その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム 作:超天才清楚系病弱魔法少女
◇スイムスイム(憑依)
【祝報】ボク、8歳を迎える【長生き万歳】
ボクはスイムスイムの誕生日を知らない。そのため、ボクは自分がなぜかスイムスイムに憑依した日を誕生日、ということにしている。
そんなボクが対外的に8歳児になったということは、魔法少女の命がとにかく軽いまほいくワールドでボクが1年間生存できたということだ。嬉しすぎる。
この1年間、色々な出来事があった。
ゲーム世界に囚われた一件や、B市の騒動を経て、ボクはたくさんの魔法少女と知り合いになった。その数は、スイムスイムに憑依する前のボクでは考えられないほど多い。
その他にも、ふとしたきっかけでプリズムチェリーや、
一方、不穏な人にも目をつけられている。
ピティ・フレデリカの動向は気になるし、『いつか私のことも助けてね』さんの思惑も明らかにできていない。袋井魔梨華がボクをどう評価しているのかもわからない。
とはいえ、ボクは今日も生きている。
今を平穏無事に生きられている。
「……」
まほいくシリーズの主人公がスノーホワイトであり、魔法少女育成計画が魔法少女を題材としたライトノベルである以上、このまま平和な日々が続くわけがない。
スノーホワイトが10代の内に次の悲劇の舞台が幕を開ける。ボクが何も関与しなければ、原作の筋書き通りに多くの魔法少女が死ぬ展開が次々と巻き起こる。これがボクの見立てだ。
次の舞台にボクが居合わせたのならば。ボクのスタンスはもう決めている。
できるだけ多くの魔法少女を助ける。それだけだ。
ボクはただの一般的な18歳男子だ。
スイムスイムに憑依したばかりのボクは、こんなにも死にゆく人の運命を変えたがるような、救済意思にあふれた聖人タイプの性格ではなかった。もっと打算的で、もっと保身的だった。スノーホワイトポイントが気になって仕方がないくらいには、我が身がかわいいタイプだった。
でも、今のボクは助けられる味方は全員助けたいと思っている。
それはきっと。ゲーム世界に囚われた一件を経て、スノーホワイトやのっこちゃんから心のこもった『ありがとう』を受け取った出来事が、ボクを変えたからだ。
人から感謝されると嬉しい。
嬉しい気持ちを堪能したいから、幸せな気分になりたいから。ボクが感謝乞食になるまでもなく、人から感謝の言葉をいっぱいもらえるようになるためにベストを尽くす。最善を尽くす。
だから、だから。
――不肖、スイムスイム。これからも精一杯、がんばるます!
◇◇◇
◇プリンセス・デリュージ
中学2年生:
奈美の通っていた小学校にはいじめがあった。
何かがきっかけで女子グループの権力者がカチンときて、気に入らない女の子を除け者にして陰湿ないじめを開始した。その除け者は奈美の幼馴染だった。
奈美は幼馴染を助けなかった。積極的にいじめに加担こそしなかったが、幼馴染に挨拶をされても無視をしたし、周りが幼馴染の陰口を叩き始めた時は同調した。奈美はいじめられたくない一心で、幼馴染を見捨てた。
いじめは奈美が小学校を卒業する時まで続いた。
奈美の小学校生活はただただ苦しかった。だが奈美に被害者面をする権利はない。一番つらかったのは、いじめられていた幼馴染なのだから。
奈美の通っている中学校にはいじめはなかった。
それはとても良いことだったが、安心はできない。いじめはほんのささいなきっかけで始まるからだ。いじめられたくなければ、敵を作ってはならない。
クラスの中心的なグループに所属する。グループのみんなが気に入りそうな話題を提供し、みんなが興味を持った部活に所属し、遊びのお誘いがきたら絶対に断らない。その上で、奈美は自身があくまで自然体だと見せかける。
中学校にいじめはないはずなのに、息が詰まる。水中でもないのに息苦しくて仕方がない。いつまでこんなことを続けないといけないのか。
だれかたすけて(私はなんで生まれちゃったんだろう)
そんなある時、奈美のスマートフォンに一通のメールが届いた。そこには異世界からの侵略者と戦う魔法少女を募集している旨が記されていた。
奈美は愕然とした。
奈美の努力もむなしく、奈美はいじめの標的にされかかっている。クラスの誰かが奈美を笑いものにするべく、イタズラメールを送ってきている。
ここでノリの悪い態度を見せれば終わりだ。確実にいじめの対象になる。
首謀者がわからない現状、ベストな選択はイタズラに盛大に引っかかってやることだ。『魔法少女になりたい!』とバカみたいに願って、魔法少女の募集に申し込むことだ。
その愛嬌を利用して、いじめを未然に防ぐ。
奈美に迫る悪意の炎をどうにかして鎮火させるのだ。
そのような思考の下、魔法少女の募集に応じた結果、本当に魔法少女になってしまったのだから、人生というのはてんでわからない。
魔法少女の募集メールはイタズラメールではなかった。本物だった。
内心はどうあれ、『魔法少女になりたい』という意思を示し、集合場所の市立図書館の第二会議室に集まった奈美たち計4人は、
力だけではない。役目も与えられた。
世界の平和を守るという大役だ。
奈美たち4人は、普段は日本政府が秘密裏に作った地下研究所に集まって戦闘訓練を行う。そして、地球を侵略する使命を帯びた異世界の異形:ディスラプターが出現したら外へ出て退治する。そんな役目を課されることとなった。
役目を辛いと感じたことはなかった。
それは魔法少女という非現実そのものを新鮮に感じられたからでもあり、ディスラプターがさして強くなく命の危機を感じないからでもあり、何より奈美と一緒に魔法少女になった3人が素敵な連中だったからでもあった。
『風の力を使って敵と戦う』魔法少女:プリンセス・テンペストは小学2年生の女の子だ。幼いこともあり、テンペストには裏表がない。悪意がない。テンペストとの会話では奈美は気を張る必要がなく、まるで涼風に身を預けているかのような爽快な気分だった。
『火の力を使って敵と戦う』魔法少女:プリンセス・インフェルノは高校2年生の女性だ。だが、奈美の知る陰湿な女子連中と違って、どこまでも自分に正直だった。勝気で、カラッとした在り様はまるで太陽のようで、奈美の陰気すらも浄化してくれた。
『土の力を使って敵と戦う』魔法少女:プリンセス・クェイクは大学2年生の女性だ。大人として、快活なテンペストとインフェルノが暴走しないよう手綱は握りつつも、みんなが和気あいあいとした時間を過ごせるよう気を遣ってくれている。クェイクが側にいてくれる安心感はまさに大地そのものだった。
地水火風。4つの属性の魔法を使える奈美たちが『ピュアエレメンツ』として活動する日々は、奈美のかけがえのない宝物となっていった。
そんな折、奈美に転機が訪れた。
研究所から自宅に帰る折、プリンセス・デリュージの強化された視力が、スーパーの屋上で花火を鑑賞しているクラスメイト:加賀美桜の姿を視認した。
奈美は彼女との接点はほとんどなかった。奈美とは異なる、大人しめなグループに所属する普通な子という印象だった。
その普通な子がスーパーの屋上に無断で侵入して花火を楽しんでいる。明らかにおかしい。奈美が困惑している内に花火大会が終わり、その時――彼女が瞬時にきらびやかな格好に変身し、屋上から地上に飛び降りて帰路についたのだ。
ピュアエレメンツの他にも魔法少女がいた。しかもそれがクラスメイトだった。こんな偶然があるなんて!
奈美は興奮のままに翌日を迎えて、学校で彼女に「加賀美さんさ、魔法少女だよね? この前スーパーマルダンの屋上で変身してたでしょ?」とこっそり話しかけた。そして、ぎょっとした様子の彼女に安心してもらうべく「私も魔法少女なんだ」と続けた。
これがきっかけとなり、加賀美さんことプリズムチェリーが5人目のピュアエレメンツとして加わった。奈美がプリズムチェリーとピュアエレメンツを引き合わせたからだ。
闇にうごめくディスラプターは光を嫌い、夜にしか姿を現さない。
プリズムチェリーの『鏡に映し出すものを自由に変えられる』魔法で、プリズムチェリーの手鏡に閃光を映し出せば、ディスラプターは苦悶し、動きが鈍くなる。デリュージたちがより安全にディスラプターを退治できる。
ピュアエレメンツの追加戦士:光属性の魔法少女としてプリズムチェリーは適任だった。
プリズムチェリーがピュアエレメンツに加わったことで、奈美の人生はより充実したものになった。中学校でプリズムチェリーと意味深に目配せをするだけでもう楽しい。同じ秘密を共有し合うクラスメイト、という状況がもう愉快でたまらない。
そんなある時、プリズムチェリーが告げた。
みんなに会ってほしい魔法少女がいる、と。
その魔法少女はコスチュームこそちょっと変わっているけれど、とても頼もしい人で、プリズムチェリーが敬愛している友達なのだそうだ。
テンペスト・インフェルノ・クェイクと会って、奈美は人生を楽しいと思えるようになった。プリズムチェリーと会って、奈美の人生はもっと楽しくなった。その子と会えば、奈美の人生はもっともっと楽しくなる。そうに違いない。
みんな、考えていることは一緒のようだった。テンペストもインフェルノもクェイクも、プリズムチェリーの友達に興味津々だ。
ならばやることは1つ。
ピュアエレメンツらしいやり方で、プリズムチェリーの友達を盛大に歓迎するのだ。
青木奈美の魔法少女生活は充実していた。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
つい先日、ボクはプリズムチェリーから相談を持ちかけられた。
魔法の国が関知しない方法で魔法少女になった者たち:ピュアエレメンツがいる。ピュアエレメンツは地球の平和を守るべく、異世界からの侵略者:ディスラプターと日々戦っている。そんなピュアエレメンツとプリズムチェリーは仲良しになった。
ピュアエレメンツはみんなとても良い人で、そんな彼女たちのことを魔法の国に報告するべきかどうかを悩んでいる、という内容だ。
プリズムチェリーの相談内容から、ボクは厄ネタの匂いをかぎ取った。
正当な手段で魔法少女になったプリズムチェリーと、非公式な手段で魔法少女になったピュアエレメンツ。立場の異なる者たちが友諠を結んでいる。しかもピュアエレメンツは自分たちが魔法の国に認知されていないことを知らない。何なら魔法の国のことも知らない。
この構図が、まほいく原作で紡がれたであろう悲劇の舞台としてカッチリ当てはまりそうだと、ボクは直感した。ゆえにボクはプリズムチェリーに、『ピュアエレメンツに会ってみたい』と申し出た。
ボクの申し出は受け入れられた。プリズムチェリーはボクが来訪しても良いかをピュアエレメンツに確認し、ピュアエレメンツは特に迷うことなくOKを出したそうだ。
それゆえボクは今日、プリズムチェリーに案内されて、ピュアエレメンツの活動拠点たる地下研究所へと向かっていた。
夕暮れ時の、K県S市の町はずれの廃工場。隠されていた床の扉を開けてはしごを下る。二十メートルくらい地下へと降りて、しばし照明のない通路を歩く。
その先でボクたちを待ち受けていた、金属製のピカピカな大扉が上方向へ自動でスライドし終えるのを待ってから、研究所の中に入る。此度の目的地は研究所の最奥にあるブリーフィングルームである。
トレーニングルームを監視するためのモニター類の機械一式に、会議用のテーブル類の家具一式。それらが特徴的なブリーフィングルームにたどり着いたボクは、ピュアエレメンツから歓迎を受けていた。
「青き奔流! プリンセス・デリュージ!」
海の王女様っぽい鱗まじりのコスチュームを身にまとったプリンセス・デリュージが右脚を上げて三叉槍を斜めに構える。
「赤き劫火! プリンセス・インフェルノ!」
髪先がちろちろと燃えているプリンセス・インフェルノが偃月刀をくるくる回して演武を披露する。
「白き旋風! プリンセス・テンペスト!」
大きな月桂樹らしき輪を背負ったプリンセス・テンペストがブーメランを片手にふわりと空中に舞い上がる。
「黒き大地! プリンセス・クェイク!」
爬虫類のような大きな尻尾を持つプリンセス・クェイクが先端にトゲのあるハンマーをズンと傍らに下ろしてちょっとした地響きを放つ。
「輝く曙光! プリズムチェリー!」
ボクをここまで案内したプリズムチェリーがボクに向き直ってコスチュームに付属している手鏡を頭上に掲げる。
『5人揃って! ピュアエレメンツ!』
そして5人は渾身の決めポーズを披露しながら名乗りを上げた。
か、かかかかっけぇええええええええ!!
「かっこいい」
「でしょ? いやー、わかってるじゃん。さすがはチェリーの友達」
「プリズムチェリーもピュアエレメンツだったんだ」
「う、うん。最近仲間になってね」
「元々ピュアエレメンツは4人だったんだ。プリズムチェリーは5人目の追加戦士なの! 光属性のピュアエレメンツなの! きらきらなの!」
ボクが感動をそのまま口に出すとインフェルノがニシシと笑う。それからボクがプリズムチェリーに話題を振ると、プリズムチェリーは照れくさそうに笑い、テンペストがプリズムチェリーのことを熱弁してくる。
「それで、あなたはなにさん?」
と、ここでデリュージが首をコテンと傾けてボクに尋ねてくる。
……あれ? これもしかして、ボクの名乗りを求められてます? やっば、口上とか決めポーズとか全然考えてなかった。どうしよどうしよ!?
助けて、マスクド・ワンダー!
助けて、ラピス・ラズリーヌ!
ボクは心を込めて祈った。が、当然ながら何も起きなかった。奇跡はそう簡単に発現しないからこそ奇跡なのだ。よってボクは自力で何とかせねばならない。
「私は……」
ここで沈黙してはノリが悪い魔法少女になってしまう。見たところ、ピュアエレメンツは陽キャ集団だ。陽キャのノリを拒否してしまっては彼女たちとの関係が悪くなりかねない。
ボクが嫌われてしまえば、ボクを紹介したプリズムチェリーと四姫との関係にもヒビが入るかもしれない。それはボクの望むところではない。何でもいいからとりあえずそれっぽく名乗ってこの場を乗り切ろう。
「あなたの隣に這い寄る混沌、スイムスイム」
ボクは身にまとう暖色のコートを勢いよく脱いで白スク姿をさらしつつ、とっさに脳裏に思い浮かんだそれっぽいフレーズを解き放った。どうだ、ボクのセンス!
「「「「……」」」」
プリズムチェリーを除く四姫がボクを見て硬直している。
やっぱり水着はダメか? 水着を魔法少女のコスチュームとしてさらしたら最後、白い目で見られてしまう展開は避けては通れないのか!?
「え、うそ!? ムイムイじゃん!? 本物!?」
沈黙を破ったのはテンペストだった。ボクをビシッと指差して驚愕のままに問いかけてくる。テンペストはボクの姿から、夢ノ島ジェノサイ子が連載している漫画『その水着姿で魔法少女は無理でしょ、ムイムイ』の主人公を連想しているようだ。
「さすがに本物ではないと思うけど、よくできたコスプレね」
「髪型も髪の色もコスチュームもかなりムイムイに似てんな。熱心なムイムイ信者とみたぜ」
「その気持ちはわかるよ。ムイムイ、かっこいいしね。真似したくなるよね」
テンペストに続いて、クェイク・インフェルノ・デリュージがボクの姿をまじまじと見つめながらそれぞれ所感を述べてくる。どうやら彼女たちはみんな漫画のことを知っているようだ。
その時、ボクに電流走る――!
ボクの白スクコスチュームをさらしても悪印象にならない、だと……!?
変態扱いされない、だと……!?
「うん。ムイムイみたいになりたくて、まずは形から入ってみた」
ボクは内心で驚愕しつつも、とりあえず『ムイムイに憧れた魔法少女』という都合のいい設定に乗っかるべく、デリュージに言葉を返す。
かつて。ゲーム世界の参加者たちの前にボクが姿を現した時は『いや、その水着姿で魔法少女は無理でしょ』と言いたげな視線に否応なしにさらされた。B市ではボクのコスチュームが水着だとバレるや否や、波山中学の面々に変態変態と言われた。その時のことを思うと、えらい待遇の違いだ。
どうやら夢ノ島ジェノサイ子のおかげでボクは市民権を得られつつあるようだ。
これが漫画の力、創作の力か。
ありがとう、夢ノ島ジェノサイ子先生!
ジェノサイ子先生万歳! ジェノサイ子先生フォーエバー!
ボクは心の中で偉大なる先生を盛大に崇め奉った。
「ムイムイ?」
「『その水着姿で魔法少女は無理でしょ、ムイムイ』って漫画の主人公だよ。デスゲームに巻き込まれたムイムイが同じ境遇の魔法少女たちと協力して、黒幕を倒そうとする物語でね? 今、けっこう人気なんだよ?」
「そうなんだ」
「あの漫画の何が面白いって、ムイムイの『水の力を使って敵と戦う』魔法がデリュージの魔法と一緒ってとこなんだよな」
「そうなんだよね。ムイムイのおかげで私も戦術が増えたよ。あの漫画はすごく参考になる」
この場で唯一漫画のことを知らなかったらしいプリズムチェリーに、デリュージが補足を入れている。インフェルノの率直な感想にデリュージがうんうんとうなずく。
「ねぇねぇ、スイムスイムはどんな魔法を使えるの?」
「私は『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を使える」
「どんなものにも? 面白そう!」
そんな中、テンペストから魔法について問われたのでボクは正直に話す。すると、ピュアエレメンツたちは互いに視線を合わせ、クェイクが一歩前に出る。
「みんな、どうしよっか。スイムスイムを6人目のピュアエレメンツとして迎えるかどうかって話」
「スイムスイムをピュアエレメンツに加えるなら、デリュージと属性が被ってる問題を解決しないと、だよね? 2人とも水属性だから」
「それについてはあたしに考えがある。潜水魔法って闇属性とも言い張れると思うんだ。ほら、『人の影から影へと瞬間移動!』っぽいこともできそうだし」
彼女たちはボクをピュアエレメンツ6人目の戦士に加える気らしく、前向きな話し合いを始めていく。クェイクが司会進行を担い、プリズムチェリーが提唱した『ボクとデリュージの属性被り問題』をインフェルノが解決しにかかる。
「瞬間移動はできないけど、影に潜ることはできる」
「ほら」
「じゃあ属性の問題は解決ってことで」
と、インフェルノから視線を向けられたのでボクは応じる。ボクの回答にインフェルノがニヤリと笑い、クェイクが首肯とともに属性から別の話題へと移していく。
「あとは恰好だね。白い水着の魔法少女が加わると、ピュアエレメンツの統一感が薄れるかも、ってちょっと思ってるの。これについてはどう思う?」
「いうてあたしらも露出面じゃスイムスイムと大差なくない?」
「そうだね。何ならテンペストなんてふんどしだし――」
「――ふんどしって言わないで! パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」
そこでインフェルノがこの場の魔法少女たちのコスチュームに言及し、デリュージが同調し、テンペストが顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込む。
「属性も恰好も問題なし。ならあとはスイムスイムの気持ちだけだね」
「私の気持ち?」
「ええ。……ねぇスイムスイム。世界の平和を守るために、私たちと一緒に戦ってみない?」
クェイクがボクに手を差し伸べてくる。ピュアエレメンツたちが期待とドキドキを込めた眼差しでボクを見つめてくる。ボクは、クェイクの手を――。
刹那、ブリーフィングルームに緊急アラームがけたたましく鳴り響いた。
続いて、メインモニターに『ディスラプター出現』『数は5体』『ソルジャークラスが4体、ナイトクラスが1体』『場所は
「おいおい、空気読めよディスラプター」
「ぶつくさ言わない、ほらいくよ」
インフェルノが口を尖らせ、デリュージがため息まじりにディスラプター討伐を促す。ピュアエレメンツたちは非常に慣れた様子でブリーフィングルームから飛び出していく。
「行きましょう、スイムスイムさん」
「うん」
ボクもプリズムチェリーとともに、みんなの後を追うべく駆け出した。
……なんか今、すごく魔法少女っぽいことをしている気がする。普通に楽しい。
◇◇◇
◇プリンセス・インフェルノ
プリズムチェリーの紹介により出会った魔法少女:スイムスイムは興味深い奴だった。漫画の登場人物に憧れて、レベルの高いコスプレを実践するような愉快な奴だ。きっとインフェルノと話が合うだろう。
それゆえ今のインフェルノは心の奥底で怒っていた。6人目のピュアエレメンツが誕生するか否かという超重要シーンをディスラプターが台無しにしたからだ。空気の読めない侵略者には報いを受けさせなければならない。
地下研究所から地上へと飛び出し、鷹床山へと全力疾走で向かう道中、チラリと背後に視線を向ける。スイムスイムはインフェルノたちの速度に問題なく付いてこれている。
プリズムチェリーが5人目のピュアエレメンツとして加わった当初、ディスラプターが出現した時に、インフェルノたちが現地にたどり着くまでの間にプリズムチェリーがはぐれてしまったことがあった。が、スイムスイムがはぐれる心配は杞憂だったようだ。
鷹床山に到着すると、ヘドロのような塊がうねっていた。実体化を終える前のディスラプターだ。地球で暴力を振るうための体を構築するまで、まだ猶予がある。
「青き奔流! プリンセス・デリュージ!」
「赤き劫火! プリンセス・インフェルノ!」
「白き旋風! プリンセス・テンペスト!」
「黒き大地! プリンセス・クェイク!」
「輝く曙光! プリズムチェリー!」
『5人揃って! ピュアエレメンツ!』
インフェルノたちはお決まりの名乗りを行った。これがなければ始まらない。
スイムスイムがピュアエレメンツに加わってくれるのなら、彼女の新しい名乗りも考えなければいけない。『あなたの隣に這い寄る混沌』というスイムスイムの元々の名乗りを残しつつも、闇属性っぽさも含めた名乗り。これは考えがいがある。
インフェルノが思考を巡らせていると、ディスラプターの実体化が完了する。成人男性サイズの悪魔じみた容貌のソルジャークラスが4体。熊サイズの、これまた悪魔じみた容貌のナイトクラスが1体。事前の情報通りの敵構成だ。
インフェルノは改めてスイムスイムに視線を配る。彼女がディスラプターに怯え、体がすくんでしまっているようなら守らなければいけないからだ。が、これも杞憂だった。スイムスイムは冷静にディスラプターを見つめて――。
(あれ?)
スイムスイムは無表情のように見えて、ディスラプターに驚いているようだった。まるでしばらく会っていなかった知り合いに偶然出くわしたかのような反応だ。
が、インフェルノがスイムスイムに違和感を抱こうともディスラプターは待ってくれない。ディスラプターはインフェルノたちを敵と認識し、襲いかかってくる。
「チェリー・フラッシュ!」
プリズムチェリーが手鏡にまばゆい閃光を映し出し、ディスラプターを怯ませる。プリズムチェリーが作ってくれたディスラプターの隙を逃すまいと、インフェルノは偃月刀を振るう。
『火の力を使って敵と戦う』魔法を使うまでもない。偃月刀の一撃をモロに喰らったディスラプターは黒くドロドロとした塊に戻って地面に溶けていく。
デリュージが三叉槍を繰り出し、テンペストがブーメランを投げ飛ばし、クェイクがハンマーを振り下ろす。彼女たちはディスラプターを各個撃破していく。残るディスラプターは1体。ソルジャークラスだ。
スイムスイムは地中に潜り、ディスラプターの足をつかんで地中へ引きずり込む。首から下を地面に埋められたディスラプターは身動きができず、その隙に地上へ戻ったスイムスイムがディスラプターの顔面を「えい」と蹴り飛ばしていた。
ああいう戦い方もあるのか、面白い。
火属性のインフェルノにはできない戦い方だ。
スイムスイムがディスラプターを倒したことで、鷹床山に静寂が戻る。ディスラプターの増援の気配はない。インフェルノは小さく息を吐いた。
「今日はちょっとディスラプター多めだったね」
「でもピュアエレメンツの敵じゃなかったね」
「じゃ、さっきの話の続きをしよっか」
テンペストとデリュージが得意げに笑い合う中、クェイクがスイムスイムを見つめなおす。
「今、スイムスイムに戦ってもらった敵がディスラプター。異世界の悪人が地球を侵略するために派遣している尖兵なの。ディスラプターは弱いけど、これからもずっとディスラプターが弱いままとは限らない。怖い思いをするかもしれない。でも、それでも……私たちはスイムスイムに仲間になってほしいって思うの。どうかな?」
「うん、仲間にしてほしい。みんなのことが好きになったから、みんなと一緒に世界を守りたい」
クェイクが再度スイムスイムに差し出した右手。それをスイムスイムは迷いなく握った。クェイクとスイムスイムは固い握手を交わす。
「よっしゃあ!」
インフェルノはたまらずガッツポーズした。隣で「やったぁ!」と喜ぶテンペストとハイタッチをする。
ピュアエレメンツが大きな転機を迎えようとしている。地水火風の4人で活動していた時代は終わり、光属性のプリズムチェリーと闇属性のスイムスイムが加入した。これからはもっと楽しい日々が手ぐすねを引いて待ち受けているに違いない。
「ねぇ、スイムスイムってチェリーと友達なんだよね?」
「うん」
「ならチェリーと同じ、中学生ってこと?」
「ううん。私は8歳」
「「「「8歳!?」」」」
「わたしと同い年じゃん!」
などと考えていると、テンペストの質問を介してスイムスイムからまさかの爆弾発言が飛んできた。まさかスイムスイムがテンペストと同じ年齢だったとは。受け答えからして、最低でも高校生以上だと想定していただけに衝撃だ。
「てか、チェリーも知らなかったの?」
「う、うん。てっきり高校生くらいだと思ってた……」
インフェルノが素直な疑問をプリズムチェリーに投げかけると、プリズムチェリーがあわあわしながら己の心境を吐露してくる。スイムスイムに対し、プリズムチェリーもインフェルノと似通った印象を抱いていたようだ。
(……?)
そういえば。さっきスイムスイムに何か違和感を覚えたはずだったのだが、それが何だったか忘れてしまった。
まぁいいか。
忘れて思い出せないってことはどうでもいいことなのだから。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
ボクがピュアエレメンツに加入するという判断を下した後。ボクたちは地下研究所に戻り、そこでピュアエレメンツのことを色々教えてもらって、それで今日は解散ということになった。
あの時、ボクがプリズムチェリーに『ピュアエレメンツに会ってみたい』と言ってみたのは、情報収集が目的だった。悲劇を防ぐには、情報がなければ始まらないからだ。
よってボクがピュアエレメンツに加わるという展開は非常に都合が良く、ボクにクェイクからのお誘いを断る理由はなかった。
ボクの判断は正しいと確信している。
だって――ピュアエレメンツが戦ったディスラプターが、かつて森の音楽家クラムベリーが戦った悪魔と酷似していたからだ。
森の音楽家クラムベリーは狂気に染まった魔法少女だった。が、それは生まれつきではない。クラムベリーが強敵との命を賭した死闘に心酔したことにはきっかけがあった。
クラムベリーは幼い時分に正式な魔法少女の選抜試験に参加した。そこでおそらく試験の担当官が能力テスト用に召喚したであろう悪魔が暴走した。
悪魔は、クラムベリー以外の試験の参加者や担当官を皆殺しにした。クラムベリーは死闘の末に悪魔を倒し、強敵を打倒するカタルシスに溺れた。
その悪魔とディスラプターが凄く似ている。というか、あれはさすがに『悪魔=ディスラプター』と解釈していいだろう。それくらい悪魔とディスラプターがそっくりだ。つまり、ディスラプターは魔法の国の技術で生み出されているということになる。
ディスラプターは異世界からの侵略者とのことだ。その割にはディスラプターはなぜかK県S市にしかポップしない。ディスラプターの襲撃時刻も夜ばかりだ。
ディスラプターは光が苦手とのことだったが、一般大衆に正体を露見してはならない魔法少女にとって、ディスラプターが夜限定で活動するのは非常に都合が良い。
以上から、ボクはディスラプターが異世界からの侵略者という設定は嘘っぱちだと認識した。いやまぁ魔法の国を異世界だと捉えるなら嘘ではないのだけど……要は、ディスラプターはピュアエレメンツに倒される前提の敵なのだと推測した。
ピュアエレメンツが成長するために、魔法の国の関係者が調整した敵、それがディスラプターなのだろう。つまるところ、ピュアエレメンツがディスラプターを倒して世界を守る活動は、ピュアエレメンツ育成計画の一環と解釈できる。
ピュアエレメンツを育てて何をしたいのかはわからない。が、ピュアエレメンツ初期メンバーの4人を魔法少女にした田中先生とやらがとてつもなく怪しい。こいつ黒幕やろ。こいつがディスラプターとピュアエレメンツとを戦わせている魔法の国の関係者やろ。
プリズムチェリーが田中先生に会ったことがないというのも怪しさに拍車をかけている。正式な魔法少女のプリズムチェリーとエンカウントすることを、田中先生は不都合に考えているのではないか。だから田中先生は姿を消している。そう考えるとすごくしっくりくる。
なんにせよ、ピュアエレメンツを取り巻く環境がとてもきな臭い。
ピュアエレメンツは間違いなくこの先の未来でまほいく原作に巻き込まれる。ピュアエレメンツから多くの魔法少女が、何なら全員が死亡する事態に陥ってしまう。ボクは確信した。
――と、不破家へと帰宅途中のボクの魔法の端末が着信音を奏でる。プリズムチェリーからだ。
「もしもし」
「スイムスイムさん」
「スイムスイムって呼んで。『ですます』も禁止。これからは同じピュアエレメンツなんだから」
「そ、そうですね。……あ、そうだねスイムスイム」
プリズムチェリーはぎこちなさを残しつつもボクへの丁寧語を取っ払う。それからおずおずといった調子でボクに質問を投げかけた。
「みんなのこと、どう思いまし――思った?」
「怪しい」
「だよね……でも、私はみんなのことを魔法の国には報告したくなくて。みんな、とっても良い人で。だから」
「大丈夫、私も同じ気持ち」
「そっか、良かった……」
プリズムチェリーが心底安堵したように息を吐く。プリズムチェリーはボクという同志を得て、ようやく不安の重荷を降ろせたようだった。
プリズムチェリーはピュアエレメンツの存在を魔法の国に報告することに漠然とした懸念を感じていた。その感覚はきっと正しい。
本来、まほいくワールドでは魔法の才能を持った選ばれし者しか魔法少女にはなれない。そのはずだ。もしもピュアエレメンツ初期メンバーを魔法少女にした技術が、魔法の才能を要求しないとすると。魔法少女になれる可能性を持つ人が爆発的に増える。これは明らかな火種だ。
魔法少女という名の強大な戦力をぽこじゃか生み出せる技術。
のどから手が出るほど欲しい連中がいたって何ら不思議ではなく、その手の連中が技術を独占するために正当な手段を選ぶとも思えない。
だからピュアエレメンツのことは魔法の国に報告するべきではない。
「でも、いつかは魔法の国にピュアエレメンツのことがバレる」
「……その時は私が、魔法の国とピュアエレメンツとの橋渡しができればいいなって思ってる」
「それはきっと簡単なことじゃない」
「うん……」
「一緒に準備をしよう。その時が来ても困らなくていいように」
「うん、うん! ありがとう。スイムスイムに相談して良かった。これからはピュアエレメンツ同士、がんばろうね!」
「うん」
ボクはプリズムチェリーとの通話を終える。
ふと空を見上げて、綺麗な星空をしばし鑑賞する。
さぁ、平和な今の内に色々シミュレートしておこう。
これから先、何が起こっても良いように。
これから先、何が起こっても後悔せずに済むように。
次回 第39話
『自分を監査部門の妖精だと思いこんでいる犯罪者』
次回より魔法少女育成計画JOKERS編、開幕。