その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第37話 あんた死ぬわよ

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 本日、ボクは魔法少女の仕事を受けるべく面接会場へと赴いていた。

 

 

 魔法少女の仕事と言っても、別に魔法の国で面接を受けるわけではない。

 

 面接へ赴く魔法少女のアクセスを考慮してくれているのか、それとも魔法の国にみだりに魔法少女を入れたくないのか。真相は定かではないが、とにかく面接は魔法少女にとって身近な場所で行われることが多い。

 

 今日は某県某市の駅前の貸会議室で面接が行われる。

 ボクは魔法少女スイムスイムに変身した姿で、しかし白スクではなく目立たない外出着に着替えた上で会場へとやってきた。

 

 今回、面接担当の方は貸会議室を2部屋借りている。面接用と魔法少女の控え室用ということらしい。ボクは控え室用の貸会議室へと入り、近くの椅子に腰かける。

 

 

 今のボクは、B市の騒動に巻き込まれる前ほど必死に仕事を探してはいない。

 

 かつてのボクは、『ボクが憑依する前のスイムスイムが、多くの魔法少女を殺した過去を隠したまま、不破家の資産を食いつぶす人』になりたくない一心だった。ボクの生活費をボクが稼ぐことに固執して、求職活動を行っていた。

 

 が、ボクはスイムスイムがキルリーダーだったことをアカネに告白し、アカネにボクの存在を受け入れてもらっている。

 

 そのため、今のボクの仕事を求める動機はお金ではない。

 『いつか私のことも助けてね?』さんに関する情報収集のためだ。

 

 この前は魔王塾で情報を集めようかと考えた。けれど魔王塾の模擬戦のヒャッハー具合や、魔王塾の関係者らしい袋井魔梨華からの襲撃を経て、ボクは魔王塾には通わないと心に決めた。

 

 なので、他のルートから情報を集める必要があった。

 そこで『魔法少女の仕事を通じて情報を集めてみよう』と思い至ったため、ボクはこうして面接会場に足を運んでいる。

 

 

 ボクが控え室でしばし待機していると、新たに女性が入室してくる。

 

 黒を基調にした喪服っぽい和服。顔は黒いヴェールで隠されており、背中からはカラスのような漆黒の翼が生えている。

 

 一言で表現すると、魔族の未亡人みたいな女性だった。顔はうかがえないが、この奇天烈な格好は間違いなく魔法少女だ。

 

 

「こんにちは」

「こんにちは」

 

 ボクと喪服の魔法少女はお互いに挨拶を交わす。喪服の魔法少女はボクから少し離れて壁に背中を軽く預ける。

 

 ボクたちの間に会話はない。

 当然だ、今回の仕事の募集人数は1人。つまり喪服の魔法少女は、ボクとたった1つの椅子を奪いあうライバルとなる。馴れ合うつもりはない。相手も同様のスタンスなのだろう。控え室で音を発するのは壁掛け時計の秒針の音だけだ。

 

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます。時間になりましたので、これより面接を始めます」

 

 しばらくすると、書類を脇に抱えたスーツの中年男性が控え室に入り、柔和な声色でボクたちに語りかけてくる。この人が此度の面接官か。

 

 

「まずはスイムスイムさん、こちらへ来てください」

「はい」

 

 面接官の呼びかけに応じてボクは立ち上がる。彼の背中を追って控え室を出て、隣の面接用の貸会議室へと向かう。

 

 ボクは魔法少女スイムスイムとして成長した。強くなった。

 『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法の汎用性をより高めた。地面に潜れるだけじゃない。物理攻撃を無効にできるだけじゃない。空も泳げるようになった。裏世界にも潜れるようにもなった。

 

 客観的に見て、ボクは優秀な部類の魔法少女になっているはずだ。

 今日こそはさすがに面接官もボクに有用性を見出し、採用してくれるだろう。

 

 さぁ、今日こそ仕事を手に入れてみせる!

 いざ出陣!

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

「本日はご足労いただき誠に恐縮ですが、コスチュームが水着の魔法少女はお呼びではありま……コホン。慎重に検討しました結果、残念ながら採用を見合わせることとなりました。今後のご活躍をお祈り申し上げます」

 

 面接開始から数分後、面接官はどこか突き放すような口調でボクにお祈り構文を詠唱してきた。

 

 ああ、やっぱり今回も駄目だったよ。

 面接官(あいつ)はボクの話を聞かないからな。

 

 

「……ありがとう」

 

 対面ではっきりと不採用を言い渡されたボクは面接室を後にして廊下に出る。

 ボクは確かに成長した。が、ボクの就活は相変わらず散々な結果だった。

 

 相変わらず面接官は、一般的な外出着を着ているボクのコスチュームが白スクだと一瞬で看破し、塩対応で突き放してくる。ボクの能力ではなく、白スクコスチュームの一点だけでボクを拒絶してくる。

 

 どうしてボクはこうも就活でズタボロなことになるのか。

 これでもう何度目だろうか。心が折れそうだ。こんな仕打ち、さめざめと泣いたって許されるのでは?

 

 だれかたすけて(ボクは所詮…先の時代の敗北者じゃけェ…)

 

 

「では、カフリアさん。こちらへどうぞ」

「はい」

 

 ボクが力ない足取りで廊下を歩いていると、ボクの背後で面接官が控え室の喪服の魔法少女(カフリア)に呼びかけて、カフリアを伴って面接室へと入る。

 

 

「……」

 

 ボクは廊下の突き当りを曲がったところで立ち止まり、しゃがみ込む。壁からこっそり顔だけ出して、面接室の扉を観察し始める。

 

 きっとカフリアもボクと同じ末路をたどるのだろう。

 だってコスチュームが喪服だもの。ボクと同じように、絶対「コスチュームが喪服の魔法少女はお呼びじゃない」って不採用にするはずだ。ボクは詳しいんだ。

 

 ボクが不幸だからって、人の不幸を願うのはどうかしているとは思う。だけど、冷たい言葉で不採用を通達されて弱っていたボクのメンタルは仲間を強く欲していた。

 

 それゆえ、ボクは良心の呵責をはねのけて待機する。

 カフリアならボクの理解者になってくれるに違いない。

 

 

「それでは当日はよろしくお願いします、詳細は後ほど連絡しますね」

「ええ、よろしくね」

 

 待つこと15分。カフリアと面接官が面接室から姿を現す。面接官は朗らかな口調でカフリアを見送り、カフリアは優雅な足取りで歩を進めていく。ボクの予想に反して、カフリアは仕事を獲得できたようだった。

 

 どうして!?

 どうして水着はダメで喪服はセーフなの!? こんなの絶対おかしいよ!

 

 

 面接官が面接室へと戻る中、ボクはたまらずカフリアの前へと飛び出した。わずかに肩を震わせたカフリアの様子からして、驚かせてしまったのかもしれない。それは申し訳ないけど、今のボクはそれどころではない。

 

 

「あら、あなたは先ほどの」

「カフリア。採用されたの?」

「ええ。ご縁をいただいたわ」

「どうして?」

「どうしてと言われても……」

「私のコスチュームは白い水着」

「水着……ずいぶんと個性的ね」

「私はあの面接官に『水着がコスチュームの魔法少女はお呼びじゃない』と言われた」

「あらまぁ辛辣ね」

「カフリアのコスチュームは喪服」

「ええ」

「魔法少女らしくない、という意味なら水着も喪服も同じはず」

「そうね」

「だけどカフリアは採用された。『喪服がコスチュームの魔法少女はお呼びじゃない』と言われなかった。どうして?」

「んー、経験かしらね? 私はフリーランスを始めて長いから、面接官を一目見れば性格をおおよそ読み取れる。何をアピールすれば面接官からの心証が良くなるかを推測できる。それでコスチュームの悪印象を挽回したのかもしれないわ」

 

 なるほど、カフリアは経験に根差した巧みな話術で面接官の心をつかんで仕事を手中に収めたと。確かにボクは魔法の研究を優先して、話術は鍛えてこなかった。ボクに足りないのは話術だったのか。

 

 魔法少女らしくないコスチュームに身を包むカフリアから成功の秘訣を聞き出せたからか、何か元気が出てきた。

 

 

「そういう質問をしてくるってことは、あなたはフリーランスを始めてまだ日が浅いの?」

「うん。最近、魔法少女の仕事を探し始めた。でもコスチュームが水着のせいで面接でいつも落ちる」

「それは……気の毒ね……」

 

 カフリアの問いにボクが回答していると、ふとカフリアが固まった。あんぐり、というほどではないが、口が半端に開かれたまま硬直している。

 

 カフリアはボクを見ているようで、ボクの背後の窓越しに、駅前の人の往来を眺めているようだった。外で何かあったのか。ボクも窓へと視線を移すが、特に異常はない。ただ、人々がせわしなく歩く日常が広がっているだけだ。

 

 

「スイムスイム。失礼なのをわかった上で尋ねるけど、あなたは何歳なの?」

「7歳」

「……そう、7歳。7歳なのね」

「カフリアは?」

「秘密よ」

「ずるい」

「ふふふ」

 

 カフリアから唐突に年齢を聞かれたのでスイムスイムの肉体年齢を答えた上で、カフリアに聞き返してみたが内緒にされてしまった。まぁそりゃそうか。

 

 カフリアの謎の視線に、脈略のない問い。そしてボクの年齢を聞いた時の反応。カフリアの態度は色々と不自然だけど、わざわざカフリアに問い詰めるほどのことでもない。でも気になる。

 

 

「ねぇスイムスイム。この後、何か予定はある?」

「ない」

「それなら、よかったら私のフリーランス仲間と会ってみない? みんなベテランだから、きっと有益な話を聞けるわよ?」

 

 脳裏に疑問符を浮かべるボクをよそに、カフリアがボクに提案を持ちかけてくる。

 これまた唐突なお誘いだ。どのようにカフリアの思考が変遷した結果、ボクをカフリアのコミュニティに誘うに至ったのかはわからない。が、さっきまでと違って、今のカフリアはもうライバルではない。わざわざいがみ合う必要はないのだ。

 

 

「いいの?」

「もちろん」

「じゃあ、会いたい」

 

 だったら素直に応じよう。この先に待ち受けているまほいく原作の悲劇を防ぎたいと願うのなら、『いつか私のことも助けてね?』さんの手がかりを集めたいと望むなら、魔法少女の知り合いを増やして損はない。ただし頭に向日葵を咲かせた戦闘狂の類いは除く。

 

 

「それじゃ、私の仲間との集会場所へ案内するわ。ついてきて」

「その集会場所って遠いの?」

「15分もあれば着くわ」

「わかった」

 

 かくして。カフリアの半歩後ろをテクテクついて行く形で、ボクたちは面接会場を後にした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 カフリアはボクを引き連れて、コスプレ喫茶『マジカルティータイム』へと入店した。

 

 マジカルティータイムは客にも衣装を貸し出しているものの、客が衣装を持ち込むことの許可不許可を明言していない。それゆえ魔法少女が変身したまま入店してもさほど怪しまれない便利なお店なのだそうだ。そのため、カフリアはよくここで仲間の魔法少女たちと闊達な情報交換を行っているとのこと。

 

 

「カフリア、10分遅刻よ」

「カフリアさんが時間を守らないなんて珍しいですね」

「やっちゃったなぁおい。これは今日は全部カフリアの奢りにしないと割に合わねぇなぁ?」

 

 カフリアの仲間たち3人はすでに集合していたようで、カフリアの姿を認めると口々に声をかけてくる。和気あいあいとした雰囲気だ。カフリアは「遅れてごめんなさい」と軽く謝罪し、ボクを伴って、3人と同じテーブルへと向かい椅子に座る。

 

 

「で、カフリア。そのピンク髪は誰だ?」

「この子はスイムスイム、7歳の魔法少女よ」

「「「7歳!?」」」

「この子を私たちの新しい仲間に加えたいと思って、連れてきたの」

 

 狐面を斜にかけた和装の魔法少女がボクを指差して尋ねると、カフリアがボクを紹介してくれる。ただ、『カフリアの仲間と会ってみる』だけのはずが、いつの間にやらカフリアたちの仲間になる流れになっている。

 

 

「へぇ! つまり新顔ってわけ! じゃあ幼気なちびっ子のために、まずはお姉さんたちが自己紹介(あいさつ)しねぇとなぁ!」

 

 ボクが若干不安になる中、狐面の魔法少女を皮切りに、カフリアの仲間たちがボクに対して自己紹介を始めていく。

 

 

 まず最初に名乗りを上げたのは、狐面を斜にかけた和装の魔法少女。その名は『コクリちゃん』。『小銭を自在に動かす』魔法を使えるそうだ。

 

 ただし一度に一枚しか操ることができず、しかも動かせる最高速度も人間の早足レベル。コックリさんをやる時くらいしか使えなさそうな魔法だが、本人は万が一にも祟られる可能性を恐れて、コックリさんのために己の魔法を使ったことはないと語った。

 

 続いて自己紹介を始めたのは、長ネギ型の髪留めでツーテールを縛っている緑髪の魔法少女。その名は『葱乃(ねぎの)』。『葱の匂いを発生させる』魔法を使えるそうだ。葱が恋しくなった時に非常に便利な魔法だと彼女は声高に主張した。

 

 最後に満を持して話し出したのは、大きな銀色のアフロが特徴的な魔法少女。その名は『アウロ』。『魔法のアフロ』がそのまま彼女の魔法だそうで、アフロは何があっても形状が乱れることはなく、小物の収納や攻撃を防ぐ盾など、多彩に活用できるとのこと。

 

 

 ……魔法少女ってなんだっけ?(哲学)

 

 ボクはうっかり思考停止しそうになったが、何とか平静を取り戻す。カフリアの仲間たちが順に自己紹介してくれたのだから、次はボクの番だ。

 

 

「改めて、私はスイムスイム。『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を使える」

「へぇー、メッチャ便利そうじゃん」

「地面に潜るのによく使う。敵の物理攻撃も無効化できる」

「え、それ無敵じゃね? アウロの上位互換じゃん」

「喧嘩売ってるなら買うわよ、コクリちゃん?」

 

 ボクは魔法少女としての自己紹介を端的に済ませる。それからボクの魔法で実現できる具体例を提示すると、コクリちゃんが目を丸くし、コクリちゃんの物言いにアウロが威圧的な微笑みを頬に張りつける。

 

 

「カフリアさんはどうしてスイムスイムさんを連れてきたんですか? この場は、恵まれない魔法を授かったせいで不遇な立場を強いられる私たちが、フリーランスとして生計を立てるための互助会。そういう建て前でしたよね?」

「確かにスイムスイムの魔法は優秀よ。でもコスチュームが白い水着なせいで不遇な目に遭っている。フリーランスとして活動を始めようにも、コスチュームを盾に面接を落とされて、ロクに仕事を手に入れられていないの。これって、私たちと同じ立場と言えるのでなくて?」

「仕事の面接に行っても、いつも『うちはそういうのじゃないから』ってお祈りされる。お祈りされると、すごく悲しい気持ちになる」

 

 葱乃が挟んだ疑問にカフリアが回答し、ボクが己の状況を補足すると、コクリちゃんたちがそろって「「「あぁ……」」」と納得の声を漏らす。

 

 

「どうりで魔法少女なのにマジカルティータイムに普通の格好で入店してきたわけだ。いくらマジカルティータイムといえど、水着で入店した日にゃソッコーで出禁にされかねんしな。肩身せめぇ思いしてんな? 今まで大変だったろ、わかるぜ」

「やれやれ、スイムスイムを採用しなかった連中はそろって節穴ね。潜水に特化した魔法少女のコスチュームが水着なのは(もっと)もだというのに、見た目でしか判断できないなんて」

「同感です。水着の魔法少女って人魚っぽくもありますよね? 頭の固い面接官の言い分なんて気にせず、スイムスイムさんは自分のコスチュームに自信を持って良いと思いますよ?」

 

 コクリちゃん・アウロ・葱乃はそれぞれ和やかな口調でボクに語りかけてくる。彼女たちの優しい視線が、就活失敗で傷ついたボクの心を癒していく。

 

 あったけぇ……!

 これが仲間……!

 

 

「どうかしら? スイムスイムは私たちの集会に参加する資格があると思うのだけど」

「いいぜ」

「異存ないわ」

「面白そうですしね、大歓迎です」

 

 カフリアの問いにコクリちゃんたちはそろって同意を示す。ボクは「ありがとう」と頭を下げて、それから魔法の端末でカフリアたち4人と連絡先を交換する。

 

 

「――みんなに聞きたいことがある」

 

 ここでボクは、此度カフリアのフリーランス仲間に会った目的の内の1つを達成するべく、カフリアたちに質問を投げかける。

 

 ある日突然、ボクは現実世界とは異なる四方真っ白な世界に飛ばされた。そこで謎の人物から、ボクの脳内に直接『その調子でいっぱい経験して、いっぱい人を救って、いっぱい成長して。……いつか私のことも助けてね』と伝えられたのを最後に、現実世界に戻された。そういう演出をできる魔法少女に心当たりはないか、と。

 

 

「なんかすげー体験してんな」

「……もな子ならそういうこともできるわね。もな子は魔法の錫杖で二人だけの空間を作れるもの」

「けれど、もな子は相手の脳内に直接声を届けられませんよ? 仮にもな子が関与しているのなら、もな子ともう1人がタッグを組んで、スイムスイムに演出を仕掛けたことになりますが……あのもな子がそんなまだるっこしいことをするんでしょうか?」

「それが仕事なら、もな子も演出に加担すると思うわ。けれど、わざわざスイムスイムに意味深な演出をするだけの仕事を魔法の国が用意するとは考えにくいわね」

 

 ボクが体験した不思議現象にまったく心当たりのないコクリちゃんが率直な感想を漏らす中。アウロと葱乃が『もな子』に言及し始める。

 

 

「もな子?」

「武闘派魔法少女が集う魔王塾の卒業生よ。私と葱乃は魔王塾に通ってたから、もな子のことは知っているの。あの子、問題児だったから」

「問題児?」

「ええ。スイムスイム、これは忠告よ。もな子・エイミー・袋井魔梨華。この3人に目をつけられるとロクなことにならないわ。くれぐれも気をつけて」

「うん、ありがとう」

 

 ボクがもな子について尋ねると、アウロが渋い顔で回答する。それからボクの身を慮ってくれたのか、アウロがボクに忠告を授けてくれる。

 

 

 関わってはいけない魔法少女の情報か。

 うん、すごくたすかる。ためになる。

 でももう袋井魔梨華とは出会っちゃいました、へへっ(絶望)

 

 そっかー、袋井魔梨華ってそんなにヤバイのか。

 

 ついこの前、袋井魔梨華に襲われたボクがとっさに撃破されたフリをした時、なーんかあの人、ボクの演技を見抜いてたフシがあるんだよね。ボクの気絶演技を真に受けていてくれてたらいいんだけど。こえぇ。

 

 

「では、その『もな子』という人は関係ないということで良いの?」

「それでいいです。でも、そうなると心当たりがなくなってしまいますね」

「『他人の脳内に声を届けることができる魔法少女』の線から探ってみっか?」

「いえ、スイムスイムが幻覚や白昼夢を見せられていた可能性もあるわ。視界を欺く魔法少女の線を追ってみるのもアリかと」

 

 ボクの不思議体験について、カフリアたちはあーだこーだと議論を活発にしていく。誰もボクの話を疑う素振りがない。

 

 冷静に考えれば、ボクの話は『与太話だ、虚言だ』って疑ったって仕方がないくらいに荒唐無稽だ。みんながボクを7歳だと思っているのなら、なおさらだ。なのに、みんなボクの話を信じて真剣に考えてくれている。

 

 

 あったけぇ……!!

 これが仲間……!! 

 

 

 今日、こうしてカフリアたちと出会えて良かった。

 ボクは己の幸運に心から感謝した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇カフリア

 

 

 結局、スイムスイムの不思議な体験の原因を導き出せないまま、コスプレ喫茶『マジカルティータイム』での集会は夕刻で終わりを迎えた。

 

 カフリアたちはマジカルティータイムの入り口で解散し、各々家路につく。が、素直に自宅へ向かっているのはスイムスイムだけだ。

 

 解散してから10分後、カフリアたちは素知らぬ顔でマジカルティータイムへ再集結していた。再び店内に入り、テーブル席に座る。

 

 

「それにしても、いくら不遇だからって7歳のお子様をいきなり私たちの集会に連れてきたのにはびっくりしたわよ」

「あれですよ。カフリアさんは不治の病(ロリコン)を患ったのでしょう。スイムスイムさんのギャップ、凄いですしね。変身前は7歳児、変身後は魅惑的なぽわぽわ雰囲気のおねーさん。そのくせ、7歳にしてはかなり知的なことが受け答えからうかがえますし。ギャップに脳を焼かれてもおかしくないのです」

「わかってるよな、カフリア。いくらスイムスイムが可愛くても、イエスロリータノータッチだ。ロリを愛でるにしても、用法・用量を守ってほどほどにしろよな?」

「誤解よ、私に邪な気持ちはないわ」

「「「またまたぁ~」」」

 

 アウロたちが連携してカフリアにロリコン疑惑を吹っかけてくる。カフリアが否定するも、3人はにやにやとした笑みを返してくる。その3人の反応が、優しさに起因するものだとカフリアは知っている。理解している。

 

 そう、みんな察してくれていた。

 カフリアがスイムスイムを連れてきた理由を。

 

 ――スイムスイムに死の運命が迫っているのだと。

 

 

 カフリアの魔法は『誰が一番早く死ぬのかわかる』というものだ。

 カフリアの視界に入った者の内、一番最初に死ぬ者の頭の上におどろおどろしい髑髏マークが浮かぶ光景をカフリアだけが視認できる。それがカフリアの魔法だ。

 

 あの時、スイムスイムが『カフリア。採用されたの?』と話しかけてきた時。スイムスイムの頭の上に髑髏マークが浮かんでいた。

 

 それ自体は何ら問題ではない。カフリアの視界に映る人間が1人しかいないのなら、その当人が『一番早く死ぬ人間』と判定されて当然だからだ。

 

 けれど。スイムスイムと対話する中、ふとカフリアの視界に、スイムスイムの背後の窓に広がる、駅前の人々の往来が目に入った。

 

 その時、カフリアは絶句した。駅前には老若男女、色んな人がいた。中には、とんでもなくよぼよぼのお爺さんもいた。なのに、そのお爺さんすらも視界に収めてなお、髑髏マークはずっとスイムスイムの頭の上に浮かんでいた。

 

 

 スイムスイムはあの衰えきったお爺さんよりも早く絶命する。きっとスイムスイムは良くて、あと数年しか生きられない。そのことをカフリアは知った。知ってしまった。知りたくもない情報だった。

 

 どうして7歳の女の子が早死にしなければならないのか。どうして死神に見初められている女の子が、求職活動でも不幸を被らないといけないのか。スイムスイムが一体何をしたというのか。

 

 そう思ったが最後、カフリアはいてもたってもいられず、スイムスイムが報われてほしい一心で、スイムスイムをマジカルティータイムへと連れて行き、カフリアの駄弁り仲間と会わせたのだ。少しでも、少しでもスイムスイムの人生が実りあるものになることを願って、カフリアは短絡的に動いた。

 

 

 ――スイムスイムを襲う残酷な運命を積極的に変える気はないくせに。

 

 

 髑髏マークは、絶対不変な死の宣告ではない。かつてカフリアは、コクリちゃん・葱乃・アウロと協力して、髑髏マークの浮かんでいる人に迫りくる死を防いだ実績がある。バスとタンクローリーとの衝突事故を未然に防ぎ、バスに乗車する人々を救った確かな経験がある。

 

 

 だから。スイムスイムの死の運命だってカフリアがその気になれば回避できる、かもしれない。けれど、カフリアには能動的にスイムスイムを救うつもりはなかった。

 

 あくまで『誰が一番早く死ぬのかわかる』魔法でわかるのは、視界に映った人々の死ぬ順番だ。死ぬ時期はわからない。死ぬ原因もわからない。

 

 いつどうやって死ぬかわからないスイムスイムを、カフリアの私生活を犠牲にしてまで四六時中監視して、命を助けようとする気にはなれない。

 

 

 スイムスイムに報われてほしいと切実に思う。が、カフリアにとって何より大事なのは自分の人生だ。自分とスイムスイムを天秤にかければ、天秤は当然ながらカフリアに傾く。

 

 そんな自分が嫌になる。

 カフリアはただ安全圏でスイムスイムの運命を憂い憐れんでいるだけだ。

 さりとて己のスタンスを変える気はない。

 

 

 フリーランスの魔法少女に対する風当たりは強い。無償の奉仕を是とする純真な魔法少女たちからは『金の亡者』だと侮蔑される。魔法の国から給料をもらって働く魔法少女からは『正職につけるほどの能力のない』半端者と見なされる。

 

 魔法少女の命は軽い。その中でも特にフリーランスの魔法少女の命は軽い。使い捨てようとしている思惑が透ける仕事の数は1つや2つではない。それでもカフリアは上手に立ち回り、これまで生き延びてきた。その積み重ねてきた経験が、スイムスイムをかわいそうに思いつつもこれといって何もしない今のカフリアにつながっている。

 

 

「そう気に病むことねぇって」

 

 カフリアは顔を上げる。

 コクリちゃんが強気な笑みを浮かべている。

 

 

「スイムスイムがピンチの時にあたしらがその場にいるなら手ぇ差し伸べる。スイムスイムがあたしらのあずかり知らぬところで死ぬってんなら、その日が来るまでにいっぱい楽しい経験させてやる。短い人生って決まってんならせめて太くしなきゃってもんだ。子供を喜ばせたって金にはならんが……幼気な女の子に夢を見せてやるのも悪くねぇ。これでもあたしらは魔法少女だしな」

 

 カフリアは周囲を見やる。

 アウロと葱乃も、コクリちゃんの主張に異存はないようだ。

 

 

 つくづく愉快で痛快で頼もしい仲間たちだ。

 カフリアは魔法少女の力を得る機会に恵まれた。しかし魔法には恵まれなかった。立場には恵まれなかった。けれど心を通わす友には恵まれた。

 

 カフリアには心強い仲間たちがいる。アウロと葱乃は暴力サークル『魔王塾』の卒業生だ。魔王パムの指導を受けた彼女たちの戦闘能力は天下一品だ。

 

 コクリちゃんは『森の音楽家クラムベリーの子供たち』の1人だ。ほぼほぼ役立たずの『小銭を自在に動かす』魔法に頼れないハンデを背負った上で、純粋な戦闘技術だけで魔法少女同士の殺し合いで生き残った猛者だ。

 

 人命を守る。

 この1点において、どこまでも頼りになる者たちだ。

 

 スイムスイムが死に瀕する現場にカフリアたちが居合わせたのならば。その時は。

 

 

(あったかいわね……)

 

 カフリアは薄く微笑みを浮かべた。

 

 




次回 第38話
『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』
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