その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問32.学校生活において場の空気に同化し、誰からも『普通の子』と思われるムーブを徹底するポスタリィ。彼女が何の因果か魔王塾に迷い込んだ時、魔王塾の生徒たちにポスタリィの存在が違和感であるとバレない確率を述べよ。ただしこの時、魔王パム当人は不在であるものとする。



第32話 この手の武器は使い慣れていないのだがね

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間14時間37分)

 

 

 これまでボクは、テプセケメイの報告を元に定めた『助けるべき味方の魔法少女の優先順位』に沿って、みんなを助けるために奔走してきた。

 

 キャプテン・グレースと、プキンの魔法で操られた下克上羽菜との戦闘に介入し、どうにかキャプテン・グレースに勝ってもらった。

 

 レイン・ポゥ&トコを、テプセケメイと協力して無力化し、ウェディン・繰々姫・ポスタリィの身柄の安全を確保した。

 

 

 そんなボクは今、次なる目的地へと赴いている。魔王パムに力を貸すため、現場に急行している。が、さすがに魔王パムとソニア・ビーンとの戦闘に割り込むつもりはない。

 

 ボクとソニアとの相性はすこぶる悪い。

 ソニアと初エンカウントした時は、リップルと協力して不意を突いて何とか一撃入れられたけれど。ボク単体では『触れるものを朽ちさせる』魔法の使い手:ソニアの攻略は非常に厳しい。そんなボクが『スイムスイム参戦!!』したところで魔王パムの邪魔にしかならない。

 

 

 だから別の形で協力する。そう、プキンと戦うのだ。

 魔王パムの命を刈り取るべく、ここぞという好機を待つプキンをボクが妨害し、魔王パムがソニアとの戦闘に集中できる環境をプレゼントするのだ。

 

 というわけで。今の僕は魔王パムの羽を変化させて作った、十字架ポーズのルーラを模した喋る剣『ルーラソード』を携えて現場に赴いている。

 

 

 ちなみにテプセケメイはボクが置いてきた。

 プキンとの戦いにはついてこれそうもない、からではない。

 

 純粋な戦闘能力でいえば、ボクよりテプセケメイの方が強い。それは先ほどのレイン・ポゥとの戦いでも明らかだ。本来、置いていかれるべきはボクの方だ。

 

 けれど、それでも今回はテプセケメイを置いてきた。

 プキンの魔法がどの程度強力なのかがわからなかったからだ。

 

 

 プキンは『斬った相手に高度な錯覚を与える』魔法を扱える。

 この魔法の字面だけ見れば、物理攻撃が通じないボクやテプセケメイならプキンの魔法を喰らわずに済むのではと想定できる。実際、ボクもつい数時間前まで同じように考えていた。

 

 けれど、改めて思い直したのだ。

 物理攻撃を無効にできる魔法少女なんて、魔法の国ではそう珍しくはないだろう。なのにプキンは、ソニアと一緒に130年前のイギリスで大暴れした怪物との触れ込みだ。プフレに『此度の敵は、放置すれば瞬く間に屍の山を築き上げる怪物』とまで言わしめる連中の1人だ。

 

 

 もしかしたら、プキンの魔法は物理攻撃無効系魔法少女にも効くのではないか。

 『斬った相手に高度な錯覚を与える』魔法の発動条件は、『レイピアで対象の体に傷をつけること』ではなく『レイピアで対象を斬る行為』そのものではないのか。『対象の体に傷をつける』ことは魔法の発動条件と関係ないのではないか。

 

 『どんなものにも水みたいに潜れる』ボクの魔法に拡大解釈の余地があるように、プキンの魔法に拡大解釈の余地があってもおかしくはないのだから。

 

 

 ボクにはなぜか精神に作用する魔法全般が通じない。

 スノーホワイトの『困っている人の心の声が聞こえる』魔法、のっこちゃんの『まわりの人の気分を変えられる』魔法、ウェディンの『約束をしたらそれをぜったいに守らせる』魔法。彼女たちの強力な魔法は、しかしボクには作用しなかった。だからきっと、プキンの魔法のトリガーが何であれ、プキンの魔法もボクには通じない。

 

 けれどテプセケメイはそうはいかない。テプセケメイがプキンに操られてしまいボクの敵に回る可能性を否定できない。だからボクはテプセケメイに別の役目を託して、泣く泣くテプセケメイと別れて単身、プキンと戦うべく歩を進めているのだ。

 

 悲劇を防ぎたいから。

 偶然の縁でB市で出会った、個性的で素敵でかけがえのないみんなの命を守りたいから。

 

 とても怖いけど、戦いたくなんてないけど。プキンの相手は、プキンの魔法を無効化できるボクがやるしかない。みんなを守り抜くため、ボクが怪物を撃破するしかない。

 

 今までだって何だかんだで何とかなったように、これからも何とかなると信じて。愚直に前へ。ルーラソードとともに、ひたすらに前へ。前進するしかない。

 

 

 ――だからボクが行く(涙目半ギレ)

 

 

 ボクは目的の広場に到着する。広場の片隅に視線を向けると、そこには高貴な装いを身にまとった、皇子然とした女性の姿があった。プキンだ。

 

 プキンを視界に収めた瞬間、空気が冷えきったかのような感覚。いきなり氷点下の世界に放り込まれたかのようだ。これってあれかな? 濃い血の匂い、あるいは死のオーラって奴。ボクでなきゃ見逃しちゃうね。

 

 

『貴様は……そうかそうか。己の罪過を悔い改め、我輩に首を垂れに来たか。殊勝な心がけであるな』

 

 ボクの気配を察知したプキンの瞳がボクを捉える。プキンは意外そうに目を見開き、何事かを口にしている。相変わらず英語だ。ボクにはプキンが何を話しているのかわからない。が、ボクは超天才。英語マウントの常習者に対し、いつまでも無策ではないのだ。

 

 

「ルーラ」

『あんたはこの程度の英語もわからないの? あいつはね――』

 

 ボクがルーラソードを見つめると、ボクの意図を察したルーラが呆れながらもプキンの発言を翻訳してくれた。さすがはルーラ。元・エリート会社員。ルーラならプキンの英語も理解してくれるのでは、とのボクの考えに間違いはなかった。

 

 ルーラソードのおかげで、プキンの大まかな性格が読み取れた。傲岸不遜にして唯我独尊なタイプ。これならボクがプキンとの戦いを見据えて持ち込んだ作戦は変更しなくていい。

 

 ルーラソードの翻訳技術のおかげでボクの方針は確定した。

 さすがは最強の剣。ボクの期待に完璧に応えてくれた。

 

 

「翻訳ありがとう。これからも私たちの会話を翻訳してほしい」

『ったく、仕方ないわね。今回だけよ。ちゃんと勉強して、次からは自分で英会話できるようになりなさい』

 

 勉強なんていやじゃ…(元受験生の一般18歳男子の発作)

 

 

『わかった?』

「うん」

 

 まぁ仕方ない。次からはね。次からは。

 今回はよろしくお願いします。

 

 ボクの首肯に納得してくれたらしく、ルーラは満足げにうなずく。

 

 

「罪過? 何のこと?」

『……あくまで罪過を認めぬか。よかろう。ならば我輩の名において、貴様を断罪する』

「断罪されるのはあなたの方」

『ほう?』

「勝つのは私、負けるのあなた」

 

 ルーラソードの翻訳を介してプキンを挑発したボクは後方へと跳ぶ。刹那、ボクの頬を風が撫でる。眼前にはレイピアを振りぬいたプキンの姿がある。

 

 ボクが跳躍するタイミングが遅ければ今頃、ボクの首と体が分断されてしまっていただろう。まぁ分断されても『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法ホルダーのボクは死なないのだけども。

 

 

 さぁ、火蓋は切られた。

 相手はレイピア使い。魔法は洗脳魔法。そのどちらもボクは無効化できる。普通に考えればボクが断然有利だ。

 

 けれど相手は世紀の大悪党。決して侮るべからず。何か対抗手段を持っていてもおかしくない。慎重に事を運ばなければならない。

 

 

 さて、がんばるか。やってやる。

 いざ突撃ィィィィ!(^q^)

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間14時間32分)

 

 

 結局のところ、ボクの作戦は不意打ちだ。これに尽きる。

 レイン・ポゥと戦った時と同様に、プキンの意表を突き、調子を崩し、本来の実力を発揮させないまま倒すのだ。

 

 いくらプキンの洗脳魔法をボクが無効化できるとはいえ、彼我の実力差は明らかだ。さっきのプキンのレイピアの一閃もボクは目視できなかった。ボクが回避できたのは、プキンを挑発して、攻撃タイミングを誘導したからに過ぎない。

 

 彼我の実力差が隔絶しているのなら、寄せるしかない。

 プキンをボクのフィールドに引きずり込むしかない。

 

 でも、レイン・ポゥに仕掛けたような雑ドッキリを大量投入したところで、プキンの動揺は誘えないだろう。だからこれから仕込みをみっちり行わせてもらう。

 

 

 ボクはルーラソードの形態を変化させる。ルーラの体がみるみる変化し、瞬く間に女ガンマン:カラミティ・メアリの見た目に変貌する。彼女もまた、N市で勃発した魔法少女同士の殺し合いの時に暴れた1人だ。

 

 

『カラミティ・メアリに逆らうな。カラミティ・メアリを煩わせるな。カラミティ・メアリをムカつかせるな』

 

 カラミティ・メアリソードがプキンに二丁拳銃を向けて容赦なく放つ。なお、二丁拳銃も銃弾もすべて魔王パムの羽で生成したものだ。

 

 プキンはさも当然のように銃弾を弾き飛ばし、ボクへと肉薄する。

 ボクはカラミティ・メアリソードの形態を変化させる。女ガンマンがハムスターの着ぐるみを来た少女:チェルナー・マウスに変わる。チェルナー・マウスソードの体を膨張させて、プキンを巨大な体躯で吹っ飛ばす。

 

 

『がぉぉぉおおおおおおお!!』

 

 チェルナー・マウスソードが吼えた。地面をビリビリと揺らし、周囲の土煙を霧散させる。強烈な音波にボクの頭もクラクラしかけたが、対するプキンは平然とした様子で着地し、体勢を立て直す。

 

 

『面妖な見世物であるな』

 

 再びプキンが接近してくる。巨大なチェルナー・マウスソードでは小回りが利かない。ボクはチェルナー・マウスソードの形態を繰々姫ソードに変化させる。バレリーナ姿の繰々姫ソードからリボンを伸ばして盾を編み上げ、プキンのレイピアの刺突を受け流す。

 

 

 ボクの目的は『ボクが持つ魔王パムの羽を、魔法の国の最新兵器だとプキンに誤解してもらう』ことだ。

 

 プキンははるか昔に魔法の国に捕まり、封印刑となった。

 つまり現代の世情に疎い。その状況を利用させてもらう。

 

 ボクが謎の剣を持ち、剣の形を次々と変化させながら戦う。剣の姿はどれも並外れた容姿をした美少女の姿。そこから真っ先に思い浮かぶのは魔法少女だ。

 

 そこからプキンには想像してもらう。想定してもらう。ボクが持つ剣が、他の魔法少女の魔法を使えるチートな剣なのではないかと。そういうふざけた武器を魔法の国が新たに開発したのではないかと。

 

 これが仕込みだ。そのためにボクは逐一魔王パムの羽の形を変えて、さも色んな魔法を使えるかのようにふるまっている。

 

 

 プキンがリボンの盾の間隙を縫って閃突を放つ。ボクは繰々姫ソードをリップルソードに変化させ、リップルソードが持つクナイでプキンの閃突を防ぐ。甲高い金属音が広場を反響する。

 

 リップルソードがクナイを次々投擲し、プキンは一閃でクナイをすべて弾き飛ばす。ボクはリップルソードをラ・ピュセルソードにチェンジさせる。N市の殺し合いの犠牲者たるラ・ピュセルの『剣の大きさを自由に変えられる』魔法を演出するために、ラ・ピュセルソードが持つ大剣を、如意棒のごとく伸ばす。

 

 プキンはラ・ピュセルソードの大剣の横腹をレイピアの柄で叩いて軌道を逸らす。ボクはバランスを崩してたたらを踏み、その瞬間にはボクの眼前にはプキンが――。

 

 

(ここ!)

 

 ボクはラ・ピュセルソードをウェディンソードに切り替えた。

 プキンがわずかに目を見開く。

 

 

(よし、決まった!)

 

 やはりプキンはウェディンの『約束をしたらそれをぜったいに守らせる』魔法を知っていた。どうやって知ったのかは推測がつく。

 

 レイン・ポゥはピティ・フレデリカの支配下に置かれていた。フレデリカに好き放題に操られていた。ならば、フレデリカがレイン・ポゥからボクたちの魔法の情報を搾り取っていてもおかしくはないし、プキンがフレデリカからボクたちの魔法の情報を入手していてもおかしくはない。

 

 だからそれを逆手に取る。

 ボクが他の魔法少女の魔法を使えるチートな剣を駆使する演技を続けて、ここぞというタイミングで剣をウェディンの姿に変える。

 

 プキンはボクがウェディンの魔法を使ってくると警戒するはずだ。

 よってプキンは一瞬にも満たぬ時の合間で、対策を講じる必要に迫られる。

 

 ボクのウェディンソードを壊しにかかるか。あるいは己を斬って自己暗示をかけてウェディンの魔法を無効化しようと試みるか。どのような手段を選ぶにせよ、そこには隙ができる。そこを突かせてもらう。

 

 

 プキンの頬にピッと切り傷が入る。プキンは自己に錯覚を与えてウェディンの魔法を攻略する方法を選んだようだ。プキンがボクにレイピアを振り下ろそうとするが、もう遅い。

 

 ボクはプキンの腹部に手を伸ばす。プキンの体に手を差し込んで骨を、あるいは臓器を抜き取るために。これでプキンを打倒できればそれに越したことはない。だが決して欲張らない。まずはプキンにダメージを加えるにとどめる。

 

 プキンは怪物だ。その怪物を退治するのだ。

 部位破壊を重ねて報酬を増やしにかかるのは鉄則だろう。

 

 ボクの手がプキンの横腹に触れる。

 そのままボクはプキンの体に手を差し込む。

 

 

『この手の武器は使い慣れていないのだがね』

 

 プキンが何事かを呟いた。

 その呟きは妙にボクの鼓膜を揺さぶった。

 

 今の魔王パムの羽はウェディンソード形態だ。ルーラソード形態ではなく、それゆえプキンの発言の翻訳はできない。それでも、妙にボクの耳にこびりつく発言だった。

 

 

 ボクの目の前に何かが落ちてくる。

 それはすでにピンが抜かれている手榴弾。数にして3つ。

 

 

(ちょっ!?!??!?!?)

 

 ボクの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法。その弱点は光と音だ。ボクが憑依する前のスイムスイムはN市の殺し合いの際、森の音楽家クラムベリーの『音を自由自在に操ることができる』魔法による強烈な轟音で気絶したことがあったし、リップルが繰り出したスタングレネードで気絶したこともあった。

 

 今のボクは『まほいくワールドでは常識に囚われてはいけない』ことをテプセケメイに教えてもらっているものの、ぶっつけ本番で手榴弾の爆撃を潜って回避できるかは未知数だ。

 

 慢心なんてしていないつもりだった。それでも油断していたのだろう。まさかプキンが、傲岸不遜にして唯我独尊なタイプだと分析した相手が、ボクを倒すために、己の魔法や身体能力に頼らずに科学文明の利器を持ち込んでくるなんて。

 

 

 だれかたすけて!(爆発オチなんてサイテー……!)

 

 

 手榴弾が盛大に爆ぜ、広場を爆炎が包み込んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇リップル(残り時間14時間32分)

 

 

 戦況は芳しくない。

 廃ビルの屋上を舞台にして、ピティ・フレデリカとトットポップを相手取っているリップルは内心でつい舌打ちを放つ。

 

 かつてフレデリカを捕まえたのはリップルだ。その時はスノーホワイトと一緒に戦い、それでやっとフレデリカを捕縛できた。

 

 今はリップル1人だ。一方、敵は2名。どうやら気心の知れた仲らしい。

 以前と立場が逆転している。ならばリップルが苦戦している状況は当然の帰結といえよう。だが、当然だからといってムカつかないわけがない。

 

 戦況は芳しくない。

 だがリップルが怪我を負っているわけではない。リップルは無傷だ。

 しかしそれは――フレデリカがリップルの相手をトットポップにすべて任せて、フレデリカ自身が戦闘に参戦してこないからだ。

 

 フレデリカはただただ水晶玉を見つめてニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべている。トットポップがいる限り、己に攻撃が届くことはないと確信しているからこその舐めた態度だ。

 

 実際、この1時間、リップルはフレデリカを攻撃できていない。その明確な事実がますますリップルを苛立たせている。

 

 リップルは百発百中の魔法を行使して、とにかく休みなくクナイを投擲し続ける。リップルのコスチュームはクナイを無限に供給し続けるからこその大盤振る舞い。クナイの標的はすべてフレデリカである。

 

 

「師匠には指1本触れさせないのね!」

 

 が、リップルのクナイはフレデリカに届かない。トットポップがギターをかき鳴らして射出し続ける実体のある音符の洪水で防がれるからだ。

 

 

「トットのミュージックはまだまだ続くね! 今夜は寝かせないね!」

 

 トットポップが無尽蔵に生み出し続ける音符の群れは、しかしリップルからすれば遅い。冷静に対処すれば問題なく回避できる程度の攻撃に過ぎない。

 

 トットポップとリップルの戦闘は均衡状態を保っている。

 であるならば、退くべきだ。フレデリカが心変わりして戦闘に介入すれば、均衡状態は崩壊し、リップルが窮地に陥る未来が容易に想像できるからだ。

 

 

 それでもリップルが退かないのには2つの理由がある。

 

 1つは、魔法の国から評価を得られるチャンスを捨ててしまうことを惜しんでいるからだ。そもそもリップルがB市で勃発した騒動に関与しているのは、出世したいからだ。出世し、確固たる地位を得て、権力の傘でスノーホワイトを守りたいからだ。

 

 2つは――ここで退けば、己がスイムスイムより劣ると認めたも同然だからだ。

 数時間前、ソニア・ビーンに殺されかけていたスイムスイムを助けた時。リップルにはソニアと戦うつもりがなかった。万に一つも勝機はないと判断していたからだ。

 

 が、スイムスイムはソニアの攻略方法を見出し、リップルを使ってソニアに傷を負わせてみせた。スイムスイムは勝機を見出していて、それを実現してみせた。

 

 退きたくない。譲りたくない。認めたくない。

 これはリップルが決して譲歩できない大事な一線だ。

 

 

(スイムスイムならどうする? この状況をどう切り抜ける?)

 

 スイムスイムはリップルという名の道具を使ってソニアに一撃を加えた。今現在、リップルが使える手段の中に、2人のペースを突き崩す何かはないか。2人の余裕を壊し、戦況をリップル優勢に傾ける何かはないか。

 

 

「――頃合いですね」

 

 リップルがひたすらに2人を打倒する手段を探し求めながら戦っていると、フレデリカが水晶玉から視線を外して意味ありげに呟く。

 

 

「これから用事を済ませに行きます。後で迎えに来ますね」

「わかったのね」

 

 フレデリカはトットポップの背中に声をかけると、水晶玉に映している景色の中に、自身を投入しようとする。フレデリカがリップルの目の前から消えようとしている。

 

 

「待て、逃げるのか!」

「ええ、逃げます。また後日、お会いしましょう。その時はコーヒーでも飲みながら話せると良いですね」

 

 フレデリカを逃がすまいとリップルがとっさに言い放った挑発。それをフレデリカは歯牙にもかけずに水晶玉の中に体を送り込んでいく。

 

 

「トットポップ、あなたが私を守る必要はなくなりました。思う存分、彼女を揉んであげなさい」

 

 フレデリカは水晶玉が映す光景の中へ己を移動させた後、トットポップに一言残して水晶玉を回収した。これによりリップルの眼前からフレデリカが完全に消え去った。

 

 

「はーいなのね!」

 

 トットポップはギターを肩に担いで、ニコニコ笑う。

 フレデリカと仲良くしているだけあって、こいつもつくづく気色悪い。

 

 

無礼(なめ)るな!」

「どっちが無礼(なめ)てるか、教えてあげるね」

 

 リップルは苛立ちを咆哮に乗せて解き放つ。

 しかしトットポップは変わらず笑顔を浮かべていて、それがますますリップルの神経を逆なでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇魔王パム(残り時間14時間32分)

 

 

 分厚い岩盤すらも物ともせずに貫く聖槍(ロンギヌス)

 あらゆる物質を灰燼に帰す煉獄の炎(ゲヘナ)

 指向性の破壊音波をぶつける至言(ロゴス)

 高熱を伴う光条を射出する明けの明星(ルシファー)

 荒れ狂う突風を解き放つ吠え猛る風(ミーノース)

 毒気を振りまく毒蛇(エキドナ)

 周囲からエネルギーを奪って超低温の領域を作り出す氷漬けの最下層(コーキュートス)

 

 魔王パムが自由自在に変化させられる2枚の羽で繰り出したあらゆる技は、すべてソニア・ビーンの『触れるものを朽ちさせる』魔法で壊された。

 

 B市の外れの路上で、ソニアと戦い始めてそろそろ1時間が経過しようとしている。ソニアの『触れるものを朽ちさせる』魔法は、魔王パムの羽と比べて自由度は低いが、単純にして強力だ。それを思い知らされた1時間であった。

 

 魔王パムがここまで攻めあぐねる相手だなんて、一体いつぶりだろうか。

 ……ソニアとの戦いがいっそ永遠に続いてくれたらいいのに。

 

 

(――っと、いかんいかん)

 

 魔王パムは欲望にまみれた己の思考を振り払い、尋常ならざる速度で魔王パムに突っ込んでくるソニアを横っ飛びで回避する。

 

 ソニアは魔王パムに触れさえすれば勝ちだ。

 一方、魔王パムはソニアの猛攻撃を凌ぎながら、ソニアに有効打を与える手段を思いついて実践しなければ勝てない。

 

 ずいぶんと理不尽な勝負だ。しかし、だからこそ楽しい。 

 久しく忘れていた感覚。これは挑戦者としての感覚だ。愉快で仕方がない。子供がたまらなく欲しかった玩具をプレゼントされた感覚に近い。

 

 

 魔王パムがソニアとの戦いを楽しめているのは、ソニアが無敵ではないと知っていることが大きい。ソニアには傷をつけられる。スイムスイムが証明したことだ。

 

 スイムスイムは地中からの攻撃でソニアを攻略した。他にも攻略法があるはずだ。さぁ、別解を見つけろ、魔王パム。これだけ長々とソニアと戦っておきながら攻略法を見出せないようでは、貴様の実力はスイムスイムに劣ることになるぞ。

 

 魔王だの最強だの呼ばれている貴様がそんな体たらくで良いのか?

 4枚の羽の内、1枚をスイムスイムに、もう1枚をレイン・ポゥの拘束に使っている。残り2枚の羽しか使えないのだから仕方がない、だなんて言い訳はできないぞ?

 

 そうだろう?

 なぁ、魔王パム。

 

 

 魔王パムが羽で落雷を放ち、ソニアが当然のように雷を無効化する。そのような攻防を続けていると、魔王パムの視界の端に何かが映った。魔王パムはソニアを意識しつつも目線だけ上空に移す。

 

 アラビアの踊り子のコスチュームをした魔法少女:テプセケメイが魔王パムの下へと舞い降りようとしていた。テプセケメイはわかりやすく凄く嫌そうな顔をしている。

 

 

(何をしに来た?)

 

 己の技量をわきまえずに魔王パムに加勢しに来たのだろうか。それならまだいい。迷惑だと伝えて追い返してやれば済むことだ。だが、ここで魔王パムは、テプセケメイがプキンに操られており、ソニアに手を貸してくる可能性を考慮しなければならない。

 

 ソニアとの戦闘(タイマン)を純粋に楽しんでいられる状況でなくなったことに魔王パムは顔をしかめる。冷や水をぶっかけられたかのような心境だ。

 

 

 テプセケメイが帽子の中から何かを取り出す。白い旗だ。

 風にたなびく白い旗には何やら文字が書かれている。

 

 

『あなたの羽の中からレイン・ポゥが逃げ出している』

『今、あなたが羽で拘束しているのは別人だ』

 

 魔王パムはレイン・ポゥを拘束する羽の内側に目を生成し、視力を共有する。確かに、羽の内側にいるのはレイン・ポゥではない。レイン・ポゥと同年代らしきただの少女だ。

 

 

「お前とは二度と会いたくなかったが、ヘンタイが望んだ。だから今回だけ、伝言を届けに来た。お前の顔を見るのはこれで最後だ」

 

 テプセケメイが魔王パムに背中を向けて飛び去って行く。

 

 

 一体、いつすり替えられた?

 テプセケメイはなぜ気づいた?

 いや、それを考えるのは今ではない。

 

 

 魔王パムはソニアのスピアタックルをバックステップで回避しながら笑みを深めた。

 

 魔王パムが羽を1枚割いて拘束している人物。

 それが危険人物(レイン・ポゥ)ではないということはつまり、魔王パムがソニアとの戦いで使える羽の数が1枚増えて、戦略の幅が広がったことを意味しているのだから。

 

 




次回 第33話
『別に、プキンを倒してしまっても構わんのだろう?』
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