その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

33 / 48

 作者のアイディア枯渇により、今まで前書きに居座っていた『問』くんの霊圧は消えました。
 バイバイ、『問』くん。いつかまたアイディアが生まれた時はよろしくお願いするですよ。



第33話 別に、プキンを倒してしまっても構わんのだろう?

 

◇プキン(残り時間14時間29分)

 

 

 かつて、プキンは魔法の国の監察役だった。

 プキンは誠心誠意、仕事に取り組んできた。魔法の存在を知らぬ無辜の人々を守るため、魔法の国の秩序を守るため。魔法に関する犯罪に積極的に介入し、巨悪を誅す日々を邁進してきた。

 

 かつて、プキンは拷問吏でもあった。

 ある時は魔法の国から依頼され、ある時は己の拷問技術を極めるために自ら志願して。プキンは数多くの人間を、魔法少女を、マスコットキャラクターを拷問し、彼の者が秘する情報を引きずり出してみせた。

 

 

 プキンは己の経験から、人物を一目見ればその者が世界に悪をもたらすか善をもたらすかを判定できるようになっていた。

 

 今は罪を犯していなくとも、いずれ罪を犯すとわかっている者をあえて放置する理由なんてどこにあろうか。いいや、そんなものはない。ゆえに、プキンは法の番人として正義を執行した。正義を全うする者として当然の判断だった。

 

 プキンの正義に、己の『魔法の剣で刺した相手の考えを変えさせる』魔法は大いに貢献してくれた。将来罪を起こすとわかりきっている魔法少女に今、罪を犯してもらって自白させる。あるいは、既に起こった凶悪事件の犯人として自白させる。

 

 プキンの従者であり、非常に頼れる用心棒:ソニアとともに、プキンは献身的に正義に尽くす活動を続けてきた。

 

 

 それは傍から見れば、プキンが罪を捏造して、魔法少女を冤罪に陥れたように勘違いしかねない活動だった。しかしプキンから言わせてもらえば、将来発生してしまう凶悪犯罪の芽を事前に摘み取ったに過ぎない。賞賛される謂れこそあれ、非難される謂れはない。

 

 が、どの界隈にも人の足を引っ張ることしか能のない、救いがたい輩はいる。誠実にして清廉にして実直なプキンはソニア共々、連中の罠にハメられ、悪逆の徒として不当に拘束された。もはや一世紀以上前の悲劇だ。

 

 

 が、誰よりも正義のために己の歳月を捧げたプキンが報われないわけがなかった。プキンは今、魔法の国の拘束から解放されて自由を手にする機会を与えられている。

 

 プキンの新たな従僕:ピティ・フレデリカとトットポップは、プキンとソニアに自由を与える対価としてB市へ逃亡した暗殺者の身柄を欲した。悪の魔法少女の捕縛。それはプキンの得意分野だった。

 

 

 現状、悪の魔法少女の身柄は黒い羽を操る現代(・・)最強の魔法少女:魔王パムの手中にある。ゆえにソニアに魔王パムと戦ってもらい、プキンは付近の広場で待機していた。

 

 理由は2つ。1つは、本気のソニアの戦いは敵味方おかまいなしのため。もう1つは、魔王パムが少しでも隙を見せた時に、プキンが不意を突いて魔王パムの命を狩るためだ。

 

 

 ソニアと魔王パムとの戦闘が長期化の様相を呈する中、プキンの下に泳者姿の魔法少女(スイムスイム)が現れた。プキンは内心で深く深く笑みを浮かべた。ソニアを傷つけた無礼者に報いを受けさせる好機が向こうから舞い込んできたのだ。愉快極まりない。

 

 プキンはスイムスイムに裁きを与える準備も済ませていた。

 プキンの視界内でスイムスイムは一度、ソニアから逃げるためにブロック壁をすり抜けている。その事実とソニアがスイムスイムに傷つけられた際の証言を合わせれば、スイムスイムにプキンの斬撃が通じない可能性を容易に想定できる。

 

 そのため、プキンはピティ・フレデリカに魔法の手榴弾を即座に調達するよう命令した。これによりレイピアとは異なる攻撃手段を、スイムスイムに傷をつけられるであろう攻撃手段を用意した。

 

 フレデリカはプキンの命を受けるや否や、水晶玉の中に手を突っ込んだかと思うと、プキンに大量の手榴弾を献上してきた。どうやらフレデリカは魔法の武器を管理する者の髪の毛を所持しており、水晶玉を介して魔法の手榴弾をくすねてきたようだ。

 

 そうして、有能な従僕の働きにより十全の準備を整えられていたプキンは、さもスイムスイムの魔法の特性を知らない素振りを装い、スイムスイムとの戦闘に興じた。

 

 

 スイムスイムは美麗な人間を磔の恰好にした、かかし(スケアクロウ)のような剣を所持していた。かかし(スケアクロウ)はスイムスイムが望んだ姿に形態を変えて、その都度、形態固有の攻撃をプキンへと放ってきた。

 

 どうやらあのかかし(スケアクロウ)は、磔の恰好になった者の魔法を使えるようだった。ずいぶんと規格外な武器だが、プキンのやることは変わらない。無礼者に裁きを下す。それだけだ。

 

 プキンはスイムスイムの稚拙な策略に引っかかったふりをして、魔法の手榴弾を放り投げた。プキンはすぐさまマントを翻して後方へ跳び――爆発音が轟いた。

 

 

 プキンはこれまで数多くの魔法少女を成敗してきた。

 その中にはスイムスイムのように、防御に特化した魔法少女もいた。

 

 この種の手合いを狩るのはさして難しくない。

 連中は己の魔法を信じて慢心するからだ。

 

 プキンはこの種の手合いと戦うのが好みだった。

 連中の、己の自信の源が砕けた時の驚愕や絶望の表情は、プキンに悦楽を与えてくれた。

 

 さぁ、スイムスイム。

 貴様は我輩にどのような表情を見せてくれるのだ?

 

 

(ほう、防いだか)

 

 爆発の中心地。そこには黒い球体があった。

 黒い球体は溶けるように解除され、かかし(スケアクロウ)の形態に戻る。かかし(スケアクロウ)を持つスイムスイムは相も変わらず無表情だ。

 

 いや、プキンにはわかる。

 スイムスイムはわずかながら顔をこわばらせている。己が優位性が虚構であると突きつけられた者の顔だ。これまで幾度となく堪能してきた、プキン好みの顔だ。

 

 

『くははっ!』

 

 ソニアを傷つけ、我輩に立てついた愚か者の末路を示してやる。

 プキンは痛快さを孕んだ笑みを零しながら、スイムスイムへと駆けた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間14時間28分)

 

 

(あ、あぶねぇえええええええ!?)

 

 まさかプキンが手榴弾を使ってくるなんて。

 とっさに魔王パムの羽のウェディンソード形態を解除して、魔王パムの羽でボクの体を覆ってバリアを作る対応が間に合ってよかった。あと一瞬でも判断が遅れていたらと思うと背筋が凍る。

 

 

『くははっ!』

 

 プキンが凶暴な笑みを引き連れながらボクに突っ込んでくる。

 

 

(おうち帰りたい)

 

 あたかも一人称視点の超怖いホラーゲームを無理やりプレイさせられているかのような心境に追い込まれつつも、ボクは眼前のプキンに対処するべく頭脳を必死に働かせて指示を体躯に送る。

 

 

 ウェディンソードを作ってプキンの隙をついて攻撃を加える作戦は失敗した。

 が、まだプキンに有効打を与える攻撃のバリエーションは尽きていない。次の作戦に移るのみだ。

 

 まほいくワールドで魔法少女が扱える魔法は1人1種類だ。そして魔法には、物に依存する類いのものがある。プフレの『猛スピードで走る魔法の車椅子を使う』魔法然り、夢ノ島ジェノサイ子の『魔法のスーツでどんな攻撃でもへいき』な魔法然りだ。

 

 プキンの魔法の全容は未だ知れない。が、プキンの魔法ももしかしたらレイピアが本体かもしれない。レイピアを奪えば、ボクもプキンの洗脳魔法を使えるかもしれない。ボクがプキンを洗脳できれば、それで戦闘を終わらせられるかもしれない。

 

 

 ボクは羽を夢ノ島ジェノサイ子形態に変化させる。羽をとにかく頑丈にした上で変化させた夢ノ島ジェノサイ子ソードの体は、プキンのレイピアの斬撃を受けても傷一つつかない。これも夢ノ島ジェノサイ子の無敵のスーツを羽で再現した結果だ。

 

 夢ノ島ジェノサイ子ソードはプキンのレイピアを右手でガシッとつかむ。そのままレイピアを折ろうとしたが、ボクの足元に手榴弾が転がってきたため、レイピアは諦めて背後へ跳んだ。

 

 が、ボクの視界の隅に新たな手榴弾。プキンはボクの動きを先読みして手榴弾を放り投げている。夢ノ島ジェノサイ子ソードが張り手で手榴弾を弾き飛ばし、刹那、強烈な爆風がボクを襲う。

 

 怪我こそないものの爆風に煽られてバランスを崩したボクの目の前に別の手榴弾が放り投げられる。

 

 プキンは欠片も手榴弾を惜しまずに使ってくる。持ち込んだ手榴弾でボクを確実に仕留める算段が付いているのか、それとも今もピティ・フレデリカから新たな手榴弾をこっそり補給してもらっているのか。プキンの性格から鑑みると、おそらく前者だ。

 

 ならば。ボクがプキンに勝つには、プキンの想定を超えなければ話にならない。

 ボクは羽をソニア・ビーンソードに変化させた。

 

 

『ッ!』

 

 プキンが目を見開き、ボクの下へと突撃してくる。レイピアの柄で手榴弾を上空へと吹っ飛ばして爆発させる。たとえ偽物とわかっていても、プキンはソニアが爆弾で傷つくことが許せなかったらしい。

 

 

『貴様ぁ!!』

 

 プキンが吼える。ボクの顔面目がけて神速の突きを放つ。激情に駆られた人間は動きが単調になりがちだ。ゆえにプキンのその攻撃はボクでも読めた。

 

 ボクは足首だけ地面に潜って刺突を回避しつつ、羽をヴェス・ウィンタープリズンソードに変化させる。N市で森の音楽家クラムベリーのお眼鏡にかなったことのあるウィンタープリズンの『何もないところに壁を作り出せる』魔法を再現するべく、プキンの足元の土を盛大に隆起させる。

 

 プキンが隆起した足場をレイピアで粉々にして上空からボク目がけて飛び込んでくる。ボクは羽をラ・ピュセルソードに変化させて、伸縮自在な大剣をプキンへと瞬時に伸ばす。

 

 プキンが回避不能な空中でラ・ピュセルの大剣をお見舞いする。

 もちろんこの程度でプキンを倒せるとは思っていない。今のボクの攻撃はすべて、プキンからレイピアを奪うための布石だ。プキンがラ・ピュセルの大剣をさばく中で少しでも隙を生み出せれば上出来だ。

 

 

 そのように戦略を組み上げていた矢先、唐突にボクの足元の地面が崩壊した。

 

 

「え」

 

 いつの間にかボクを中心にした数メートル範囲に大きな穴が作られている。一体どうして――いやまさか、ボクが地面を隆起させてプキンを空に飛ばす前に、プキンがレイピアでボクの足元の地面を崩しにかかっていたのか!?

 

 

『火炙りの刻限だ』

 

 プキンがここぞとばかりにボクの周囲に手榴弾を放り投げてくる。軽く10個は超えている。プキンはラ・ピュセルの大剣の横腹を蹴って、街路照明の上に着地する。

 

 マズいマズいマズいマズい!

 さっきみたいに羽をバリアにしてボクの体を守る方法が通じる確証がない。さっきと違って爆弾の数があまりに多い。羽が爆撃に耐え切れないかもしれない。

 

 逃げなければ。

 そうだ、ボクの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で泳ぐのだ。空を泳ぐのでも良い。世界の裏側に潜り込んで退避するのでも良い。とにかく爆撃を凌ぐのだ。

 

 

(跳べよぉぉぉぉっ!)

 

 ボクは じゅもんを となえた!

 しかし なにも おこらなかった!

 

 

「あ……」

 

 ボクは拡大解釈したスイムスイムの魔法を上手く発動させられず、ボクの周囲を囲む手榴弾たちが次々と爆発した。ボクは羽で自身を包んで防衛を図る。

 

 羽に激しい衝撃が立て続けに襲いかかる。羽を隔てた向こう側からひたすら乱暴に襲ってくる爆音に、ボクは身を縮めてブルブル震えることしかできない。

 

 まるでゾンビが大量発生した世界で建物に立てこもり、絶妙に頼りない即席バリケードでゾンビ軍団の侵入を守っているかのような気分だ。精神衛生上、非常によろしくない。

 

 爆発が止む気配がない。いつになったらこの悪夢は覚めるのか。

 ふと爆音の濁流が途絶し、ボクはほのかな期待を胸に抱く。プキンの手榴弾の一斉爆撃を耐え切ったのか。

 

 と、その時。

 ボロリと羽の一部が剥がれ落ちて。

 羽の隙間から暴力的な光の奔流が見えて。

 

 

 

 ……………………。

 …………。

 ……。

 

 

 

 気づけば、ボクは地面にうつぶせに倒れていた。

 重い体に鞭を打って地面に手をついて体を持ち上げようとすると、額から何か液体が流れ落ちて地を染めていく。暗がりのせいか液体の色を認識できないが、察しはつく。

 

 

(やば。意識飛んじゃってたっぽい)

 

 視界に入ったボクの手のひらの小ささは、ボクが魔法少女に変身する前の童女姿に戻ってしまったことをこの上なくわかりやすく示していた。

 

 ボクは手榴弾で気絶した。そこで変身が解け、その時もまだすべての手榴弾が爆発し終えたわけではなく、ボクの変身前の小さな体は爆発に巻き込まれた。そういう流れだろう。正直、ボクがこうして生き残っているのは奇跡である。

 

 そんな奇跡に命を拾われたボクは、本来なら全身を駆け巡る激痛にのたうち回って然るべきだ。だが、妙に痛みを感じない。痛みこそ認識しているが、どうにも他人事に感じてしまう。

 

 

(早く、変身しないと……)

 

 夜半に1人路上で爆睡する趣味はボクにはない。おそらくボクが気を失ってからさして時間は経過しておらず、ボクはまだB市の戦場に身を置いている可能性が高い。急いで変身しないといけない。

 

 変身前の状況と変身後の状況はリンクしないからだ。とりあえず変身しておけば、変身前のボクの体の傷は消えて、動きやすくなるからだ。

 

 何だか呼吸も上手に行えない中、ボクは変身を念じようとして、地面に添えていた手をレイピアで貫かれた。

 

 

「づぁっ!?」

『貴様には最期に言い残すべきことがあろう。己の罪過を、ソニアを傷つけ愚弄した所業を懺悔せよ』

 

 顔を上げずともわかる。

 見上げずともわかる。

 

 プキンだ。プキンがボクのすぐ側にいる。プキンはボクの手に刺したレイピアを抜きながら、ボクに何事かを言い下す。

 

 ボクが使っていた魔王パムの羽が行方不明なので、プキンの発言内容はわからない。

 が、プキンにはボクを魔法で操って何か行いたいことがあるようだ。ボクの命が今、奪われていないのはその『何か』のためだ。多分、プキンと戦う前に彼女が語っていた『ボクの罪過』とやらが関係している。

 

 

「……」

 

 ふと過去の出来事が想起される。

 図らずも、ボクがスイムスイムになってしまったばかりの時に、スノーホワイトに薙刀を首筋に添えられながら質問された時と状況が酷似している。

 

 スノーホワイトの時は、ボクは内心で第三者の助けを求めながらも多言を弄して、スノーホワイトに刃を引かせることに成功した。

 

 しかしプキンにスノーホワイトの時と同様のアクションを試みたところで、プキンの心変わりなんて期待できない。状況は限りなく詰んでいる。

 

 

 けれど、ボクは。

 だれかたすけて。なんてワードを口にするつもりはなかった。

 何が悲しくて、眼前の犯罪者を悦ばせるサービスをしなければならないのか。

 

 多くの血を失ったボクの頭はクラクラとしていて。それでもここで言い放つべき台詞だけはやけに明瞭に脳裏に思い浮かんでいた。そうだ、スイムスイムならきっとこう言う。

 

 

「ルーラがいってた。利用できるものならなんでも利用しろ」

 

 ボクの行いは、プキンの洗脳魔法で与えた命令から乖離していたのだろう。プキンが怪訝そうに眉をひそめる。

 

 

『……貴様、まさか我輩の魔法が』

 

 プキンの言葉が途切れた。

 ボクが見上げると、プキンの胴体に大穴が空いていた。穴と体の境界線は赤く熱を帯びていて、レーザービームの類いの熱線で体を貫かれたかのようだった。B市にいる魔法少女の中でこれほどぶっ飛んだ攻撃を行える者を、ボクは1人しか知らない。

 

 プキンが何事か言葉を発しようとしてその顔も熱線で消し飛んだ。

 同時に、ボクの傍らに1人の魔法少女が舞い降りた。

 

 

「よくぞ持ちこたえた、スイムスイム」

 

 魔王パムの到着。

 それはボクの作戦がうまくハマった証左だった。

 

 

 

 ボクがプキン相手に採用した作戦。

 名付けて、『別に、プキンを倒してしまっても構わんのだろう?(たすけてパムえもん)』作戦。

 

 ボクがプキンとの戦闘に持ち込む。

 そうすれば、魔王パムはソニアとの戦いに集中できる。

 

 テプセケメイに魔王パムに接触してもらい、暗殺者(レイン・ポゥ)が魔王パムの羽の拘束から逃げ出していることを伝えてもらう。

 そうすれば、魔王パムはレイン・ポゥ拘束用の羽もソニアとの戦いで活用できる。

 

 今まで羽を2枚しか使ってこなかった相手がいきなり3枚目の羽を繰り出すとなれば、多少なりともソニアの調子を崩せるだろう。ソニアとの戦闘の均衡を崩す契機となるだろう。

 

 魔王パムにさっさとソニアを倒してもらい、それからプキンも倒してもらう。

 それがボクの作戦だった。

 

 

 この作戦をプキンに悟られないために、ボクは道化を演じた。

 ソニアを傷つけることができた成功体験から、増長している愚か者を演じてやった。

 

 そんな愚か者が色んな魔法少女の魔法を使えるらしきチートソードで多彩な攻撃を仕掛ける姿は。プキンからレイピアを奪ってやろうとする姿は。プキンの眼には、ボクが1人でジャイアントキリングを成し遂げようとしているようにしか見えなかっただろう。

 

 しかしボクの真の目的はあくまで魔王パムがソニアを倒し、プキンと戦うボクの加勢に来てくれるまでの時間稼ぎ、ただそれだけだった。ただそれだけのためにボクは死力を尽くしたのだ。

 

 プキンが手榴弾を持ち込んできていたことで、当初の想定ほど時間を稼げなかったため、ボクは為すすべなく死ぬかもしれないと内心で涙していたが、はたして魔王パムは間に合った。プキンを倒し、ボクを救ってくれた。さっすがパム様魔王様仏様。

 

 

 ……ところで。『魔王様におんぶにだっことか、なんて情けない作戦なんだ』と言いたげなそこのあなた。

 

 いや、プキンと1対1で戦うとかムリだよ、ムリムリ。強大な敵と戦うことがどれほど危険かは、ソニアに追いかけ回された時に嫌というほど思い知っている。

 

 プキンとソニアはともに百数十年前のイギリスで悪逆の限りを尽くした大悪党だ。

 プキンの実力がソニアと同等だと仮定した時、いくら魔法の相性が良いからといって、ごく一般的な18歳男子の頭脳をインストールしただけの魔法少女が単騎で立ち向かおうだなんて無茶すぎる。

 

 強くて倒せない敵は、強い人に倒してもらうのが良いに決まっている。その強い人が忙しくて力を借りられないのなら、忙しい原因を解決する手助けをボクが担う。ボクが出しゃばって強い敵を倒そうとするのはお門違いというものだ。

 

 だから、ボクの時間稼ぎの戦闘でプキンを倒せるならそれに越したことはないと思いつつも、ひたすら魔王パムの到着を渇望しながらプキンを相手取っていたのだ。

 

 

 プキンという脅威が文字通り消滅したため、ボクは誰にも邪魔されることなく魔法少女に変身した。魔王パムはボクの様子に正解だと言わんばかりに1つうなずく。

 

 

「状況は?」

「ソニアの襲撃でみんながバラバラになってから色々あった。プキンに操られた下克上羽菜をキャプテン・グレースが倒した。あなたから逃げ出したレイン・ポゥと、ついでにトコを、私とテプセケメイで捕まえた。仲間はみんな生きてる。今は一箇所に集まってもらってる。……あなたがソニアを倒したのなら、あとはピティ・フレデリカとトットポップを倒せばすべて解決。今、2人をリップルが相手している」

「リップルはどこだ?」

「あっち」

「うむ」

 

 ボクから一通り情報を入手した魔王パムはリップルを救うべく広場から飛び立とうとして、ボクへと振り向く。

 

 

「羽はまだ必要か?」

「もういらない。ありがとう、あなたの羽のおかげで仲間を救えた」

「それは何よりだ」

 

 魔王パムはボクに貸し出していた羽(爆発に耐えきれず塵芥と化した物)を回収しつつ、空中に浮遊し始める。

 

 

「リップルのことは私に任せよ。貴様は仲間の待機地点へ向かい、マナの治療を受けることだ」

「わかった」

 

 魔王パムは力強く上空へと飛び上がる。なんと頼もしい御姿だろうか。これでリップルの生存も確約されたも同然だ。

 

 ソニアの奇襲により、ボクたちが散り散りに分断されてしまった時はどうなることかと戦々恐々としていた。それくらい、魔法少女が次々亡くなってもおかしくないほどに危機的な状況だった。

 

 でも、やっと気が抜ける。

 ボクはやったのだ。B市を舞台にした第3部で、敵を除く魔法少女を救えたのだ。悲劇を防げたのだ。

 

 

 ボクは小さく息を吐き、前を向いて――

 

 

 

 

(なんで???)

 

 いつの間にか、ボクの目の前に占い師風のコスチュームに身を包んだ魔法少女:ピティ・フレデリカがいた。

 

 

「この時を待っていました」

 

 フレデリカはスッと軽くまぶたを閉じながらしみじみとした声色で呟く。その艶のある、蠱惑的な声色は、しかしボクの体を震わせた。だって底知れないオーラが全面的に放出されてるんだもの。

 

 

「少々私とのお話に付き合ってはくれませんか、スイムスイム?」

 

 

 だれかたすけて(油断大敵)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)(残り時間14時間16分)

 

 

「私にあなたと話すことはないよ?」

「私にはあるのですよ、色々とね」

 

 突然ボクの下に姿を現したピティ・フレデリカ。彼女への対策を急ぎ用意するため、ひとまずボクは上辺の会話で時間を稼ぎにかかる。

 

 今、ボクの手元に魔王パムの羽はないため、フレデリカという名の脅威を退けるためにボクが選べる手段には限りがある。

 

 フレデリカもボクが安心して魔王パムの羽を手放すタイミングを待ったうえで、堂々と登場したのだろう。実にいやらしい立ち回りだ。さすがは黒幕ムーブに余念のない女である。

 

 さて、どうする。

 一番手堅いのはボクの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で地中に潜って全力で泳いで逃げることなのだが。

 

 

「あぁ、妙な素振りは見せないことをオススメします。もしもあなたが早まってしまった場合は――」

「私を殺す?」

「まさか! そのようなもったいないことはしませんよ。あなたは殺しません。ただ……私の魔法で何ができるか、あなたはご存知でしょう?」

 

 フレデリカは右手を軽く持ち上げてひらひらとボクに振ってくる。フレデリカの人差し指から小指までの4本の指には、それぞれ1本ずつ髪の毛が結ばれている。ボクが逃げれば、フレデリカが指に巻いた髪の毛の持ち主を殺すと、言外に脅している。

 

 まぁそうだよね。わざわざボクと接触する最適な機会を見計らってから登場してきた以上、ボクを従順にさせる方策を用意していないわけがない。

 

 

「わかった。私はあなたの意向に従う」

「物わかりが良くて助かります。しかし言葉だけならいかようにも取り繕えます。変身を解いてください」

 

 ボクはフレデリカから不興を買わないように、速やかに変身を解く。元の姿に戻った瞬間、全身の爆傷が強烈に自己主張を始め、ボクは思わずその場に膝をつく。

 

 

「ご協力感謝します。その怪我だとあまり長くは話せなさそうですし、今回は手短に済ませますね」

 

 フレデリカはボクの傷を一切気に留めずに話を進めていく。

 

 フレデリカの言葉を信じるなら、フレデリカはボクの死を望んでいない。そのフレデリカがボクの爆傷を放置している。

 

 つまりボクがここでフレデリカとの会話に時間を使っても、それがボクの死の決定打にはならないとみていい。そこだけは安心だ。

 

 

「どうやって私の魔法を使った監視に気づいたのですか?」

「私の魔法を応用した」

「ふむ。『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で視界だけ潜らせ、本来なら観測不可能な私の監視を看破した、と」

「うん」

「素晴らしい。そのようなこともできるのですね」

「試してみたらできた」

「では次に、あなたの師匠は誰ですか?」

「……ルーラのこと?」

「違います。言い方を変えましょう。あなたを生き返らせ、道を示した方のことです」

「知らない」

「隠し事は良くないですよ?」

「本当に知らない」

「……そうですか、それなら仕方ありませんね。では最後に、私の魔法少女育成計画はいかがでしたか?」

(……え?)

 

 このタイミングでタイトル回収!?

 この人、まさかまほいくシリーズ通しての超重要人物なの!??

 魔法の国で封印刑に処されていて、脱獄して、B市で暗躍しまくってボクたちを思いっきり殺そうとしたこの人が超重要人物とか、それってマジの黒幕ってことでは??

 

 

「今回のB市の騒動、あなたが裏で手を引いていたの?」

「いえ、違います。舞台を整えた者は別にいます。私はただ、あなたをはじめとした舞台の役者がより実りある成果を得られるように、少しばかり追加の試練を与えただけです」

「そう」

「それで。此度の騒動はいかがでしたか? あなたの糧になりましたか?」

 

 フレデリカが爛々とした眼差しとともにボクに問いかけてくる。きっと、フレデリカが今日、ボクに一番聞きたかった質問がこれなのだろう。

 

 しっかし、どう回答すればいいか迷うな。

 人質がいるから前提としてボクは嘘をつけないんだけど、かといって下手な回答をしてフレデリカの気分を害してしまうと後々凄まじく面倒なことになりそうだ。

 

 おそらくフレデリカは魔法少女を偏愛している。でもって黒幕。

 だからフレデリカは今回、B市の魔法少女に苛烈な試練を課した。その試練でフレデリカが好む魔法少女が多少死んでも構わない。試練を生き残った選ばれし魔法少女が、フレデリカの期待する方向へ成長してくれればいいのだから。

 

 そういう性格の人に対し、魔法少女育成計画をただ否定しにかかるのではダメだ。フレデリカが気に入りそうな魔法少女っぽい回答を返さないといけない。

 

 

「あなたが用意した試練のおかげで、私は強くなった。同じ危機を共にして、きっとみんなの絆も深まった。……でも、みんな死ぬかもしれなかった。私はあなたを許さない」

「許さないのならどうしますか?」

「今度あなたと会った時、あなたが改心していないのなら――私があなたを倒す」

「……ふふふ、いいですねぇ」

 

 ボクの回答はフレデリカのお気に召したようだ。魔法少女を育てたがる悪人ならば、立ち向かう姿勢をみせるのはアリと考えての発言だったが、アタリのようだった。

 

 

「さて、質問はこの辺で終わりにしますね。欲しい物は得られましたから」

 

 フレデリカが左手の人差し指と中指で何かを挟み、こちらに見せてくる。風の流れに合わせてゆらゆら揺れるそれは、ボクの髪だ。ボクの髪がいつの間にやら盗られている。

 

 

「どうして……」

「あなたと会話している時にこっそりいただきました。魔法少女とそうでない者との身体能力を思えば、あなたが気づけないのも無理はありません」

「私の髪の毛が目的だったの?」

「正解です。私は魔法少女の髪の毛をひそかに手に入れるスキルを極めています。ですが、そんな私でも、魔法少女に変身中のあなたから髪の毛を入手するのは至難の業です。こっそり髪の毛を奪おうとも、私の手がすり抜けてしまいますから。なのでこうして、あなたに無理やり変身を解いてもらったのです」

「返して」

「お断りします。この優美な髪の毛が、私とあなたを引き合わせる縁となるのですから。素敵だと思いませんか?」

「私で何をするつもり?」

「内緒です。その方がワクワクするでしょう?」

 

 ひぇぇぇ。

 このお姉さん怖いにょ……

 

 というか、この状況って非常にピンチなんだよね。だって今のボクの立場は、さっきまでのレイン・ポゥと同じだ。ここでフレデリカからボクの髪の毛を取り返せなかったら、ボクは今後、フレデリカに生殺与奪の権を握られたままとなってしまう。

 

 

「手短に済ませる、と事前に言っておきながら話が長くなってしまって申し訳ありません。私はこの辺で去りますね。……ですが、最後に」

 

 魔法少女への変身を禁止されている状態で、どうやってフレデリカからボクの髪の毛を奪い返せばいいのか。頭を悩ませていると、フレデリカが一瞬でボクとの距離を詰めてくる。フレデリカを見上げると、意味深なニコニコ笑顔を向けられる。

 

 

(あ、これまさか)

 

 フレデリカはその場で屈んでボクと目線を合わせると。

 

 

「あなたの匂いを心ゆくまで堪能させてください」

 

 フレデリカは舌舐めずりをした。

 

 

(またかよぉ!!!)

 

 この状況下でボク吸いフェイズ第二弾が勃発するとは、さすがに想定外だ。

 

 え、なに? ボクって特定の人を狂わせる謎の成分でも放出してたりするの?

 それとも幼女の体からは等しくそういう成分が分泌されてたりするの??

 というか、今のボクを吸っても、ボク自身の匂いよりも血の臭いの方が自己主張激しいと思うけど、フレデリカ的にそれはセーフなの??

 

 

 様々な疑問が脳裏で渦巻く中。にじり寄ってくるフレデリカからボクは逃げようとして、しかし肩をつかまれてしまう。もう逃げられない。

 

 

 だれかたすけて(こっちみんな)

 

 

 

 

 

 刹那。ボクの視界の端で青い宝石が落ちてくる。次の瞬間にはフレデリカの姿は見えなくなっていて、なぜかボクははるか上空から地上を見下ろしていた。

 

 ボクはただ1人上空に投げ出されたわけではなかった。上に視線を移すと、そこにはボクの体を優しく抱き上げている、見覚えのある青い魔法少女の姿があった。

 

 

「危ないとこだったっすね、スイムっち。でも、戦場に舞う青い煌き:ラピス・ラズリーヌが来たからにはもう安心っす!」

 

 その正体は、かつてキークの謀略により放り込まれたゲーム世界を共に攻略した仲間:ラピス・ラズリーヌだった。

 

 ラズリーヌは『宝石を使ってテレポートできる』魔法を使って、フレデリカの魔の手からボクを華麗に救ってくれたのだ。

 

 

 か、かかかかっけぇええええええええ!!

 

 

 

「かっこいい」

「ふふん、でしょでしょ?」

「助けてくれてありがとう」

「どういたしましてっす」

「でも、どうしてラズリーヌがB市にいるの?」

「アカネっちに頼まれたんで」

「あっ」

 

 やば、アカネへの連絡を忘れてた。

 B市全域を覆う、あらゆる魔法的な要素を通さない24時間の結界に閉じ込められた当初こそ、魔法の端末でアカネに連絡しようとしていた。けれど、キャプテン・グレースに襲われたことで連絡をすっかり忘れていた。

 

 その後、脱獄犯一派のせいで魔法の端末で連絡できなくなったことを7753から教えてもらったわけだけど。要するに、アカネ視点ではボクが夜になっても不破家に帰ってこないし、魔法の端末にも繋がらないとなっていたわけで。

 

 そりゃ心配されるわ。

 今はもう夜中の2時だもの。

 

 

 ――っと、そうだ。助けてくれたのは凄く嬉しいけど、依然としてボクの髪の毛はフレデリカに奪われたままだ。どうにかして奪い返さないといけない。

 

 

「ラズリーヌ、さっきの場所に戻ってほしい」

「え、どうしてっすか?」

「フレデリカ――さっき私と話してた魔法少女に私の髪の毛を盗られてる。取り戻さないと危ない」

「あぁ、それならだいじょーぶっす。あの占い師に髪の毛を持たせちゃダメって気はしてたんで、ちゃんと対策してるっす。ほら」

「??」

 

 ボクはラズリーヌに促されるままに地上を見下ろす。そこには、フレデリカが持つボクの髪の毛が、フレデリカが指に巻いていた髪の毛が、次々と斬り刻まれていく光景があった。

 

 フレデリカは驚愕に目を見開きつつも、指に巻く残りの髪の毛を使って自身の体を水晶玉の中に放り込んでいく。

 

 

「あの人も判断早いっすね。指の髪の毛全部斬る前に逃げられたっす。あの残った髪の毛はスイムっちの物っすか?」

「違う」

「ならひとまず安心っすね」

「さっきの攻撃、まさかアカネの魔法?」

「正解っす。あたしと一緒にアカネっちも来てるんで」

 

 ラズリーヌは宝石を真下に投げて、ビルの屋上へとテレポートし、そこからどこかへと移動し始める。その道中、ラズリーヌとアカネがB市にいる詳細な経緯をボクに教えてくれた。

 

 

 ボクが帰ってこなくて、魔法の端末で連絡できないことに心配したアカネが、夢ノ島ジェノサイ子に連絡したこと。

 

 かつて殺意高めなゲームの世界に巻き込まれた面々でオフ会を企画しているために、多くの魔法少女の連絡先を知っている夢ノ島ジェノサイ子が、方方に連絡したこと。

 

 夢ノ島ジェノサイ子から連絡を受け取った1人であるプフレから、『スイムスイムが仕事を求めてB市入りしており、そのB市では現在魔法絡みの騒動が起こっている影響でB市全域に魔法的な要素を通さない結界が張られている』との情報提供があったこと。

 

 ラピス・ラズリーヌの『宝石を使ってテレポートできる』魔法なら結界を通り抜けられるのでは、とラズリーヌに協力要請があったこと。

 

 実際にラズリーヌの魔法で結界を無視できたため、ラズリーヌがアカネと一緒に結界内にテレポートし、ボクを捜索していたこと。

 

 2人がボクを見つけた時、ボクがボロボロなことと、占い師の魔法少女がこれ見よがしにボクの髪の毛を見せながら話している様子から判断して、ボクを救いつつ占い師の魔法少女が所持する髪の毛を斬り刻む作戦を決行したこと。

 

 

 

「心配かけてごめんなさい」

 

 ボクが窮地から救われたのはアカネをはじめとしたみんなからの心配の土台の上に成り立っていた。ボクはたまらずラズリーヌに謝った。

 

 

「その言葉はアカネっちに言ってあげてほしいっす。今、アカネっちとの合流地点に向かってるんで」

「うん」

 

 そっか。これからアカネに会える。

 安心した。今度こそ気を抜いて良いはずだ。

 

 あぁ。ボク、助かったんだ。

 すっごい疲れた。

 でもこれで、やっとおうちに帰れ、る――。

 

 

「スイムっち!? しっかりするっす、スイムっち! 寝たら死ぬっすよ!」

 

 そんな雪山で遭難した時にありがちな台詞を言われましても。肩を揺すられましても。

 

 もう疲れちゃって、全然動けなくてェ…

 

 

 

 ( ˘ω˘)スヤァ…

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇ピティ・フレデリカ(残り時間14時間07分)

 

 

 水晶玉でスイムスイムたちを観察していた時に、スイムスイムと目が合った時のトキメキが、フレデリカの心を強く打っている。

 

 此度のB市の騒動に追加の試練を加えたフレデリカを、改めて敵と認識して毅然と立ち向かう姿勢を示したスイムスイムの姿が、フレデリカの視界を焼き尽くしている。

 

 スイムスイムという魔法少女はどこまで己の魅力をまき散らせば気が済むというのか。

 

 

 そんなスイムスイムの髪の毛の匂いを堪能するという、フレデリカの至福の瞬間は唐突に奪われてしまった。

 

 不意にスイムスイムの隣に青い魔法少女が現れたかと思うと、スイムスイムと青い魔法少女の両名が姿を消したからだ。

 

 スイムスイムはどこへ行ったのか。フレデリカは周囲に視線を走らせ、まもなくはるか上空にスイムスイムと青い魔法少女の姿を認めることとなった。

 

 

(新手の参入ですか。確かにテレポート魔法なら結界を無視できますね。でも、逃がしませんよ?)

 

 今日、スイムスイムの髪の毛を彼女自身の頭からたっぷり吸うと決めたのだ。フレデリカはスイムスイムの髪の毛を手の指に巻いて『水晶玉に好きな相手の姿を映し出す』魔法を発動させようとして。

 

 指に巻いたスイムスイムの髪の毛がちぎれて、バラバラになって宙を舞った。

 

 

「え」

 

 フレデリカは目を見開く。その間にもフレデリカが指に巻いている髪の毛が次々と外れていく。いや、この髪の切断面を見るに、髪の毛が斬られている。

 

 上空の青い魔法少女やスイムスイムに特段の動きはない。2人以外の第三者がフレデリカが指に巻く髪の毛を狙って攻撃を仕掛けている。

 

 フレデリカは再度視線を走らせ、遠方のビルの屋上で刀を振るう侍姿の魔法少女を認識した。なるほど、あの子か。

 

 

(あなたはつくづくお仲間に恵まれてますねぇ、スイムスイム)

 

 フレデリカが課した追加の試練。レイン・ポゥをあえて放置しつつ、魔法少女たちの集まりにソニアを放り込んで奇襲する。その後、各地で勃発した死闘をフレデリカはずっと水晶玉で観察していた。

 

 

 下克上羽菜の髪の毛を使って観察した戦い。

 スイムスイムは下克上羽菜の足を地中からつかんで妨害しただけであり、下克上羽菜を倒したのはキャプテン・グレースだった。

 

 レイン・ポゥの髪の毛を使って観察した戦い。

 スイムスイムは魔王パムの剣を使って上手に立ち回っていたが、テプセケメイがいなければレイン・ポゥとトコを逃がしていただろう。

 

 プキンの髪の毛を使って観察した戦い。

 スイムスイムはプキン相手に時間稼ぎに終始しており、プキンにトドメを刺したのは魔王パムだった。

 

 そう。各地の戦いで、スイムスイムはあくまで脇役を担っていた。

 つまりスイムスイムは周りを上手く動かして結果をつかみ取る類いの魔法少女だ。

 

 それはフレデリカの好みではなかった。フレデリカの好みは単身で巨悪を打ち砕けるスーパーな魔法少女だ。

 しかし今日、スイムスイムが手を尽くし、味方の魔法少女の命を守りきった結果を見て、少々考えが変わった。

 

 個の力の極致ではなく、集団の絆の極致。

 これも強さの1つということか。

 

 とても興味深い。

 スイムスイム育成計画の立案者が誰かを明らかにはできなかったが、今後も積極的に育成計画に関わりたいものだ。

 

 幸い、今のフレデリカには便利な道具がある。スイムスイムの髪の毛を奪った時と同じタイミングでひそかに入手したプキンの剣があれば、育成計画への介入はたやすいだろう。

 

 

(あなたが完成するその時を、私も楽しみにしています)

 

 フレデリカは名残惜しそうにスイムスイムの姿を見つめる。

 

 その後、侍の魔法少女に己の指に巻いた髪の毛をすべて斬り落とされる前に、トットポップの姿を映した水晶玉の中に入り込む。

 

 そして、リップルと戦闘中のトットポップの首筋を有無を言わさずつかみ、水晶玉でB市の外へと逃亡するのだった。

 

 

(そういえば、どうしてスイムスイムにプキンの洗脳魔法が通じなかったのかを聞き忘れていました。……仕方ありません。これは後日のお楽しみといたしましょう)

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その日。B市全域で、多大な物的被害と人的被害が発生した。

 幾多の建物が倒壊し、幾多の道路・標識・街路樹等々が損壊する事態となった。

 数名の行方不明者は後日救出され、数名の死者は丁重に弔われることとなった。

 

 

 怪我こそないものの、精神疾患を患った者は多かった。

 

 曰く、大きな船が路上を走っていた。

 曰く、変なところに虹ができていた。

 曰く、白い水着に翼が生えて飛んでいた。

 曰く、でかい音符が物理的に建物を壊していた。

 

 妄言の数々を繰り返すB市住人はこれから時間をかけて心を治療することになるだろう。

 

 

 B市を襲った災禍の原因は不明。

 今日も各種マスメディアが様々な憶測を飛び交わしている。

 

 

 しかし、魔法関係者は知っている。

 これでも被害は軽微に収まった方なのだと。

 

 稀代の暗殺者レイン・ポゥが逃げ込んだ上、魔法の国の凶悪犯罪者が入り込み混沌と化したB市で魔法少女たちが死闘を繰り広げて。

 

 その結果。ピティ・フレデリカとトットポップこそ逃がしたものの、レイン・ポゥの捕縛に成功し、魔法少女の死者をプキンとソニア・ビーンの2名に抑えられたのは奇跡に近いと知っている。

 

 

 かくして。

 B市を舞台にした超常の騒動は幕を下ろすのだった。

 

 




Q.戦闘描写が省略されてたけど、魔王パムはソニアをどうやって殺したの?
A.2枚の羽で戦っている素振りを見せつつ、3枚目の羽を極小&透明にしてソニアの口内に潜り込ませて、羽を爆発させて体内からズタズタにしました。魔法少女ソニアは呼吸を必要としている(吸い込む空気だけは魔法で腐らせない)ことに着目した攻略法ですね。
Q.なんで魔王パムのかっこいいシーンを割愛したの?
A.げ、原作でも似たようなことやってたから良いかなって……


次回 第34話
『もうはなさない 君がすべてさ』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。