その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム 作:超天才清楚系病弱魔法少女
◇
袋井魔梨華にとって、魔法少女とは極上の刺激だ。
地球人が連綿と紡いできた科学の軌跡なんて知ったことかと言わんばかりの並外れた身体能力にぶっ壊れな魔法。これらを手にした選ばれし者同士が、頭脳をフル回転させながら死力を尽くして戦い抜く。
これが魔法少女だ。
楽しくないわけがない。
しかし、残念ながら魔梨華の考え方は少数派だった。
魔法少女に変身できるようになってもなお、常識だのモラルだの体裁だのを気にする連中が多数派だった。本能のままに闘争に身を放り込む魔法少女はとにかくレアだった。
その名が冠するとおり、魔法少女は女性比率が高い。
魔梨華のように熱狂的に戦いたがる女は少ないのだろう。
――つまらない。
というか、もったいない。
せっかく魔法少女になって、己に無限の可能性が生まれたというのに。己の限界を追求しようとせずに日常に埋没しようだなんて、間違いなく人生をドブに捨てている。
暴力サークルと名高い魔王塾なら、魔梨華と似た思想を持つ者がひしめいているのではないか。毎日、血で血を洗う濃密な闘争を味わえるのではないか。
そう期待して入塾したこともあったが、魔王塾にも魔梨華が望むほどの苛烈さはなかった。結局、本能のままに暴れ回った魔梨華は魔王塾から放逐された。
魔梨華が魔王塾で得られたものは、魔王パムを筆頭とした、強者との人脈くらいのものだ。面白い連中に会えたのは幸いだったが、その程度で魔梨華の欲求は収まらない。
もっと戦いたい。
命を賭けて、頭の中を敵との死闘だけに染め上げて、永遠に戦いたい。
魔法少女同士の戦闘が起こりそうな気配を探して西へ東へ。時々スタイラー美々を連れ回して各地を巡っていた魔梨華はある時、見知らぬ魔法少女から『お前に比肩する強者が魔王塾に来るぞ』と情報提供された。
そして魔梨華はスイムスイムと出会った。
スイムスイムは不思議な魔法少女だった。
魔法少女が強くなるには日々の研鑽が欠かせない。
何もせずに魔法少女が強くなるなんてありえない。
それゆえ、しかるべき努力を積み重ねて強くなった魔法少女は大なり小なり己に誇りを抱く。表向きじゃ荒事を嫌っているスタイラー美々だって、他者から自分のことをプロだと評価されるとすごく喜ぶ。
でもスイムスイムは違う。
スイムスイムは魔梨華の不意打ち『
ちゃんと実力があるはずなのにスイムスイムはそれを誇らない。己の評価をあえて貶めるような動きに打って出る。
とても奇妙で、とてもチグハグな思考回路を持つ魔法少女。そんなスイムスイムのことが魔梨華はとにかく気になった。
スイムスイムをもっと知りたい。魔法少女のことを深く知るには戦うのが一番だ。次にスイムスイムと会った時に、奴をその気にさせる材料が必要だ。
スタイラー美々に聞いてみた結果、スイムスイムと戦うためには白スクを手土産にするのが有効そうだと判明した。
が、白スクの調達は必要なくなった。
状況が一変したからだ。
人造魔法少女のことを伝える匿名メールに興味を抱き、例のごとくスタイラー美々を引きずってS市にやってきた魔梨華は、『監査部門の妖精』を自称するうさんくさい奴に案内された廃工場で、スイムスイムと再会した。
スイムスイムは廃工場の隠された入口から姿を現した。その秘密の入口の先に人造魔法少女の研究所があるのなら、スイムスイムは人造魔法少女と少なからず関係を築いているのだろう。
だったらちょいと脅してやればいい。
お前が戦わなかったら、
仲間の命が脅かされているとなれば、スイムスイムも本気を出して戦わざるをえまい。自然と『袋井魔梨華 VS スイムスイム』の対戦カードが成立する。完璧なプランだ。
「会いたかったぜ、スイムスイムぅぅ!」
魔梨華はスイムスイムが頭を引っ込めた穴へと突入する。20メートルほど下降して地面に着地し、前方を駆けるスイムスイムへ追いすがる。
「私は会いたくなかった」等とスイムスイムが口にしているのを聞き流し、魔梨華はスイムスイムに「そら!」と蹴りを放った。
魔梨華の蹴りはスイムスイムに命中した。しかし手ごたえはなかった。
魔梨華の蹴りはスイムスイムを吹っ飛ばすことなく、ただスイムスイムの体から水滴を飛び散らせるだけで、次の瞬間にはスイムスイムの体は元通りとなる。
スイムスイムに物理攻撃は通じないようだ。
ならばこうだ。
魔梨華は懐から取り出した花の種を口に放り込み、飲み下す。すると魔梨華の頭の雛菊が消えて、新しい花が咲く。魔法の
魔梨華は『頭にいろんな魔法の花を咲かせる』魔法を使える。言い換えると、魔梨華は己が所持する花の種の数だけ、多種多様な魔法を使い分けられる。
魔法の秋桜からはビームを放てる。さすがにマジカルデイジーの『必殺のデイジービーム』には劣るが、秋桜ビームの威力も中々のものだ。
あの時、スイムスイムは魔梨華の『
「逃げんなボケ!」
魔梨華がスイムスイム目がけてビームを放つと、スイムスイムの姿が消失する。数秒経つと、さっきまでとまるで異なる場所へと姿を現した。スイムスイムの眼前には金属製のピカピカな大扉があって、上方向へとジリジリとスライドしていた。
スイムスイムが大扉と床のわずかな隙間に潜り込む。魔梨華もスライディングで後に続く。二手に分かれる通路をスイムスイムは右に走り、魔梨華も全力で追いかける。
通路の先には扉があり、スイムスイムがパネルのボタンを押していた。スイムスイムの背後の扉が上へとスライドしていく。魔梨華はビームを放つと、スイムスイムはその場にしゃがみ込んでいた。姿を消してはいない。
(ふーん?)
スイムスイムが背後の部屋へと逃げ込む。当然、魔梨華も続く。
そこは砂塵まみれの殺風景な部屋だった。砂漠を模しているくせに太陽がなく、ただただ高温の部屋。魔法の花を咲かせて戦う魔梨華と相性の悪いフィールドだ。
スイムスイムが魔梨華へと向き直る。
彼女は無表情だが、それでも魔梨華はスイムスイムの心情を読み取った。スイムスイムは心の底から困惑している。
スイムスイムは魔梨華との対話を求めている。だからこそ魔梨華を砂漠へと誘った。魔梨華が苦手そうな環境へと誘導した。なるほど、頭の回転も中々良さそうだ。
「どうして攻撃してくるの?」
「いいじゃねぇか。私とあんたの仲なんだから」
「どういう意味?」
「好きに解釈しろよ」
「私はあなたの敵じゃない」
「違う違う。今はそーゆーの求めてねぇから」
魔梨華は深々とため息を吐く。『袋井魔梨華 VS スイムスイム』の対戦カードを実現するべく、プランどおりに露悪的にふるまうことにする。
「この奥にあんたのお仲間いるんだろ? あんたが戦わなかったら、そいつら全員、私が潰すぜ? いいのかそれで」
スイムスイムの目の色が変わった。スイムスイムの心から『袋井魔梨華から逃げる』という選択肢が消えたことが如実に読み取れた。
「そうだそれでいい、さぁ楽しもうぜ!」
「私は楽しくない」
砂漠の舞台で魔梨華は容赦なくビームを発射し、スイムスイムは姿を消したりとっさにかわしたりして、魔梨華のビームに対処していく。
わかったことがある。スイムスイムが魔梨華の視界から消える技術。これはメルヴィルのように体を透明にする技術ではなく別の次元に逃げる技術だ。
そして別の次元からは魔梨華に干渉できない。だからスイムスイムは魔梨華の攻撃を避け終えると、反撃を狙うべく再び姿を現す。
また、スイムスイムが消える技術はまだ不完全らしい。でなければ、スイムスイムが魔梨華の攻撃に回避行動をとる必要がない。
スイムスイムは己の消失マジックが失敗した時に備えて、わざわざ体を動かしてビームを回避している。そこに付け入る隙がある。
「オラ死ね!」
魔梨華は頭を振り回し、頭の秋桜から横一線にビームを放射する。スイムスイムはジャンプをして、スイムスイムの足元をビームが通り抜ける。空中に跳んだ魔法少女、カモが生まれた。
魔梨華は空中のスイムスイム目がけて特大ビームを放つ。が、ビームはスイムスイムの体を貫かなかった。スイムスイムが足を前後に動かしたかと思うと、スイムスイムが空高く浮かび上がったからだ。
(空も飛べるのか! おもしれぇ!)
姿を消したり空を飛んだりと、魔法の汎用性が高い。その上でのらりくらりとしているスイムスイムをどう攻略すればいいか。考えるだけでもう脳汁があふれだして止まらない。
スイムスイムが空中でバタ足しながら魔梨華に迫ってくる。スイムスイムが空を飛べるというカードを切ったのは、魔梨華の動揺を誘ったうえで反撃するためだろう。
――好都合だ。
魔梨華は新たな種を口に含んだ。
頭の秋桜が消えて、巨大で禍々しい花弁が咲き誇る。
「
魔梨華は悪臭を全方位にまき散らした。至近距離で悪臭に襲われたスイムスイムが両目を大きく見開き、バタ足が弱まり地面に墜落する。
(よしヒット!)
「良い匂いだろ! もっと堪能しやがれ!」
魔梨華はスイムスイムに追撃するべく飛び込む。が、魔梨華の突撃は唐突に現れた黒い物体によって防がれた。
見れば、周囲の地面から黒くドロドロとした謎の物体が次々と人型を形成しては、当然と言わんばかりに魔梨華に襲いかかってくる。魔梨華はこの謎の物体の正体を知っている。悪魔だ。主に魔法使いが護衛や召使のために呼び出す使役獣だ。
なぜ悪魔がここに?
なんて疑問はどうでもいい。立ち塞がるなら薙ぎ払うまでだ。
悪魔もまた魔梨華の
悪魔を滅するエクソシストな役目を全うし終えた時、すでにスイムスイムの姿は消え失せていた。魔梨華から逃げおおせたようだ。
臭いを嗅げば最後、あらゆるやる気をそぎ取っていく
「ククッ」
今の戦いでスイムスイムの特性は大方理解した。
次は絶対に勝てる。
魔梨華は獰猛な笑みを浮かべた。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
袋井魔梨華の悪臭テロをもろに喰らったボクは、地獄の苦しみに苛まれながらも気力を総動員して、どうにか第三トレーニングルーム(砂漠エリア)から第四トレーニングルーム(水場エリア)へと逃げた。そこでボクはピュアエレメンツと合流し、みんなにボクをブリーフィングルームまで運んでもらった。
袋井魔梨華がボクを追ってこないのは、プリズムチェリーがブリーフィングルームの機械を操作して、砂漠エリアにディスラプター(悪魔)を召喚し、袋井魔梨華を妨害してくれたからだ。
S市に現れるディスラプターは再利用できる。倒したディスラプターを地下研究所まで回収して、なんか良い感じに処理することで、ピュアエレメンツの訓練用や、侵入者の撃退用など、様々な用途で活用できるのだ。
(うっ…うぐっ…。ぐすっ…。生臭いよう…。生臭いよう……)
そんなわけで。袋井魔梨華との戦闘から逃げられたボクは、ブリーフィングルームにて膝を抱えて床に力なく横たわっていた。
スイムスイムの魔法の弱点は光と音。この弱点をボクはまだ克服できていない。
だからボクは袋井魔梨華の光線ばかり意識していて、そのせいで唐突な悪臭攻撃への対処が遅れてしまった。それゆえボクは今、無様に床に身を預けている。悪臭のせいでまるで活力が湧かないのだ。
「なかなか臭い取れないね。ちょっと風を強くしてみたけど、だいじょーぶ? 寒くない?」
そんな無気力なボクの近くにプリンセス・テンペストがしゃがみこみ、『風の力を使って敵と戦う』魔法でボクに強風をぶつけてくる。
テンペストはボクの体にまとわりつく悪臭をかき消すために頑張ってくれている。健気なテンペストを前に、ボクは「平気、ありがとう」と返すことしかできない。
なお、テンペスト以外のピュアエレメンツ4名(クェイク、インフェルノ、デリュージ、プリズムチェリー)はボクから10メートルほど距離を取り、モニターを見つめて話し合っている。
彼女たちを薄情だとは思わない。それくらい袋井魔梨華の置き土産はヤバかった。ただでさえ魔法少女は変身前より嗅覚が鋭くなっているのだから、生臭いボクに近づきたくないのは当然だ。
「テンペストもあっちに行っていいよ? 私、くさいし」
「……んー、でもわたし難しい話はよくわからないし、スイムスイムと一緒にいるよ」
ボクから離れるようテンペストに伝えると、テンペストは困ったように視線を右に向け、左に向け――ボクにふにゃっと微笑みかけた。
テンペストはとても賢い8歳児だ。クェイクたちと交ざって今後の方針を協議するくらいできる。それでもテンペストは、それっぽい言い訳を持ってきてまでボクの近くにいてくれるらしい。
天使だ。天使がここにいる。
守りたい、この笑顔。
「どうしてこんなにたくさんの魔法少女がここに……?」
プリズムチェリーはモニターを凝視して顔を青ざめている。
モニターには地下研究所入口の大扉を開けて慎重に歩を進める5名の魔法少女の姿が映っている。まもなく彼女たちは袋井魔梨華と合流した。袋井魔梨華は未だにあの臭い花を頭に咲かせており、5名の魔法少女から距離を取られている。
「それで、どうしよっか? 研究所に魔法少女がいっぱいやってきて、その内の1人がスイムスイムに危害を加えてきたわけだけど」
「決まってる。不法侵入に傷害罪、どう考えても悪いのはあいつらだ! あたしたちにはあいつらをぶちのめす権利がある!」
「待って。その前に、私たちは彼女たちと会話しないといけない」
「なんでだ!?」
デリュージが目下の問題を改めて提示すると、インフェルノが偃月刀を掲げて怒りの丈を叫ぶ。今にもブリーフィングルームから飛び出してしまいそうなインフェルノを制するようにクェイクが言葉を挟むと、インフェルノがクェイクを睨む。一方のクェイクはずっしりと構えたままだ。インフェルノの眼光に動じていない。
「彼女たちの目的を知るためよ」
「目的ぃ?」
「私たちは天に誓って、後ろ暗いことはしていない。世界を守るためにディスラプターとずっと戦ってきた。そんな私たちの下に魔法少女が集まって、いきなり危害を加えてきた。……何か誤解があると思うの。だから、まずは話しましょう。戦うのはその後でも遅くないわ」
「どうせ話したって何も変わんないって」
「変わるかもしれないでしょ。ディスラプターと違って、彼女たちとは会話ができるんだから」
「……」
クェイクとインフェルノが視線を交差し合う。プリズムチェリーがおろおろしており、デリュージも2人にどう介入するべきか考えあぐねているようだった。テンペストも心配そうだ。ボクとしてもどうにか場の空気を和らげたいのだが、悪臭のせいでまるで気力が湧かない。
ブリーフィングルームを一時の沈黙が包み、まもなく沈黙を破ったのはインフェルノだった。インフェルノは深くため息を吐くと、己の頬を両手でバチンと叩き、偃月刀を送還する。
「ごめんクェイク、ちょっとカッとなってた」
「こっちこそごめんね。私もね、あの魔法少女たちの1人がスイムスイムに手を出したことには怒ってるの。でも、何も事情がわからないまま戦いたくなくて」
「そっか、クェイクも怒ってんだね。その言葉を聞けて良かったよ」
緊張状態だったブリーフィングルームの空気が弛緩する。外から見守るしかなかったボクたちが安堵する中、クェイクが改めて今後の方針を示し始める。
「まずは彼女たちと接触して、彼女たちがここへ不法侵入してスイムスイムに危害を加えたことを話して、彼女たちに非があることを伝えましょう」
「それで彼女たちが素直に帰ってくれるならそれでよし」
「彼女たちが帰らないようなら、彼女たちの目的を聞き出すの」
「目的次第では、穏便に話をつけられるかもだからね」
「ただ、折り合いがつかないなら戦っていい。ラグジュアリーモードの使用も許可するわ」
ラグジュアリーモードは人造魔法少女のクェイク、インフェルノ、デリュージ、テンペストだけが使える特殊な力だ。1日当たりの使用時間が制限され、消耗も激しいが、力と速さが圧倒的に跳ね上がる。
研究所へ侵入した魔法少女たちの実力は未知数だ。けれど、ラグジュアリーモードさえ解禁しておけば、クェイクたちが後れを取ることは早々ない。そのように考えて、クェイクはラグジュアリーモードの使用を認めたのだろう。
「彼女たちに背後を取られないように二手に分かれましょう」
「インフェルノとテンペストは水場エリア経由で入口に向かう」
「私とデリュージは岩場エリア経由で入口に向かう」
「チェリーとスイムスイムはブリーフィングルームで待機」
「何かあったらディスラプターで援護よろしくね、チェリー」
インフェルノ、デリュージ、テンペストはクェイクの方針に異論がないようで、そろってコクリとうなずく。だが、ここでプリズムチェリーが申し訳なさそうに手を上げた。
「あ、あの……さっきスイムスイムを助けるために、ディスラプターをいっぱい使っちゃって、あまりディスラプターのストックが残ってなくて。私がブリーフィングルームにいても、皆の力になれないかも……ごめんなさい」
「……大丈夫。自分を責めないで、チェリー。あなたの判断は正しかった。だからこそ、スイムスイムは今こうして無事なのよ」
「私もそう思う」
「2人とも……」
「チェリーがモニターで私たちの状況を見守ってくれるから、私たちは安心して前に進めるの。だから、今回もよろしくね」
罪悪感を胸に抱くプリズムチェリーにクェイクとボクがフォローを入れると、プリズムチェリーは気持ちを持ち直したようで、「うん……!」と胸元で拳をギュッと握った。
と、ここでボクも立ち上がる。
クェイクの方針に異を唱えるためだ。
確かにボクは袋井魔梨華の悪臭テロのせいで気力を根こそぎ奪われた。が、いつまでもブリーフィングルームで横たわっているわけにはいかない。
まほいく原作で起こったであろう悲劇。多くの魔法少女の死。それを防ぐために、ボクは地下研究所の侵入者一派と、特にスノーホワイトと情報共有しないといけない。
スノーホワイトもボクと合流し、詳しい事情を聞きたがっていることだろう。だからボクは、インフェルノ・テンペスト班か、クェイク・デリュージ班に加わりたい。
そうすれば、ボクはスノーホワイトと合流できる。ボクの心は読めずとも、スノーホワイトは他のピュアエレメンツの心の声を聞いて、ボクのいる方へと赴いてくれるはずだからだ。
なんて考えていると、テンペスト以外のピュアエレメンツがそろってビクッと肩を震わせた。
……あ、ボクまだ臭いですか、そうですか。
ボクはその場で体育座りをする。
「あぁいやごめんね! つい反射で体が動いちゃっただけでさ! スイムスイムを仲間外れにするつもりじゃなくてッ……!」
「そうそう! 動けるくらい回復したんなら、スイムスイムは私たちと一緒に行こっか! スイムスイムがいてくれると心強いもの!」
床をただただ見つめるボクへとデリュージとクェイクが慌てて駆け寄ってくる。そして、2人の気遣いにより、ボクはクェイク・デリュージ班に加入して行動を共にする運びとなった。
だれかたすけて(スメハラ加害者ボク、涙が止まらない)
なお、ボクの気持ちとは裏腹に、どこまでも無表情のスイムスイムボディは此度も平常運転だったため、ボクは心の中で涙するのみだった。
◇◇◇
◇レディ・プロウド
魔法の国の外交部門にとって、魔王パムは神だ。
この表現は大げさではない。比喩でもない。
外交部門は魔王パムの武力をかさに着て好き放題しているし、魔王塾卒業生でなければ外交部門で出世すらままならない。外交部門に所属しつつも魔王塾に入塾していないレディ・プロウドは、それをイヤというほど思い知らされてきた。
魔王パムは尊敬すべき御仁だ。
プロウドもそこは否定しない。
だが、魔王パムは不老不死ではない。いつかは寿命を迎える。
その時、魔王パムを軸にした外交部門の体制は崩壊する。わかりきった未来のはずなのに、外交部門の誰もが目を逸らして、今日も魔王パムに依存している。
プロウドは誰よりも外交部門の在り方に危機感を覚えていた。
かつて、プロウドは魔王パムとサシで酒を飲み交わしたことがある。
魔法少女は市販の酒で酔っ払ったりしない。だが、プロウドの『自分の血を好きな液体に変えられる』魔法で作った酒は別だ。
無礼講で語り合い、そこでプロウドは理解した。『魔王パムもまた人間である』と。
神格化された当の本人が、対等な間柄を欲して寂しそうにしていることを知った。
……だから、というわけではないが。
プロウドは確かな野心を胸に秘め続けていた。必ずや魔王パムを神から人間に引きずりおろし、プロウドこそが外交部門のトップに君臨してやるのだと。
第三者がプロウドの野心を知れば、誰もが鼻で笑うのだろう。
けれど、プロウドは己の想いを無謀だとは考えていない。
魔法少女は想いがすべてだ。
夢を諦めない魔法少女の想いの強さは、えてして現実をも捻じ曲げる。
だからプロウド自身も、魔王パムを超えた存在になることを決して諦めやしない。
とはいえ、プロウドはあくまで野心家だ。妄想家ではない。
プロウドは魔王パムより強くはなれない。そのくらいはわきまえている。
だから魔王パムと比べると力で劣るプロウドが外交部門のトップに立ち、外交部門が権威を維持するためには、魔王パムに代わる力が必要だ。その力として、プロウドは人造魔法少女に可能性を見出した。
人造魔法少女の技術が非人道的でないのなら、プロウドが人造魔法少女の情報を独占すれば、必ずや外交部門の糧になる。
それゆえ『外交部門の未来を憂う者』から人造魔法少女に関するメールを受け取ったプロウドは、有給を消化してS市へと赴いた。
己が信を置く外交部門の仲間:『なんでも受け止める魔法の傘を使う』アンブレンを引き連れて人造魔法少女の痕跡を調査していたプロウドは、
うさんくさいトットキークに案内されるままに廃工場に到着した時、プロウドは眉をひそめた。廃工場には見知らぬ魔法少女が何人もいたからだ。
てっきり、人造魔法少女の情報はプロウドとアンブレンしか知らないものだと考えていたのに、現実は違った。『外交部門の未来を憂う者』とやらがプロウドたち以外にも情報をバラまいたのだろうか。
そうなると厄介だ。人造魔法少女の技術を独占するために、場合によってはこの魔法少女たちと戦わないといけないかもしれないのだから。
などとプロウドが頭を悩ませていると、状況が一変した。
廃工場にプロウド・アンブレンを含む6名の魔法少女が集結した刹那、廃工場の床から隠し扉が現れ、そこから水着の魔法少女が顔を出し、頭に花を咲かせた魔法少女が水着の魔法少女へと飛び込んでいったのだ。
美容師の魔法少女が「うちのバカを止められなくてごめんなさい…」と頭を深々と下げて謝罪する中、残されたプロウドたちは互いに顔を見合わせると、誰からともなく隠し扉へと入っていった。プロウドたちは慎重に歩を進めつつ、情報交換を行った。
美容師の魔法少女はスタイラー美々。頭が花畑な魔法少女は袋井魔梨華。2人は特にどの部門にも所属していないフリーの魔法少女で、人造魔法少女を求めた目的は、戦闘狂の袋井魔梨華の好奇心ゆえ、とのこと。
白い学生服の魔法少女はスノーホワイト。監査部門の外部職員という立場で『魔法少女狩り』として数多くの悪い魔法少女を捕まえてきたらしい。そういえばどこかでうわさを聞いたことがある。
ただ、スノーホワイトは
どいつもこいつも腹の内で何を考えているかわからない連中ばかり。
信じられるのはアンブレンだけだ。
プロウドがアンブレンへと視線を向けると、同じタイミングでアンブレンがプロウドを見上げてきた。考えていることは一緒のようだ。息もぴったり、さすがはアンブレンだ。これで愛しくてかわいくてほっぺたが格別にもちもちしているのだから、何も言うことはない。
周囲の罠を警戒しつつ、プロウドたちは歩を進める。まもなくプロウドたちの前に大きな金属製の扉が立ち塞がり、しかし大扉は上へとスライドしていく。どうやら体重感知で自動で開く仕組みのようだ。
扉の先で袋井魔梨華と合流した。が、袋井魔梨華の頭の花のあまりの臭さに、プロウドたちは袋井魔梨華に近づけなかった。協調性のない戦闘狂ほど救えないものもない。
プロウドたちは今後の方針を話し合い、二手に分かれて地下研究所を進むことにした。
A班の袋井魔梨華・スタイラー美々・トットキークは右へ。B班のプロウド・アンブレン・スノーホワイトは左へ。
ちなみに話し合いを主導したのはプロウドだ。プロウドは将来、外交部門のトップに立つのだから、この程度の寄せ集め集団の統率くらい、難なくこなさなければ話にならない。
プロウド・アンブレン・スノーホワイトは地下研究所を左回りで進み、壁に備えつけられたパネルを押して障壁を開ける。その先に広がっていたのは、森林だった。多種多様な植物が生い茂り、湿気が充満している。
(地下にこんな場所が……)
プロウドが内心で驚く中、森林の中から足音が聞こえる。足音はプロウドたちへと近づいてきている。まもなく3名の魔法少女が現れた。鱗の魔法少女、尻尾の生えた魔法少女、そして水着の魔法少女。そういえば、さっき袋井魔梨華は水着の魔法少女のことをスイムスイムと呼んでいた。
「あなたたち、ここは立ち入り禁止ですよ!」
「許可なく入って、私たちの仲間を傷つけて……どういうつもりですか!?」
鱗の魔法少女が三叉槍を、尻尾の生えた魔法少女がハンマーを構えてプロウドたちを糾弾してくる。彼女たちの額にはティアラがあり、その中心で宝石が輝いている。これが人造魔法少女の特徴、ということだろうか。
だがそうなると、スイムスイムのことが気になってくる。スイムスイムは他2名と異なり、頭にティアラを飾っていない。スイムスイムは人造魔法少女ではないのだろうか。
だが、袋井魔梨華はスイムスイムを見るや否や嬉々として飛び込んだ。それは袋井魔梨華が『人造魔法少女』との戦いを楽しみにしていたからで、それはつまりスイムスイムも人造魔法少女だからなのではないか。
袋井魔梨華からもっとしっかりスイムスイムのことを聞いておけば良かったと今さら後悔しても遅い。当時のプロウドは臭気を放つ魔梨華に近づきたくなかった、それがすべてだ。
「あなたたちは人造魔法少女なの?」
「人造魔法少女……?」
プロウドが尋ねると、尻尾の生えた魔法少女が困惑の声を漏らす。事実はさておき、彼女たちには己が人造魔法少女であるとの自覚がないようだ。
「あなたたちは犯罪者です! このまま居直るというのなら、痛い目見ますよ!」
鱗の魔法少女がプロウドたちをギンとにらんで、三叉槍の切っ先を向けてくる。
プロウドは思考の海に沈む。この場において何が最善か。傍らにいるスノーホワイトが人造魔法少女の身柄を奪取しかねない中、プロウドはどのように動くべきか。
「戦えばはっきりするでしょ」
プロウドが抱く疑問の答えはアンブレンがくれた。
アンブレンは傘を構えて3名の魔法少女へと突撃していく。
尻尾の生えた魔法少女がハンマーを地面に叩きつけて地響きを鳴らし、バランスを崩したアンブレンへと鱗の魔法少女が三叉槍を突き出す。
アンブレンは『なんでも受け止める魔法の傘』で三叉槍の突きをふわりと受けとめ、鱗の魔法少女があまりの手ごたえの無さに目を見開く。
プロウドは油断なく周囲に目を配る。
戦闘が始まった。スイムスイムは、スノーホワイトはどう動く?
スイムスイムはただただその場に突っ立っていた。彼女はスノーホワイトにのみ視線を注いでいた。対するスノーホワイトは、右手に消火器を持っていた。
(なぜここで消火器!?)
スノーホワイトがレバーを握るとともに消火器から消火剤の白い粉が噴射され、プロウドたちの視界が白に塞がれてしまう。
(この、余計な真似を!)
スノーホワイトは冷静沈着な魔法少女との印象だった。加えて『魔法少女狩り』として実績を積んでいるのなら、少なくともベテランだと思っていた。
それが、敵味方もろとも視界を塞いでくるとは。一体何を考えている? 馬鹿なのか、それとも大馬鹿なのか? プロウドはスノーホワイトへの評価を大幅に下方修正する。
プロウドは己のマントに忍ばせた試験管をつかみ取り、中身の血液を振りまく。宙を浮遊する血液は、次の瞬間には『自分の血を好きな液体に変えられる』魔法で変化し、爆発する。
爆風により消火剤で白で染まった視界が晴れる。そこに人造魔法少女と思しき魔法少女は誰もいなかった。逃げられた。どう考えてもスノーホワイトのせいだ。
「今のはどういう了見だ、スノーホワイト!」
プロウドはスノーホワイトに詰め寄ろうとして、中断した。スノーホワイトの足元に、ロープでぐるぐる巻きにされたスイムスイムがいたからだ。
「どういう了見、とは?」
「あ、いや……」
「私への疑義がないのなら、まずはこの部屋から退却しましょう。人造魔法少女について詳しい話を聞くのには、1人いれば十分ですから」
「……うム」
スノーホワイトの問いかけにプロウドが言葉に詰まっていると、スノーホワイトはロープで身動きの取れないスイムスイムを抱え持ち、森林の生い茂る部屋を後にする。
わけがわからないまま、プロウドはスノーホワイトの背を追うことしかできなかった。アンブレンの「むぅぅ、つまんない」との呟きがプロウドの心に深く突き刺さった。
◇◇◇
◇スノーホワイト
スノーホワイトはスイムスイムとの情報交換を望んでいた。
S市で人造魔法少女を巡る惨劇が起こってしまわないように、スイムスイムと足並みをそろえておきたかった。
地下研究所に足を踏み入れたスノーホワイトは、『困っている人の心の声が聞こえる』魔法でピュアエレメンツなるグループの心を読んで、スイムスイムがどう動くつもりなのかを間接的に知った。
木々が思い思いに成長し視界の悪いエリアでスイムスイムと再会した時、スイムスイムは強い眼差しをスノーホワイトに向けてきた。その時、スイムスイムもまたスノーホワイトと情報共有したがっているのだと理解した。
スノーホワイトはスイムスイムと密談をするべく、魔法のずた袋から業務用消火器を取り出して盛大に消火剤を振りまき、スイムスイムと距離を詰めた。
「久しぶり」
「うん」
「詳しい話、私たちに聞かせてくれる?」
「わかった」
スノーホワイトの発言に異を唱えず、スイムスイムは無抵抗でスノーホワイトに捕まってくれた。話を円滑に進めるために、一時的にスイムスイムをロープで縛ることを了承してくれた。
スイムスイムから話を聞けば、きっと大丈夫。悲劇を防ぐことができる。
無表情でありながらどこかのんきな、いつもどおりのスイムスイムの顔を見ていると、スノーホワイトは不思議と安心できた。
かくして、スノーホワイトはレディ・プロウド、アンブレン、スイムスイムを引き連れて、地下研究所の入口へと戻った。
次回 第44話
『魔法少女は、どんどんしまっちゃおうねぇ~』