで。……何か泣きたくなってきた。これ以上考えるのはよそう。

 

 

 とにかく。想定していた流れとはずいぶん違ったが、当初のもくろみどおり、捜査班陣営から情報を得ることはできた。特に、現時点でB市に存在する魔法少女の数を知れたのが非常に大きい。

 

 

 ――B市には現在、17名の魔法少女が存在する。

 

 まず、妖精トコによって魔法少女にさせられた波山中学校組。キャプテン・グレース、ファニートリック、ウェディン、レイン・ポゥ、ポスタリィ、繰々姫、テプセケメイ。これが7人。なお、7人の中には演技中の暗殺犯が含まれる。

 

 次に、捜査班。マナ、リップル、7753。それとまだ名前しか聞いていないけど、下克上羽菜、魔王パム。これが5人。

 

 そして、脱獄犯一派。魔法の国で最も重い刑罰を受けて監獄で封印されていたらしい、ピティ・フレデリカ、プキン、ソニア・ビーン。彼女らの脱獄を手引きしたトットポップ。これが4人。

 

 最後に、無職陣営。詐欺の仕事募集にまんまと釣られてB市にやってきたボク、スイムスイム。これらを合計すると、17人になる。

 

 

 3年前にスイムスイムがキルリーダーをやってた第1部では、N市で総勢16人の魔法少女が凄惨な殺し合いを行った。

 

 ついこの前、ゲームの世界に囚われた第2部では、本来なら死んでいるはずのボクを除くと、総勢16人の魔法少女が命の危険に脅かされながらのゲーム攻略を強いられた。

 

 そして今回はB市を舞台にした第3部の可能性が高く、実際に今、これまたボクを除くと総勢16人の魔法少女がそろっている。

 

 役者がそろったものと判断していいはずだ。

 仮にもっと登場人物が増えたところで1人か2人が精々だろう。

 

 つまりここらで情報収集フェイズは切り上げて、熟考フェイズに移るべきだ。

 どうやって悲劇を防ぐかについて、ボクの方針を決めるべき時だ。

 

 

――味方を見極めろ。敵を見極めろ。そして、敵は迷わず殺せ。それができなければ君は悲劇を防げない。守りたいと思った者の命をすべて取りこぼすことになる。

 

 プフレの忠告はちゃんと覚えている。

 一通り情報を得られた今なら、敵味方の見極めは容易だ。敵とは脱獄犯一派の4人。そして妖精トコと波山中学校組に潜む暗殺犯。味方はそれ以外の全員。これでいいはずだ。

 まさかここから敵味方が切り替わるどんでん返しはあるまい。

 

 ボクが脱獄犯一派をどうにかできるのならそれが一番いい。

 だが、今回の敵は比類なき強さを持っていそうだ。ボク1人がどうこうできる次元ではない。

 

 とすると、ボクがやるべきなのは波山中学校組と捜査班とを引き合わせることだろうか。

 

 波山中学校組や捜査班の下克上羽菜・魔王パムと接触し、まずは脱獄犯一派に対処する方向で一時的に共闘してもらうように立ち回る。アリな方針だ。

 

 他にできることは――。

 

 

「……?」

 

 ふと。ボクは思考の海から現実世界へと帰還し、顔を上げる。

 理由はない。ただ、嫌な予感がしたからだ。

 

 ボクの視界の先で。一台の車が止まる。ボンネットが凹んでいる。

 そこからぞろぞろと4人が車を降りてくる。ポップスターのステージ衣装姿の美少女。占い師風の美少女。剣士風の美少女。つぎはぎだらけの服の美少女。

 

 明らかに魔法少女だ。

 それにあのコスチュームは、ついさっき7753が教えてくれた情報と合致する。彼女たちは脱獄犯一派だ。

 

 いやいやいや、待って超待って。

 いきなりボスラッシュは聞いてない。

 

 

 ボクは息を殺して彼女たちから距離を取ろうとして――目が合った。

 好奇の眼差し。喜色の眼差し。いずれもボクを下等生物とみなしての眼差しだ。

 

 

 あばばばばばば!?

 だれかたすけて!?(!!ああっと!!)

 

 ボクは内心で慌てふためきながらも、どうにか心を落ち着かせようとする。

 幸い、彼我の距離はある。まだ終わったわけじゃない。まだあわてるような時間じゃない。まずは平静を取り戻す。そこから考えればまだ打開できるはずだ。

 

 ま、まぁ? ボクは第2部で犠牲者を減らした超天才だし?

 超天才のボクにかかれば、この程度のピンチを切り抜けるくらい余裕だから。この灰色の脳細胞で運命を切り開いてみせるッ!

 

 

『おやおや、これは幸先が良い。閣下、あちらに魔法少女がおりますよ? 彼女から暗殺者のことを聞き出せるかもしれません』

『ふむ、腹ごなしにちょうど良さそうな手合いだな』

『あれってつまり、露出狂じゃなくて白スクがコスチュームってことだよね? 良いね、こだわりを感じるね、とってもロックね』

 

 ボクは窮地を切り抜ける策を閃くために、まずはピティ・フレデリカ、プキン、トットポップの発言から少しでも手がかりを得るべく耳を澄まして……澄まして……。

 

 

「……」

 

 

【悲報】超天才ボク、英語を聞き取れない【超天才の姿か? これが…】

 

 

 こいつら全員、英語で話してるやんけ!

 そっか。7753の話じゃ、プキンとソニア・ビーンはイギリスの大悪党なんだっけ? そりゃあ2人は日本語を話せないよね。そんなプキン&ソニア・ビーンと一緒に行動するんだから、ピティ・フレデリカ&トットポップも英語で会話するよね。うんうん。

 

 あのー。仮にも夢と希望にあふれる魔法の世界って建前なんだから、魔法少女ボディに言語の自動翻訳機能くらい搭載してくれたっていいんじゃないのかな、魔法の国さん!

 

 

 脱獄犯一派の会話から何も得られないんじゃ、もう一か八かで逃げるしかない。

 ボクは脱獄犯一派から目を離さないようにしつつ後ろに跳んで距離を稼ぐ。

 

 

『閣下、追われないのですか?』

『ソニアに譲ることにした。あれを大層気に入ったらしい』

 

 脱獄犯一派がボクを追ってくる気配がない。

 ボクを捕まえるつもりがないのか。距離を離そうと関係なくボクを捕まえる手段があるのか。確かに、ピティ・フレデリカは『対象の髪の毛があれば、対象がどこにいようとも監視・接触できる』魔法を使えるらしいが、ボクの髪の毛は盗られていないはず――。

 

 

(えッ!?)

 

 脱獄犯一派から目を離したつもりはなかった。

 なのに。いつの間にか、ボクの目の前に1人の少女が立っていた。

 

 

『きらきらきれい。お姫さまみたい』

 

 つぎはぎだらけの服の魔法少女、ソニア・ビーン。

 ソニアが開きっぱなしの瞳孔でボクを見つめて、英語で語りかけてくる。

 

 

『それ、きれいなお洋服(べべ)ね。ちょうだい?』

 

 ん? 洋服(クローズ)? ちょうだい(ギブミー)

 こいつまさか、ボクの白スクをひっぺがすつもりか!?

 

 嘘でしょ!? バカなの!? 死ぬの!?

 エッチなのはダメ! 死刑!

 

 

 ソニアが両手を広げてボクに飛びかかってくる。ボクは『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で背後のブロック壁を潜って反対側に抜け出す。

 

 ソニアがボクを追ってブロック壁に突っ込むと同時にブロック壁がボロボロに崩れ去る。ソニアの両手から黒い靄のような何か(モザイク?)が漏れ出ている。

 

 これがソニアの『触れるものを朽ちさせる』魔法か。ボクもソニアの魔法を喰らえばきっと、いや間違いなくブロック壁と同様に壊れてしまうのだろう。

 

 

 ボクはソニアに背を向けて渾身の逃走を始める。次々と建物の壁を抜けていく。ソニアは建物を破壊しながら、ボクを見失うことなく追跡してくる。ボクよりもソニアの方が足が速い。このままだとソニアの黒い靄にボクの体が当たってしまう。

 

 ソニア・ビーンの雰囲気は、無邪気な子供だ。無邪気なままにどんな残酷なことだってやってみせる、そんな印象だ。それなら、意外と対話の余地はあるかもしれない。ボクの話術でソニアから逃げる時間を稼ぐくらいはできるかもしれない。

 

 なぜかわからないが、脱獄犯一派の他の3人がボクを追う気配がない。

 ソニアさえ丸め込めれば、ボクは逃げおおせられる。

 

 

「ソニア、ストップ」

「?」

「ノー、モザイク」

「?」

「マジカルガールストーリー、モザイク、ノーグッド。オッケー?」

「うー? ……イェス!」

 

 ボクの拙い英語にソニアは立ち止まり、唇に人差し指を当ててコテンと首を傾げる。その後、ソニアの中で結論が決まったらしく、ソニアは笑顔でボクにうなずき、今までよりはるかにどす黒い靄を両手から放出し始めた。

 

 違う、そうじゃない!

 黒海苔もダメ! 結局同じだから! ボクがソニアの攻撃に当たったら、エロ展開もハードゴア展開もありえる状況が何も変わってないからぁ!

 

 残念ながらソニアを言葉で退けることはできなさそうだ。加えて、魔法少女の性能に大きく差があるとなれば、陸上で逃げ続けていても意味がない。

 

 ボクは地中に潜る。地中からソニアの動きを確認し――。

 

 

(ふぇ!?)

 

 ソニアが地面に両手をついて塵に変えて、地中へその身を落とす。着地して、眼前の土壁を塵へと変えながらボク目がけて突進してくる。ソニアの足取りに迷いはなく、ボクの居場所へと的確に突き進んでくる。

 

 リップルといいソニアといい、なんで地面を潜るボクの居場所を当たり前のように特定できてしまうのか。強者は魔法少女の位置を気配で察知できて当然とでもいうのか。

 

 

 泳ぐ速度と走る速度とは雲泥の差がある。

 水泳のクロール100メートル世界記録と、陸上の短距離走100メートル世界記録を比較すれば明らかだ。泳ぐよりも走る方が断然速い。

 

 直線方向に泳ぐだけでは追いつかれる。

 ボクはフェイントを混ぜて地中で泳ぐ方向を変えるも、ソニアは引っかからない。距離がどんどん詰められていく。ボクとソニアとを隔てる土壁の距離がどんどん縮まっていく。

 

 

 地上で逃げてもダメ。

 地中で逃げてもダメ。

 

 ボクは地中で泳いで逃げることを諦めて地上へと到達する。走って、走って。でもボクのすぐ背後にはソニアがいる。地面に潜ったって、隣の建物の壁に潜ったって。ソニアを撒ける気がしない。もう、いつソニアの手がボクの体に触れたっておかしくない。

 

 そもそも、稀代の大悪党に一般18歳男子が対抗するというのが無茶な話だったのだろう。『悲劇を防ぎたい』だなんてプフレに伝えておきながら、ボクはここで終わる。何も為せずにここで終わる。

 

 ソニアが嬉々としてボクへと手を伸ばしてくる。

 ボクにソニアの手を避ける術はない。

 

 

 だれかたすけて(わりい、ボク死んだ)

 

 

 

「――ッ!?」

 

 しかし。ソニアの手が、致命の一撃がボクに届くことはなかった。

 突如としてボクの体が何者かにより抱えられたからだ。ボクを抱えた何者かは軽やかな跳躍を繰り返し、マンションの屋上に着地する。

 

 

「……スイムスイム」

 

 ボクを助けたその人は。

 

 

「お前は私の仇だ。お前は私が殺す。何回復活しようと、その度に私が殺しなおす。だから……」

 

 隻眼隻腕が特徴的で。

 露出が多めの忍装束が似合っている。

 

 

「私の知らない所で勝手に死ぬなんて許さない」

 

 そんな人だった。

 

 

 

 

 ツ、ツツツツンデレだぁぁぁあああああああ!! リップル万歳!! リップルわっしょい!! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 ボクは心の中でスタンディングオベーションした。

 いっぱい拍手喝采した。

 

 

 ◇◇◇

 

◇リップル(残り時間17時間28分)

 

 

 結局、リップルは己の行動に明確な理由を見つけられていない。

 

 どうしてリップルは、『1人で動く』と言い残して去っていったスイムスイムを、後から追い始めたのか。どうしてリップルは窮地のスイムスイムを助けたのか。

 

 仇敵がどんな形で命を散らそうと、リップルには関係ないはずなのに。いっそ無惨に死んでくれた方が望ましいはずなのに。

 

 気づけば体が勝手に動いていた。リップルがソニア・ビーンに殺される可能性もあった中、それでもスイムスイムを救出していた。

 

 一体なぜなのか、リップルには一向にわからない。

 自分のことなのに、自分のことがまるでわからなくなっている。

 

 

「死ぬかと思った。ありがとう、リップル」

「礼はいらない」

 

 それもこれもスイムスイムの様子がおかしいせいだ。

 リップルのせいじゃない。

 

 3年前のスイムスイムはもっと自分本位だった。

 自己中心的で、己の望みのために多くの魔法少女を殺す奴だった。

 

 でも、今日出会ったスイムスイムは自分本位のスタンスとはかけ離れている印象だった。

 実際、リップルがマナ・7753の下にスイムスイムを連行した時、スイムスイムが要所要所で差し込んできた発言を思い返してみると、どれもリップルを気遣っているように感じられた。

 

 どうしてスイムスイムの言動がこうも様変わりしているのか。1回リップルに殺されたことで、なにか心境に変化でもあったのか。

 

 わからない。

 リップル自身のことも、スイムスイムのことも、何もかもがわからない。

 

 でも体は勝手に動いていた。勝手にスイムスイムを助けていた。

 つまりリップルの本能的には、このスイムスイムにまだ死んでほしくないわけだ。ならば今は、スイムスイムを生かすことに全力を尽くす。細かいことは後回しだ。

 

 

 リップルはスイムスイムを小脇に抱えてビルの屋上を転々と移動する。ソニアは地上からリップルを追い続けている。爛々とした眼差しはリップルではなく、ずっとスイムスイムの体へと注がれている。

 

 

「スイムスイム」

「なに?」

「なんでソニア・ビーンにあんなに執着されてるの?」

「私の水着がほしいみたい」

「……ごめん、聞こえなかった。もう1回お願い」

「私の水着がほしいみたい?」

「……」

 

 リップルの聞き間違いではなかったようだ。

 全くもって意味不明だ。どうしてわざわざスイムスイムの水着を欲しがるのか。封印刑に処されるレベルの問題児なだけあって、思考回路からして理解に苦しむ。

 

 

「リップル」

「なに?」

「今、ソニアは1人で私たちを追っている。殺すなら今だと思う」

「……殺す気なの?」

「殺さずにどうにかできる相手とは思えない。ソニアは危ない。カラミティ・メアリの100倍危ない」

「それは……」

 

 3年前。リップルが相棒トップスピードと協力して殺した魔法少女がいた。

 カラミティ・メアリ。リップルという気に入らない奴をおびき寄せて殺すために、走行中の車を次々と狙撃して大規模な交通事故を発生させつつ、一般市民を銃撃するような『クズな悪党』だった。

 

 リップルは地上のソニアに視線を移す。ソニアはリップルを追うための最短経路を選んでいる。経路上に車があれば、街路樹があれば、建物があれば、すべて塵にする。スイムスイムの水着(?)を目当てに突き進んでいる。

 

 幸い、ソニアの暴走で死者は発生していないようだ。が、これは時間の問題だ。運悪くソニアの経路上に人がいれば、その人は間違いなく殺される。『カラミティ・メアリの100倍危ない』というのも誇張ではなさそうだ。

 

 

 人的被害を未然に防ぐのなら確かに殺すしかない。

 ソニアが単独行動している今がチャンスというのももっともだ。

 

 だが。ソニアを殺すとして、どうすれば殺せるのか。

 リップルの『手裏剣を投げれば百発百中』の魔法やスイムスイムの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法では、ソニアの『触れるものを朽ちさせる』魔法を攻略できるとは思えない。

 

 

「もしも私を信じて、私に命を預けてくれるのなら――策がある」

「スイムスイム?」

「これでダメだったら逃げよう」

 

 リップルに抱えられたままのスイムスイムが、リップルをジッと見上げてくる。今のリップルはスイムスイムを生かすべくソニアから逃走している。けれど、スイムスイムを信じられるかどうかはまた別の話だ。

 

 リップルは。

 リップルは。

 

 

「怪しい真似をしたらわかっているな?」

「うん」

 

 しばしの逡巡の末、スイムスイムの策に乗る意思を示した。

 

 

「地上に飛び込んで」

 

 逃走のフィールドを建物の屋上から地上に移せば、よりソニアに接敵されるリスクが増す。が、策に乗っておいて今さらスイムスイムを疑うつもりはない。スイムスイムの指示に従い、リップルはビルの屋上から地上へと飛び降り始める。

 

 

「私を離して」

 

 言われるがまま、抱えていたスイムスイムを解放する。

 スイムスイムは何をするつもりなのか。リップルは改めてスイムスイムに視線を向けて――目を丸くした。スイムスイムが水着を脱いでいる。

 

 え、なんで??

 なんでいきなり裸に???

 

 

「行くよ、リップル」

 

 どこへ???

 

 スイムスイムのコスチュームである白いスクール水着がひらひらと宙を舞う中。一糸まとわぬ姿となったスイムスイムは、混乱の渦中にいるリップルに背中から抱き着き、そのままリップルと一緒に地中にダイブした。

 

 スイムスイムはリップルに抱き着いたまましばし地中を泳いだ後、リップルに顔を向けてパクパクと口を動かし始める。

 

 ――クナイ、真上に投げて。

 ――ここにソニアがいる。

 

 スイムスイムの口の動きから言葉を読み取って、そこで初めてリップルはスイムスイムの意図を理解できた。おかげでリップルは落ち着きを取り戻すことができた。

 

 

 ソニア・ビーンの『触れるものを朽ちさせる』魔法は強烈だ。

 大概の障害物はソニアの前では障害物の役目を果たせずに塵と化すだけだ。

 

 だが、ソニアの魔法は常時発動型ではない。ソニアが望むことで魔法が発動する。

 もしもソニアの魔法が常時発動型で出力の調整すらできないのであれば、ソニアには魔法少女になった瞬間からひたすら地面を壊して墜死する未来しか存在しなかっただろう。

 

 言い換えれば、ソニアの魔法は完全無敵バリアではなく穴があるということだ。

 

 

 そして、ソニアは手を起点として魔法を発動させている。

 少なくとも、足の裏を起点として魔法を使ってはいない。

 

 だからスイムスイムはリップルと一緒に地中に潜った。脱いで空中に放り捨てた水着をソニアの位置を固定させるための仕掛けとして利用し、ソニアの真下に潜水し、リップルの百発百中の魔法で奇襲してもらおうとしている。

 

 

 リップルはコスチュームのクナイを地上に向けて投げ始める。

 リップルの手から離れたクナイはスイムスイムの魔法の適用外となり、地上にたどり着くことなく地中で止まる。しかしリップルのクナイ投擲の勢いは地中に影響を及ぼしている。幾ばくか地中を掘削している。これならいつかはクナイは地上に届く。

 

 投げる。投げる。とにかくひたすらクナイを地上へと投げ続ける。

 魔法少女の武器には、制限なく使い続けられるものがある。リップルの場合、クナイと手裏剣はいくら投げても即座にコスチュームに補充される。いくら投げたって問題ない。

 

 リップルが魔法少女の力を存分に使って放つクナイは次々と地上に向けて掘削を続け、はたしてクナイの群れは地上に到達した。

 

 

「あがッ!?」

 

 クナイの群れが生み出した大穴により、リップルの視界が開かれる。見上げれば、ソニアがひらひらと舞い降りる水着に手を伸ばした状態で、幾多のクナイで串刺しに貫かれていた。

 

 ソニアがギョロリと血走った眼でリップルとスイムスイムを見下ろしてくる。

 リップルたちの奇襲は成功した。が、ソニアを殺すには至らなかった。

 

 

「作戦失敗、逃げるよ」

 

 スイムスイムがリップルと一緒に付近の壁に潜る。

 

 

『待てぇぇえええええええ!!』

 

 口元から鮮血を零しながら、ソニアが吼えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)(残り17時間20分)

 

 ソニア・ビーンの殺害に失敗したボクとリップルはその後、逃走に徹した。まずは地上を目指してボクが泳ぎ、地上にたどり着いてからはリップルにボクを抱えて逃げてもらった。

 

 ソニアに手傷を負わせたことでソニアの動きは少しばかり鈍くなっていた。

 おかげで、リップルの足でソニアを完全に撒くことに成功した。

 

 しっかし、ダメだったか。ボクの策。結構良いアイディアだと思ってたんだけど、そう簡単にジャイアントキリングはさせてもらえないか。

 

 

「リップルはこれからどうするの?」

「捜査班と合流する。勝手に離れてしまったから、まずは無事を報告しにいく」

「リップルが良いなら、私も捜査班と合流したい。さすがに1人は無茶だった」

「……わかった、一緒に戻ろう」

 

 リップルは忍者らしく機敏な動きで夜のB市を跳び回る。捜査班の合流ポイントへと向かっているのだろう。そんな折、リップルがボクに意味深な眼差しを向けてきた。

 

 

「ところで……」

「?」

「いつまで裸でいるつもり?」

 

 あ、そうだった。忘れてた。

 

 

「……」

「……」

 

 ボクたちの間で、ぎこちない沈黙が続く。リップルに小脇に抱えられたまま、ボクは一度変身を解除して、再度魔法少女に変身して、白スクをまといなおした。

 

 

「……」

「……」

 

 あのー、リップルさん。何か話してくれません?

 気まずいんですけど? 恥ずかしいんですけど?? ねぇ?

 

 

 だれかたすけて(恥ずか死)

 

 




次回 第24話
『浮遊感与えちゃったかな』
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