その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第44話 魔法少女は、どんどんしまっちゃおうねぇ~

 

 

◇プリンセス・テンペスト

 

 

 ピュアエレメンツは日々ディスラプターと戦っている。

 地球を脅かすべくS市に現れるディスラプターを退治して、世界をしっかり守っている。

 

 けれど、テンペストはみんなと比べてそんなに世界平和に興味はなかった。テンペストが魔法少女として日々善行を重ねる一番の目的は、自分のためだ。

 

 正義の魔法少女活動を頑張ってるアピールを積むことで、万が一にも田中先生から『あなたは魔法少女失格です』などと言われて、テンペストの力を奪われないようにするためだ。

 

 

 小学2年生の東恩納(ひがしおんな)(めい)は恋をしている。

 鳴の運命の人は、中学2年生の南田翔だ。

 

 きっかけは去年の秋遠足だった。

 遠足ではしゃいでいた鳴が山道で足を滑らせて崖下に転がり落ちてしまった時に、痛くて辛くて怖くて泣きそうだった時に、真っ先に鳴へと駆けつけて助けてくれたのが翔だったのだ。その時、鳴は恋に落ちた。

 

 だが、問題があった。翔は明らかにあかねえちゃんを、緋山朱里を意識していた。

 あかねえちゃんは高校2年生で、鳴は小学2年生だ。中学2年生の翔はあかねえちゃんに惚れている。そんな翔に、鳴に夢中になってもらうのは不可能だった。

 

 たとえ鳴が『わたしが大人になったら、ケッコンしてほしいの!』と宣言しても、翔はまともに取り合わないだろう。翔が誠実な真人間だからこそだ。

 

 

 それゆえ、田中先生のおかげで鳴が魔法少女プリンセス・テンペストに変身できるようになったのは大チャンスだった。

 

 テンペストの見た目は中学生くらいだ。翔と釣り合う。

 テンペストに変身して、でもコスチュームのふんどしとかは脱いで普通の服に着替えて、偶然を装って翔と出会う。テンペストの素晴らしくかわいい顔なら、翔は絶対に鳴にメロメロになる。最強の作戦だ。鳴は間違いなく天才だ。

 

 鳴は来月の子供会の遠足を作戦の決行日に決めた。

 なぜなら来月の子供会の手伝いにあかねえちゃんが来ないことをそれとなく本人から聞いたからだ。こういう入念なリサーチこそが作戦の成否を分かつのだ。

 

 

 鳴は作戦を誰にも話さないつもりだった。

 けれど、気が変わったので、スイムスイムには話すことにした。

 

 スイムスイムは鳴と同じ8歳だ。でも鳴より賢い。プリズムチェリーが『てっきり高校生くらいだと思った』くらいにはスイムスイムは優秀だ。そんなスイムスイムに鳴の作戦を話し、『最強の作戦』を『すごく最強な作戦』に仕上げてやろうと思い至ったのだ。

 

 

 それに。魔法少女であり、同じ中学生同士のデリュージとプリズムチェリーはとても仲良しで、テンペストは羨ましかった。

 

 せっかく同い年の子が、闇属性のピュアエレメンツ:プリンセス・スイムスイムとして加入してくれたのだから、テンペストもスイムスイムとそういう特別な仲になりたかった。

 

 

「テンペストの作戦、すごく良いと思う。でも大事なのはそのあと」

「そのあと?」

「美人は三日で飽きるということわざがある。南田くんにテンペストのことをずっと好きになってもらうには、テンペストの中身でも勝負しないといけない」

「わたしの中身?」

「プリンセス・テンペストは中学生くらいの見た目だから、頭もそれくらい賢くないと、南田くんに不審がられて、幻滅されるかもしれない」

「そんな……!?」

「だから、南田くんの興味を引けそうな教養や雑学をたくさん身につけてから作戦を始めた方がいい。名付けて、『かわいいうえに賢いテンペストに南田くんもクビったけ作戦』」

「――!!!」

 

 スイムスイムのアドバイスは目から鱗だった。テンペストに足りない視点を補強してくれた。確かにいくら美貌が素敵でも、頭がボケボケでは翔に嫌われかねない。美貌と頭脳を兼ね備えておけば、カンペキだ。

 

 

 スイムスイムに相談して良かった。テンペストが己の判断を褒めたたえながら、魔法少女活動と勉強を両立し始めたのもつかの間、スイムスイムは研究所に侵入してきた見知らぬ魔法少女の1人、花使いにいきなり攻撃された。

 

 ブリーフィングルームで悪臭をまとって力なく横たわるスイムスイムの姿は、いじめの被害者そのものだった。テンペストはお子様ではないので、インフェルノのように怒りを態度に出さなかったが、テンペストも内心でスイムスイムをいじめた花使いに怒っていた。

 

 

 けれど、ピュアエレメンツのリーダーのクェイクは、テンペストたちに侵入者との対話を命じた。テンペストはインフェルノと一緒に水場エリア経由で研究所入り口へ向かうことになった。

 

 インフェルノは高校生だが、クェイクやデリュージと比べるとかなり直情的だ。花使いと出会ったら我を忘れて攻撃を仕掛けるかもしれない。テンペストがしっかりしなければ。テンペストは翔とお似合いの、素敵なレディになるのだから。

 

 

 水場エリアでは誰とも出会わなかった。次に砂漠エリアへ向かうと、そこに人影があった。美容師の魔法少女、ギタリストの魔法少女、そして――花使い。

 

 

「テメェ! さっきはよくもあたしの仲間に手ぇ出しやがったな!」

「なんだよ見てたのか? じゃああんたも戦いに交ざって、スイムスイムを助ければよかったじゃねぇか。それとも怖くて震えてたのか?」

「……もういい、ぶっ潰す!」

 

 案の定、インフェルノが虚空から偃月刀を召喚し、ギラギラとした眼差しで花使いをにらむ。対する花使いは攻撃的な笑みを浮かべて、インフェルノの眼光を愉快そうに受け止めている。

 

 

「待ってよインフェルノ! まずは話を聞くんじゃなかったの!?」

「テンペスト、手ぇ出すなよ。あいつはあたしの獲物だ!」

 

 インフェルノが花使いに飛び込み上段から偃月刀を振り下ろすも、花使いは頭の花で難なく偃月刀を受け止める。花使いが、頭の花から生えたツタでインフェルノを絡めとろうとする前に、インフェルノが背後に飛びのいた。

 

 

 ――あぁ、終わった。

 テンペストはふわりと空中に浮遊しつつ、天井を見上げた。

 

 インフェルノと花使いが出会ってしまったのが運の尽きだ。

 テンペストは頑張った。それでもクェイクの望みは叶えられず、侵入者と対話しないままに戦闘が始まってしまった。こうなったらテンペストも戦うしかない。話を聞くにも、まずは侵入者を制圧してからだ。

 

 

「ラグジュアリーモード! オン!」

 

 テンペストはラグジュアリーモードを発動した。テンペストは己の血管を通って魔法の力が全身に駆け巡る感覚を味わいながら、美容師とギタリストを『風の力を使って敵と戦う』魔法で生成した強風で吹っ飛ばす。2人と花使いとを分断するためだ。

 

 テンペストは刃のブーメランをギタリストに投げ飛ばす。ギタリストはギターをかき鳴らして、ファンシーで実体のある音符をいくつも飛ばしてくるも、そのことごとくをブーメランが切り刻む。まるで豆腐を包丁で切ったかのような感覚だ。

 

 ギタリストは「わわッ」と慌ててしゃがみ込み、ブーメランはギタリストの頭上を通りながら旋回してテンペストの手元に戻る。

 

 

 よし、これならいける。

 ラグジュアリーモードを発動したテンペストはギタリストより強い。きっと美容師よりも強い。花使いだって、ラグジュアリーモードのインフェルノなら勝てる。テンペストとインフェルノなら、2対3の人数差をくつがえすことができる。

 

 

「ご助勢いたします!」

 

 が、ここで予期せぬ声が届いた。研究所入口と砂漠エリアを繋ぐ扉の方向からだ。

 見れば、ラッパを持った魔法少女・糸玉の魔法少女・喪服の魔法少女・トランプのハートの3を服にプリントした魔法少女の計4名が砂漠エリアに姿を現していた。

 

 ラッパを持った魔法少女、糸玉の魔法少女、喪服の魔法少女。

 そうだ、こいつらは何日か前にスイムスイムを襲った連中だ。人造魔法少女とやらを探していて、スイムスイムを捕まえようとした敵だ。スイムスイムが話してくれたとおりの外見をしている。

 

 スイムスイム自身は彼女たちを悪人だと思わなかったらしいが、そんなわけがない。スイムスイムを拘束して尋問した奴が良い人だなんてありえない。

 

 

 テンペストは、花使いと戦うインフェルノの邪魔にならないように地面に風をぶつけて砂煙を生み出し、魔法少女たちの視界を奪う。

 

 さっきまで2対3だったのに、あっという間に2対7だ。戦況はひっくり返された。テンペストのラグジュアリーモードが切れるまでに素早く各個撃破しなければならない。

 

 

 砂煙を前に、戦場に乱入した4名の内、3名が散開する。みんなまとめてテンペストに倒されるリスクを回避する狙いだろう。が、1人。トランプの魔法少女は、か細く「キィキィ」と鳴いて、ガタガタ震えてその場にうずくまったままだ。

 

 戦意のない者を痛めつけるほど、テンペストはイジワルではない。テンペストはトランプの魔法少女を無視し、まずは喪服へと突撃する。その最中、テンペストの視界の端にディスラプターが映った。

 

 ブリーフィングルームのプリズムチェリーが、砂漠エリアのテンペスト&インフェルノに助っ人を送ってくれたようだ。とっても助かる。

 

 

「あなた、お名前は?」

 

 喪服にブーメランを投げようとした時、喪服から唐突に名前を尋ねられた。テンペストは面食らい、空中にとどまる。

 

 

「わたし? わたしは――白き旋風、プリンセス・テンペスト!」

 

 初対面の魔法少女に名前を聞かれたのならばピュアエレメンツとして名乗らなければならない。これは義務だ。テンペストはポーズをキメて堂々と口上を述べる。

 

 

「プリンセス、ね。……あなた、プリンセス・スイムスイムのお友達?」

「そうだけど、それがなに?」

「聞きたいことが――」

「答えないもんね! スイムスイムをいじめた奴なんて、こうだよ!」

 

 なぜか喪服から敵意は感じなかったが、知ったことではない。テキトーな会話で時間を稼いでいるのかもしれない以上、テンペストが喪服の思惑に踊らされてやる義理はない。テンペストは喪服にブーメランを投げ飛ばす。

 

 元より、2対7でテンペストとインフェルノの方が不利なのだ。プリズムチェリーがディスラプターを召喚して加勢してくれているが、さっきプリズムチェリーは『ディスラプターのストックがあまり残っていない』と話していた。悠長は許されない。

 

 しかしテンペストのブーメランを、喪服はひらりと蝶のように避けてみせた。顔にかかったヴェールで顔色はうかがい知れないが、きっとテンペストをなめ腐った表情をしているのだろう。ムカついてならない。

 

 

「あらあら、ノーコンなのね。お可愛いこと……」

「避けるな、黒ずくめ!」

 

 テンペストが再びブーメランを投げると、喪服が背中の黒い羽で空へ飛びあがる。喪服もテンペストと同じく空を飛べるらしい。厄介だ。けれど、喪服からテンペストに攻撃を仕掛ける様子がない。武器を持っていないのか、それとも――

 

 

(まさか本当に、あいつはわたしに聞きたいことがあるだけ?)

 

 一瞬よぎった妄想をテンペストは首をブンブン振ってかき消す。

 そんなわけがない。だってあいつもスイムスイムに危害を加えた1人だ。絶対に悪者だ。絶対に絶対にピュアエレメンツの敵だ。

 

 テンペストが三度ブーメランを投げようとした時、テンペストは固まった。信じられない光景が広がっていたからだ。

 

 

(えっ?)

 

 いつの間にか、テンペストの目の前に誰かがいた。

 さっき砂漠でうずくまっていたトランプの魔法少女? いやでも服のマークが違う。眼前の魔法少女の服には、ハートではなくクローバーがプリントされている。

 

 トランプの魔法少女が瞬く間にテンペストをロープで縛る。テンペストは拘束を解除するべく風を放とうとして目を見開いた。魔法が使えない。

 

 トランプがテンペストの後頭部に手を伸ばしてつかむ。彼女は手に何か小さな袋を持っていてテンペストの頭を袋に押し込んでくる。トランプの動きは恐ろしく速くて、テンペストが抵抗する間もなく袋の中に押し込まれた。

 

 

 ――だれかたすけて

 

 たった一言。たった7文字。

 なのに、テンペストは口に出して助けを求めることすらできなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇カフリア

 

 

 スイムスイムを死の運命から救う。

 ついでにスイムスイムの友達の人造魔法少女たちも守る。

 

 そのためにカフリアは、自分と同じフリーランスの魔法少女:フィルルゥ&ウッタカッタと同盟を組んで行動を共にしてきた。いざという時に、フィルルゥとウッタカッタの戦力をありがたく利用させてもらうからだ。

 

 カフリアたちは人造魔法少女が拠点とするS市の研究所を探し回り、やがて候補を見つけた。廃工場なのにうら若き女性の足跡だけがいくつも残されている怪しい場所を見つけた。

 

 

 そこには2名の先客がいた。

 1人目は、高価な玉座にふんぞり返って座る、『不思議の国のアリス』のハートの女王様っぽい魔法少女。2人目はコスチュームにハートの3がプリントされている、『不思議の国のアリス』のトランプの兵士っぽい魔法少女。

 

 ハートの女王様は偉そうで、トランプの兵士は気の毒なくらいビクビクしていた。

 ウッタカッタ曰く、ハートの女王様は『魔法の国』本国の情報局の者とのこと。本国の魔法少女となると、とんでもなく大物だ。

 

 地球の魔法少女を管轄する、人事部門や監査部門といった魔法の国の各部門。それらと本国の部門とは明確な格差がある。本国に所属する魔法少女とは、それつまり、人間世界を含めたあらゆる世界を魔法的に管理する天上人だ。

 

 ハートの女王様の圧倒的な権力に、カフリアはくじけそうになった。だが踏ん張った。すべては、死神に魅入られてしまったスイムスイムを救うためだ。

 

 

 報酬目当てにウッタカッタがハートの女王様にカフリアたちのことを売り込み、協力体制を築こうとする中。カフリアはトランプの兵士とパーフェクトコミュニケーションを行った。『キィキィ』としか喚かない人からでも、視線や唇の動きや心音などから読み取れる情報は多い。

 

 隙あらば「クビヲハネヨ」としか口にしないハートの女王様の名はグリムハートで、とにかく「キィキィ」と甲高い鳴き声を放つトランプの兵士はシャッフリン。

 

 カフリアがかの者たちの名前を知る間に、ウッタカッタはグリムハートとの交渉を円満(?)に終えたようで、カフリアたちはグリムハート・シャッフリンと一緒に行動することになった。計5名の団体行動だ。

 

 

 カフリアたちを見下していそうな傲慢な権力者とその部下。普通に考えれば、この者たちは怪しい。スイムスイムの死の原因として疑うべきなのだろう。けれど。カフリアは2人を疑うのをやめていた。

 

 何せ、グリムハートもシャッフリンも、あまりに無防備だからだ。

 見知らぬ魔法少女が、カフリアたち3人がいきなり姿を現したのにまるで警戒せず、グリムハートは大きくあくびをしていた。シャッフリンは挙動不審だった。

 

 これはプロの動きではない。

 戦場を知らない、ただの権力者でしかないのだろう。

 

 

 実際、カフリアの『誰が一番早く死ぬのかわかる』魔法は、さっきまではウッタカッタが次に死ぬと告げていた。が、グリムハート&シャッフリンと出会ってからは、シャッフリンの頭に髑髏マークが浮かんでいる。

 

 次はシャッフリンが死ぬのだ。シャッフリンがいなければ、きっとグリムハートの頭の上に髑髏マークが浮かぶのだろう。

 

 よって戦闘素人の2人はスイムスイムの死に関与しない。スイムスイムが死ぬ原因は別にある。それを一刻も早く見つけ出し、対策しなければならない。

 

 

 カフリアたちは廃工場に隠されていた入口から地下に潜り、まもなく地下研究所の大扉の中へと入った。入口で小さな袋から玉座を取り出してその場で座り込み、「貴様らが行け」と言わんばかりの眼差しを注ぐグリムハートを置いて、カフリアたち4名は二手の分かれ道を右に進み、砂塵が吹きすさぶ部屋へとやってきた。

 

 そこは戦場だった。

 頭に花を咲かせた魔法少女と偃月刀に炎を宿す魔法少女が激しく交戦している。大きな月桂樹らしき輪を背負った魔法少女が空中から地上の美容師っぽい魔法少女とギタリストっぽい魔法少女にブーメランを投げつけている。

 

 まさかこんなにも多くの魔法関係者が一堂に会するなんて。

 本国の魔法少女の登場といい、集まっている魔法少女の数といい、メチャクチャだ。ここから何が起こるのか、カフリアの経験則ではもはや推測できない事態だ。

 

 それでも。カオスな舞台に居合わせている以上、カフリアは目的を果たすために、己にできることを十全に全うするより他に道はない。

 

 

「ご助勢いたします!」

 

 フィルルゥの宣言を皮切りに、カフリアたちも戦場に飛び込んだ。

 月桂樹の魔法少女の所作と連動して地面の砂が不自然に巻き上がり、シャッフリンがガクガク震えてその場で頭を抱える中、カフリア・フィルルゥ・ウッタカッタは三方向に散開する。月桂樹の魔法少女は幸いにもカフリアを標的に定めてくれた。これはチャンスだ。

 

 スイムスイムを救うためにも、目の前の人造魔法少女(推定)を助けるためにも、まずは彼女から話を聞きださなければ。

 

 

 しかしカフリアが月桂樹の魔法少女から聞き出せたのは、彼女の名前とスイムスイムとの関係性だけだった。月桂樹の魔法少女:プリンセス・テンペストは聞く耳を持たずにカフリアへと、刃の付いたブーメランを投げつけてくる。

 

 空を飛び、カフリアが視認できない方法で地面の砂を巻き上げる。となると、テンペストは風を司る魔法少女なのだろう。

 

 風魔法に刃付きのブーメラン。

 次に死ぬ人がわかるだけの魔法しか使えず、魔法の武器すら持っていないカフリアと違い、テンペストは恵まれた魔法の持ち主だ。

 

 

 だがテンペストは対人戦の経験が浅そうだ。

 また、テンペストは何やら焦っている。もしかしたら今のテンペストの力には制限時間があるのかもしれない。

 

 それならカフリアでも問題なく対処できる。

 まずはテンペストを無力化して、それから改めて話を――。

 

 

「は……?」

 

 カフリアがコスチュームの黒羽で空に飛び上がりつつテンペストを見つめた時、カフリアは衝撃的な光景を目の当たりにした。シャッフリンが、テンペストをロープで拘束して小さな袋にテンペストをしまい込んだのだ。

 

 クローバーのエースがプリントされたコスチュームを身に包んだシャッフリンがカフリアへと視線を移す。その虚無の視線に、カフリアの体から恐怖の汗がブワリと湧きだす。

 

 

 カフリアは致命的なミスをした。

 シャッフリンを無害だと判断してしまったことだ。

 

 逃げなければ。

 カフリアは背中の羽を羽ばたかせてシャッフリンから距離を取ろうとして――。

 

 

「がッ!?」

 

 突如としてカフリアの後頭部に激しい衝撃が襲う。カフリアの視界に火花が散る。

 なぜ、どうして。カフリアが目線を背後に向けると、そこにはシャッフリンがいた。その手には棍棒が握られていて、服にはクローバーのキングがプリントされている。

 

 いつの間に背後を取られた?

 カフリアが慌てて前を見ると、そこにもシャッフリンがいた。

 

 

(そういう、こと……)

 

 またしてもカフリアは致命的なミスをした。

 シャッフリンが1人しかいないと思い込んでしまったことだ。

 

 シャッフリンは1人ではなかった。分身なり増殖なりして数を増やせるのだろう。

 カフリアの眼前にはクローバーのエース。カフリアの後ろにはクローバーのキング。おそらく、コスチュームに描かれたトランプの絵柄は重複しない。

 

 ……なんて、シャッフリンの分析をしてももはや意味がない。

 戦場で致命的なミスを2つも重ねた愚かな魔法少女の末路はわかりきっている。

 

 カフリアは抵抗もできないままに、シャッフリンたちにロープで拘束されて小さな袋に体を押し込まれてしまった。

 

 

 スイムスイムを助けに来たはずなのに、この体たらく。

 カフリアは己の無力さを呪った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 森林エリアにて、ボクはスノーホワイトとの合意の下でわざと捕まった。スノーホワイトが持参していたロープでボクの体を縛ってもらった。

 

 なお、ボクを縛るロープは特に魔法的な効果はないようで、その気になればボクは『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で拘束を抜け出せる。

 

 

 ボクという情報源を得たスノーホワイトは、ボクを小脇に抱えて、ヴァンパイアの魔法少女と傘の魔法少女を連れて森林エリアから地下研究所の入口へと向かう。

 

 

「絶対にリアクションしちゃダメぽん」

「?」

 

 その道中、ボクの耳元に合成音声のささやき声が響く。

 この気の抜ける、特徴的な語尾はまさか……?

 

 

「久しぶりですぽん、スイムスイム。ファルですぽん。今からファルたちの知ってる情報を流すから、頭に入れてほしいぽん」

 

 そのまさかだった。かつてボクがソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』に囚われた時にいくつか対話したファルが、スノーホワイトの魔法の端末からボクに話しかけている。

 

 スノーホワイトはゲームマスターのキークを捕まえた。

 その時、スノーホワイトはキークのマスコットキャラクターのファルを回収し、行動を共にしているということか。

 

 

「まず――」

 

 ボクはファル発信の情報に耳を傾ける。

 

 

・スノーホワイトたちは各々人造魔法少女の情報を得てS市を訪れた。その時、トットキークと出会い、彼女に案内されて地下研究所までやってきた。

・吸血鬼の魔法少女:レディ・プロウドと、傘の魔法少女:アンブレンは外交部門所属。

・花の魔法少女:袋井魔梨華と、美容師の魔法少女:スタイラー美々は無所属。ただし魔王塾との関係あり。

・トットキークは己を監査部門の妖精と信じ込んでいる謎の存在だが、彼女自身にスノーホワイトたちへの害意はなく、それゆえスノーホワイトはトットキークを泳がせている。

 

 

 …………うん。

 こうしてファルの話を聞いていると、トットキークがとにかく謎だ。

 

 トットキークの背後にピティ・フレデリカがいることは間違いない。だってボクがトットキークと初エンカウントした時、トットキークは何の痕跡も残さずに忽然と姿を消したのだ。そのような芸当ができるのは、ピティ・フレデリカの魔法くらいのものだ。

 

 だけど、ピティ・フレデリカが関与している割にはトットキークがあまりにも無害だ。S市でトットキークがやったことは、あからさまな本名&経歴詐称と、スノーホワイトたちを地下研究所に誘導したことだけだ。

 

 ――ピティ・フレデリカは何を企んでいる?

 

 

 などと考えていると、ボクの視界の先に異様な光景が展開されていた。

 天蓋、文机、本棚、絨毯がデンと置かれており、その傍らの玉座に深紅の女王様が腰を下ろしていたのだ。

 

 地下研究所の入口に天蓋や文机なんてない。

 とすると、この女王様が持ち込んだことになるのだけど、いよいよわけがわからない。こんな大きな物をなんで常日頃から持ち運んでいるのか。 

 

 それともこの女王様も、スノーホワイトと同様、色んな物を収納できる魔法の袋を所持しているのだろうか。一見、そのようなものは持ち合わせてなさそうだけども。

 

 ボクはスノーホワイトの顔を見上げる。スノーホワイトも女王様のことは知らなそうだ。わずかにだが困惑している。

 

 

「何者だ!」

 

 レディ・プロウドの問いかけに女王様が当然のように「クビヲハネヨ」と返答する。ボクはギョッとした。場の空気も凍っている。

 

 え、えっ?

 あの、首ぴょんガチ勢の方ですか……?

 地下研究所には何の御用で?

 

 

「あなたの名前は?」

「クビヲハネヨ」

「どうしてここへ?」

「クビヲハネヨ」

「1人で来たの?」

「クビヲハネヨ」

「……むぅ、この人つまんない」

 

 ボクが言葉に詰まる中、恐れ知らずのアンブレンが一歩前に出て話しかけてみるも、女王様は壊れたテープレコーダーのごとく同じ言葉を吐き出し続けるだけだった。その様子から、つい「音楽家」ボットだった頃のアカネを思い出してしまった。

 

 会話の通じない女王様の扱いにボクたちが困っていると、女王様の奥の通路から魔法少女たちがゾロゾロと姿を現した。

 

 

 袋井魔梨華、スタイラー美々、トットキークだけではない。以前、ボクを襲ったフィルルゥとウッタカッタもいる。しかしカフリアの姿はない。

 

 代わりにハートの3がプリントされたコスチュームを着た、トランプの兵士っぽい魔法少女がいた。トランプの兵士はそんじょそこらの陰キャとは隔絶した、ギネス級のキョドりっぷりを披露している。

 

 

「よぉスイムスイム、さっきぶりだな。何だ捕まったのか?」

「私が捕まえました」

「へぇ、やるじゃん。あんたも強いんだな、ぜひとも戦いたいぜ」

「遠慮します」

 

 ひぇ、悪臭怖い悪臭怖い。

 袋井魔梨華から声をかけられたボクが視線を逸らす中、ボクの代わりにスノーホワイトが応答する。すると、魔梨華があごに手を添えつつスノーホワイトをじろじろ観察する。

 

 ヨシ、これは良い兆候だ。

 スノーホワイトには非常に申し訳ないが、この調子で魔梨華の興味関心がボクから外れてくれると非常に助かる。

 

 

「……あの。その人、スイムスイムですけど……わざと捕まってますよ? 前に私が捕まえた時も、ちゃんと縛ったのに魔法で逃げられましたから」

「フィルルゥのお姉さんの言う通りでございます。アタシも証人でございますです」

 

 と、ここでフィルルゥとウッタカッタが疑念を多分に含んだ眼差しでボクを見据えてくる。彼女たちの発言により、特にレディ・プロウドとアンブレンからボクを訝しむ視線が向けられる。

 

 ヤベッ、なんて言い訳しよう。

 ボクとスノーホワイトが知り合いだとバレない主張にしないと、ボクだけでなくスノーホワイトもこの場の面々に疑われてしまう。これからみんなと円満に情報共有したいのに、ボクたちに無用な嫌疑をかけられるのはマズい。

 

 

「スノーホワイトのうわさは良く知っている。スノーホワイトは恐ろしい。スノーホワイトの命令には逆らわないのが吉」

「なるほど。『魔法少女狩り』スノーホワイト、ですか……」

 

 ということで、ボクが『スノーホワイトを一方的に知り、恐れている』という論で、あえて無抵抗である旨を告げると、スタイラー美々が納得したようにポツリと呟いた。

 

 

 まま、ままま魔法少女狩りぃ!!???

 スノーホワイトってそんな物騒な二つ名あるの!? こわっ!?

 え、じゃあボクがスイムスイムに憑依して早速スノーホワイトに会った時、ボクを見逃してもらえたのって、実はとんでもなく奇跡だったってコト!?

 

 ボクが内心で戦慄する中、フィルルゥとウッタカッタはボクの態度に異議を唱えずに一旦受け止めることにしたようだ。その後、研究所に先行侵入したスノーホワイト組と、後から参入してきたウッタカッタ組とで情報交換が開始される。各々の自己紹介や各自の事情の説明が為されていく。

 

 今のところ、彼女たちはボクに話を振る様子がない。まずは来訪者サイドで話をまとめてから、人造魔法少女と繋がっているボクから情報を引き出すつもりなのだろう。

 

 

 ――さて、ここからが本番だ。

 というのも、現時点で人造魔法少女を巡る舞台に役者がそろった可能性が高いからだ。

 

 

 S市でボクは合計16名の魔法少女と遭遇した。

 

 第一に、ピュアエレメンツ。

 クェイク、インフェルノ、デリュージ、テンペスト、プリズムチェリー。

 

 第二に、魔法の国の監査部門所属。

 スノーホワイトと、一応トットキーク。

 

 第三に、魔法の国の外交部門所属。

 レディ・プロウド、アンブレン。

 

 第四に、魔法の国の本国所属。

 グリムハート、シャッフリン。

 

 第五に、フリーランス。

 フィルルゥ、ウッタカッタ、カフリア。

 

 第六に、無所属。

 袋井魔梨華、スタイラー美々。

 

 これはボクがゲーム世界に囚われた時や、B市の騒動に巻き込まれた時とまったく同じ構図だ。ボクを除く、16名の魔法少女が集結する。これが原作の悲劇が本格的に始動する条件に違いない。

 

 

 ――味方を見極めろ。敵を見極めろ。そして、敵は迷わず殺せ。それができなければ君は悲劇を防げない。守りたいと思った者の命をすべて取りこぼすことになる。

 

 仕事を求めてB市を訪れた際にプフレからもらった忠告をボクは思い起こす。

 地下研究所を舞台としたであろう、まほいくシリーズ第4部。その敵を殺すことになるのか否かはわからないが、ボクがやるべきは、敵と味方を慎重に見極めて、自らの手でハッピーエンドをつかみ取ることだ。

 

 

「それで、あちらの砂漠の部屋で人造魔法少女と思しき魔法少女たちと戦った結果、カフリアのお姉さんが行方不明になってしまったのでございますです」

 

 そこでボクはウッタカッタから衝撃の情報を耳にした。

 カフリアが、行方不明??

 

 

「状況からして、人造魔法少女に捕まってしまったのではないかという次第にございます」

「連中に殺された、って可能性はないのか?」

「その可能性は低いでございますです。カフリアのお姉さんは『次に死ぬ人がわかる』魔法の持ち主。彼女はアタシどもと行動する中で、『自分は次に死ぬ人ではない』と主張していたでございます」

「それが嘘ではないという確証はあるのか?」

「この『次に死ぬ人』というのは、不変の運命ではありませんです。変えようと思えば変えられるとのこと。となれば、カフリアのお姉さんが『自分は次に死ぬ人ではない』とアタシどもに虚偽報告をする理由がないでございます。アタシどもに助けを求めるなり、人造魔法少女の案件から手を引くなり。取れる手段はいくらでもあったでございます」

「ふム……」

 

 ウッタカッタとレディ・プロウドのやり取りがどこか遠い世界のように感じられてならない。カフリアが行方不明、とても嫌な予感がする。もしかしてもうすでに手遅れ、なんてことあります?

 

 グリムハートが「クビヲハネヨ!」と叫び、シャッフリンがオタオタし、袋井魔梨華はニタニタ笑い、スタイラー美々は思考整理のためか何事か呟いている。

 

 刹那。スノーホワイトが少々狼狽した様子で、消え入りそうな声色で口にした。一言、「心の声が1つ、聞こえなくなった……」と零した。

 

 

「おい、ちょっと待て。アンブレンはどこへ行った?」

 

 同時にレディ・プロウドが疑問を口にした。ボクたちは周囲に隈なく視線を向けるも、確かに傘の魔法少女が、アンブレンがどこにもいない。

 

 

「きっと1人で奥に行ったね」

「いえ、それはありえないです。私は、研究所の障壁に魔法の糸を張っていました。人が通れば私が気づきます」

 

 トットキークが提唱した説をフィルルゥが即座に否定する。

 フィルルゥを信じるのならば、アンブレンは忽然と姿を消したことになる。

 

 カフリアに続き、アンブレンまでいなくなってしまった。

 え、ボク本格的にプレミしてる? やらかしてる?? とっくの昔に悲劇は起こっていて、ボクは魔法少女の死を防ぐことに失敗していたりします???

 

 

「アンブレンが魔法を使って消えたんじゃねぇの?」

「アンブレンはそんな魔法を使わない!」

 

 続いて袋井魔梨華が雑に提示した可能性を、レディ・プロウドは苛立ちまじりに否定する。一方、ボクは別の説を思いついていた。

 

 

 そうだ、ピティ・フレデリカだ。

 ピティ・フレデリカ。黒幕ムーブに余念のない魔法少女にして、ボクとの会話時に『魔法少女育成計画』のタイトル回収をした、まほいくワールドにおける超重要人物筆頭。

 

 彼女は対象の人物の髪の毛を指に巻くことで、標的の姿を水晶玉に映し出し、水晶玉の光景に干渉できる。ピティ・フレデリカなら、トットキークの髪の毛を使ってボクたちの姿を映して、アンブレンを誘拐できる。だったらボクのやることは1つだ。

 

 ボクは裏世界を観測する魔眼を発動させる。以前、ボクはこの魔眼で、『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で、ボクの視界だけを世界の裏側に潜らせたことで、ピティ・フレデリカの監視を見破ったことがあった。

 

 (くら)闇冥(あんみょう)、プリンセス・スイムスイムの本領発揮だ。

 ボクの魔眼で真実を暴いてやる。

 

 

 ボクの視界が白黒に塗り替わる中、ボクはどんなささいな違和感も逃すまいと、上下左右に目線を忙しなく向けていく。

 

 そして、ボクは――真実を知った。

 不穏な空気の中で、アンブレンの行方を協議する魔法少女たちの足元にある、小さな袋。その中にロープで縛られたアンブレンがいた。

 

 アンブレンだけじゃない。

 カフリアも、テンペストもいた。

 3人ともロープで縛られている。

 だけど、全員生きている。

 

 さらに、小さな袋の中にシャッフリンがうじゃうじゃいた。

 言葉どおりの意味だ。様々なトランプの絵柄がプリントされたコスチュームを着たシャッフリン軍団が、小さな袋の中に詰まっていた。10人や20人どころじゃない。メチャクチャたくさんのシャッフリンがいる。

 

 

 ボクはさりげなくグリムハートを眺める。

 さっき、スノーホワイト組とウッタカッタ組が情報交換する中、ウッタカッタから説明があった。グリムハートとシャッフリンは『魔法の国』本国の魔法少女で、ボクたち市井の魔法少女とは一線を画する、権力者なのだと。

 

 グリムハートは玉座に座っている。

 彼女の付近には天蓋、文机、本棚、絨毯が置かれている。

 これらの家具は元々、あの小さな袋に入っていたのではないか?

 グリムハートもまた、スノーホワイトと同じく、質量を超えた物質を収納できる小さな袋を所有しているのではないか。となれば答えは1つ。

 

 

 すべてが繋がった。

 さては敵だなオメー。

 

 此度の敵と味方の見極めは、ボクの想定よりもずいぶんと早くに完了したようだった。

 

 




次回 第45話
『ボクはやるぜボクはやるぜ』
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