その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第42話 ま…まああんたほどの実力者がそういうのなら………

 

◇スイムスイム(憑依)

 

  

――S市の地下研究所キャンプ生活日記――

 

 作:スイムスイム

 

 

・1日目 晴れ

 

 長い夜がようやく終わった。

 

 プリンセス・クェイクはボクを8歳の女の子だと認識している。そのクェイクの腕に抱かれて一緒の布団で眠るという、罪悪感が天元突破するシチュエーションをどうにか耐え抜いたボクは、第4部の本格始動に備えて、プリズムチェリーと分担して準備を進めていく。

 

 今のところ、ピュアエレメンツ初期メンバーの4人にボクとプリズムチェリーの動きを不審がられてはいない。順調だ。

 

 あとは、ボクの心の安寧のために、今日はクェイクと別々の布団で寝たいと主張し、クェイクに認めてもらえたら完璧だ。大丈夫、ボクにならきっとできる。

 

 

 ところで本日、地下研究所に外部の魔法少女は訪れなかった。

 それゆえ、きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・2日目 くもり

 

 クェイクには勝てなかったよ……

 

 今日も今日とて、クェイクに抱かれた状態で目を覚ましたボクは、プリズムチェリーと一緒に準備を進めていく。

 

 

 その最中、プリンセス・テンペストに恋愛相談を持ちかけられた。

 

 テンペストには中学生の想い人:南田(みなみだ)(しょう)がいる。だけどその想い人はインフェルノのことが好きなようなので、インフェルノに盗られてしまう前に想い人を我が物にしたいとのこと。

 

 ボクはテンペストとは違い、あくまで8歳児のまがい物だ。

 真摯に恋愛相談に応じたとして、テンペストのためになる意見を言える気がしなかった。

 

 なので、ボクはテンペストの相談に対し、毒にも薬にもならない一般論を話すにとどめた。けれど、テンペスト的にはボクの意見は目から鱗だったようで、尊敬のまなざしを向けられた。

 

 しっかし、恋愛とは……最近の8歳は進んでいるようだ。

 ボクが8歳の頃は『ゲーム楽しぃ(˙◁˙)』くらいの知能しかなかったというのに。

 

 

 ところで本日、地下研究所に外部の魔法少女は訪れなかった。

 それゆえ、きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・3日目 雨

 

 プリズムチェリーがずいぶんとやつれている。まるで悪霊だ。光属性のピュアエレメンツとかけ離れた表情をしていて、みんなも心配そうだ。

 

 ……ちなみに原因はボクです。はい。

 プリズムチェリーがつらそうなのは、ボクがプリズムチェリーに理由を告げずに、彼女に延々と単純作業を繰り返してもらっているからだ。

 

 プリズムチェリーに作業の目的を告げてしまえば、スノーホワイトのような人の心を読む魔法保持者が現れた時に、ボクの思惑が透けかねない。

 

 なので、プリズムチェリーには、ただただボクのお願いに疑問を挟まず従ってもらう形で、第4部への備えをしてもらっている。さぞ、プリズムチェリーは賽の河原で石を積んでいる感覚を味わっていることだろう。プリズムチェリーがやつれるのも当然だ。

 

 事が終わったら、プリズムチェリーにたくさんお礼を言おう、プリズムチェリーをいっぱい褒めよう。そうボクは心に誓った。

 

 

 ところで本日、地下研究所に外部の魔法少女は訪れなかった。

 それゆえ、きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

 ◇◇◇

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

(あるぇ~?)

 

 おかしい。ずっと平和だ。

 事が起こる気配がない。

 

 何者かが人造魔法少女の情報を外部にバラした。拡散した。

 その情報に食いついて、S市にフリーランスの魔法少女(カフリア、フィルルゥ、ウッタカッタ)が集結した。トットキークを名乗る不審者(トットポップ)も出現した。

 

 あの出来事からもう4日目になるのに平和な日々が続く、というのは不気味でしかない。

 

 いくら地下研究所ならクローズドサークルを作れるからといって、地下研究所で人造魔法少女を巡る惨劇が、まほいく第4部が始まると推理したことがそもそも間違っているのだろうか。

 

 今までプリズムチェリーと一緒に地下研究所で準備を進めてきたのに、実は舞台は別で、そこでピュアエレメンツ初期メンバーが全員殺されてしまいました、なんてことになったら、ボクはとんだ道化だ。ボクを頼ってくれて、協力してもらっているプリズムチェリーにも申し訳が立たない。

 

 

 フリーランス勢の動向を知るために、カフリアに連絡を取ってみるべきか?

 いや、やめておいたほうがいい。カフリアからボクに連絡がないのが答えだ。

 

 カフリアが単独行動を選んでいるのなら、ボクと接触しようとするはずだ。カフリアはボクの身を案じていて、ボクに人造魔法少女との関係を断ってほしいと願っているのだから。

 

 けれど、カフリアからボクに連絡がない。それはつまり、カフリアはボクとの連絡手段を隠したうえで、フィルルゥ&ウッタカッタと一緒に行動している可能性が高い。ボクがカフリアに連絡してしまったら、カフリアの思惑を潰しかねない。よってカフリアには連絡できない。

 

 

 でも、どうする?

 もう4日も動きがない。このまま地下研究所に泊まり込み、運命の日が来るまで安穏と待ち続けるのは本当に正しいのか?

 

 

「…………」

 

 ダメだ、本格的にわからなくなってきた。

 ちょっと気分転換をしよう。

 

 地下研究所のキャンプ生活を始める前、ボクはアカネに『このメールはまだ開かないで』との件名のメールを送り、ボクが最後に電話してから24時間経ったら、ボクに何かが起こったと思って、そのメールを見て対応するようにお願いしている。

 

 今は夕方だ。今朝、アカネに電話しているからまだ24時間までの余裕はあるけれど、もう一度アカネに電話をして、ボクの無事を知らせておこう。

 

 

 漠然とした焦燥感に苛まれつつも、ボクは魔法の端末でアカネと連絡するために、地下研究所の入口へと向かうのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

◇プリンセス・インフェルノ

 

 

 緋山(ひやま)朱里(あかり)は、己を活発な性格だと自負している。

 実際、魔法少女:プリンセス・インフェルノとして、ピュアエレメンツのにぎやかし担当に回ることが多い。

 

 しかし高校生:緋山朱里には意外と友達は少ない。

 いや正確には、高校1年生の時に怪我で膝を痛めて、自由に走れなくなり、陸上部を引退してからというもの、朱里は同じ高校に通う生徒たちを友達だと思えなくなった。

 

 

 生徒たちは朱里の視界内では誰も走ろうとしない。陸上の話題を出さない。その上で、高校生活のふとした瞬間に、不躾で同情的な視線を朱里に浴びせてくる。かわいそうなものを見るような眼差しの数々を朱里にぶつけてくる。

 

 わざとなのか無意識なのか、生徒たちの視線には、『障害者は障害者らしくするべきだ』と言わんばかりの圧力があった。朱里はただ走れなくなっただけで、他は何も変わっていないのに、生徒たちは陸上部を辞めた朱里をまるで別人かのように扱ってきた。

 

 

 だから朱里も生徒たちを友達だと思わないことにした。

 そんな折、朱里は田中先生のおかげで魔法少女プリンセス・インフェルノになって、ピュアエレメンツのみんなと仲良しになった。今や、ピュアエレメンツのみんなこそがインフェルノの本当の友達だ。

 

 その友達の1人、プリンセス・スイムスイムの家出問題が長引いている。

 

 

(どうしたもんかねぇ……)

 

 夕暮れ時。朱里は下校とともに、商店街の雑踏に紛れつつ地下研究所に向かう。朱里の脳内はスイムスイムのことで占められていた。

 

 

 スイムスイムは家族とケンカして家出した。が、スイムスイムは8歳の女の子だ。どれだけ家族に怒っていても、1日も経てば家族が恋しくなって自ら家出をやめるだろうと、朱里は楽観していた。

 

 けれど、スイムスイムが地下研究所で生活するようになってもう4日だ。

 これはさすがにマズい。いい加減、無理やりにでも一度、スイムスイムを自宅に帰して、家族にスイムスイムの無事を知らせた方が良いのではないか。

 

 いや、だけど。スイムスイムの家族が良い人とは限らない。

 スイムスイムは強情だ。固い意志で、ずっと家出を継続している。スイムスイムの態度は、家族がスイムスイムに虐待めいたことをしている裏返しなのではないか。

 

 朱里の脳内に様々な可能性が次々と駆け巡っていく。それもこれも、朱里たちがいくらスイムスイムに質問しても、スイムスイムが家出の事情について頑なに話そうとしないからだ。

 

 プリズムチェリーもスイムスイムの身を酷く案じているようで、すっかりやつれてしまっている。プリズムチェリーの心の健康のためにもスイムスイムの家出問題を早く解決しなければいけない。でもどうやって?

 

 

 暗中模索の中、朱里はふと視線を上げて――目を見開いた。朱里のすぐ近くに、小学生時代の友達が、姫河(ひめかわ)小雪(こゆき)がいたからだ。

 

 小学生の頃と違い、小雪は背丈も大きくなり、顔つきもずいぶんと凛としている。それでも朱里にはすぐに小雪だとわかった。

 

 

「小雪?」

「え? ……朱里ちゃん?」

「やっぱり小雪だ。ひっさびさだねえ」

 

 小雪に声をかけると、小雪は少しフリーズした後、おずおずとした調子で朱里の名を呼んでくる。良かった、小雪も朱里のことをしっかり覚えてくれていた。これで小雪が朱里のことをすっかり忘れていたら、朱里は枕を涙で濡らしたことだろう。

 

 それから朱里は小雪と他愛のない雑談に興じた。その雑談が朱里には楽しくて仕方がなかった。そうだ、小雪は朱里の膝の怪我を知らない。だから発言の1つ1つに遠慮がない。おかげで朱里は童心に帰った気分で、空白の時間を埋めるように、小雪と雑談ができる。

 

 しかし、いつまでもこうして話しているわけにもいかない。小雪は何か用事があるからS市にやってきたはずだ。朱里が小雪の邪魔になってはダメだ。

 

 朱里は頃合いをみて、小雪に別れを告げて背を向ける。

 商店街の雑踏の中、朱里は歩を進めながら、頭を切り替える。童心に返っていた無邪気な朱里から、ピュアエレメンツの一員としての誇り高い朱里へと思考を転換させる。

 

 

「どうしたらスイムスイムの力になってあげられるんだろ……」

 

 刹那、朱里はつい弱音に近い独り言を零してしまった。

 スイムスイムの家出問題。ディスラプターの侵略と違い、単純な暴力では解決できない難題。朱里が解決方法を導き出せるのは一体いつになることやら。朱里は小さくため息を吐いた。

 

 

 ◇◇◇

 

◇スノーホワイト

 

 

(スイムスイム!?!??!?)

 

 どうして。どうして朱里ちゃんの口から『スイムスイム』の名が飛び出てくるのか。

 魔法少女スノーホワイトこと姫河小雪は、ふと聞こえた朱里の呟きに酷く動揺していた。

 

 

「ファル、朱里ちゃんから魔法少女の反応は?」

「? 反応ないぽん」

 

 小雪は小声で、小雪の魔法の端末に潜っている電子妖精型マスコットキャラクター:ファルに質問するも、小雪の想定する回答は返ってこなかった。

 

 

「本当に?」

「こんなところで嘘ついても意味ないぽん。どうしたぽん?」

「……なんでもない」

 

 一応、念押しで尋ねてみるもファルの回答は変わらない。キークの魔改造により、電子妖精として非常にハイスペックになっているファルの調査結果をいつまでも疑っても仕方がない。小雪はファルとの会話をシャットダウンして思考する。

 

 

 先日、スノーホワイトの魔法の端末に『スノーホワイトのファン』を名乗る者からのメールが届いた。そのメールにはS市の人造魔法少女研究所のことや、メールの内容を他言すれば記憶消去の魔法を発動させる旨が記されていた。

 

 普通に考えればイタズラメールだ。魔法少女狩りスノーホワイトの存在を疎む、後ろ暗い連中が、スノーホワイトを躍らせるために虚偽の告発メールを送ってきた。そう考えるのが妥当だ。

 

 

 その手のイタズラメールは、いつもならファルに処理させていた。

 匿名だろうと関係なしにイタズラメールの送信者を特定させ、相応の罰を与えてきた。

 

 しかしスノーホワイトは今回、イタズラと思しきメールの内容に従い、S市に赴いている。人造魔法少女や研究所を探している。その理由は、メールの最後に記された一文にあった。

 

 ――スノーホワイト。魔法少女狩りであるあなたが動かなければ、まもなく悲劇が生まれる。かつてのN市のように、多くの魔法少女が死に絶える。

 

 その文面を視界に収めてしまったが最後、スノーホワイトはいてもたってもいられず、ファルとともにS市へと赴いたのだ。

 

 

 本当ならリップルと一緒にS市へ行きたかった。けれど、リップルは別件で立て込んでおり、力を借りられない。

 

 『魔法少女狩りとして、悪い魔法少女を捕まえるために無茶をしない』とリップルに宣言した手前、リップルには非常に申し訳なく思っている。

 

 しかし、スノーホワイトの根底には『次は後悔する前に自分で選ぶ』という誓いがある。近い将来、発生するかもしれない悲劇を、我が身かわいさに見て見ぬふりなんてできなかった。

 

 

 そうして小雪はS市にやってきて、思わぬ形で手がかりを得た。まさか朱里ちゃんとスイムスイムが繋がっているなんて。

 

 ファル曰く、朱里ちゃんは魔法少女ではない。

 とすると、朱里ちゃんは人造魔法少女か、魔法少女とかかわりを持つ一般人だ。今すぐ朱里ちゃんを追いかけないといけない。朱里ちゃんから事情を聞かなければいけない。

 

 

 商店街の雑踏に混ざって消えていく朱里ちゃんの背中。小雪は朱里ちゃんを追うために足を一歩踏み出したが、そこまでだった。

 

 雑踏の中、スノーホワイトは立ち止まる。道行く人々が怪訝な眼差しをスノーホワイトに向けては、そのまま通りすぎていく。

 

 

「……」

 

 かつて、N市で魔法少女同士の凄惨な殺し合いがあった。結果、16名の中でスノーホワイトとリップルだけが生き残った。

 

 N市の殺し合いで何もできず、ただ運良く生存したスノーホワイトは、『次は後悔する前に自分で選ぶ』ことに決めた。

 

 

 魔法少女を辞める道もあった。

 魔法の国の面々も、それを望んでいる節があった。

 

 それでもスノーホワイトは魔法少女を続けた。

 スノーホワイトは小さい頃からずっと魔法少女が好きだった。その想いがスノーホワイトの根幹に巣食う限り、スノーホワイトは正義の魔法少女であることを決して辞めはしない。そのつもりだった。

 

 けれど、最近思うことがある。

 生き返ったスイムスイムが改心して、たくさんの魔法少女を救っていく中で、『魔法少女狩りスノーホワイト』は本当に必要なのか。

 

 

 生き返ってからというもの、スイムスイムの活躍は目覚ましい。

 

 キークが『電脳空間で自由自在に行動できる』魔法でクラムベリーの子供達17名を危険なゲーム世界に放り込み、殺し合いを誘発させようとした時、スイムスイムは臨機応変に立ち回り、キークに逆襲してみせた。結果、ゲーム世界で亡くなったのはマジカルデイジーだけだった。

 

 B市に暗殺者レイン・ポゥと、脱獄囚ピティ・フレデリカ、プキン、ソニア・ビーンが集結した時も、スイムスイムは波山中学の即席魔法少女たちと魔法の国の捜査班との仲を取り持ちつつ上手に立ち回り、B市の住民や魔法少女の死者を大きく減らしてみせた。

 

 もしもスノーホワイトがスイムスイムの立場だった時。スノーホワイトにスイムスイムと同様の動きができたとは思えない。

 

 

「…………」

 

 朱里ちゃんは魔法少女と関わりがある。放置すると危険だ。

 今すぐ朱里ちゃんと接触し、彼女の安全を確保しないといけない。

 

 けれど、S市の人造魔法少女を巡る不穏な状況にすでにスイムスイムが足を踏み入れているのなら。スノーホワイトは何もしなくてもいいのではないか。むしろスノーホワイトが余計な手出しをすることで、事態はより悪化してしまうのではないか。

 

 スノーホワイトが理想とする正義の魔法少女は、スイムスイムが担ってくれる。

 それなら、魔法少女狩りスノーホワイトの役割は終わったのではないか。

 

 

(……私はどうするべきなんだろう)

 

 わからない。そういう時は、魔法少女に変身するに限る。魔法少女の身体には強靭な精神力が備わっている。小雪にはわからないことも、スノーホワイトならわかるかもしれない。

 

 商店街の雑踏から逃れて路地裏に入り、小雪は変身する。が、スノーホワイトになってなお、疑問は氷解せず、スノーホワイトをむしばんでくる。

 

 

「どしたね? そんな怖い顔して」

 

 ハッと顔を上げる。いつの間にか目と鼻の距離にまで見目麗しい少女に接近されている。

 

 いくら心あらずだったとはいえ、魔法少女に変身したスノーホワイトに気づかれずに距離を詰められる一般人はいない。この少女は間違いなく魔法少女だ。

 

 

「ファル」

「ちゃんと魔法少女の反応が近づいてるって何度も報告したぽん。それを無視したのはスノーホワイトぽん」

 

 ついファルの名を咎めるように呼んだが、ファルから不満を表明される。

 

 スノーホワイトはますます自信がなくなってきた。もしも眼前の魔法少女にスノーホワイトへの殺意があれば、今頃スノーホワイトは天に召されている。

 

 いくら悩み事があったとはいえ、こうも油断してしまうなんて。スノーホワイトは本格的にダメになっているのかもしれない。

 

 スノーホワイトは改めて眼前の魔法少女を見やる。ポップスターのステージ衣装姿で着飾った少女は、B市の第二級魔法犯罪の報告書で良く見た姿だった。

 

 

「トットポップ」

「あぁまたそれね。トットはただの『監査部門の妖精』トットキークなのに、みーんなしてトットポップって言ってくるんだものね。そろそろうんざりしてきたね。はいはいトットポップトットポップ」

 

 スノーホワイトが臨戦態勢に移行するとともにトットポップの名を呼ぶと、途端に当人がやさぐれた表情をみせる。

 

 なんだか状況がよくわからない。この少女がトットポップなら、犯罪者がのこのこと監査部門所属の魔法少女(スノーホワイト)の前に姿を現したうえに、『監査部門の妖精』などとバレバレの経歴詐称をしたことになる。それなのに、彼女にはスノーホワイトを害するつもりがなく、スノーホワイトとの対話を望んでいる。

 

 彼女の発言を額面どおりに受け取るのなら、彼女はトットポップと激似の魔法少女:トットキークで、日々風評被害に苦しんでいるらしい。そんなことが本当にありえるのだろうか。トットポップ本人がすっとぼけているだけなのではないか。

 

 スノーホワイトの推測は、己の『困っている人の心の声が聞こえる』魔法によって否定された。彼女は心の底から自分を監査部門の妖精のトットキークだと認識している。

 

 

「それで、トットポ……トットキークが私に何の用?」

「んー、同じ監査部門のよしみでね、スノーホワイトが調子悪そうだから声をかけてみただけなのね。……ってのは建前ね。実は耳寄りな情報があるね。ズバリ、人造魔法少女の目撃証言ね」

「どうして私が人造魔法少女の情報を欲しがってるって思ったの?」

「今、わざわざS市に集う魔法少女は、人造魔法少女についての匿名のメールを受け取ってる可能性が高いからなのね。トットもメールもらってるしね」

「そう。それで、どこで人造魔法少女が目撃されたの?」

「案内するね、こっちね」

 

 ひとまずトットキークから情報を聞き出すべくスノーホワイトが問いかけると、トットキークは人造魔法少女の話題を持ち出してきた。そしてトットキークはスノーホワイトに背を向けてビルの屋上へと軽やかに跳び上がり、目的地へと急行する。

 

 スノーホワイトもすぐにトットキークの後を追う。

 

 

「スノーホワイト、そんなにホイホイついて行って大丈夫ぽん?」

「大丈夫、トットキークに私を陥れる意思はないよ」

 

 ファルの問いかけにスノーホワイトが回答すると、ファルはそれ以上スノーホワイトに食ってかからなかった。『魔法少女狩り』としてのスノーホワイトを、スノーホワイトの魔法を信用してくれているからだ。

 

 我ながら不可解なことをしていると思う。

 犯罪者と瓜二つの人物が姿を現したのならば、まず無力化し、それから事情を聞くのが最善だ。しかしスノーホワイトはそうしなかった。

 

 トットキークと出会い、彼女と会話してからというもの、スノーホワイトの中にはとある推測が生まれていたからだ。

 

 もしかして、トットポップはB市の一件の後で亡くなったのではないか。

 その後、トットポップはスイムスイムと同じように生き返り、トットキークとして第二の人生を歩もうとしているのではないか。

 

 

 唐突にスノーホワイトの前に現れて、生前と異なる言動を次々と繰り出してくるトットキークの様子は、生き返ったスイムスイムの様子と符合する部分がある。

 

 スイムスイムを生き返らせ、スイムスイムの死をなかったことにした人物。もしもその人物が次はトットポップをトットキークとして生き返らせていたとしたら。

 

 スノーホワイトの推測が正しければ、トットキークと行動を共にすることで、人造魔法少女のことだけでなく、危険人物を生き返らせる人物の正体や目的にもたどり着けるかもしれない。

 

 それゆえスノーホワイトは、素直にトットキークの後を追うことにした。スイムスイムと違い、トットキークからは心の声が聞こえることも、スノーホワイトの判断の後押しになった。

 

 

「スノーホワイト、この先に魔法少女の反応ありぽん。4人、いや5人ぽん」

「わかった」

 

 ファルから報告を受けつつ、スノーホワイトはトットキークにより廃工場へと案内された。廃工場には先客が4名いた。

 

 頭に花を咲かせた魔法少女。美容師の姿をした魔法少女。コウモリの羽らしき大仰なマントに身を包んだ魔法少女。大きな傘を持ったレインコートの魔法少女。全員、スノーホワイトにとっては初対面だ。

 

 ファルの動揺に満ちた心の声が聞こえてくる。どうやら彼女たちは全員、それなりの実力や地位を有する魔法少女のようだ。

 

 

「で、いつまで待たせんだよ」

「これで全員ね!」

 

 苛立ちを顕わにする花の魔法少女にトットキークが慌てた様子で応対する。どうやら4名の魔法少女もトットキークにより廃工場へと案内されたようだった。

 

 彼女たちの心の声から察するに、彼女たちもまた、スノーホワイトと同様のメールを受け取り、人造魔法少女目当てに集結したらしい。

 

 と、ここでスノーホワイトは違和感を抱いた。

 ファルは魔法少女反応が5人分あると報告してきた。だけど、5人目が見当たらない。どこかに身を潜ませているのだろうか。でも5人目の心の声が聞こえてこないのはいったい――

 

 

(まさか)

 

 スノーホワイトには、自身の魔法を無効化できる魔法少女に心当たりがあった。さっき朱里ちゃんもその名を呟いていた。

 

 刹那。スノーホワイトたちの付近の床がスライドし、隠し扉が現れた。扉が開かれ、中から姿を現したのは――紛れもなくスイムスイムだった。

 

 

 ◇◇◇

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 魔法の端末でアカネと連絡しよう。

 ついでに太陽光でも浴びよう。

 

 ふとしたアイディアをそのまま採用したボクが地下研究所から出て、はしごを登って廃工場の床のふたを開けた時、きらびやかな容姿をした幾人もの美少女と目が合った。

 

 

(何かメッチャ人いるんだけど??)

 

 高貴なヴァンパイアっぽい魔法少女。傘を差している、雨女っぽい魔法少女。美容師っぽい魔法少女。スノーホワイトと自称トットキークもいる。

 

 なんだこの集まり。統一感が行方不明すぎる。というかスノーホワイトはなんで犯罪者の自称トットキークを捕まえようとしていないのか。

 

 

 困惑しつつも、ボクは安堵もしていた。

 この美少女たちは間違いなく魔法少女だ。その魔法少女が一堂に会しているということは、『地下研究所がまほいく原作の惨劇の舞台』というボクの推理に間違いがなかった証左だからだ。

 

 と、ここで。ボクはこの場にいる最後の1人と視線を交わした。それは、頭に花を咲かせた魔法少女だった。忘れるわけがない。その人は、ボクが魔王塾を見学した時に、いきなりボクに襲いかかってきた袋井魔梨華だった。

 

 

(あっ……)

 

 ――もな子・エイミー・袋井魔梨華。この3人に目をつけられるとロクなことにならないわ。くれぐれも気をつけて

 

 カフリアと愉快な仲間たちの一角:アウロからの忠告をボクが思い起こす中、ボクを視界に収めた魔梨華の眼差しがどんどん爛々としていく。ボクは明確に、命の危機を察した。

 

 

「スイムスイ――」

 

 魔梨華がボクの名を呼ぶより早く、ボクは頭を引っ込めてはしごから足を離し、そのまま飛び降りる。ボクは床に着地するやいなや、全力疾走で地下研究所へと駆け始めた。

 

 少なくとも袋井魔梨華だけはボクを追ってきませんように。

 ボクの切なる願いは、しかし背後から響く「会いたかったぜ、スイムスイムぅぅ!」との喜色たっぷりな声によって打ち壊されてしまうのだった。

 

 

 だれかたすけて!(逃げるんだよォ!)

 

 




次回 第43話
『うっ…うぐっ…。ぐすっ…。生臭いよう…。生臭いよう……』
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