その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問30.魔法とは別に、誰とでも距離を詰めて親しくできるチート属性を持っているトットポップと相対した時、トットポップに心を開くことなくやり過ごす方法を述べよ。ただし、諸々の都合で最低1時間はトットポップの話し相手をしなければならないものとする。



第30話 存在しない記憶

 

◇キャプテン・グレース(残り時間15時間15分)

 

 B市某所の路上にて。

 キャプテン・グレースは付近に転がるコンクリートブロックを次々と下克上羽菜めがけて蹴り飛ばす。羽菜はコンクリートブロックをすべて紙一重で回避する。グレースは半ばへしゃげたカーブミラーのポールを引っ張り上げて羽菜へ投擲する。羽菜は余裕そうに横っ飛びで回避する。

 

 グレースはなるべく羽菜を近づかせないように立ち回っていた。マナ曰く、羽菜の『感覚をものすごく鋭くできる』魔法を行使できる範囲は、羽菜から半径3メートル以内。うかつに飛び込めば羽菜に刈り取られるだけだからだ。

 

 何を考えているのか、羽菜もグレースと距離を詰めようとする気配はない。グレースと同様、羽菜も身近な街路樹や郵便ポスト等を引っこ抜いてグレースへと投げ飛ばしてくるばかりだ。それゆえグレースと羽菜の戦いは奇妙な均衡を保っていた。

 

 

 グレースは今まさに、自身が焦がれていた大冒険の中心にいる。

 魔法と出会い、魔法少女になり、強敵と戦う。日頃夢想していた冒険とジャンルは違うが、これも紛れもなく大冒険の一幕だ。けれどグレースはまったく楽しくなかった。

 

 グレースの脳裏にはずっと同じ光景がこびりついている。いきなり空中から謎の魔法少女が現れて何か攻撃を仕掛けてきた際に、ファニートリックがグレースを突き飛ばして庇った時の光景だ。

 

 ファニートリックは必死ながらもグレースを見てどこか安心したような瞳をしていて、次の瞬間にファニートリックの両目がどす黒い何かに染まった。かと思えば、グレースはこれまた謎の突風に襲われてファニートリック共々吹っ飛ばされて――気が付いた時には両目と半身がドロドロに腐り落ちていたファニートリックを両手で抱えていた。そんな光景だ。

 

 朝起きた時、『今日は最高の日になる』と思った。

 なにが最高の日だ、ふざけるな。あたしのせいで佳代が死ぬ。こんなことが最高の日であってたまるか。大切な相棒が死にかけるだなんて、こんな冒険は求めちゃいなかった。

 

 

「…………」

 

 グレースに電柱を投げ飛ばしてきたのを最後に、羽菜の動きがピタリと止まる。ここまで積極的に仕掛けてこなかった羽菜の異変。グレースは警戒を高める。

 

 

「さっきの不意打ちは偶然だったようですね」

「は?」

「いくら私がマナ班長に夢中になっていたとはいえ、私の隙を的確について殴ってきた以上、警戒していたのですが……いささか慎重になりすぎましたね」

 

 羽菜は軽く息を吐くと、冷笑を浮かべた。

 

 

「あなた程度の実力じゃプキン将軍閣下はもちろん、私にも勝てません。それをこれから教えてあげます。授業料はあなたの命ということで」

 

 羽菜が一気に駆け寄ってくる。グレースは距離を取るべく駆けるも、グレースの努力むなしく羽菜との距離を詰められてしまう。

 

 路上とはいえ、ここでは『すごくかっこいい魔法の船』は召喚できない。魔法の船を使えば、道路沿いの建物に被害が及ぶ。今までの道路上の物を投げ合う蹴り合う戦闘の中で生じる器物損壊では済まない。人が死にかねない。

 

 それゆえ、羽菜の接近を防ぐ術はない。羽菜に魔法を行使されることを承知の上で、近接戦を制するしかない。グレースは片刃剣(カトラス)を抜いた。

 

 

 そのカトラスを鞘から抜いた音が、グレースの鼓膜を激しく突き抜けた。グレースは歯を食いしばって耳を襲う爆音を耐え忍び、いつの間にか目と鼻の先にいた羽菜にカトラスを振るう。が、カトラスは空振りに終わった。

 

 羽菜が風切り音を轟かせながらグレースの首へ蹴りを放つ。回避は間に合わない。グレースは右腕で蹴りを防ぎ――まるで全身を槍で貫かれたかのような強烈な痛みがグレースをたたみかけた。

 

 

「い゛ッ!?」

 

 グレースがあまりの激痛に硬直していると、羽菜はグレースの頭をつかんで道路に叩きつける。グレースに怒涛の勢いで激烈な痛みが襲いかかり、頭の処理が追いつかない。

 

 このままでは意識を失ってしまう。

 それはダメだ。グレースが戦えなくなれば、自分だけじゃない。佳代が殺される。

 

 

「あああああああッ!!」

 

 グレースは叫んだ。己の叫びで耳が壮絶な痛みを訴えようとも構わずに、羽菜の体にカトラスを突き刺そうとする。羽菜が跳び上がってカトラスから逃れたのを見ると、腰に提げているフック鉤を投げ飛ばす。

 

 視界が信じられないのなら別のものを信じる。グレースがフック鉤を投げて、羽菜がそれを弾き飛ばす。それまでにかかった時間が彼我の距離だ。

 

 羽菜がフック鉤を蹴り飛ばす音がグレースの脳を揺らそうとも気合いで捻じ曲げて、グレースは羽菜へ飛び込んでカトラスを振るう。が、カトラスがグレースの手からすっぽ抜けた。グレースはしっかりカトラスを握っていたつもりだったのに、力がまるで足りていなかった。

 

 

「残念でした」

 

 グレースは空を飛んでいた。否、羽菜の蹴撃で空に吹っ飛ばされていた。刹那、グレースはあたかも自身の傷が回復魔法で癒されたかのような錯覚に陥った。グレースは理解した。今の己は、羽菜の魔法の範囲外にいる。グレースの体の傷が痛みを過剰に訴えなくなっている。

 

 羽菜がグレースを追撃するべく跳び上がる。グレースは空中に魔法の船を召喚して、羽菜の進路を封じる。それから魔法の船が建物を潰してしまう前に送還し、グレースは地面に着地した。グレースの頭から滴る血がパタタと地を染めていく。

 

 

(あれが、あれがあいつの魔法……)

 

 さっきまで自分の体なのに自分の物じゃないみたいだった。

 これが羽菜の、魔法の世界で死線をくぐり抜けてきたであろう者の本領。まだグレースが生きているのは、羽菜が遊んだか、偶然に過ぎない。

 

 まさかここまで両者に実力差があるとは思わなかった。こんなことなら、さっき羽菜を一発殴った時にそのまま追撃して、決着をつけるべきだった。

 

 けれど、あの時のグレースはファニートリックが己を庇って死んでしまったと勘違いし、酷く動揺していた。激情を叫び散らすことしかできなかった。

 

 つくづく詰めが甘い。

 その詰めの甘さがファニートリックを瀕死に追い込んだし、キャプテン・グレースを死に追い込んでいる。

 

 

 グレースは調子に乗っていた。己に酔っていた。

 何が『捜査班と一緒に街を守る』だ。馬鹿げてる。

 結局、グレースはファニートリックに守られただけだ。

 

 だが、まだ手遅れではない。マナは『ファニートリックが生きている』と言ってくれた。『ファニートリックを治療する』と言ってくれた。

 

 嘘かもしれない。本当は佳代は死んでいて、マナは保身のために、グレースを動かすために嘘をついたクソ野郎なだけかもしれない。

 

 けれど今は信じる。信じなければ、グレースの心が折れてしまう。折れてしまえば、グレースもまた羽菜に殺されるだけだ。

 

 相棒が守ってくれた命を無駄にしてはならない。

 グレースは生き残る。佳代も守ってみせる。

 

 

(でも、どうする? どうすればこいつに勝てる??)

 

 羽菜が「頑丈ですねぇ」と呟きつつも、グレースとの距離を詰めるべく一気に駆け寄ってくる。グレースはもうまもなく羽菜の魔法の範囲内に入ってしまう。

 

 ただ戦うだけではなぶり殺しにされるだけだ。それはよくわかった。だから何かしなければいけない。策を講じなければならない。何か――。

 

 

「ちぃッ!」

 

 羽菜と接敵するその一瞬では、さすがに策を思いつけない。グレースは舌打ちとともに思考を中断して、羽菜に応戦するべく足を踏み出した。

 

 

 

 

 刹那。

 

 地面から手が伸びた。

 スラリとした細い手だ。

 その手は羽菜の右足を力強くつかんだ。

 

 

「え」

 

 羽菜が目を見開き、バランスを崩してその場に倒れそうになる。

 

 グレースも羽菜と同様に目を見開いていた。

 こんな芸当ができる魔法少女を、グレースは1人しか知らない。

 

 

 

――私は『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を使える。

――どんなものにも? それって例えば、地面を潜ることはできますか?

――できる。

 

 スイムスイムとウェディンの会話が脳裏によみがえる。

 

 

 

 

(あんた、さいっっっっっこうよ! スイムスイム!!)

 

 気づけばグレースは獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

 ただ迫られるままに羽菜と戦っていればグレースは負ける。

 何かをしなければならない。その何かをスイムスイムが担ってくれた。羽菜が第三者の介入の可能性を捨ててグレースを殺そうとするタイミングで戦闘に介入してくれた。

 

 こんなの、グレースの相棒そのものじゃないか。

 

 あたかもずっと親友だったかのような。佳代と合わせて3人でハチャメチャ大冒険をやっていたかのような。そんな気しかしない。不思議な感覚だ。存在しない記憶なのにすごくしっくりくる。心地良い錯覚がグレースの体を包み込む。

 

 

 やってやる。

 最高のタイミングで最高のアシスト。

 これで勝てなきゃ嘘だッ!

 これで勝利をつかみ取れなきゃそんな雑魚は芝原海のまがい物だッ!!

 

 

「しゃああああああああああ!!」

 

 グレースは雄たけびとともに羽菜へと詰め寄る。体勢を立て直そうとする羽菜の顎に渾身の蹴りを叩き込む。羽菜の体は宙へ飛ばない。スイムスイムが羽菜の右足をつかみ続けているからだ。羽菜の体は不自然な軌道をたどって背中から地面に叩きつけられる。

 

 

 さっきのグレースはさすがにらしくなかった。

 策を講じないととか。何かをしないととか。そんな小難しいのはグレースの担当じゃない。今回はスイムスイムが担ってくれる。だったらグレースは、芝原海らしさを貫き通す。グレースは羽菜の間合いに入り込み、拳を繰り出す。

 

 

「このッ……!」

 

 羽菜が立ち上がりつつ地面を睨む。同時にグレースの視覚が、聴覚が、嗅覚が、味覚が、触覚が、あらゆる感覚がぐちゃぐちゃにかき乱される。おそらく地面に潜るスイムスイムも同様に羽菜の攻撃を受けている。

 

 だが、そんなものは関係ない。

 グレースはもう五感なんて頼らない。

 

 スイムスイムが羽菜の足をつかんでいる。

 羽菜の位置を固定させている。

 

 スイムスイムが羽菜の魔法に耐えてくれる限り、羽菜はずっと『そこ』にいる。その事実さえあれば、他はなにもいらない。

 

 

 グレースは『そこ』に向けて殴りつける。蹴りつける。膝を叩き込む。

 カトラスなんか必要ない。あたしは今まで徒手空拳で戦ってきたんだ。

 

 『そこ』に敵がいる。だからぶっ飛ばす。外野が何を言おうと気にしない。あたしと相棒が楽しければそれでいい。それが海のスタンスだった。今回は珍しく、己の五感も外野側にいるだけだ。あたしのやりたいことに邪魔はさせない。

 

 

 グレースは戦う、戦う、戦う戦う戦う戦う。

 がむしゃらに『そこ』へ拳を連打する。攻撃が単調にならないようフェイントを挟む。裏拳、肘、かかと落とし、噛みちぎる。手を変え品を変え『そこ』が対処に失敗しそうな変則的な攻撃を織り込んでいく。海が十数年の人生でモノにした戦闘技術の全てを『そこ』に投じていく。

 

 五感は信じていない。が、確かな手ごたえを感じている。あと一撃だ、あと一撃喰らわせれば勝てる。芝原海がそう確信しているのだから間違いない。それ以外の根拠は必要ない。さぁ、トドメを刺せ。

 

 グレースは右手を大きく振り上げ、しかし攻撃を行えなかった。右腕が言うことを聞かない。壊されたか? だが関係ない。これはエサだ。本命は――。

 

 

(これで終いよ!)

 

 グレースは『そこ』へ渾身の頭突きをお見舞いした。

 グレースと『そこ』を中心に衝撃が伝播し、周囲の街路樹をざわめかせる。

 

 

 グレースの手ごたえが正しければ、今ので決着がついたはずだ。

 グレースは外野に追いやっていた五感を己が身に戻す。魔法で狂わされている感覚はない。右腕はバキボキに折れてはいるが、どうにかくっついている。

 

 グレースの足元には着物を血で汚した羽菜が転がっている。力なく地面に倒れる様子は、グレースが羽菜を打倒した事実の証明に他ならなかった。

 

 羽菜は息があるようだ。正直、羽菜を殺さずに倒す余裕なんてなかった。生きていてくれて良かった。これでマナの望みも叶えられた。戦果は上々だ。

 

 もうスイムスイムの手は地面から生えていない。

 どこへ行ったのだろうか。感謝を告げたくて仕方がなかったというのに。

 死んだはずはない。だってスイムスイムはグレースのもう1人の相棒なのだから。

 

 そうだ、佳代の治療はどうなっただろうか。

 いや、待て。羽菜を倒して、それで終わりじゃないだろう。他の敵が佳代を見つけて襲うかもしれない。急いで戻らないといけない。急いで。

 

 

「……ぁれ」

 

 踏み出した足に力が入らず、グレースはその場に倒れる。

 急激に眠気が襲い、グレースは気力を結集して耐えようとするも抗えず、グレースの意識は否応なく闇へ閉ざされた。

 

 

 

◇◇◇

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間15時間09分)

 

 

【悲報】ピティ・フレデリカ氏、だいぶやってる【黒幕ムーブに余念のない女】

 

 これがボクがテプセケメイから状況を報告してもらった時の心境だった。

 

 

 だって、ボクたち魔法少女の集まりにソニア・ビーンという名の爆弾を放り込んで『触れるものを朽ちさせる』魔法を全方位に行使させて、ボクたちをまとめて殺そうとしてくるし。

 魔王パムが羽で全身グルグル巻きに拘束していたはずのレイン・ポゥを解放して、上手いことレイン・ポゥを抱き込んで良いように使っているのも、魔法の性質からしてフレデリカっぽいし。

 暗躍しまくりである。

 

 その結果が、いつ誰が死んでもおかしくない状況が4か所で同時に発生した現状である。

 過去にわかりやすく悪行を重ねたプキンやソニアよりも、いっそフレデリカの方がヤバい奴なのでは? ボクは訝しんだ。

 

 

 そのような印象を抱きながらも、ボクは悲劇を防ぐために速やかに優先順位をつけて、仲間たちを助ける作戦を決行した。なお、ボクが定めた優先順位は以下のとおりだ。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

――助けるべき味方の魔法少女の優先順位――

 

 作:スイムスイム

 

 

第4位 リップル

 

 リップルはピティ・フレデリカとトットポップの2名と戦っている。戦力差を考慮すれば一見、助ける優先順位が高いように感じられる。

 

 だが、この世界はあくまで『魔法少女育成計画(まほいく)』というライトノベルの世界だ。読者の人気がなければまほいくシリーズを何冊も刊行できないし、アニメ化にもこぎつけられない。

 

 リップルはスノーホワイトと並ぶ、まほいく第1部の貴重な生き残りだ。まほいくシリーズの人気を支える柱の1つとして機能しているはずだ。いくら魔法少女の命が軽いまほいく世界だろうと、リップルはそう易々と殺せないはずだ。

 

 仮に作者様がリップルを殺すとしても『スノーホワイトが知らないうちにあっさり殺す』なんてことはさすがにありえない。よってスノーホワイトが関与していないB市の騒乱でリップルはまず死なないと断定していい。リップルは後回しにしていい。

 

 

第3位 魔王パム

 

 魔王パムはソニアと戦っている。付近にプキンが潜伏しているとのこと。

 いずれプキンが戦線に加わり、魔王パムが歴史上の大悪党2名を相手取らないといけなくなる状況だが、魔王パムも助ける優先順位は低い。

 

 魔王パムの強さはボク自身思い知っているし、プキンをいともたやすく退けたシーンも目撃している。加えて、ボクに羽を1枚飛ばしてきたのだ。魔王パムが羽を1枚失ってもソニアとプキンに勝てると、彼女自身が判断したのだろう。なのでそこまで心配はしていない。

 

 しかしリップルと比べると、魔王パムは作者様が殺しやすい魔法少女だろう。

 万が一のことがある。例えば、フレデリカがレイン・ポゥ拘束用に使っている羽の中に超強烈な爆弾でも仕込んで魔王パムを爆発させるとか、そんなことがあるかもしれない。

 

 魔王パムがプキンの剣で操られてしまう可能性も否定できない。

 魔王パムが敵に回ってしまえば、ボクたちは本格的におしまいだ。あまり心配はしていないが、それでも余裕があるならボクが介入して、魔王パムを手助けした方が良い。尤も、魔王パムの足を引っ張らないように、細心の注意を払って介入しないとなのだけども。

 

 

第2位 繰々姫・ウェディン・ポスタリィ

 

 繰々姫・ウェディン・ポスタリィは全員気絶しており、レイン・ポゥによりどこかへと運ばれている。3人を殺さずにどこかへ運ぶということは、3人に利用価値を見出しているということだ。

 

 レイン・ポゥが3人を使って何を企んでいるのかはわからない。

 だが、レイン・ポゥの企みが成就するまでに幾ばくかの余裕はあるはずだ。

 

 それにレイン・ポゥが現在、どこにいるかがわからない。

 3人を助けたいと思っても場所がわからなくてはどうしようもない。

 

 それゆえ3人を助ける優先順位は第1位の次にせざるをえない。 

 ボクが優先順位第1位の人を助けている間にテプセケメイにレイン・ポゥの居場所を調査してもらう。

 

 

第1位 キャプテン・グレース or 下克上羽菜

 

 キャプテン・グレースと下克上羽菜はなぜか戦っている。原因はおそらく、どちらかがプキンに操られているからだろう。その操られている者が提供した髪の毛を使って、フレデリカが魔法でボクたちにソニアを放り込んだと考えるのが自然だからだ。

 

 グレースが操られているのか。羽菜が操られているのか。それはわからない。

 

 けれど、もしも羽菜が操られているのならグレースの身が非常に危ない。

 もしもグレースが操られているのなら、羽菜は比較的安全だとしても、グレースが羽菜を殺すために魔法の船を乱発しまくってB市を壊滅に追い込みかねない。

 

 どちらにせよ、真っ先に介入すべきはグレースと羽菜の戦闘だ。

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 ということで、ボクと7753はテプセケメイと一旦離れて、グレースと羽菜の戦場へとたどり着いた。そこで7753の『相手の能力がわかる魔法のゴーグル』で2人を観測してもらい、羽菜が操られていると知った上で、グレースを助けるべく戦場に介入した。

 

 ボクがやったのは、地面に潜って羽菜の足をつかむことだけだった。

 本当は足をつかんでそのまま地中に引きずり込むつもりだった。でも羽菜に抵抗された上、『感覚をものすごく鋭くできる』魔法を使われて己の感覚をメチャクチャに荒らされてしまったボクは、自身の行いがグレースの助けになると信じて、死に物狂いで羽菜の足をつかんで妨害し続けることしかできなかった。結果。ボクがどれだけ貢献したかはわからないが、グレースは見事、羽菜を打ち倒した。

 

 

(いやぁ…下克上羽菜は強敵でしたね)

 

 ボクは戦闘の決着を地中で目撃した後、しばし地中を泳いでから顔を出した。それから7753にグレースのことを任せてからテプセケメイと合流した。ボクが羽菜を妨害している間にきちんとレイン・ポゥの居場所を見つけてくれたテプセケメイに、案内してもらっている。少しでもレイン・ポゥの下へたどり着く時間を短縮するため、テプセケメイにボクの体を抱えて浮遊してもらっている。それがボクの現状だ。作戦は今のところ、順調だ。

 

 

 ――ところで。

 

 

「メイ」

「なんだ」

「あまり揺らさないで……」

「ヘンタイが重いから難しい」

 

 ぎもぢわるい。

 羽菜の魔法をもろに受け続けたボクは今、まるで尋常じゃないほど酷い船酔いにかかったかのような最悪な体調に苦しんでいた。

 

 

「せめてお腹は持たないで……」

「わかった」

 

 ボクのお願いにテプセケメイが1つうなずくと、ボクの抱え方をお米様抱っこからお姫様抱っこに変えてくれた。

 

 やだ、下から見上げるテプセケメイってば超イケメンじゃん。

 物憂げな表情がすごく絵になっている。

 

 なんて現状と全然関係のないことに思考をズラしてみたら体調が回復するかと期待してみたけど、ぎもぢわるさは微減した気がするだけだった。

 

 

 本当は休んでしまいたい。眠ってしまいたい。

 この体を蝕むぎもぢわるさから一刻も早く解放されたい。

 

 だが、ボクはグレースのガッツを見習わなければならない。

 いくら気分が悪かろうと、とにかく踏ん張らないとダメだ。それができなければ、仲間たちの屍が積み重なるだけだ。

 

 でもとてつもなくぎもぢわるい。

 一瞬でも気を抜けば最後、盛大に吐いてしまいそうだ。 

 いやだ。その一線は越えたくない。

 

 

 だれかたすけて(ゲロインは嫌だゲロインは嫌だゲロインは嫌だ)

 

 

 キャプテン・グレースと下克上羽菜の戦いはグレースが勝利した。

 しかし悲しいかな、ボクの孤独な戦いはまだまだ終わらないようだった。

 

 




次回 第31話
『突然の自分語りどうした?』
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