その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第35話 「おひるね日和だね」「あ」

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 なんだろう。

 ボクって事を終えたらしばらく眠り続けないといけないノルマでもあるのだろうか。

 

 

 ボクは清潔感の保たれた白い部屋のベッドで目を覚ました。

 見覚えのない光景だが、部屋の医療設備やボクの体のあちこちに巻かれている包帯から察するに、ボクは病院で入院しているのだろう。

 

 ボクはB市の一連の事件で人間としての体に傷を負い、気を失った。

 みんなのことが心配だが、さすがに無事だと思いたい。ボクが気を失った時点で、残る危険人物はピティ・フレデリカとトットポップのみ。かの2人が他の魔法少女たちを皆殺しにしただなんて悲劇はありえない。……信じていいよね?

 

 付近のテーブルに置かれた日めくり式のカレンダーを見ると、ボクはあれから1週間、眠り続けていたらしい。

 

 

 うん、嫌な予感がする。

 魔法少女育成計画ってそこそこシリーズが刊行されていたと記憶している。もしかして、これから何か起こるたびにボクは巻き込まれて怪我をして、入院することになるのだろうか。

 

 そんなのまるで某『その幻想をぶち殺す』さんじゃないか。

 嫌すぎる。ボクはMじゃないんだけど。被虐趣味なんて持ち合わせてないんだけど。

 

 

 というか、3年前に死んだことになっているスイムスイムが病院にかかったらマズいのではなかったのか? だからソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』が終了した時、ボクはアカネの家で寝かせられていたはずでは??

 

 あ、いや。今回は物理的に怪我を負っていたから、入院やむなしってことなのかな?

 おのれプキン、許すまじ。手榴弾(アイテム)なぞ使ってんじゃねえ!

 

 

 ……むー。怪我がまだ治りきっていないせいか。7歳の幼い体が関係しているのか。部屋の窓から差し込む暖かな日差しを心地良いからか。

 

 1週間も寝ていたくせに、また眠たくなってしまった。 

 

 

(おひるね日和だね)

 

 今のボクに睡魔にあえて逆らう理由はない。

 もうひと眠りくらい堪能したって何も問題はない。

 ボクはベッドに体を横たえて目を閉じようとする。

 

 その時、病室の扉が開いた。

 扉の先にいるのは、魔法少女アカネこと不破茜だった。

 

 

(あっ)

 

 アカネの顔がヤバい。

 歓喜と憤怒と悲嘆を筆頭に、様々な感情がぐじゃぐちゃに混ざった表情をしている。

 

 

 だれかたすけて(脊髄反射)

 

 ボクが心の奥でつい零した救援要請は虚しく消えていった。

 

 

「スイム!」

 

 アカネがボクへと駆けてきて抱き着いてくる。アカネはボロボロと涙を流している。

 このシチュエーションは二度目である。うん、本当に申し訳ない。ボクはどこまでもアカネの情緒を揺さぶってばかりだ。

 

 

「良かった、起きてくれた……!」

 

 ボクはアカネが落ち着いてくれることを願ってアカネの背中を撫でる。

 どこまでもデジャヴだ。

 

 

「スイムが私に隠し事をしてるのは知ってる。言いたくないことがあるのも知ってる。言わなくていい。何も言わなくていいから。……お願い、いなくならないで」

 

 アカネが泣きじゃくりながらボクに想いを伝えてくる。

 ボクが憑依する前のスイムスイムが森の音楽家クラムベリーの試験で魔法少女を次々殺した過去を話したくない。そんなボクのわがままが、アカネの心をここまで苦しませている。

 

 

 決めた、話そう。

 アカネに嫌われたとしても仕方がない。ボクを想ってくれるアカネの気持ちをいつまでも裏切るわけにはいかない。アカネから拒絶されて、居場所を失ったその時は……もっと就活がんばるか。今のところ、お祈りされてばっかりだけど。

 

 

「アカネ。私のこと、今から話す」

「え?」

 

 ボクはアカネをまっすぐ見据えて、深呼吸をして。

 ありったけの勇気をかき集めて話し始めた。

 

 スイムスイムが森の音楽家クラムベリーの魔法少女選抜試験の被害者であると同時に加害者であること。

 3年前の試験で5名の魔法少女を殺し、その仇討ちで魔法少女に殺されたこと。

 殺されたはずだったのに、3年の時を経てなぜか生き返ったこと。

 生き返って早速ゲームの世界に入れられて、アカネと出会ったこと。

 

 

「……」

 

 アカネは言葉を失っているようだ。

 アカネの表情から上手く感情を読み取れない。

 

 

「私は人殺し。大人を殺した。大学生を殺した。主婦を殺した。子供を殺した。仲間を殺した。私は、アカネの家族を殺したクラムベリーと同じ」

「――違うッッ!!」

 

 今まで沈黙を保っていたアカネが叫んだ。

 びりびりとボクの鼓膜が震える。

 

 

「私は知ってるよ? スイムがみんなを救うためにいっぱい考えて、私たちに作戦を教えてくれたこと。スイムが命を賭けてがんばってくれたこと。あなたは音楽家なんかとは違う、絶対に違う。だから大丈夫、私に遠慮しなくていい。……スイムが嫌じゃないなら、これからも一緒に生活しよう?」

 

 かつてスイムスイムが犯した所業。

 それを知ってなお、アカネはボクを受け入れてくれた。

 

 単純にボクへの好意を妄信しての発言ではないのはアカネの声色からわかる。ボクの告白を真摯に受け止めて、真剣に考えて、結論を出してくれた。

 

 誰にでもできることじゃない。

 アカネは凄い。

 

 

「ありがとう、アカネ」

 

 その後、しばらくボクとアカネだけの無言の時間が続いた。

 ボクが改めて検査を受け、医師に問題ないと判断されて、アカネに連れられて退院したのはそれから3時間後のことだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇リップル

 

 B市の事件が終わってからしばらく時が経ったが、リップルの立場は事件前と何ら変わらなかった。7753(ななこさん)はリップルを高く評価する報告書を作ってくれたらしいが、リップルの魔法少女生活は何一つ変化をみせていない。

 

 魔法の国は今もまだリップルの扱いを審議中なのか。それとも魔法の国にコネがなく、さらに『森の音楽家クラムベリーの子供たち』という色眼鏡で見られるリップルは、他の魔法少女よりも出世の道が厳しく険しいのか。真偽は定かではない。

 

 任務を果たすために、宿敵への感情を飲み込んで協力して戦った結果、かのソニア・ビーンに傷を負わせてしばらく足止めできたことは特にプラス評価になると想定していた。

 

 が、ピティ・フレデリカ&トットポップの2人と長々と交戦したくせに取り逃がしてしまったマイナス評価と相殺されてしまったのかもしれない。

 

 リップルの立場という観点では現状、B市の事件に巻き込まれたことは無駄に命を危険にさらしただけの損な出来事だ。けれど、成果もあった。

 

 

 B市の事件の翌日、リップルはスノーホワイトと会った。

 その時、リップルはスノーホワイトに怒られた。

 

 スノーホワイトは監査部門の報告書を読んでいたらしい。さらにファル*1を介して、リップルが出世を望む動機をスノーホワイトが知ったことも合わさり、リップルが危ない事件に足を突っ込んで無茶をしたことを怒られた。

 

 スノーホワイト自身が魔法少女狩りとして、悪い魔法少女を捕まえるために我が身を危険にさらして日々無茶を続けていることは棚に上げてだ。

 

 スノーホワイトも己の理不尽さを自覚していた。

 リップルはスノーホワイトに怒られた後に謝られた。

 

 

「私は、きっと焦ってた。変わりたくて、次は後悔する前に自分で選びたくて。でも私のせいでリップルを心配させて、昇進を急がせて、リップルを危ない目に遭わせた。……ごめんなさい。これからはやり方を改める」

 

 スノーホワイトの謝罪を受けた後は、『今後はお互いに無茶をしない』という約束をした。スノーホワイトが無茶を控える方針に切り替えてくれただけでも、リップルがB市の一連の騒動に関与したことに意義はあった。

 

 

 

 そのようなことを考えながら、リップルは民家の屋根を次々跳んで目的地に向かう。今日のリップルは出世のためではなく、私用を済ますために活動している。

 

 

「ここか」

 

 目的地にたどり着いたリップルはとある一軒家の前に着地する。

 『不破』と表札がかけられている。

 

 そう、リップルはスイムスイムに会いに来た。スノーホワイトからスイムスイム宛の伝言を預かったのが理由の1つ。もう1つの理由は、今もきっと誤解し続けているであろうスイムスイムの認識を正すためだ。

 

 

 スノーホワイトと会った時、リップルはスイムスイムのことを話題に出した。

 そこでスノーホワイトが既にスイムスイムの復活を把握していることを知った。スノーホワイトがキークを捕まえた一件で、スイムスイムの働きによりゲーム世界に囚われた多くの魔法少女の命が救われたことを知った。

 

 スノーホワイトはスイムスイムが生き返った原因を知らなかった。今も調査中らしい。

 スノーホワイトは3年前のスイムスイムと今のスイムスイムとは別人だと思っているとのこと。リップルはスノーホワイトと別れてから、じっくり時間をかけてスイムスイムのことを考えて、考えて――最終的にスノーホワイトと同じ結論に至った。

 

 

 ――リップル。この一件が終わったら、いつでも殺しに来ていいよ

 

 が、スイムスイムは『リップルが今も自分を殺したがっている』と考えているだろう。だから、今のリップルにスイムスイムを殺害する意思がないことを伝えに行く。そのために、スノーホワイトからスイムスイムの今の住まいを教えてもらった。

 

 リップルは一軒家のインターホンを鳴らす。

 十数秒ほどで扉が開かれ、スイムスイムが顔を出した。コスチュームの水着姿じゃない、私服のスイムスイムの姿が何だか非常に違和感だ。

 

 スイムスイムはリップルを見つめて一瞬だけビシリと固まったかと思うと、家の外へと進み出て、後ろ手で扉を閉める。

 

 

「そう。私を殺しに来たんだね」

「いや」

「場所を移してもいい? アカネに私の死ぬ姿を見せたくない」

「違うけど」

「違うの?」

 

 リップルがうなずくと、スイムスイムが再び硬直した。

 無表情のくせに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている気がして。リップルは眼前のスイムスイムを3年前のスイムスイムと別人だと解釈した己の判断が正解だと、改めて認識した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 【朗報】今日はボクの命日じゃなかった【リップル様のお慈悲に感謝ァ☆】

 

 いや、スノーホワイトといいリップルといい聖人すぎやしませんかね。

 いくら中身がボクとはいえ、ハードゴア・アリスやトップスピードを殺したスイムスイムの見目をしている相手を受け入れられるとかメンタルが凄まじすぎる。

 

 にしても。ボクを殺さないのならリップルは何の用でここに訪れてきたのだろうか。

 

 

 ボクはリップルを不破家のリビングへと案内する。リップルに椅子に座ってもらい、ボクはテーブルを挟んだ向かい側の椅子に座る。

 

 

(ッ!?)

 

 刹那、ボクは驚愕に目を見開いた。ボクは確かに椅子に座ったはずだ。なのにいつの間にか椅子に座るアカネの膝の上に座っていた。何を言っているのかわからねーと思うが、ボクも何をされたのかわからなかった。アカネが背中からボクの体をギュッと抱きしめてくる。 

 

 

「捕まえた」

「アカネ」

「や」

「その」

「やだ」

「あの」

「むー」

「えっと」

「今日はもうはなさない」

「でも今はお客さんが来てるから恥ずかしい」

「何も恥ずかしいことはない」

 

 ボクが退院してからというもの、アカネからスキンシップを仕掛けられる機会が増えた。元はと言えば、ボクがアカネに心配をかけたことが悪いので、アカネの行いを全面的に受け入れる方針だ。けれどさすがに第三者、それもリップルには見られたくない。

 

 

「お構いなく」

(ボクが構うんですけど?)

 

 リップルがボクを気遣ってか声をかけてくれるが心がすごく痛い。

 だってこれは、リップルの相棒トップスピードを殺した奴がアカネ(あいぼう)とイチャイチャしている様子をリップルに見せつけている構図だ。地獄では??

 

 だれかたすけて(今、試されるボクのメンタル)

 

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

 なるべくアカネの望みは叶えてあげたい。しかしリップルに今のボクの姿を長々と見てもらいたくない。ならばさっさと本題に入ってリップルの用事を済ませにかかるが吉だ。ボクがリップルに問いかけると、リップルが深々と頭を下げてきた。

 

 

(なんで?)

「ごめん。あの時、スイムスイムに酷い態度を取って」

「……私はリップルの相棒を殺した。恨まれて当然。謝ること、ないよ?」

「これは私のけじめだ。……私の復讐は3年前に終わった。お前がこれからもまっとうに生きるというのなら、私はお前に危害を加えない。それを直接、伝えに来た」

 

 まさかボクがリップルに許される日が来るだなんて予想だにしなかった。

 リップルが来訪してからというもの、ボクは驚いてばかりだ。

 

 これドッキリだったりしないよね?

 ボクが安心したタイミングで『と…ゆだんさせといて…ばかめ…死ね!!!』してきたりしないよね?

 

 ……さすがにリップルに失礼か。

 

 

「あとスノーホワイトから伝言を預かってる。こっちの方が本題だ」

 

 ボクがリップルの柔らかな態度に慣れずに頭の中でヘンテコな想定をしている中、リップルが次の話題を持ってくる。

 

 

「スイムスイム。お前は3年前に死んだ。私が殺した」

「うん」

「だが、魔法の国ではお前は死んでいないことになっている」

「うん……え?」

 

 その話題はボクにとってあまりに衝撃的だった。

 つい手に持っていた緑茶のコップを落としそうになってしまった。ボクの後ろのアカネもボクと同じくらい驚いている様子だ。

 

 

「魔法の国のあらゆる資料から『スイムスイムの死』に関する情報が消されてる。森の音楽家クラムベリーの最後の試験の生存者が、私とスノーホワイトとスイムスイムの3人ということになっている。お前を生き返らせた者が情報の改ざんに関与しているとみて、スノーホワイトが調査を進めているが……スイムスイム、何か心当たりはないか?」

 

 そっか。3年前に死んでいるはずのボクが魔法の国が関与する病院で問題なく怪我を治療してもらえたのはそういうわけか。そっかー。って、そうじゃなくて!

 

 

 ――その調子だよ。

 ――その調子でいっぱい経験して、いっぱい人を救って、いっぱい成長して。……いつか私のことも助けてね?

 

 ボクの脳裏によみがえるのは、どこまでも真っ白な不思議空間で何者かがボクの頭に直接語りかけてきた、かつての出来事だ。

 

 なるべく考えないようにしていたけれど、ボクってやっぱ何者かの壮大な計画的なものに巻き込まれているのでは?

 

 

「思いつかない」

 

 ボクはリップルの質問に嘘を返した。まだあの真っ白空間の一件はわからないことが多すぎる。下手に情報を公開するのは混乱の元だ。

 

 これからはボクも情報を集めよう。ボクの秘密に切り込んでいこう。リップルたちに真っ白空間の一件を話すのはそれからでも遅くはない。

 

 

(さて、何から始めたものか)

 

 ボクはコップを口元へ運んで緑茶をコクリと飲んだ。

 お茶おいしぃ(˙◁˙)

 

 

 ◇◇◇

 

 

人小路庚江(ひとこうじかのえ)

 

 寒波が今日も猛威を振るっている。

 それは魔法少女プフレこと人小路庚江が住まう人小路邸であっても例外ではない。

 

 しかし庚江は本日、人小路邸の中庭で優雅なティータイムと洒落込んでいた。

 庚江の従者たる魚山護(ととやままもり)が寒さに震えつつ、ここまで運んできてくれた紅茶とお茶菓子。白い丸テーブルの上に置かれたそれらを庚江は微笑ましさを含んだ視線で眺め、紅茶のカップを手に取り一口すする。

 

 

 結局、この前のB市の一件は第二級の魔法犯罪という扱いになった。

 幾多の魔法関係者を殺害した暗殺者レイン・ポゥと、魔法少女刑務所から脱獄した凶悪犯罪者が偶然B市に集結したことで発生したあらゆる損害。これらを重く捉えつつも、最終的に人的・物的損害が軽微に収まったことが第二級と定められた理由らしい。

 

 実際、部外者がB市の事件を報告書ベースで知れば、『あわや大惨事になりかけたけど、捜査班(特に魔王パム)が何とかしてくれたんだな』くらいの印象しか抱けないだろう。

 

 

 しかし庚江は知っている。

 この結果をもたらした最大の要因を。誰の献身が最も貢献していたのかを。

 

 

「……」

 

 庚江はかつてのオフ会のことを思い起こす。

 庚江が護と一緒にゲームの世界に囚われていた際、プフレ、シャドウゲール、マスクド・ワンダー、スイムスイム、アカネ、ディティック・ベルの6人で行った、『ゲーム参加者の魔法少女を死なせないようにするための作戦会議』のことを思い起こす。

 

 当時、スイムスイムは開口一番に庚江たちにこう尋ねた。

 

 

 ――森の音楽家クラムベリーって知ってる?

 

 

 庚江はその者を知らず、しかしやけに頭が痛みを訴えていて。妙な胸騒ぎだけが心を駆け巡っていて。

 

 庚江は己の記憶力に絶対の自信があった。なのに直感が『音楽家を知っている!』と叫び、しかし記憶が『そんな奴は知らない!』と頭ごなしに否定しにかかる。このようなチグハグな感覚は初めてだった。

 

 庚江と同じく、護とマスクド・ワンダーも『音楽家』というワードに動揺していた。そんな庚江たちの様子を見たスイムスイムは「知らないならいい。気にしないで」と音楽家の話題をなかったことにして、作戦会議を継続した。

 

 

 作戦会議の後、庚江は護にヘッドホンを渡し、シャドウゲールの『機械を改造してパワーアップできる』魔法でヘッドホンに記憶回復装置を追加してもらった。その改造ヘッドホンを使って、庚江は封印されていた己の記憶を復活させた。

 

 

 森の音楽家クラムベリーが『正式な魔法少女を選別する試験を開催する』というお題目で世界各地から集めた、総勢104名の魔法少女による大規模な殺し合い。

 

 『最後まで生き残った1人を合格者とする』ルールを捻じ曲げて、合格者を2人にしてもらう。そのためにクラムベリーと交渉し、対価としてシャドウゲールを除く102名の魔法少女を同士討ちさせる策を講じて、次々と魔法少女を地獄に突き落としていった。プフレがシャドウゲールと一緒に生き残るために、102名の命をクラムベリーに捧げた。その記憶を。

 

 

 魔法が関わると人の命は軽くなる。

 魔法少女の命は軽い。

 

 森の音楽家クラムベリーが主催した魔法少女同士の殺し合いの件も、ゲーム世界に囚われた件も。魔法少女の命が脅かされた。護の命が脅かされた。

 

 護を守りたければ魔法少女を辞めさせればいい、なんて単純な話ではない。

 今さら魔法少女を辞めたとして、元・魔法少女となるだけだ。悪意のある魔法関係者がシャドウゲールの『機械を改造してパワーアップできる』魔法に有用性を見出せば、シャドウゲールの身に危険が及ぶことに変わりはない。

 

 

 魔法少女の地位を向上させる。魔法少女の命を容易に消し飛ばされないようにする。

 護が幸せな人生を送れるように、天寿を全うできるように、あらゆる手を尽くす。

 

 庚江の願いを成就させるために魔法の国の再構築は必須だった。ゆえに庚江はまず、魔法の国の人事部門長を罠に嵌めて左遷させ、自身が人事部門の長となった。人事の立場なら、魔法関係者の情報を集めやすく、策を練りやすいからだ。

 

 

 それから庚江は幾多の策を裏で巡らせながら、B市に1つの舞台を作り上げた。有り体に言えば、庚江はB市の第二級魔法犯罪の黒幕だ。

 

 

 前任の人事部門長は自由に動かせる駒として暗殺者レイン・ポゥとトコを飼っていた。が、そんな物騒な駒は新しい魔法の国には不要だ。なのでプフレは前任と同様に、『にゃん』口調を使ってトコと魔法の端末でやり取りをしつつ、暗殺者の正体を外部にバラして、捜査班を呼び寄せて、レイン・ポゥとトコがB市に逃げ込むように誘導した。

 

 捜査班の班長にマナを据えるよう手回しをした。手練れの暗殺者を捕縛する任務の責任者に、まだ経験の浅いマナが抜擢される。となれば、マナと懇意な間柄である下克上羽菜は必ず捜査班の一員に名乗りを上げる。

 

 魔法の国の外交部門は魔王パムの暴力を盾にして他部門にプレッシャーをかけてくる粗雑な連中だ。暗殺者がB市に逃げ込んだと知れば、手柄の独り占めをもくろみ、当然のように魔王パムを差し向けつつB市を結界で封鎖する。

 

 魔法の国を改革するには、人事部門の地位を盤石にする必要がある。人事部門の地位を上げる最も簡単な方法は他部門の地位を下げることだ。そうすれば相対的に人事部門の地位は高まる。つまり、他部門が幅を利かせている原因――他部門に属する魔法少女(エース)、例えば外交部門所属の魔王パムや監査部門所属の下克上羽菜を消せばいい。

 

 

 魔法の国の反体制派にピティ・フレデリカの脱獄と、B市に逃げ込んだ暗殺者の捕縛を依頼したのも庚江だ。当然、魔法少女を偏愛する、魔法少女の情報通たるフレデリカが、己が優位に立ち回るために、自身と同じ刑務所で封印されているプキンとソニア・ビーンを解放して戦力を増強させることも織り込み済みだ。

 

 が、庚江に必要なのは魔法少女の刑務所から凶悪犯が脱獄して人間社会に被害をもたらしたという事実だけだ。その事実さえ確定させれば、凶悪犯は必要ない。

 

 つまりB市は庚江にとっての邪魔者を集結させて上手に同士討ちさせるための舞台だった。

 

 

 より庚江が望む結果となるように、部下の7753(ななこさん)の『相手の能力がわかる魔法のゴーグル』をシャドウゲールの魔法で改造した。

 

 いつでも7753に指示を出せるようにするための通信機能。都合の悪い通信履歴を消すためのログの抹消機能。魔法少女たちの情報共有を阻害するための魔法の端末用の妨害電波発信機能。これらを搭載したゴーグルを7753に装着させ、『リップルの研修』を理由にB市に放り込んだ。

 

 

 が、庚江が御膳立てしたB市で、しかし庚江は己の望みを半分程度しか叶えられなかった。何せ、レイン・ポゥも、魔王パムも、下克上羽菜も生き残っている。ピティ・フレデリカとトットポップも逃げおおせている。

 

 これでは外交部門の横暴は止まらないし、監査部門も一定の権威を保ったままだ。自由を得たフレデリカが大人しくしているわけがなく、フレデリカの欲望に端を発した悲劇が巻き起こる未来が容易に予測できる。

 

 一応、収穫はある。

 1つは、囚人を汚れ仕事に使う部署を摘発させたこと。これによりただただ魔法少女を永遠に封印するだけの旧刑務所を閉鎖し、真に魔法少女の更生を目指す施設の運用を開始できた。

 

 もう1つは、協力者の『他者の記憶を青い球に封じ込める』魔法の効果を直接確認できたことだ。試しにレイン・ポゥとトコの記憶を奪ってもらったが、あれは非常に便利だ。

 

 記憶を青い球に抜き取る形で物理的に奪っているので、庚江が使った記憶回復装置のような代物を持ち出したところで、彼の者は記憶を思い出せない。近い将来、庚江の動きを疎ましく思う連中が強硬手段に走った時の対策の1つとして、あの魔法は十分に使える。

 

 

 庚江が望みを叶えられなかった原因。

 それはスイムスイムの献身だ。

 

 しかし庚江が望みを少ししか叶えられなかった現状もまた、庚江の想定内だった。何せ、スイムスイムをB市に誘導したのもまた庚江なのだから。

 

 

 給料をもらって働く魔法少女になりたがっているスイムスイムが就職できないように各地の採用担当に根回しをしたのも。スイムスイムが就活に失敗し続けて焦っているタイミングを見計らって、彼女の魔法の端末に『わん』口調で仕事の偽広告を表示させてB市へ誘導したのも庚江だ。スイムスイムの情報を得るために、庚江はスイムスイムもB市に投入した。

 

 邪魔者の排除と、スイムスイムの情報の入手。二兎を得ようとした結果、一兎しか得られなかった。これが此度の庚江の成果だ。

 

 

(強欲すぎるのも考えものだね)

 

 だが何も問題はない。邪魔者を排除する機会は今後、いくらでも作れる。

 それにB市でプフレにとっての邪魔者を排除できなかったことを差し引いても、此度の騒動でスイムスイムの情報を数多く引き抜けたことは非常に大きい。

 

 

 ――さて、君はどうする?

 ――悲劇を防ぎたい。

 

 あの時、スイムスイムと通話して、最小限の情報だけ与えて。その後の庚江の問いかけにスイムスイムはすぐさま返答した。その返答には一切の迷いがなかった。

 

 そしてスイムスイムは己の望みを見事に叶えてみせた。

 一般人の死傷者は発生している。体や心に傷を残した魔法少女も多い。しかしそれでもスイムスイムにとっては大戦果だ。スイムスイムが介入してから亡くなった魔法少女は、スイムスイム視点では敵である、プキンとソニア・ビーンだけなのだから。

 

 当初、B市に魔法少女たちが殺し合う舞台を作る構想を練った時、庚江の想定では、B市で生き残る魔法少女は3名だけだと想定していた。

 

 庚江が指示を出して行動を操れる7753、最も7753の影響を受けやすいポジションにいるマナ、そして7753とマナに足りない武力を補うもう1人。その程度しか魔法少女は生き残らないと想定していた。さらに一般人の死傷者は格段に増えると見積もっていた。

 

 が、B市にスイムスイムを投じて少しだけ事前情報を与えるだけで、生存者は格段に増えた。B市の一件の結果は、庚江の想定すらも凌駕してみせた。

 

 

(実に面白い)

 

 B市の被害を大幅に軽減した立役者:スイムスイム。

 スイムスイムは3年前に死んでいる。リップルに殺されている。スイムスイムも己が殺されたと自覚していたし、リップルも己がスイムスイムにトドメを刺したと認識していた。

 

 なのに、魔法の国ではスイムスイムが死んでいない扱いになっている。

 魔法の国の資料では、3年前のN市の惨劇の生存者は、スノーホワイト・リップル・スイムスイムの3名となっている。どの資料を漁っても、『スイムスイムの死』に言及するものは存在しなかった。

 

 が、N市の惨劇の当事者たるリップルやスイムスイム本人の記憶。そして7753のゴーグルで入手した情報は、スイムスイムが一度死に、それから復活したことを示している。

 

 魔法の国の資料と、当事者たちの情報。信じるに足るのは後者だ。

 すなわち、魔法の国の資料が改ざんされている。

 

 

(『ぷくさま』『ともだち』か)

 

 つくづく7753は優秀だ。スイムスイムに関わる異常事態の手がかりさえもゴーグルで見つけ出してくれた。

 

 7753のゴーグルで観測したスイムスイムの基本的な情報は異常だった。

 本名、年齢、性別、プロフィール、ステータス。スイムスイムの根幹たる情報がすっかり汚染されていた。が、汚染された情報からも読み取れることはある。

 

 

 ――ぷくさま。ともだち。

 

 これらのワードから真っ先に想起できるのはとある人物だ。

 

 魔法の国を作り上げたとされる、最初の魔法使いと3人の弟子こと三賢人。

 その三賢人の一柱『アヴ・ラパチ・プク・バルタ』の現身たる魔法少女『プク・プック』。魔法の国の最高権力者の1人だ。

 

 プク・プックはとても権力者とは思えないほどに気さくで人当たりが良く、どんな頑固者の心も開いてしまうとの触れ込みだ。

 

 安直に推理するなら、スイムスイムをよみがえらせたのは、プク・プックを信奉するプク派の魔法少女ということになる。

 

 

 だが、魔法の国の資料に改ざんの痕跡はまるでなかった。

 たとえプク派が全身全霊を賭してスイムスイムの死を隠蔽しにかかったとしても、必ず痕跡は残る。が、実際には痕跡は何もなく、庚江すらも『スイムスイムが復活した』との情報を得た上で調査して初めて資料の改ざんに気づいた始末だ。

 

 そして、スイムスイムは魔法の端末を持っていた。

 これもおかしい。魔法の国は死んだ魔法少女の魔法の端末の回収を怠ったりしない。魔法の国は、魔法の存在が科学社会に露見することを何より警戒している。なのにスイムスイムは当然のように自分用の魔法の端末を持っていて、何不自由なく使えている。

 

 

 スイムスイムをよみがえらせる。

 スイムスイムに魔法の端末を与える。

 魔法の国の資料をすべて改ざんする。

 

 これらの芸当を鑑みると、スイムスイムを復活させた何某は、ただスイムスイムをよみがえらせたのではなく、文字通りスイムスイムの死をなかったことにした。そう捉えた方がしっくりくる。

 

 では一体誰がスイムスイムの死をなかったことにしたのか。

 候補者は絞られている。これも7753がしっかり働いてくれたおかげだ。

 

 

 ――本名:助けて、スイムちゃん

 ――年齢:私を見つけて、綾名ちゃん

 

 

 スイムスイムは享年7歳だ。

 スイムスイムに呼びかけたその人物は、魔法少女スイムスイムの正体が坂凪綾名(さかなぎあやな)だと知っていて、わざわざスイムスイムに助けてほしいと願った人物だ。

 

 

 ――宮沢

 

 かつてN市の小学校でスイムスイムとクラスメイトだった女子生徒。2年前に魔法の才能を見出された魔法少女。この者がスイムスイムの死をなかったことにした最有力候補だ。

 

 スイムスイムとの関係性だけではない。

 宮沢は『素敵な物語を生み出せる』魔法を使える。

 

 

 魔法少女は1種類の魔法しか使えない。

 が、魔法少女の魔法は規格外だ。

 

 魔法の国のIT部門のトップだったキークは『電脳空間で自由自在に行動できる』魔法の保持者だった。彼女は森の音楽家クラムベリーの子供たちから己の理想とする魔法少女のみを選抜するために、ゲームの世界を作ってプフレたちを放り込んだ。

 

 ゲームの世界では、キークは万能の神様だった。

 キークはゲームの仕様を好き勝手に変えることができた。

 

 同様に、宮沢も『素敵な物語を生み出せる』魔法で世界に干渉し、スイムスイムが3年前に死なずに済んだ世界を生み出したのではないか。

 

 

 これが庚江が収集した情報で導き出した推理だ。

 この推理が正しい保証はない。そもそも宮沢はプク派との接点がない。ただの野良魔法少女だ。また、宮沢はあくまで平和に魔法少女活動を楽しんでいるため、スイムスイムの汚染情報と結びつかない部分がある。

 

 近々、宮沢に直接、接触して探りを入れるつもりだ。

 すべては庚江の願いのためである。

 

 

 庚江は計画を進める。それは魚山護を守るための計画だ。そのために魔法の国の体制を早急に抜本的に改革し、魔法少女の地位を大いに向上させるための計画だ。

 

 庚江の目算では、千を軽く超える魔法関係者の屍を積む必要がある。

 どこまでも血に染まった計画だ。

 

 

「……」

 

 記憶を思い出してからというもの、庚江の脳内に特にずっとこびりついている光景がある。

 

 森の音楽家クラムベリーが開催した魔法少女104名の殺し合いが終わって、プフレは安堵とともにシャドウゲールに向き直り、シャドウゲールが怯えた眼でプフレを見つめ返していた光景だ。

 

 あの時、シャドウゲールは「他の者たちと同じように、自分もプフレに殺されてしまうのでは?」と怯えていた。

 

 プフレがシャドウゲールを殺すだなんて万が一にもあり得ないのに、殺し合いの場でのプフレの容赦のない立ち振る舞いが、シャドウゲールに荒唐無稽な考えに至らせてしまった。プフレの失態だ。

 

 

「…………」

 

 庚江にとって魚山護はただの従者ではない。大切な人だ。

 護が幸せな人生を歩めるようにするためならば、庚江はいかなる手段も厭わない。どれだけ護に失望されたって、嫌われたって構わない。

 

 けれど。

 庚江がただただ遂行すれば千の屍を積むことになる計画も。スイムスイムを巻き込むことで、犠牲者が半分にでも十分の一にでも減るというのなら。

 

 それに越したことはない。

 

 

 だからスイムスイムを見極める。

 スイムスイムの死をなかったことにした者を特定し、かの者の目的を明らかにする。

 

 今までの言動から、スイムスイムの善性にはもはや疑う余地はない。

 が、スイムスイムの背後にいるものは別だ。庚江の願いと、スイムスイムの背後にいる者の願いが相反している可能性は拭えない。

 

 スイムスイムが味方として使えるならば便利な道具として利用させてもらう。

 スイムスイムが敵ならば排除する。

 

 記憶を奪ったレイン・ポゥの処分を軽くするよう便宜を図ったのも、後の布石だ。スイムスイムを味方として使う場合は、庚江がレイン・ポゥをただの三香織に戻して日常に帰したという事実にも使い道が生まれる。

 

 

 

「……」

 

 さて、そろそろ紅茶もお茶菓子もなくなりそうだ。曇天模様の空から今にも雨が降り始めそうだ。ここらでティータイムはお開きとしよう。此度の中庭のティータイムで庚江は思考を整理できた。実に有意義な時間だった。

 

 庚江は思考を切り替える。己の願いに起因した壮大な計画を一旦脳の隅に置く。

 さぁ、明日は夢ノ島ジェノサイ子が企画したオフ会だ。ゲーム世界に巻き込まれた魔法少女を集めた会合に向けて、身だしなみを考えなければならない。

 

 

 

「護、明日のオフ会にオススメの服装はあるかい?」

「いえ、特に。お嬢は何を着ても似合いますし、明日のお嬢の気分で決めればいいんじゃないですか?」

「ふむ、そうか。では護のオススメということで、明日は白い水着といこうか。スイムスイムの気持ちを体験してみるのも面白いだろう。それに存外、『冬空』と『純白の水着』の組み合わせは相性が良いと思わないかい?」

「本当に申し訳ありませんごめんなさい。真剣に選びますからどうか水着だけはやめてください。お嬢に恥をかかせたとあっては私が両親や人小路家の方々に殺されてしまいます」

「やれやれ、大げさだね」

「全然大げさじゃないです、大まじめです」

 

 願わくば、護とのかけがえのない日々がこれからもずっと続きますように。

 護をからかいながら、庚江はそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇魔法少女育成計画limited編 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ふんわり嘘予告――

 

 

その日、各地の魔法少女に激震走る!

 

 

【緊急】K県S市に人造魔法少女の研究所あり。調査求む【みんな集まれ】

 

 

なんと、魔法の国の関知しない方法で魔法少女を生み出す研究所の情報が拡散されたのだ!!

 

 

ボクはその謎を解き明かすべくジャングルの奥地へと向かった。

 

そこで待ち受ける真実に一同驚愕! 涙が止まらない…

 

 

 

次章、魔法少女育成計画JOKERS編。

 

 

スイムスイム(憑依)

(一人で10体ぐらい倒せればいけるか…?)

 

 

 To Be Continued……?

 

 

 

*1
スノーホワイトがキークを捕まえた一件をきっかけとして、スノーホワイトと行動を共にしているマスコットキャラクター

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