その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第40話 えっ…いまボク、煽られた?

 

 

◇フィルルゥ

 

 

 創作の魔法少女は誰もがキラキラしている。

 正義の魔法少女は当然として、悪の魔法少女だって譲れない信念を抱き、正義に真正面から立ち向かってくる。外道な魔法少女なんて滅多に登場しない。

 

 現実の魔法少女はどこまでもドロドロしている。

 創作の魔法少女のような高潔な精神を心に宿す者はごくわずか。魔法を犯罪に悪用しないだけで立派だと思えるくらいには、世の魔法少女はいともたやすく犯罪に手を染める。

 

 魔法犯罪を科学の法律は裁けない。そもそも魔法を使った犯罪に科学サイドは気づけない。魔法の国の目さえかいくぐれば魔法少女は犯罪し放題なのだから、魔が差すままに罪を犯す者が現れるのは当然だろう。

 

 

 フィルルゥは魔法少女の刑務所の看守だった。倫理に反して一線を越えた結果、収監される魔法少女の数はとどまるところを知らず、それゆえフィルルゥは忙しなく看守業務をさばいてきた。

 

 ――そう、看守だった。

 フィルルゥは職を失ってしまったのだ。

 きっかけはB市の第二級魔法犯罪にさかのぼる。

 

 

 魔法少女の刑務所から脱獄した凶悪犯罪者たちがB市で被害を生み出した。結果的にB市の被害は軽微に済んだが、状況次第ではB市に大規模破壊兵器を投入し、犯罪者もろともB市を消し飛ばすことになる可能性すらありえた。

 

 先日の脱獄事件は魔法の国を震撼させた。事件後、すぐさま刑務所に捜査の手が入り、囚人の魔法少女を一時的に解放して汚れ仕事に使う部署が摘発された。

 

 魔法少女刑務所の制度自体に疑義を唱える機運が高まり、制度は大幅に見直された。犯罪者をただ封印するのではなく、犯罪者の更生を目指す人道的な仕組みが導入された。魔法の国にしては信じられないほど速やかに新しい制度が稼働した。

 

 ――そこにフィルルゥの居場所はなかった。

 

 

 フィルルゥは何も悪いことをしていなかった。誠実に看守を全うしていた。だから魔法少女の刑務所に代わる更生施設でも、仕事が割り振られるものと想定していた。しかしフィルルゥの想定に反して、フィルルゥには何も仕事が与えられなかった。

 

 上からは『待機』だけ命じられて、更生施設の情報も与えられず、加えてフィルルゥが転職活動をちらつかせても否定してこなかった。面と向かって『お前はクビだ』とは言われなかったが、こんなの解雇と同じだった。

 

 

 看守の仕事は安泰だと信じて疑わなかった。わざわざ看守になりたいと願う魔法少女は少ない一方、力に溺れて悪行に走る魔法少女は後を絶たない。看守の需要はあるが、供給は少ない。フィルルゥは最後までこの仕事と添い遂げるものだと思い込んでいた。

 

 けれど現実は違った。

 フィルルゥは求職活動を強いられた。

 

 

 フィルルゥは魔法少女の人脈に乏しい方だった。仕事が安泰だと考えていたから、人脈作りに必要性を見出していなかった。『顔が広い看守』という肩書きはフィルルゥの価値を貶めてしまうとの考えもあった。そんなフィルルゥのスタンスが今、災いしている。

 

 お茶会、ゲーム会、カラオケ、キャンプ。フィルルゥは魔法少女の集まりに積極的に顔を出して名前を売り始めた。けれど、フィルルゥの努力もむなしく魔法少女の仕事には恵まれなかった。前職が看守という経歴がフィルルゥの足を引っ張った。

 

 人脈作りにもお金は必要だ。新しい仕事を探している間にも貯金はどんどん減っていく。こんなことなら散財せずにもっとしっかり貯金すれば良かった、投資すれば良かったなどと後悔しても遅すぎる。

 

 

 魔法少女の集まりに顔を出す度、フィルルゥの精神がすりきれていく。何だか周りの魔法少女から『でもお前無職じゃん』と嗤われているように思えて仕方がない。

 

 わかっている。人は、自分が思っているほど他人に興味を持たない。フィルルゥの考えは被害妄想だとわかっているのに、それでもネガティブな妄想を振り切れない。

 

 だれかたすけて(おしごとください)

 

 

 そんなある時。何をしても光明を見出せず、真昼間から公園のベンチに座って物思いに沈んでいたフィルルゥの魔法の端末に『友人』を名乗る者からメールが届いた。

 メールの内容を要約すると、以下のとおりだった。

 

 

・K県S市で、魔法の国のテクノロジーに頼らない人造魔法少女を生み出す計画が進められているらしい。

・事態を深刻に捉えた魔法の国上層部は『人造魔法少女を捕まえた者』または『人造魔法少女の詳細な情報を入手した者』に多大な報酬を出す方針を決定した。

・あなたが誰よりも先んじて魔法の国が望む成果をもたらせば、賞金入手はもちろん、上層部との良好なコネクション獲得の期待も高まる。

・ただしこのメールの内容を関係者以外に他言すれば、あなたと相手の記憶を消去する魔法が即座に発動する。防ぐことはできない。

 

 

 最初はいたずらを疑った。罠を疑った。

 だってそうだ。メールの内容が本当だとするなら、友人とやらはずいぶんと情報収集能力に長けているのだろう。そんな友人がどうしてフィルルゥに無償で儲け話を持ちかけてくるのか。フィルルゥを罠に嵌めることで友人が利益を得られるから、でなければなんだというのか。

 

 フィルルゥは胸を押さえながら何度も何度もメールに目を通して――最終的に、友人の思惑のままに、人造魔法少女を探すことに決めた。

 

 友人のメールを信じたわけではない。が、フィルルゥの求職活動は苦戦し続けている。貯金は減るばかりで、フィルルゥは正攻法では仕事を得られない立場にいる。ならば、たとえ博打でも、罠でも、このうさんくさいメールに飛びつくべきだと判断したのだ。

 

 かくしてフィルルゥは人造魔法少女の捜索を開始した。

 

 

 魔法少女は基本、人目を避けて活動する。一般人に魔法が露見してはならないからだ。それゆえ魔法少女は夜に動くことが多い。また、背の高い建物を次々と経由して移動することも多い。夜にわざわざ建物の屋上を訪れる一般人は滅多にいないからだ。

 

 フィルルゥは『魔法の針と糸でなんでも縫いつける』魔法の使い手だ。

 火力に難はあるが、器用に立ち回ることができる。

 

 フィルルゥは右手の指に魔法の糸を巻き、気配を消してS市に潜入する。S市の主要な建物に魔法の糸を縫いつけ、最後にフィルルゥの左手の指に糸を結ぶ。

 

 この糸は、フィルルゥでなければ目視できない特別製だ。フィルルゥの糸は頑丈でしなやかで感度が高い。魔法少女がフィルルゥの糸に触れれば必ず気付く。あとは待つだけだ。

 

 

 そうして獲物が引っかかるのを待ち始めたフィルルゥだったが、フィルルゥのほのかな期待に反して、何の成果も得られなかった。

 

 朝になればフィルルゥの糸に引っかかる一般人がいるかもしれないので、日の出の頃には糸を回収する。昼は、夜の人造魔法少女捜索をしっかり行えるように、S市のビジネスホテルで昼ドラを視聴しつつ休息をとる。夕暮れからはS市に糸を張り巡らせて朝まで獲物を待つ。

 

 そんな日々が何日も続いた。

 やっぱりあのメールは罠だったのでは。いや、たとえメールに書かれた内容が本当だったとして、『人造』というからには人造魔法少女は普段は研究所にこもりきりで、フィルルゥの活動はまったくの無駄なのではないか。

 

 色々なネガティブな推測が次々と頭をよぎった。

 『もうこんな活動やめてしまおうか』『いや今さら引き返せない』と激しい葛藤を繰り広げ、精神的に疲弊していたある時、フィルルゥの糸が明確に震えた。

 

 

「――ッ!!」

 

 来た、ついに来た。

 フィルルゥは歓喜に打ち震えた。ちょっと涙もあふれた。

 フィルルゥはこれ以上なくシュバッて現場へ駆けつけた。

 

 

 そこにはゆるふわなピンク髪をたなびかせた白スクの美少女がいた。間違いない。夜にビルの屋上でこんな変態な格好をしている美少女なんて魔法少女以外の何物でもない。

 

 

「あぁぁああああ!! やっと見つけた!」

 

 フィルルゥは白スクの少女に詰め寄った。当の少女は『私は普通の魔法少女』だと主張してきたが、それを素直に信じて引き下がるフィルルゥではない。

 

 白スクの人造魔法少女を捕まえて、賞金もコネクションも手に入れる。フィルルゥの崖っぷちの人生を好転させるのだ。

 

 

「確保ーーーっ!!!」

 

 フィルルゥの魔法は対象の捕縛にも向いている。フィルルゥはさも『私は徒手空拳の魔法少女です!』という演技をしながらスイムスイムを捕らえるべく魔法の糸を巡らす。

 

 

(なっ!?)

 

 が、フィルルゥの思惑は成就しなかった。白スクの少女は明らかに、フィルルゥしか見えないはずの糸にしっかりと視線を向けて回避してみせた。

 

 動揺はしたが、すぐに平静を取り戻す。白スクの少女が『看破』の類の魔法を持っているだけだ。フィルルゥの魔法と相性は悪いものの、悲観するほどのことではない。

 

 魔法少女は1種類しか魔法を使えない。『魔法少女』と謳っているからには、人造魔法少女にも1種類の魔法の制約くらいはさすがにあるだろう。

 

 白スクの少女が『看破』の類の魔法使いならば、戦闘に特化した魔法は持ち合わせていないことになる。それならやりようはある。だてにフィルルゥは看守をやっていなかった。

 

 

「おやおや、先客がいるでございますです」

「あらあら、探す手間が省けたわね」

 

 が、ここでハプニングが発生した。フィルルゥと白スクの少女のいるビルの屋上に、新たな闖入者が2人も現れたのだ。1人は白いラッパを手に持つ美少女。もう1人は喪服で、顔を黒いヴェールで隠した美少女。彼女たちも魔法少女なのだろう。

 

 厄介なことになった。

 目まぐるしく状況が変わる中、フィルルゥは詰みかかっている己の人生を立て直すための最善手が何なのかをフルスロットルで思考し続けた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 S市のビルの屋上にて。

 ボクはなぜか手芸が得意そうな魔法少女に襲われた。

 

 不意打ちを警戒するべく視界を裏世界に潜らせると、彼女が細くて長い糸のような何かを飛ばしてきているのがわかったため回避していると、新たに魔法少女が2名現れた。ラッパを装備する魔法少女のことは知らないが、喪服の魔法少女はまさかのカフリアだった。

 

 

「カフ――」

「――残念だけど、その人造魔法少女は私の物よ」

「???」

 

【超悲報】ボク、カフリアに知らない人のフリをされてしまう【ボク、何かやっちゃいました……?】

 

 え、え。あの人、カフリアだよね?

 なんでボクと初対面みたいな反応を? もしかしてあの人、カフリアじゃなくてそっくりさん? でもさすがにカフリアだと思うのだけれども??

 

 でもカフリア本人だとすると、どうしてボクを無視して……ボク、カフリアに嫌われちゃった? なんで、どうして?? やだやだやだ!

 

 

 ボクが心の底から動揺していると、カフリアが、顔を覆うヴェール越しでもわかるほどに強い視線をボクに注いできた。

 

 あぁそういうこと。どうやらカフリアはボクとの関係性を隠したいようだ。よかった、すっごく安心した。カフリアの意図は読み切れないが、とりあえずボクもカフリアの思惑に便乗しよう。

 

 

「何なんですか、あなたたち! この人造魔法少女を最初に見つけたのは私ですよ!?」

「標的を独り占めしたいのならもっと隠密行動を徹底すれば良かったのではないかしら?」

「然り然りでございます。歓喜のあまり、大声で叫んでしまったのが悪手でございましたね」

 

 手芸が得意そうな人がカフリアとラッパの人にガルルと嚙みつくも、当人たちはどこ吹く風だ。手芸が得意そうな人が「うぐっ」とうめいている。

 

 

「ところで皆さん、フリーの魔法少女よね? 同じ獲物を狙う複数人のフリーランスが鉢合わせた以上、やることは決まっているわよね?」

「もちろんでございます。『みんなで仲良く3等分』が良い塩梅でございますです」

「あら? 1人の標的を3等分するというのは新しいわね。それじゃあ私は胴体をもらうわ」

「おやおや、美味しいところを取られてしまいましたです。ではアタシはしぶしぶ両脚をいただくでございますね」

「え、えっと? じゃあ私は残った頭で……」

 

 ふぇぇ、この人たち怖い。蛮族かな??

 

 

「――って、そういう話ではないでしょう!? とにかく人造魔法少女は私の物です! 私が捕まえましたから!」

 

 いつの間にか、ボクの体が魔法の糸でぐるぐる巻きにされていた。手芸が得意そうな人はフリーランスの魔法少女2名の乱入に動揺しつつも、ボクを捕まえるチャンスをひそかに狙っていたようだった。

 

 ボクは一瞬だけ魔法の糸にスイムスイムの魔法を発動させてみる。よし、潜れる。その気になれば、ボクは拘束を抜け出せる。

 

 

「その子の体にちゃんと自分の名前も書いていないのに『私の物』と言われてもねぇ」

「大体、人間を物扱いするなんて酷い話でございます。その方の人権を尊重してあげるのが正しい魔法少女でございましょう?」

「テキトーなことを言ってごまかそうったってそうはいきません! 私の人生がかかってるんですから!!」

 

 どこまで本気なのかわからない口調で、カフリアとラッパの人が手芸が得意そうな人を丸め込もうとして失敗する中、ボクは今後の己の方針を決定した。

 

 

「……降参」

 

 ボクは白旗を宣言した。なんか初手『降参』から相手の内情を探りにいくのがボクの鉄板ムーブになりつつある今日この頃だなって。でも結局、この動きが悲劇を防ぐための最適解だろう。

 

 

 人造魔法少女とは、田中先生が生み出した、ピュアエレメンツ初期メンバー:テンペスト・デリュージ・インフェルノ・クェイクのことだろう。そんな人造魔法少女を狙っているらしきフリーランスの魔法少女が一気に3人も現れた。

 

 かつてのN市の魔法少女試験。魔法少女専用ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』。B市全域を巻き込んだ騒動。いずれも、スイムスイムに憑依したボクという異分子を除けば、16名の魔法少女が現場に集結した。

 

 すでにS市でも、ボクを除くピュアエレメンツ5名と、フリーランスの魔法少女3名が集っている。人造魔法少女陣営とフリーランス陣営が存在している。

 

 ここに例えば、魔法の国から派遣された正式な調査メンバー陣営や、人造魔法少女の技術独占のために犠牲もやむなしとする敵陣営あたりを加えれば……16人くらいそろうのでは? まほいくシリーズ第4部の物語が本格的に始まるのでは??

 

 

 今まさに『人造魔法少女』をテーマとして、原作で描かれたであろう悲劇が巻き起ころうとしている。だからボクは情報収集に徹する。

 

 結局、これが一番だ。事前にしっかり情報を集めておけばみんなを救えるかもしれない作戦を思いつくことができる。情報がなければただ激動の舞台に翻弄されるのみだ。

 

 

「それではフリーランスの流儀に則り、獲物をいただく強者を決定する宴の開催でございます」

 

 ラッパの人の宣告を皮切りに、緊迫しつつもどこか緩やかな空気が消えた。魔法の糸で拘束されているフリをしているボクを取り囲む3人が冷徹な眼差しで各々の動向を疑う。

 

 

「――待って」

 

 だが、ここでカフリアが制止の言葉を差し込んだ。

 

 

「今度は何ですか? 戦うんじゃないんですか、私たち?」

「そのつもりだったのだけど……方針を変えたくなったのよ」

 

 困惑するフィルルゥをよそに、カフリアがボクを見つめてくる。

 

 

「この人造魔法少女にとって、知らない魔法少女にいきなり拘束されて、どこぞへと連行されようとしている状況は相当に怖いはず。なのにこの人造魔法少女は顔色一つ変えていない。……窮状を打破する秘策を持っているのかもしれないわ」

「なるほどでございます。獲物の魔法が秘められている以上、アタシどもが戦っている間に逃げられる可能性は十分にありえますです。強者を決めたところで獲物を失ってしまっては本末転倒。雌雄を決するより前に、獲物から情報を絞り出すのが賢明でございますね」

「……だったらどうするんですか?」

「一旦、目立たない場所に移動して、そこで交流会なんてどうかしら?」

「賛成でございますです。しかし目立たない場所といっても、そんな都合のいい場所は早々見つからないというのが世の定めにございましょう? 近くのビジネスホテルで部屋を借りている魔法少女が偶然この場にいるなら話は別でございますが」

「わかりました、わかりましたよ! 私が借りてるホテルに行きましょう」

「おやおや、まさかこんな偶然があったなんてびっくり仰天でございます」

「うるさいですね……どうせ知ってたくせに」

 

 カフリアの提供した話題をきっかけに、フリーランスの魔法少女たちは『ボクから情報を引き出す』という共通の目的で足並みをそろえることとなった。

 

 カフリアもまた、ボクと同様に情報を欲しがっているのかもしれない。手芸が得意そうな人やラッパの人の情報を、そして――人造魔法少女とつながりを持っているらしきボクの情報を。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 ボクはフリーランスの魔法少女3名によってビジネスホテルの一室へと連れていかれた。

 

 さすがにホテルの入り口ルートで部屋に向かいはしなかった。派手さに特化した美少女軍団4名(しかもその内の1人は白スク)が、真正面からホテルに入れるわけがない。魔法少女の超常の身体能力を使い、窓から部屋に侵入することとなった。

 

 魔法の糸で体を縛られたボクはホテルの椅子に座らされ、ボクを囲むように3人の魔法少女が向かい合う。

 

 

「さて、交流会なのにお互いのことを何も知らないというのはいかがなものだと思わない? まずは名前だけでも共有する、というのはどうかしら?」

「建設的な提案でございますね、良いでしょう。アタシはウッタカッタでございます」

「私はカフリアよ」

「……フィルルゥです」

 

 フリーランスの魔法少女たちは互いに名前を明かす。それからカフリアはボクに視線を向けて「あなたは?」と尋ねてくる。

 

 

 ボクはわずかに震えた。

 これは、ボクが6人目のピュアエレメンツとして名乗るチャンスだ。

 

 ピュアエレメンツのみんなが決めてくれた、闇属性のピュアエレメンツにふさわしい口上。ディスラプター相手に名乗ったことはあるが、ディスラプターは無反応なのでちょっとつまらなかったのだ。この貴重な機会を逃してはならない。

 

 ボクは一呼吸を置き、名乗りを上げた。

 

 

「私は――(くら)闇冥(あんみょう)、プリンセス・スイムスイム」

「「「……」」」

 

 何とも形容しがたい沈黙が続いた。

 心なしかフィルルゥの思考が止まっているような気がする。カフリアから「この子、お姫様(プリンセス)を自称するような性格だったかしら?」と言わんばかりの視線を感じる。

 

 もっとなんかこう、良い感じのリアクションがほしいのだけれども!

 ボクが内心で望みを訴えていると、ウッタカッタが沈黙を破った。

 

 

「おやおや、頭のイタい方でございましたか」

 

 えっ…いまボク、煽られた?

 

 

「では、頭に怪我を負っているスイムスイムにインタビューを始めましょうです」

 

 ウッタカッタはボクを小馬鹿にしたような口調で高圧的に見下ろしてくる。ボクを舐めている、というよりはボクから効率的に情報を引き出すために意図して態度を選んでいる印象だ。

 

 さて、まずは誤解を解きつつ、ちょっと嘘も混ぜてみよう。

 『ボク=人造魔法少女』説は否定する。その上で、ボクもみんなと同じで人造魔法少女を目的としているのだと主張してみるのだ。

 

 一番理想なのは、フィルルゥ&ウッタカッタと協力関係を結べること。これが成功すれば後々、ボクがピュアエレメンツとフリーランスとの間を取り持てるかもしれない。

 

 人造魔法少女陣営とフリーランス陣営の衝突を未然に防げるのは、大きなアドバンテージだ。

 

 

「まず、人造魔法少女は総勢何名なのか。各魔法少女の魔法の内容と、人造魔法少女にあって、一般の魔法少女にはない特徴。この辺りをキリキリ答えるでございますよ」

「私は人造魔法少女じゃない。みんなと同じで、人造魔法少女を探しにS市に来た」

「おやおや、そうでございましたか。ではあなたも魔法の端末で『参謀』を名乗る何者かから、人造魔法少女の概要が記されたメールを受け取ったのでございますね?」

「うん」

「ダウトでございます。メールの差出人は『参謀』ではなく『友人』でありましたです。お二方もそうでございましょう? つまりあなたは我々とは異なる立場の魔法少女なのでございます」 

 

 ウッタカッタは己の質問にうなずくカフリアとフィルルゥの姿を確認しつつ、したり顔で笑う。おっと? 早速、墓穴掘ったなボク?? でもまだ軌道修正できるはず。

 

 

「確かにメールは受け取っていない。でも私は本当に人造魔法少女じゃない。人造魔法少女のことも知らない」

「それもダウトでございます。メールには、無関係な第三者に内容を話せば、話した当人とその相手の記憶を消去する魔法が施されてございます。そこのフィルルゥのお姉さんがあなたに『人造魔法少女』と連呼しても記憶消去が行われない時点で、あなたが人造魔法少女の関係者なのは確定なのでございます」

「……」

 

 ボクは今度はただの無関係な一般魔法少女を装ってみるも、速攻でウッタカッタに否定されてしまう。ボクはつい言葉に詰まった。

 

 メールの内容を無関係な第三者に話せば記憶を消去する魔法!? なにそのご都合主義まっしぐらな魔法!? ズルいって! それはズルだって!

 

 

「ちなみに今のはアタシのフェイクでございます。メールに記憶消去の魔法が施されているのは事実でございます。しかしメールの内容をどこまで話せばアウトなのか、アタシどもは知りませんです。……けれどあなたはアタシのフェイクを真に受けてましたです。己の主張が論破されてしまった、そう考えて黙ったのでございます。あなたが人造魔法少女に心当たりがある、何よりの証拠でございましょう?」

 

 は、はかったなあああああああああ!

 

 うぅぅ、これは完敗だ。完全にウッタカッタの手のひらの上で踊らされてる。ここでフリーランス勢の味方面できたら強かったんだけど、そううまく事は運ばないか。仕方ない。欲張ることはやめて、当初の予定通り、情報収集に努めよう。

 

 

「……みんなのことを知ってどうするつもり?」

「身柄を拘束して魔法の国へご案内、でございます」

「魔法の国に連れていかれたみんなはどうなるの?」

「アタシどもにはわかりかねるでございます。というより、魔法の国に受け渡した人造魔法少女に訪れる未来なんてものには興味ありませんです。アタシどもはあくまで報酬目当てのフリーでございますゆえ」

「なら、私は何も話さない」

「おやおや」

「魔法少女は友達を売らない」

「……これは意志が固そうで困りましたです。しかしアタシとしても、あなたに費やした時間を無駄にしたくはないでございます。ならばここからは舞踏会と洒落込みましょうです」

 

 ウッタカッタがボクへ一歩踏み出し、ボクの顔面目がけて拳を突き出した。しかしウッタカッタの拳はボクに命中しなかった。カフリアがボクとウッタカッタの間に入り、ウッタカッタの拳を手のひらで受け止めたからだ。

 

 

「やはりカフリアのお姉さんはスイムスイムの知り合いでございましたか」

「……よくわかったわね」

「カフリアのお姉さんは一度だけ、スイムスイムのことを『その子』と表現していますです。『その子』という物言いは年下に対するもの。そこでカフリアのお姉さんがスイムスイムと知己の仲、という可能性に思い至ったのでございます」

「それで暴力を使って試してみたのね」

「ご明察でございます」

「良い趣味してるわ」

「ほめられると嬉しいものでございますね」

 

 カフリアとウッタカッタは内心はともかく、表面上は「あらあら」「おやおや」とニコニコ笑顔で見つめ合っている。が、その表情が真顔に戻った。

 

 2人そろってフィルルゥに鋭い目線を向ける。ボクも気づいた。カフリアとウッタカッタも、フィルルゥの魔法の糸で体をグルグル巻きに拘束されている。

 

 

「これは何のつもりでございますか? フィルルゥのお姉さんはスイムスイムと何も関係を持っていないはずでございましょう?」

「あのですね。この部屋を借りてるの、私なんですよ。部屋の弁償費用を払う気なんてないくせに勝手に剣呑な雰囲気になられても困るんです。迷惑なんです。スイムスイムから情報を得る気がなくなったっていうのなら、外に行きましょう。部屋で暴れるのは私が許しません」

 

 人造魔法少女のことやボクのことで切迫していた雰囲気が、フィルルゥの介入と、フィルルゥがまったく別種の懸念を抱いていることにより緩まった。さっきボクが闇属性のピュアエレメンツとして名乗った時と似た空気感だ。

 

 

「……わかったわ。もう部屋で暴れる気はないから、今度は私にスイムスイムと話をさせてちょうだい」

「スイムスイムを逃がすつもりでございますか?」

「フィルルゥの魔法で縛られているのにどうやって逃がすというのかしら?」

「ふむ、それは確かにそうでございます」

「フィルルゥも、良いかしら?」

「……ええ、構いません」

 

 カフリアはウッタカッタとフィルルゥに確認を取ってからボクへと歩み寄り、椅子に座るボクと視線を合わせるためにしゃがみ込む。ボクに寄り添ってくれる態度全開だが、それを体を縛られた状態でやられるとちょっとシュールだ。

 

 

「スイムスイム。今まで、あなたには私の魔法を隠していたわね」

「うん、気になってた」

「私の魔法は『誰が一番早く死ぬのかわかる』というものよ。私が目視した人の中で誰が次に死ぬのかを、頭の上に浮かぶ髑髏マークで、私だけが知ることができるの。あくまでわかるのは順番だけで、死ぬ時期や死ぬ原因はわからないのだけど」

「そうなんだ」

「今、髑髏マークはあなたの頭の上に浮かんでいる」

 

 ……へ?

 

 

「今だけじゃない」

「私があなたと初めて会った時からずっと、あなたの上にはずっと髑髏マークが浮かび続けているの」

「私は、あなたと老い先の短そうなお爺さんとを一緒に視認したこともあったわ」

「それでも髑髏マークはあなたの上に浮かんでいたの」

「あなたは長くても数年しか生きられない」

「……私は不思議だったわ」

「まだ若いあなたがどうして死神に魅入られているのか」

「でも、ようやく理由がわかった」

「――スイムスイム、お願い。人造魔法少女から手を引いて」

「この一件がきっと、いや間違いなくあなたの死因になる」

「だからあなたの知っていることをすべて話して」

「話し終わったらすぐにS市から逃げて」

「できるだけ遠くに逃げて、人造魔法少女との関わりを断つの」

「そうすれば、あなたは生きられるわ」

 

 カフリアからまさかの『あんた死ぬわよ』宣言をされた時は思わず頭が真っ白になったけど、だんだん平静を取り戻せてきた。

 

 カフリアの一言一言からはボクを気遣う気持ちがひしひしと伝わってくる。カフリアはボクを大切な友人だと思ってくれている。でも、カフリアの提案は受け入れられない。

 

 

「ありがとう、カフリア。でも私は何も話さない」

「どうして?」

「私が仲良くなった人造魔法少女は、みんな良い人たちだから。たとえ私の命が危ないとしても、退けない。私は友達を守りたい」

「スイムスイム……」

「……カフリアの魔法は絶対? 私がもう少しで死ぬのは、もう決まったこと?」

「違うわ。私が観測した死の運命は変えられる。前に髑髏マークが浮かんだ人を、私の手で助けたことはあるわ。……死を宣告された本人が自力で運命を変えられるかは、試したことがないからわからないけれど」

「それがわかれば十分」

 

 カフリアたちからはある程度、情報を拾えた。ボクのスタンスをカフリアたちに示すこともできた。本当ならウッタカッタの魔法のことも知りたかったのだが――ウッタカッタの実力を思い知らされているボクとしては、これ以上の長居は危険だと判断した。ここが引き際だろう。

 

 

「みんな、色々教えてくれてありがとう」

 

 ボクは『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で裏世界に潜ってフィルルゥの糸の拘束を抜ける。それからホテルの床を潜り、次の床を潜り、次の次の床を潜り――地中まで潜る。そこで裏世界から表世界に戻り、そのまま地中を泳ぎ進めた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇カフリア

 

 

 その日、カフリアは友人を名乗る何者かから人造魔法少女に関するメールを受け取った。

 

 メールの内容に不信感を抱きつつも、久々に大金を得られるかもしれない機会にカフリアは胸を躍らせた。一方で、メールに付与された魔法のせいで、アウロ・葱乃・コクリちゃん・スイムスイムに人造魔法少女について教えられないことを残念に思った。

 

 今回は1人で成果を上げて、報酬を得て、みんなにご馳走しよう。みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。

 

 カフリアはやがて至るであろう未来に頬を緩めつつ、S市を訪れた。そこでスイムスイムと出くわした。まさか人造魔法少女にスイムスイムがかかわっているとは、いくらなんでも想定外だ。

 

 

「みんな、色々教えてくれてありがとう」

 

 そうスイムスイムが告げた直後、ホテルの一室からスイムスイムが忽然と消えた。『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で逃走したようだ。つくづく便利な魔法だ。

 

 

「え、逃げられた!?」

 

 フィルルゥが大きく目を見開いている。

 己の魔法に絶対の自信があったのだろう。

 

 

「今から追っても間に合わないでございましょうね。フィルルゥのお姉さんの拘束さえなければスイムスイムを捕まえられたかもしれませんですけど」

「も、元はと言えば、ホテルで暴れようとしたあなたたちがいけないんです! 私のせいじゃありません!」

 

 ウッタカッタが非難の眼差しでフィルルゥを差し、フィルルゥは言い訳をしつつも、カフリアとウッタカッタの拘束を解いた。標的のスイムスイムに逃げられた今、カフリアとウッタカッタの拘束を続けることに意味はないと判断したようだ。

 

 

 スイムスイムは防御面や逃走面において相当に強い魔法少女だ。たった今、スイムスイムがフィルルゥの拘束を攻略して逃走せしめたことからも明らかだ。

 

 並の魔法少女ではスイムスイムを殺せない。なのにカフリアの魔法は『スイムスイムが一番最初に死ぬ』とずっと主張し続けている。

 

 

 スイムスイムはまだ8歳だ。病気も患っていない。そんな子がなぜ死んでしまうのかが不思議だった。カフリアが魔法の誤作動を疑った回数も一度や二度ではない。

 

 けれど今日、すべて繋がった。

 間違いない。人造魔法少女のつながりが、スイムスイムを殺しにかかるのだ。

 

 つまり人造魔法少女の一件に関わるということは、スイムスイムですら死んでしまう案件に、カフリアが首を突っ込むということだ。

 

 こんなの明らかにカフリアの手に余る。

 普段のカフリアなら絶対に手を引いていた。

 でも。でも。

 

 

 ――スイムスイムがピンチの時にあたしらがその場にいるなら手ぇ差し伸べる。

 ――スイムスイムがあたしらのあずかり知らぬところで死ぬってんなら、その日が来るまでにいっぱい楽しい経験させてやる。

 

 頼もしい仲間たちと定めた方針をたがえるつもりはない。

 役目はカフリアに回ってきたのだ。

 

 スイムスイムを守る。ついでに、可能ならスイムスイムの友達の人造魔法少女も守る。カフリアは心に誓いを立てた。

 

 けれど、カフリア1人では力不足だ。カフリアの魔法は戦闘では使えない。背中の漆黒の翼で空は飛べるが、それだけだ。カフリアの目的を果たすためにはもっと戦力が必要だ。だから――

 

 

「ねぇ。私たち、同盟を組まない? スイムスイムを失った今、情報源はどこにもない。少なくとも人造魔法少女を見つけるまでは、私たちは手と手を取り合える。そうよね?」

 

 フィルルゥ、ウッタカッタ。

 この2人を利用する。

 

 

「おやおや、ずいぶんとお花畑な考えでございますね? カフリアのお姉さんとスイムスイムには繋がりがございます。カフリアのお姉さんが人造魔法少女側に寝返るかもしれないのに、どうして同盟を組まなければならないのでございましょう?」

「あなたは2つ勘違いをしているわね。まずスイムスイムは人造魔法少女じゃない。彼女は魔法の国の試験を経て、正式に魔法少女になっているわ。次に、私はスイムスイムのことは大切だけど、人造魔法少女のことはどうでもいいの。スイムスイムのためなら、私はいくらでも人造魔法少女を犠牲にできる」

「それを証明する根拠はございます?」

「ないわね。けれど――私はフリーランス(やとわれ)よ。信用の大切さをよく知っている。今の私の発言に嘘偽りはないわ」

「おやおや、これ以上ないほどの説得力でございますね。ではその同盟、一番乗りでございます」

「ありがとう」

 

 まずは1人、協力者を得られた。あとは――

 カフリアはフィルルゥを見やる。

 

 

「フィルルゥ。あなたもどうかしら?」

「どうして私があなたたちと協力なんて……」

「協力した方が賢明よ。何せ、あのメールを受け取ったのは私たち3人だけとは限らないもの」

「ッ!!」

「私たちは今後、同じメールを受け取った方を見つけ次第、協力を持ちかけるわ。私たちの同盟がこれからどれほどの規模になるかは未知数よ。そんな状況で、あなたは単独で人造魔法少女を捕まえられるの?」

「うぐぐ……わかりました、わかりましたよ! 協力すればいいんでしょう! ただ、報酬の内、上層部とのコネクションは私にください! これが絶対条件です!」

「私は構わないわよ、ウッタカッタは?」

「アタシも問題なしでございます。お金さえもらえればそれで大満足でございますゆえ」

「それじゃ、同盟結成ね」

 

 無事、フィルルゥとも協力関係を築けた。

 あとは彼女たちを利用して情報を集めて、何がスイムスイムの死に繋がるのかを見つけ出し、スイムスイムを救うまでだ。

 

 

「ちなみに、アタシどもの中で誰が一番最初に死ぬでございますか?」

「少なくとも私ではないわ」

「……良い趣味でございますね」

「あらあら、ほめられちゃったわ」

 

 カフリアはウッタカッタとの会話に適当に対応しつつ、「はぁ、どうしてこんなことに……」と独りごちるフィルルゥをよそに、己が今後何をするべきかに思考リソースを投じ始めた。

 

 




次回 第41話
『誰かのせいにしたいがボクの顔しか思い浮かばない』
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