その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問29.ほぼ全裸なコスチュームで日々活動する魔王パムに、己の格好への羞恥を覚えてもらうための策を提示せよ。この時、魔法の国の人員をいくらでも犠牲にしても良いものとする。



第29話 宴の始まりだ!

 

◇魔王パム(残り時間15時間26分)

 

 ピティ・フレデリカが魔王パムたちの下にソニア・ビーンを投下した時、魔王パムは自由自在に変化させられる羽で突風を生み出し、皆を逃がそうとした。

 

 しかし、魔王パムは突風の出力調整に失敗した。突如として魔王パムの五感がぐちゃぐちゃに乱されたからだ。結果、皆に強烈な突風を喰らわせてしまった。無事であれば良いのだが。

 

 皆の安否を心配する気持ちはあれど。魔王パムは皆を吹っ飛ばした方向へと向かわず1人で駆けている。レイン・ポゥをグルグル巻きに拘束する漆黒の羽を引き連れて単身、夜のB市を駆けている。背後からソニアが追いかけてきているからだ。さらにソニアの付近には別の気配が1人分、存在する。脱獄犯一味だろう。

 

 彼女たちの狙いは十中八九、暗殺者レイン・ポゥの身柄だ。この状況なら魔王パムは囮を引き受けた方が良い。まずは皆と脱獄犯との距離を離す。そしてB市の住民を巻き込まない場所でソニアたちを倒す。これが今の魔王パムの最善の選択だ。

 

 

 先ほどのソニアの襲撃で1つわかったことがある。

 下克上羽菜が脱獄犯に与しているということだ。

 

 けれど、これは羽菜の自由意志ではなかろう。

 魔法の国の監査部門で羽菜が積み上げてきた実績は知っている。加えて、半日程度だが羽菜と直接会話した印象も、犯罪者のそれと大きく乖離していた。

 

 羽菜は正義の魔法少女だ。

 その心をプキンが魔法でねじ曲げたのだ。

 許しがたい所業だ。必ずや報いを受けさせなければならない。

 

 

(……そろそろ私の羽がスイムスイムに届いた頃だろうか)

 

 魔王パムは『4枚の黒くて大きな羽で戦う』魔法少女だ。

 手元にある羽の多さは、そのまま採用できる戦術の多さに比例する。反面、自由に使える羽の数が減れば減るほど、魔王パムの戦い方は制限される。

 

 現在、1枚の羽をレイン・ポゥの拘束に使っている。

 ここでスイムスイムに羽を1枚貸し出せば、魔王パムが自由に使える羽の数は2枚となる。これは大きなディスアドバンテージだ。

 

 ソニアの実力は見れば推し量れる。たった2枚の羽で戦っていい相手ではない。

 4枚の羽をフル活用して戦うべき相手だ。

 

 それでも魔王パムはスイムスイムに羽を1枚飛ばした。

 これもまた、今の魔王パムの最善の選択だと判断したからだ。

 

 

 暗殺者レイン・ポゥがB市に逃げ込んだことが発端となったB市の騒動。

 この騒動における最上の未来は、脱獄犯どもを全員無力化した時に、捜査班及び巻き込まれた魔法少女たちが誰1人として脱獄犯どもに殺されていないことだ。

 

 魔王パムの本分は戦闘だ。

 脅威を排し、皆の安全を確保する。これが魔王パムの役割だ。だが、魔王パムは己がひとたび戦闘に身を投じたら視野が狭くなる悪癖があるとも自覚していた。

 

 現状、敵は『脱獄犯3名』と、脱獄を手引きした『トットポップ』。そしてプキンに操られている『下克上羽菜』の計5名である。

 

 この内、魔王パムが引き寄せているのはたったの2名だ。これから魔王パムがこの2名との戦闘にのめり込み、2名を倒したとて、他の敵に仲間たちを皆殺しにされていたのでは、魔王パムの役割を全うしたとは言えない。

 

 ならばどうするべきか。

 魔王パムはソニアたちを引きつけるために駆けながら考えて、考えた結果が『スイムスイムに投資する』という方針だった。

 

 

 捜査班+スイムスイムで作戦会議を始めた折、魔王パムたちはまずスイムスイムの話を聞いた。スイムスイムがこれまで積み重ねた行動の内容を聞き及んだ。

 

 スイムスイムの行動は紆余曲折を経て、捜査班と新米魔法少女たちの結束という結果を生んだ。これが偶然の産物か、スイムスイムが意図したことかは不明だ。

 

 しかしスイムスイムがいなければ、捜査班と新米魔法少女たちは敵対関係のままだった可能性が高い。そんな状況で脱獄犯が介入していれば――現時点で多くの犠牲が生まれていただろうことは想像に難くない。

 

 加えて、スイムスイムは『触れるものを朽ちさせる』攻防一体の魔法を扱うソニアに対し、知略を巡らせ、リップルと協力して有効打を与えた。ピティ・フレデリカが魔王パムたちを監視していることさえ看破してみせた。

 

 

 スイムスイムは大して強くない。

 羽1枚でたやすく無力化できる程度の魔法少女。それが魔王パムの評価だ。

 だが、魔王パムの尺度では測れない何かがスイムスイムにはある。その何かが今まで魔法少女の命を守ってきた。悲劇を防いできた。

 

 ならば。スイムスイムに魔王パムの羽を与えれば。さらなる手段を与えれば。

 皆が散り散りになってしまった致命的な状況下でも、スイムスイムなら彼女たちの命を救えるのではないか。魔王パムは期待した。期待したからこそスイムスイムに賭けて、羽を貸し出すことにした。

 

 魔王パムの戦闘力が落ちてしまうデメリットと天秤にかけても、スイムスイムに羽を1枚、貸し与えることに価値を見出した。

 

 

「……」

 

 だだっ広い道路のど真ん中で魔王パムは立ち止まる。

 B市の外れ。人気のないこの場所ならば、B市の住民に被害は早々及ばないだろう。良い場所を見つけられた。

 

 

『逃げるのはもうおしまい?』

『うむ、待たせたな』

『じゃあ正々堂々、一対一で戦え!』

『よかろう』

 

 魔王パムの眼前でソニアが吼える。飛びかかってくる。

 敵を2名引きつけつつ、スイムスイムに力を貸した。魔王パムは仲間たちの生存確率を上げるために手を尽くした。後は――目の前の戦いに集中させてもらおう。

 

 どうせ付近に身を潜めている脱獄犯が横やりを入れてくるのだろうが、たとえ一時でも魔王パムにタイマンを張ろうとする挑戦者なんていつぶりだろうか。高揚感が魔王パムの心を染め上げていく。

 

 

(――さぁ、宴の始まりだ!)

 

 魔王パムとソニアは互いに心の底から我慾に満ちた笑みを浮かべた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇繰々姫(残り時間15時間25分)

 

(……どうしよう、ここから一歩も動ける気がしない)

 

 バレリーナ姿の魔法少女:繰々姫はマンションとマンションの間の路地裏で身を縮こまらせていた。頭を抱えて、膝を抱えて、震えているだけ。それが今の繰々姫だ。

 

 目を開けていても、目を閉じていても。

 繰々姫の視界には、あのつぎはぎだらけの服の魔法少女の笑顔が焼きついている。

 

 繰々姫があの恐怖の権化たる魔法少女を目撃したのはほんの数瞬だ。

 つぎはぎだらけの服の魔法少女がいきなり空中に現れたかと思えば、唐突に突風が吹き荒れ、繰々姫は問答無用で吹き飛ばされたからだ。

 

 でも。どこまでも純粋で、それでいて繰々姫たちをアリくらいにしか認識していないその表情は、繰々姫の心を酷く蝕んでいた。

 

 彼女が空中に現れる直前。

 キャプテン・グレースに『捜査班と協力して街を守る』ことを提案された時。繰々姫は生徒を想って、お父さんを想って、グレースの意見に賛同した。

 

 が、そんな気持ちは失せている。

 あんな怪物と戦えるわけがない。そもそも魔法少女になりたての一般人が、その道の専門家と協力して悪人から街を守ろうだなんて無茶な話だったのだ。

 

 

「ひっ!?」

 

 沈鬱な気分の中で地面を見つめていると、ふとコンクリートのひび割れが怪物の顔と重なり、繰々姫は弾かれたかのように跳び上がる。

 

 

(ダメ、このままあの怪物のことばかり考えてたら頭がおかしくなっちゃう。何か他のこと、他のことを考えないと……!)

 

 今の悲鳴を脱獄犯たちに聞かれてはいないだろうか。繰々姫は錯乱してしまいそうな心境をなけなしの理性でギリギリ抑え込みつつ、心を落ち着けるべく思考を切り替えようとする。

 

 と、その時。繰々姫の視界の端に1人の少女の姿が映った。

 郵便配達人のコスチュームを着た魔法少女:ポスタリィだ。ポスタリィは今も意識を失ったままで、繰々姫の隣ですぅすぅ寝息を立てている。

 

 

(それにしても……さっきはよくとっさに動けたなぁ、私)

 

 すさまじく怖い魔法少女が現れて、いきなり突風が吹き荒れて。思いっきり吹き飛ばされた繰々姫は自由に身動きの取れない空中で、半ば無意識の内に動いていた。

 

 まず『何本ものリボンを自由自在に操る』魔法を使って、繰々姫と同様に吹き飛ばされたポスタリィの体をリボンで巻きつけて引き寄せた。魔法少女の体は頑丈といえど、気絶したまま頭から地面に落下したら死にかねないとの危機感が、繰々姫の体を動かした。

 

 次に繰々姫はポスタリィの体を抱き寄せつつ、自身の背中にありったけのリボンを遣わした。リボンを束にして巨大なクッションを作り、繰々姫がマンションに激突した際の衝撃を和らげた。結果、繰々姫はポスタリィを守りつつ、自身は『ちょっと背中が痛いな』程度のダメージで急場を凌ぐことに成功したのだ。

 

 魔法少女素人なのに、よくもまぁ上手いこと対処できたものだ。

 

 

(自分の活躍を思い出してたらちょっと元気出てきた)

 

 我ながら小物メンタルが極まりすぎてはいないだろうか。

 情けないとは思うが、おかげで少しばかり精神を立て直せたので今は良しとしよう。

 

 元気が出てきたついでに、隠れるのはやめよう。みんなと合流しよう。

 このまま繰々姫がポスタリィと2人で身を潜めていたって、事態は何も好転しない。脱獄犯たちに見つかれば、繰々姫とポスタリィはただでは済まない。

 

 これが繰々姫1人だけであれば、多少メンタルが回復した程度で動こうとはしなかっただろう。しかし繰々姫は今、ポスタリィの命も背負っている。繰々姫に勇気が足りないせいで、生徒の命が喪われるなんてことがあってはならない。

 

 

「よし……!」

 

 繰々姫はポスタリィを背負って、路地裏から恐る恐る顔を出す。敵がいないことを目で、耳で慎重に確認してから一歩を踏み出して――そこでレイン・ポゥと目が合った。

 

 

「???」

 

 わけがわからなかった。

 だってレイン・ポゥは、魔王パムが捕まえたはずだ。

 そこでレイン・ポゥが暗殺者だと判明して、ポスタリィがそのことを否定して暴れて、魔王パムに気絶させられて――なのにどうして、レイン・ポゥが目の前にいる??

 

 レイン・ポゥの虹色コスチュームの胸元から妖精トコが顔を出している。

 レイン・ポゥは右腕でウェディンを抱えている。ウェディンは頭から血を流しており、意識がなさそうだ。

 

 

 まるで思考が追いつかず、それでも繰々姫の体は再び勝手に動いていた。

 背後へとリボンを伸ばす。路地裏の電柱にリボンを巻き、地面を蹴ると同時にリボンを引く。そうすることでより速く、より立体的に逃走できる。

 

 

「逃がさないから」

 

 が、レイン・ポゥが苛立ちまじりの言葉を吐くと同時に、繰々姫と電柱とを繋ぐリボンが、実体のある虹で断ち切られる。レイン・ポゥの魔法だ。

 

 頼みのリボンを失い、空中でバランスを崩した繰々姫のその顔を、レイン・ポゥが蹴り抜いた。

 

 

「ッ!!?」

 

 繰々姫の眼前に地面が迫る。繰々姫はポスタリィを庇うために彼女を腕に抱き――刹那、激しい衝撃が繰々姫を襲った。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 

「これで必要なメンバーはそろったね。さっさと偽の暗殺者を作ろう」

 

 逃げなければいけない。なのに思考は痛みを訴えるノイズを垂れ流してばかりで、体も思うように動かない。レイン・ポゥが音もなく繰々姫に近寄り、拳を振り上げる。

 

 欠片も躊躇せずに繰々姫に暴力を振るおうとするレイン・ポゥの眼差しは氷よりも冷たくて。繰々姫は真の意味で、レイン・ポゥが魔法の国を震撼させた凶悪な暗殺者なのだと実感させられた。

 

 

 だれかたすけて(お父さん……!)

 

 声にならないまま助けを求めたのを最後に、繰々姫の意識は闇に閉ざされた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇トットポップ(残り時間15時間28分)

 

 人生はとにかく面白い。

 トットポップの一生では味わい尽くせないほどたくさんの興味深いモノで世界中が満たされているからだ。宝の山で思いのままに過ごせる人生が楽しくないわけがない。

 

 トットポップは特にバンド活動が好みだった。が、このバンド活動は必ずしも音楽を奏でることを意味しない。気の良い連中と一緒にロックなことをやれれば、それがバンド活動だ。

 

 だから腐った魔法の国に革命をもたらす反体制派の活動もトットポップは気に入っていた。反体制派のリーダーとして仲間を率いて巨悪をくじく。心躍る旋律だ。トットポップの人生は充実していた。

 

 そんなトットポップの人生は本日、激動を迎えていた。

 反体制派のパトロンは魔法の国のとある部門が飼っている暗殺者を捕まえて、大々的に告発することを望んでいた。暗殺者を魔法の国の不正の生き証人として利用したがっていた。

 

 パトロンは反体制派を使って、封印刑から師匠(フレデリカ)を解放するための手回しを行った。暗殺者が逃げ込んだB市が、魔法的なものを一切通さない結界で隔離された以上、師匠の魔法で結界を攻略する必要があったからだ。

 

 万全なお膳立てを背景にトットポップたちは師匠を脱獄させる。『自由』を報酬にして師匠にトットポップたちに従ってもらい、師匠とともにB市に入り込み、暗殺者を捕まえる。当初はその予定だった。

 

 が、師匠は何を思ったのか。師匠と同じ刑務所で封印されていたプキンとソニアも解放させた。そして、師匠はトットポップ以外の反体制派をあてにせず、トットポップ・プキン・ソニアだけでB市の暗殺者を捕まえる道を選んだ。

 

 

 プキンもソニアもトップクラスに危ない奴だ。

 1回でも地雷を踏んだらトットポップの命が消し飛ぶ。

 実際、プキンは己の『我輩』という一人称をバカにした反体制派の2人の首を斬り落とした実績を持っている。

 

 けれど、プキンとソニアと過ごす時間は格別に刺激的で、非常にロックだった。

 プキンは話してみたら気の良い奴だった。正義のためなら己の手を汚すことも厭わない、人情に篤い女傑だった。ソニアとはまだそこまでサシで話せていないが、プキンが気に入る人物だ。掘ってみればもっともっと面白い内面を見つけられるに違いない。

 

 素敵な師匠とイカれたメンバーと一緒にB市でセッション。

 標的は冷酷な暗殺者。もうとにかく楽しくて仕方なかった。

 

 

 トットポップの料理をたらふく堪能したプキンとソニアが怪我をほぼほぼ治した折。単独行動をしていた師匠が戻ってきた。そしてまもなく暗殺者を捕まえる作戦が決行された。

 

 師匠は生きている人の髪の毛があれば、その者を水晶玉に映し出すことができる。加えて、水晶玉に投影した光景に介入できる。

 

 師匠はプキンが操っている兎耳の魔法少女の髪の毛を所持していた。

 兎耳の魔法少女の姿を映し出し、そこにソニアを放り込んで奇襲を仕掛けた。

 

 ソニアの『さわったものをすぐにボロボロにする』魔法を全方位に展開し、魔法少女の集団を瓦解させる。それからプキンとソニアは、現代最強の魔王パムを殺して暗殺者の身柄を確保する。師匠とトットポップと羽菜(洗脳中)は、プキンとソニアに邪魔が入らないように、他の魔法少女を殺して露払いする。その手はずだった。

 

 

 作戦はもう始まっている。

 けれど師匠は廃ビルの屋上でニコニコ笑顔で眼下の街並みを眺めているだけだ。

 

 

「ねぇ師匠」

「なんでしょう?」

「師匠って封印刑が好みなの?」

「いいえ、大嫌いです」

「ならどうして作戦をサボってるのね?」

「サボってなんかいませんよ。他の魔法少女を見つけるためにビルの屋上に移動し、地上を観察する……とても理にかなったやり方でしょう?」

「師匠は兎耳の髪の毛を持ってるんだから、まず兎耳のとこへ移動すればいいのね。そうすりゃ他の魔法少女なんてすぐに見つけられるのね」

「確かにそうですね。私としたことがうっかりしていました」

「それで? 移動しないの?」

「これまたうっかりですが、あの子の髪の毛を無くしていることにたった今気づきました。もったいないことをしてしまいました。思いのほか、封印刑の影響で体がなまってしまっていたようです」

 

 そんなわけがない。

 人の髪の毛を、とりわけ魔法少女の髪の毛を心の底から愛する師匠が兎耳の髪の毛を無くすなんてありえない。というかさっきソニアを放り込んで奇襲する時に兎耳の髪の毛を使ったというのに、どのタイミングで無くしたというのか。

 

 どういうわけか師匠は、己が提示した作戦に積極的に関わるつもりがないようだった。

 

 

「師匠、トットたちも動くね」

「どうして?」

「どうしても何も、トットたちが『作戦で役立たずでした』ってなったらプキンに殺されちゃうからね。こんな中途半端なところでジ・エンドはお断りね」

「殺される前に逃げればいいでしょう。私にはそれができます。当然、あなたも連れていきますよ」

「たとえ逃げられたって、トットたちが作戦をサボったせいで暗殺者を捕まえられなかったら、反体制派リーダーとしてのトットの立場がなくなっちゃうね」

「その時は辞めればいいでしょう?」

「……」

 

 トットポップは師匠のことが本格的にわからなくなってきた。

 師匠は弟子の意思に拘泥しない。弟子を自分の望む方向へと裏で誘導することはあっても、こうも露骨に弟子の意思を邪魔してくることはない。そのはずだ。なのに今の師匠は、トットポップの革命活動を妨害しようとしている。

 

 

「師匠、どういうつもりね?」

「気分を害してしまったのなら申し訳ありません。……これは引き抜きです。やりたいことができましたから、気心の知れた仲のあなたの力が欲しくなったのです」

「……そーゆーことね。目を付けられた魔法少女はかわいそうなのね」

「ふふふふ」

 

 師匠のことがわからなくなってきたと思ったが、気のせいだった。

 師匠はどこまでもいつもの師匠だった。

 

 どうやら師匠には新しい『推し』ができたようだった。

 『推し』をより自分好みに、理想の魔法少女に近づけるために暗躍する方針らしい。

 

 

「それで、どうですか? しばらく私に付き合ってはくれませんか?」

 

 師匠がトットポップを見つめて問いかけてくる。

 気を抜けば吸い込まれてしまいそうな、濁った闇の瞳だ。

 

 反体制派として革命を夢見て活動する日々はとても楽しかった。

 が、トットポップ的に少々マンネリ化しているのも事実だった。

 

 師匠と弟子として。あるいは師匠と弟子の垣根を越えて、互いに1人前の魔法少女として協力し合う。それもまた、新しいバンド活動になりそうだ。

 

 

「うぃっひっひっひ。面白そうだから乗るね」

「ありがとうございます。頼もしいですよ」

「むふー」

 

 トットポップが師匠の誘いに応じると、師匠はご褒美とばかりにトットポップの頭をよしよしと撫でてくる。トットポップはこれに弱いのだ。多幸感がトットポップを包み込んでいく。

 

 

「――ッ」

 

 と、ここでトットポップは血濡れの斧に似た形状をしたギターをかき鳴らした。トットポップの『魔法のギターで実体のある音符を生み出せる』魔法で生み出した、四分音符と八分音符の波が、迫りくるクナイの群れを防ぐ壁として機能する。

 

 

 トットポップたちの前に1人の少女が音もなく着地する。

 それは露出が多めな忍者のコスチュームで着飾った魔法少女だった。

 

 

「お久しぶりですね、リップル。また会えて嬉しいです」

「私はお前の顔なんて二度と見たくなかった」

 

 忍者は師匠の挨拶を冷たく突き放し、間髪入れずにクナイを投擲した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇テプセケメイ(残り時間15時間24分)

 

 魔法少女の力は偉大だ。

 メイがメイであることを教えてくれたからだ。

 

 魔法少女になる前のメイは、ただ限りある生を消費しているだけの存在だった。世界の広さを知らず、居住スペースから一切移動せずに、慢性的な飢餓感や睡魔と付き合うだけの存在だった。

 

 魔法少女になって初めてメイは自由を知った。話す、聞く、かじる、飛ぶ、跳ねる、噛む、叩く、転がす。メイがやりたいと思えば叶う。この全能感は病みつきになる。

 

 魔法少女の力は偉大だ。

 力をくれたトコ……トコ?には感謝している。

 

 だからメイは、メイと同じ立場となった仲間たちとともに、トコの言う『悪い魔法使い』を倒すことに積極的だった。それが魔法少女の力を奪われない条件ならば、メイがトコの命令に従わない理由はない。

 

 が、ここへきて状況がまるでわからなくなってきた。

 一体誰が敵で、誰が味方なのか。

 

 最初は、ウェディンと繰々姫とポスタリィとレイン・ポゥとキャプテン・グレースとファニートリックとトコとヘンタイが味方で合っていたはずだ。

 

 でもそこから味方が増えた。兎耳や忍者は敵だったはずだけど味方になった。メイを凍らせて殺そうとした黒い羽の人も味方になった。ゴーグルの人とマントの人も味方になった。

 

 なぜかレイン・ポゥ?が黒い羽に包まれたり、ポスタリィ?が黒い羽の人にしばかれたりしていたが、ウェディンたちが事を構える様子がないので、この場の人間はすべて味方、ということで良かったはずだ。

 

 

 メイがヘンタイに空を泳ぐ素晴らしさを説いたり、新しい仲間の特徴を覚えようとしたりしていると、眼力の強い人がいきなり空中に現れて。黒い羽の人から強烈な突風をぶつけられた。

 

 メイは風と同化できる魔法少女だ。

 何体にも分身できるが、あまりに数を増やしすぎると存在が希薄になる。自我が薄れ、たぶん消滅してしまう。

 

 黒い羽の人の突風に直撃したメイは意図せず分裂し、幾多の分身を生み出しながら吹き飛ばされていた。もう少し突風の威力が強ければメイはメイでなくなっていたと思う。

 

 なぜ攻撃されたのかがわからない。

 黒い羽の人は敵から味方になったはずなのに、また敵になったのか?

 黒い羽の人のことがまるでわからない。とりあえず、金輪際近づきたくない。

 

 

 B市上空で、メイはふよふよ浮きながらあぐらをかく。

 散り散りになっていたメイの分身たちがだんだんメイへと集まってくる。分身が目撃した情報がメイに集約され――メイは現状がとても混沌としていることを突きつけられた。

 

 何もかもがわからない。

 わからなければ聞くしかないが、誰に聞けばいいのかもわからない。

 

 メイが困っていると、ふと数時間前の出来事を思い出した。

 謎の連中が現れて、グレース?が船を出して逃げている最中のことを、みんなが困っていた時のことを思い出したのだ。

 

 その時、ポスタリィ?はヘンタイと合流することを提案した。そのためにヘンタイが身に着けていた白い布に翼を生やして、ヘンタイの居場所へと飛ばした。

 

 ポスタリィ?はメイより物を知っている。

 そのポスタリィ?は、あの時ヘンタイを望んだ。

 困った時はヘンタイに頼る。きっとそれが正解だ。

 

 すべての分身と合体し終えたメイは、ヘンタイの下へ飛んだ。居場所は分身の1人が目撃している。合流は容易だった。

 

 

「ヘンタイ」

「私は変態じゃない」

「テプセケメイさん! よかった、無事だったんですね!」

 

 メイはヘンタイの眼前に着地する。ヘンタイはゴーグルの人と行動を共にしていたらしい。ヘンタイは右手に、言葉に言い表しがたい何かを装備している。なんだあれは。

 

 

「メイは誰が味方で誰が敵かがわからない。だから聞きに来た」

「うん。私にわかることなら答える」

 

 あの謎の武器は気になるが、まずはヘンタイと合流した目的を果たすのが先だ。メイは分身たちの目撃情報を改めて整理しながら、ヘンタイとゴーグルの人に1つ1つ報告していく。

 

 

★報告①

テプセケメイ「あっちで忍者と丸い物持ってる人とトゲトゲしている人が戦ってた」

7753「ええと、忍者はリップルさんですよね? あとの2人は誰でしょう?」

スイムスイム「たぶん、ピティ・フレデリカとトットポップ。丸い物はフレデリカの水晶玉で、トゲトゲはトットポップのコスチュームっぽいから」

 

★報告②

テプセケメイ「こっちで黒い羽の人と眼力の強い人が戦ってた。近くに細い剣を持ってる人が潜んでた」

7753「これは魔王パムさんと……ソニア・ビーンとプキンでしょうか」

スイムスイム「おそらく」

 

★報告③

テプセケメイ「そっちには色々いた。虹色のウェディンが、頭が燃えてるウェディンとビンタされたウェディンとリボンのウェディンを担いでどこかへ向かっていた」

7753「え、え? 今、何て言いました?」

スイムスイム「頭が燃えてるウェディンは本物。ウェディンの頭のヴェールには燃えている蝋燭があるから。ビンタされたウェディンはポスタリィ、リボンのウェディンは繰々姫」

7753「……スイムスイムさん。虹色のウェディンってまさか――」

スイムスイム「――レイン・ポゥが魔王パムの拘束から抜け出している」

 

★報告④

テプセケメイ「向こうで兎耳とゴレイヌが戦ってた」

7753「ゴレイヌ?」

スイムスイム「キャプテン・グレースのことかも。グレースとゴレイヌ。少し語感が似てるから」

7753「よくわかりますね……」

テプセケメイ「近くにマントの人とウェディンがいた」

7753「またウェディンさん!? 一体何人ウェディンさんが登場するんですか!?」

スイムスイム「マントの人はマナで、このウェディンはファニートリックだと思う」

 

 

 メイが報告をすべて終えると、スイムスイムはしばし思案した後、口を開く。メイにはわからないことをこれから教えてくれるのだろう。

 

 

「まとめると――いつ誰が死んでもおかしくない状況が4か所で同時に発生している」

「どうしてグレースと羽菜が戦っているのかとか」

「どうしてレイン・ポゥが自由になっているのかとか」

「どうして暗殺者の身柄が目的のはずの脱獄犯がレイン・ポゥを野放しにしているのかとか」

「気になることはたくさんある」

「でも、疑問を解消するために推理している時間はない」

「幸い私たちは敵に襲われていない。自由に動ける」

「私たちが優先順位を見極めて、1つ1つ対処しないと――仲間が死んでしまう」

「今から作戦を話す。問題点があったら教えてほしい」

 

 ヘンタイが作戦をメイとゴーグルの人に共有し始める。

 メイはゴーグルの人の表情を真似しながら、ヘンタイの話に耳を傾ける。

 

 ヘンタイの話は大部分がわからなかったが、『誰が敵で誰が味方なのか』や『メイがやるべきこと』はメイがわかるように伝えてくれた。つまり、メイがわからなかったことはメイがわからずとも問題ないことなのだろう。

 

 でも、その作戦は――。

 

 

「この作戦、どう思う?」

「良いと思います。私がまるで役に立てないのは申し訳ありませんが……」

 

 ゴーグルの人は作戦に賛同している。

 でもその作戦は嫌だ。すごく嫌だ。

 

 

「テプセケメイさんが露骨に嫌な顔をしていますね」

「メイはメイを失いたくない」

「もしもメイが作戦に協力してくれたなら、今度一緒に空を泳いでも良いよ。その時、空の良い所も教えてほしい」

「わかった。メイはとてもやりたくないが我慢する。メイは強いから我慢できる」

「すごい手のひら返しですね」

 

 メイがメイになってからというもの、メイを待ち受けていた世界は『わからない』であふれていて、メイは人に尋ねてばかりだった。

 

 人から教えてもらうのもいいが、メイ自身が誰かに何かを教えられる機会を得られるのはとても魅力的だ。それがメイが好む『空』のことならなおさらだ。

 

 

「じゃあ、動くよ」

 

 ヘンタイはメイに道を示してくれた。

 メイは頼まれたことを完遂するのみだ。

 

 メイはふわりと浮遊し、いくつか分身を生み出してあちこちに派遣しつつ、上空からヘンタイとゴーグルの人の後を追い始めた。

 

 




次回 第30話
『存在しない記憶』
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