その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

24 / 48

問24.道端でうっかり野生のソニア・ビーンとエンカウントしてしまった際、生存確率を高く見積もれる言動を提示せよ。ただしこの時、ソニアは珍しく単独行動しており、ソニアのそばにプキンがいないものとする。



第24話 浮遊感与えちゃったかな

 

下克上羽菜(げこくじょうはな)(残り時間17時間28分)

 

 下克上羽菜は魔法の国の監査部門に所属している魔法少女だ。

 監査部門は日々、魔法の国関係者の犯罪を取り締まる活動をしている。羽菜は監査部門の一員として、これまでそこそこの実績を残してきた。小物から大物まで、様々な犯罪者を捕まえてきた。

 

 だが、そんな羽菜の実力を見込まれて、B市に潜む暗殺犯を捕まえる捜査班の一員に抜擢されたわけではない。今回、羽菜は自ら捜査班に志願した。

 マナが捜査班の班長に、責任者に抜擢されたと知ったからだ。

 

 

 羽菜とマナは知己の仲だ。

 マナと知り合ったきっかけは下克上羽菜が正式な魔法少女になった時だ。当時の試験官がマナの父親であり、父親に気に入られた羽菜はまもなく、マナたち魔法使い一家と懇意な間柄となった。

 

 魔法使いの大半は、はるか太古より魔法とともに生きてきたとの自負があるらしく、それゆえここ数百年前から台頭してきた魔法少女を嫌っている。『所詮は紛い物のくせに、さも己も魔法使いの一員なのだと勘違いして増長している』というのが魔法使いたちの言い分だ。

 

 でも、マナたちは違った。羽菜を魔法少女としてではなく、一個人として見てくれた。羽菜が困っている時に便宜を図ってくれた。だからこそ、羽菜は監査部門で順当に職務を全うできている。

 

 

 そんな折、マナがB市に潜む暗殺犯を捕まえる捜査班の責任者に選ばれたことを知った。

 

 今回の相手は、これまで幾多の魔法の国関係者を血に沈めてきた極悪人だ。しかも人材育成の腕が確かな妖精トコが育て上げたであろう魔法少女。間違いなく強者だ。

 

 まだ3回しか捜査の経験のないマナには少しばかり荷が重いのではないかと心配し、それゆえ羽菜は捜査班に志願した。

 

 羽菜はマナを勝手に実の妹のように思っている。

 マナが傷つき倒れるような事態を防ぎたかったのだ。

 

 

 羽菜の予想は当たっていた。

 今回の敵は一筋縄ではいかなかった。

 

 羽菜たち捜査班は一度、妖精トコを追い詰めたものの、そこでトコが隠し持っていた魔法少女軍団に襲われたことにより、撤退を余儀なくされた。その際に、捜査班の1人が惨殺されてしまった。暗殺犯は、羽菜がこれまで相対したどの犯罪者よりはるかに狡猾だった。

 

 結果、捜査班はマナと羽菜の他に、外交部門の魔王パム、人事部門の7753、無所属のリップルを加えて立て直すこととなった。そうして誕生した新生捜査班は、トコ一派が拠点にしていた古いアパートを見つけ出し、三方向から一斉に奇襲した。

 

 

 奇襲作戦は成功した、と思う。

 

 羽菜はリボンの魔法少女と交戦し、気絶させて回収した。羽菜はアパートの屋上で、リップルがクナイで磔にしていたらしいウェディングドレスの魔法少女を回収した。2人とも両手両足を魔法のロープできちんと縛っているので自力で羽菜から逃げることは困難だ。

 

 2人とも言動からして暗殺犯ではなさそうだが、まずはマナと7753の下へ連れていく。

 そして2人から事情を知る。2人が素直に話そうとも、嘘を吐こうとも、黙秘を貫こうとも、7753の魔法のゴーグルがあれば真実を明らかにできる。

 

 それに、2人の身柄は暗殺犯側との交渉が必要となった時に使えるかもしれない。少なくとも羽菜個人で考えれば、奇襲作戦は成功したと断言していい。

 

 

 奇襲作戦が成功したと胸を張って言えない理由は、捜査班と合流できないからだ。

 マナと7753が待機していたはずの場所には移動手段の車だけが残されていた。魔法の端末で連絡しようにも、繋がらない。魔法の端末が不調なのか、何か火急の事態の渦中なのか。マナ・7753・魔王パム・リップル。誰に連絡しても応答してくれない。

 

 みんなの動向がわからない。みんなは無事なのか。

 魔王パムを心配するのはさすがにおこがましい。リップルも並の魔法少女では相手にならない程度の実力を備えている。2人は大丈夫だ。

 

 心配なのは戦闘素人の7753、そして魔法使いのマナだ。

 魔法少女と魔法使いは身体能力に圧倒的な格差がある。マナは魔法少女と戦うための手段を持ち合わせているが、長期戦には向かない。

 

 もしもマナたちがトコ一派の魔法少女に襲われていたら? マナが殺されていたら? ありえない話ではない。実際、捜査班は既に1人、殺されている。

 

 

「あぁ、何だか酔ってきました。気分が悪いです」

「あなたも私と繰々姫を両脇に抱え続けて疲れたでしょう? 腕が痺れてきたんじゃないですか? ちょっとここらで休憩しませんか? 一旦、私たちを降ろしてほしいです」

「……無視ですかそうですか。知りませんよ? 私が耐えきれなくなって吐いても。私だってあなたの素敵な着物を嘔吐物で汚したくなんてないんですけどね」

「というか、私のコスチュームを見てくださいよ。ウェディングドレスですよ? 花嫁に対する扱いがなっていないのでは? いくらなんでも雑すぎます」

「あなたが気絶させた繰々姫なんて名前からして『姫』がついているんだから、もっと丁重に扱ってくれないと困ります。お姫様抱っこ、お姫様抱っこを要求します」

「これも無視ですか。はぁぁこれだからマナーのなっていない魔法少女は――」

 

 ウェディングドレスの魔法少女がしきりに話しかけてくるのを完全にスルーしながら、羽菜は緊急時の集合場所を目的地に定めて移動し始める。

 

 ウェディングドレスの魔法少女は言葉で干渉するタイプの魔法を使えるのだろう。羽菜がうかつに魔法の条件を満たしてしまえば、ウェディングドレスの彼女との力関係が逆転しかねない。この手の魔法少女は無視するに限る。

 

 

 羽菜は民家の屋根を転々と跳んでいく。次の民家の屋根に向かって軽やかに跳躍して――背後に気配を感じて目線だけ後ろに向ける。

 

 そこにはペンがあった。ペンには純白の両翼が生えており、高速でウェディングドレスの魔法少女へと向かっていく。

 

 明らかに魔法の効果だ。トコ一派の誰かの魔法だ。ペンを蹴り落とすべきか。羽菜は蹴りを放とうとして、今度は上空から気配を感じて視線を空へと移す。

 

 

「見つけた」

 

 そこにはアラビアの踊り子コスチュームの魔法少女がふよふよと浮かんでいた。踊り子は感情を読み取れない眼差しで羽菜を見下ろしている。彼女は右手で白く大きな布のような物を持っている。巨大なカーテンのような何かだ。

 

 あの翼の生えたペンは追尾魔法の類いだったのだろう。

 結果、ペンは羽菜が抱えるウェディングドレスの魔法少女の下までたどり着き、ペンに導かれるままに援軍が姿を現した。

 

 

「テプセケメイ!」

 

 ウェディングドレスの魔法少女が喜色に富んだ声で彼女の名を呼ぶ中、羽菜の肌が前方からの風を察知する。刹那。羽菜の体に、まるで壁にぶつかったかのような衝撃が襲いかかった。

 

 

「ぐッ!?」

 

 空中を跳んでいる最中の不意の一撃に、羽菜は思わず苦悶の声を漏らす。謎の攻撃により、羽菜の飛翔速度が殺される。本来到達予定だった民家の屋根にたどり着けずに、羽菜は地面に向けて落下を開始する。

 

 

「兎耳を見たらこれで包む」

 

 アラビアの踊り子が瞬時に巨大になり、白く大きな布の両端をつかんで、地面へと落下中の羽菜を包み込もうとする。何かをしようとしている。

 

 アラビアの踊り子の行為を妨害しようにも羽菜は空を飛べない。ウェディングドレスの魔法少女はともかく、気絶中のリボンの魔法少女を手放すわけにはいかない。落下中の羽菜は為す術なく、白く大きな布に包まれるしかなかった。

 

 

「え」

 

 瞬間、羽菜の両腕から魔法少女2人分の重みが消える。見ると、ウェディングドレスの魔法少女もリボンの魔法少女も消え失せていた。代わりに、重力に従って落下しようとする2つの空き缶があった。

 

 羽菜は地面に着地し、白く大きな布を振り払う。

 空を見上げてもアラビアの踊り子はいない。してやられたか。

 

 おそらく使われたのは物と物を瞬間的に入れ替える魔法だ。羽菜を白くて大きな布で包んだのは、魔法を発動させるために必要だったからだ。

 

 

 だが、まだだ。諦めるにはまだ早い。

 羽菜は『感覚をものすごく鋭くできる』魔法を発動する。対象は自身の視覚と聴覚だ。

 

 直後、羽菜は四方八方から響き渡る雑多な生活音を意図的にシャットアウトし、空へと意識を集中させる。わずかな風切り音を頼りに、はるか上空を飛行するアラビアの踊り子を捕捉する。

 

 続けて、羽菜はアラビアの踊り子の向かう先へと意識を集中させる。羽菜から遠く離れた、5階建てのビルの屋上。そこに複数人の魔法少女がいることを捕捉する。

 

 海賊、ステージマジシャン、虹色衣装、郵便配達人。さっきまで羽菜が両脇に抱えていたはずのウェディングドレスとリボンの魔法少女もいる。妖精トコもいる。勢ぞろいだ。トコ以外は気が緩んでいるように見受けられる。

 

 

「ほら。手足のロープは切ったわよ」

「ありがとうございます、キャプテン・グレース。自由とは良いものですね。ファニートリックもありがとうございます。あなたの魔法で私と繰々姫を助けてくれたんですよね?」

「うん。役に立てて良かったよ」

「あれ? 私、どうして……」

「目覚めたんですね、繰々姫。良かったです」

 

 海賊はウェディングドレスとリボンの魔法少女の体を縛るロープをカトラスで斬る。ウェディングドレスは海賊とステージマジシャンにお礼を告げつつ、リボンの魔法少女が意識を取り戻したことに安堵の笑みを零す。

 

 

「先輩。スイムスイムがどこに行ったか、知りませんか?」

「あ。そういえば、スイムスイムは忍者に襲われて逃げてましたね。無事だと良いのですが……」

 

 虹色衣装の魔法少女からの質問に、ウェディングドレスの魔法少女が憂慮の表情を浮かべる。予期せぬタイミングで舞い込んできた新たな情報に、羽菜はわずかに目を見開く。

 

 トコが保持する魔法少女軍団は、暗殺犯を含めた計7人だと思っていた。が、ここにきて『スイムスイム』という8人目の存在が示唆された。一体トコはどこまで戦力を隠し持っているのか。底が知れない。

 

 

「そこ、いつまでも駄弁ってない。テプセケメイが戻ってきたらすぐ撤収するわよ」

「メイを呼んだ?」

「よし、来たわね。それじゃあ――」

「――逃がさないよ」

 

 何にせよ、トコ一派の居場所を特定できた以上、羽菜が彼女たちを見逃す理由はどこにもない。羽菜は速やかに移動し、トコ一派が集まる屋上に到着する。

 

 

「ホントに追ってきたよ、執念深いんだから。この子たち全員を相手にして勝てると本気で思ってるの?」

「そりゃあ厳しいのはわかってるよ。でも何の成果もなしに帰るわけにもいかないんですよ。うちの班長に花を持たせたいんでね」

 

 海賊を筆頭に、魔法少女たちが次々と臨戦態勢をとる一方、トコが羽菜に勝気な笑みで問いかけてくる。羽菜は軽口を返しつつ、いつどこから攻撃が来ても対応できるよう、魔法で己の五感を強化する。

 

 

「あんたたちは手を出すんじゃないわよ。あいつとは1対1で戦う」

「はぁ!? 何を言ってるの!? せっかく人数で優位を確保しているのに、なんでわざわざ投げ捨てようとするの!?」

「あたしの冒険譚に強敵とのタイマンは欠かせないからよ」

 

 海賊はトコの反対を聞き入れず、ぎらついた瞳を羽菜にぶつけてくる。羽菜としても海賊が1人で戦闘に挑んでくるのなら非常にありがたい。海賊はトコ一派の精神的支柱だと推測しているからだ。海賊を完膚なきまでに倒せば、戦意喪失する者もいるだろう。

 

 羽菜は海賊をじっと見据えて――悪寒が背筋を走った。

 眼前の海賊が原因ではない。羽菜たちが集結しているビルとは異なるビルの屋上。そこから濃厚な死の気配を感じ取ったのだ。

 

 羽菜が視線を向ける。そこには3人の魔法少女がいた。

 ポップスター。占い師。剣士。

 

 特に剣士からおぞましい気配が漏れ出ている。剣士の足元で無数の血まみれの人間が呪詛と怨嗟の声をまき散らしているような錯覚が羽菜を襲う。

 

 

『面白そうな余興をしているじゃないか。せっかくだから我輩たちも途中参加させてもらおう。盛り上げてやるから涙を流して感謝するといい』

 

 剣士は澄んだ声で、流麗な英語で羽菜たちに語りかけた。

 

 

 ◇◇◇

 

◇ポスタリィ(残り時間17時間21分)

 

 友達とは枷だ。友情とは呪いだ。

 今日ほどそれを思い知らされた日はない。

 

 

 ポスタリィこと酒己達子(さかきたつこ)は波山中学に入学するまで、『友達』という概念とてんで縁がなかった。

 

 達子の臆病で引っ込み思案な性格が悪いのか。間が悪いのか。運に見放されているのか。友達を作る機会にまるで恵まれなかった。

 

 友達への憧れはあった。

 けれど友達ができないならそれはそれで良かった。

 

 クラスメイトを傍からこっそり観察した時、友人関係というのは面倒そうだとの印象を受けた。談笑1つとっても、相手を不機嫌にさせない話題選びやリアクションが必要だ。友達を作り、維持するには非常に高度な技術が要求される。達子には真似できそうにない。

 

 人には向き不向きがある。達子と『友達』は相性がすこぶる悪い。

 だから。達子の平穏な日々が侵されさえしなければ、いじめられさえしなければ、友達がいなくとも問題なかった。

 

 友達がいない生徒はいじめの標的に選ばれやすい。ゆえに達子は学校生活で浮かないように、クラスメイト達から嫌われないように、細心の注意を払ってきた。

 

 

 だが、友達のいない達子の当たり前の日常は、波山中学への入学を契機として終わりを迎えた。入学してからしばらくして、達子の何を気に入ったのか、レイン・ポゥこと三香織(にのつぎかおり)が達子に話しかけてくるようになったからだ。

 

 達子は積極性の権化の香織を拒否できず、いつの間にか香織と友達になっていた。香織の友達グループの中に達子も参加するようになり、あれだけ縁がないと思っていた友人関係を経験するようになっていた。

 

 友達と青春を過ごす。

 ごく一般的な中学生の当たり前を、達子は香織のおかげで手にすることができた。

 

 友達と一緒に過ごす日々は、達子が想像していたほど難しいことじゃなかった。面倒なのは確かだけど、とても楽しかった。

 

 でも今は、香織との友人関係が達子の障害となっている。

 

 

 魔法少女にワクワクしたのは、達子が見目麗しい姿に変身できた最初だけだった。

 悪い魔法使いの一味を路上で迎え撃って、スイムスイムを捕まえて。その頃にはもう、魔法少女を辞めたい気持ちが少しずつ蓄積し始めていた。

 

 魔法の世界は、夢と希望にあふれたファンタジーな世界ではなく、暴力がひしめく野蛮な世界だとわかってきたからだ。

 

 

 達子は魔法少女なんて辞めてしまいたい。

 それでも今もぐずぐずと魔法少女を続けているのは、レイン・ポゥが原因だ。

 

 ポスタリィは2人で会話できるタイミングを見つけては、レイン・ポゥに魔法少女を辞めないかと提案した。しかし、レイン・ポゥの回答は変わらなかった。

 

 魔法少女に憧れていたから。普通に生きていたら絶対になれないから。強くてカッコよくてかわいい、もう1人の自分を手放したくないから。だから、魔法少女の力を恒久的に得られる機会を逃したくないというのがレイン・ポゥの回答だった。

 

 達子に友達はいなかった。友達なんてただの幻想だった。そう思い込んで、向こう見ずな無謀者なんて投げ捨てて、魔法少女を辞めることだってできるはずだ。でもポスタリィは今も魔法少女を続けている。

 

 向こう見ずな友達が魔法少女を続けたがっているからだ。

 中学生になってようやく得られた友達を失いたくないからだ。

 

 つくづく思う。

 友達とは枷だ。友情とは呪いだ。

 

 

 中学校の理科準備室からアパートへと拠点が変わってからというもの、ポスタリィは渋々ながら、レイン・ポゥ&トコと一緒にアパートの2階で、悪い魔法使いの一味と戦う準備を進めていた。

 

 その最中、急にアパートの屋上や1階から激しい物音や悲鳴が聞こえてきた時、ポスタリィは恐怖に震えることしかできなかった。トコに「情けない」と怒られながら、レイン・ポゥに手を引かれて走ることしかできなかった。

 

 見覚えのない忍者がどこかへと走り去り、兎耳の魔法少女がウェディンと繰々姫を抱えてどこかへと連れ去っていく姿を目撃していながら、ポスタリィは震えてばかりで何もできなかった。

 

 

 ポスタリィの身に襲いかかる恐怖体験はそこで一旦打ち止めとなった。

 キャプテン・グレース、ファニートリック、テプセケメイの3人と合流できたからだ。

 

 ポスタリィはウェディンと繰々姫を連れ去った兎耳の魔法少女のことをみんなに共有した。それからみんなでどうやってウェディンと繰々姫を救出するかを話し合い、まもなく救出作戦が決行された。

 

 アパートの屋上には、ウェディンが魔法についてノートに事細かに書き綴るために使っていたペンが残されていた。このペンに、ポスタリィの『どんなものでも持ち主のもとに送り返せる』魔法を使い、ウェディン目がけて飛んでもらう。

 

 ポスタリィが物に翼を生やして持ち主に送り返す時、『普通郵便』か『速達』かのどちらかを選ぶことができる。速達であれば、魔法少女の足よりも速い飛行速度で持ち主へ届けられる。兎耳の魔法少女に追いつくことができる。

 

 この翼をはためかせてウェディンへと向かうペンをテプセケメイに追跡してもらう。テプセケメイの『風と同化してどこへでも行ける』魔法なら、テプセケメイ自身も飛びながら、速達で飛翔するペンを見失わずに追い続けることができる。

 

 テプセケメイにはあらかじめ、グレースの『すごくかっこいい魔法の海賊船を出せる』魔法から入手した、海賊船の帆を持たせておく。また、テプセケメイの移動は、これまた海賊船から入手した魔法の望遠鏡でファニートリックが観察しておく。

 

 テプセケメイが兎耳の魔法少女を見つけたら、空気の塊を飛ばして兎耳の移動を妨害しつつ、海賊船の帆で兎耳を包み込んでもらう。同時に、ファニートリックの『隠したものと別のものを入れ替える』魔法で、ウェディン&繰々姫と手元の空き缶とを入れ替える。

 

 みんなで考えた救出作戦は成功した。

 無事、兎耳の魔法少女からウェディンと繰々姫を救出できた。

 

 

 が、ここでポスタリィにまたしても恐怖が牙を剥いた。

 兎耳の魔法少女がポスタリィたちの前に現れたことも怖かった。が、兎耳の視線を追って、付近のビルの屋上に3人の魔法少女の姿を視認した時、ポスタリィの身にかつてないほどの恐怖が襲いかかった。

 

 見てくれはただのポップスターのステージ衣装の人に、占い師の人に、剣士の人だ。なのにどうしようもなく怖い。

 

 もしもポスタリィが登山中に獰猛な熊に出会ったら。いやそんな生易しいものではない。ポスタリィの貧相な想像力では表現できないレベルの恐怖そのものが、ポスタリィたちを見つめて口角を吊り上げていた。

 

 

「面白そうな余興をしているじゃないか。せっかくだから我輩たちも途中参加させてもらおう。盛り上げてやるから涙を流して感謝するといい……とプキン将軍は仰っています。将軍閣下のご気分を害する行為はオススメしません。閣下の望み通りに踊ることを推奨します。みんな誰しも、痛い目を見るのは嫌でしょう?」

 

 剣士が何事かを口にして、占い師が翻訳してポスタリィたちに伝えてくる。

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 視界がグルグル回る。耳が遠くなる。足が震えている。ちゃんと呼吸ができているかすら怪しい。逃げたい。逃げたいのに足が言うことを聞いてくれない。

 

 いっそ気絶してしまいたい。そうすれば誰かが何とかしてくれるかもしれない。あるいは実は今までの出来事は全部夢だったとわかるかもしれない。あぁ夢だそうだそうに違いないこんな非現実的なことがこの科学の世界で起こるわけがないんだ。

 

 

「ふざけんじゃ――」

「海ちゃん、逃げよう」

「はぁ!? なんで!!? あんな風にバカにされて、尻尾巻いて逃げろって!?」

「ポスタリィの様子がおかしい。あいつらに何か攻撃されたのかもしれない。海ちゃんは仲間よりも戦いを優先するの?」

 

 グレースとファニートリックが言い争っている。グレースは盛大に舌打ちを鳴らすと、地上をチラッと確認してから空中に魔法の海賊船を召喚した。

 

 

「乗れ!」

 

 グレースが指示を出し、みんなが3名の乱入者から逃れるために次々と海賊船へと飛び乗っていく。3名の乱入者がポスタリィたちへと迫ってくる。ポスタリィは動けない。

 

 だれかたすけて(蛇に睨まれた蛙)

 

 

「たっちゃん!」

 

 気づけば、ポスタリィはレイン・ポゥにお姫様抱っこされていた。レイン・ポゥと一緒に屋上から飛び降り、海賊船へと着地する。

 

 今のは間違いなくポスタリィの命の危機だった。その命の危機をレイン・ポゥに救ってもらった。だけどそもそも命の危機に陥ったのはレイン・ポゥが魔法少女を辞めようとしないからだ。

 

 

「たっちゃん、大丈夫?」

「あぃ、ありあとぅ、香織ちゃん」

 

 ポスタリィは複雑な感情を胸に秘めつつも、呂律が回らないなりに、レイン・ポゥに心の底から感謝を告げる。

 

 

 海賊船は陸上かつ空中でありながら、猛スピードで前進し続けている。魔法に科学の理屈は通じないということなのか。風の力がなくても、海上じゃなくても、グレースが望めば前へと発進してくれる。そういうことなのか。

 

 などと考えていると、海賊船が道路上に着地し、地響きが周囲に伝播する。

 さすがに魔法の海賊船といえど、空は飛べなかったらしい。夜中に差しかかろうとしている今の時間帯が幸いしたようで、道路上に人や車はなく、被害はなかった。海賊船は爆音をまき散らしながら道路を突き進んでいく。

 

 

「で、何のつもり?」

 

 と、ここで。グレースの険のある声がポスタリィの耳に届く。

 声の聞こえた方向へポスタリィが視線を向けると、そこには繰々姫のリボンの魔法で体をぐるぐる巻きに拘束された、兎耳の魔法少女がいた。どうやら兎耳の魔法少女も海賊船に飛び乗ってきたようだ。

 

 

「いやぁあっちはかなりヤバそうだったので、どうせ捕まるにしてもこっちの方がまだマシかなと。見ての通り捕虜になるので同船させてください。同船を認めてくれた暁には……ちゃんと整えた舞台でタイマンすることを約束しましょう、海賊さん」

「その言葉、忘れんじゃないわよ?」

 

 兎耳の魔法少女の提案をグレースは受け入れると、背後を見やる。つられてポスタリィも視線を向けると、3名の乱入者が船を追う姿があった。

 

 ポップスターのステージ衣装の人と、占い師の人は海賊船の速度に追いつけていない。剣士は少しずつだが、海賊船との距離を縮めている。

 

 テプセケメイが空気を飛ばして攻撃しているようだが、剣士は華麗に回避している。グレースが海賊船に備えつけられていた大砲を持ち込んで発射するも、剣士はレイピアで難なく砲弾の軌道を逸らす。

 

 

「芝原さん! 船を止めて! 進行方向に人が!!」

「なっ!?」

「止めなくていいです、先輩! 私が何とかします!」

 

 繰々姫が悲鳴に近い要求をグレースに飛ばす。グレースは動揺し、そこでレイン・ポゥが発言を差し込んだ。瞬間、海賊船を奇妙な浮遊感が襲った。海賊船は跳躍し、数秒後に着地した。再度襲いかかる地響きに、ポスタリィの体が少し浮いた。

 

 恐る恐るポスタリィが船の後ろを見ると、船を追い続ける剣士の他に、ぎょっとした眼差しで船を見つめるスーツの男性と、地面から輪を描く虹を視認できた。

 

 あの虹はレイン・ポゥの『実体を持つ虹の橋を作り出せる』魔法の産物だ。レイン・ポゥは海賊船の進行方向になだらかな虹を召喚して海賊船を無理やりジャンプさせることで、海賊船でスーツの男性を轢かないように機転を利かしたのだ。

 

 

「それで、これからどこへ逃げるつもりですか!?」

「どこでもいいでしょ! あいつらさえ撒ければそれで!」

 

 ウェディンがグレースに問いかけ、グレースが怒鳴り返す。今のところはグレースの海賊船でどうにか逃げられている。けれど剣士は段々と海賊船に迫ってきているし、このまま海賊船を使って驀進(ばくしん)を続けていればいつか人を殺してしまうかもしれない。

 

 どうすれば。どうすれば。

 空回りしかしないぽんこつ思考回路で、それでもポスタリィが必死に考えていると、唐突にポスタリィの視界が白に染まる。

 

 

「わぷっ!?」

 

 顔に何かが当たったらしい。布の感触がする。

 ポスタリィは顔に手をやり、顔から布をはぎ取る。手につかんだそれを見ると、白いスクール水着だった。

 

 

「これ……」

 

 魔法少女のコスチュームは一目でわかりやすい。とにかくきらびやかだ。

 たとえコスチュームがただの白いスクール水着だとしても、市販の水着とは一線を画す輝きを放っている。

 

 ゆえにポスタリィはわかった。

 これは間違いなくスイムスイムの水着だ。

 なぜかはわからないが、スイムスイムの水着が風に煽られて空中を飛んでおり、偶然ポスタリィが手にしたようだ。

 

 

 ――みんなが悪い人には見えなくなってきたから。

 ――困っているのなら何か力になれないかなと思って。だからここに残ってる。

 

 スイムスイムの言葉がポスタリィの脳裏によみがえる。

 

 

 魔法。魔法の国。魔法少女。妖精。兎耳や忍者等の悪い魔法使いの一味。なぜか追ってくる強烈に怖い人たち。半日そこらで一斉に襲いかかってきた非常識の数々。

 

 ポスタリィにとって状況はもはや混沌としていて、まるで理解が追いついていない。この状況で最も信用できるのは、頼りにできるのは、スイムスイムなのではないか。

 

 だってスイムスイムは、ウェディンの『約束をしたらそれをぜったいに守らせる』魔法で、ポスタリィたちに危害を加えないことを約束しているのだから。

 

 あんなに小さい子供にすがるなんてみっともないという気持ちはある。が、背に腹は代えられない。魔法の世界の先輩を、私たちの力になりたいと言ってくれた先輩を、何がどう間違ってもポスタリィの敵にならないと確定しているスイムスイムを頼りたい。スイムスイムならきっと、この状況を何とかしてくれるに違いない。

 

 

 ポスタリィは魔法を発動させる。白いスクール水着に白く雄々しい翼が生える。速達に指定した白いスクール水着がびゅーんとの効果音を引き連れて飛んでいく。

 

 

「え? なにあれ?」

「水着が飛んでる?」

「なんで水着?」

「水着に翼が生えてる……」

 

 白いスクール水着が羽ばたく珍妙な光景に魔法少女たちが困惑し、ポスタリィへと視線を向ける。物に白い翼を生やせる魔法使いはこの場にポスタリィしかいないからだ。

 

 

「スイムスイムなら、あの子なら……!」

 

 ポスタリィはたどたどしい口調ながらも己の意図を主張する。かくしてポスタリィの意図は、兎耳の魔法少女以外の全員に伝わった。

 

 

「……ま、あてもなく逃げ続けるよりは目的地があった方がいいわね。よし、スイムスイムと合流するわよ!」

 

 グレースは笑みを零し、水着の飛ぶ方向へと魔法の海賊船の進路を定めた。

 どうかポスタリィの判断が、スイムスイムを頼るという判断が、功を奏しますように。夜中の追走劇の終わりが見えない中、ポスタリィは心から願った。

 

 




次回 第25話
『スイムスイムですが、現場の空気が最悪です』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。