その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第45話 ボクはやるぜボクはやるぜ

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

 地下研究所の入口付近の廊下にて。

 スノーホワイト、レディ・プロウド、袋井魔梨華、スタイラー美々、ウッタカッタ、フィルルゥ、トットキークが、カフリアに続きアンブレンも忽然と姿を消したことについて話し合っている。

 

 しかし正直なところ、理性的な話し合いはできていない。

 アンブレンを失ったことですっかり冷静さを欠き、疑心暗鬼になってしまったプロウドの刺々しい言動の数々により、話し合いの場に剣呑な雰囲気が醸成されている。

 

 グリムハートは持ち込みの玉座に腰かけ、スノーホワイトたちの話し合いに興味がなさそうに大あくびをしている。シャッフリンはグリムハートの足元でひたすらびくびくしている。

 

 うむ、誘拐犯だというのにこのふてぶてしさ。

 深慮遠謀っぽいピティ・フレデリカとは別ベクトルの黒幕ムーブですよこいつはァ。

 

 

 この度ボクは、カフリア・アンブレン・テンペストを誘拐した犯人が『クビヲハネヨbot』ことグリムハートだと看破した。

 

 ボクの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法で視力だけ裏世界に潜らせたことで、グリムハートが持ち込んできた『何でも入る袋』の中で、誘拐された3人が拘束されているのを目撃したのだ。

 

 ただこれで『勝った!第4部完!』とはならない。むしろここからが本番だ。

 敵がわかったからこそ、ボクがこれからどう立ち回るべきかを改めて決めねばならない。

 

 

 ボクに残された時間は少ない。

 スノーホワイトたちは、人造魔法少女(テンペスト)もさらわれていることを知らない。

 遅かれ早かれ、彼女たちは『カフリアだけでなくアンブレンまでも誘拐した者は誰か?』という謎に『人造魔法少女の仕業だ』との解を出すことだろう。

 

 そうなると人造魔法少女に与するポジションとして、スノーホワイトに捕まったフリをしているボクの立場が危うくなる。

 みんなから思いっきり警戒されれば、ボクは好き勝手に動けなくなってしまう。

 悲劇を防ぐためにも、時間を悠長に費やすことは許されない。

 

 

(ここは正念場だ、考えろ超天才(ボク)!)

 

 まずグリムハートは敵だ。

 グリムハートと上下関係のあるシャッフリンも敵でいい。

 

 だが、ここでボクが2人を告発するのは非常に危険だ。

 ボクが「やっぱりあんたが犯人だったんだな!」と告発した時に、「ククク、バレてしまっては仕方がない」などと開き直られて暴れられたら大惨事待ったなしだからだ。

 

 ボクは魔法少女を取り巻く悲劇を防ぎたいと願い、ここにいる。

 ボクの敵とは悲劇を振りまく側の存在であり、当然ながら強敵だ。

 

 加えて、どうやら魔法少女育成計画という作品はパワーインフレ傾向にあるらしい。

 N市の魔法少女選抜試験、理不尽なゲーム攻略、B市の暗殺者騒動を経て、敵味方ともに魔法がどんどん強烈になっている実感がある。

 

 となると、今回の人造魔法少女を巡る騒動の敵と思しきグリムハートとシャッフリンは、B市で暴れたプキン&ソニア・ビーンと同等以上の実力者の可能性が高い。

 

 実際、グリムハートとシャッフリンは、スノーホワイトの『困っている人の心の声が聞こえる』魔法をかいくぐっている。でなければ、ボクよりも早くスノーホワイトが魔法少女消失事件の真実に気づくはずだ。

 

 

 一見、玉座にふんぞり返るグリムハートと、ずっと挙動不審なシャッフリンは弱そうに見える。実際、他の魔法少女は2名を見た目どおりの実力だと判断しているようだ。

 

 これはボクの持論だけど、無防備な魔法少女には2パターンが存在する。

 マジで戦闘経験ゼロの素人魔法少女か、チートな魔法を持ち余裕綽々な魔法少女かだ。

 グリムハートやシャッフリンは後者に違いない。

 

 グリムハートの無防備かつ、どこか人を見下している態度は、ボクを18禁送りにするべくボクの水着を強奪せしめんとしたソニア・ビーンを彷彿とさせる。

 

 シャッフリンが大量に存在することはボクの魔眼で観測済みだ。もしもあの大量のシャッフリンたちが統率のとれた軍隊として動けるのならば、とんでもなく脅威だ。

 

 

 個として最強を誇るグリムハートと、集団として最強を誇るシャッフリン。

 これがまほいく第4部の敵のコンセプトなのだろう。

 

 彼女たちを相手取って戦い勝利するためには、敵ではない魔法少女たち同士での結束が必要だ。

 

 ただ、知り合って間もないボクたちが結束するのは容易なことではない。

 

 以前、B市で波山中学の魔法少女たちと魔法の国の捜査班一派との情報共有が成立したが、それはウェディンの『約束をしたらそれを絶対に守らせる』魔法で、1時間ウソをつけない空間を構築してもらったからだ。

 

 

(でも今はウェディンがいないから同じ手は使えない。となると――やっぱりやることは1つ)

 

 カフリア・アンブレン・テンペスト。魔法のロープで縛られて、『何でも入る袋』の中に放り込まれている3名の救出ミッションを遂行する。

 

 そのうえで、どうにかグリムハート&シャッフリンを除く15名の魔法少女が一堂に会する状況を作り出す。そこでボクが、3名を救った実績を盾にして、みんなにボクのことを信じてもらったうえで情報共有を行い、共闘態勢を構築する。これしかない。

 

 

 救出ミッションが失敗する可能性は大いに存在する。

 

 グリムハートとシャッフリンの魔法の全容がわからないこと。実はグリムハートとシャッフリン以外にもまだ敵がいるかもしれないこと。トットキークの髪の毛を使ってこの場を監視しているピティ・フレデリカがボクを妨害してくるかもしれないこと。

 

 不安要素を挙げればキリがない。

 

 

 でも。やるしかない。

 いつだってボクの『††魔法少女救済計画††』は一発勝負で、リスクが高くて、でも悲劇を防ぐためにはやるしかないから無理を承知で突き進む。そんな計画ばかりだった。

 

 今回も同じだ。

 作戦の細部を詰めきれてはいないが、いつまでも悠長に考えあぐねているわけにはいかない。あとはボクのアドリブ力を信じて決行するしかない。

 

 臆するな、立ち向かえ。

 

 

 だれかたすけて!(ボクはやるぜボクはやるぜ!)

 

 

 ボクは『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を発動させ、裏世界に潜り込む。ボクは己の体を縛るロープを魔法で抜け出し、魔法の端末にいくつかメッセージを入力した後、無造作に床に転がっている『何でも入る袋』へ向けて駆け出す。

 

 白黒に切り替わった視界で周囲を一瞥する。

 スノーホワイトたちがボクの消失に気づいた様子はない。

 

 ボクは『何でも入る袋』に飛び込む。一応、袋の中で待機しているシャッフリンたちの視界に入らないよう細心の注意を払いながら、豪奢な家具がごった返している袋の中を進んでいく。

 

 その先に、カフリア・アンブレン・テンペストの姿を見つけた時、ボクは裏世界から表世界へと飛び出した。

 

 

「「「!!??」」」

 

 いきなり眼前に現れたボクに3人はこの上なく驚いている。

 驚く気持ちはよくわかる。が、声を出されたらマズい。袋の中にいる大量のシャッフリンに聞かれるかもしれない。

 

 ボクはすかさず3人に魔法の端末を突きつけつつ、もう片方の手でピンと人差し指を上げて口元に当てる。

 

 

『みんなをたすけにきた。今はお口チャックでおねがい』

 

 魔法の端末のメッセージを確認した3人がそろってうなずく。

 3人とも素直にボクの言うことを聞いてくれて助かった。カフリアとテンペストはともかく、アンブレンはボクのことをそう易々と信用できないだろうに、それでもここでボクの意向に反して騒ぐことは得策ではないと察してくれたようだった。

 

 

『まずはここから脱出する。しばらく息できなくなるから深呼吸して』

 

 ボクは魔法の端末の画面をスライドして次のメッセージを表示し、3人に読ませる。それからカフリアを背負い、テンペストを右脇に抱え、アンブレンを左脇に抱え――ボクの魔法でみんなと一緒に裏世界に身を投じた。

 

 ボクは『何でも入る袋』から脱出しつつ、再びスノーホワイトたちの様子を一瞥する。スノーホワイトたちはボクの消失に気づいたらしく、より焦燥に満ちた会話が展開されているようだった。

 

 と、ここでボクはつい困惑からその場で立ち止まる。いきなり袋井魔梨華が場を制するように拳を壁に叩きつけ、魔法少女たちに思いっきり怒鳴り散らし始めたからだ。

 

 

 裏世界に潜行中のボクには袋井魔梨華の発言内容はわからない。けれど、何を話しているかわからないからこそ読み取れる状況があった。みんな、ブチキレモードの袋井魔梨華に注目している。

 

 それはボクにとって非常に都合が良い状況だった。

 

 まさか袋井魔梨華はボクの『††魔法少女救済計画††』のアシストをしてくれている??

 考えすぎか? いやでも、いくらなんでもタイミングが良すぎるわけで。え、ほんとに? 信じていいっすか?

 

 

(姐さん! 魔梨華姐さん……!)

 

 ボクが魔梨華姐さんに感銘を受ける中、魔梨華姐さんは魔法少女たちを伴って廊下の左奥へとずんずんと歩みを進め、森林エリアへと向かおうとしている。魔梨華姐さんの後を追う意思を見せようとしないのは、玉座に腰かけるグリムハートのみだ。

 

 それならボクは魔梨華姐さんとは反対方向へと向かう。廊下を右に進み、指一本だけ表世界に戻して壁のパネルを押し、隔壁が上へとスライドしていく様子を見つめる。

 

 隔壁にはフィルルゥの魔法の糸が張られている。けれど、フィルルゥが魔法の糸の揺れに気づいてボクたちの方へと向かってくる気配はない。それもこれも魔梨華姐さんが終始ブチキレな言動をかまし続けている影響で、ボクが隔壁を開こうとする前から魔法の糸が振動しまくっているからだ。

 

 ボクの作戦と魔梨華姐さんの動きが完全に嚙み合っている。

 おかげでボクの『††魔法少女救済計画††』は怖いくらいに順調だ。

 

 

 しっかし、この隔壁が開くのを待っている時間がもどかしい。この隔壁もボクの魔法で潜れたらこうも焦らされることもないのだが、地下研究所の壁や扉に魔法は通じないので待つしかない。

 

 じれったさに身を焦がしながらもボクは改めてグリムハートの背中を見つめる。

 自信満々で傲慢な背中だ。己の企みが上手く進んでいることに内心でほくそ笑んでいるに違いない。

 

 

 ウェーイ! グリムハートくん見てる~?

 あんたのお宝はこの怪盗スイムスイムがいただいていくぜ!

 あばよ、とっつぁん!(☝ ՞ਊ ՞)☝

 

 隔壁が半分ほど上にスライドした時点で、ボクはグリムハートめがけて心の中でありったけの勝利宣言を放つ。その後、ボクは隔壁をくぐり抜けて砂漠エリアへと足を踏み入れる。砂塵が吹きすさぶ中でもより身を隠せそうな場所を選んで表世界へと戻り、運んでいた3人を丁重に床に降ろす。

 

 ボクはテンペストを縛る魔法のロープを解く。カフリアとアンブレンを縛るロープは、テンペストの『風の力を使って敵と戦う』魔法で生み出した疾風で手っ取り早く切り裂いてもらう。

 

 

「ありがとう、スイムスイム!」

「ええ、助かったわ」

「どういたしまして」

 

 テンペストとカフリアが小声で感謝を告げてくる。ボクがコクリとうなずいて応じていると、アンブレンが「むぅ」とうなりながらも言葉を紡ぐ。

 

 

「それで、これからどうするの?」

「みんなと合流して、グリムハートとシャッフリンが危険人物だって伝えるつもり」

「それならどうしてあなたは森林エリアの方にいかなかったの? お花の魔法少女がぷんすかしながらそっちに向かったの、見えてたでしょ?」

「うん。ただ、その前にいったん研究所をぐるっと一周する」

「なんで?」

「グリムハートたちは魔法少女を誘拐して何か良くないことをしようとしている。だから、まずは私たちの仲間――ピュアエレメンツの無事を確かめたい」

「……わかった。助けてくれた恩もあるし、あなたの方針に従うよ」

「ありがとう」

 

 アンブレンはおそらくすぐにでもレディ・プロウドと合流したかったのだろう。だが、ボクの方針を確認した際、異議を提唱しなかった。

 

 

「じゃあもう一回、深呼吸して」

 

 アンブレンとの対話を終えたボクは改めて3人を抱えて魔法を発動させ、裏世界に潜って移動を再開する。ボクのスニーキングミッションはもうしばらく続くようだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇プリズムチェリー

 

 

 唐突に地下研究所に土足で踏み込んできた見知らぬ魔法少女たち。

 ピュアエレメンツは無礼な彼女たちに対し、対話を試みる方針を選んだ。

 

 その結果、プリンセス・スイムスイムが敵に捕まった。

 森林エリアで、ロープで縛られた状態で白い学生服の魔法少女に運ばれるスイムスイムの姿を、地下研究所のカメラが捉えている。

 

 また、プリンセス・テンペストが行方不明になった。

 砂漠エリアで複数の魔法少女を相手取っていたはずのテンペストは、砂塵が吹きすさぶ中、カメラに映らずに忽然と姿を消した。

 

 

「「「「……」」」」

 

 地下研究所の最奥:ブリーフィングルームは沈鬱な雰囲気に支配されている。

 

 クェイクは見知らぬ侵入者と安易に対話する道を選んだことを後悔している。

 デリュージは森林エリアで魔法少女と交戦した際、目先の戦闘に気を取られ、スイムスイムが捕まったと気づけなかったことを後悔している。

 インフェルノは砂漠エリアで頭に花を咲かせた魔法少女と交戦した際、命の危機に怯え、テンペストを置いて敵前逃亡してしまったことを後悔している。

 

 

 みんな後悔している。心に傷を負っている。

 でも、みんなは何も悪くない。

 

 クェイクは悪くない。

 侵入者と対話する方針の発案者はクェイクだけど、その方針に賛同したのはピュアエレメンツの総意だ。責任はみんなで分かち合うべきだ。

 

 デリュージは悪くない。

 ディスラプターと違い、手の内の見えない魔法少女との戦いに集中していたのだ。スイムスイムのことまで意識できなかったことをとがめる理由はない。

 

 インフェルノは悪くない。

 誰だって死にたくないのだから、殺されそうになったなら当然逃げる。プリズムチェリーだって全力で逃げる。それに砂漠エリアの視野の狭さで、敵に襲われながら、テンペストと一緒に逃げるのは難しすぎるだろう。

 

 誰も悪くない。プリズムチェリーは声を大にして言いたかった。

 けれどプリズムチェリーは場の空気に呑まれ、黙り込むのみだった。

 

 

 悪いのはプリズムチェリー1人だ。

 プリズムチェリーは、ブリーフィングルームのモニターから各エリアを俯瞰して監視できる立場にいたからだ。

 

 砂漠エリアだけでなく森林エリアの方にもディスラプターを召喚していれば。

 砂漠エリアにディスラプターを派遣したからと安心しないで、砂漠エリアをもっと監視していれば。

 森林エリアでスイムスイムが捕まった瞬間をちゃんと目視できていれば。

 様々な後悔がプリズムチェリーの脳内をグルグル回っている。

 

 だけど己を責めてばかりもいられない。

 なにせプリズムチェリーは今、とある命題を突き付けられているのだから。

 

 

 ――はたして現状は、スイムスイムの想定内なのか、想定外なのか。

 

 

 魔法の国の正式な手順を踏まずに魔法少女になった、4人の魔法少女(プリンセス)

 みんなは明らかに特別で、特殊で、異質で。そのため、みんなをめぐるトラブルが起こるのではないかと、プリズムチェリーは不安視していた。

 だからプリズムチェリーは信頼できる相手に、スイムスイムに相談した。

 

 スイムスイムが6人目の闇属性のプリンセスとしてピュアエレメンツに加入してからというもの、プリズムチェリーはスイムスイムの指示で、己の『鏡に映し出すものを自由に変えられる』魔法を特訓し続けてきた。

 

 

 非現実的(ファンタジー)な物を鏡に映す特訓。

 鏡以外のガラス製品に映像を投影する特訓。

 大量の鏡に一斉に、別々の物を映し出す特訓。

 鏡に映す物を瞬時に切り替え続ける特訓。

 

 魔法少女に変身中はずっと魔法を使ってきた。

 ピュアエレメンツのみんなと和やかに会話する間も、プリズムチェリーはいつも手鏡を隠し持って色んな映像を映し続けてきた。

 

 結果、プリズムチェリーの魔法は成長した。

 スイムスイムのおかげで、プリズムチェリーは己の魔法に秘められた数々の可能性を知ることができた。

 

 

 ピュアエレメンツを『人造魔法少女』として狙う3名の魔法少女が現れてからは、プリズムチェリーはスイムスイムの思い描く、みんなを守るための作戦の下、準備をすることになった。

 

 プリズムチェリーの準備は主に物を埋める作業だった。

 人造魔法少女が魔力や変身を維持するために必要な薬の瓶を各エリア(岩場・森林・砂漠・水場エリア)に埋めたり、プリズムチェリーが変身した時に装備している手鏡から鏡を取り出してひたすら各エリアに埋めたりした。

 

 薬の瓶を埋める理由は何となくわかったが、手鏡から鏡を取り出して各エリアに埋める理由はまるでわからなかった。

 プリズムチェリーの魔法で何かをしたいのだろうが、10万枚を超える鏡を埋めて何になるというのか。

 

 幸い、プリズムチェリーの手鏡は手放しても無限に供給される類いのもので、大量の鏡を用意するのに金銭的な問題は発生しなかった。

 ただ、夜半に地下研究所にこっそり忍び込んで、意味の分からない行為を数日かけて続けたことで疲れが顔に出てしまっていたようで、ピュアエレメンツには心配をかけてしまった。

 

 

 そのような状況がありつつ、今日が来た。

 たくさんの魔法少女が、おそらく人造魔法少女を求めて地下研究所に足を踏み入れた。

 

 

 プリズムチェリーはスイムスイムの作戦の全容を知らない。

 スイムスイムが心を読めるタイプの魔法少女を警戒していたからだ。

 なので心を読む魔法への自衛手段があるスイムスイムしか、作戦の全貌を把握していない。

 

 そのためプリズムチェリーにはわからない。

 現状が危機的状況なのか、それともスイムスイムの手のひらの中なのか。

 

 

 もしもスイムスイムの想定外の事態になっているのなら。

 今すぐクェイク・インフェルノ・デリュージに、プリズムチェリーが知っていることをすべて共有して、少しでもみんなが危険な目に遭う可能性を減らすべきだ。

 

 ただ、今もスイムスイムの想定内の状況なら。

 プリズムチェリーは余計なことをせずに、ピュアエレメンツの一員に徹しないといけない。

 

 いったい何が正解なのか。

 プリズムチェリーはどう動けばいいのか。

 

 

「あいつら……!」

 

 インフェルノの唸るような声が届き、プリズムチェリーは思考の海から現実へと回帰する。

 見れば、インフェルノたちはモニターを凝視していた。モニターには、魔法少女たちが次々と森林エリアへと足を踏み入れる光景があった。

 

 ただ、拘束中のスイムスイムの姿はない。

 たまたま映っていないのか、それとも――

 

 

 ――テンペストのように、スイムスイムも消えてしまった?

 

 悪寒がプリズムチェリーの全身を駆け巡る。

 

 

「どうせあいつらがテンペストもさらったに決まってる! 今度こそぜってぇぶっ潰す!」

「そうね。素直に聞いても答えてくれないだろうし、戦わないと」

「うん、行こう。覚悟はできてるよ」

 

 侵入者への敵意をみなぎらせるインフェルノにクェイクも同意する。

 デリュージも三叉槍を強く握りしめながらうなずいている。

 

 

 どうする?

 どうするどうするどうする!?

 

 情報共有するなら今が最後のチャンスだ。

 今を逃せば、落ち着いて話せるタイミングはきっともう巡ってこない。そんな予感がしてならない。

 

 私は、私は……!

 

 

「――ッ!」

 

 混乱の渦中で、プリズムチェリーはふと思い出した。

 

 

 プリズムチェリーが『特別』を欲して魔王塾を見学した日。

 プリズムチェリーはスイムスイムと出会った。

 

 スイムスイムはコスチュームの白いスクール水着からしてもう個性の塊で、そのうえプリズムチェリーのピンチを当然のように助けてくれた。

 同じ魔王塾の見学者でありながら、所詮は『普通』なプリズムチェリーと違って、すでにスイムスイムは『特別』だった。

 

 

 とてもかっこよかった。彼女が誰よりも輝いてみえた。

 彼女の背中が頼もしくて、まるで物語の主人公のようで。

 

 だから頼った。信じた。

 スイムスイムにピュアエレメンツのことを相談した。

 

 もしもプリズムチェリーがスイムスイムに話を持ちかけていなければ。プリズムチェリーは無策のまま今日を迎えていた。

 

 プリズムチェリーの魔法は成長せず、ロクな作戦1つすら思いつけず、ただ状況に流されておろおろしているだけだったに違いない。

 

 

(うん、信じよう)

 

 一度信じたのだから、最後まで信じ続けよう。

 スイムスイムが侵入者に捕まったことにも意図があるのだと信じよう。

 

 迷いは晴れた。

 プリズムチェリーはピュアエレメンツの役目を全うするのみだ。

 

 

「あの!」

 

 プリズムチェリーの発声に3人が少々驚いたように向き直る。

 

 

「どうしたの、チェリー?」

「私もみんなと一緒に行きます!」

「え、でもチェリーはここで監視してた方がいいんじゃない? 危ないし、それにディスラプターで援護してもらった方が助かるし」

「それが……さっきの戦いでディスラプターのストックを全部使いきっちゃったんです。それに、テンペストがいなくなっちゃった原因がわからないから、私がここに1人でいたら、私も消えるかもって、怖くて」

 

 同行を求めるプリズムチェリーに対しデリュージが難色を示す。

 しかし、続けてプリズムチェリーが口にした内容に3人がハッと我に返る。

 

 

「チェリーも連れて行こうか。2人もそれでいい?」

「うん。チェリーの言うとおり、二手に分かれる方が危なそうだしね」

「異論なし。チェリーには指一本触れさせねぇから、安心してついてきてくれ」

「ありがとう、みんな」

 

 4人一緒で侵入者と接触し、テンペストとスイムスイムを取り戻す。

 クェイクの方針にデリュージとインフェルノも即座に応じた。

 

 プリズムチェリーたちはブリーフィングルームから岩場エリアへと向かう。

 岩場エリアの先、森林エリアで侵入者たちと相対するために。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スタイラー美々

 

 

 美々は内心で深々とため息をついた。そう、深々と。

 袋井魔梨華は好敵手を求めて四方八方練り歩く戦闘狂だ。そんな輩に連れまわされた結果、トラブルに巻き込まれる。いつものことだ。とてもめんどくさい。

 

 だが。此度のトラブルは今までと比べて明らかに異様だった。

 なにせ、美々たちがS市の地下研究所に侵入してからというもの、魔法少女が次々と謎の失踪を遂げており、安否すらわからないのだから。

 

 

 カフリアとアンブレンの消失。

 これだけに注目すれば、きっと人造魔法少女が何か超常的な手段で侵入者(わたしたち)を1人1人誘拐したのだろうと想定できる。

 

 けれど、人造魔法少女側のはずのスイムスイムまでもが消えたとなると、話はずいぶんと変わってくる。

 誰が、なぜ、どうやって魔法少女を次々と消しているのか。消された魔法少女の共通点はどこにあるのか。謎は深まるばかりで、真相解明なんて夢もまた夢の話だ。

 

 

 怪奇現象に否応なしに襲われる中、魔梨華が痺れを切らした。

 美々たちがスイムスイムの消失に気づいた直後、魔梨華が地下研究所の壁を拳で叩きつけて美々たちに怒鳴り散らしたのだ。

 

 

「いつまでウダウダくっちゃべってんだボケども!」

「カフリアが消えたアンブレンが消えたスイムスイムが消えた!」

「いつ全員消えてもおかしくねぇってのにどいつもこいつも緊張感の欠片もねぇな!」

「どーせ人造魔法少女の仕業だろうが!」

「じゃあ連中を殴って吐かせりゃそれでしまいじゃねーか!」

「頭数そろえておいて、こんなカンタンなこともわかんねぇのかおい!」

「さっさと行くぞ低能ども!!」

 

 魔梨華の発言は、アンブレンを失い錯乱中だったレディ・プロウドの方針を決定づけた。

 

 結果、場の空気が明白に全面戦争へと傾いてしまった。魔梨華やプロウドのような、人造魔法少女と戦う意思を持つ者が正義で、それ以外は悪という構図が生み出されてしまった。

 

 それゆえ、玉座から一歩も動く気配を見せないグリムハートを除く全員で研究所の奥へ進み、人造魔法少女と接触する流れとなってしまった。最悪の状況だ。

 

 

 森林エリアにて。人造魔法少女への敵意丸出しなプロウドが先頭をズンズン歩き、魔梨華と美々がプロウドの後に続く。空気のひりつきが美々の心境をどんどん暗鬱なものへと変えていく。

 

 

「やや、君もなかなか個性的なファッションセンスしてるね」

「キィキィ?」

「トランプの絵柄を上着の中央にべったりプリントするなんてとってもロックね! トットたち仲良くなれそうね」

「キィキィ!」

 

 美々の背中で、トットキークとシャッフリンが不思議なテンポで和気あいあいと会話を続けている。その和やかな会話が戦闘過激派な魔法少女勢の苛立ちに拍車をかけていることに気づいているのだろうか。

 

 

「さて、スノーホワイトのお姉さん。この暴走一歩手前の集団を止める方法に当てはありますですか?」

「今、考えてる」

「そうでございますか。何かやりたいことがありましたら、ぜひ我々ウッタカッタと、フィルルゥのお姉さんを頼りにするでございます」

「どうしてあなたたちは私に協力してくれるの?」

「この異様な状況でどのように動けば生き残れるかを考えれば、自ずと『魔法少女狩り』の下につくのが最善だとわかるものでございますです。冷静さを欠いた者から死にゆくのが世の定めでございますから」

「まぁ、そんな感じです」

 

 集団の最後尾では、スノーホワイト・ウッタカッタ・フィルルゥがまじめな会話を繰り広げている。美々としても彼女たちと交ざって冷静な話し合いをしたかったのだが、残念ながらそれはできない。

 

 不本意ながらも『魔梨華の連れ』として現場に立つ以上、無用な争いが起こらないよう魔梨華の手綱を握らなければならない。

 

 地下研究所の入口では、スイムスイムへと飛びかかる魔梨華を止められなかった。

 次こそは――。

 

 

(……ん?)

 

 美々が魔梨華の横顔をのぞき込んだ時、違和感が顔をもたげた。

 魔梨華は全然怒っていない。イライラしていない。かといって、これから勃発するかもしれない人造魔法少女との再戦にワクワクしている様子でもない。

 

 何というか、『受け』の態勢だ。

 まるでクリスマスにサンタさんがプレゼントを持ってきてくれることを、ベッドの中で心待ちにする子供のようだ。

 

 

(そういえば……)

 

 思い返してみる。

 確かにさっき、魔梨華は怒鳴っていた。けれど、マジギレした魔梨華のブチギレ具合と比較すると、あまりに上品な怒り方だった。

 

 なぜ自分が怒っているのか。

 みんながどのようにすれば自分は怒りを引っ込めるのか。

 これらをしっかり説明しながら怒るなんて、いつもの魔梨華らしくない。

 

 

 それに。

 

 ――アンブレンが魔法を使って消えたんじゃねぇの?

 ――アンブレンはそんな魔法を使わない!

 

 アンブレンが消えた時、魔梨華は平常心そのものといった様子でレディ・プロウドに話しかけ、プロウドを苛立たせていた。その魔梨華が、スイムスイムが消えた瞬間に怒り狂うというのはいくらなんでも不自然だ。

 

 

 決まりだ。つまり魔梨華はわざと怒鳴った。

 怒ったフリをして、美々たちの動きを誘導した。

 いったいなぜ?

 

 ただでさえ状況が謎すぎるのだ。

 魔梨華の意図くらいは知っておきたい。

 

 

「……あの。さっきの態度、いったいどういうつもりですか? わざと怒ったフリなんかして」

「まぁ美々にはバレるか、さすがは相棒」

「相棒じゃないです。で、どうしてですか?」

「どうして、ねぇ。話してもいいけど、秘密にしても面白いよな?」

「ぜんぜん面白くないです」

 

 美々が尋ねると、魔梨華が愉快そうにクツクツ笑う。

 この切羽詰まった状況でいたずらっ子気質を発揮するつもりらしい。これだから袋井魔梨華は。美々の脳内ため息回数が1つカウントされる。

 

 

「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」

 

 と、ここで魔梨華の隣にスノーホワイトが歩み寄り、話しかける。

 

 

「私は、『困っている人の心の声が聞こえる』魔法を使えます」

「へぇ! 良い魔法持ってんじゃん。心を読むタイプの魔法って攻略方法にバリエーションがあって楽しいよなぁ。『右ストレートでぶっとばす』だけじゃ解決しねぇことも多いから奥が深いのなんの――」

「先ほどあなたから『スイムスイムがやろうとしていることがみんなに悟られると困る』という心の声を聞きました。……スイムスイムが今どこにいるか、知っているんですか?」

 

 スノーホワイトが己の魔法を暴露したうえで魔梨華に問いかける。

 今まで美々の心も盗み見られていたかもと思うと気分は良くないが、これは好都合だ。スノーホワイト相手に嘘は通用しない。魔梨華の真意を引きずり出すことができる。

 

 

「いや知らねぇ。これはウソじゃねぇさ」

「……そのようですね」

「ただ私は、スイムスイムに期待してるんだ」

「期待?」

「スイムスイムは己の魔法で別次元に移動できる。自分の体を消すことができる。時間制限はあるようだがな」

 

 魔梨華の話に美々は思わず「え」と困惑の声を漏らす。スノーホワイトも無言ながら、わずかに目を見開いている。魔梨華の話が本当なら、それはつまり。

 

 

「これが何を意味するかわかるか? ――魔法少女の連続失踪の犯人、その筆頭がスイムスイムになるってことだ」

 

 そうだ、そういうことになる。

 少なくともスイムスイムには誰にも気づかれずに魔法少女を誘拐できる手段がある。スイムスイムが犯人の有力候補になるのは当然だ。

 

 

「待ってください。そう決めつけるのは早計ではありませんか? まだこの場の全員が自分が何の魔法を使えるかを話していません。それに――」

「まぁ話は最後まで聞けや」

 

 魔梨華は己の主張に異議を唱えようとするスノーホワイトを制すると、ますます愉快そうに笑みを浮かべながら話す。

 

 

「カフリアが消えた、アンブレンが消えた」

「このタイミングでスイムスイムは魔法で自ら姿を消した」

「んなことしたら自分が怪しまれることくらいスイムスイムはわかっていたはずだ」

「それでもスイムスイムは魔法を使って単独行動を始めた」

「考えられる理由は2つ」

「1つ、己の犯行が明るみになりそうだったから逃げた」

「2つ、私たちの疑念を払しょくできる当てがあったから魔法を使った」

「私は後者だと思った」

「その方が面白いからな」

「だからスイムスイムの思惑に乗っかってやった」

「強くて粗暴な輩がキレれば、周りの連中は嫌でもそいつに注目せざるをえなくなる」

「消えたスイムスイムについて推測する余裕なんてなくなる」

「さっき私がわざと怒った理由はそんなところだ」

 

 まさか魔梨華の演技にそのような意図が隠されていたとは。

 美々は驚愕し、同時に納得した。

 

 魔梨華は戦闘狂だが考えなしではない。意外と頭が回る。

 でなければ、根っからの戦闘民族が魔法の世界で厄介事に首を突っ込みまくっておきながら、何年も生き残れるわけがない。

 

 とはいえ余計なことをしてくれたものだ。

 スイムスイムが善人だとの確証もないのに、自己中心的な理由でスイムスイムに手を貸すだなんて。これで事態が悪化したらどう責任を取るつもりなのか。いや責任なんてまっとうな言葉が魔梨華の辞書にあるわけないか。

 

 

「さーて、スイムスイムは何を手土産にするつもりなんだろうなぁ」

 

 美々の懸念なんてつゆ知らず、当人はたいそうお気楽だ。

 

 

 だれかたすけて(美容室(しょくば)が恋しいなぁ……)

 

 美々の脳内ため息回数がまた1つ増えた。

 このペースだと今日という厄日は、1日でため息をついた回数ナンバーワンを記録するかもしれなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇グリムハート

 

 

 魔法の国が魔法の力を下賤な者どもに与える。

 下賤な蛮族は泣いて喜んで栄誉にあずかる。

 これが本来あるべき魔法の立ち位置だ。

 

 だというのに。最近、この栄誉を拒絶し、『人造魔法少女』なる邪道で魔法の力を得ようとする無礼者が現れた。到底許せるものではない。万死でもまるで足りない。

 

 愚者が犯した罪は、権威者が罰するべきだ。

 ならば魔法の国の創始者である、偉大なる魔法使いが育てた3人の弟子が一柱、シェヌ・オスク・バル・メルの現身たるグリムハートこそが、僭越行為を働いた蛮族を裁く執行者にふさわしい。

 

 

 が、それはそれとして。人造魔法少女の技術自体には興味があった。

 蛮族の発想は、魔法の国のそれとはまったく異なり下劣なことは疑いようがない。しかしその分、魔法の国の住人がまず思いつけない機構が人造魔法少女に組み込まれているのもまた事実だった。

 

 それゆえグリムハートは『人造魔法少女を生み出す計画の抹殺』と『人造魔法少女の技術の独占』を目的として、召使のシャッフリンを伴って地下研究所へ訪れた。

 

 

 グリムハートは荒れ狂う憤怒の感情を隠すのに苦心していた。

 人造魔法少女のことを聞きつけて、虫けらのようにわらわらと集結した蛮族の数があまりに多かったからだ。

 

 人造魔法少女を知る者は全員殺さねばならない。

 が、タイミングを見誤れば逃げられてしまう。

 

 グリムハートの『礼儀知らずは相手にしない』魔法は、他者のあらゆる魔法を無効化する、最強の魔法だ。だが、全力で逃げる蛮族を捕まえるのには向いていない。

 

 ゆえに、人造魔法少女を知る連中を地下研究所に閉じ込めてから滅する工程を踏まないと行けず。そのためグリムハートは、喪服・糸玉・ラッパの蛮族と出会った時、彼女たちと一緒に行動する苦行を選ばざるをえなかった。

 

 そうして地下研究所に入った後、さらに多くの蛮族どもと出くわした時のグリムハートの心情は筆舌に尽くしがたい。

 

 

「あなたの名前は?」

「クビヲハネヨ」

「どうしてここへ?」

「クビヲハネヨ」

「1人で来たの?」

「クビヲハネヨ」

「……むぅ、この人つまんない」

 

 蛮族にずけずけと話しかけられる屈辱に耐えながら。蛮族に見下される恥辱に耐えながら。グリムハートはあくまで無能な権力者の演技に徹した。

 

 その一方で、グリムハートは地下研究所の蛮族をシャッフリンに誘拐させた。『何でも入る』魔法のずた袋をシャッフリンに預けて、こっそり蛮族を袋にしまわせた。

 

 

 シャッフリンは魔法の国で生み出した正当な人造魔法少女(ホムンクルス)だ。

 合計53体で構成されるシャッフリンは、トランプの数字と各自の強さが比例している。数字の2が一番弱く、エースが一番強い。

 

 また、トランプの絵柄で各自の特質を表している。スペードは戦闘特化。クラブは戦闘と隠密活動双方にバランスよく秀でている。ダイヤは工作活動向き。

 

 ハートは……ハートは……体の頑丈さだけが取り柄のデクだ。蹴ってなぶって「キィキィ」泣かせて遊ぶくらいしか使い道がない。

 

 

 シャッフリンには多くの問題点がある。だがそれでもシャッフリンが優秀な召使であることに変わりはない。現に、地下研究所の構造はダイヤのシャッフリンが解析済みだし、蛮族誘拐の下手人がスペードとクローバーのシャッフリンだと誰にも悟らせていない。

 

 

 これまで入手した蛮族は計3体。

 人造魔法少女の技術の究明に必要な、風属性の実験体が1体。

 シャッフリンの魔力補充用の蛮族が2体。

 

 戦果は上々だ。欲を言えばもう1体、人造魔法少女の実験体を入手したい。実験体2体分のデータがあれば、十分に学者連中を黙らせられるだろう。

 

 

 だが、現時点でグリムハートに無能な権力者の仮面を被る理由はなくなった。

 頭に花を咲かせた蛮族が癇癪を起こし、グリムハートを除く連中を森林エリアへと引き連れていったことで、グリムハートは単騎で地下研究所の最奥へ赴ける好機を得たからだ。

 

 あとは研究所最奥のブリーフィングルームに出向き、ダイヤのシャッフリンに研究所入口の大扉のパスワードを設定させて密室を作ればいい。

 

 

 グリムハートは床に無造作に置かれている自身の『何でも入る袋』を拾い上げた後、砂漠エリアと水場エリアを進み、ブリーフィングルームに到達した。ブリーフィングルームはもぬけの殻だった。

 

 この地下研究所の要を放棄するとは、つくづく蛮族らしい。

 低能もここまで極まると笑えて仕方がない。

 

 

「クビヲハネヨ」

 

 グリムハートは『何でも入る袋』からダイヤのシャッフリンを13体まとめて取り出し、機材の解析と研究所入口の大扉のパスワードの設定を命令する。シャッフリンは「キィキィ」と喚きながらも、着実に仕事を完遂した。

 

 これで処刑場は完成した。あとはダイヤのシャッフリンには人造魔法少女技術の分析を行ってもらいつつ、戦闘要員のシャッフリンに『人造魔法少女の実験体の追加確保』と、『他の蛮族の殲滅』をやらせればいい。

 

 

 蛮族どもにシャッフリンに勝てる可能性は万が一にもない。

 シャッフリンはジョーカーに魔力を持つ蛮族1人分の命を、生命力を捧げれば、他の52体のシャッフリンを復活させられる。

 

 シャッフリンの魔力補充要員は2体確保している。シャッフリンに蛮族を生け捕りにさせれば、魔力補充要員を増やすこともできる。一方の蛮族どもは外部と連絡できず、戦力を補充する術はない。

 

 

「クビヲハネヨ」

 

 グリムハートは『何でも入る袋』から残るシャッフリンをすべて取り出し、その中のスペードとクラブに蛮族の命を刈らせるべく命令を下す。

 

 あとはシャッフリンがもたらす成果を待つのみだ。グリムハートは『何でも入る袋』から愛用の玉座を取り出し、どっしり座る。

 

 それから、シャッフリンたちが捕まえた風属性の実験体や魔力補充用の蛮族を観察して暇つぶしでもしてやろうと、『何でも入る袋』をのぞき込んだ。

 

 のぞき込んで、硬直した。

 

 

(…………は?)

 

 実験体がいない。実験体だけじゃない。

 魔力補充用の蛮族2名もいない。

 

 グリムハートは己が見間違いを疑った。現実を疑った。

 だが、いかように解釈しようとも、現実は揺るがなかった。

 

 

「――ッッッ!!」

 

 グリムハートは状況を理解した。

 グリムハートは今までとは比にならないほどの憤激に身を焦がした。

 

 

(蛮族風情が、蛮族風情がァ!!)

 

 そうだ。何者かがこのグリムハートを謀り、グリムハートに気づかせなかった。

 俗悪で劣悪で醜悪な蛮族の分際で、グリムハートを手のひらで転がしたのだ。

 

 何様のつもりだッ!

 無礼にも程があろうッッ!!

 

 

「驕るなーー!!」

 

 グリムハートは憤りのままに床を力強く踏みつけた。

 たまたまグリムハートの足元にいたハートのシャッフリンが腹部を潰されて「ギィ!?」と苦しそうな悲鳴を上げる。その苦悶の声すらも今のグリムハートには耳障りでしかなかった。

 

 




次回 第46話
『魔法少女と和解せよ』
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