その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問27.ピティ・フレデリカにオススメの口癖を提案せよ。ただし、フレデリカが最低でも3か月間は気に入って使ってくれる口癖を提案しなければならないものとする。



第27話 プロの暗殺者がこんな情けない声で鳴くんですね

 

◇トコ(残り時間16時間40分)

 

 とてもマズいことになった。

 まさかレイン・ポゥが捕まってしまうなんて。

 

 B市某所のビル4階。空きテナントの1室にて。

 トコはテーブルに設置していた望遠鏡から顔を離す。この望遠鏡のおかげで、いかに今のトコとレイン・ポゥが詰んでいるかを知ることができた。海賊船からトコが逃げる際に、全長15センチの小さな体躯でどうにか盗み出しただけのことはある。

 

 トコが2年前に偶然見つけた才能ある魔法少女。『ずる賢く、自分本位で、損得勘定に長け、常に優位な立ち回りをし、最終的には勝者の席を我が物とする』魔法少女。

 

 トコは相棒:レイン・ポゥの演技力・擬態力に全幅の信頼を置いていた。

 だからトコは単身で逃げた。正体不明・目的不明の謎の魔法少女3名から逃げるべく、キャプテン・グレースが海賊船を陸上で走らせる中。合流対象だったスイムスイムの隣に捜査班の忍者がいることを認識した刹那、トコはみんなの前から姿をくらませた。

 

 すべてはレイン・ポゥに迷惑をかけないためだ。

 ただでさえトコのせいで暗殺者レイン・ポゥは捜査班に追われる身になっている。これ以上、トコがレイン・ポゥの足を引っ張るわけにはいかなかった。トコが理想とする魔法少女、そんなレイン・ポゥから捨てられたくはなかった。

 

 だからリスクを承知で、戦闘能力を持たないトコが単身で海賊船から離脱したのだ。トコさえいなければ、誰もレイン・ポゥの正体に気づけやしない。そう信じて。

 

 が、まさか魔法の国の人事部門の7753(ななこさん)がいるだなんて、荒事担当ではない彼女が捜査班に加わっているだなんて思わなかった。

 

 いくらレイン・ポゥの演技力が凄まじくとも、7753の『相手の能力がわかる魔法のゴーグル』の前では意味をなさない。レイン・ポゥの正体を看破した7753は、何らかの方法で魔王パムと密かに意思疎通し、レイン・ポゥに抵抗を許さず捕縛してみせた。

 

 こんなことなら。あの時、レイン・ポゥと一緒に海賊船から逃げればよかった。

 どうしよう。このままではレイン・ポゥは魔法の国に連行される。わたしの求めた理想の魔法少女が終わってしまう。

 

 でも、わたしに何ができる? わたしはただの妖精だ。わたしに力はない。新米魔法少女たち(ニュービー)はもう利用できない。彼女たちは捜査班と情報交換し、トコが悪者だとの認識を共有し終えているはずだ。

 

 

 だれかたすけて(哀願)

 

 誰も助けてくれるはずがないのに、それでも願わずにはいられない。

 

 

「お困りのようですね」

「ッ!」

 

 トコの背後から不意に声をかけられる。トコはビクリと肩を震わせ、背中の羽で空を飛びながら振り返る。そこにいたのは――占い師コスチュームの魔法少女だった。

 

 先ほどなぜかトコたちを追ってきた謎の魔法少女3名の内の1人だ。が、トコはこの者の正体だけは知っている。

 

 

憐れな(ピティ)フレデリカ」

「私が力になって差し上げましょうか?」

「…………」

「ずいぶんな警戒心ですねぇ。困っている者を助ける、魔法少女として当然のことをしているだけだというのに」

「あんたは一々発言が空々しいのよ」

「刺々しいですねぇ。私はこんなにもあなたと仲良くなりたいだけなのに」

「どうせあんたたちの目的もわたしとレイン・ポゥでしょ? どうしてあんたの力を借りないといけないのよ?」

「ご名答。しかし今のあなたは選り好みできる身分ではないでしょう? B市であなたに協力を申し出る魔法少女なんてもはや私くらい。あなたもわかっているでしょう?」

「それは……!」

「私なら確実に虹の魔法少女を救ってあげられますよ?」

「……そう、レイン・ポゥの髪の毛が欲しいってわけ?」

「ええそうです。あなたの手元にありませんか? 一緒に行動していたのでしょう?」

 

 トコは一応、己の服をまさぐってみる。しかしレイン・ポゥの髪の毛はなかった。当然だ。トコはレイン・ポゥを育てる上で、髪の毛の扱いは口を酸っぱくして指導した。

 

 敵に髪の毛を奪われることは生殺与奪の権を握られることに他ならないと、何度も口にした。トコの薫陶を受けて育ったレイン・ポゥが、トコの体に己の髪の毛を残すわけがない。

 

 

「ないね」

「それでは虹の魔法少女の拠点へ案内してください」

「は?」

「追われる身となったあなたたちが数ある町の中からわざわざB市を選んで逃げ込んだのは、拠点があるからでしょう? 自宅でも仮住まいでも構いません。案内してください。私の魔法は、魔法少女に変身する前の髪の毛でも問題なく発動できます。……あなたたちの悪行が魔法の国に露見したのはあなたたちにとって想定外の事象。それなら拠点に髪の毛の1本くらいは残っているのではありませんか?」

「……」

 

 フレデリカは権謀術数に長けている。

 彼女の『水晶玉に好きな相手の姿を映し出せる』魔法も強力だ。

 

 通常、森の音楽家クラムベリーが開催した魔法少女同士のデスゲームを模倣した程度では、封印刑にはならない。それでもフレデリカが封印刑になったのは、彼女が己の魔法を悪用し、魔法の国の裏事情を知りすぎていたがゆえの口封じという説が有力だ。

 

 卓越した実力と頭脳を併せ持ち、狡猾に立ち回る。それがピティ・フレデリカだ。

 トコは知略を巡らせることはできても、暴力に訴えられたら無力だ。人間と妖精の体格の差、魔法少女と魔法少女でない者の差。この差は絶大で、覆すことは困難だ。

 

 フレデリカの相手は、トコには荷が重い。フレデリカの提案という形式の命令を、トコは業腹ながらも受け入れざるを得なかった。

 

 

「わかった。ついてきて」

「ご協力感謝します。せっかくですから道すがら、B市に集結している魔法少女たちのことを教えてもらえますか? 特に私が捕まっている間に新たに増えた若葉たち……彼女たちのことが知りたくてたまらないのです」

「……はぁ。うわさに違わぬ変態っぷりね、あんた」

 

 囚われの身のレイン・ポゥを救うにはフレデリカが必要だ。少なくともレイン・ポゥを救うその瞬間まではフレデリカの気分を害してはならない。

 

 トコはフレデリカが欲しているだろう情報をいくつかピックアップし、重い口を開いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇ピティ・フレデリカ(残り時間16時間35分)

 

 情報収集は順調に進んだ。

 トコがレイン・ポゥと一緒に逃げおおせる確率を上げるために作ったインスタントな魔法少女たち。トコから仔細を聞けば聞くほど、彼女たちの魅力に圧倒されるばかりだった。

 

 トコから案内されたレイン・ポゥの自宅で、目的のレイン・ポゥの髪の毛もしっかり採取できた。レイン・ポゥが魔法少女に変身する前の、短めのキューティクルな髪の毛だ。フレデリカの好みである。

 

 

「何をぐずぐずしてるのさ。早くレイン・ポゥを助けなさいよ!」

「そう急かさないでくださいな」

 

 レイン・ポゥの自宅を出て、寂れた公園へと移動した後。半透明の羽でフレデリカの耳元に浮遊してがなり立てるトコに軽く返事を返しながら、フレデリカは己の魔法の行使に必要な準備を始める。

 

 フレデリカの『水晶玉に好きな相手の姿を映し出せる』魔法は生きている人間の髪の毛を手の指に巻きさえすれば発動できる。たとえ対象の人間が宇宙空間に漂っていても、電脳空間に閉じ込められていても、並行世界で別の人生を歩んでいてもフレデリカには関係ない。

 

 たとえ対象が、魔王パムの魔法の羽で全身をぐるぐる巻きにされたレイン・ポゥだとしても、髪の毛さえあればフレデリカの水晶玉に映し出せる。

 

 

 フレデリカは小指に髪の毛を結ぶ。この小指の髪の毛は魔法のことを知らないただの女子中学生のものだ。トコと接触する前にフレデリカがB市内で見繕い、こっそり寝室に侵入し、彼女の寝息をBGMにしながら採取させてもらった。

 

 続けて中指に髪の毛を結ぶ。この中指の髪の毛の女性は、路地裏で酔いつぶれて熟睡していたキャリアウーマンのものだ。彼女の髪の毛も、トコと接触する前に仕入れさせてもらった。

 

 人差し指にも新たな髪の毛を結ぶ。小指の髪の毛がレイン・ポゥ救出時にやっておいて損のない時間稼ぎとするなら、人差し指と中指の髪の毛はいざという時の保険だ。だがきっと、いや間違いなくこの保険は無駄にはならない。そのような確信がフレデリカにはあった。

 

 いよいよ薬指に、本命のレイン・ポゥの髪の毛を結ぶ。

 これで準備は整った。

 

 

 小指の髪の毛の少女を水晶玉に映し、少女を水晶玉の中から引っ張り出す。時刻が0時を回っていることもあり、少女はフレデリカに首根っこを掴まれて引き寄せられたというのに今もぐっすり夢の中だ。年相応の少女らしくてほっこりする。

 

 フレデリカは薬指の髪の毛のレイン・ポゥを水晶玉に映し、熟睡中の少女を水晶玉の中に突っ込むと同時に、水晶玉の中からレイン・ポゥを取り出した。

 

 魔王パムは暗殺者レイン・ポゥを高く評価した。存分に警戒した。その結果が、羽でレイン・ポゥを全身ぐるぐる巻きにするという対応だ。

 

 が、その対応はフレデリカにとって都合が良かった。小指の髪の毛の少女を、レイン・ポゥの身代わりにできるからだ。魔王パムが拘束したレイン・ポゥが別人に入れ替わっていることに気づけるのは、もう幾ばくか未来の出来事だろう。

 

 

「レイン・ポゥ! ねぇしっかりして、レイン・ポゥ!!」

 

 フレデリカが手元に引き寄せたレイン・ポゥはぐったりと横たわっている。トコが必死にレイン・ポゥに語りかけ、彼女の頬をぺちぺち叩いている。

 

 頑丈な魔法少女の体に妖精がいくら体を張ったって衝撃は通らない。トコのビンタは無意味な行為だ。けれどそれでもトコはレイン・ポゥに目覚めてほしい気持ちが勝るあまり、体が勝手に動いてしまっているのだろう。麗しい友情である。

 

 

「ん……」

 

 トコの行為が実を結んだのか否か、まもなくレイン・ポゥが身じろぎとともに目を覚ます。レイン・ポゥはトコを視認したかと思うと、弾かれたかのように跳びあがる。着地し、鋭くフレデリカを睨みつける。気配察知能力も優秀なようだ。

 

 

「あんた誰? さっき私たちを追ってきた内の1人だよね?」

「トコさん。説明してあげてください」

 

 ここはフレデリカが率先して話すよりトコに譲った方が良い。その方がレイン・ポゥの警戒心を削ぐことができる。

 

 レイン・ポゥはトコから説明を受けた。おそらく7753にレイン・ポゥの正体を看破されたために、魔王パムによって気絶させられてしまったこと。絶体絶命のピンチだったところを、フレデリカの魔法で救出したこと。

 

 

「そうだったんだ、助けてくれてありがと」

「いえいえ、お気になさらず。あなたを助けたのも見返りを求めてのことですから」

「見返り?」

「はい、私のお願いを1つ聞いてほしいのです」

「ええぇー」

「おや、恩人の頼みを無下にするのですか?」

「助けてくれたのはそう。そのとおり。でもだからってあなたの言いなりになる義務はないよね?」

「そんなことを言って良いんですか? あなたの髪の毛は今、私の薬指にある。……この意味がわからないと?」

 

 レイン・ポゥがフレデリカの要求に露骨に嫌そうな顔を浮かべる中、フレデリカがこれみよがしに己の薬指に巻いたレイン・ポゥの髪の毛を見せてやる。

 

 フレデリカは『水晶玉に好きな相手の姿を映し出せる』魔法とレイン・ポゥの髪の毛を使って、レイン・ポゥを魔王パムの拘束から救い出した。それはすなわち、レイン・ポゥがこれからどこへ逃げようとも、フレデリカからは逃げられないことと同義だ。

 

 

「ま、言ってみただけだよ。で、恩人さん。私は何をすればいいの?」

 

 当然、レイン・ポゥも状況を理解していた。

 ゆえにレイン・ポゥは諦念のため息とともにフレデリカに問いかける。

 

 フレデリカはレイン・ポゥの問いに答えず右へ跳んだ。刹那、フレデリカが立っていた場所に背後から幾多の虹が弧を描きながら襲いかかる。もしもフレデリカが逃げなければ、今頃フレデリカの胴体は虹で串刺しになっていた。

 

 

(危ない危ない。……虹という名の無音の攻撃魔法。つくづく暗殺者向きですねぇ)

 

 フレデリカの保険の1つが有効に作用した。フレデリカはレイン・ポゥを救出した後、水晶玉に人差し指の髪の毛の人物の光景を俯瞰視点で映し出していた。その光景とは、フレデリカ自身の光景だ。

 

 そう、人差し指には魔法少女に変身する前のフレデリカの髪の毛を巻いていた。それでフレデリカ自身を上空から監視し、不意打ちに備えたのだ。

 

 

「なっ……!?」

 

 フレデリカの殺害に失敗したレイン・ポゥ&トコが目を見開く中、フレデリカはもう1つの保険を使用するべく魔法を行使する。水晶玉にレイン・ポゥの後ろ姿を映し出し、彼女の足を掴んで手元に引きずり込む。それから水晶玉に中指の髪の毛の女性を映し出し、そこへレイン・ポゥの頭を突っ込んだ。

 

 フレデリカは泥酔して熟睡している女性を見つけるや否や、彼女の髪の毛と身柄を回収した。彼女をB市の山の中にある木の幹にロープで縛りつけた。目的は、B市を覆う結界への直通ルートを作るため。

 

 レイン・ポゥが水晶玉の先で顔をゆがませて何事か悲鳴を零している。魔法的な要素を通さない結界に思いっきり頭をぶつけられたレイン・ポゥが「ひぎゅうっ!?」的なそそる悲鳴を轟かせているのだろう。

 

 フレデリカの魔法は、水晶玉が投影する光景の先の音声を聞くことができない。レイン・ポゥがどんな悲鳴を叫び散らしているのかについて、フレデリカは想像するしかない。それが今はとても口惜しい。

 

 フレデリカはしばらくレイン・ポゥの頭を結界に衝突させ続けた後、手元へ戻した。

 

 

「あ、うぁ……」

 

 レイン・ポゥが鼻血を流し、血涙を流し、よだれを流している。フレデリカが手を離すと、レイン・ポゥは頭から床に倒れ伏し、痙攣する。トコが「レイン・ポゥ!?」と血相を変えてレイン・ポゥへと近寄っているが、レイン・ポゥは返事一つまともに返せない。

 

 

「どうですか? 外交部門のエリート魔法使いたちの粋を結集した結界のお味は?」

「ぐ……」

「お気に召したようで何よりです。それにしても、ふふ。魔法の国を震撼させた稀代の暗殺者があんな情けない声で鳴くんですねぇ?」

 

 フレデリカが興味本位でレイン・ポゥを煽ってみると、レイン・ポゥはガクつく足を叱咤してふらふらと立ち上がろうとする。が、足がもつれて再び床に倒れた。

 

 レイン・ポゥがフレデリカを睨んでくる。常人を余裕で威殺せそうな眼差しだ。そんなレイン・ポゥの悔しそうな視線がとにかく心地良い。五臓六腑に染み渡る。

 

 ――っと、陶酔している場合じゃない。

 

 

「魔法の国の反体制派は、魔法の国の権威を失墜させるためのキーを欲しています」

「そのために反体制派は暗殺者の身柄を欲し、我々を封印刑から解放しました」

「我々の目的は暗殺者です。そういうことになっています」

「しかし、私は自由さえあればいい。反体制派の事情など知ったことではない」

「そう、暗殺者のラベルが貼ってある魔法少女なら、誰を献上したってかまわないのです」

「反体制派がその偽物を本物だと信じ、私への自由を確約してくれるのなら」

「そこでお願いです、レイン・ポゥ」

「この結界が解けるその時までに、私に暗殺者をよこしなさい」

「そうすれば、あなたたちのことは見逃してあげますよ。あなたの髪の毛も廃棄しましょう」

「あなたたちにとっても悪い話ではないと思います。いかがでしょうか?」

 

 フレデリカは『お願い』の内容を告げた後、レイン・ポゥに手を差し伸べる。レイン・ポゥはフレデリカの手を取ることなく、今度は自力で立ち上がることに成功した。

 

 

「わかっ、た……」

 

 レイン・ポゥはかすれた声でフレデリカのお願いに応じると、トコを伴って公園から姿を消す。その弱々しい背中に「健闘を祈っていますよ」と声を投げかけてみたが、フレデリカの声が届いたかどうかは定かではない。

 

 

「そろそろ戻りますか」

 

 思いのほか、時間を費やしてしまった。

 プキンとソニアの面倒はトットポップに見てもらっているが、友達づくりの天才たるトットポップといえど、さすがに時間稼ぎも限界かもしれない。プキンたちと合流すべきだ。フレデリカはプキンたちのいるレストランへ向けて駆けだす。

 

 

 魔王パムの拘束から救い出したレイン・ポゥを結界で気絶させて反体制派に連れていく。

 本来であれば、これでフレデリカの任務は完了だった。フレデリカは自由を手に入れることができた。が、あえてそうしなかった。

 

 封印刑はもう嫌だ。

 何者にも侵されない自由を得たい。

 この気持ちに変わりはない。

 

 けれど。レイン・ポゥの髪の毛が手元にある以上、その気になればレイン・ポゥの身柄はいつでも確保できる。それなら少しくらいは羽目を外して、自重モードを解除して、フレデリカのやりたいことをやっても何も問題ないのではないか。

 

 そのように考えた。

 だからフレデリカはレイン・ポゥに『お願い』をして、レイン・ポゥを一時的に解放した。

 

 

 何者かがスイムスイムを使って理想の魔法少女を作ろうとしている。

 

 B市にはスイムスイムがいる。リップルもいる。

 そのほかにも素質のある魔法少女が多々集まっている。

 

 魔法少女の成長に日々の研鑽は欠かせない。

 それ以上に修羅場も欠かせない。

 これが今のフレデリカの持論だ。

 

 3年前のN市の試練を経て、スノーホワイトとリップルが大きく成長したように。

 此度のB市の試練を経たスイムスイムたちが、フレデリカの望む理想の魔法少女へと成長してくれる期待値は高い。彼女たちが経験する試練が苛烈であればあるほどだ。

 

 だから、ここらでフレデリカも一石投じてみよう。

 プキンたちには暗殺者がレイン・ポゥだとは言わず、レイン・ポゥには『偽の暗殺者』を用意すれば見逃してやると口約束をする。これで暗殺者を巡るB市の騒動はますます混沌を極めるはずだ。

 

 これから一体誰が生き残り、誰が死ぬのか。

 生き残った者は此度の騒動から何を得るのか。非常に興味深い。

 

 

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 拝啓。スイムスイム育成計画の立案者さん。

 あなたがどこのどなたかは存じ上げませんが。

 あなたの魔法少女育成計画、手伝って差し上げますよ。

 なに、お代はいりません。

 私が手伝いたくて手伝っているのですから。

 他者の利益のために無償の奉仕に殉じる。

 魔法少女とはそういう物でしょう?

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 フレデリカは薄く笑みを作った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇ファニートリック(残り時間15時間43分)

 

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 もう何回、根村佳代(ねむらかよ)はこの言葉を心の中で呟いただろうか。少なくとも100回は超えている。そこから先は数えることをやめた。

 

 幼馴染にして冒険好きの芝原海が何を思ったのか、文化祭の清掃委員に立候補した。なぜか海と一緒に佳代も清掃委員になることが決定し、清掃委員会の打ち合わせのために波山中学の理科準備室へと向かった。

 

 たったそれだけの日常だったはずなのに、なぜか佳代は魔法少女:ファニートリックにさせられた。それでトコの言う『悪い魔法使いの一派』との戦いを強制されたかと思えば、状況は半日足らずでめまぐるしく変わった。

 

 『悪い魔法使いの一派』は魔法の国の捜査班――警察ポジションだった。

 本当の悪者はトコとレイン・ポゥだった。佳代の後輩、三香織こそが捜査班が捜していた暗殺犯だった。魔法の国で散々暗殺を繰り返した凶悪犯だった。

 

 トコが佳代たちを集めて魔法少女にしたのは、トコとレイン・ポゥが捜査班から逃げられる確率を少しでも上げるためだったらしい。

 

 けれど、レイン・ポゥは捜査班の手により捕まった。レイン・ポゥは魔法の国で裁かれ、封印刑――終身刑のような刑罰を科される可能性が高いらしい。

 

 が、レイン・ポゥが捕まって、それでおしまいとはならなかった。魔法の国で封印されていたはずの犯罪者たちが脱獄し、B市に入り込んだらしい。さっきファニートリックたちを追ってきたあの3人のことだ。

 

 彼女たちの目的はわからない。多くの人を殺した暗殺者:レイン・ポゥと同等以上の凶悪犯たちが今、佳代と同じB市の空気を吸って過ごしていることだけが確かな事実だ。魔法少女の力は強力だ。脱獄者たちがその気になれば、B市は一瞬で焦土と化すかもしれない。

 

 状況を整理すればするほど、現実感が薄れていく。これは夢だと言われた方が納得する。けれどいくら頬をつねってみても、頬は痛みを訴えるだけで、これは夢だと主張してはくれない。佳代が頬をつねった回数も忘れてしまった。

 

 否応なく突きつけられる。

 これは逃れることのできない現実なのだと。

 

 

 ――気にしないで。この界隈ならよくあることだから。

 

 ふと、スイムスイムの言葉が脳裏によみがえる。海がいきなりスイムスイムを襲ったことをきっかけとして、佳代たちがまだ幼いスイムスイムに色々と怖い思いをさせたことについて、佳代が謝罪した時にスイムスイムから返された言葉だ。

 

 

「……」

 

 B市某所の人気のない路地裏にて。

 佳代を始めとした、つい半日前に魔法少女になった者たちから少し距離を離して何やら作戦会議をしている捜査班たちへと視線を移す。そこにはスイムスイムも加わっている。

 

 スイムスイムは仕事を探してB市にやってきたと話していた。

 スイムスイムは捜査班の一員ではないはずだ。だけど当然のように捜査班の輪に加わり、言葉を交わしている。

 

 

 知らない人に襲われる。

 知らない人に体を縛られる。

 知らない人に質問攻めされる。

 

 佳代がこんなことをされたら絶対に気が動転してしまう。

 一生モノのトラウマになるかもしれない。

 

 なのにスイムスイムは平気そうだった。

 『この界隈ならよくあること』だからだろう。

 魔法少女に変身する前のスイムスイムはとても幼い。しかしそれでもスイムスイムはファニートリックたちと違い、プロなのだ。

 

 

「……」

 

 佳代は隣へと視線を移す。隣には芝原海が、キャプテン・グレースがいる。

 グレースもずっと黙り込んでいる。こんなグレースの姿は見たことがない。

 

 どんな時も迷わず猪突猛進し、望んだ未来を当然のようにつかみ取る。それが普段の芝原海だったのに。そんな海ですら踏みとどまっている。過去に類を見ない深刻な事態だ。

 

 これから佳代たちはどうなってしまうのか。怖い。怖い。

 いっそ全部全部、聞かなかったことにして、何もかも忘れてしまいたい。

 

 だれかたすけて(切願)

 

 

「なーに頭抱えてんのよ」

「へ?」

 

 路地裏に座り込んで頭を抱え込んでいると、聞きなじみのある声が佳代の鼓膜を振るわせる。いつの間にか、佳代はグレースに顔をのぞき込まれていた。

 

 

「しっかりなさい。あんたはあたしの相棒なのよ?」

「あれ、海ちゃん? 元気になったの?」

「ん? あぁもしかして落ち込んでるように見えた? あたしはそんなヤワじゃないって。……ずっと昔に、森を冒険中に遭難して死にかけた時のことを思い出していたの。あの時とこの状況は少し似ている。何か参考にならないかって思ってさ」

 

 グレースは佳代から目を離し、周囲を見やる。

 魔王パムの強烈なビンタの影響で意識を失っているポスタリィ。彼女を中心に集まっている繰々姫やウェディンへと視線を向ける。と、ここで。テプセケメイがふよふよ浮かびながら「どうした?」とグレースに声をかける。

 

 

「ねぇ、あたしたちもあの人たちに協力しない?」

 

 グレースの言葉は夜の路地裏によく浸透した。

 

 

「協力って……」

「暗殺者は、レイン・ポゥは捕まった。でもまだレイン・ポゥと共謀してたトコは逃げているし、他にも不穏な連中がB市に入り込んでる。そいつらがいつ何をしでかすか、わかったものじゃない。……あたしたちの街でしょ? あたしたちが守らないでどうするの? 捜査班におんぶにだっこでいいの? あたしたちにも魔法少女の力があるのに、あたしたちだって戦えるのに、それでいいの?」

「「……」」

 

 グレースの問いに誰も答えない。

 しかし誰も現状を理不尽に思っており、その理不尽を魔法少女の力で打破できるのなら、そうしたい。誰も彼もが鬱屈とした気持ちを抱えているようだった。

 

 

「……私は魔法少女が好きです。優しくてかわいい魔法少女が好きです。暗殺者だとか、犯罪者だとか、そんなロクデナシは魔法少女なんかじゃありません」

 

 ウェディンがポツリと口に出す。

 創作と異なり、現実の魔法少女にクズが多いのなら、自分が魔法少女の何たるかを示してやる。そんな気概を胸に抱えているようだった。

 

 

「メイはもとより戦うつもりだ。魔法少女の力はメイに自覚を与えた。力と向き合う。メイはメイを失わないためにはそれが必要だ」

 

 テプセケメイは全然ぶれていない。

 テプセケメイなりの軸を基準に、戦う覚悟をとっくに決めているようだった。

 

 

「……私は、私は先生だから。ちゃんと私なりに志をもって、努力して、先生になった。あなたたちが戦うとわかっていて逃げるようじゃ、先生じゃない。……それにここで逃げて、もしもお父さんが――家族が殺されてしまったら、私は私を許せない」

 

 繰々姫は震えていた。それでも戦う意思を表明した。

 多数派の意見に流されたわけではないことは、繰々姫の瞳を見れば一目瞭然だ。

 

 

「そう、気持ちは同じみたいね。じゃあ捜査班にあたしたちの気持ちを話してくるよ」

 

 グレースは満足げにうなずくと、捜査班へと歩を進める。

 佳代にとって既視感のある光景だ。芝原海が望んで「こうしたい」と集団に宣言すれば、過程はどうあれ、集団は最終的に海の意向に沿う形に収束する。世界はそういう風にできている。

 

 

 佳代が小学生になった折、芝原海と出会った。

 それが佳代の人生の明確な分岐点だった。

 

 佳代の隣にはいつも暴君がいた。

 佳代の何を気に入ったのか、海は佳代をいつも連れ回した。

 

 海は気に入らないことがあれば暴力で解決した。

 周囲は海に逆らえず、たまった鬱憤を陰口に変えて佳代にぶつけた。

 

 海がいなければ、佳代の人生は180度変わっていただろう。

 海がいるせいで、佳代には友達がいない。海のコバンザメ、金魚の糞。そう思われてばかりの哀れな人生を佳代は強いられていた。

 

 海を恨んだ回数は1回や2回ではない。海を好きか嫌いかで言えば、佳代は海が間違いなく嫌いだった。そのはずだ。

 

 けれど、今。

 いつもの暴君が、己の望む未来を手に入れるために動き出して。そのことにちょっとだけ、嬉しいと思う佳代が確かに存在していた。

 

 芝原海はこれくらいがちょうどいい。そして、この街に芝原海以外の暴君はお呼びじゃない。余所者にはお引き取りねがおう。

 

 それで、明日からいつもの日常を再開するのだ。暴君が好き放題に暴れて、暴君に巻き込まれた佳代が心の中で文句を言う。そんな青春を取り戻すのだ。

 

 なんだか元気が湧いてくる。

 不思議と力がみなぎってくる。

 佳代は初めて、海と出会って得をしたような気がした。

 

 私もみんなと戦おう。

 みんなとなら、海となら。望む未来を勝ち取れる。だって、海が望んだのだから。今までだってそうだった。魔法という概念が加わった今も、きっとそうだ。世界の真理はそう簡単には変わらない。変わってたまるものか。

 

 

 佳代は立ち上がる。グレースの背中を追うために一歩踏み出して――。

 

 

「――私たち、フレデリカに見られてる」

 

 スイムスイムの一言が場の雰囲気を一変させた。

 

 

 刹那、捜査班の頭上に何かが現れる。人間、いや魔法少女だ。

 つぎはぎだらけの服を着た魔法少女が空中から落下し始める。彼女は嗤っている。

 

 

 

「海ちゃん!!」

 

 気づけば、佳代はグレースへと駆け出し、グレースを突き飛ばしていた。

 つぎはぎだらけの服の魔法少女がどす黒い何かを一気に周囲に放出し、ファニートリックの視界は黒に塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ(スイムスイム(憑依)視点)~

 

スイムスイム(ボクの魔法がどれくらい応用利くか試したいから一旦この場を離れたいんだけど、マナが認めてくれそうにないんだよね)

スイムスイム(仕方ない。捜査班のみんなと作戦会議しながらでもできることを試してみよう。例えば……視界だけ世界の裏側に潜ってみるとかできるかな? 裏世界を観測する魔眼……男の子ってこういうのが好きなんでしょ? なんてね)

スイムスイム(おぉ、景色が白黒になった。成功したっぽい? 魔法の力ってすげー! さーて。裏世界には何があるか、しばらく観察させてもらおうか)

スイムスイム(ん? あれ、何か見覚えのある占い師姿の人にボクたちのこと、上から見られてるんだけど)

ピティ・フレデリカ(え、スイムスイムのこの反応。まさか私が魔法で観測していることがバレました? いやまさかそんなことは……)

スイムスイム(……)

ピティ・フレデリカ(……)

スイムスイム(……)

ピティ・フレデリカ(……)

スイムスイム(目と目が逢う、瞬間好きだと気付い――とか心の中で歌ってる場合じゃないなこれ、ヤバい)

スイムスイム「――私たち、フレデリカに見られてる」

 

 スイムスイムは己の魔法で観測した事実を皆に伝える。その後まもなく、ピティ・フレデリカが魔法でソニア・ビーンをスイムスイムたちの居場所へと放り込んだのだった。

 

 




次回 第28話
『驕るなーー!!』
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