その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム 作:超天才清楚系病弱魔法少女
前回の予告と異なるサブタイトルですが、『自分を監査部門の妖精だと思いこんでいる犯罪者』は登場します。
第39話 笹食ってる場合じゃねぇ!
◇ピティ・フレデリカ
人間、何をするにも元手が必要だ。
職に就くにも、趣味に没頭するにも、何をするにも先立つ物がなければ始まらない。無から有を生み出せないように、元手のない者に実りある結果は生み出せない。
ピティ・フレデリカの場合、己の望みを叶えるべく暗躍するためには魔法少女の髪の毛が必要だ。
フレデリカは『水晶玉で好きな相手を映し出せる』魔法を使える。
この好きな相手を水晶玉に投影するために、当人の髪の毛を必要とする。
フレデリカにとって、己が入手した魔法少女の髪の毛の数は、そのまま魔法少女と問答無用でコンタクトを取れる数となる。それゆえ己が所持する魔法少女の髪の毛の数の増加は、フレデリカが選べる戦術の数の増加と比例する。
そのため、昨今のフレデリカは魔法少女の髪の毛集めに専念していた。
が、髪の毛集めは難航していた。
今のフレデリカは日陰者だ。
かつてフレデリカは己の詰めの甘さゆえにスノーホワイトとリップルに敗れて捕まり、封印刑に処された。その後、弟子のトットポップに救われて脱獄したフレデリカは、脱獄仲間のプキン&ソニア・ビーンとともにB市で騒動を起こした。
そして、最終的にフレデリカはトットポップとともにB市から姿を消した。
この判断は正解だと自負している。かつての大悪党:プキン&ソニア・ビーンすらも殺害した魔王パムと、フレデリカが真正面から対峙したところで、末路は目に見えているからだ。結果、フレデリカとトットポップはお尋ね者となっている。
魔法というのはとにかく規格外だ。フレデリカの魔法も、別世界にいようと別次元にいようと、髪の毛さえあれば当人に接触できる。
フレデリカの魔法だけが規格外だなんて都合の良いことはない。魔法の国の追跡はえげつなく、かわすのに多大な労力を要する。短いスパンで住み家を変えて転々と移住する今の生活は、新鮮な一方で不安も募る。ストレスもたまる。
時の流れを気にせずにコーヒーを嗜みながら魔法少女の髪の毛を堪能する余裕も滅多に設けられない。
魔法の国の監視を避けつつ、魔法少女の髪の毛を集めるのはとにかく難しい。
まずベテランの魔法少女は己の髪の毛の重要性を知っている。髪の毛に限らず、己の体の一部分を他の魔法少女に盗られるリスクを理解している、といった方が正確か。
髪の毛を奪おうとする輩は警戒される。フレデリカの悪名がそこそこ広まってしまっていることも警戒に拍車をかけている。
かといって、新米の魔法少女を捜すのも骨が折れる。そもそも新米の魔法少女は恰好のカモだ。大概、悪しき思惑を胸に抱く魔法関係者の手により、新米の命は無惨にも刈り取られる。新米の魔法少女は希少な絶滅危惧種なのだ。
せめてフレデリカが捕まる前にひたすらにコレクションしていた髪の毛が今、手元にあれば。そう嘆かざるを得ない。
「はぁ……」
フレデリカはふと、アンニュイなため息を漏らす。
スノーホワイトは今、何をしているのか。フレデリカが自重をやめて一石を投じたことで、リップルやB市の魔法少女たちは、何よりスイムスイムは、どのような進化を遂げているのか。
知りたいことはたくさんあるのに、情報収集すらままならない。こんなの生殺しだ。あまりにむごい。フレデリカがいったい何をしたというのか。
(推しを…摂取できていない…つらい…かなしい…)
フレデリカは心の中で涙する。まさかこの世で封印刑よりもさらに辛いことがあるとは思わなかった。が、それでもフレデリカは強靭な理性で、自棄を起こしたがる本能を押さえつける。フレデリカの望む未来のためには元手がいる。今は雌伏の時なのだ。
「ままならないものですねぇ」
脳内でつらつらと思考を垂れ流していると、いつの間にかフレデリカの拠点についていた。草木が盛大に生い茂る、山奥の廃屋だ。木製の扉をギィと開くと、ポップスターのステージ衣装姿の少女がフレデリカを出迎えてきた。トットポップだ。
「おかえりね、師匠。ご飯にするね? お風呂にするね? それとも――」
トットポップの問いかけを遮ってフレデリカはトットポップに抱きつき、頭に顔をうずめて髪の毛の匂いを堪能した。何度かいでも飽きない素敵な匂いだ。トットポップは今日も調子が良いようで何よりだ。
「……満足したね?」
「ええ、今日も良い匂いです」
「そりゃ何よりね。じゃ師匠、これ読んでね」
フレデリカはトットポップから差し出された封筒を受け取る。封筒から手紙を取り出し、内容に目を通す。そこには興味深い話が記されていた。
才能の有無に関係なく人間を魔法少女にできる画期的な新技術が発明された。これにより魔法の国の試験を介さず、個人が『人造魔法少女』という名の私兵を蓄えられるようになった。
が、魔法の国が人造魔法少女の台頭を黙って見過ごすわけもなく。人造魔法少女を生み出す技術を潰す、ないし技術を独占せしめんとする勢力が動きを見せている。
そのため、手紙の差出人こと、魔法の国の人事部門長プフレは、人造魔法少女の技術を既成事実として広く世間に公表する計画をもくろんでいる。人造魔法少女を闇に葬られることがないように策を講じ、フレデリカを手足として使おうとしている。
それゆえ手紙の後半には、フレデリカへの指令が簡潔につづられている。
フレデリカにプフレの指令を断ることはできない。
プフレにフレデリカとトットポップの潜伏場所がバレているからだ。プフレはフレデリカの居場所をいつでも魔法の国に通報できる立場にいる。要するに、この手紙は脅しだ。
しかし脅しばかりではない。
手紙にはフレデリカが指令に忠実に従った際の報酬についても触れていた。プフレの意向どおりに踊ってやれば、後ろ盾をもらえるというのはありがたい。いい加減、終わりのない逃亡生活に疲れてきた頃だったのだ。
それに何より魅力的なのは、プフレの計画に巻き込む魔法少女をフレデリカが自由に選べることだ。『人造魔法少女に関わりのない魔法少女』であれば誰でも何人でも舞台に上げてもいい。それがプフレの意思だ。さぁ、誰を選ぼうか。様々な顔が思い浮かぶ。
(では、まずはスイムスイム――)
と思ったところで、手紙の最後に『ただしスイムスイムは人造魔法少女と関わりがあるため、対象外とする』と書かれていた。
フレデリカは笑みを深める。スイムスイム育成計画は今日も順調なようだ。計画の立案者は、スイムスイムを丹精込めて育成するための暗躍に余念がない。立案者の生き生きとした姿が容易に想像できる。
スイムスイムの参加が確定している舞台。そこに誰を加えれば面白くなるか。誰を加えれば、フレデリカ好みの理想の魔法少女が生まれやすくなるか。
(やはりスノーホワイトは鉄板でしょう。あとは――)
まもなくフレデリカは計画に巻き込む人選を決めた。
この面子なら必ずやフレデリカ好みの物語を紡いでくれることだろう。魔法少女が魔法少女らしい結末に向かって邁進してくれることだろう。
「ずいぶん熱心に読み込んでたけど、どんな話だったね? やっぱり追手からの熱烈なラブレターだったね?」
「いえ、違いました。ですが愉快な内容でしたよ」
手紙から顔を上げたフレデリカにトットポップが興味津々に問いかける。フレデリカはトットポップを見つめ返す。彼女もまた、フレデリカ好みの物語に必要だ。
「トットポップ」
「はーい。トットは何をすればいいね?」
「役者を舞台へ導く案内役をお願いします。ただ――心の声を聞く魔法少女への対策が必要なので、少し細工をさせてもらいます」
「細工?」
「これはうわさなのですが、魔法の国の監査部門には妖精が
「……へ、へぇ。そうなのね」
「ええ。なんでも監査部門の職員でもないのに、監査部門が多忙の際に現われて仕事を片付けてくれるとか。名前はトットキークというのですが……トットポップ。あなたとよく似た名前ですね? それにキークは私の弟子であり、あなたの妹弟子でもあるでしょう?」
「あ、あー! 観念ね! 降参ね! そのトットキークはトットのことね。前に反体制派の任務で監査部門に潜入した時にうっかり人に見つかって、そこでとっさに使った偽名がトットキークなのね。で、師匠はなんでいきなりそんな話をしたね?」
「簡単な話です。トットポップ、これからあなたには
「え?」
フレデリカは懐から『魔法の剣で斬った相手に錯覚を与える』ことのできるプキンの細剣を取り出す。フレデリカは細剣を振るい、トットポップの腕に小さな斬り傷を作った。
◇◇◇
◇スタイラー
スタイラー美々の魔法少女生活は恵まれている方だ。自身を俯瞰して見つめなおした時、自ずとその評価に落ち着く。ひいき目ではないだろう。
美々の『魔法のコーディネートで身だしなみを整える』魔法には需要がある。
魔法少女のコスチュームはとにかく派手で奇抜だ。魔法少女の浮世離れした容姿も合わさり、魔法少女が変身後の姿で日常に溶け込むのは困難だ。
また、コスチュームの変更は容易ではない。不可能ではないが、魔法の国を説得し、面倒極まる手続きをいくつも踏まなければならない。
魔法少女の人間離れした美貌やコスチュームを変えたいと願う魔法少女たちの駆け込み寺、それが美々だ。美々の魔法なら、魔法少女の容姿もコスチュームも別物に変貌させられる。
美々の魔法を望む者は多く、それゆえ美々は魔法少女一本で生計を立てられていた。
世の中には魔法少女を続けるために高校のランクを落としたり大学で人付き合いができなかったり定職につけなかったりと人生を犠牲にしている者もいるらしい。その者たちの苦労を思えば、美々は恵まれている。
だが美々はあくまで魔法少女の中で相対的に恵まれているだけだ。美々を取り巻く環境は良いものばかりではない。
魔法少女は個々が強大な力を持っている。これが科学社会であれば、強大な力にはストッパーがつく。いくつもの意思決定機関が介入し、それらの果てでようやく強大な力が振るわれる。
しかし魔法少女の場合、ただの個人が強大な力を持っている。個人の意思が、好悪がそのまま大規模な暴力沙汰に発展する。
で、強大な力を持つ魔法少女は大なり小なり増長する。力に呑まれる。そんな危険な魔法少女に時に目を付けられ、引っ張りまわされる。これは魔法少女生活における悪い点だ。
世の中には関わってはいけない危険人物がいる。
関われば最後、己の人生に破滅をもたらす厄介者だ。
「なぁ、やる気のない奴をやる気にさせるにはどうすりゃいいと思う?」
その危険人物の筆頭:袋井魔梨華が美々の仕事場のドアを蹴り開けるや否や、美々に妙な質問を飛ばしてきた。まるで勉強嫌いの子供に手を焼く家庭教師のような物言いだ。
「どうしたんですか、いきなり」
「いやさ。前に面白い奴と会ってな。スイムスイムって言うんだけど。あいつ、私の不意打ちを避けたんだ」
「へぇ?」
「でも気絶したフリしてきたから、それ以上は手を出さなかったんだ。あいつの実力に敬意を表して、って奴だ。それに、やる気のない奴をボコってもつまらんしな」
「はぁ」
「とりあえず『スイムスイムが私と同類のバトルジャンキーだ』ってガセネタ飛ばしてきた連中は全員もれなくぶっ飛ばしたからそれは良いとして。私はスイムスイムと戦いてぇんだ。けど、あいつをその気にさせるアイディアが全然思い浮かばなくてさ。なんか良い方法ない?」
そのスイムスイムとやらには心から同情する。袋井魔梨華にバッチリ目をつけられているからだ。袋井魔梨華に関わるとロクなことにならない。美々が生き証人だ。
「戦いに付き合ってくれた時のご褒美でも用意したらどうですか?」
「スイムスイムの好物で釣るってわけか、なるほど。……んーー、白スク用意すりゃいけそうだな」
「なんで白スク……?」
袋井魔梨華の話を聞く限り、美々と同様に平穏をこよなく愛していそうなスイムスイムとやらが、白スク欲しさに袋井魔梨華との激闘を許容するわけがないだろうに。袋井魔梨華はどんな思考の変遷の果てにスイムスイムが白スクに喰いつくとの結論に至ったのか。
つくづく袋井魔梨華は規格外だ。
色んな意味でわけがわからない。
「まぁ今のはついでの相談だ。本題は別にある。面白い話があるんだ」
袋井魔梨華の爛々とした瞳に美々が嫌な予感を抱く。と、同時に袋井魔梨華が美々の右手をギュッとつかんでくる。
「さっき私に匿名のメールが来てな。詳細を話すと私たちの記憶を消されるらしいから説明は省略するけど、要は強い奴がいるんだ。会いに行こうぜ」
「いやですよ、1人で行ってください。私には仕事があるんです」
「いいから行こうぜ」
袋井魔梨華が喜ぶ事態。間違いなく厄介事だ。その厄介事にあろうことか美々を巻き込もうとしている。これだから危険人物は。
「あいかわらず強引ですね……やる気のない奴を連れていっても楽しくないんじゃないですか? さっきも似たようなこと言ってましたよね? 『やる気のない奴をボコってもつまらん』とかなんとか」
袋井魔梨華に美々を諦めてもらうべく、美々が言葉を重ねると、袋井魔梨華が痛快そうに「クククッ……」と笑う。ラスボスみたいな邪悪な笑い方だ。
「確かに言ったな。けど、美々はやる気あるでしょ」
「ありませんよ、皆無です。私は平穏を愛する善良な魔法少女です」
「いいや、それは嘘だね」
「なんで嘘って――」
「言い切れるんですか?」と問いかけようとしたところで、袋井魔梨華から拳が飛んできた。美々はとっさに右手で受け止める。続けて袋井魔梨華が右足で蹴り上げてくる。美々は背後に跳び、迫りくる袋井魔梨華の爪先を紙一重でかわす。
「ほら? だって美々の腕は錆びついちゃいない」
「……」
袋井魔梨華が意気揚々と語ってくるのがムカついてたまらない。美々は魔法少女で一生飯を食っていく方針なだけで。万が一、美容師で食っていけなくなった時の備えとして、フリーランスとしても働けるように戦闘技術の研鑽を怠っていないだけだ。
美々が努力して戦闘技術を磨いているのは、決して戦いが楽しいからではない。決して戦闘狂だからではない。美々は袋井魔梨華とは決定的に違うのに、袋井魔梨華に思いっきり勘違いされてしまっている。同類かなんかだと思われている。
「さぁ出発だ!」
袋井魔梨華は美々の首根っこをつかんでズルズルと引きずっていく。美々は抵抗を諦めた。抵抗するだけ無駄だからだ。袋井魔梨華の中で固まった結論に美々が反旗を翻しても結果は何も変わらないと、美々の経験則が声高に主張している。
だれかたすけて(やれやれ……)
美々の脳内でとてつもなく陽気にアレンジされたドナドナが演奏された。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
今日も今日とて、ボクはピュアエレメンツ6人目の追加戦士:闇属性のピュアエレメンツとして、S市の地下研究所へと向かっていた。
ピュアエレメンツに襲いかかるであろう悲劇を防ぐため、というのは建前だ。ピュアエレメンツと過ごす日々はとにかく正当派の魔法少女っぽくて、純粋に楽しくて、そのためボクは足しげくS市に通っていた。
ボクは闇属性のピュアエレメンツだ。みんなが決めてくれた、カッコいい口上もある。が、それはまだ秘密だ。口上はここぞという時に解き放ってこそ輝くのだ。
また、ボクは『プリンセス・スイムスイム』と名乗ることになった。
プリズムチェリー加入時は、『プリンセス』と『プリズム』の語感が似ているから改名はしなかったとのこと。しかし、ボクの場合は『プリンセス』を追加した方が良いだろうとピュアエレメンツが判断したのだ。
かつてのスイムスイムが憧れた
同時に申し訳なくも思う。このポジションに何が何でも座りたくて凶行に走ったスイムスイム本人を無視して、部外者がふんぞり返ってしまっている。
などと考えつつ、ボクはピュアエレメンツの待つ研究所へ向かうべく、夕暮れのS市のビルからビルへと跳んでいく。
「あぁぁああああ!! やっと見つけた!」
刹那、ボクの背後から絶叫が響いた。明らかに声の矛先はボクだ。ボクは思わずビクリと肩を震わせる。ボクが振り向くと、近くのビルに1人の美少女がいた。髪の毛もコスチュームも編まれていて、いかにも手芸が得意そうな彼女は見るからに魔法少女だ。
「ねぇ!! 人造魔法少女だっ!! 人造魔法少女ですよねっ!? ねぇっ!?」
当の魔法少女はボクをビシッと指差して興奮のままに言葉を並べる。ボクが『人造魔法少女』というワードに引っかかろうとお構いなしに、『笹食ってる場合じゃねぇ!』と言わんばかりに欄干を飛び越え、ボクのいるビルの屋上へと飛び込んでくる。
正直、瞳がぎらついていて怖い。事情はよくわからないけど、彼女は人造魔法少女を捜していて、ボクをそうだと思い込んでいるようだ。ならまずは誤解を解こう。
「違う、私は普通の魔法少女」
「え、違うんですか?」
「うん」
あれ、もしかしてこの人チョロい?
「――って、そんなわけないでしょう!」
あ、違った。
ただノリツッコミ気質なだけだった。
「ごまかすってことは人造魔法少女で間違いないですよね!?」
「私は人造魔法少女じゃない。でも私がもしも人造魔法少女だとしても、知らない人にいきなり迫られたら、怖くてごまかしたくなる」
「え、あ……ごめんなさい、怖がらせてしまって。私に悪気はなくて――って、だから騙されませんって! あなたは絶対に人造魔法少女です! 人造魔法少女と無関係の魔法少女が今、S市にいるわけがないんです!」
手芸が得意そうな魔法少女はボクを人造魔法少女と断定したまま「確保ーーーっ!!!」とボクに突撃してきた。
だれかたすけて!(ぷるぷる。ボク、悪い魔法少女じゃないよ)
次回 第40話
『えっ…いまボク、煽られた?』